偽りの味だとしても   作:aodama

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ストック切れたのでこれから不定期更新になります。モチベも死んでるので次いつ出せるか分かりませぬ。


第四食 Big horn Billy goatのラムチョップ

突然だが、espoir(エスポワール)を経営する上で必要な物というのは多岐にわたる。その中で最も欠かせない存在といえば、やはり料理に使う食材だろう。《特級厨師》スキルのおかげで物珍しいモンスターやボスモンスター等から食材が落ちるようになったとはいえ、ボスばかりを狩りに行くのは危険度込みで非常に効率が悪い。では普段はどうしているのか? 答えは簡単で“仕入れ”である。

 

では一体どこから食材を仕入れているのか。NPCの店では買えるには買えるが利益が出ない。となると必然的にプレイヤーの中で『商人』スキルを持っている人物との交易が必須となってくる。しかしプレイヤーの中で『商人』などという使いどころが限られているスキルを取っており、なお且つ利益もあまり出せてないウチの店と商売してくれる物好きな商人など居る訳が……

 

「邪魔するぞ。」

 

居た。

 

「いらっしゃい。エギルさん。」

 

店に現れたのは180cm近い上背の筋骨逞しい体躯に鮮やかな黒い肌、禿頭・髭面という物々しいルックスを備えた青年、エギルだった。席まで案内し水を差し出すと口をつけ喉を潤した後、世間話を始める。

 

「どうだそっちは?最近繁盛してるか?」

「いやー相変わらず閑古鳥が隣人ですわ。」

「ったく…。お前さんも一応《商人》の端くれなんだからそこら辺はちゃんとしとけよ。」

「ははーエギルさんにはお世話になりっぱなしですよ。いィよ! 色男!」

「そんなこと言ったって(びた)一文まけねぇから。」

「チッ。駄目か。」

 

ひとしきり談笑したのち本題に入る。エギルさんからアイテム売買のメッセージが飛んできており《YES》と返す。渡されたアイテムを出現させ確認すると、麻袋の中には大量の野菜類が入っており明らかに店で直接買うより安い値段である事が伺える。

 

「なぁエギルさん。毎度のこと思うんだが一体何処から野菜仕入れてるんだ?明らかに店から仕入れるより安いんだが?」

「そいつァ企業秘密だ。いい男には秘密は付き物だろ?」

「えーケチ。」

「ケチってお前…子供じゃあるめえし」

 

懐に食材をしまい込み、“仕入れ”を終える。チラリと時計を見てみると丁度十二時を回っており、どうせなら昼食でもどうかと提案する。

 

「嗚呼。その事についてなんだが俺から提案がある。」

「提案?」

 

そう言ってエギルさんは新たな食材をアイテム欄から取り出し、それを俺の目の前に置きどうだと言わんばかりの顔をしてくる。

 

「へぇー良いラム肉じゃないスか。それもモンスター産の。」

「《Big horn Billy goat》っていう六階層に生息するモンスターだ。比較的簡単に取れるうえにA級食材という初心者のコル稼ぎに丁度良いのが特徴さ。」

 

「だが」と、いったん言葉を区切るとエギルさんは追加の情報を投げる。

 

「あくまで初心者にとって丁度いいのであって中堅以上のプレイヤーには無用の長物さ。それにA級食材とは名ばかりのじゃじゃ馬でな? 料理スキルを齧ってる程度の熟練度じゃあせいぜい《焦げた肉》がゲットできる程度だ。」

「……で、この肉を俺にどうしろと?」

「なぁーに話は簡単だ。この食材を使って料理をしてくれ。その出来次第では野菜の“仕入れ”に関する秘密を教えてやってもいい。」

「もし失敗したら?」

「別に何もねぇよ。ただ()()()()だったってだけの話だ。」

 

見え透いた挑発だった。しかしエギルさんが挑発など珍しいことをするもんだと思いその手に乗ってみることにする。

 

「いいでしょう。やってやりますよ!」

「おう。楽しみにしてるぜ。」

 

さっそく料理を始めるために着替えを行い、準備に取り掛かる。購入したばかりの野菜から必要な物だけを取り出していき、皮をむき下茹でを始める。茹で時間によって出来た合間をラム肉の下処理に使う事が出来るので、さっそく取り掛かる。

 

「(まずはラム肉の両面に塩胡椒を軽く振りかけよく馴染ませるて…そこに臭み消し用のローズマリーとニンニクを入れた袋を用意、と。)」

 

その袋の中にラム肉とオリーブオイルを合わせ、しっかりと揉み解し10分ほど寝かせる。

 

「っと、丁度茹で上がったな。」

 

ラム肉の下処理が完了したため、今度は茹でていた野菜の調理を始める。一口サイズに切った人参を小鍋に入れ、コンソメ、バターを追加し、水に浸るくらい入れる。強火で煮立たせた後、蓋をして5分ほど煮続ける。

 

「味をつけてる間にもう一つも作っちゃうか。」

 

茹でていたジャガイモを取り出し熱を持っているうちに裏ごしを行う。裏ごしが終わったら鍋に入れ生クリーム、牛乳を加え、弱火にかける。もっさりしてきたらそこにバターを加えへらで混ぜ合わせ、最後に塩コショウで味を整えマッシュポテトを完成させる。

 

「こっちは……うん。ちゃんと味がついてるな。」

 

先程煮ていた人参に強火で照りを出したらほんの少し塩胡椒を加え付け合わせの人参も完成させる。

 

「じゃあ…メインディッシュに取り掛かりますか!」

 

下処理を終えているため残りの工程は比較的楽な部類だ。フライパンが十分に温まっているのを確認した後にラム肉を乗せていく。“ジュウッ!!”と肉の焼ける音と匂いを漂わせ綺麗な焼き色を見せるラム肉に追加のオリーブオイルを軽く振りかける。一緒に焼いているニンニクの色が変わったらラム肉をひっくり返し、片面と同じく焼き色を付けていく。両面に綺麗な焼き色が付いたら一度取り出してアルミホイルに移す。

 

「余熱を使って、と…。少々レアの方が旨いからな。」

 

こうして焼き上げたラム肉に付け合わせの人参とマッシュポテトを載せ、料理を完成させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。『Big horn Billy goatのラムチョップ』です。」

 

真剣な表情をしながらアイツが出してきたのは見た目こそ普通のラムチョップ。だが、

 

「(おいおい…こりゃァ…。)」

 

匂いが明らかに違った。調味料によるスパイスが効いた匂いに加え、ラム本来の濃厚な肉の香りに思わず唾を飲み込む。

 

「へっ……こいつァ予想以上だぞ?」

「ふふん。どうですか? エギルさん。」

「ああ。美味そうだ。」

 

さっそくナイフで切り分けフォークで刺すとその柔らかさに驚く。そのまま口に運ぶとまず最初に感じたのは脂の甘さだ。牛や鳥、豚とも違うラム肉しか持っていない脂の甘みに舌鼓を打ちながらラム肉が持つ独特な匂いも堪能する。

その次にやってくるのは肉本来の旨味、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出し口の中が幸せで満たされる。

 

「うめぇ……。こいつは最高だな。」

「そいつは良かった。挑発に乗った甲斐があったってもんだ。」

 

いつの間にかアイツがにしし、とはにかみながら隣まで近づいてくる。自分でも少し“らしく”ない挑発だったと若干恥ずかしくなる。そんな気持ちを切り替えるべく新たに注文をする。

 

「なぁ。そういえば黒パンはないのか?」

「あるぞ。」

 

「ほい」と皿に載った黒パンを手に取り少し眺め食らいつく。普段ならぼそぼそとした味気ない物だがラムチョップと食べる事によって、口の中で肉の脂と合わさり最高の味わいへと変わる。小麦の味が強く出るものの決して邪魔になることはない。むしろ味を引き立てる役割となっている。

 

「うっま……。」

 

次に手をつけたのは付け合せの野菜たちだ。ソテーされた人参は程よい甘味を持ち、ジャガイモには肉の脂を洗い流すような爽やかな風味がある。特にこのマッシュポテトはヤバかった。何がって、肉の味を殺さない程度に加えられた塩胡椒が良いアクセントになっている。口の中をサッパリとさせたと思ったらもう一度肉に齧りつきたくなる衝動に駆られる。

 

「あぐ、んむ。...ふぅ。」

 

出来たてを食べているせいか身体が熱を持ち始める。その熱を逃がそうと身に付けていた軽装備を流れるような動作で外していく。そうして一息ついたら再び肉を口に運ぶ。黙々と食事を続けているとふとアイツが質問を投げかけてくる。

 

「そういやエギルさんっていつもどんな食事してるんだ?」

「基本はNPCの店売り品だ。後はクエスト報酬で貰える果物、それと店で買ってきた酒。」

「……ということはそれって毎日同じメニュー?」

「あぁー……一応毎回違うんだがどうしても似た様な料理ばかりになっちまってな。料理スキルこそ取っちゃいるが所詮飾りだ。」

「……わかった。さてはちゃんとした料理食いたくて持ってきたな。」

「はははっ。バレたか。」

 

久々にちゃんとした飯を食いたかった事を見抜かれてしまいジト目で射抜いてくる。そんなアイツの様子に肩を竦めながら約束のメッセージを飛ばす。

 

「...これは?」

「“鼠のアルゴ”。お前さんも聞いた事ぐらいはあるだろ? アインクラッド一の情報屋だ。話はつけてある。此処の場所を教えておいたからもうすぐで着くはずだ。」

「えーエギルさんが教えてくれるって約束だったじゃん。」

「教えるとは言ったが俺が教えるとは一言も言ってない。」

「屁理屈がすぎる...。」

「ははっ! まァ、アイツの事だ。新しい情報も追加で教えてくれるかもしれんぞ?」

「情報屋がタダで情報渡すわけないだろ...。」

 

ぶつくさ文句を言いながら心底面倒くさそうにメッセージを確認中のアイツを横に、俺はテーブルの上に残っていた最後のラムチョップをじっと見つめる。そしてそのまま口の中に入れ、噛み砕く。

 

「何度食べてもうめぇな……。」

 

先程食べた味を思い出し、自然と笑みがこぼれる。初めて出会った時は見るに堪えないほど絶望した姿をしていたアイツが今ではイキイキとしている。『料理』スキルや『商人』スキルの存在を教えたり、ある程度手助けはしていたがまさかここまで成長し、立ち直るとは思わなかった。

 

「じゃ、後は当人同士で何とかしな。俺は帰る。」

「おーう。また来いよー。」

「気が向いたらな。」

 

席から立ち上がってそれだけ言い残し、店の扉を押し開け外に出ていく。外は昼過ぎということもあり通りは人で溢れかえっていた。

 

「……ふぅー。」

 

空に向かって大きく息を吐き出す。それはため息ではなく、どこか心地よい感覚を覚えるものであった。そんな爽やかな感情を抱きつつ、ゆっくりと自分の店へと歩みを進めるのであった。

 

 




卒論もやらなきゃいけないから滅茶苦茶辛いですわ〜。
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