エイシンフラッシュの娘。   作:宮川 宗介

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エイシンフラッシュの娘。に登場したファルコンレアのストーリーです。

登場人物:ファルコンレア
※オリウマ娘注意です。
こんな感じの娘です。

【挿絵表示】

よろしければ皆様の読書の
一助にしていただけると幸いです。

誕生日:5月5日
体重:絞れていい感じの仕上がり。
身長:171センチ
スリーサイズ:84・58・84

ファルコンレアのヒミツ2・実は、結構なドルオタ。




side story ~ファルコンレア~ 2話

わたしの大声を聞いて駆けつけてきた警備員さんや先生方、それに周りのウマ娘たちの反応を見る限り、このヘンタイ不審者さんはどうやら本当にこの学校のトレーナーらしかった。

 

……その反応は決して、人気者のそれではなかったけど。

 

「騒がせてすまなかったな。さ、散った散った」

 

なぜかその不審者さんがヒラヒラと手を振りながら周りに謝って、場を収束させようとしている。

それを見て集まってきた人たちも、あきれたため息をついたり、肩をすくめたりしながら解散していった。

 

まあいいか。

いや、お尻を触られたのは全然良くないけど、この不愉快な人ともう二度と会わないで済む代償だと思えばまだなんとか耐えられる。

 

さっさと着替えて帰ろう……。

 

そう思ってカバンを持ち上げたときだった。

 

「おい、お前さん。どこいくんだよ」

 

……まだわたしに用があるのか。

 

「いえもう、帰るんですけど」

「まだそんな時間じゃねえし、体力もあり余ってるだろ?もう一本、走っていけ」

 

この人はわたしのトレーナーというわけではない。

無視して歩を進めていると。

 

「……お前さん。練習で走り込む時と模擬レースの時、同じように脚を使えているかい?」

 

いきなりなにを言い出すんだろう、この人は。

そんなの当然……。

 

「練習と模擬レースでは環境も状況も、履くシューズも違います。まったく同じように走れるわけがないじゃないですか」

 

そうだ。

練習のときは練習用のシューズを履くし、レースのときはレースの距離やバ場に応じて適切なシューズを用意する。

こんな当たり前のことを聞いてくるなんて、この人は本当にトレーナーの資格を持っているのだろうか。

 

「そりゃあ、そうだ。まあでも練習と本番、まったく同じように走れなくても、普通はどちらでも自分のパフォーマンスをそれなりに発揮できるもんだわな。じゃあなんでお前さんはそのギャップがとんでもなく大きいんだと思う?」

 

わたしのことを知っていたのはちょっとびっくりしたけど、【タイムは大したことないのに、レースの成績だけはいい新入生がいる】くらいの噂は聞いているのだろう。

 

もうわたしはこの人と話す気力なんてとっくに失っていたけど、この人が生きてきた年月だけになんとか敬意を払い、会話を続ける。

 

「それがわかれば、わたしは悩み事なんて抱えていないんですよ。あなたには、それがわかると?」

「一本俺の目の前で走ってくれればな」

 

……もうめんどくさい。

とりあえず一本走って見せて、あとはなにを言われても全力で逃げよう。

 

わたしはそう決めると、これみよがしに大きなため息をついてからスタート地点に脚を運んだ。

やる気なさげに走ってやろうか、とも思ったが、周りにはまだ真剣にトレーニングをしているウマ娘もたくさんいることだし、こちらの都合で彼女たちのモチベーションを下げたりすることは避けたかった。

 

トントン、と足元のダートを軽く蹴ってから、わたしは一完歩めから全力で加速してみせた。

 

これはあくまでデモンストレーション。

そんなに長い距離を走る必要もあるまい。

わたしは半マイルほど全力疾走してから、駆け足で元の位置に帰ってきた。

 

「……これでいいですか?」

「ああ。ちょっと靴脱いでみ。右のだけでいい」

「ここで?」

「おう。これバ場にひいて脚のっけてな」

 

そう言うと彼は、思ったより……というと失礼なのかもしれないが、清潔なハンカチをこちらに投げてよこした。

 

……これが噂に聞くブーツ狩りだろうか。

まあ、ここまで付き合ったんなら、あとで文句言われないために最後まで好きにさせてあげたほうがいいかもしれない。

 

わたしはそのハンカチをバ場においてから靴を脱ぎ、そこに右脚を置いてから彼にシューズを手渡した。

 

すると彼は腰に巻いていたポーチから小型のハンマーを取り出すと(変なもの持ち歩いているわね)、右のシューズに取り付けていた蹄鉄の真ん中あたり――ちょうどわたしの足の中指と薬指に当たるあたりだ――をガンガン叩いて少しばかり凹ませてしまった。

 

それからまたあのポーチから薄い鉄の板らしきものと接着剤っぽいものを取り出してペタン、とシューズの底にそれを貼り付けるとそれをわたしに返してきて、「これ履き直してもう一回、同じように走ってきな」と指示を飛ばしてくる。

 

毒を食らわば皿まで、という格言に従ったわけでもないのだけれども、わたしはもう一度スタートラインに立ち、同じように駆け出してみた。

 

!!

 

「うそっ……!」

 

踏み出しだ瞬間に、気がついた。

 

一歩目から、全然加速力が違う!

 

まるで脚につけられていた見えない重石が、外れたようだった。

模擬レースのときと同じように、自分の力が全部出ているのがわかった。

 

いや、それ以上かも……!

 

わたしは脚が赴くまま、全速力でバ場を疾走する。

 

すごい!

気持ちいいっ!

 

今度は1マイルも走っただろうか。

 

ギャロップを緩めて立ち止まると、周りからざわめきが聞こえてきた。

 

あの娘、すごく速かったね。

だれ?

あれってたしか、スマートファルコンさんの娘さんの、ファルコンレアって娘じゃない……?練習じゃあんまりタイム出てないって聞いてたけど……。

 

「どうだ、悪くないだろう~?」

 

あたりの困惑の声に混じって、柵の向こうからそんな声が聞こえてくる。

 

まったく、ウマ娘を含め、人間というのは現金なものだ。

彼に持っていた悪感情はあっという間に霧散して、わたしは「悪くないどころか……最高ですよー!」と、笑顔でブンブン手としっぽを振りながら、大きな声で返事をしていた。

 

彼に、今までの非礼を詫びなければ。

 

そう思って駆け足で彼のもとにやってくると、彼は真顔でわたしの顔を見てこう言った。

 

「それがお前さんの、本当の地力だよ。これからはそのスピードで稽古することができる。……化けるぞ、お前さん。文字通り、化け物にな」

 

 

「俺が見た感じ、お前さんの走りは少しばかり左に重心が偏っていたんだ。それをちょっとばかり、靴に細工して修正してやったってだけさ」

「じゃあでもなぜ、レースだとしっかり走れていたのでしょう?」

「レース用のシューズは練習用のシューズよりしっかりした造りだし、同じサイズのシューズでも、そのウマ娘によりフィットするよう形がさらに細分化されていて、自分の足に一番しっくりくるものを選べるだろう?そのおかげで練習用のシューズよりかは、多少力を発揮できていたんだろうよ。というか、本当に今まで一度も右脚に違和感を覚えたことはないのか?」

 

トレーナーの質問に、わたしは過去の記憶を掘り起こしてみた。

中学の時は、とくにそんな気配はなかったように思う。

それ以前となると……。

 

「レースを始めたばかりの、小学校低学年の頃の話なんですけど……『右足の中指と薬指がちょっと変な感じがする』って当時指導してくれていたトレーナーさんに伝えたことがあったと思います。でも『そんなことは誰にでもよくあることだから、気にしなくていいよ』って言われたのを思い出しました。その違和感はそのトレーナーの言った通り、多分すぐに消えたんだと思います」

 

実際今こうして言われるまで、そんなことは忘れていたわけだから。

 

「……まあ、本当によくあることだからそのトレーナーに気づいてやれ、っていうのも酷な話か……。右に違和感がある分、左が頑張っちまってわずかに重心がずれたんだろうな。しかも身体ってやつはやっかいで、そんな状態でも慣れてしまえば【これがデフォルトだ】って勘違いしてしまいやがる。だが、その靴を半年も履いていれば、重心ももとにもどってくるはずだ」

「でも、練習用シューズの蹄鉄って一ヶ月ごとに打ち直す必要がありますよね?今日打ってもらった分はしばらく大丈夫としても、これからどうすれば……」

「なあに。それぐらいは俺がやってやるさ」

「そうおっしゃってくださるなら、お言葉に甘えますけどね」

 

わたしたちはトレーナー室でそんな会話を交わしていた。

ただ、このトレーナー室……。

 

「さすがに、散らかりすぎでしょ……。まるで一人暮らしの男性の部屋のようですね」

「何だいお前さん、一人暮らしの男の部屋に入ったことがあるのか?」

「!!イメージです!」

 

ニヤニヤしながらわたしの失言に揚げ足を取るトレーナーに、おもわず赤面して怒鳴り返してしまった。

……彼の年齢のせいもあるのか、お尻の件といい、このトレーナーはこういうジェンダーに対してのコンプライアンス意識が著しく低いように感じる。

 

ありていにいってしまえば、ちょっとばかりセクハラオヤジの気があるのだ。

 

それも相当な問題なのだが、この部屋の散らかり具合いも結構な問題で、レースに関する本や資料は言うに及ばず、ジュースの空き缶やコンビニ弁当の空き箱などもあちこちに散乱していた。

 

わたしは別に潔癖症というわけではないが……自分の周りに物が散らかっていると、集中力が削がれてしまうタイプだ。

 

ここに招き入れられた瞬間、思わず「こうも散らかっていてはミーティングどころではありませんよ。まず、片付けましょう」と言ってしまって、それで今二人でトレーナー室のおかたづけをしているわけである。

 

「……トレーナーさん。まさかこれ、仕事中に飲んでいませんよね……?」

 

わたしは部屋のすみっコに転がっていたビールの空き缶を拾いながら、彼をジト目で睨みつけた。

 

「お、ああ!もちろん!きちんと就業時間が終わってから飲んでいるぞ!」

「というか、いくらトレーナー棟が校舎から離れているといっても、一応学校の中なんですから、酒なんて持ち込まないでくださいよ……」

「いや、少しばかりアルコールが入った方が独創的なトレーニングのアイデアが出てきたりしてな……」

 

トレーナーの戯言を聞き流しつつ、わたしはそれを缶・ペットボトルばかり入れている袋にポイ、と放り込んだ。

ゴミの分別はきちんとしないとね。

 

「それからトレーナーさん……」

「それ」

 

トレーナーさんはわたしの言葉を止めると、いきなりこちらを指さした。

 

「どうしたんですか?」

「その、トレーナーさんって呼び方やめてもらえるかい?」

「はぁ」

 

じゃあ、なんと呼べばいいのだろう。

 

「では、どうお呼びすればよろしいのですか?セクハラさんとかですか?」

「そうじゃねえよ。だいたい自分の担当のウマ娘から『セクハラさん』って呼ばれてるトレーナーってヤバすぎるだろうよ」

 

彼がセクハラオヤジなのは事実なんだからそれでいいような気もするが、彼にも一応【セクハラはよくないことだ】という倫理観はあるようでホッとする。

 

言動が一致していないのが困りものであるが。

 

「昔はトレーナーも【先生】とか【テキ】とか、風流な呼ばれ方したもんだけど、いつの間にやら横文字になっちまったなあ。嘆かわしいことだ」

「じゃあ、先生と呼べと」

 

別にいいけどね。

昔はトレーナーも先生って呼ばれてたのは知ってたけど、テキっていうのは初めて聞いた。

昔のトレーナーという職業の男性には、このトレーナーさんのように女の敵が多かったからそう呼ばれていたのだろうか。

 

「いや、それもしっくりこねえ。俺には佐神弦二郎(さがみ げんじろう)っていう立派な名前がある」

「おお。あんまり顔とイメージが一致しない、いいお名前ですね」

「さっきから気になってたんだがお前さん、キレイな顔してるくせになにげに口悪いな!?」

「顔はあんまり関係ないかと」

 

口の悪さは両親にもたまに言われるけど、わたしは自分に正直なだけであるし、口調に顔はあまり関係ない気がする。

 

お父さんはわりとこういうブラックな言い回しに理解がある方だが、お母さんには『ウマ娘はたくさんのひとに愛されなければいけない存在だから、そういう言い方はやめたほうがいいよ』とよく注意される。

 

わたしはこれも個性と思っているから、お母さんからのお説教は参考程度に聞き流してあまり気にしないようにしていた。

 

「まあ、いいや。とりあえず俺のことは『ゲンさん』とでも呼んでくれや。今まで担当してきた娘達にはみな、そう呼ばせてたから」

「そうですか。ではそう呼ばせてもらいますね」

 

自分を指導してくれる人がそうした方がスムーズだ、と考えているのなら、別に反対する理由もない。

トレーナーを名前で呼ぶのは少しばかり違和感はあるが、これもきっと慣れてくるのだろう。

 

「あ、あと。俺に対して敬語はナシな」

「……は?なぜです?」

 

さっきこちらの口調をとがめてきた人の言い分とは思えないんだけど。

 

「敬語ってやつは便利だ。腹の中はともかくとして、使っていれば従順を示せるし、立場も明確にしやすい」

 

敬語もそんな理由ばかりで使われているわけではないだろうが、そういう一面も確かにあるだろう。

 

「ただ、本音のホンネの話をするときにこの言葉遣いは向いてねえ。少なくとも俺は、ウン十年生きてきて敬語を使わきゃいけないような相手に自分の本心を話したことは一度もない。結局、敬語ってやつはよそ行きの言葉なんだよ」

 

豪放磊落な彼が敬語を使っている姿をイメージするのは難しかったが、言いたいことはわからないこともなかった。

 

確かに敬語を使うような関係の相手に自分の本心をぶつけるという経験はなかなかないだろうな、くらいのことは小娘のわたしにも想像できる。

 

でもさすがに……。

 

「これは俺の持論だがな。トレーナーとウマ娘ってのは、一種の運命共同体だ。ぶっちゃけると、担当したウマ娘の成績がこっちの給料に関わってくるからな。さすがにビジネスパートナーとまでは言わないけどよ、そういう関係は対等だと思って付き合ったほうがいいと俺は思っているんだよ」

 

ふむ。

トゥインクルを手掛けるトレーナーともなると、いろんな考えの人がいるもんなんだな……。

 

「なあに、難しく考える必要はねえ。近所のおっさんに声掛ける感じでやってみてくれりゃいい」

「わたしはご近所さんにも敬語くらいは使うんだけれども。トレーナーがそういうのなら、やってみるわね」

 

わたしのタメ口に、トレーナー、いや、ゲンさんはにっこり微笑んだ。

 

「ところで……わたしの専属トレーナーはあなたに決まりってことなのかしら?できればもっと、若くてイケメンなトレーナーが良かったのだけれども」

「今更それ言うか!?」

 

わたしのとっておきの冗談に、彼は大げさに驚いてみせてくれた。

 

「……なんかお前さんとは、長く仲良くやれそうな気がするよ。そのイケメン云々ってのはそのうちなんとかするからよ、今は俺でカンベンしてくれや、レア」

 

初めてわたしの名前を呼んで差し出してきた彼の右手を、わたしは少しばかりシニカルな微笑を浮かべながらも、しっかりと握り返したのだった。

 




読了、お疲れさまでした。

今回も最後までお読みいただき、まことにありがとうございます。

今回はレアとトレーナーの出会いを中心に書いてみました。

天才ウマ娘と破天荒トレーナーが紡ぐレース奇譚。。
そんなストーリーを少しでも楽しんでいただければなあ、と思っています。

実際の競馬では、昔はレース用とトレーニング用の蹄鉄は違うものを
使用していたようです。
ですので、シンザン鉄と呼ばれた特殊なトレーニング用の蹄鉄なども
存在していました。
ただ、レースのたびに蹄鉄を打ち直すのでは馬の蹄へのダメージが大きいことから
レースとトレーニング両用の蹄鉄が1980年代に開発され、現在では
それが主流になっているようです。

前回・今回とだいたい5000字程度で区切ってみたのですが、
アデリナ編のときは長文でも読んでくださる方も多かったので、
あまり字数は気にせず、(今回のように)キリのいいところで
書き上げてもいいのかもしれませんね。

それではまた、近いうちにあとがきでお会いしましょう!
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