登場人物:ファルコンレア
※オリウマ娘注意です。
こんな感じの娘です。
【挿絵表示】
よろしければ皆様の読書の
一助にしていただけると幸いです。
誕生日:5月5日
体重:絞れていい感じの仕上がり。
身長:171センチ
スリーサイズ:84・58・84
ファルコンレアのヒミツ1・実は歌とダンスが現役ウマ娘の中でトップレベルにうまい。
人は、わたしのことを天才という。
いわく、天性のスピードを持っている。
いわく、選ばれたウマ娘。
……いわく、やっぱりウマ娘は血統だ。
わたし自身一度もそんなことを思ったことはないけれど。
確かに、戦歴だけを見ればそれなりのウマ娘なのかもしれない。
でも、わたしから言わせてもらえばそれは単なる結果論であり……あの戦歴はわたしに携わった様々な人の、途方もない努力と労力、それに支えがあったからこそだ。
そもそも、わたしのレース人生はすべりだしからして、順調とはいえなかった。
だって、トレセン学園の入学試験に落ちているのだから。
***
その日は、3月の上旬にしては温かい日だった。
ただ、わたしの流している汗はその気温のせいだけではないだろう。
「……ない……」
わたしは張り出された合格受験番号の羅列を、呆然と眺めていた。
わたしの受験番号は、1289。
1287は、ある。
次の合格受験番号は1290だった。
ということは、あいだが抜けている二人は不合格、ということなのだろう。
嫌な汗がわたしの背中を伝ったが、冷めた理性のどこかが『やっぱりね』とつぶやいているのも自覚していた。
これは単なる負け惜しみ、というわけではない。
元々合格は厳しいと先生とトレーナーに言われていた、ということもある。
先生たちには、学力と模擬レースは問題ないだろうと言われていた。
ただ……。
いや、落ちてしまったものは仕方ない。
わたしはとりあえず、家に帰ることにした。
……わたしの不合格を知っても、お母さんが無理に明るく振る舞ってくれるであろうことを考えると、少しばかり憂鬱だったが。
テーブルに並んだ食事は、いつもよりかなり豪華なものだった。
……きっとお母さんは【トレセン学園合格おめでとうパーティ】をするつもりだったに違いない。
「落ちちゃったものは仕方ないよね!うん、お母さん、レアがすごーくがんばってたの知ってるから」
お母さんはそう言いながら、にっこにこの笑顔を作ってわたしを励ましてくれる。
なんというか、ここまで自分の子供に行動を予測される母親っていうのもどうなんだろうと思ってしまうけど。
まあ、お母さんは人を励ましたり元気づけたりすることを仕事にしているから、というのもあるだろう。
わたしのお母さんは【ウママドル】というなんとも聞き慣れない職種の人で(わたしが生まれるまでは【ウマドル】だったらしい)、ネット配信やテレビ番組で歌ったり踊ったりすることを生業にしている。
その名前をスマートファルコンといって、レースファンなら聞いたことがある人もいるかもしれない。
昔トゥインクルを走っていて、ダートで一世を風靡したことがあるウマ娘だ。
「ごめんなさい……」
「謝ることなんかないよ!そりゃ結果も大切だけど、目標に向けて頑張りきった、という過程もとても大切。ね、あなた?」
お母さんはそう言いながら、ビールをちびちびやり始めているお父さんに声をかけた。
「うん。なにかに打ち込んでいる以上、挫折はつきものだ。これをバネにしてがんばりなさい」
そう言ってお父さんも笑ってくれる。
ちなみにわたしのお父さんはプロの将棋指しで、ウマドルとして活動していたお母さんとはあるテレビ番組に共演した縁で知り合って結婚したんだとか。
結構几帳面なところがあるお父さんと、わりと大雑把なお母さんが結婚して仲良くやっているというのは、男の子とのお付き合い未経験のわたしにとって、なんとも不思議に感じられる。
「辛いことがあった時は、美味しいものを食べるのが一番!さ、冷めないうちにどうぞ!」
そう言ってくれるお母さんにわたしは「いただきます……」を言って、巨大サイズのにんじんステーキをナイフとフォークで切り分けて口に運んだ。
それは、合格して食べていればもっと美味しかったに違いない、と思えた味だった。
結局わたしは第二志望だった南関東トレーニング学校に通学することになった。
中央のトレセン学園に進学できなかったのは残念ではあったが……ダートを得意とするウマ娘たちが進学する地方の学校の中でも、【砂のエリート】が集まると言われているこの学校に進学できたことは、素直に嬉しかった。
ただ、ここでも問題が発生した。
……だれも、わたしの専属トレーナーに名乗りを上げてくれなかったのだ。
確かに、わたしの練習タイムは新入生の中でもトップレベル、というほどではない。
それでもわたしより遅いタイムの子がどんどんトレーナーと契約していくのを見ていると、平静ではいられなかった。
慣習上、ウマ娘の方からトレーナーに契約を迫るようなことはできない。
プロスポーツのドラフトなどで、学生の方から行きたいチームを指名できないのと同じような理屈である。
仕方がないので、わたしは担任の先生にそのことを相談してみることにした。
すると、先生は言いにくそうな感じでその理由を話してくれた。
「あのスマートファルコンさんの娘さん、となると、ここじゃなかなか手を上げてくれる人もいないらしくて。それに……」
そこまでいって、先生はしまった、という表情を浮かべた。
その表情を見て、わたしは気づいてしまった。
……わたしのタイムは母を彷彿とさせるほどのものではないので、もし担当してわたしが大した成績をあげられなかった場合、【スマートファルコンの娘を担当してあの程度か】と噂されるのを避けたいのだろう。
それは分からないでもないが……なにはともあれ、トレーナーがつかなくてはデビューすらおぼつかない。
それにもう、両親にレースのことで心配をかけるのは嫌だった。
「あの……先生の方からなんとか、トレーナーの方々に推薦していただくことはできませんか?わたし、精一杯がんばりますから」
そうわたしは食い下がったが、先生は渋い顔をしながら「自分の一存では、なんとも……。焦る気持ちはわかるけど、地道にトレーニングをしてトレーナーさんたちに声をかけてもらうのを待ちなさい。みんなそうしているんだから」としか言ってくれなかった。
「はぁ……ふぅ……」
わたしは今日も一人、広いダートコースで自主練をおこなっていた。
入学してもう2週間以上が経つけど、いまだにどのトレーナーさんからも、契約のお声掛けはもらえていない。
わたしの走りって、そんなにひどいのかな……。
自分では今までそう思っていなかったけど、これだけ声がかからないと疑心暗鬼になってくる。
確かに練習ではタイムは出てないけど、模擬レースではいつもそれなりの成績を収めているのに……。
実際、この学校の入学試験の模擬レースでもわたしは一応一着だった。
それでもトレーナーさんたちが声をかけてこないのには、理由がある。
模擬レースの成績がよくても、練習タイムがよくないウマ娘はどうしてもそれをフロックに見られてしまうのだ。
その上、そういうウマ娘は【もう今以上に伸びしろのない、早くに燃え尽きてしまうタイプ】とみなされてしまいがちなのである。
そしてその見解は、統計上決して間違いではないのだ。
どういうわけだか、わたしは小さい頃から練習タイムがあまり良くなかった。
トレセン学園に不合格になってしまった主な理由も、おそらくはそれなのだと思う。
それなのに、模擬レースだとそれなりの成績が出てしまう。
トレーナーや周りの娘たちからは『練習は手を抜いて、レースだけ本気で走ってるんじゃないか』なんて言われたこともあるけど、もちろんそんなことはしていない。
むしろ練習でのタイムが悪いと分かっている分、ほかのウマ娘たちよりも一生懸命に取り組んでいるつもりだ。
ご覧のとおり、その努力はあまり報われている感じがしないのだけれども。
本当はもう一本走る気でいたけど、今日はやめて帰ろう……。
そう思って更衣室に戻ろうとしたときだった。
「おっ。お前さんがファルコンレアかい。トレセン学園落っこちてこっち来たっていう、スマートファルコンの娘ってのは」
ダートの柵の向こうから、いきなりそんな不躾な言葉を投げかけられた。
一体なによ、と思ってそちらに視線を向けると、一人の男がそこに立っていた。
その人の年齢は50代後半ぐらいだろうか。
壮年というにはやや年がいっていて、老人というには少し早い。
それぐらいの年齢に見えた。
それにしても、失礼な人だ。
この人が先生かトレーナーか知らないが、いくらこちらが一年生だからといって、初対面の人間にこんなことを言う人を無視してもバチは当たらないだろう。
わたしはなにも聞こえなかったふりをして、立ち去ることにした。
「おいおい。それだけでっかい耳してて、聞こえてないわけないだろ?こりゃ思ったとおり、俺と似たタイプの、面白いウマ娘みたいだわ」
なんてことをいうんだろう!
いきなりあんなことを言ってくる人と、誰が似てるって!?
「あの!」
「おう、聞こえてたんじゃねえか。なんだい?」
わたしが怒りの表情を浮かべて大きな声を上げているにもかかわらず、彼はニヤニヤしながら腕を組んでいるだけである。
その態度が、ますますわたしを苛立たせた。
「さっきから聞いていれば、いきなり失礼じゃないですか?トレセン学園落っこちたとか、あなたに性格が似てるとか!」
「あれ?違ったか?それなら謝るんだが」
「トレセン学園に不合格だったのは違いませんけどね!わたしがあなたのような失礼な人に似たタイプだ、という言い分には断固として抗議します!」
わたしがそういうと、彼は不思議そうに首を傾げる。
「ん?お前さん、素行不良でトレセン学園に落っこちたんじゃないのか?俺もお世辞にも、品行方正なタイプではないからな」
「わたしのなにを見てそう思ったんですか!?」
別にわたしは優等生といったタイプではないが、素行不良で目をつけられるような真似はしていないつもりである。
「なにをみてって、そりゃ……」
そう言うと彼は近づいてきて、なにを思ったかいきなりわたしのお尻をパン、と軽く叩いた。
「きゃあぁああぁあぁあぁっ!なにするんですか!?」
「走るウマ娘ってのは、ケツとももを見ればわかる。お前さん、俺の見る限り素質だけでいや母親のスマートファルコンよりよっぽど上だ。それなのにトレセン学園に落っこちた、ってことは素行不良以外ありえないと思ってな」
わかった。
この人は、きっと不審者なのだ。
お母さんに聞いたことがある。
両手に針を持って「あんし~ん!」とか言って施術を迫ってくる、鍼師を装った不審者が学園に現れたことがあるって。
きっとこの人も、そのたぐいのセクハラ不審者なのだ。
わたしは大きく息を吸い込むと……。
「警備員さーん!不審者です!ウマ娘のお尻を触り回す、ヘンタイ不審者が出ました!」
「ちょ、おま、まて!なんてことを!!」
不審者は慌てまくってるわりに、この場から逃げ出そうとしない。
人間パニックになると、その程度のことも思い浮かばなくなるのだろう。
わたしの声が届いたのだろう、校舎の方からものすごい脚で警備員さんたちが駆けつけてくれた。
「不審者ですって!それはどこに!?」
「警備員さん、この人です!」
なぜか憮然とした表情で仁王立ちしている不審者をビシッと指差すと、警備員さんはその人を見てあきれたようなため息をついた。
「……この人、れっきとしたこの学校のトレーナーですよ。ちょっとばかり、素行に問題がある人ですけどね」
読了、お疲れさまでした。
今回も最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。
【エイシンフラッシュの娘。】という物語を書き上げたあとで蛇足であることは承知していたのですが、
書き終えてしばらく経つと、【叩き上げのウマ娘】であるアデリナのストーリーとはまた別に、
終盤に登場させた【天才ウマ娘・レアの物語】も書いてみたいな、と思ってしまいました。
この作品から読み始めていただいた方にはもちろん、アデリナの話も読んだよ、という方にも
少しでも楽しんでいただけるお話を書いていきたいと思っていますので、
よろしければ今しばし、拙い物語のお付き合いください。
それではまた近いうちに、次のあとがきでお会いしましょう!