※全編りーさん視点です
ヘリの墜落から発生した火災から逃れるために、この地下の避難所に皆で籠もってて、でも不思議と息苦しいとかは感じなかった。
多分、皆が居てくれてこの状況でも後ろ向きな雰囲気でもないのが大きいのだと思う。今も話の話題は今後のこと、皆がみんな、今日の火災で高校の発電機能などが沈黙して、ここでの生活がほぼ不可能になったのを理解してるから、自然と次の避難場所の話題となり、そこから何時だったかの進路の話に繋がったのを私は琴音さんの火傷の処置をしながら聞いていた。
「進学か、就職か……」
「え、まだ悩んでたのか由紀!?」
「でも実際、どうするかは今考えておくべきだよなぁとは思う。キャンピングカーで生活だってのも限界あるから腰を据えられる場所は必要だろ?」
次の避難場所とするなら大学に向かうのが一番よね。確か前に読んだパンフレットにはここと同じくらいの設備があるって書いてあったような気がする。
不安要素があるとしたら私達が突然押しかけて、向こうが歓迎してくれるかどうか、あまり希望的観測で物事を考えないほうが良いわよね。
「(向こうだって、決して余裕があるとは思えないものってあまりこれは一人で考え込まないほうが良いわね)琴音さんは今後のことはどう考えてますか?……琴音さん?」
「待て……待てだからな、あ、ちょ、待てって言ってるあぁ~」
処置が終わったので動いてもいいとは言いましたけど何してるんだろうかこの人は……いや、太郎丸に待てをさせようとしてて結局失敗したというのは理解できるのだけれど、今この状況でやるべきことなのそれはと思わず口元がピクッと動いてしまったのは悪くないだろう。
もしかしてあまりそういうのを考えてない?とも思ったが、この人に限ってそれはないだろうと首を振ってから改めて
「琴音さん?」
「ん、どうした悠里」
「今後のことはどう考えてますかと思って」
これだけであの人は意味を汲み取ってくれるのでふむと考えて、大体一分くらいしてから真剣だけど、柔らかい感じの表情で
「胡桃の言うようにキャンピングカーで何処までもは難しいからな。ともすれば大学に向かうのが現状だと取れる選択じゃないかな」
「そうね、何時だったか琴音とは話したけど懸念があるとしたら向こうが断ってくる可能性……最低でも部屋とかを間借りさせてもらうだけでも良いのだけれど」
「こればっかりは行かないと分からないのがね。まぁ、あまり心配しててもあれだし、あの大学無駄にデカいからそれくらいなら大丈夫じゃない?」
あ、犬山さんは確か大学を出てたって言ってたけど、もしかして聖イシドロス大学だったのかしら? 敷地の話もしてるってことは恐らくそうなのだろうとは思うけど。
聖イシドロス大学か、平和な時は少しは興味があったけれど、今はそこまで魅力を感じない、と言うよりも皆が安心できる拠点の一つ程度の考えになってるのかも。
「大学、進学だね!じゃあ、明日にはここを卒業って事になるのかな?」
「まぁ、卒業っちゃ、卒業か?美紀と圭は……どうなるんだ?」
「結局その話は前にも出て結論は出なくて」
「卒業ってことでいいじゃない? 進級も何も無いんだし」
ふふ、由紀さんの日常を忘れないって心意気はこういう時に本当に助かるわ。でもこんな形で卒業ってなるのに少しだけ悲しいという感情を抱いてしまう。
もし、こんな事が起きなければこの卒業も大切な思い出の一つになったかもしれないのにと。
「りーねえ、『だいがく』ってすごい所?」
「え、あぁ、そうね。沢山勉強して、それで初めて入学できる所よ。でもるーちゃんならお勉強をきちんとしたら行けるようになるわ」
こういう所は琴音さんと変わらないけど、るーちゃんは頭も良いしちゃんと勉強を続けたら大学なんて通えるくらいになると思うのよね。
でもそう考えたら大学に行って、そこの教本とかで勉強できるのはいい体験かもしれない。
「由紀、試験受けて通るか?」
「げ、現代国文以外だったら……!」
「勉強は、人のこと言えねぇんだよなぁ」
「では大学に向かう途中でも授業は継続しましょうね」
あらあら、由紀さんが固まっちゃったわ。それからもこんな感じの話で盛り上がり、将来の夢なんかも話題に出たりして、そこで驚いたのは胡桃さんが医師を目指そうかなと言ったことだろうか。
琴音さんも犬山さんも、佐倉先生も同じ表情をしててちょっと笑ってしまったのは秘密だけど。
「んだよ皆してそんな表情してさ」
「正直に言うと、胡桃先輩が医師をというのがすごく意外で」
「む、これでも陸上部してる時にはスポーツ医療とかは気になってたし、それにあれだ、ことねえっていう無茶の権化を見てたらいざって時に治せる人間が必要じゃないかって思ってさ」
「良かったわね、琴音。貴女の行動で一人の生徒が将来を真剣に考えて答えを出してくれたわよ」
「褒めるな褒めるな」
褒められてはないと思いますよ、琴音さん。でも将来、琴音さんが孤児院を開くって言うなら私はそれの手伝いに入りたい。けど同時に思うのは、きっとその時には世界は平和になって立て直す組織ができるだろうという考え。
そこで働くのも悪くないかもしれないと。そう思ったのは多分、琴音さんとるーちゃんと太郎丸が出たワンワンワン放送局の時の会話。きっとその時になっても取り残される子供たちは居る、その子達に手を差し伸べてあげたいと言うのが理由。
きっと、孤児院を琴音さんが開いたら、あの人は救いたくても救えない現実に悩んでしまうかもしれない、だから私が変わりに救える命を救いたいと、つまりは今はまだ悩んでるということだ。
「まだ焦って決める必要はない、かしらね?」
「りーねえ?」
「るーちゃんも、これから沢山考えて、学んで、それで将来何がしたいかを決めるんですよ?」
「わたし、ことねせんせーのお手伝いする!」
う、うーん。まだちょっとこの話は早かったかしら? でも不思議だわ、状況は絶望しててもおかしくないのにそれが一切なくてこうして笑い合うこともできてるなんて。
ふと気付いて微かな灯りでなんとか読める時計を見たら、放課後の時間がそろそろになっていた。外はどうなっているのか、慎重にシャッターに近付いて耳を澄ませてみるけれど
「なにか聴こえるか?」
「いいえ、特に気になるような音は……」
「うーん、私にも聴こえないね~、でも燃えてるとかの音も聴こえないってことは鎮火はしたのかな?」
「出るにしても何人かは地下にある消火器を持って出ましょう、私、琴音、なぎささんでまた前に出ます」
「了解っと、琴音、腕の火傷は平気?」
「無問題だ、胡桃、圭、悠里は消火器を頼む」
るーちゃんに預けてたジャケットを改めて着ながら出してきた琴音さんの指示に従い私を含めた三人が消火器を持ったのを確認してから、佐倉先生が音をできるだけ立てないようにシャッターを開けて校内の状況の確認を始める。
結論だけで言えば、火災が酷かったのは一階だけ。ただ外壁部分や初めの落雷が当たりどころが悪かったようで発電設備はやはり沈黙、復旧は出来なくはないだろうけど、その知識を持ってる人物はここには居ないのでどうしようもない。
勿論、二階の食堂、三階の生徒会室の冷蔵庫も今日が限界だろう。とりあえずキャンピングカーの小さな冷蔵庫と冷凍庫に入るだけは運ぶという話にはなったが、それでも地下の冷凍食品などの大半は破棄となる。
「勿体ねぇ……けど、どうすることも出来ないのも事実なんだよなぁ」
「うぅ……う~」
「まぁまぁ、いいじゃない、今日の夕食はガスコンロのフライパンで焼けるステーキだって言うし……まぁ、コレが最後だけど」
『うぅ……』
二名ほど凄く凹んでたり泣いたりしてるのが心に痛いけど、無理なものは無理なのよ。でも缶詰などは大量に残ってるので移動中や大学についてからの食糧で困ることは無いと思う、それにお水の方も琴音さんがちょくちょくとペットボトルやポリタンクに溜め込んでくれてたのがあるのでそっちも困らない。
もしかしてコレを見越してたのだろうかと聞いてみれば
「いや、初日の小学校でペットボトル一本入れたら断水されたから、こっちもそれが起きないとは限らないと思い込んで溜め込んでただけ」
「せんせー、あの時に固まってたよね」
なるほど、断水を体験したからでしたか。それから荷物を纏める間に、琴音さんが墜ちてきたヘリコプターを調べにむかうというので私も少し無理を言って着いていった。
幸い、【かれら】も不気味なほどに気配がなく、ヘリコプターまで何の障害もなく辿り着いてから、琴音さんが調べ始め、私も側で観察をすることに。
「ま、ここまで燃えてたら【かれら】にならない。ある意味幸せだろうさ、っとこれは」
「ジュラルミンケース?開けてみますか、鍵は掛かってないようですけど」
「中身を見てみよう、なにか情報があるかもしれない」
そう言って琴音さんが開けてみれば、中に入ってたのは三本の注射器と地図、それと……
「拳銃、ね。護身用か、或いは。まぁ考えても仕方がない、貰っていこう」
「え、それも、ですか?」
「撃ちは極力しない、けど形だけでも最悪に備えることは出来る、まぁあれだ、守るために必要なアイテムってことで」
笑みを浮かべてからズボンの腰に拳銃を挿してジャケットで隠す。まるでアメリカの刑事物みたいなことをしててちょっとかっこいいと思った。
思ったけど、あれって劇中でも結構無茶苦茶をやる場面が多かった気がするのでそれを当て嵌めたら駄目なような気がしたので
「扱いには気を付けて下さいよ?」
「勿論、さて戻るぞ。明日からのことも話し合わないといけないからな」
ジュラルミンケースを私が持ち、また生徒会室に戻ってからこの事を話し、地図を広げてみる。どうやらこの辺の地域のことらしいが、丸をされてる箇所は聖イシドロス大学とランダルコーポレーション、そこで疑問に思った。
「どうして、この二箇所じゃなくて此処に?」
「もしかしたら本気で私達を救出しに来たのかもしれません。ヘリコプターの大きさはどんな感じでした?」
「それなりって感じだな、だが全員が乗るとは思えない」
「分けるつもりだったのか、それとも様子を見てから戻って乗り換えるつもりだったのか?」
今となっては真相は闇の中、ここでこれを話しても仕方がないと佐倉先生が締めて、明日以降のことに話題が変わる。とは言っても地下で避難してる時に話したのと内容は殆ど変わらない。
追加で出てきたのは今日と明日の午前中に主に三階、二階、そして地下から使えそうな物資の回収、それからキャンピングカーと佐倉先生の車、琴音さんのバイクに積めるだけ載せるということ。
「あと、途中で休憩するなら私が前に使ってたシェルターに寄るといいよ」
「誰もあれから来てないならいいけどな。住み着いてたらどうする?」
「その時は離れましょう、下手に刺激する必要はないかと思いますし。では異論はありますか?……無いですね、それじゃミーティングは終了して作業を始めちゃいましょう」
こうして私たちは分担して作業に取り掛かった。途中で折角だから卒業するし綺麗にしていこうと由紀さんの提案に皆が賛成して掃除しながらになったので少しだけ大変だったけど、嫌ではなかったわね。
るーちゃんも琴音さんや私の後ろでお手伝いをしてくれたり、今日の夕食にステーキを出して皆でこれが最後だからと物凄く味わって食べたり、その時に知ったけど琴音さんって土鍋でご飯を炊くことが出来て驚いた。
そして翌朝、籠城してから12日目、午前中に残りの作業を済ませてから私たちは駐車場に集まっていた。
「んじゃ、誰が何処に乗るって決めるか」
「あ、私、琴音さんの後ろが良いわ」
「わたしも乗りたかったけど、太郎丸が居るからキャンピングカー!」
「じゃあ私、めぐねえの車!」
「それじゃ、残りは皆でキャンピングカーってことでいいですね」
「驚くくらいに早く決まったね~」
「まぁ良いんじゃね、揉めるよりかはさ」
私が琴音さんの後ろと言ったときは皆が、と言うよりも胡桃さんが驚いた顔をしてたけど私だって一度は琴音さんのバイクに乗りたいって思ってたのよ?
「ガソリンよし、こういう時、キャンピングカーがあって助かるわね」
「私のじゃなくて、シェルターにあったのだけどね。皆、乗ったかーい?」
「こっちも準備完了だ、悠里、ヘルメットは被ったな?」
勿論ですと答えれば、そりゃそうかと笑いながらフルフェイスヘルメットを被り、スロットルを捻れば聴き慣れたバイクのエンジンの音が駐車場に響き、それに続くように佐倉先生の車と犬山さんのキャンピングカーのエンジン音も響き始める。
「琴音さん、えっと、お義母さん?」
「なんだ、悠里」
「これからも宜しくお願いします」
「ふふ、畏まらならなくていいぞ。慣れないかもしれないけど、私たちはもう家族なんだからな」
優しいその言葉に私は急に顔が赤くなるのを感じつつ、ギュッと振り落とされないように腰に回した腕の力を込めてお義母さんの背中に身体を付ける。
それをお義母さんは何も言わず、トランシーバーに向かって
「それじゃ、行きますかね」
《こちら由紀、しゅっぱーつ!》
《えっと、瑠璃です!しゅっぱーつ!あっ、なぎさお姉さん、ぶつかるよ?》
今、後ろで鈍い音が聞こえた気がするけど聞かなかったことにしよう。いよいよ、私たちは高校を出て大学へ向かう。これから何があるかはまだ分からない、けれど私達なら絶対に乗り越えられると信じてる。
だって、無茶をして、無理をして、それでも子供の為にと身体を張れて、だから皆で支えようってなる人が側に居てくれるのだから。
やっと……辿り着いたんやなって(満身創痍)