登場人物:ファルコンレア
※オリウマ娘注意です。
こんな感じの娘です。
【挿絵表示】
よろしければ皆様の読書の
一助にしていただけると幸いです。
誕生日:5月5日
体重:絞れていい感じの仕上がり。
身長:171センチ
スリーサイズ:84・58・84
ファルコンレアのヒミツ3・実は、ネット将棋で初段の腕前。
わたしに専属トレーナーが付いたことを両親に報告すると、ふたりとも安心した表情を浮かべてくれたのだが、特にお母さんのほうはとても喜んでくれた。
「よかったー!レアに限ってそんなことはないだろうけど、このまま4月が終わってもゴールデンウィークを過ぎても、トレーナーさんがつかなかったらどうしようかとちょっと心配してたんだよ!」
基本的には専属トレーナーがつかないとレースに出られないので(トレーナーには身元引受人のような役割もある)、そんなことになっていればわたしのデビュー自体が危ぶまれるところだった。
トレーナーが決まったということは、正式にわたしがメイクデビューを戦う資格を得た、ということだ。
そうなって一番ほっとしたのは、きっとわたし自身だっただろう。
専属トレーナーが付いたのは良かったんだけど……。
「ほれほれレア、あとまだダート3本残ってるぞ!」
放課後のダートコースに、そんな声が響き渡った。
「そのあとみっちり、筋トレするからな。で、最後に30分かけてストレッチだ」
「ええ……わかったわ」
どうも彼はスパルタ方針のトレーナーらしく、他の娘よりトレーニングメニューが明らかにきつい。
体感で言うと、3割ぐらいは他の娘より練習量が多い感じだ。
わたしは別に練習嫌いというわけでもないのだけれども、他の娘よりもたくさんやりたい、がんばりたいというタイプでもないので、正直ちょっと困惑しているところもある。
しかも、なんというか……。
「お、疲れた顔してんな。根性が足りんよ、根性が。ガンバレ、とにかくガンバレ」
「………………」
佐神トレーナーの評価をまわりから聞いていると、人間的には問題あるところもあるが、トレーナーとしての腕は確か、って感じなんだけど……。
わりと根性論を振りかざすことが多くて、この人について行って本当に大丈夫なのかな、と思わされることもある。
「ねぇ」
「あん?どした?」
「別にわたしもトレーニングするのは嫌じゃないんだけど。その……こんなにたくさん練習しなきゃだめなもんなの?もちろんトゥインクルに挑戦するわけだから、生半可なことじゃ通用しないのは分かってるし、そんなに甘いものじゃないのも理解しているつもりよ。でも、明らかに他の娘より練習メニューキツイじゃない」
「そうそう!そういうホンネを言いやすくしておきたかったから、敬語はナシって言い聞かせておいたんだよ!」
わたしが不満を表明すると、まるでその言葉を待っていました、とばかりに彼は持論をぶち始めた。
「そもそもの話だ。ウマ娘の能力って何で決まると思う?」
「それは……持って生まれた才能と、それを伸ばすための練習じゃないかしら?」
「そのとおりだ。じゃあ持って生まれた才能っていったいなんだ?」
そんなことを急に聞かれて、わたしは思わず考え込んでしまった。
改めてそう聞かれると……。
「親から譲り受けた、その人の限界能力って意味なんじゃない?」
「それだけか?」
「細かいことをいい始めたらキリがないだろうけど、それで間違っていないと思うわ」
「ふむ。まあ、大まかは間違っちゃいねえ。だが、ひとつ大きなもんが抜けちまってる」
そう言って黙り込んだのは、わたしにその答えをもう少し考えてみろということなのだろう。
でもわたしは間違ったことは言ってないつもりだし、辞書的にも【才能】という言葉はそういった意味のはずだ。
わたしはちょっとした意趣返しも込めて、沈黙に沈黙を返すことにした。
「……分かんねえか。それはな、練習量だ。俺は練習量はそのままそのウマ娘の才能の量だと思っているんだよ。少しのトレーニング量で超一流になった天才ウマ娘ってのは、いないんだ」
なによ、そのありきたりな言い分は。
結局根性論じゃないの。
「……要するに、努力できるかも才能、って話?」
「ちょっとニュアンスが違う。それだと努力ができるかさえ親がそう生んでくれたか、って意味になっちまう。才能に限界があるのは、俺も認める。だが、その限界がどこにあるか神ならぬ身にわかるわけもないし、そいつはある程度努力で押し広げることができると信じているんだ」
それは少し、理想論が過ぎる気もするけど……。
「限界を押し広げるためにも、厳しいトレーニングが必要ってことね?」
「持って生まれた能力の限界まで鍛え上げりゃもう十分ってなら、人並みのトレーニングでも構わねえだろうよ。でもな、俺が担当するんならそれ以上の能力を引き出してやりたいと思ってる。でないと、担当するのは俺じゃなくても良かったってことになるからな」
「ふむ……」
普段はどことなく掴みどころのない感じのする人だが、実際はかなりの熱血漢らしい。
「別にそこまでやりたくないってお前さんが言うなら、それはそれでかまわない。ただ、それなら俺が指導する必要はないわけだから、お前さんとの縁もここまでだ。今のレアになら、いくらでも指導したいってトレーナーもいるだろうしな。もしトレーナーを変えたいって考えてるなら、早いうちの方がいいと思うぞ」
わたしの答えは、決まっていた。
「あなたのいうことは少しばかり理想論が過ぎる気もするし、極論のような気もするけど……理想を追っかけることすらしないなら、実現なんてしないものね。これからも、よろしくお願いします」
「そこまでぶっちゃけてきたウマ娘は、お前さんが初めてだよ」
彼は苦笑いしながらそう言って、でも、嫌いじゃねえ。じゃあ残りのメニュー消化してこいと指示を出した。
今日の夕食はメインが豚生姜焼き、副菜にニンジンのしりしり、あとはご飯と味噌汁だった。
職業柄お父さんが家にいることが多いこともあって(ちなみにプロの将棋指しだ)、食事はお父さんとお母さんが一日置きに交互に作ってくれている。
……どっちの方が料理がうまいかは、想像におまかせしたい。
「レア。今度の日曜日、勝負服を作りにいきましょう!」
わたしが好物の生姜焼きに舌鼓を打っていると、いきなりお母さんがそんなことを言いだした。
「勝負服……?」
うん、そういう物があるのはわたしも知っている。
でも……。
「いや、あれって基本オーダーメイドだし、安いもんじゃないでしょ。まだわたしがG1に出れるようになるかなんてわからないし。勝負服なんて、わたしがG1に出られるようになってからでいいわよ」
なんなら作らなくても、URAが用意してくれている勝負服もある。
G1に出られることが急に決まってもそれを着ればいいし、もしわたしに才能があってG1の常連にでもなるようなら、改めて作ってもいいと思う。
「私もそんなに急いで作らなくてもいいかな、とも思っていたんだけど、お父さんがレアのデビューが決まったのなら勝負服を作ってあげたいって言ってくれてて」
「お父さんが?」
わたしはちょっと驚いて、思わずお父さんに視線を向けてしまった。
お父さんはわたしの進学に関して特になにも言わなかったから、そういうことを言ってくれたのが少し意外だったのだ。
思い返してみれば、お父さんがわたしのレースの成績や取り組み方に対してなにか言ってきたことは、今まで一度もなかったように思う。
もちろん大きな模擬レースで優勝したりしたときは『おめでとう』ぐらいは言ってくれていたけど、逆に言うとレースとお父さんとの思い出はそれぐらいしかない。
「俺はそんなにレースの世界に詳しいわけじゃないが、G1という大舞台に出るときのための服があるとは聞いていてな。お前のデビューが決まったら、その勝負服をお祝いに贈ってあげたいと思っていたんだよ」
「そうなの。お父さんっててっきり、わたしのやっていることにはあんまり興味がないと思っていたわ」
「そんなことはない。ただ、門外漢が口を出すのはどうかと思って、お前の進路やレースのことは専門家のファル子に任せていただけだよ」
自身が将棋のプロ、ということもあるのか、お父さんは餅は餅屋という考え方を強く持っていて『その道のことはその道の専門家が考えればいい』というのが口癖だった。
「勝負服っていうのは、そのウマ娘がデザイナーと相談しながら自分でデザインするものらしいな。俺はその手のセンスがからきしで、スーツのネクタイ合わせもファル子にお願いしているぐらいだから、その場にいてもボーッとしているだけになりそうだ」
そう言ってお父さんはカラカラと笑った。
そんなことを言ってくれるということは、今度の日曜日は一緒に来てくれるのだろう。
「じゃあ、お願いしようかな。勝負服」
わたしがそう言うと、お父さんもお母さんも満足そうに笑顔でうなずいてくれた。
わたしはきっと、それ以上に嬉しそうな笑顔を浮かべていただろう。
最初ああは言ったものの、自分だけの勝負服というものにワクワクしないウマ娘はめったにいないのだから。
次の日曜日には約束通り、家族三人で勝負服の専門店に行き、デザインの相談から採寸まで済ませてきた。
「わたしは黒とか紺色、白色が好きで……」
「えーっ、もっとピンクとか黄色とか入れたほうが絶対にかわいいって!」
「こう、なんといいますか、デザイン的にはあんまりヒラヒラしたものよりも、スラッとしたイメージのものの方がいいかなって考えていて……」
「それだとライブのときに映えないよ。フリルとかリボンもたくさんつけた方がファンの目を引くよ!」
「いや……それ絶対、大柄のわたしに似合わないでしょ……」
「そんなことないよ。小さい頃、ピンク色のハートのステッキを振り回して『魔法少女れあ・マギカ☆』とかやってたじゃない!とってもかわいかったんだから!」
「……ちょっと黙ってて。お願いだから」
わたしが原案を出し、お母さんがそれにダメ出しをし、デザイナーさんが苦笑いをするといったシーンをお父さんは楽しそうに眺めていた。
結局わたしは全部自分の意見を押し通して、黒を基調にした、流線型のデザインが特徴的な勝負服を発注することにした。
デザイナーさんに完成時のイラストを描いてもらったけど、ほとんど自分の理想通り、いや、それ以上に洗練されたデザインのものになっていたことに感動した。
餅は餅屋、とはよく言ったものだ。
イメージとしてはお母さんがこだわった【カワイイ】を感じさせるより、かっこいいという印象が強いデザインだ。
アイデア出しに付き合ってくれたお母さんには申し訳ないけど、こちらのほうが絶対にわたしらしい勝負服だと思う。
うちの両親のいいところは、わたしの考えをないがしろにしてまで自分の意見を押し付けてくる、ということはしないということだ。
入学前にお母さんには『レアは歌もダンスも上手だから、ウマドルをやってみたらどう?』って言われたこともあったけど、『あまり興味がないから』と言って断ったら苦笑いしてそれ以上言われることもなかったし、プロ棋士であるお父さんにも将棋のルールを教わったけど、それ以上はわたしに将棋の勉強を強要することもなかった。
お父さんには『本人に興味があって強くなりたいなら、勝手に将棋を勉強する』というドライな考え方があったみたいだけど。
勝負服を作るのにかかったお金はデザイン料も含めて7ケタに近いものだったけど、それはお父さんが自分のポケットマネーから全部出してくれた。
「俺もプロになったとき、師匠から和服一式を贈ってもらったんだ。それには『早くこれを着てタイトル戦に出られるような、立派な棋士になりなさい』という願いも込められていて、いただいたときには一層身が引き締まったものだよ。俺はお前にも、大舞台で戦えるような立派なウマ娘になってもらいたいと思っている」
普段口数の少ないお父さんらしい、実直な言い方だった。
いつもは少しチャラけたところのあるお母さんも、このときばかりは神妙な表情を浮かべて、お父さんの言葉に静かにうなずいていた。
こういうところを見るとお母さんもやっぱり、一廉の【戦うウマ娘】だったんだろうなと思う。
不器用なお父さんはお父さんなりに、きっと『がんばれよ』とわたしに伝えてくれているのだろう。
「うん。わたしは、精一杯戦うよ。お父さん、お母さん。本当にありがとう」
だからわたしも大げさな言い回しはせず、一番伝えたいことだけを率直に両親に伝えた。
読了、お疲れさまでした。
今回も最後までお読みいただき、まことにありがとうございます。
私は結構多趣味で、こうして駄文を連ねる他に、絵を描いたり麻雀を打ったり、
将棋を指したりすることもあり、こうして小説の中でも登場させたりして
楽しんでおります。
読んでくださっている方には伝わっているかと思いますが、
私の文章にはちょくちょく【わかる人にはわかるネタ】みたいなのを
差し込んでいて、また作者のワルイ癖が出てるよ、と苦笑いして
読み流していただけていれば幸いです。
それではまた、近いうちにあとがきでお会いしましょう!