※時期は三日目のみ
【悪夢は未だ収まらず】※めぐねえ視点
少し前ならこんなに警戒せずに寝ることが出来た夜、それが今では少しの物音にすら神経を尖らせなければならない物になってしまった。
灯りすら付けられない暗闇を相手に警戒し続ける。想像以上に精神に来ることだけど、それは子どもたちがやる必要はないと大人である私と琴音で担当している。今日は少しだけ胡桃さんに任せてしまったけど
「……ふぅ」
だが見張りだけでは少々心許ないと思う部分も無くはない。出来るなら二人一組で見回りとか、だけどそれをしようとすれば胡桃さん達に頼むことになってしまう。
彼女らなら頼めば協力してくれるだろう、だけど……
「うっ、あぁ……な……い」
「っ!?」
突如、耳に届いた音にシャベルを握り警戒体制に入る。今の呻き声みたいなのはどこから、中央階段ではない、となれば左右の奥?
それにしては距離が近かったような、もっと言えば【かれら】が近付いたと考えたとして、こんなにはっきり聴こえるならバリケードを揺らす音だって聴こえてもおかしくないはず。
もう一度、集中して耳を澄ませる。もしかしたら階段を登ろうとしてて、その呻き声を拾ったのかもと
「ごめ……さい、あ……うぇ……」
澄ませた耳が拾った声は、生徒会室からだった。呻き声と思ったものは謝罪と苦しむ人の声、誰の?なんて疑問に思うまでもない、今部屋に居るのは一人しか居ないから。
そっと、扉を開き様子を伺えば琴音が魘されていた。詳しくはまだ聞いてないけど、悪夢を見てるのは明らかな様子に普段を知ってるからなおのこと胸が痛くなる。
声をかけてあげるべきか、なんて少し迷ったが彼女が跳ねるように起きたことで無駄となる。とりあえず汗だくの琴音に部屋に入り置いてあったタオルとペットボトルに入れた水を渡しながら
「かなり心配になるくらい酷く魘されてたわよ」
「それは、情けないところを見られたな……」
苦笑しながら返してきた言葉に額に手を当ててため息を吐く、情けないなんて誰が言うのかと。
言えるはずないじゃない、貴女はこんなにボロボロになるまで子供たちのために立ち続けてるのに、どうしてそんなことを思えるのよ。
「って、琴音?」
「バトンタッチ、寝てていいよ、あとは私が見てるから」
「何言ってるの、もう少し寝てて、今だって対して寝れてなかったのでしょ?」
時計を見て、寝れたとしても四時間、それじゃ体が持たないと伝えるも、彼女は手を軽く振りながら自身のシャベルを片手に生徒会室を出ていってしまった。
もう寝れないから、という事なのだとは思うが、だけど私だけでは彼女を止める事が出来ない、良くも悪くも互いを知りすぎている……
(何とか、出来ないかしら)
閉められた扉を見つめ、私は息を吐き出し仕方が無いからと寝る時の服装になり寝袋に入る。結局そこまで寝れずに頭を悩ますことになるのだけどね。
__________________________________________
システムメッセージ
【来ヶ谷 琴音】の正気度が減少しました。
__________________________________________
【ウキウキ、りーさん】※くるみ姉貴視点
ものっすごく苦労の末に確保した一階倉庫の物資。正直、あんなに奴らが居てワラワラと現れる光景は冗談抜きでトラウマになりそうになった。
そんな乱戦の中、琴音先生は臆せずに前に出て、あの数をシャベルとネイルハンマーで薙ぎ倒してたのは感動すら覚えた。なんか動きも数が少ないのを相手にするのとは別の感じだったから、あれが先生の本気ってやつなんだと思う。
「コレはハーブソルトで、これはゲランド、こっちは黒胡椒に白胡椒。えっと、果糖に白双糖、豆板醤と甜麺醤に五斗味噌まで。凄いわ、ここの食堂、こんなに調味料が揃ってたなんて知らなかった」
ともかく、その激闘の末に倉庫を制圧、変に厳選せずに食糧とか調味料とかを適当に詰め込んで持ち帰ったのだが、その戦利品を見て一番楽しげにしてるのはりーさんだ。
なんか、もう、見てるだけでウキウキしてますってのがよく分かるし、誰に聞かせてるつもりもないのだろうけど呪文みたいに調味料を手に取っては名前を言って棚に並べていく。そんな様子をあたしの隣で同じように見てた琴音先生が
「なぁ慈、悠里が言ってた調味料、分かるのあったか。いや、塩とか胡椒とかは分かるぞ?」
「一応ね……それにしてもこんなに世界各国の調味料が揃ってたのね、他には何かあったか覚えてる?」
とは言ってもなぁ、あとは缶詰、そういや缶詰も妙に種類があったな。ゆきが見つけた箱に入ってるものも考えるとまた倉庫に行くのも十分にありだと思う。
「あ~、もしかすると嗜好品とかもあったかもなぁ、コーヒーも今はあるけど何時までもってわけじゃないから」
「そうね、眠気覚ましとかでも使えるから余裕は欲しいとは思うわ」
「ん~、そう言えば紅茶の缶を見た気がする」
「見た気がするってことはあれか、カレーの材料が詰まったダンボールに負けたということだな、由紀よ」
思いっきり目を逸らしたということはそういうことなのだろう。まぁ結果として今日はカレーを食べれるのであたしは何も言わない、でもコーヒーは欲しいかもな。
にしてもこんな会話が出るってことは今は余裕があるってことなんだよな。まぁ大事だよな、こういうのって。それはそれとして、りーさんのウキウキっぷりがヤバい。
「ここまで色々揃ってるとお菓子とかも作りたくなるけど、材料が……ねぇ、倉庫には小麦粉とかの材料はなかったの?」
「へ?あ~、どうだったかな、あの時はあたしらも結構、疲れてたから適当に見繕っただけだし」
お菓子を作る気まであるとか、相当だな。でもな~、言われるとケーキとか食べたくなると言えばなる、今の状況だと思いっきり贅沢品ってやつになっちまったよなぁ。
「でもあるんじゃないか?明日とかまた見に行ってみよう、小学校から持ってきたお菓子はもう瑠璃のお腹の中だしな」
気付けば、ゆきと二人で食べてたからな、まぁあたしらもちゃんと貰えたけど、本当に早かった。
でももしあるなら、取りに行くのも吝かではないってやつだ、甘いのが食べれるのに文句はないし、うん
「んじゃ、明日の朝とか見に行ってみるか、琴音先生」
「そうだな、あ~、悠里も着いてくるか?その方が材料が分かるし」
確かにそうだ、あたしらにはとてもじゃないがお菓子で使う材料とかは分からない、りーさんには来てもらわないと困る。懸念があるとすれば今日みたいな数の奴らが居た場合だが
「え、じゃあ、着いていきますね。ふふっ、るーちゃん、明日はもしかしたら甘いのが食べれるかもしれないわよ」
「ほんと!?やったー!」
るーちゃんの顔を見てたら気張るかってなるもんだ。
__________________________________________
システムメッセージ
【学園生活部】の士気が向上しました
__________________________________________
【ラジオが拾う、人の気配】※チョーカーさん視点
今朝、来ヶ谷先生がラジオを弄って、どこかの誰かが流してるクラシックを受信した。つまりは学校の外にも生きてる人が居るかもしれないってこと。
勿論コレが希望的観測に過ぎないかもしれないってのは理解してる、けどそれで切り捨てたくはなかった。だからちょっと私も来ヶ谷先生から許可を貰って、先生が持ってきた妙に高性能なラジオを弄るのだが
「……ノイズ、だな」
「ノイズだね~」
はぁ、と大きなため息を吐き出してしまう。あのクラシックを流している所はまだ繋がるのだが、それ以外となると全く成果が上がらない。
そもそもこの音楽を流してる場所も実は無人で、なんかこう機械的に自動で流してるだけなんじゃとか思い始めてしまう、それくらいにラジオはノイズしか流さない。
「やっぱ、そういうことなんかね」
「諦めちゃ駄目だよ、たかちゃん!うん、諦めたら、駄目だよ」
「由紀、いや、そうだな、もう少し……ん?」
《n……きい、ワン……ほ……》
拾った! その事実に思わず叫びそうになるのを堪えて、メモリを少しずつ、合わせるように弄っていけば次第に鮮明に聞こえ始め、そして
《いやぁ、気付けば世界の終わりみたいな状況になってて驚きだよねぇ、でもこんな時こそ騒がしく、ゴキゲンなナンバーいってみようー!》
「たかちゃん、これって!」
「あぁ、ああ、外にまだ生きてる人間は居る。と、とにかく先生たちを呼んできて!」
ラジャーといつもの彼女らしい返事をしてから生徒会室を出ていくのを見送り、私はそのラジオ【巡ヶ丘ワンワンワン放送局】から流れる音楽と女性の声に集中する。
純粋に嬉しかった、知ってる声以外の声が聴こえることがこんなに嬉しいとはと思うくらいに。その後、由紀から話を聞いた佐倉先生と来ヶ谷先生、いや、全員だな、とにかく集まりこの放送を聞いて
「聞いてる限りだと、一人か?」
「一人っきりでこのテンション、いや、空元気、なのかも」
「そんな感じがするわね。この周波数をメモしておきましょう、今後も流れるならもしかしたら住所とか言ってくれるかもしれない」
佐倉先生の言葉の意味を考えるまでもなかった、助けるつもりなんだと。勿論私も賛成だ、この世界で孤独ってのは耐えられない。
それを身を以て知ってるからこそ、孤独で、それでも陽気な感じにDJをしてるこの人を助けたいし会ってみたいと思った、だから願う
(頼むから、死なないでくれ)
奇跡が死んだ世界かも知れないが、それでも私は願わずにはいられなかった。
__________________________________________
システムメッセージ
ワンワンワン放送局の周波数を記録しました
__________________________________________
折角なのでちょっと思い切ったことをやろうと思うの。