一応、相棒関係で元ネタ有りです。
「特命係に、杉下右京・・・。そういえば、カワカミさん、そのチームに入ったのよね。一応、担任だから、それは聞いているんだけど、私も詳しくは知らないわ」
「そうですのね・・・」
トレセン学園、放課後の中等部の教室。
多くの生徒が自主練や所属チーム等に向かう中、カワカミは担任と話をしていた。
「ごめんなさいね。ところでカワカミさんは、大丈夫?」
「何がですの?」
「いえ、そんなチームに入れられて。って、大丈夫なわけないわよね。一日でも早くレースに出たい、って言ってた矢先にこんな事になってしまって」
「まぁ、かなり不安ですわ。昨日なんて、不安すぎて直ぐに寝てしまいましたもの」
「・・・それ、本当に不安なの?」
「ですが、まだ終わった訳ではありませんもの。寝て起きたら、気持ちが切り替わりましたわ。だからこそ、わたくしはこうして特命係について聞いて回っているのですわ」
胸を張ってメモ帳を掲げるカワカミに、担任はどこか安心した顔になる。
「良かった。でも、何かあったらいつでも相談に乗るからね」
そう言って、担任は教室を後にした。
カワカミもそれを笑顔で見送ったあと、誰も居なくなった教室でため息を吐く。
数々の問題行動の末に起きた、とある事件によって入れられた特命係。
そして、そこのトレーナー杉下右京。
昨日は杉下との何とも言えぬファーストコンタクト、からのキングヘイローの良くない情報も相まって、とんでも無いチームに入れられたと落胆していたが、寝て起きたら元に戻っていた。
そして、謎多きチーム特命係について解き明かそうと、一日躍起になっていた。
先生やクラスメイトに話を聞いたり、図書館に保管されている雑誌等を漁ったりしていた。
だが、
「・・・まっっったく情報が無いですわ」
結論から言えば、情報は無かった。
出てくるのは、都市伝説のような噂話ばかり。
特命係は陸の孤島、人材の墓場、等々、特命係がロクでもない場所だという事。
杉下右京は元優秀なトレーナー、との事だったがここ最近の雑誌、それどころかネットでさえも一切の情報は無かった。優秀、とまで噂されてるのであれば、ちょっとくらい情報が乗っていてもいいのだが。
あとは、彼は変人、という噂も多かったのは何故だろうか。いや、確かに言われてみれば変人かもしれない、とカワカミは思う。
「どうしましょうか・・・そういえば、特命係の隣の部屋のトレーナーだとおっしゃっていたあのメガネの方。あの方、何か知っていそうでしたわね・・・。特命係に顔を出す前に、お話を聞きに・・・あら?」
ふと、教室の窓から見える多くの生徒や職員が行き交う中に、昨日見たあのスーツを着た初老の男性、杉下右京が歩いているのを見かけた。
やけに綺麗な歩き方だが、一体どこに向かっているのだろうか。
気になったカワカミは見失わないよう、駆け足で外に向かう。
「何をしてますの・・・?」
もしかしたら、何かしら彼に関する情報が得られるかもしれない。
そんな期待を胸に、カワカミは杉下の尾行を始めた。
「・・・ん?」
途中、杉下はいきなり立ち止まったかと思うと、その場にしゃがんで何かを拾った。
そして、少し辺りを見回し何かを見つけるとそこへと少し歩く。
「失礼。これ、落としたのではありませんか?」
そこには木陰で談笑する二人のウマ娘が。
「え?あ!これウチの髪留め!」
「ホントだ。ヘリオスの髪留め無くなってるじゃん」
「ありがとー!これお気にだったから無くなってたらマジでぴえんだったし!」
「ありがとうございました」
「いえいえ」
どのタイミングで気づいたのか、一人のウマ娘が落とした髪留めを拾っていたらしい。
対応も至って紳士的、とても変人なんて噂が出るようには見えない。
その他にも、
「あ、あのー、すみません。ここら辺で、青色のツインテールをしたギザ歯のウマ娘見かけませんでした?」
「その子なら、先程コースの方へ行きましたよ」
「わ、ありがとうございます!イクノー、ターボコースの方だってー」
いつの間に見ていたのか、迷いウマ娘の行き先を答えたり、
「うあぁ・・・」
「わー!ツルちゃんが!」
「大丈夫ですか?彼女の事は僕が見ますので、君は直ぐに保健室の先生を呼んできてください」
「分かりました!」
「ご、ごめんね、スペちゃん・・・」
顔色の悪くなった生徒を助けたり、道中色々な出来事に即座に対応していた。
「・・・」
「っ・・・!?」
ふと、こちらを見るような仕草をしたが、こちらに来る気配が無い所を見るとバレてはいない・・・と、思われる。
そんなこんな尾行を続けていて最後、杉下はとある校舎に入っていった。
「ここは・・・第三校舎?」
学園内には複数の校舎が存在する。
教室等、学校としての校舎や、チームの部屋が集まる校舎。
杉下が入っていったのは、そんなチームの部屋が集まる校舎、それもここには有名なチームや大きなチームが主に入っている校舎だ。
「何故ここに・・・」
疑問に思いつつ、カワカミも入ろうとした矢先、
「あの!」
「うひゃっ!?」
いつの間にやら、後ろにいた生徒に声を掛けられ、カワカミは変な声を上げる。
「あ、ご、ごめんなさい」
「い、いえ・・・大丈夫ですわ・・・」
こほん、と息を整え声をかけてきたウマ娘の方を見る。少なくともカワカミとは面識の無いウマ娘だ。
「で、なんですの?今急いでいますわ」
「この人、みませんでしたか?」
そう言って、そのウマ娘が見せてきたのはスマートフォンに映る、仲睦まじい練習中であろう写真だった。
数人が写っているその写真、その中の一人を指差す。
そこに写っていたのは、一昨日、カワカミが巻き込まれたあの事件で助けた例のウマ娘だった。
「私のチームのリーダーなんですけど、居なくなったみたいで・・・」
「居なくなった!?」
あの飛び降りがあった後に、突然の失踪。
カワカミの脳裏に、嫌な予感が現れる。
「・・・あの、わたくしも探しますので、詳しく教えてもらっても?」
杉下の事は気になるが、それよりも今はあのウマ娘の消息が気になるカワカミは、すぐに頭を切り替えた。
「いいんですか?」
「えぇ。むしろ、手伝わせてほしいですわ」
「ありがとうございます!えっと、リーダー、名前はメーティルダールって言います」
そういえば名前は知らなかった、とカワカミは内心思う。
あの事件の後、カワカミは早急に帰され、助けたウマ娘とは会っていなかったのだ。
「リーダーが居なくなったって分かったのは、私がチームの部屋に入った時です。部屋に入ったら、なんだかみんなザワザワしていて、聞いたらリーダーが来ない、って。連絡も何も無いし、そもそも、今日朝から寮にも居なかったみたいで」
「それ、チームのトレーナーはなんと?」
「『大丈夫だから先に練習に行け』と。でも、やっぱり心配になったのでトレーナーが来るまでみんなで手分けして探そうって話になったんです。トレーナー、来るの少し遅いですから」
「トレーナーも探しているって事はありませんの?」
「・・・無いと思います」
複雑な顔で小さくそう呟く。
「トレーナー、優秀で何人ものウマ娘を重賞レースで勝たせてきたから、すごい厳しいんです。それで、なんていうか、私達に愛情が無い、っていうか、私達の勝利にしか興味がない、っていうか」
そんなトレーナーがいるのかとカワカミは唖然とする。
「最近のリーダー、元気が無かったんですけど、トレーナーは気にする素振りも無くて。昨日なんて、突然休む、なんて話になったのにトレーナー何も言わないし」
黙って話を聞いていたカワカミ、ふと疑問が浮かぶ。
「貴方、昨日メーティルさんが休んだ理由を知りませんの?」
「えぇ、何も知りません。チームのLANEに突然『休みます』って来て、リーダー、休んだことなんて無かったから一体何があったんだろうってみんな不安になってたんですけど、まさか居なくなるなんて・・・」
まるで一昨日の事件の事を何も知らないかのような口ぶりに、カワカミは違和感を覚える。
「トレーナーにも何か知らないかって聞いたんですけど、何も言ってくれなくて。リーダーは古株で、あの人がいたから私も今までやってこれたんです。・・・なのに、いきなりいなくなって、私、どうしたらいいか。私、今度大きなレースがあるのに・・・」
段々泣きそうな表情に変わっていくウマ娘にカワカミは「大丈夫ですわ」と笑顔を向ける。
「わたくしが必ず見つけますから、貴方は自分の練習を全力でやってくださいまし!」
「・・・ありがとう、本当に、ありがとうございます」
「姫たるもの、当然ですわ!」
こうして、そのウマ娘は深くお礼をしてその場を去っていった。
その際に、カワカミはそのチームの部屋がある場所を聞いた。
「・・・一先ず、そのチームの部屋に行きましょうか」
なんの因果か、そのチームの部屋があるのは丁度カワカミがいるこの第二校舎。
そのトレーナーとやらに話を聞こうと、カワカミは校舎に入っていった。
「では失礼します。・・・おや」
「げっ」
メーティルダールが所属するチームの部屋の前。
丁度そこから出てきた男性に、カワカミは驚きの声をあげる。
「す、杉下さん、何してますの」
「こちらのトレーナーに用事がありまして。そういう君は?」
「そこのチームの方に、メーティルさん、以前わたくしが助けたあの方が居なくなったと聞いたので、事情を聞きに来たのですわ」
「そうでしたか。ですが、彼はこれから練習に向かうので、話す時間はないと思いますよ?彼のチームはこれからが正念場ですからねぇ」
聞いていた通りのウマ娘への愛情の無さに、カワカミの顔が険しくなる。
だがあのウマ娘に見つけると言い放った手前、引くわけにはいかない。
「だとしても、わたくしはそのトレーナーに話を聞きますわ!」
杉下横を通り、その扉の前に行こうとする直前に、扉が開く。
「騒がしいな。・・・まだいたのか、杉下」
中から出てきたのは低い声と共に背格好の良い強面の中年男性。
「僕はまだ部屋を出たばかりですよ」
「・・・もしかして、貴方が」
「えぇ。メーティルダールさんが所属するチームのトレーナーです」
紹介されたトレーナーは、何をするでもなく黙ってその場を去る。
「あ、ちょっと!待ってくださいまし――「カワカミ君」――杉下さん!」
トレーナーを追おうとするカワカミを、杉下は静かに止める。
そうこうしている間に、トレーナーは行ってしまった。
「何をしますの!折角話が出来るチャンスでしたのに!」
「今の彼には、話を聞くだけ無駄ですよ」
「何故貴方にそんな事が分かりますの!?」
「僕と彼は、少なからず交流がありますからねぇ。彼には今、やるべき事があります。そういう時の彼は止まりませんし、止められませんよ」
「居なくなったチームメンバーを無視してまでやることなんて無いはずですわ!・・・もしかして、メーティルさんが飛び降りたのも、あの方が原因ではありませんの?いえ、絶対にそうですわ!」
「それは、彼の評価と彼の第一印象で言っているのですか?だとしたら、早計、いえ、いっそ滑稽とも言えます」
滑稽、とまで言われたカワカミは顔に明確な怒りを出す。
「んなっ!?・・・ち、違うって言うんですの?」
「えぇ。とはいえ、君に説明するには、一昨日の出来事について話さなければなりませんね」
淡々とした口調でそう言われ、カワカミはふと昨日杉下に言われた言葉を思い出す。
『一つ、君は勘違いをしています』
『私が助けたのは、君ではなくもう一人の方です』
あの言葉の真意をカワカミはまだ分かってはいなかった。
「行きますよ、カワカミ君」
「へ?行くってどこに、って、ちょっと杉下さん!?」
唐突にさっさと歩きだした杉下を、カワカミは「訳が分からない人ですわ・・・」と、先程の怒りはどこへやら、困惑した顔をして駆け足で追いかけた。
メーティルダール←メタル チルド←メタル チャイルド←金子(相棒pre season1話より)
もちろん、名前を元にしただけなのでキャラそのものは全く別物です。