【ウマ娘SS】マンハッタンカフェがコーヒーの淹れ方を解説します   作:木下望太郎

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【ウマ娘SS】マンハッタンカフェがコーヒーの淹れ方を解説します(後編)

 

4、ドリップの技術

 さて、ここからはドリップコーヒーの淹れ方についてお話しします。

 

 ――「やれやれ、やっと本題か」「ずいぶん授業の進みが遅いじゃないですか、先生?」

 

 ……逆です。本題なら今までに全部話してしまいました。

 言いましたよね、技術なんてささいな要素だって。授業で最初に話したことも聞いていないなんて、いけない生徒さんですね。

 もちろん、プロの方の技術ともなれば、一線を画す味わいの違いが出てきます。それは確かですが、そこまでの技術を私たち素人が習得することはできないでしょう。

ですから、技術については基本的なことに留めます。

 それよりもすでにお話しした基礎――新鮮な、好みの豆を、挽いて使う――を、覚えていて下さい。それこそが味と香りの大部分を決める重要な要素だと。

 

 ――「なるほど、基礎が大事、ね」「それなら俺も分かるさ、何しろ――」

 ……何しろ。いつも私に言ってくれていますからね。『基礎が全て』『基礎の中に全てがある』『基礎百遍』『基礎を笑う者は基礎に泣く』『基礎無き者に――』

 ――「……なるほど。君の方はどうやら、優秀な生徒らしい」

 ……どうも、先生。

 

 

 さて、最初の方にお話ししました、必要な道具のもう一つ。『ドリッパー』について説明します。

 

 大きく分けて二つの形があります。

『台形のもの』

『円錐形のもの』

 

 ペーパーフィルターもこの二つ、それぞれの形のものがありますので、合うものを使って下さい。

 

 また、台形のドリッパーにはさらに、コーヒーが流れ出ていく底の穴に違いがあり、

『穴が一つのもの』

『穴が三つのもの』

の二種類があります。

 

 違いについて説明していきます。

 『台形で穴一つのもの』これは底の穴が一つしかない分、コーヒーがゆっくりと流れ出ます。そのため、じっくりと抽出されて『苦味とコクが強く』出ます。

 『台形で穴三つのもの』は逆に、素早く抽出されて『酸味とキレが強く』出ます。

 『円錐形のもの』は全体にまんべんなくお湯が行き渡り『バランスが良い味わい』に。喫茶店などで使われるネルドリップ式に近い味わいだとも言われています。

 

 材質についてはプラスチック、金属、陶器などがあり、それぞれ特徴もありますが……そこまで直接に味に関わる要素ではありません。手に入れやすく安価な、プラスチック製でいいと思います。

 

 材質といえば、円錐形のものにはこうしたものもありますね。渦を巻いた針金で作られたような、コーヒーバネットと呼ばれるドリッパーです。

 他のドリッパーと違い、フィルターの外側の大部分が空気と触れるようになっています。抽出時にはそこからガスが抜け、雑味を防いでくれると言われています。他にも、折り畳んでアウトドアに持っていく、という使い方もできますね。

 

 さて、いよいよドリップのやり方です。

 ペーパーフィルターは合わせ目の部分を折り畳み、フィルターに隙間なく合うようにして下さい。台形のフィルターは先に底の合わせ目を折り、次に横の合わせ目を、底を折った方向とは逆に折って下さい。

 これをドリッパーにセットします。

 

 また、この間にお湯を沸かしておきましょう。

 お湯を、ドリッパーにセットしたフィルターの中にかけていきます。こうすることで紙のわずかな臭みを消すことができます。

 また、コーヒーを注ぐカップやコーヒーポットにも少しお湯を入れ、温めておきましょう。もちろんコーヒーを淹れるときには、このお湯は捨てておきます。

 

 次に、コーヒー豆をミルで挽きます。挽き方の色々は、先ほど説明したとおりです。

 挽き終えれば、粉をドリッパーの中に入れます。

粉の量ですが、コーヒーカップ一杯分――約140ミリリットル――コーヒーを淹れる場合、10グラム前後です。専用の『メジャースプーン』があれば便利ですが、なければ『大さじすりきり2杯』や『ティースプーン山盛り3杯』『カレースプーン山盛り1杯』が10グラムの目安になります。粉の量は好みによって調整して下さい。

粉をドリッパーに入れたら、手で横からとんとんと叩いて、均一になるようにしておいて下さい。

 

 そして、お湯を注いでいきます。

 まず注意しておく必要があるのが、お湯の温度です。強く沸騰したばかりのお湯――100度――では、香りが飛んでしまうのでやめておきましょう。

コーヒーを淹れるのに適した温度は90度前後だそうです。

 

 ――「バカバカしい」

 ……何がですか?

 ――「理科の実験じゃあるまいし、いちいち温度計を湯に突っ込むのか?」「それこそタキオンの奴にやらせておけばいい」

 

 ……本当にこだわる方は温度計を使ったり、温度表示機能つきの専用ポットを使うそうですが。そこまでする必要はないでしょう。

 

 目安としては、湯が100度まで沸騰した後火から下ろし、泡が完全に消えたときに約95度、だそうです。やや高めですが、95度から80度ぐらいまでがコーヒーに適した温度だと言えます。温度が高ければ苦味が、低ければ酸味が強く出ます。

 他にも、『コーヒーポット』または『ドリップケトル』という器具もあります。別のやかん等で沸騰させた湯をこちらに移すことで温度が下がり、適温になります。また、こうしたポットは注ぎ口が細くなっているものが多く、コーヒー粉に湯を注ぐ際の加減が非常にやり易くなります。こだわる方なら、ドリッパーやミルの次に持っておきたい道具ですね。

 

 ――「思い出したぞ!」

 ……何ですか?

 ――「『シティーハンター』だ、『シティーハンター』でリョウが、沸騰して10秒きっかりの湯で淹れたコーヒーが一番美味い、って言ってたぞ! 最初の方の単行本で! つまりそういうことだな!」

 

 ……その場合の沸騰という言葉が、どの時点を指すのかよく分かりませんが。小さな泡が立ち始めるのが50度から70度ぐらい、本格的に泡が立ち始めるのが96度以上だそうです。……100度に達する前に火から下ろすことで、95度前後のタイミングでドリップに使うことができる、ということでしょうか……?

 ――「知るか、俺も10秒きっかりの湯で淹れるからな!」

 ……がんばって下さい。

 

 お湯の注ぎ方ですが。最初に、『蒸らし』を行ないます。粉の真ん中からわずかずつお湯を注ぎ、渦を描くようにだんだんと外へ注いでいって下さい。できれば、フィルター部分にはお湯が触れないように。

 

 注意しなくてはいけないのは、このときの湯量は本当にわずかだということです。流し込むお湯は細く、注ぐというよりも粉の上に『置くように』。

 目安としては、コーヒーがドリッパーからまだ染み出さないほどわずかな量です。そこまできっちりやるのは難しいのですが……特に普通のやかんや電気ポットでは。やはり、こだわるならコーヒーポットが欲しいところです。

 

 そうして、20秒から50秒ぐらい待ちます。こうすることで粉がお湯になじみ、よく抽出されるようになります。これは長く蒸らせば苦味が、短ければ酸味が強く出ます。

 

 その後、お湯を注いでいきます。粉の真ん中から注ぎ始め、先ほどと同じように渦を描いて外へ。外側まで行けば、今度は逆に渦を描いて内へ。注ぐ湯量が少しずつだと苦味が、多いと酸味が強く出ます。

 

 注いだお湯が抽出されたら、もう一度同じようにお湯を注いで下さい。このお湯が抽出されれば、完成です。

 少し注意しておく必要があるのが、全てのお湯を完全に抽出させない方が良いということです。最後の方には雑味が出てしまっているので、粉の中にお湯が少しだけ残っている状態でフィルターを捨てると良いです。

 

 紅茶なんかは逆に、最後の方に旨味が強く出るので、最後の一滴まで出した方が良いらしいのですが。……と、タキオンさんが言ってました。

 ――「……信用していいのか?」

 一応調べましたが……だまされてはいないようです。

 

 そういえば、コーヒーの旨味は逆に、一番最初の抽出に強く出ます。なので、複数人分のコーヒーを一つのドリッパーで淹れるとき、カップに直接ドリップすると最初に淹れたカップにだけ旨味が集中してしまいます。

 それを防ぐため、別の大きな器にまとめてドリップした後でカップに注ぎ分けた方が、ムラがなくて良いと思います。

 

 もう一度、ドリップの際の苦みを強く出す方法、酸味を強く出す方法をまとめておきます。

『苦み、コクを強く出す』=『台形で穴一つのドリッパー』『細挽きの粉』『高温の湯(高くて95度まで)』『蒸らしを長く』『湯を細く少しずつ』

 

『酸味、キレを強く出す』=『台形で穴三つのドリッパー』『粗挽きの粉』『やや低温の湯(低くて80度まで)』『蒸らしを短く』『湯を太く多く』

 

 慣れるまではバランスを重視して、その後自分の好みを探して下さい。

 

 

 

 ……長くなってしまいましたが。これでドリップコーヒーの淹れ方について、一般にできることは全てお話ししたはずです。

 他にもエスプレッソ、フレンチプレス……様々な淹れ方がありますが。もう一つだけ紹介しておくと、水出しコーヒーというものがあります。

 専用のポットに粗挽きの豆をセットし、水を張って冷蔵庫で約8時間。つまり夜仕込んでおけば、朝にはアイスコーヒーができているというわけです。

 独特のスッキリした味わいで、夏場には特におすすめです。

 

 

 ――「なるほどな……一つ分かったのは、思ったより長い授業だったってことだ」

 それは……すみません。

 ――「何をやってる」

 え?

 ――「何をやってると聞いてるんだ、いらん時間を取らせるな! 授業の分はいい、だがここからはとっくに練習時間だ! 一秒も無駄にするな、とっとと着替えに走れ! はだしの主婦に追いかけられる魚をくわえたドラ猫のように走っていけ! 命が惜しいならな!」

 ――「グラウンドに着いたらさっさとアップをして、走れ! 時間を取り戻すように、血に飢えた猟犬のように、一面の芝をえぐり取るまで走ってこい! 走れ、走れ、走れ!  ……返事は!」

 ……はい!

 ――「よし行け!!」

 

 

 

 ――「……さて、早速やってみるとするか…とりあえず今日はカフェの道具や豆を借りるとして……まず何だっけ……?」

 ――「……毎日これをやるとして、借りっぱなしじゃ格好がつかんな……買いに行くか、ドリッパーだの電動ミルだの……とりあえず最寄りの自家焙煎カフェはどこだ、検索して……」

 ――「……コーヒーポットがあればもっといいって言ってたっけ……あと何があったら格好がつくんだ、検索を…『コーヒー 道具 プロっぽい』で出るかな……どうかな……」

 

 …………。……。

 ――「うわぁ!? …………何を、しに来た、カフェ。とっとと練習に――」

 ……ちょっと忘れ物を。

 ――「……そうか。…………いつからいた?」

 …………さあ。

 ――「……いつから、いたんだ?」

 ……ふふ。

 ――「…………。」

 ……さ。それじゃ、走ってきますね。

 アナタのお言いつけどおり、血に飢えた猟犬のように。

 その後できっといただきます、温かい飲み物を。雨に濡れた子猫のように、喉を鳴らして。

 

 ……アナタの淹れてくれるコーヒーを、楽しみに待っていますね。

 

 

(了)

 

 

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