偽りの味だとしても   作:aodama

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急用入って映画見に行けんかった。悲しみ。


第二食 Boiling Crobのブイヤベース

 

某とある日。いつものように店を閉め、後片付けと明日の食材の確認をしていると一つのメッセージが飛んでくる。

 

「(…『今から向かう。』っておいおいこんな時間かよ。)」

 

プログラムで構成された太陽は幾分も前に隠れ、代わりにまん丸な月がこんばんわしているこの時間。ただの客からのメッセージなら明日にしろと一喝できるのだが相手が相手だ。面倒臭がりながらも扉を開けに入口に向かう。

 

「悪い。大丈夫だったか?」

「悪いと思ってるんだったらせめて営業時間中に来てくれよ。」

「すまんすまん。人混みはあまり得意じゃなくてね。」

「…まぁ取り敢えず入れよ、()()()。」

 

扉を開き、目の前に立っていた全身を黒の装備で身を包んでいる男にそう声をかける。彼のプレイヤーネームは“キリト”。上の階層に上がれば上がるほど危険な最前線をソロで攻略するイカレ野郎だ。

 

「で、今回はどんなゲテモノを持ってきたんだ?」

「ゲテモノって…フレーバーテキストにはちゃんとした食材って書かれてるんだぞ?」

「お前がどう答えようが持ってきた食材の面倒臭い工程を処理するのは全部俺だからな?そこん所よーく考えて発言しろ?」

「う゛っ…ま、まぁ今回のは普通だから」

 

そう言ってアイテム欄から取り出したのは人の腕程の大きさを誇る巨大な螯だった。

 

「どれどれ...《Boiling Crabの螯》、か。」

 

物は試しに1つ食べてみることにする。調理器具を手際良く準備しサッと茹でて頬張る。後ろで少し羨ましそうにキリトがこちらを見てくるがこればかりはシェフの特権だから譲る訳にはいかない。

 

「ふむ…。意外としっかりしてるんだな。もっと大味かと思ったけど…。」

「プログラムで構成されてるんだからそんなに味にバリエーションなんて存在しないも思うけど?」

「実はいっぱい有る…いや、正確には再現できるんだが…まぁこの話はまた今度にしよう。」

 

「そういえば」と、シェフとして気になった捕獲地を聞いてみると、どうやら71階層の川で取れたようだ。

 

「川か…さすがに生は怖いな。」

「カニって生で食べれるんじゃないのか?」

「それは淡水ガニじゃなくて塩水ガニの方だな。淡水ガニは肺吸虫っていう寄生虫の宿主になってる場合が殆どだ。だから淡水ガニの生食は危険なんだ。」

 

肺吸虫はカニだけじゃなく淡水に住んでるエビや蛇等にも潜んでいる事も多い。最低限の安全確保のため、火を通す事を推奨されている。

 

「てことはコレは生で食べれないって事なのか。」

「いや、流石に寄生虫までは再現してないだろうから大丈夫だろうが…如何せん忌避感がなぁ。」

「ま、お前だったら何でも美味く調理してくるだろ?」

「今までの会話なんだったんだよ…。」

 

頭を少し悩ませたあと、ひとつの料理を決める。

 

「よし。アレ練習するか。」

 

思い立ったが吉日。直ぐに料理の為の材料を取り出す。今日の素材の余りが幾つか残っており、丁度このままにしておくのは居心地が悪いと思っていたところだ。

 

「まずはスープを作りましょ〜。スープが命の料理ですから〜。」

 

テキパキと鼻歌交じりに下拵えを進めていく。鍋にオリーブオイルを入れ、細かく刻んだ玉ねぎを炒めていく。

 

「にしても、玉葱とトマトはまーじで万能食材。こいつら無いと始まらないからな。」

 

個人的に玉葱とトマトは料理においてなくてはならない存在だと思っている。というか必須過ぎて食材というより調味料に近いのでは?

 

「程よく飴色になったらニンニク、トマト、人参も潰して炒めていきましょーねー。」

 

そうして完成したスープのベースとなる野菜たちを炒めたソースを、一度アイテム欄に移し、新たに白身魚を焼いていく。

 

「…なんかいい匂いがしてきた。」

「あぁ。一度火を通すことで魚介系の香ばしさを引き立てるんだ。勿論、お前の持ってきた《Boiling Crabの螯》も使うぞ。」

 

本当だったらカニだけじゃなくて海老も使うんだが丁度切らしているため、カニだけで我慢。まぁ、今回の主役がカニだから海老も追加は些か野暮ってもんだ。

 

「此処でさっき作った野菜のソースベースと焼き上げた魚介系をマリネしていくぞ〜。」

「マリネ?」

「マリネ。要は組み合わせだな。酢やレモン汁に浸す調理法の事だが…他にも素材に風味をつけたり、柔らかくしたりする目的の下ごしらえであるっつーまぁ専門用語だな。うん。」

「へぇー。」

 

そうして食材同士を馴染ませるために一度アイテム欄に戻す。本来なら1、2時間程馴染ませるのだが流石にそこはカット。5分程度で出来るようにスキルでセットしていく。

 

「その間にルイユでも作るか。」

 

ソース・ルイユ。今から作る料理には欠かせないものであり、これが無いと全体的に味が締まらないのである。

 

「(まぁ、ぶっちゃけなくても出来るけどソレは別の料理として認識してるからなぁ)」

 

ましてや、曲がりなりにも料理人名乗っておいてこれを作らないのはどうかと思う。

 

「えっと…確かジャガイモを裏漉しして、ニンニク、唐辛子、卵黄、オリーブオイルを混ぜ合わせるんだったよな…?」

 

うーん。工程が多いなぁ(歓喜)

 

「刻んだニンニク、唐辛子を裏漉ししたじゃがいもと混ぜてそこに卵黄も加える。後はオリーブオイルを少しずつ加えながら混ぜる、と…。」

 

全体がなめらかに混ぜ合わさったら完成。

 

「…っと。そろそろ五分経つな。」

 

次に、先程馴染ませておいた食材たちを一度フライパンに移して焼いていく。先ずは日が通りにくい白身魚を火に通しながらソースベースと水を加え、伸ばしていく。

 

「(香り付けにはコニャックとペルノ…うん、ある訳ねぇ。)」

 

どちらとも所謂、料理酒の様なものなのだがそんなものはこのアインクラッドには存在しない。する訳が無い。

 

「ハーブだけで何とか誤魔化せないか…? いや、誤魔化されろ。」

 

ハーブを一通り加えたあと、残っていた《Boiling Crabの螯》や余っていたムール貝等も一緒に煮込んでいく。

 

「最後に、黒パンを付け加えれば…。ほい、『Boiling Crabのブイヤベース』完成!」

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

テーブルに誘導され、待っているとアイツが料理を運んでくる。目の前に置かれたスープには俺が持ってきたBoiling Crabがこれでもかと言うほど使われており、具材の山を築き上げている。その光景に腹の虫が早く食わせろと主張をし始める。

 

「もう食べて良いのか?」

「どうぞ。召し上がれ。」

「いただきます!」

 

先ずは気になっていたスープを運ぶ。濃厚な魚魚介類の風味が口いっぱいに広がり二口目を身体が求める。

 

「…美味い。」

 

思わず漏れ出た言葉にアイツはニコニコしながらこちらを見てくる。が、そんなこと気にもとめずに夢中で食べる。

 

「(今度は具材も一緒に…。)」

 

弾力がありそうなムール貝と白身魚を一緒に頬張る。そうして広がる白身坂特有の旨みと脂、ムール貝の風味が口の中を刺激する。堪らず置いてあった黒パンを口いっぱいに頬張り思わず喉に詰まらせてしまう。

 

「ん、んぐっ!?」

「そんな勢いよくがっつくからだ。ほら、水。」

 

アイツが差し出した水をひったくるような勢いで貰い、一気に飲み干す。一息つけた後に今度はスープ中央に存在感を示す巨大な螯に目をつける。

 

「(凄いな…。)」

 

人の腕ほどある大きさだ。殻を剥くだけでも一苦労だ。出来たてでまだ湯気が出ているソレを口いっぱいに頬張る。噛む度に現実世界では味わえないようなカニの旨みが口いっぱいに広がり、幸福感でいっぱいになる。

 

「ほれ、コレ(ルイユ)もお好みで使え。入れすぎると味がそれ一色になるから気をつけろよ。」

 

そう言って先程作っていたソースを渡してくる。アドバイス通り少しだけ入れて改めて口に入れる。すると、先程まではなかった辛味が追加されまた違った刺激を与えてくれる。

 

「美味いな。 違う味が楽しめるのも凄い。」

 

辛みでじんわりと身体が火照っていたところで重装備を外し、ラフな格好に着替える。そんな俺の仕草に意地の悪い笑みを浮かべてくる。

 

「やっと外したかおめー。飯時だってのに暑苦しい格好を脱がねぇんだから。」

「別にいいだろ。この服装が気に入ってんだから。」

「はいはい。言い訳は食べ終えてから聞くからさっさと食え。」

 

そう言いながらアイツは手に持っていた黒パンをスープに浸し口に運ぶ。少し下品な食べ方だがパンから滴る濃厚なスープに興味を引かれ、真似して同じようにスープに黒パンを浸して口に運ぶ。

 

「ッ!! 美味い!!」

 

どこにでも売っている固い黒パンがスープを吸ったおかげでふんわりと柔らかくなり、噛む度に濃厚なスープがパンから溢れ出る。その面白い食感を楽しみながら腹に溜まる重量感。全てに満足して黒パンとスープが無くなるまで続ける。

 

「ふぅ…。ご馳走様でした。」

「お粗末様でした。どうだ? 美味かったか?」

「あぁ。相変わらずいい腕してるぜ。ハーブが効いてたお陰か魚の生臭さなんて微塵も感じなかったよ。」

「…逃げのハーブだったからそこはノーコメント。」

 

料理人としてのプライドに障ってしまったのか、唸っている姿に苦笑しながら席を立つ。

 

「さて、そろそろ行くよ。お代は…」

「食材持ち込みだし、今度クエスト付き合ってくれるだけで良いよ。」

「…あんまり面倒臭いのは御免だぞ。」

「白竜ゼーファン」

「え゛?」

「アイツのステーキまだ試してなかったんだよね〜。」

「……前向きに検討しておきます。」

 

まるで子供が物を強請るかのように頼み込んでくる仕草をアイツは見せる。お代はいいと言われた手前断りずらく、これ以上面倒臭いリクエストをされる前にとっとと退散することを決意する。

 

「これからレベリングか?」

「あぁ。最前線走るためには気を抜いていられる時間の方が少ないからな。」

「だと思った。そう言うと思って軽くだけど料理にバフ掛けといたから感謝しな。」

 

そう言われ、ステータス欄を確認すると『防御力up(小)』に『幸運up(小)』が付与されており、あと半日は恩恵を受けれることが分かっていた。

 

「いつの間に……。ありがとうな。」

「おう、気をつけて行ってこいよ。」

「お前もな。」

「あいよー。」

 

アイツは手をひらひらとさせ、こちらを見送ってくれる。そんなアイツの店を出た後、転移門へと歩き出した。

 

 




今更だけど飯テロ小説初めて書くからおかしい点いっぱいあると思うけど許してクレメンス。
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