プロローグ
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
―――――赤と黒の色合いが施されたローブを羽織る不気味な存在が現れると同時に、プログラムで構成された空が赤黒く染まっていく。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ·····プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
―――――極度の緊張からか視界が歪む。ある者は息を吞み、またある者は茫然と立ち尽くす。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
―――――それは片手に収まるぐらい小さな鏡だった。何の変哲もないソレを理解すると同時に鏡が発光し始める。光が収まり再び鏡に目を落とすと、現実リアルで見慣れた自分の顔が浮かび上がっていた。
『......以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君のー検討を祈る』
―――――強制的にこれが現実だと突きつけられ、どうしようもない焦燥感に駆られる。役目を終えた鏡は呆気なく壊れ、そんな俺を嘲笑うかのように地面が消えたような·····いや、実・際・に・消・失・し・た・床・に一瞬の浮遊感に襲われつつ、重力に従い落ちていく。光が見えなくなるにつれ段々と意識が遠のいていった·····。
「…ん。もう朝か…」
寝惚け眼を擦りつつ湧き上がる欠伸を噛み殺し、ベットから起き上がる。寝巻き姿を変えるために、右手を空中にスライドして、メニュー画面を開く。
「いつもの格好いつもの恰好、っと…。」
ソードアート・オンラインSword Art Online。世界初のVRMMORPG、完全型フルダイブシステムという新システムを導入したゲームが西暦2022年に正式サービスが開始し、世界を震撼させた。ゲームとは思えないグラフィック、サウンド、自由度の高さなどから瞬く間に各店舗で売り切れが続出。手に入れた者は期待で胸を膨らませながら直ぐ様ゲームにダイブしただろう·····が。
「まさかデスゲームになるなんて誰も思ってもみなかっただろ。」
待っていたのは死と隣り合わせの毎日。現実に戻るためには100階層まで上り詰めなければならない。プログラムで組まれた世界で退廃的な毎日を過ごしていく中、第一層が突破されたのがその一ヶ月後だった。僅かに見えた光に皆、徐々に活気を取り戻していった。
「(それにしても……もう2年近くも経つのか……。)」
しかし、時間が過ぎると共にあれだけ必死にクリアをめざしていたプレイヤー達は鳴りを潜め、このゲームを現実として受け入れ始めている。そのせいか、徐々にだが攻略ペースが落ちてきている。その事を何処ぞの黒い剣士様は嘆いておられたが·····
「っとと、そろそろ時間だな」
思考に耽った頭を軽く振り、宿舎である二階から駆け足で降りる。出入り口である扉に向かってアンロック状態にし、それと同時に扉の前に掛かっている《close》と書かれた掛札を裏返し《open》と書かれた方を表にする。
「さーて準備万端。今日も元気に頑張りますか!」
―――――貴方の心の拠所、
ナーヴギアの味覚再生エンジンや匂いに関する情報はあやふやなのでこの作品では存在するという事でお願げぇしますぅ…。