その1(第2.5食)
しんしんと雪が降り積もる、氷の世界に俺とキリトは立っていた。凍える手を温めるように息を吹きかける動作を何度か繰り返す。長い時間をかけ歩いてきたためか少しばかり“飽き”が来ていた。
「なぁーまだつかないのか?」
「もう少しだ。」
「えぇー。それさっきも言ってたぞ。」
「お前が来た言っていたんだろ? 少しは我慢してもらうぞ。」
「ふぇーい。」
キリトが先導し後を追う形となっているのはそっちの方が予想外の事態に対応できるからである。当分先になるのかとぼんやり思っているといきなりキリトが止まる。
「キリト...?」
「しっ...来るぞッ!」
どうしたのかと顔を向けると、腰を落とし周囲に警戒を向ける。そして強い号令と共に空から1匹の白い竜が襲いかかってくる。
「久々のボス戦だぁ!」
興奮気味に叫びながら短剣を抜く。最前線とまでは行かなくとも決して二人という少人数で来る場所ではなく、ましてや目の前に存在するボス級モンスターに挑む人数では断じてない。しかし、そんなことは関係ないと言わんばかりにキリトも俺と同じく片手剣を構え、敵を見据える。
「俺が引きつけるから隙を見て攻撃してくれ。」
「了解!任せておけ!」
返事を聞くと同時に飛び出していく背中を追い掛けるように俺も敵モンスター“白龍ゼーファン”に向かって走り出す。
「グルゥォオオオ!!」
「いや、コッチに攻撃してくるのかよッ!?」
タゲを取るべく動いたキリトそっちのけで雄叫びを上げながら鋭い爪を振り下ろしてくる。仕方なしに短剣で受け止めるが、
「(ッ!
重い衝撃ゆえHPバーが僅かに減少する。だが、これくらいならば問題はないと判断し、勢いを殺すことなく受け流すことに成功する。そのまま体勢が崩れたところを狙いソードスキルを叩きこむ。
「おらァッ‼」
繰り出す技は《ファッド・エッジ》。四連撃の突き技で、短剣には珍しい《出血》の効果を付与するお気に入りのソードスキルだ。
「グギャア!?」
《出血》によりダメージを受けた相手は怯み、動きが鈍くなる。そこを狙って更に追撃を加える。
「スイッチッ!!」
「せぇいっ!!」
振り抜いた一撃で相手の体力ゲージが一本消失する。しかしまだまだ白龍は健在で、まだ三本もHPバーが残っている。そこに俺の叫びに合わせてキリトが飛び込み、片手直剣単発突進系ソードスキル《レイジスパイク》を発動させる。その攻撃は見事に命中し、白龍は吹き飛ばされる。
「ナイス!! 流石だぜ!」
俺はそう言いながらポーションを飲み干す。上手く戦いを運べていることに喜びながらも構えを解くことなく、相手の行動に警戒する。
「グルルル……。」
怒り狂ったような声を出しながらも体制を立て直す白龍は空高く舞い上がり、ブレス攻撃を繰り出してくる。それは巨大な竜巻のようにうねりを上げ、俺たちに襲い掛かってくる。
「キリト!!」
「大丈夫、避けれる!!」
キリトはそう叫ぶと、回避するためにその場から離れる。そして、ブレスが過ぎ去った後に現れたのは、氷の礫を撒き散らす範囲攻撃だった。
「うぉっ!?」
俺自身も咄嵯に回避行動に出るが、ほんの少し喰らってしまう。しかし警戒を解かなかったことが幸いし、素早い回避行動を取れたお陰でダメージ自体は軽微で済んでいた。
「危ねぇ……。」
「気をつけろよ。俺はともかくお前は安全マージンそんなに余裕ないだろ?」
白龍からは目を離さずに心配の声を投げかけてくるキリト。その言葉に笑いながら言葉を返す。
「大丈夫だって。それに、いざとなったらお前が助けてくれるだろ?」
「当たり前だろ? 」
「だろ?んじゃ、そろそろ決着付けようぜ。」
「あぁ、そうだな。」
そういって二人同時に飛び込み、ラストアタックを決めるために全力で駆け抜ける。
「せあぁぁぁぁぁ!!!」
「おおおぉぉぉぉ!!!」
互いにスイッチを繰り返しながら次々と斬撃を叩き込む。小回りの効く短剣と火力が高い片手剣による無数の斬撃に堪らず悲鳴をあげるゼーファン。トドメとなる一撃を二人同時に行った為か、芸術のように二つの刃が交差し、同時に白龍の体躯はポリゴンとなって散っていく。その様子を見届けた後、ストレージの中にアイテムが追加されたことを確認される。
「どうだ?」
キリトからの言葉にニヤリと笑みを返す。
「《白龍ゼーファンの霜降肉》ゲット!」
そう言うとキリトも嬉しそうな顔を浮かべる。こうして二人はこの場にいる目的を果たしたのであった。
◆
「さーってと!さっそく調理してい行きますか!」
安全地帯に移動し、さっそく目の前に先程入手したばかりの《白龍ゼーファンの霜降肉》をドロップさせる。鮮やかな赤色を表面に、きめ細かく
「任せたぞシェフ」
「ったりめぇよ!!」
そう言うと俺はインベントリを開き、料理器具を取り出す。と言っても、鍋やフライパン、まな板に小さなコンロ。それに先程まで使っていた短剣とは別の中華包丁のような短剣を取り出した。
「……そういえば、それ魔剣だったな。どんな名称なんだ?」
「これか?
「随分と物騒な名前だな。なんかあるのか?」
「なんとモンスターをキルすればするほど弱くなるというデメリット性能だ。」
座っていたキリトが、持っている友切包丁の効果を聞くと残念そうに肩をすくめる。
「なんだソレ。見たところ、せっかくの魔剣クラスの性能なのにもったいないな。」
「今じゃほれ、この通り俺の専用包丁ってところよ。」
「料理人の手に収まってある意味正しい使い方なのかもしれないな。」
「……そうだな。」
調理を再開する為に道具の準備を進めつつ内心もう一つの効果について考える。
「(救済措置の効果だろうが、プレイヤーをキルすると強くなるとか最悪の効果してるからな……。デスゲームとなった今1番必要とされてない効果だし、わざわざいう必要ないだろう。)」
気を取り直して、手早く調理を進める。まずは、白龍の霜降り肉の表面に軽く塩、胡椒で下味をつけていく。
「良い肉ってのは塩と胡椒だけで旨いもんだ。」
しっかりと肉に下味を馴染ませたらフライパンを準備し過熱させる。降っていた雪が当たるのか“ジュッ!”と音を立てて一瞬で溶けていく。十分に加熱が完了した事を見計らって加熱させたフライパンの上に肉を載せていく。載せた瞬間“ジュウゥッ!!”っといい音を鳴らすため、此方の空きっ腹も加速する。
「(肉を焼くうえで大事なのは回数だ。何回もひっくり返してしまえば味に雑味が出来ちまう。)」
ゆえに、基本肉をひっくり返す回数は一回。それも表面に油が浮いてくるタイミングを見計らっての一回勝負。
「……今だ!」
先程の戦闘より集中しているのではないかといった気迫を見せながら神経を研ぎ澄まし、自身の勘を信じてサッ!っとひっくり返す。するとそこには表面が綺麗に焼き上がった肉が姿を現す。
「おぉ……。」
「すげぇ……。」
お互い、思わず感嘆の声が漏れてしまう。これは間違いなく絶品になるだろう。そう確信できるほどの食欲を唆る見た目だった。そこで一度肉を皿にあげる。
「どうした?」
「肉だけで完成って言いたいところだが、見た目が味気ないのはいただけないと思いましてな。」
そう言って肉汁が残ったフライパンに刻んだ追加でストレージから持参した野菜、きのこ類を投入して炒めていく。
「肉の旨味が残るソースだ。有効活用しないともったいない。」
更に赤ワイン、潰したトマトを追加し、塩で味を調えながら炒めていく。程よく火が通ったら先程の皿に付け合わせとして盛り付けていく。
「『白龍ゼーファンの霜降ステーキ』完成ッ!!」
☆ ★ ☆ ★ ☆
「ほら、出来たぞ。」
そういって目の前に置かれる先程まで戦っていたドラゴンの肉。およそ現実ではお目にかかれないだろう分厚さのソレは、見るもの全てを獣に変えるほど食欲を刺激してくる。
「ほら、ナイフとフォーク。」
「お、サンキュー。」
アイツからナイフとフォークを受け取り、さっそくステーキを切り分けていく。
「(ッ!? 柔らかいッ!?)」
先程まで戦っていた硬いドラゴンの身体の一部とは思えないほどすんなりとナイフが入っていく。分厚いステーキとは思えないほど肉質も柔らかく、さほど苦労せずに一口サイズに切り分けることが出来た。
「(いい匂い……。それにマジで旨そう。)」
口元に近づけると同時に漂ってくる肉の香りと滴る肉汁。口いっぱいに唾液が広がるのを感じながらもう我慢できないと口の中に放り込む。肉自体は驚く程柔らかいのに一口噛むたびに満足感が襲ってくる。
「美っっっ味ッ!!! なんだこれッ!? 滅茶苦茶美味いぞッ!?」
「どれどれ……おおぉぉッ!! これは美味いなッ!? 初めてだわこんなうまい肉ッ!!」
アイツも肉の旨味に気付いたのか表情を変える。その後何かに気付いたようにハッとするとストレージを漁り始める。が、数秒後には悔しそうな顔を浮かべながら食事に戻る。
「……どうかしたのか?」
「俺としたことがライスを持ってくるのを忘れた。」
「あー…。たしかに米が欲しくなるなこれは。」
「ぐぉぉぉ…ッ!!!一生の不覚ッ!! これ程ライスを持ってくるのを忘れたことを後悔したことは無いッ!!」
「うごごっ...。」とアイツは両手で頭を抱えうずくまる。その様子に俺は笑いながらも肉を口に運ぶ手は緩めない。
「ま、無いもんはしゃーねぇー。切り替えていこう。」
「立ち直り早いな。」
「肉の焼き上がりは渾身の出来だったんだ。それで満足するしかないさ。ほれ見てみろこの綺麗なピンク色。上手すぎだろ俺。」
「分かってるよお前が料理上手な事ぐらい。」
「なーんか対応が雑だなぁ? もっと褒めてくれていいんだぞ!」
「はいはい凄い凄い。いいから今は肉を食わせてくれ。」
「肉だけじゃなくて、野菜もしっかり食えよ。美味いんだから。」
「ぐっ…。わかったよ。」
事の発端はコイツの我儘だったが、こうして振り返ってみると悪くないと思いながら残りの野菜たちを口へと運んでいく。料理に舌鼓を打ちつつ、一度は夢見たこともあるドラゴンステーキの再現に満足しながら食事を終えるのであった。
褒めて