エイシンフラッシュの娘。   作:宮川 宗介

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エイシンフラッシュの娘。に登場したファルコンレアのストーリーです。

登場人物:ファルコンレア
※オリウマ娘注意です。
こんな感じの娘です。

【挿絵表示】

よろしければ皆様の読書の
一助にしていただけると幸いです。

誕生日:5月5日
体重:絞れていい感じの仕上がり。
身長:171センチ
スリーサイズ:84・58・84

ファルコンレアのヒミツ8・実は、海外留学に興味を持っている。



side story ~ファルコンレア~ 最終話

わたしのジュニア級での戦いは、5戦5勝・重賞2勝、うちG1・1勝という上々のもので終えることができた。

 

無事新年を迎え、いよいよクラシック級になったわたしは、第一目標を【南関東三冠ウマ娘】になることに定めた。

 

南関東三冠は南関東トレーニング学校(南関校)が主催する、歴史あるクラシック級の三大競争だ。

その長い歴史の中で、南関東三冠は何度かのルール変更やレース変更を経ている。

現行での南関東三冠は、羽田杯(5月上旬)・東京ダービー(6月上旬)・ジャパンダートダービー(7月中旬)の3つを指す。

 

この内、羽田杯と東京ダービーは南関生だけが出走できるSG1の格だ。

 

過去何人かの偉大な先輩たちが【南関東三冠】を達成しているが、現行ルールになってからの達成者は未だ存在していない。

 

そんな【南関東三冠ウマ娘】になることは、南関校に所属する者にとって大変な名誉である。

 

南関東三冠のレースはすべて大井レース場で行われ、距離も1800M(羽田杯)と2000M(東京ダービー・ジャパンダートダービー)と、似た条件のものが続く。

条件だけで考えれば、この距離を最も得意とする一番強いウマ娘が、全部簡単に持っていきそうなものだ。

 

なのに、現行のルールになってから【南関東三冠ウマ娘】が出ていないのには、理由がある。

 

南関東三冠のラストレースであるG1・ジャパンダートダービーは、ダートを走るクラシック級ウマ娘たちにとって最高峰の交流競走であり、その名誉を求めて全国から砂の猛者が集まる。

当然、そこには日本一レベルの高い【トレセン学園勢】も参戦するので、【南関東三冠ウマ娘】という称号へのハードルが、かなり高くなってしまうのだ。

 

南関校所属の生徒たちだけで行われる、羽田杯、東京ダービーまでを制した二冠ウマ娘は、現行ルールになってから何度か現れている。

 

しかしそんな南関生最強の彼女たちでさえ、三冠目のジャパンダートダービーでは、ことごとくトレセン学園勢の厚い壁に跳ね返され続けてきた。

 

ここ10年以上、ジャパンダートダービーはトレセン学園勢の天下になってしまっているのが現状だ。

 

……わたしは一度、受験不合格という形でトレセン学園の壁に跳ね返されている。

ダメ元で受けた試験だったとは言え、それなりに挫折感を味わったのも確かだ。

 

江戸の仇を長崎で討つ、というわけでもないけれど、ジャパンダートダービーでトレセン学園勢の猛者を蹴散らし、南関東三冠ウマ娘になることで、その挫折を払拭したいとわたしは強く願っていた。

 

>>

『南関東三冠の初戦、羽田杯、いよいよ先頭が最後の直線に差し掛かりました。先頭はたくさんの人の期待を背負って、一番人気のファルコンレア!ファルコンレアが先頭!リードはおよそ7バ身。今日も一人旅になりますか。追ってくる娘はいるのか。ファルコンレア先頭!突き放した突き放した、これは強い!大きく後続を突き放して、今一着でゴールイン!ファルコンレア、実力の違いを見せつけました!』

 

>>

『東京ダービー、二冠目を目指してファルコンレアが今日も単独で最後の直線に入りました。スタンドからは大歓声、スタンドからは大歓声、ファルコンレアが先頭!もう誰もこの娘に追いつけないのか、突き放す突き放す!後続ははるか後方、その差、6バ身・7バ身・8バ身、ファルコンレア、今一着でゴールイン!勝ちタイムはなんと2分0秒4!母・スマートファルコンが保持するレコードタイムタイを叩き出しての大楽勝です!全国のウマ娘よ見てくれ、これが南関東が誇るファルコンレアだ!ジャパンダートダービーでは唯一の南関東三冠ウマ娘候補として、南関校最強のウマ娘として、全国の、そして中央の猛者たちをここ大井レース場で迎え撃ちます!』

 

 

>>

ウイニングライブを終えて控室に戻ると、いつものようにいつもの笑顔でトレーナーのゲンさんが出迎えてくれた。

 

「東京ダービー制覇おめでとう!これで南関東二冠だな、よくやってくれた!」

「ありがとう。たくさんの人の期待に応えられて、ホッとしたわ」

 

レースに勝てば勝つほど、わたしに期待してくれる人が増える。

今日の単勝支持率はなんと82%だった。

期待されるのは嬉しいことだけど……当然ながらそのことは、大きなプレッシャーとしてわたしにのしかかってくる。

ここ数戦、勝った時は嬉しい、という気持ちより、たくさんのひとの期待を裏切らなくてホッとした、という気持ちのほうが強くなっていた。

 

もちろんこういうプレッシャーが勝ち続けている者の宿命だということは理解しているし、この重圧に打ち勝ってレースを戦い抜いていくことが、南関東のクラシック級ウマ娘を代表する、わたしの使命だと自覚している。

 

「しかし、これでレアも二冠か。次のジャパンダートダービーで、いよいよ【南関東三冠ウマ娘】へ挑戦だな」

「そうね」

 

なんてことのない風を装って返事したが、彼のその言葉にわたしは今までにない重圧を感じた。

 

【三冠】という言葉は、レースに携わる者にとって特別な意味を持っている。

三冠を制するということはその世代の頂点を極めるという意味であり、次の時代の覇者になることを義務付けられる存在になるということだ。

 

そのプレッシャーに、わたしは耐えられるだろうか。

わたしに、その資格があるのだろうか?

 

そんな疑問が、浮かんでは消えてきて、わたしの身をこわばらせた。

 

ゲンさんの言葉を聞いてわたしがちょっと固くなってしまったのを感じ取ったのか、彼はそれをほぐすように、いつもの軽薄な感じで笑ってくれた。

 

「まあでもよ。これだけ勝ちが続くと、お前さんにかける祝辞の言葉もネタ切れしてくるなあ。昔、羽生さんが7冠全部取ろうとしてた時、羽生さんの師匠が『表彰式が続きすぎて、最後の方は彼にその場でかける言葉がなくなってきた』ってどこかで書いてたけど、まさか自分がその立場になるとは思わなかったよ」

 

なんともぜいたくなことを言うゲンさんに、わたしは思わず苦笑を浮かべてしまった。

 

「ゲンさん。わたしをお祝いしてくれる気持ちがこもってさえいれば、言葉なんてなんでもいいのよ」

「レア……最近はちょっと、考え方が大人になってきたな!おじさんは若い子の成長が嬉しいよ」

 

なにやら年寄りくさい事を言いつつ、ヨヨヨ……と下手なウソ泣きまでやりだした。

そちらがそういうノリなら、わたしも多少の悪ノリは許されるだろう。

 

「あ、でもほら。勝利をプレゼントしてくれた担当ウマ娘にトレーナーがどうしても誠意を見せたい、というのなら、わたしがそれを受け取ることは、決してやぶさかではないのよ?」

 

そんな彼にわたしが冗談めかしてそう言うと、今度は彼が微苦笑を浮かべる番だった。

 

「お前さんはやべー国にいる、賄賂を要求してくる警官か?わかったわかった、レアの活躍のおかげで今年の給料はちょっと上がったし、なんかうまいもんでも食いに行くか」

 

うんうん、もう1年以上の付き合いになるだけあって、わかってくれてるわね。

そう言ってくれるって、信じていたわ。

 

「さすが去年の優秀トレーナー賞受賞者ね。ゲンさんはトレーナーの鑑のような存在だわ!」

「……お前さんは奢ってもらえるとなると調子がいいなぁ。未来の彼氏さんの苦労が忍ばれるよ」

 

いや、わたしも相手が大人だからこんな軽口をとばせるわけで、もし将来恋人ができたとしても、別に全部奢ってもらうつもりでいるなんてことはない。

まぁ彼は古いタイプの人間だから、【デートの時は男が全部出すべき】って考え方を持っているのかもしれない。

 

「ま、とりあえず俺は外に出てるから、さっさと着替えてしまいな。今日はなにを食べに……」

 

そこまで言うと彼はなぜか顔をしかめて、お腹をさするような仕草をした。

 

「……どうしたの?」

「いや、ちょっと胃が痛くてな。なぁに、朝からなにも食ってないから、空腹のせいで胃酸が出すぎているんだろう。少し腹になにか入れれば、落ち着いてくるだろうさ」

 

……朝から?

今、夜の9時前なんだけど。

 

「それって今日一日、なにも食べてないってこと?大丈夫?」

「ああ、ちょっと気の早い夏バテ気味か、最近食欲がなくてな。若い頃なんかは夏は余計に食欲が出たもんだが。年は取りたくないもんだな」

 

彼はそんなことを言ってちょっと辛そうな微笑を浮かべると、お腹をさすりながら控室を出ていった。

 

夏バテね……。

彼が最近ちょっと元気がなくて、顔色が悪いのはそのせいなのかもしれない。

今はそんなものと無縁でいられてるけど、わたしも年齢を重ねるといつか体験することになるのかしら?

 

着替えながら彼と同じ歳になった自分を想像してみたけど、どうにもうまくシミュレートすることができなかった。

 

その夜彼はちょっといい感じの居酒屋に連れて行ってくれたけど、彼が頼んだのはビール一杯とタコワサだけだった。

よほどひどい夏バテなのか、その注文した2品さえ、彼はほとんど口にしなかった。

 

 

今日の予定は南関東三冠の最後のレース、ジャパンダートダービーについてゲンさんとミーティングだ。

 

このレースには、わたしの【南関東三冠ウマ娘】の称号がかかっている。

今日のミーティングで、1ヶ月先に行われるジャパンダートダービーまでの綿密なトレーニング計画を立てるつもりである。

 

南関東三冠が現行のルールになって四半世紀以上。

その間、南関東の二冠を制したウマ娘は、あと一歩のところでトレセン学園の【刺客】に煮え湯を飲まされてきた。

 

でも、今年は【わたし】がいる。

 

タイムでも実績でも、わたしの実力がトレセン学園の【超エリート】たちに、引けを取っているとは思えない。

 

わたしは別に愛校心溢れる南関生、というわけでもないけれど、自分の所属している学校に注目度が集まって、地域のレースが盛り上がればいいな、ぐらいの気持ちは持ち合わせていた。

 

もしわたしが南関東三冠ウマ娘を達成すれば、きっとそれなりに話題になって、南関東全体のレースが盛り上がるに違いない。

 

そうなればお客さんも、南関東のレース場にたくさん足を運んでくれるようになることだろう。

 

お母さんがレースに勝ちまくることで、ダートの価値そのものを高め、ファンの注目をダートレースに集めたように。

 

「ゲンさん、入るわよ」

 

そんなことを考えながら、トレーナー室の引き戸をノックして部屋に入ったのだが……。

 

わたしの目に飛び込んできたのは、お腹を押さえて苦しげな声を上げながら、机に突っ伏しているゲンさんの姿だった。

わたしは慌てて彼のもとに駆け寄って、肩をゆすりながら声をかけた。

 

「ど、どうしたのゲンさん!大丈夫!?」

「お……ああ……レアか……」

 

わたしの顔を覗き込む彼の視線はうつろで、顔色は土色をしている。

その土色の、げっそりした顔からは、おびただしい量の冷や汗と脂汗が出ていた。

これはただごとではない。

 

「救急車呼ぶから!ちょっと待ってて!」

 

わたしがカバンからスマホを取り出そうとすると、彼はそれを力の入らない手で制した。

 

「救急車呼ぶほどのことじゃねえ……すまんが、医務室まで肩貸してくれ。保険医さんに頼んで、車で近くの総合病院まで連れて行ってもらうから」

「ダメよ!明らかに顔色がおかしいもの!救急車呼ぶからね!?」

 

わたしの剣幕に、彼も観念したようだ。

わたしはバッグからスマホを取り出すと、生まれて初めて119番を押して救急車を呼んだ。

 

そして彼を抱き上げると、とりあえずソファまで運んでそこに横たわらせる。

彼の体重は、成人男性のものとは思えないほど、軽かった。

 

「大丈夫?すぐに救急車着てくれるって!」

「ああ……すまん、大事なレースの前に……」

「なに言ってるのよ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」

 

……命の危険が迫ってるかもしれないときに、わたしのレースの心配をするなんて……。

どうしてだが、そのことにわたしの目頭が急に熱くなった。

 

それから5分もせず、救急隊が駆けつけてくれる。

 

「こちらの方ですね?」

「はい」

 

わたしが返事すると、救急隊員さんたちはテキパキと彼をソファーから担架に移した。

救急隊員さんたちの切迫したやりとりを聞いている限り、やはり彼はかなり危険な状況にあるらしい。

 

素人判断せず、救急車を呼んだのは正解だったようだ。

 

救急車へ運ばれていこうとする彼に、当然わたしも付き添おうとしたけど……。

 

「レア。お前さんはいい。トレーニングしておけ」

「でも……」

「いいから、トレーニングしておけ!」

 

その裂帛の声は、これから救急車で運ばれようとしている人間のものとは、思えなかった。

救急隊員さんに「あなたは危険な状態なのですから、もうしゃべらないで」と言われても、彼はわたしにトレーニングメニューを伝えるのをやめなかった。

 

「トレーニングは、いつものメニューに坂路を1本追加すること。それから、手を抜かずにしっかりダートを走り込んでおけよ。落ち着いたら、LANEで連絡する。なぁに、心配するな。すぐに戻ってくる」

 

そう言って担架の中で微笑む彼に、わたしはそれ以上なにも言えなかった。

 

 

その日の夜の8時頃、彼からLANEがあった。

とりあえず彼が自分でLANEが打てる状況であることに、わたしは心底ホッとした。

 

ゲンさん【騒がせてすまなかったな。ちょっと酒の飲み過ぎで体をやっちまったようだ。情けないことに、しばらく入院だとよ。でも心配するな!LANEでしっかりトレーニングメニューは伝えることができるからな】

 

……今、そんな話をしている場合じゃないでしょう?

わたしは少し苛立ちながら、LANEに返事を打ち込んだ。

 

【わたしのことは大丈夫だから、今は体を治すことに専念して。そんなことよりお見舞いにいきたいんだけど、どこの病院に入院してるの?】

 

結局わたしは救急車まで付き添わせてもらえなかったので、彼がどこの病院に運ばれて入院したのか、わからずじまいである。

 

ゲンさん【俺のことは家族がちゃんとしてくれるから、心配すんな。見舞いなんかに来ている暇があるなら、南関東三冠達成に向けてきちんとトレーニングしておけ】

 

この人はこんなときに一体、なにを言っているのだろう?

 

……三冠とかトレーニングとか、そんなこと今どうだっていいじゃない!

 

それに、家族って……。

 

わたしたちは1年以上一緒にいるのに、ゲンさんの家族のことなんて、飼っているネコのゴアのこと以外、ほとんど聞いたことがない。

 

多分ゲンさんには……【今】一緒に住んでいるような家族は、いないんだと思う。

 

【わたしは、ゲンさんが心配なの!どこに入院しているの?わたしに内緒にしてても、他のトレーナーさんとか学校の先生とかから病院の場所聞き出して、お見舞いに行くからね!】

 

感情的なその一文に、返事がきたのは10分後だった。

 

ゲンさん【レア。お前さんが俺を心配してくれる気持ちは、本当に嬉しい。でもな、お前さんがトレーニングを頑張って、レースに勝ってくれることが、今の俺には、何よりの薬になる。だから今は、ジャパンダートダービーに、南関東三冠を獲ることだけに集中してくれ。頼む】

 

そんなこと言われたら……。

 

もうわたし、なんにも言えないじゃない……。

 

こんなレースバカ、ウマ娘バカのトレーナーにわたしができたのは、【わかったわ】と返事することぐらいだった。

 

 

それから毎日、ゲンさんは朝練前の5時ごろと、授業が終わる3時半頃にその日のトレーニングメニューをLANEで送ってきてくれた。

 

体調のことを聞いても【大丈夫だ、心配するな】しか返ってこないので、彼の本当の病状はわからなかった。

 

本当のことを言うと、入院当日にLANEでも言ったように、他のトレーナーさんや学校の先生に聞き回ってでも入院先を探り出して、彼のお見舞いに行きたかった。

 

でも、それは彼の望みではない。

わたしは彼の病気が快復することを祈りながら、彼が病身を押して作ってくれているトレーニングメニューを全身全霊でこなした。

 

 

彼が入院して2週間を過ぎたあたりから、少し気になりだしたことがある。

それは、彼が本番のジャパンダートダービーまでに退院できる状態であるのか、ということだ。

 

正直に言うと……わたしは少し難しいだろうな、と感じていた。

 

この頃になると、彼がトレーニングメニューを送ってくれる頻度が、少しずつ減っていていたからだ。

 

わたしが理由を聞いても【大事な時期に申し訳ない。体調は問題ないんだが、検査が忙しくてな。そういう時は前日と同じメニューをこなしていてくれ】みたいな返事しか戻ってこないけど……。

 

最近の彼からのLANEを見ていると、送ってきてくれるメッセージが今までよりかなり短い文章になっていることに気づく。

そんな短い文章なのに、誤字脱字がやたら多かったり、文脈がどうにもつながっていないメッセージが来ることがある。

 

……こういうメッセージを見ると、嫌でも想像できてしまう。

たぶん今の彼の状態は、普通にLANEを打つのさえ、厳しいような体調なのだろう。

 

わたしは、迷っていた。

本当に、彼に会いに行かなくていいのか。

いくらゲンさんが望んでいることとは言え、恩師が病に苦しんでいるときに、自分の名誉のためにトレーニングをしているわたしは、薄情者なんじゃないか。

恩知らずなんじゃないか。

 

そのことを、お父さんとお母さんに相談してみた。

両親がくれたアドバイスは、それぞれ異なるものだった。

 

お父さんは『トレーナーさんがお前に一生懸命練習することを望んでいるのなら、そうすべきだ。見舞いに来るな、というトレーナーさんはきっと、病気の自分を見せることで、レース前のお前に余計な不安や負担を感じてほしくない、という気持ちを持っておられるのだと思う。俺がお前の立場になったら、師匠の病気の回復を祈りながら、懸命に将棋の勉強をするだろう。大勝負を控えているなら、なおさらだ。それが恩返しというものだ』と言ってくれた。

 

お母さんは『トレーナーさんが入院先を隠していても、学校の先生とか他のトレーナーさんに聞けばわかるよね?すぐに行ってあげなさい。口では『来るな』なんて言っていても、担当しているウマ娘にお見舞いに来てもらって、元気にならないトレーナーさんなんていないから!お見舞いに行ったからといって、全部の練習時間がなくなるわけじゃないでしょう?レアの顔を見せてあげるのが、何よりのお薬になるはずだよ』と言ってくれた。

 

二人の言葉は、わたしをますます混乱させた。

戦うウマ娘としては、お父さんのアドバイスのほうが正しいと思う。

でも、トレーナーを心配するウマ娘としては、お母さんのアドバイスのほうが正しい気がする。

 

結局はわたしは、この悩みをトレーニングに打ち込むことで解消することにした。

 

【わたしが一生懸命トレーニングをして、南関東三冠ウマ娘になったら、彼の病気もきっと快復する】

 

そんな儚い願いを抱かなかった、といえば嘘になる。

 

 

自宅から出ると、もう陽が暮れているにも関わらず、空気はまとわりつくように蒸し暑かった。

生ぬるい風が、わたしの全身をなでる。

そんな風を感じながら、わたしは何気なく空を見上げた。

 

今夜は、晴夜だ。

夏の大三角形が、よく見える。

 

今日はいよいよ、南関東三冠の最後の交流レース、ジャパンダートダービーが行われる。

残念ながら、ゲンさんはこの日までに退院することができなかった。

 

退院するどころか、3日ぐらい前に【ちょっと体調が優れん。しばらく連絡できないかもしれんから、ジャパンダートダービー当日までのトレーニングメニューを先に伝えておく】というLANEが来た。

 

でも、その日送ってきてくれたLANEは今までの短文や誤字脱字だらけのメッセージとは違い、密度と内容の濃い長文だった。

 

体調が良くない、というのは気になるけど……これだけしっかりした文章を打てるなら、ゲンさんは大丈夫。

 

わたしが勝てば、それが励みになって彼は元気になる。

わたしが勝てば、全部いい方向に向かう。

 

考えてみれば、わたしの人生はずっとそうだった。

 

レースに勝つことで、わたしの人生は開けてきた。

 

だからきっと、今回も大丈夫。

 

わたしはそう信じることで、なんとか平常心を保っていた。

 

 

レース直前にひとりきりでいる控室はただっ広くて、夏の盛りにもかかわらず、ちょっと肌寒く感じられた。

ひょっとしたら少し冷房が効きすぎているのかもしれない。

 

思い起こしてみれば、レース場の控室に一人できたのは初めてだ。

 

別に彼がいたからと言って、レース前に特別なことをしてくれていたわけではない。

レース直前までなんてことのない雑談をして、出発前には『がんばれよ』と声をかけてくれていただけだ。

 

ただ、それがないだけなのに……どうしてわたしはこんなに、心細く感じているのだろう。

 

わたしはもっと、自分のことを強いウマ娘だと思っていた。

 

お願い、ゲンさん。

わたしに力を貸して……!

 

彼に直接言葉をかけてもらえないなら、せめて今まで彼が送ってくれたLANEのメッセージを見て自分を励まそうと思ってスマホを持った瞬間、通知が鳴った。

 

……ゲンさんからだわ!

 

今日が本番なのに、連絡をくれないことにちょっと心配していたけど……。

 

彼のことだ、テレビをつけてわたしがレース前であるのを思い出して、励ましのメッセージを送ってくれたに違いない。

 

わたしは高揚した気持ちで、スマホをタップした。

そんなわたしの目に入ってきたのは、期待した文章とは正反対と言える内容だった。

 

ゲンさん【ファルコンレアさんへ。佐神の弟です。突然のメッセージ失礼いたします。兄の弦二郎が危篤状態に陥りました。入院先の病院のURLを送信いたしますので、できるだけ早く来てやってください。よろしくお願いいたします】

 

……危篤。

 

その言葉を見て、わたしの心臓が早鐘をうち始めた。

スマホを握る手に、嫌な汗も滲んでくる。

 

考えないように、考えないように、とはしていたけど……そういう未来がやってくることも、全く想像しないわけではなかった。

 

このままレースに出てしまったら、わたしは彼が亡くなるときに、そばに……。

 

ううん。

……大丈夫。

 

彼が、わたしが南関東三冠ウマ娘になるという集大成を見ないまま、死んでしまうわけがない。

 

彼が、まだまだ未熟なわたしを放っておいて、どこかへ行ってしまうわけがない。

 

ゲンさんは、わたしのトレーナーなんだから。

 

わたしは震える指で【わかりました。でも今から、彼と一緒に目標にしてきた、大レースの出走なのです。必ず良い結果を持ってそちらに伺いますので、待っていてください】と返信した。

 

ゲンさんの弟さんが、どんな方なのかはわからない。

レースを知らない人がこの文章を見たら、わたしのことをとんでもない冷血漢だと思うことだろう。

いや、レースにある程度理解がある人が見たとしても、わたしはやっぱり薄情者に見えるのかもしれない。

 

でも、この場を投げ出してゲンさんのもとに向かうなんて、絶対に彼も望まない。

そのことだけは、確信できた。

 

 

スタンドから押し寄せる熱狂。

これからレースを走るウマ娘たちが発する、極限までの緊張感や闘争心。

そのウマ娘たちを照らす、ナイター照明。

 

G1レースの時の本バ場は、独特の雰囲気に包まれている。

 

わたしにとって大切な人が大変なときでも、ここではなにも変わらずにレースが行われる。

それはなんだか、不思議な気分だった。

 

「ちょっとアンタ!」

 

そんな感傷に浸っていると、鋭い声がわたしの方に飛んできた。

一体だれ?と思ってそちらの方に顔を向けると、見慣れないウマ娘が、明らかな敵意と侮蔑の感情満載の視線でわたしを睨んでいる。

えーと。

とっさに名前が出てこなかったが、彼女は確か今日の二番人気の娘で、トレセン学園に所属しているウマ娘のはずである。

 

「……なにか用かしら?」

「アンタ、ファルコンレアっていったっけ?スマートファルコンさんの娘で、最近ちょっと成績いいからって調子に乗ってるみたいじゃない。二冠、って言ったってしょせん【地方】のご当地G1での話でしょ。私のように、レベルの高い【中央】で戦ってきたウマ娘の敵じゃないわ!今日はそれを思い知らせてあげる」

 

……こういう形で相手を挑発し、こちらを苛立たせて精神的に優位に立とう、というヤツがいることは知っているし、そんなことは今までも何回か経験してきている。

この手の輩は無視するに限るのだが……あいにく今日のわたしは、ひどく気が立っていた。

 

「……まれ」

「ん?聞こえないわ、なんですって?」

「わたしは黙れって言ったのよ。アンタがどこのどなた様か知らないけど、弱いウマ娘ほどよくいななく、とはよく言ったものね。わたしになにか聞いてほしいのなら、その太くてどんくさそうな脚で、一度でもわたしの前を走ってから口を開きなさい。話はそれからだわ」

 

わたしの口の悪さは、両親とゲンさんのお墨付きである。

わたしの口上を聞いて彼女はよほどお怒りになったらしく、大きな耳を後ろに引き絞り、全身をプルプル震わせ始めた。

 

「地方のウマ娘風情が、中央の重賞を勝っている私に、よくもそこまでナメた口を利けたものだわ!その減らず口、レース後に絶対後悔させてやるんだから!」

 

そう喚き散らすと、彼女は足元のダートを蹴りつけ、ゲートの方へ行ってしまった。

 

残念だけど、わたしはこのレースを後悔するような結果にする訳にはいかないし、レース後にあんなつまらないウマ娘の相手をしているヒマはない。

 

わたしには、【わたしたちの勝利】を、待っていてくれている人がいるのだから。

 

 

そんなちょっとしたトラブルはあったが、それ以外はスムーズにゲートインが行われた。

最後の一人が、ゲートに収まった音がする。

 

ガチャン!

 

わたしの【南関東三冠】を賭けたジャパンダートダービーが、スタートした。

 

わたしのスタートは、いつも通りの良好なものだった。

その勢いのままインコースを目指してぐんぐん加速し、先頭を奪いに行く。

 

他にも逃げの脚質の娘がいたはずだが、誰もわたしに競りかけてこない。

ここ数戦はいつもこんな感じで、わたしに行かせるだけ行かせ、自分たちは脚をためて終盤勝負、というのが対戦相手の戦術らしかった。

 

しばらくすると、観客席から大きな拍手が聞こえてきた。

 

これを聞くと、ああ、わたしはG1という大きな舞台で戦っているんだな、という実感が湧いてくる。

 

 

レースは淡々としたペースで進んでいる。

 

第二コーナーを過ぎたあたりで少しペースを落ち着けた際、ちらりと後続を確認してみると、わたしのすぐ後ろにピタリとあのけんかを売ってきた娘がついてきていた。

 

「偉そうなこと言ってた割に、大したスピードじゃないわね。ほらほら、あなたがバカにしてくれたふっとい脚で、カンタンに抜かしちゃうわよ?一度でもアンタの前を走ったら、私の話を聞いてくれるんだっけ?」

 

ふん。

なんとも安い挑発である。

 

「わたしの前を走り続けて、勝てるだけのスタミナを残している自信があるなら勝手にするといいわ。約束は約束だから、一度でもわたしの前を走ったのなら、話を聞いてあげてもいいわよ?今夜は先約があるから、明日になるけど。まったく、モテる女はツラいわね」

「ホント、生意気なヤツ!」

 

わたしの減らず口に悪態をつきつつも、こちらを意地で抜き去るような気配は彼女から感じられなかった。

 

もちろんわたしも、彼女の言葉に熱くなって、無駄に彼女を突き放すなんてマネもしない。

 

彼女がわたしを【地方のウマ娘】とバカにしていることは確かだろうが、この娘はその侮蔑に挑発することをミックスすることで、相手を怒らせたり怯えさせたりして、無駄に力を浪費させようとしてくるタイプのウマ娘なのだ。

 

でも、今のわたしにそんな揺さぶりは通用しない。

 

『お前さんのスピードとスタミナは、一級品になりつつある。だが、どうにもメンタル面でかなり不安が残るな。全日本ジュニア優駿でも、ちょっと突っつかれただけで道中やりすぎたことがあっただろ?ああいうのを直していかないと、超一流にはなれないぞ。負けん気があるのはいいことだが、使い方ってものがある』

 

そう言った彼が勧めてくれたのが、瞑想やマインドフルネスといったメンタルトレーニングだった。

 

正直わたしはその手のメンタルトレーニングの効果に、結構懐疑的だった。

だけど信頼している彼の指導だったし、実際こうして憎まれ口を叩いている口と行動を完全に切り離せているわけだから(メンタルトレーニングの肝は、感情と行動を意識的に切り離せるようになることだ。感情を感じなくしたり、封じられるようになることではない)それなりの効果は出ているのだろう。

 

彼の指導は、正しかったのだ。

 

……そんなゲンさんは、このレースを見てくれているだろうか。

 

レース中に、ペースや対戦相手のこと以外が脳裏に浮かぶ、というのは今までほとんどなかったことだった。

 

彼は今、危篤状態に陥っているという。

普通で考えれば、テレビを見ているはずなどないのだろう。

でもなぜかこの時は、きっと彼は見てくれている、という確信があった。

 

見ていて、ゲンさん。

あなたが見出し、あなたが鍛え上げ、あなたが育て上げたウマ娘が、最高の栄誉を勝ち取る瞬間を!

 

 

>>

『最終コーナーをカーブして、南関東三冠ラストレース、ジャパンダートダービーもいよいよ最後の直線に差し掛かります。先頭は大きく後続を引き離して、ファルコンレア、三冠へ向けて、ファルコンレアが先頭!2番手、ユニコーンステークス勝ちのベッシュドーガが追い上げます。外から並びかけるようにパヒュームセリエがやってきているが、先頭はファルコンレア!』

 

『二番手との差は6バ身、さらにリードを広げていく!ベッシュドーガ必死に追いかけますが、まったく差が縮まらない!先頭はファルコンレア、がんばれ、ファルコンレア!南関東三冠はもう目前だ!先頭はファルコンレア!ファルコンレア、今一着でゴールイン!ファルコンレア、やりました!南関生として12年ぶりにジャパンダートダービーを制覇!そして全国の強豪、中央のエリートたちを完封しての、堂々の南関東三冠制覇です!』

 

『勝ちタイムは……2分フラット!なんと2分フラットです!20年以上更新されなかった、母スマートファルコンが持つコースレコードを、その娘がコンマ4秒短縮して驚愕のレコード勝ち!おそらく、スマートファルコンも喜んでいることでしょう!……ん?どうしたのでしょう、ファルコンレア、一直線にウィナーズサークルに行って、なにやら係員に話しかけているようでありますが……』

 

 

>>

「あの!」

 

1着でゴール板を駆け抜けたわたしは、まずウィナーズサークルにいた緑色の制服を着た女性に声をかけた。

 

……喜びの感情を爆発させるのは、彼と一緒のときでいい。

 

「いかがなさいましたか?」

 

急に大きな声で話しかけたにも関わらず、彼女は柔和な笑みでわたしに対応してくれた。

 

「優勝者に贈られる、レイを貸してほしいんです!どうか、お願いします!!」

 

わたしの唐突なお願いに、彼女は少し困ったような表情を浮かべた。

でも、わたしの形相になにかを察してくれたのだろう。

彼女はうなずくと、小走りで事務室の方へ向かい、少ししてから【ジャパンダートダービー優勝】と金文字で刺繍された優勝レイと、立派な一帖の盾を持ってきてくれた。

 

「本当は表彰式で、URAの理事長から贈られるもののはずだったんですけどね」

 

苦笑を浮かべながら手渡してくれたその盾には、【羽田杯・東京ダービー・ジャパンダートダービー優勝  南関東三冠ウマ娘 ファルコンレア トレーナー 佐神弦二郎】と彫り込まれていた。

 

「ありがとうございます!」

 

それらを丁重に受け取って頭を下げ、わたしは急いでその場を辞そうとする。

 

「お急ぎなら、車をお出ししましょうか?」

 

彼女の申し出はありがたかったが、レース直後はここに来てくれている人達の車で、結構道が渋滞していることを思い出した。

 

「いえ、レース後で道が混んでいるでしょうから……ウマ娘専用レーンを走っていきます!ありがとうございました!」

 

気を使ってくれた彼女にお礼を言い、わたしはレース場の出口目指して走り出した。

 

レイを受け取るときに彼女の名札をチラリ、と見たが、そこには【駿川 たづな】と書かれていた。

後日改めて、きちんとお礼を言うために伺おう。

 

 

病院への道すがら、わたしはゲンさんと過ごした騒がしい日々を思い出していた。

 

縁起でもない、と理性が自動思考を叱りつけたが、脳裏によぎり始めたその日々たちの映像は止まらなかった。

 

お尻を触られて、最悪だった初対面。

わたしが乱闘事件を起こした時、自分の進退を懸けてでもわたしをレースの世界に引き止めてくれたこと。

初めて勝った、メイクデビューの日。

レースなんてカンタンに勝てる、と調子に乗っていたわたしをきつく怒るようなことはせず、そのことに自分で気づくまで、辛抱強く待っていてくれた彼。

 

そんな彼はわたしがレースで勝つたびに、本当に嬉しそうにして食事に連れて行ってくれた。

 

二人にとっての、初めてのG1制覇。

あの時初めて見た、彼の涙。

 

毎日交わしていた、たわいもないバカ話。

 

そして、わたしに語ってくれた彼の夢。

 

彼と過ごしたのはたった1年ちょっとなのに、こんなにたくさんの思い出があることに驚いた。

 

……わたしたちはまだまだ、これからたくさんの思い出を作っていくはずだった。

 

 

URLに記載されていた病院に着いたのは、大井レース場を出発してから20分後のことだった。

その病院はこの地域に住んでいる人なら誰もが名前ぐらいは知っている、地域医療の根幹を担っているような大きな病院だった。

わたしは病院の夜間出入り口にあった守衛室でゲンさんの入院している部屋を教えてもらい、エレベーターでその階に向かう。

 

病棟は西と東に分かれていて、彼が入院しているのは12階の東病棟だった。

守衛さんから連絡が入っていたのだろう、ナースステーションにいた看護師さんに声をかけると、「こちらです」と、消灯時間間近で静まり返っている病棟内を案内してくれた。

 

ゲンさんの部屋は個室らしく、ネームプレートには彼の名前しか書かれていない。

 

かたく閉じられた扉をノックすると、「どうぞ」と返事があった。

おそるおそる扉を開けると……そこには壮年の男性が一人と、すでに白い布を顔に乗せられた――信じたくもなかったもなかったが――ゲンさんがいた。

 

男性はたぶん、連絡をくれたゲンさんの弟さんなのだろう。

わたしがどう声をかけていいものか迷っていると……。

 

「はじめまして、ファルコンレアさん。生前は兄が大変お世話になりました」

 

弟さんはそう言って、おそらく親子ほど年が離れているであろうわたしに、丁寧に頭を下げてくださった。

……もうそろそろ、現実を受け入れなければならないようだ。

 

「いえ……わたしのほうこそ……あの、弦二郎さんのお顔を、拝顔させていただいてもよろしいですか?」

 

わたしの言葉に弟さんは静かにうなずくと、ゲンさんの顔を伏せていた打ち覆いをそっと外してくれた。

 

彼の死に顔は穏やかで、ただ、眠っているように見えた。

心なしか、少し微笑んでいるようにもみえる。

 

「兄は今朝から意識が混濁していたのですが……つけっぱなしにしていたテレビであなたのレースが始まると、はっと意識を取り戻して『テレビがよく見えねえ、頭を上げてくれ』と」

 

そっか。

やっぱりゲンさん、わたしのレース、見てくれてたんだ。

 

「それで、あなたが1着でゴールしたのを見届けてから、『あの娘を見てくれ。速いだろう。強いだろう。ファルコンレアっていってな、俺の、俺の愛バなんだ……』と言って、そのまま……」

 

愛バ。

 

それはトレーナーが担当しているウマ娘に贈る、最大限の親愛表現だった。

 

わたしは彼に近づき、手にしていたレイと盾を彼に向けた。

 

「見て、ゲンさん。わたし、ジャパンダートダービーを勝って南関東三冠ウマ娘になったの。誰も、わたしに追いつけなかった。わたし、知っての通り練習嫌いだけど、ゲンさんが作ってくれたメニュー通りに、とってもトレーニングがんばったのよ」

 

彼の顔を見ていると、涙が瞳から、とめどなく溢れ出ててくる。

悲しみと悔しさと喪失感がごちゃまぜになったような、お腹の底から溢れ出てきている感情が、まるで瞳の奥から押し出されているようだった。

 

「それに、この盾。わたしとゲンさん、二人の名前が入っている、とっても立派な盾でしょう?わたしたちの南関東三冠制覇を記念して、URAが作ってくれていたのよ。表彰式で渡してくれるつもりだったらしいんだけど、わたしが負けていたら、どうしていたのかしらね?……きっとみんな、わたしが、わたしたちが勝つって、信じてくれていたのね……」

 

レイと盾を彼の枕元において、わたしは彼の、まだ温かい手を握った。

 

「ねぇ、ゲンさん。わたし、すごくがんばったの。いつもみたいに、よくやった、って言ってよ。おめでとうって言ってよ。うまいもの食いに行くか、って言って……」

 

そこから先は、言葉にならなかった。

わたしはただただ、彼の腕にすがりついて、お父さんとはぐれてしまった幼い子供のように、泣きじゃくった。

 

 

彼のお葬式会場にやってくると、すでにたくさんの人が弔問に訪れていた。

 

昨夜はどうやって自宅に帰ったのか、覚えていない。

病院から車に乗ったのは覚えているが、弟さんの車で送ってもらったのか、タクシーで帰ってきたのかは本当に記憶にない。

 

記憶にあるのは、とりあえずパジャマに着替えて、ベッドに潜り込んだことだけだ。

 

本当のことをいうと、気持ちの整理が全然ついていなくて、ベッドの中にそのままずっと潜り込んでいたかった。

お葬式に出席することで、彼を失った、という現実に向き合うのが怖かったのかもしれない。

 

でも、以前どこかで【お葬式は死者のためではなく、これから生きていく人のためにある】と聞いたことがある。

 

その言葉を思い出したわたしは、気持ちの整理がついていないからこそ、彼とのお別れにきちんと向き合うべきだ、と思い直し、パジャマから制服に着替えて、彼のお葬式に参列させてもらうことにした。

 

お葬式にはゲンさんの友人知人、職場関係の人ばかりでなく、現役時代彼が担当したというウマ娘も、何人も来ていた。

 

彼女たちはみな、わたしを見つけると『ゲンさんにG1をプレゼントしてくれてありがとう』と礼を言ってくれた。

 

わたしはただただ恐縮して、「ゲンさんの指導のおかげで、なんとか勝てました」と先輩方にお返事させてもらうだけだった。

 

 

「少し、いいかしら?」

 

お焼香を上げさせていただくために参列者の列に並ぼうとすると、一人のウマ娘に声をかけられた。

年齢はわたしより10歳ぐらい上だろうか。

上品な黒い喪服に身を包み、黒真珠のネックレスがよく似合っている、知らない美女だった。

 

「はい、大丈夫ですけど……」

 

わたしの困惑が伝わったのか、彼女は友好的な笑みを浮かべて自己紹介してくれる。

 

「ああ、そんなに警戒しないで。私はあなたの【先輩】に当たるウマ娘よ。現役時代、ゲンさんに担当してもらっていたの。彼が最期に担当したウマ娘さんと、ちょっとお話ししたいなと思って声掛けさせてもらったのよ」

 

ああ、そういうことか。

わたしも、以前彼がどういうウマ娘を担当していたか、少し興味がある。

……人と話すことで、少し気分も紛れるかもしれない。

 

「それは失礼しました。ぜひ、お話させてください」

 

わたしがそういうと彼女は笑顔でうなずき、じゃあちょっと外でお話しましょうかと言って歩を進める。

少し離れて彼女についていくと、彼女は人気のない自動販売機の前で立ち止まり、500円硬貨を入れて「好きなの選んで」と言ってくれた。

 

「すみません、ごちそうになります」

 

わたしはお礼をいい、ホットココアのボタンを押す。

彼女は微糖のコーヒーを購入し、飲むのを待っていたわたしに「遠慮せず、どうぞ」と言ってくれたので、いただきます、とひとこと言ってからタップを開けて温かいココアに口をつけた。

 

「最近のゲンさんって、どんな感じのトレーニングメニューだったの?」

 

彼女はコーヒーを一口飲むと、微笑を浮かべて興味深げにそんなことを尋ねてきた。

 

「そうですね……正直、トレーニングは厳しかったです。体感で他の娘の3割ぐらい、練習量が多い感じでした」

「あ、やっぱりスパルタな感じは変わらなかったのね」

「そうおっしゃるってことは、先輩の時も?」

「ええ。2・3回彼のもとから逃げ出したぐらい、きつかったわ」

 

そう言って彼女は苦笑いを浮かべる。

ひょっとしたら昔の彼は、もっときついメニューをウマ娘に課していたのかもしれない。

 

「それにゲンさん、細かくて口うるさいから……正直、うんざりすることもあったでしょう?」

 

……?

それは、わたしの持っている彼のイメージと重ならない。

正直に言うべきか迷ったが、彼女はきっとわたしの本音を聞きたいのだろうと思い、失礼がないと思われる範囲でわたしの所感を述べることにした。

 

「いえ。わたし、練習嫌いでトレーニングを手抜きしてたことがバレたりしたこともありましたけど、彼から何かきついことを言われたり、うるさく言われるようなことはありませんでしたね」

 

わたしがそういうと、彼女はなにか得心したかのようにうなずいた。

 

「ああ、あなたはキツく言わなくても、自分でわかってくれる子だと思われていたのね。私は結構キツく言われないと気づかないタイプだったから……」

 

そうなのかもしれないし、歳を重ねるに連れて担当するウマ娘への接し方が変わったのかもしれない。

いまのわたしに、それはわからなかった。

 

「でもやっぱり、ゲンさんってすごいわ。多分ウマ娘の性格によって、接し方を変えていたのね。私も最近新入社員の子を受け持つようになってわかったんだけど、それってなかなかできないのよね。私がキツく言われてきたほうだから、ついその子たちにも同じように接しちゃう」

 

その子の性格とか見極めてちゃんと言うべきことと、言わないほうが良いことを本当は分けないといけないのだけども……とつぶやいて、小さくため息をもらした。

 

彼女の様子を見ていると、やっぱり人を育てるのって大変なんだな、と若輩の身ながら想像してしまう。

 

「あ、ごめんなさいね。関係ないグチみたいなの聞かせちゃって」

「いえ」

「でも……最期にゲンさんがあなたのような才能あふれるウマ娘を担当して、G1トレーナーの仲間入りすることができてよかったわ。彼がそんなウマ娘を受け持つだなんて、思ってもなかったから」

「……?どういうことですか?」

 

彼はたしかにG1は未勝利だったが、SG1やG2までの重賞は数多く制していて、周囲からも【名トレーナー】という評判を得ていた。

そんな彼だから、今までもきっと、才能豊かなウマ娘をたくさん担当してきたのではないだろうか。

 

「気分を悪くしたならごめんなさい。……彼が今まで、どんなウマ娘たちを受け持っていたか、知ってる?」

「いえ。でも、あれだけたくさんの重賞を勝っているわけですから、才能のあるウマ娘たちを担当していたんじゃないですか?ゲンさんぐらいの指導力と実績があれば、素質ある娘の指導をお願いされることもあったでしょうし」

 

わたしがそういうと、彼女は静かに首を横に振った。

 

「それがまったくの反対なの。私も一応、重賞を勝っているんだけどね。入学してしばらくは、タイムも模擬レースの成績も全然伸びなくて。担当してくれていたトレーナーさんから、私から契約を破棄するように言われちゃったのよね。つまり、私は落ちこぼれウマ娘だったわけ」

 

URAの規則では【トレーナーは、担当しているウマ娘との契約を、正当な理由なく一方的に打ち切ることはできない】となっている。

 

正当な理由とは、レースに復帰が望めないほどの大ケガや病気をしてしまって、ドクターストップがかかったり、ウマ娘が何らかの罪を犯して、警察に捕まってしまったりしたケースがそれに当たる(後者が適用された、という話はあまり聞かないが)。

 

つまり、建前上は『担当してみたけどこの娘は思ったほど走りそうにないから、契約打ち切ってやっぱり他の娘探そう』みたいなことは、一応できないようになっている。

 

一方で、ウマ娘の方からはいつでも契約を白紙に戻すことができる。

 

これは学生であるウマ娘が、トレーナーに無理なレース日程やトレーニングを強いられた時のための、一種の保護的規則なのであるが……。

 

しかし実際は彼女のようにこの規則を逆手に取られ、トレーナーの想定した成績を残せなかったウマ娘が【自主的な】契約破棄を迫られる、というケースは珍しくないのだ。

 

「でも、そんな私を拾ってくれたのがゲンさんでね。私を含めて、彼はそんな『訳アリ』のウマ娘の面倒ばかり見ていたトレーナーだったの」

 

それは少し意外な彼の過去だったが、反面、彼の性格からすると、そういうことをしていてもまったくおかしいと思わない。

 

彼は本当に心根が優しくて、担当したウマ娘に真摯に向き合ってくれるトレーナーだったから。

 

そんな彼が、わたしの担当トレーナーだったことを、誇りに思う。

 

「そうだったんですね。実はわたしも【余り物】で、ゲンさんに運良く拾われたウマ娘なんですよ」

「え、そうなの?」

 

驚く彼女に、わたしは彼との出会いを端的に語った。

 

模擬レースの結果ばかりが良くて、練習タイムが全然ダメだったこと。

そのせいで【伸びしろのないウマ娘】と思われて、トレーナーから全然声が掛からなかったこと。

彼が体幹の欠点を見抜いて、それを修正してくれたこと。

 

わたしの話を聞いた彼女は神妙にうなずいて、「彼らしいエピソードね」と言ってくれた。

 

「長い時間つきあわせちゃって、ごめんなさいね。じゃあそろそろ、お焼香上げに行きましょうか」

「そうですね……。わたしの方こそ貴重なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました」

 

そんな言葉をかわし、わたしたちはお焼香台が置いてある部屋に戻った。

そしてわたしたちは、ウマ娘を育てることに人生を捧げた、わたしたち自慢のトレーナーの冥福を、心からお祈りした。

 

 

そんな感じでお葬式は故人の人柄が偲ばれる、良いお葬式だったと思うのだけれども……少し、気になったこともあった。

 

喪主は弟さんが務めていらっしゃるようだったけど、その弟さん以外、ゲンさんの親族・家族らしき人をお葬式で見かけなかったということだ。

 

わたしは今まで、単に奥さんと子供とは別居しているのか、ひょっとしたらもう離婚しているのかもしれないな、ぐらいに思っていたのだけれども、お葬式にすら顔を出さないとなると、もっと根深い事情があるのかもしれなかった。

 

 

お焼香を済ませ、先輩方とも言葉をかわし、そろそろおいとましようとしていると、弟さんから「ファルコンレアさんさえよろしければ、兄のお骨をあげていただけませんか?」と声をかけていただいた。

 

幸いなことにわたしは今まで近しい人をなくした、という経験がなかったのでお葬式の作法に詳しいわけではないけれど、こういうセレモニーは普通、親しい親類縁者だけで行うものだろう。

 

そんなお別れの儀式にお声掛けいただいた、ということは、弟さんから見てもわたしとゲンさんにはそうするだけの絆があった、と見てくださっているのだと思う。

 

わたしは「お願いします」と返事し、出棺までの間、喪主である弟さんのお手伝いをさせてもらうことにした。

 

 

ゲンさんは彼の棺が納められた火葬場から上がる煙とともに、天に召されていった。

 

お骨上げに参加したのは、弟さんとわたし、それに出棺直前にお葬式会場にやってきた、その弟さんの息子さんだけだった。

彼の息子さんの年齢は20代の半ばくらいだろうか。

黒いスーツに身を包んだ彼はイケメンだったけど寡黙な人らしく、わたしには「佐神です。よろしくお願いします」とだけ挨拶してくれて、それっきりだ。

 

骨壷への納骨が終わり、あとのことは親族である彼らにおまかせして、わたしは家に帰って彼を悼もうと思っていた。

 

「ファルコンレアさん。この後のご予定は?」

「いえ、特には。自宅で弦二郎さんとの思い出を振り返ろうかな、と思っていたところです」

「そうですか。今から息子と食事にでも行こうか、と思っていたところでしたので、ぜひその思い出を私達にも聞かせていただけませんか?兄もきっと、喜んでくれると思います」

 

そのお誘いにわたしは少し、困ってしまった。

こういう場合、断るのが常識なんだろうか。

それとも、断ったらむしろ、失礼に当たるのだろうか。

 

困惑したわたしをみて、弟さんはしまった、という表情を浮かべて微笑を浮かべた。

 

「すみません。まだ高校生のあなたに、少し配慮が足りませんでしたね。兄はいつも、あなたがレースに勝った時はそのお祝いに食事を御馳走した、と言っていました。あなたのG1勝利のお祝いを、兄の代わりにさせていただけませんか?」

 

世間知らずのわたしに、気を使ってくれたのだろう。

そこまで言ってくださるのなら、ごちそうになっても失礼には当たるまい。

 

「気を使わせてしまって申し訳ありません。そういうことでしたら、ご一緒させてください」

 

そう返事すると、弟さんは笑顔でわたしを自分の車に案内してくれた。

もちろん、息子さんも一緒である。

しかしこの人、ホントしゃべらないわね。

なんにも言わずに助手席に乗り込んだイケメンに、わたしはちょっと訝しげな視線を送っていた。

 

 

連れて行かれたお店は、以前ゲンさんが連れて行ってくれたジャジャ苑と同じ系列の、もうワンランク上のお店だった。

 

著名人やお金持ちがSNSやメディアなどで話題にしている【高級焼肉店】といえば、ジャジャ苑ではなくこちらのお店のことである。

 

「え……?ここですか……?」

 

声に出してしまってから、連れてきてもらってそれはさすがに失礼極まりないと思ったのだが、今のわたしを、誰が責められるだろうか。

 

「はい。ファルコンレアさんはお肉が好きだ、と兄から聞いていましたので、こちらにお連れしました」

 

いや、気持ちはめちゃくちゃ嬉しいんですけどね。

ここ、18歳以下が入っても大丈夫なんだろうか。

 

「え、いや、でも、ここめちゃくちゃ高……」

 

失礼の上塗りを重ねる前に、彼は笑顔でわたしの言葉を遮ってくれる。

 

「子供がそんなおかしな遠慮なんてするものじゃありませんよ。さあ、入りましょう」

 

子供って……。

もうわたしも17歳なんですけどね。

でもまぁ、店の雰囲気に圧倒されて失礼なことばかり言っているわたしは、そう言われても仕方なかったのかもしれない。

普通にお店に入っていく弟さんとその息子さんに、わたしはただただ着いていくよりなかった。

 

 

生まれて初めて入った超高級焼肉店の内装は、焼肉屋というより、料亭といった雰囲気だった。

といってもわたしが料亭になんか行ったことあるわけないから、これはあくまでイメージである。

案内されたのが個室だったので、余計にそんなイメージを抱いたのかもしれない。

 

……こんなところで食べて、お肉の味なんかするのかしら。

 

こういうお店にいると店員さんが持ってきて飲み物のグラスも、お肉が盛られているお皿も、なんだか国宝級に高級なものに見えてくるから、不思議なものだ。

 

弟さんはゲンさんの骨壷をテーブルに置くと、その隣に注文していたビールを置いた。

 

そして自身もグラスを手に取り、「弦二郎の冥福を祈って、献杯」とグラスを掲げる。

わたしもそれに習って、静かにオレンジジュースが入ったグラスを掲げた。

 

「じゃあ、はじめましょうか。どんどん、焼いていってくださいね」

 

そう言って弟さんは、ピカピカの網にキラキラ光って見えるお肉を乗せ始めた。

まあ、どこで食べてもお肉はお肉。

あまり店の雰囲気に圧倒されていないで、とりあえずお肉を楽しもうとわたしは決める。

 

「ところでファルコンレアさんは、弦二郎の家族のことについて、どれぐらい聞いていますか?」

 

う~ん……。

いきなり肉の味がさらにわからなくなりそうな、ディープな話題である。

 

「そんなに詳しいことは……どうやら結婚して娘さんがいるらしいことと、飼い猫の名前がゴアってことぐらいしか、聞いていません」

「ああ、結婚していることは、ご存知なんですね」

「といっても、母と同席していたときに漏れ聞いただけで、わたしが直接聞いたわけではありませんけど」

 

その同席していた場所が乱闘事件を起こした後のトレーナー室だった、ということは、とりあえず伏せておいた。

 

「そうですか。ご存知でしょうが、兄はウマ娘の育成にすべてを捧げたような、そんな人間でした」

 

弟さんの言葉に、わたしは静かにうなずく。

それについては、なんの異論もない。

朝練前にトレーナー室にいくと、よく机に突っ伏して寝ているゲンさんの姿を見たものだ。

早く来たからちょっと仮眠していた、なんて彼は言っていたが、わたしのトレーニングメニューや機材を用意しているうちに、徹夜になってそこで寝てしまっていたのは明白だった。

 

「そんな弦二郎は、職業人としては尊敬できる存在です。文字通り、自分の仕事に人生のすべてを捧げていたのですから。ですが、家庭を持つ男としては、決して褒められたものではありませんでした」

 

弟さんは少しさみしげな表情を浮かべると、ゲンさんの家族について語り始める。

 

「弦二郎には、妻と娘がいました。30になるかならないかぐらいで結婚して、翌年には娘さんを授かっています。ただ、兄は根っからのトレーナーでした。結婚してからも、子供が生まれてからも、ウマ娘さんを中心にした生活は何一つ変わりませんでした」

 

手際よく肉を焼きながら話す彼の話に、わたしはじっと耳を傾ける。

 

「いつだったか、兄が酔っ払ったときに話してくれたのですが、娘さんが小学生の時、遊園地に連れていったことがあったそうです。でも、その時担当していたウマ娘さんが自主練中に怪我をした、という連絡が入ると、『すまん。埋め合わせは今度する』とだけいって、そのウマ娘さんのもとに行ってしまった、なんてこともあったらしいのです」

 

いかにもありそうなその風景を想像して、わたしは少し、心を痛めてしまった。

わたしがその子の立場だったら、お父さんなんて大嫌いになっているに違いない。

……自分からお父さんを奪い続けた【ウマ娘】という存在も。

 

その話を聞いて、奥さんも娘さんもお葬式にすら顔を出さなかった理由が、ようやく理解できた。

 

弟さんがどうぞ食べてください、といい感じに焼けたお肉を勧めてくれたので口に運んでみたが、店の雰囲気のせいなのか、聞いている話の内容のせいなのか、きっといいお肉なんだろうな、ということ以外、よく味がわからなかった。

 

「そんなことが積み重なったのが原因なのでしょう、数年前に娘さんが経済的に独立したのを機に、奥さんの方から離婚を切り出されて、そのまま別れてしまいました。その時期からでしょうか、もともとお酒は好きな方で嗜んでいましたが、まるで浴びるように飲むようになってしまったのは」

 

何度か彼の買い物に付き合ったことがあったが、そのときに買い込むお酒の量にいつも驚かされたものだった。

『そんなに飲んで大丈夫なの?』とわたしが聞いても、彼はいつも『俺は強いから大丈夫』と言うだけだった。

 

……体を壊すほどお酒を飲んでしまっていたのは、きっと家庭を失った寂しさと孤独を紛らわせるためだったのだろう。

 

「すみません。別にウマ娘であるあなたに恨みをぶつけるために、この話をしたわけではない、ということだけはご理解ください。ただ、兄がトレーナーという仕事にどれだけの情熱を注ぎ込んでいたのか、ウマ娘という存在にどれだけの愛情を注ぎ込んでいたか、最期の担当ウマ娘さんのあなたに、どうしても知っておいてほしかっただけなのです」

 

弟さんの言葉に、わたしはうなずくことすらできなかった。

正直、彼の話は【子供】のわたしには重すぎた。

でも、弟さんがこの話をわたしに聞いてほしかった、という気持ちは理解できたし、そんな大事な話をわたしにしてくれたことを嬉しくも思った。

 

「奥さんと子供さんと別れ別れになってしまったのは残念ですが……お話を伺っていると、弟さんとは仲が良かったのですね」

 

少しばかり話をずらして話題を弟さんに向けると、彼はなぜか苦笑いを浮かべる。

 

「兄は、私にとってヒーローのような存在でしたから。まぁ、どちらかというとダークヒーローという感じですが」

「ダークヒーロー?」

 

さっきの話とは打って変わって、ちょっと面白そうな単語が出てきた。

 

「私は少しばかり勉強が得意な内向的な少年でしたが、兄は文武両道に秀でていて友人も多く、高校生まではずっと生徒会役員に推薦されるような、そんな少年だったのですよ」

「なんか、そんなイメージあんまりわかないんですけど」

「かもしれませんね。でも、そんな表向き優等生をやっていた兄が私に教えてくれたのは、非力でもケンカに勝てる人体急所の殴り方とか、麻雀の押し引きの確率論とか、そんなくだらないことばかりでしたよ。両親ともあまりウマが合わず、しょっちゅうケンカしてましたしね」

 

そういうことを聞くと、ああ、やっぱりゲンさんは子供の頃からゲンさんだったんだな、と納得させられる。

 

「そういえば、弦二郎さんがトレーナーを目指すきっかけになった出来事って、なんだったのでしょう?小さい頃から、レースを見ていたとか?」

 

わたしの質問に、彼は少し目を細めて遠くを見つめた。

おそらく、子供の頃の記憶を引っ張り出しているのだろう。

 

「具体的にいつウマ娘さんのトレーナーになろうと思ったのかは聞いたことはありませんが……中学生ぐらいの時から、ウマ娘さんを育成するゲームをやっていたのは覚えています。その影響なのか、週末は必ず実際のウマ娘さんのレースを見るようになっていましたね」

 

野球とかサッカーでも、育成ゲームから実際の競技に興味を持ってプロを目指し始めた、って人もたくさんいるから、彼もそういったパターンだったのだろう。

 

「そんな兄の武勇伝は色々ありますが、一番痛快だったのは兄が大学卒業を控えて、進路を決めるときのことです。お話したように兄は頭も良かったものですから、両親は兄には医師になるか、大学に残って、将来は偉大な科学者、研究者になってほしいと願っていました」

 

へぇ。

お医者さんを目指せるぐらい、頭が良かったのね。

こう言ったら天国からゲンさんが怒ってきそうだけど、やっぱり何だか意外である。

 

「でも兄はそんな両親にきっぱりと『俺、ウマ娘トレーナー科のある大学に編入してトレーナーになるわ』と宣言したんですね」

「それはなんとも、ゲンさんらしいですね。で、ご両親はそれをお許しになったのですか?」

「いえ。『東大にまで入れてやったのに、なんでそんなこと言いだすんだ!』と両親は大激怒して、当然大ゲンカになりました」

「ほうほう、そんなことが……」

 

ん?

とうだい?

灯台?

 

「とうだい!?それって東京大学のことですか?」

 

わたしの驚き具合に、彼は苦笑を我慢できなかったようだ。

 

「ええ。兄は一応、東京大学を卒業しています。ただ、兄はそのときに親から絶縁されていますから、大学の講義の傍ら、家庭教師や塾の講師の仕事をして学費と生活費を稼ぎながら、なんとか大学を卒業しました。それからウマ娘トレーナー科のある大学に編入するのは、なかなか大変だったようですよ」

「でしょうね……」

 

ある時わたしがトレーナー室に学校からの課題を持ち込んで頭を抱えていると、『俺が教えてやろうか?』と言って、勉強を教えてくれたことがあった。

妙にわかりやすくて記憶にも残る教え方に『なんかゲンさんに勉強教わると、負けた気になるわ』なんて軽口を叩くと、『おいおい、俺も一応大学出てるんだぞ。高校生の勉強なんか、朝飯前だよ』と苦笑していたのを思い出す。

東大を出ているなら、南関校の課題を教えることなんて本当に朝飯前だったことだろう。

 

「さて。そんな思い出話は尽きませんが、お酒が入る前にこれをお渡ししておきますね」

 

そう言って弟さんは持っていたメンズ用のハンドバッグから、一通の白い封筒を取り出した。

 

「これは?」

「兄から預かった、遺言書です。『俺が死んだら、すぐに読んでもらえ』と言付かっています」

「……今、読ませていただいても?」

「ええ、お願いします」

 

わたしは丁寧に封筒の封を解き、入っていた便箋を取り出した。

そこには思ったよりしっかりした、綺麗な文字が綴られていた。

 

【親愛なる愛バ、レアへ。これをお前さんが読んでいる、ということは、俺はすでにくたばっちまっているということだろう。お前さんの面倒を現役生活の最後まで見れなかったことは、すまなかったと思っている。酒をもう少し控えることができれば、ちっとは長生きできたんだが……バカは死ななきゃ治らない、ってのは本当みたいだな。こんなバカな俺を許してくれ。でも、お前さんは優しいから、こんなバカでもいなくなったら、きっと多少は悲しんでくれることだろう。悲しむな、とは言わん。というかちょっとは悲しんでくれないと、俺が悲しいからな(笑)。しかし、気持ちの整理がついたのなら、お前さんは中央に移籍、つまりトレセン学園に転校しろ】

 

トレセン学園に、移籍?

一度不合格になったわたしが、そんなことできるのだろうか。

 

【普通のウマ娘なら一度落ちたトレセン学園に編入するのはほぼ不可能だろうが、お前さんぐらいの実績と実力があれば話は別だ。初めてお前さんの走りを見たときから、こんな日が来るだろうと思って準備しておいた。うちの学校ももちろん悪くないが、トレセン学園はトレーニングのための設備も、通っているウマ娘のレベルも正直、かなり違う。強いウマ娘は、そのレベルに見合った環境に身をおくべきだと俺は思う。実は全日本ジュニア優駿を勝った頃から、URAとも両校とも、ある程度話は進めてある。この遺書に同封してある俺の推薦書と、トレセン学園側のトレーナーの推薦書を持って、トレセン学園の樫本理事長を訪ねろ。おそらく簡単な編入試験だけで、転校できるはずだ】

 

そうは言っても……。

わたしにはトレセン学園のトレーナーなんかに、ツテなんてない。

どうやってその【トレセン学園側のトレーナーの推薦書】を手に入れればよいのか。

お母さんにでも、相談してみるか。

そんなことを考えながら、先を読み進める。

 

【トレセン学園側のトレーナーの推薦だがな、お前さんが俺と初めて会った日に約束していた、若くてイケメンなトレーナーを用意しておいたぞ。そいつから推薦をもらえ。佐神 稜真(りょうま)といって、俺の甥っ子だ。俺と違って口数は少ないが、誠実で腕の立つ男だ。きっとお前さんとも、仲良くやれると思う】

 

その一文に思わず目を大きく見開いてしまい、それから肉を頬張っていた例のイケメンにわたしは視線を移した。

 

「あの、トレセン学園の推薦状を書いてくださるトレーナーさんって……」

「ええ、私の息子のコイツです。おい、肉食うのはあとにしろ。すみません、ファルコンレアさん。こいつ、G1を勝ったあなたのことを担当するって決まってから、もう緊張しっぱなしで。今日もなかなかご挨拶できずに……」

「いや、オヤジずっと喋ってたから、割り込めなかったんだよ……」

「言い訳するな。早く挨拶せんか」

 

弟さんにうながされて、彼はようやく、その涼しげな目元をした瞳をわたしに向けてくれた。

 

「は、はじめましてファルコンレアさん。ご挨拶が遅れました。僕があなたをトレセン学園で担当させて頂く、佐神稜真です。未熟な若輩ですが、どうぞよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします……」

 

イケメンなのは良いけれど、なんだかちょっと、正直頼りないわね……。

大丈夫なのかしら?

 

「息子自慢に聞こえたら申し訳ないのですが……。こう見えてこいつ、最優秀新人トレーナー賞を受賞していたり、すでに重賞を勝ったりしてますから、そんなにひどいトレーナーというわけではないと思いますよ」

「オヤジ……G1勝ってる娘に、そんな自慢にもならないことを言わないで……」

 

彼は情けない顔をして自分を褒める父親をたしなめるけど、あの歳ですでに重賞を勝っているというのは、素直にすごい。

それなのに謙虚そうなのも、個人的には好ましい性格だ。

お互いに信頼関係ができれば、良いパートナーになれるかもしれない。

 

「でも見ての通り、ちょっと気弱なところがありますから、ファルコンレアさんがガンガン引っ張っていってやってください」

「引っ張っていけるかはわかりませんけど……」

 

そういってわたしは、彼の方を見る。

 

「よかったら、わたしのことはレアって呼んで下さい。親しい人は、わたしのことをそう呼びますから」

「わかったよ、レア。俺のことは……そうだね、君の好きなように呼んでくれ。あと、無理強いはしないが、できれば敬語はナシにしてもらえたほうが接しやすいかな」

「ふふっ、伯父様と同じ方針なのね。わかったわ。わたしもそちらのほうが、色々お話させてもらいやすいかも。これからよろしくね、稜真さん」

 

わたしたちは同時に手を差し出し、そしてしっかり握りあった。

彼の手は結構大きなペンだこがあり、そのキレイな顔に似合わずゴツゴツしていた。

きっと彼も伯父に似て、努力家で勉強家なのだろう。

 

ちなみに、遺書はこんな一文で締めくくられていた。

 

【死んじまうのは無念だが、あの世ってところもそんなに悪いところではなさそうだ。なんせ、行って帰ってきたやつがいないんだからな。きっと娑婆に戻ってくるのが嫌になるぐらい、良いところなんだろう。そんなところで美女にでも囲まれながら、お前さんのレースをいちファンとして楽しむことするよ。病人の俺が言うのもなんだが、体には気をつけてな、それじゃあ達者でな】

 

それじゃあ達者でな、の言葉を見て、わたしの瞳の奥から涙が溢れ出てきた。

これが、本当に彼からもらう、最期の言葉だろうから。

そんなわたしを、二人は静かに見守っていてくれた。

 

天国から見ていてゲンさん。

 

美女と一緒にいることなんかより、よっぽどワクワクするレースを、魅せてあげるから。

 

 

その夜わたしたちは、美味しいお肉をつつきながら日付が変わる時間近くまで故人を偲び、思い出話を語り、そしてこれからのことを話し合った。

 

その席でわたしは、ちょっとした興味というか、勢いというか、話の流れで彼らにいらないことを聞いてしまった。

 

「あの。ゲンさんの元奥様って、やっぱりウマ娘だったんですか?」

 

わたしの下世話な質問に、弟さんが笑って答えてくれた。

 

「いえ、レースとはなんの関係のない、普通の美しい女性でしたよ。元奥方に限らず、兄がお付き合いしていた女(ひと)はみんな、普通の女性でした。兄にとってウマ娘さんは恋愛や結婚などの対象ではなく、その競走生活をサポートし続けたい、彼女たちをたくさん活躍させてやりたい。きっとそんな存在だったのでしょうね」

 

わたしが中学までお世話になっていた男性トレーナーさんたちは奥さんがウマ娘、って人が多かったからゲンさんもそうなのかな、って勝手に思っていたけど、そういうトレーナーさんもいるのね。

 

そんな秘話も聞くことができたこの時間はとても有意義だったし、あの日の約束通り、イケメンのトレーナーを紹介してくれたのは嬉しかったけど……。

 

でもゲンさん。

 

わたしがレース生活に別れを告げるまで、あなたにわたしのトレーナーでいてほしかった。

 

 

***

 

それからすぐにトレセン学園に転校し、わたしがそれなりの成績を収めたのは、周知のとおりだ。

ゲンさんが飼っていたネコのゴアは稜真さんが引き取ることになって、たまに動画でその様子を見せてもらったりしている。

茶トラの彼女は気まぐれで気高く、それでいて愛らしさにあふれており、厳しい競走生活にいっときの癒やしを与えてくれた。

 

ゴアの動画と料理教室の友人さえいれば、レース関係の友人は必要ない。

そう思っていたのだけど。

 

『中央ダートの総決算、チャンピオンズカップもいよいよ大詰めです!最後の直線に入って、最初に立ち上がったのはローズフレイア、ローズフレイアが先頭!JBCクラシックを制した粘り腰をここでも発揮するか。その外からパフュームセリエもやってきているぞ、さらにはガシャガシャもいい脚だ!ローズフレイアが先頭!しかし、やっぱりやってきた、今日もすごい脚でやってきたぞフラッシュアデリナ!真っ黒な髪をなびかせて、外から一気にフラッシュアデリナ!ものすごい脚だ!バ群を一気に切り捨てて、今一着でゴールイン!!』

 

『二着はどうやらローズフレイアか。フラッシュアデリナ、やりました!JBCでの無念を晴らす劇的な勝利です!フラッシュアデリナ、これで南部杯CS、そしてチャンピオンズカップと秋のダートG1を2勝!近年稀に見るダート英雄譚は、暮れの大井レース場、東京大賞典へと語り継がれていきます』

 

中央での二大ダートレースの一つ、チャンピオンズカップは彼女が制したらしい。

 

わたしは今アメリカにいて、さっきのレースシーンはURAが公式ホームページにアップしているものを、ノートPCで見ていたのだ。

ホテルで借りたそのノートPCが映し出す動画は、レースのあとのインタビューへとシーンを変えた。

 

『フラッシュアデリナさん、これでダートG1・2勝目ですね。おめでとうございます。今のお気持ちは?』

『ありがとうございます。前回大きなレースを僅差で取り逃がしているので、今回の喜びは大きいですね』

『次の目標レースは当然、年末の東京大賞典だと思いますが、意気込みの程をお聞かせください』

『今回と同じように、全力を尽くすだけです。それから……』

 

彼女はインタビュアーからマイクを譲り受け、視線をカメラの方へ移した。

 

『レアちゃん。あたしは、強くなった。年末、大井レース場で待ってる』

 

力強い視線でそれだけいうと、アデリナはマイクをインタビュアーに返して、さっそうとその場を立ち去っていった。

 

わたしは今年のフェブラリーステークスのあと、海外に遠征したり、日本に帰国してG1に出たり、また海外に遠征したりして、なかなか多忙な日々を送っていた。

 

それでもその間に同室のアデリナとは、帰国したときに一緒に遊びにいったり、海外にいる時もオンラインでお話したりしているうちに、結局いい友だちになってしまったのだ。

 

転校当初、アデリナもわたしに遠慮していたところもあって、何とも言えない妙な距離感があった。

わたしも別に友だちが欲しかったわけじゃないから、それはそれでいいかな、と思っていた。

 

まぁでも、基本的にウマ娘って、わたしも含めて実は寂しがりな娘が多いから、同じ空間で生活している娘と距離を取り続けるのって難しいのよね。

 

もちろん友だちになれたのは、アデリナが社交的な上に付き合いやすいタイプで、とてもいい娘だったから、というのが大きいけれど(あと、彼女のお母様のエイシンフラッシュさんに似て、やっぱり美人さんだ)。

 

しかし当然、レースとなれば友人といえども話は別で、今年の帝王賞では5バ身の差をつけてきっちりとアデリナを叩いてある。

それでもめげずに挑戦状を叩きつけてきたところをみると、彼女の闘争心はまったく折れていないようだった。

 

まったく、なんとも叩きがいのある友人だ。

 

ねぇ、ゲンさん。

あなたの言う通り、わたし、トレセン学園に来て本当に良かったわ。

 

わたしは心のなかでそう囁いて、手首につけているブレスレットに視線を移す。

 

【Breeders' Cup Classic Winner Falcon Rea Trainer Ryoma Sagami・Genjiro Sagami】

 

ブリーダーズカップクラシックを制したウマ娘に贈られるブレスレットには、勝ったウマ娘の名前とそのトレーナーの名前が彫り込まれている。

 

トレーナーのところには、本当は今担当している人の名前だけ刻印されるのだけど……わたしの強い希望で、ゲンさんの名前も入れてもらったのだ。

 

このブレスレットを作る際、わたしが稜真さんに『勝利トレーナーの名前のところにゲンさんの名前も入れたいのだけれども、いいかしら?』と聞くと、人の良い彼は『偉大な伯父と同列に名前が記されるのは恐縮するけど、君がそうしたいのなら、そうしよう』と笑顔で言ってくれた。

 

ブレスレットを作ってくれる職人さんにも、そのことを話した。

陽気な笑顔が素敵なふとっちょの彼は「OKOK!そういうことなら、そいつの名前も入れてやらないとな。そのトレーナーは、幸せものだな!」といって、ゲンさんの名前も入れてくれたのだった。

 

天国にいるゲンさんもきっと、ブリーダーズカップクラシックを勝って【世界一】になったわたしのことを、喜んでくれているに違いない。

 

世界ナンバーワン。

おそらく今のわたしには、そう言って差し支えないぐらいの実力があるだろう。

 

でも、予感がある。

わたしの力は今が最盛期で、この実力を長く維持することはできないだろう。

 

あの調子に乗っていたジュニア時代のある日、ゲンさんが言った一言を思い出す。

 

『お前さんの本質は、早熟のスピードタイプだ。一戦一戦、大事に走れよ』

 

この全盛期は長くて……今年いっぱいか。

それなら。

 

「わたしのラストランは、その東京大賞典かな」

 

大井レース場。

わたしの、始まりの地。

そこで友人との大一番を走る。

 

実を言うと、今いるアメリカで引退を宣言して、そのままここに留学しようかとも考えていたのだけれども……。

 

そういう最後も、悪くない。

 

わたしはそっとノートパソコンを閉じると、そのことをトレーナーに伝えるために部屋をあとにしたのだった。

 




長文読了、本当にお疲れさまでした。

そして、ありがとうございます。

これも書きたい、あのシーンも入れたい……と詰め込んでいったら、
なんと今までで一番長い章になってしまいました。

これはさすがにふたつの話に分けたほうが良いのでは……と思いましたが、
今回はクライマックスのシーンでもありますし、変に章を分けて
話の流れをぶつ切りにするくらいなら、少々長くなっても流れの方を
重視しよう!と思い直して、このまま掲載することにいたしました。

長い話になってしまったものの、自分ではそれほど捨てたものではない
ストーリーになったのではないか、と思っているのですが……。

読んでいただいた方々に、少しでも同じように感じていただけたのなら、
書き手としてそれ以上の喜びはありません。

つい楽しくなってしまい、長々と書いていた【エイシンフラッシュの娘。side story ~ファルコンレア~】も、これが最終話になります。

一度完結させたお話のサイドストーリーにまで付き合ってくださった方々に、
改めて感謝申し上げます。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

今また【メジロの娘。】という、双子のウマ娘を主人公にしたストーリーを
書き始めておりますので、掲載した暁にはまた、目を通していただけると
嬉しいです。

それではまた、近いうちに新作のあとがきでお会いしましょう!
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