リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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ゆるキャラ編の前編となります。


最新話
短編~ゆるキャラの仕事はゆるくない。


「マスコットキャラフェスティバル?」

 

 渡されたパンフレットを見て千束がそうお祭りの内容を口にする。

 各地でお祭りが多くなってきた夏の季節。

 楠木から千束にとある指令が下される。

 

「あぁ。各地、企業などのマスコットが数多く集まるお祭りだそうだ。そこに地域や企業のお偉いさんが来賓で来られるとのことだ」

「ほう……」

「昨今はまたテロ活動などが活発になってきている。我々DAのリコリスやヤタガラスのクリーナーもこぞって対処しているが、減る傾向に無いな」

「真島くんが所属しているアンダーテイカーの動きも気になるところですよね」

 

 最近は人の動きも多くなってきたあたりで、それにかこつけて騒ぎを起こそうとする犯罪者たちも目立つ今日この頃。

 そんな中お祭りというのは、テロ活動をする上で絶好の的だろう。

 一般客が多数いる。その中ではリコリスも派手には動けない。

 事前に防ぐことに関しては専売特許ではあるが、事が起こっては誤魔化すのにも限界があるのである。

 

「ということで見回りで派遣するリコリスのほかに、お前にも現場に行ってもらう。運営側の人間として祭り会場に入り、現場の指揮権をお前に任せたい」

「ま~た休日出勤ですか? やれやれ私は忙しいブラック企業の社畜ですわ」

「社畜だろうが名物教師だろうが所詮は仮初の姿にすぎんよ。我々の本懐を忘れないよう心掛けてくださいよ、錦木先生」

「は~いは~い」

 

 そう楠木に念を押され、適当に返事をする千束。

 

「あぁそうだ。運営側の人間として行くにあたってなんですけどぉ。設定は自分で決めてもいい?」

「また変装か? 今回は必要ないでしょうに」

「だーって面白くないんだもん! 名を偽り姿を偽り、この世の不条理を解決する謎の存在。……ロマンありません?」

「遊びに行くんじゃないんだぞ……。と言っても聞かんか。好きにしてください、状況が良くなるならなんだっていい」

 

 と、楠木は半分諦めたようにため息交じりで千束に全部丸投げ。

 

「あとは、ゆるキャラとして一人リコリスを送るか」

「この時期にゆるキャラの着ぐるみ着るってかなり重労働ですよ? 私も昔着ぐるみのバイトやってたからわかるけど。経験者は語る」

「それでも任務だ。やってもらわなければならん。まぁフキやサクラはまずやらんだろう。こういう場合は普段ならエリカに貧乏くじを引くところだが、締め切りというのが近いからか今回は別のリコリスに頼むことになりそうだな」

「ということは私はそのゆるキャラになっているリコリスと主に動けば良いのね?」

「そういうことになるな。そのゆるキャラは見てすぐにリコリスだとわかるようなものを手配する。というわけでいつも通り、頼みましたよ」

 

 こうして、千束による新たな任務が幕を開けようとしていたのであった。

 

 

 ――マスコットキャラフェスティバル当日。

 

「霧島く~ん、そっちの物資の搬入もおねがーい」

「はーい、今行きま~す」

 

 お祭りは始まって間もなく多くの客で賑わっている。

 そのお祭りで人一倍働く運営スタッフのバイトの一人の青年。

 

 名前は霧島ユーリ。中央のとある大学に通っている大学2年生である。

 

「重たい……」

「大丈夫? 俺が持とうか?」

 

 女性スタッフが荷物の重さに困っているところを気兼ねなく声をかけ、しれっと助ける気配りの良さ。

 そんな青年に、多くの女性スタッフが見惚れていた。

 

「き、霧島くん。お祭り終わったらバイトスタッフで打ち上げやろうと思うんだけどぉ~」

「霧島くんともたくさんお話してみたいし、ぜひ参加してよ!」

 

 そう女性スタッフたちの黄色い声で誘われる霧島という青年。

 気配りの良さや人当たりの良さだけでなく顔やスタイルも良く、すっかりと女性スタッフたちが虜になってしまっている。

 

「あはは、ごめんね。俺大学のレポート提出が迫っててさ。お祭りが終わってからも忙しくって……。また今度どこかで縁が合ったら誘ってよ」

 

 と、断り方も相手を傷つけないほどに丁寧。

 まさにモテる男の鏡のような、謎のイケメン青年。名前は霧島ユーリという。

 

 ……。

 

 と、そんなイケメン青年が実際にこの街に存在するわけはなく……。

 このお祭りの治安活動のために、楠木に言われ運営スタッフとしてお祭りに潜入した千束の変装である。

 ……今回に関してはわざわざ変装なんてしなくても良い気もするのだが、本人がやりたいもんはやりたいと言うのだからそれはもう止めようがないのである。

 ちなみに霧島ユーリというフルネームに関しては。毎度千束が名前を設定する際のこだわりというか法則に該当するもの。力士の四股名を苗字、なんか自分っぽく自分がピーンときた名前。

 そして今回は男装と、これまた無駄に凝った変装で任務にあたっている。本人曰く高校生から年配まで変装のレパートリーは幅広いらしい。

 元より案外同性にもモテる容姿端麗の童顔な顔立ちも手伝ってか、喉ぼとけの有無を隠しつつ、お胸についている立派なものは強制器具で押さえつければ(本人曰くこの作業が一番大変らしい)性別すら偽ってしまうほどの変装が出来上がる。

 本人はよく千の顔を持つ女と自称することだけあってか。普通の人、下手をすれば知人でさえ欺けるほどの完璧な変装術を見せつける。

 

「いやー。男装って楽しいなぁ。女の子にいっぱいキャーキャー言ってもらえるし~」

 

 ひょっとすれば悪いテロリストがお祭りを襲撃するかもしれないという状況の中、自分だけ楽しくなってしまっている悪い癖が出てしまう千束。

 まぁ何もなければ越したことはないので、大学生のアルバイトという身分を謳歌してしまっている。

 と、治安維持の任務にあたるのは自分だけではない。楠木が言っていたように、マスコットの着ぐるみを着る係のリコリスも、この会場にいるはずである。

 今のところそれらしきマスコットを見つけられてはいないが。

 

「教頭は見ればすぐわかるって言ってたけど。ってかDAのマスコットキャラってそもそもなんだよ。女子高生、武器、彼岸花。連想させる要素ってそれくらいか?」

 

 千束はその要素を何かしら含んでいそうな着ぐるみのキャラを探すが、やっぱりぱっと見見つからないでいた。

 誰が中身をやるかはわからないが、一度接触して打ち合わせでもしておきたいものである。

 

「霧島く~ん。次のマスコットキャラが会場に入るから補助してあげて~」

「あ、は~い。今行きま~す」

 

 と、任務のことを考えている最中でもお祭りの仕事が次々と割り当てられている。

 次に千束が行うのは、マスコットキャラの補助作業。

 マスコットキャラは大きな着ぐるみのため、一人だけでは細かい作業ができない。

 そのため会場入りをする際に補助が必要なのである。

 

「は~い。〇〇くん入られま~す。次に〇〇ちゃんが入られま~す」

 

 そういって次々とマスコットキャラを会場入りさせる千束。

 

「次は。DAのマスコットキャラのリコリスちゃん入られま~す」

 

 そう案内させられて、大きな長い黒髪の女子高生のマスコットキャラが会場に入ってこの場での補助作業は終わり。

 

「ふ~。さてと次は配布物の確認を……!?」

 

 今の長れでついスルーしてしまうそうになっていた。

 千束が気づく。今さりげなくDAのマスコットキャラが会場入りしていたことを。

 しかも名前はリコリスちゃん。その外見も、なんとDA学園のリコリスの風貌をゆるキャラにしたような非常にシンプルかつわかりやすいものであった。

 それも、その風貌のモデルになったであろう人物が、千束が一目見てもすぐにわかってしまうものであった。

 特徴的なのはやはり黒髪のロングヘア―。同じ髪型の生徒も確かにいるっちゃいるだろうが、広告塔になりうるDAが代表する黒髪ロングのリコリスなんてもう一人しかいないだろう。

 だが千束的には、リコリスの中でも圧倒的な戦闘力を有するその人物がこんな奉仕活動に勤しむイメージがないため混乱していた。

 この夏の炎天下の中、わざわざ暑苦しいゆるキャラの着ぐるみを進んで着るような人物ではないはずである。

 

「……まさか。楠木教頭が頼んだ人物って。いやでも、広告塔みたいな人物を模したゆるキャラってだけで中身まで本人なわけが」

 

 そう色々考えこんでいると。そのゆるキャラはさっそく子供たちを始めとするお客さんに囲まれ、ご丁寧に対応を始めた。

 お客さんはDAがどういう組織が理解していないだろうが(関係者以外だと千束の周りの人たち(喫茶リコリコ関係者など)が事情を知っていたりはする)。その愛くるしい風貌がウケているのか写真など撮ったりしていた。

 

「なんかさっそくお客に可愛いとか言われてる。中身は超物騒な女子高生なのに……」

 

 とか遠目で千束が内心思っていると。

 そのリコリスちゃんが、千束の方向を向いたではないか。

 まさか……。とは思ったが、今回の千束には自信があった。

 過去何回か、あっさりと変装を一瞬で見破られた過去があるが、今回はそう簡単ではないだろう。

 まず第一に千束は今回男装をしている。髪も目立つ白髪ではなく(千束は雑にそこを隠そうとすることが少ない)黒髪のウィッグを使っている。

 間近で見れば顔で認識できたり、その人物がよく言う「匂いでわかる」という謎理論も、着ぐるみを着ていては視界も悪く匂いも感じずらいだろう。

 だから千束としては、今回はその人物を騙せるはず。そう高を括っていた。

 

「あ、こっち見た。でも今回はさすがに即バレはないでしょ~」

 

 そう余裕綽々でいると。

 リコリスちゃんは、動きにくいゆるキャラであるにもかかわらず、とんでもない速度で千束の方に走ってきたではないか。

 

 ドコドコドコドコドコ!!

 

「え?」

 

 どかーん!

 そしてそのまま千束に思いっきりアターック!!

 流石にゆるキャラの図体に思いっきりぶつかられれば、千束もあっさりと押し倒される。

 そしてリコリスちゃんはというと、千束に馬乗りになりボコボコと殴り始めたではないか。

 

「ちょいちょいちょーい! いきなりなにすんのこいつーーー!!」

 

 千束は必死に抵抗してリコリスちゃんから身を抜け出す。

 ひょっとしたら中身は全く別の人物かもしれないという淡い期待もあったが、今の行動ではっきりとした。

 もうこうなってはいつものやつである。ゆるキャラを身にまとっても、執拗以上に千束を狙う人物。

 

「お前中身たきなさんだろ!!」

「!?(※ゆるキャラはしゃべらないという設定を忠実に守っている)」

 

 と、千束に指摘されたリコリスちゃんは両手を顔近くに持っていき、驚いたような所作を見せた。

 

「……ゆるキャラだからしゃべれないのか。立派にゆるキャラの仕事やってるようで感心だけどなんかそのわざとらしさがすっげえ腹立つ!!」

 

 普段なら愛くるしいであろうゆるキャラの動作が、今回ばかりはなんかこう悪意マシマシで千束的には非常に癇に障った。

 その後、千束に中身を指摘されたリコリスちゃんはというと、ちょいちょいと千束の身体をポンと叩いて。

 自分を指差して、千束にジェスチャーを送る。

 

「……私は誰でしょうクイズ?」

 

 コクコク……(※上体を縦に振っている)。

 

 リコリスちゃんの動作を、なぜか千束は即座に理解し応対(特段打ち合わせをしたわけでもない)。

 そしてリコリスちゃんによる私は誰でしょうクイズが始まった。

 始めにリコリスちゃんは、両手を前に突き出し片足で立つ動作を行う。

 

「えぇと……。それはさかなー(魚)」

 

 その次に、リコリスちゃんは小さいおにぎりを備え付けのカバンから取り出す。

 

「……それはたかなー(高菜)」

 

 そして最後に、自分を指差して。

 

「私はたきなー。ってやかましいわ!!」

 

 そう言って千束は事前に打ち合わせしたかのように見事なツッコミを入れ、リコリスちゃんとの即席の漫才を披露し、会場のお客さんを沸かせた。

 ここぞというときは抜群のコンビネーションを発揮し、その場の状況にあっさりと対応。

 普段から素直に手を取り合ってさえくれれば、DAにも他のリコリスにも多大な戦果をあげられるはずなのだが、そう簡単ではないのがこの二人。

 

「いやー。霧島くんリコリスちゃんに懐かれちゃってるんでしょー」

 

 ゲシゲシ!

 

 他のスタッフが千束とリコリスちゃんが一緒にいるところを見て、そう呑気に茶化す。

 そしてリコリスちゃんはというと、千束の足をゲシゲシと蹴り続けているではないか。

 

「この界隈ではゆるキャラがスタッフを押し倒したり蹴ったりすることを懐くっちゅうんか?」

 

 懐くとは? そう疑問に感じて困っている千束をよそに、今度はリコリスちゃんが千束のケツを思いっきり蹴り始めた。

 

 バシン! バシン!!

 

「痛い痛いって! こんにゃろゆるキャラだからって何しても許されると思うなよお前!!」

 

 リコリスちゃんの容赦ない暴力に対して千束もさすがに我慢ならなくなりリコリスちゃんを怒り出す。

 するとリコリスちゃんは困ったような動作をわざとらしくし始め、他のスタッフに助けを求める。

 

「こらこら霧島くん。リコリスちゃんが困ってるよ~」

 

 え~ん(※泣いてるような動き)。

 

「まっっっっっじで腹立つなこいつ……」

 

 リコリスちゃんがどれだけ千束に対して無礼を働いても(度が過ぎない限りは)周りの人はリコリスちゃんを許してくれる。

 これでは千束も下手にやり返すこともできない。一方的に叩かれたり蹴られたりするしかないのである。

 すると今度はリコリスちゃんは、手を思いっきり開いて千束の方へとやってくる。

 

 ガバッ!

 

「……なに?」

「霧島くん。リコリスちゃんが仲直りしたいみたいだよ~?」

 

 そう他のスタッフが千束に言う。つまるところ、リコリスちゃんは仲直りのハグを要求しているのである。

 千束はこれまで何度もリコリスちゃんの中の人。……これ以上伏せても意味が無いからたきなと表記するが。

 今までたきなのベアハッグ(鯖折りとも言う)には散々な目にあわされ続けた千束。

 まあ今回はゆるキャラを身に纏っているから、いつもみたいに背骨や肋骨にはダメージはいかないとは思うが。

 

「……」

 

 千束は躊躇するが、ここで変に断って他のスタッフの印象を悪くしてしまうわけにもいかず。

 千束は覚悟を決めて、リコリスちゃんの懐に飛び込み、そしてリコリスちゃんは思いっきり千束をぎゅーした。

 

 ぎゅー。

 

「うっ……。なんというかちょっと癖になりそうかも……」

 

 中身は物騒なたきなではあるが、ゆるキャラを身に纏っているためかふかふかのゆるキャラの胴体に身を沈めていい気持ちになってしまっている千束。

 そのまま平和に仲直り。……で終わればよかったのだが。

 リコリスちゃんはそのまま千束を押し倒して、その大きな図体で千束を押し倒してしまった。

 

 どてーん!

 

「き、霧島くん大丈夫かーい!?」

「ふぁふふぇへー(※助けて)!!」

 

 その後スタッフに救助された千束はリコリスちゃんの傍を避難するようにすぐさま離れ、楠木に定時連絡の電話を入れる。

 

『はいもしもし、今のところは大事ないか?』

「今は特にこれといって怪しいところはありませんよ。てか、ゆるキャラの仕事たきなさんに頼んだんですか?」

『あぁ。本人はやる気満々で引き受けてくれたぞ』

「(意外とノリがいいところあるからなぁ……)……そうですか。さっそく私の自慢の男装見破られた挙句襲われましたけどね。危うく圧死するところでしたよ。たきなさんが来るなら私には事前に一言欲しかったですね」

 

 そう千束は妬ましく楠木にクレームを入れるが。

 楠木的には千束が困れば困るほど愉快なので当然千束には無駄にそういったことを開示することはサラサラなかったのである。

 

『相変わらず仲が良いことでよろしい。いつものようにサポートしてやると良い』

「良くないって、最悪だよ。サポートって言うかいつもの御守りでしょ? 彼女一人だけだと突拍子もないこととかやり始めて子供たちとか困惑するし」

『いつもならそうだろう。だが考えてもみろ。今回はゆるキャラを身に纏っていて言葉を発する必要もない。それなら変に気を使わなくても良いから、そこでそれらしいことをしているだけで万人受けもするだろう。ある意味天職だったのではないか』

「……確かに」

 

 楠木が言うように、たきなはコミュニケーション能力に難がある。

 常にクールで反応が鈍いし、言葉も無駄に一言多くそして口が悪い。相手の癪に障ることも無意識に言う。その上で突如奇天烈なことをやりだすこともしばしば。

 それが仲間内だけならまだしも、一般人相手にも時折容赦ない物言いや行動をすることもある(一応最低限の礼節はあるので相手がそう感じない場合が多い)。

 だが今回はゆるキャラという特性上、たきなのそういった悪く見える部分がすっぽりと覆いかぶさるのである。着ぐるみだけに。

 俗にいう、普段煙たがられるであろうおじさんも、ゆるキャラになっている間は女子供には人気者になれる理論である。

 たきなの意外な天職が見つかったところで、その後千束は通話を切り、自分の仕事に戻る。

 それぞれ互いの責務をこなしつつ、もうすぐ裏手で休憩時間が来るのでそこでたきなが着ぐるみを脱いで休憩するあたりで落ち合えば良いだろう。

 そして数時間後、リコリスちゃんを始めとしたゆるキャラの休憩時間でリコリスちゃんが裏手に向かったところで、千束も出演者に差し入れをするテイで裏手に。

 

「ふぅ~。さすがに暑いですね……」

「お疲れ様です。お水どうぞ」

「……ありがとうございます。志摩錦さん」

「霧島です」

 

 たきなは差し入れをする千束を一瞥して、わざとらしく名前を間違えておちょくりつつ、千束から素直に水分を取る。

 その際、ゆるキャラから出てくる中身が周りの目を引くその美少女に、つい看取れてしまうお祭り関係者。

 汗も滴るいい女。性格や態度は鼻に付くが、その容姿の良さから普段は煙たがっているリコリスの中でも一定のファンがいるのも事実。

 それだけ目を引くだけに、千束もついたきなに指摘をする。

 

「……あなたはもう少し自分の容姿の良さを意識した方がいいよ」

「そうなんですか?」

 

 自分の容姿の良さに自覚があるのかないのか、特に周りからの目線も一切気にしていなさそうなたきな。

 暑苦しいゆるキャラ業務から一時的ではあるが解放され、一息ついたところでたきなは千束と共に状況の整理を行う。

 

「どうです? 今のところ怪しい連中などはいましたか?」

「見た感じはいないね。ここ数か月、アンダーテイカーを始めとしたテロリストの詳細はデータに記録されているし。ラジアータで逐一観測してもらってもいるけど会場内にはいなさそう」

「そうですか。このまま何もなければただ皆が楽しんで終わるだけだから、いいんですけどね」

 

 そうたきながぼそりとつぶやく。

 そんなたきなに対して、千束は任務に関係ないことではあるが、今の彼女に対し自分が思っていることを口にし始めた。

 

「……ちょっとだけ、君という人物の見方が変わったよ」

「え?」

「見直した。とか言うと上から目線だとかいちゃもんつけられるからそういう言い方は控えるけど。こう、君も不器用なりに人の役に立とうとか、関わろうとか考えてるんだなー。って」

「……まるで私が血も涙もない人間だと思われてるみたいですね」

「え?」

「え?」

 

 血も涙もないのではなかったのか。そう言いたげな態度の千束に対したきなは若干イラっとしながら。

 敵を目の前にすれば最後、確実に敵を葬り去る冷徹な兵士。

 少なくとも千束のたきなに対する印象はそんなところだろう。そんな冷徹な兵士が、戦うこと以外に、社会奉仕活動に意欲的なことが意外っちゃあ意外だったのである。

 

「わかっているとは思いますが一応。私たちD組のリコリスの主な任務はこの街。中央の治安維持。世間的には学生による治安維持活動として認知されています。兵士である以前に学生であるべしとされているんですよ。これでもね」

「まぁ。私としてもそうあってほしいけども」

「だがリコリスである以上は兵士として戦う義務もある。相手への過剰な外傷行為は認められてはいますが。特に私たちD組には、"殺人行為の許可"は下りていない」

「……」

「しかしリコリスとしての強化手術、兵士としての教育をされ、凶悪な犯罪者やテロリストを淘汰していく流れで、敵を屠り、傷つけることへの快感に溺れるリコリスは少なくない。恵まれなかった環境からの脱却、人を超えた能力を意図的に与えられたことへの全能感。その果てには、禁忌とされる殺人に手を染めてしまったリコリスも多くいる」

「そのリコリスが所属しているのが、A組とB組。assault(強襲部隊)とbuster(破壊工作部隊)の烙印を押された子達ってこと?」

「そう。一度でも殺人に手を染めたリコリスはもうその快楽からは逃れられないと聞いていますよ。その子たちが所属するのが、中央から外れた禁止区域。この国の西側に位置する下層区域やその他紛争地帯にて活動を行うA組とB組のリコリス。彼女たちには実弾の使用許可も出ている。今も誰かの命を奪っているでしょうね。本部としては私もそっちの部隊に配属させたいらしく、口うるさく人殺しをしろと強要してくるんですよ」

 

 そう、たきなの口から語られるDAの内部事情。闇の部分というか、千束も知識としてはあるが決して深入りしてはならない部分。

 たきな達D組のリコリスは、兵士として作り変えられた少女ではあるが、それでもまだ人としての情を残されている恵まれた環境で勉学を学べる立場にある。

 D組の中でも戦うことに意欲的なリコリス、近い人物で言うなら乙女サクラなどもいるが、それでも人を殺すともなるとさすがに躊躇するくらいの良心は残っている。

 たきなも他のリコリス以上の適性の高さにて、リコリスを超えた怪物と成り果てたが、それでも彼女は殺人衝動などに堕ちてはいない。

 

「私は困っている人たちを助けられる救世主になりたい。……だから私は人を殺しませんよ」

「私のことは殺そうとしてたのに?」

「まぁあなたは人間じゃないので。神の力を殺しその力を取り込めば……。とまあ色々本部から根も葉もないことを吹き込まれてはいましたが、今となってはもうどうでもよいので」

「どうでもいいんかい。だったらいい加減嫌がらせに私に絡むのやめてよ」

「ふっ……。殺すまではしませんけど、(あなた)を屈服させたら面白そうなので。これからもあなたは私のおもちゃです」

「ふざけんなばーか」

 

 たきなの理不尽なその物言いに千束は抗議するが、たきなはこれからも千束への執着はやめないだろう。

 ひょっとしたらそれが、たきなにとっては、千束への歪な繋がりなのかもしれない。

 それか、自らに残されたもう後悔もないであろう日常の中で、唯一生を実感できる時間なのかも、しれないのだろうか。

 

「仲いいね君たち。ひょっとして付き合ってんのかい?」

 

 と、本来なら珍しく二人が会話しているのを見た他のスタッフが、二人のことを茶化しにそんなことを言ってきた。

 すっかり忘れているかもしれないが。千束は今回男装をしているため、傍から見れば千束とたきなは美男美女のカップルにも見えるのである。

 当然そんなことはありえないので、千束はきっぱりと否定しようとするが。

 

「いや、違いますけd」

「はいそうなんですよ。こいつ私の彼ピなんですよ~」

 

 と、なにやらたきなのめんどくさいスイッチが入ったのか、千束の腕にしがみつき適当なことを言い始めた。

 

「お前、さては悪ノリスイッチ入ったな……」

「でもこいつヘタレで、私がちょっかい出してもすました顔してかまってくれないんですよ(※事実ではある)。私悲ピですよ。私に勝てないからっていーっつも逃げてばっかりで~。情けないざーこざーこなんですよ~」

 

 とまぁ千束が下手に何も言えないことをいいことに、言いたい放題のたきな(千束(霧島)の彼女モード)。

 これにはさすがに千束もいよいよ堪忍袋の緒が切れたのか。

 たきなの方を向き、たきなの両肩を掴み、凄みを見せてこう強い口調で迫る。

 

「……お前いい加減にしろよ」

「♪~」

 

 本来なら今のような形相で千束に睨まれたら、大概の人ならその眼一つで発狂か気絶かしているだろう。

 最もたきなには、千束の最強の武器である神の眼も無力なのだが。

 なのでたきなは余裕そうな表情で千束を挑発すると、千束はらしくもなくこんなことをたきなに言い放った。

 

「お前よぉ。一回マジで泣くまでめちゃくちゃにしてやろうか……?」

 

 ……。

 

 な~んか変な空気がその場に流れる。

 といっても千束は今は男装しているため、傍から見れば男が女にDV発言しているようにも聞こえるのである。

 そのことに言い放った後すぐに違和感に気づいた千束。一方でそんなことを言われたたきなはというと……。

 

「……ぶっ!」

「???」

「ちょっ……! その姿(男装)で泣くまでめちゃくちゃにするって……(笑)。私を……? あはっ! あはははは!!」

 

 なんか珍しく、本当に珍しくたきなが大笑いしてしまった。

 よほど千束の男装DV発言がツボに入ったのか、その場で腹を抱えて笑い続けるたきな。

 

「ちょ、ちょっと違うって(照)!!」

「わはははははは! ダメッ! ツボに入った……。あは! わははははははううぅえぇぇぇ!!」

 

 顔を真っ赤にして恥ずかしがる千束に対して、えずくまで大笑いし続けるたきな。

 その光景を見て周りの人たちもなんか和やかになったらしく、気が付けば休憩時間も終わり。

 引き続き千束は霧島ユーリとしてスタッフのバイト、たきなはリコリスちゃんとしてゆるキャラ業務へと戻る。

 二人が会場に戻ると、なにやら1体のゆるキャラが子供たちの人気を集めていた。

 

「ろぼっしー! 踊って」

『了解だろぼっしー!!』

 

 と、昭和のアニメに出てきそうなおもちゃのロボットのような謎のゆるキャラが、子供たちの声に答えて歌ったり踊ったり。

 というかゆるキャラの法則に反して思いっきりしゃべったりしてるし、なんだったらどっかで聞いたことあるような名前に語尾だし。

 他の客からすれば初めて見るような風貌ではあるが、千束とたきなからすれば、こう、絶対にどっかで会ったことのある姿に聞いたことある声色をしていた。

 そしてそれは、今絶対に看過できない存在であるはずなのである。

 

「……」

 

 たきながゆるキャラでありながらリコリスとしての兵士の顔を露わにし、そのろぼっしーという謎のゆるキャラに近づこうとする。

 それを千束が一度待ったをかけ、自分が行くとたきなをその場に待機させ、千束はろぼっしーの近づく。

 

「こんにちは~。子供たちに人気ですねぇ~」

『こんにちはろぼっしー!!』

 

 この様子では、少なくともろぼっしーは霧島が千束であることに今のところは気づいていないよう。

 ただの普通のお祭りの運営スタッフのバイトとしての身分でろぼっしーと接触する。

 

「ろぼっしーくん。子供たちも見ているからこの霧島お兄さんとゲームで対決しないかい?」

『ゲームだぁ? 面白いろぼっしー!』

「ゲーム内容は、そうだなぁ。ろぼっしーくんはしゃべれるゆるキャラらしいから、連想ゲームにしようか」

 

 そう千束は、ろぼっしーに連想ゲームを仕掛ける。

 ルールの詳細は千束の口から語られる。

 

「今から俺が単語の前半部分を言うから、ろぼっしーくんはそれに合わせた単語を口にして、一つの単語として成り立つものにするっていうゲーム。例えば俺が、ベースって言ったら、ろぼっしーくんがボールって答えてベースボールになれば単語ができるからろぼっしーくんの勝ち。それを4回繰り返してどこかで単語が成立しなかったら俺の勝ちってことで」

『いいぜ、かかってこいろぼっしー!!』

 

 ということで、千束VSろぼっしーの連想ゲームが始まる。

 まずは第一問。千束が前半の単語を言って、ろぼっしーが後半の単語を口にする。

 

「いくよ~。ベース」『ボール!』

「サッカー」『ボール!』

「バスケット」『ボール!』

「バランス」『取らねぇとなぁーーー!!』

 

 バキュン!!

 

『痛いろぼっしー!!』

 

 どうやら4つ目に千束が言った単語に対して、ろぼっしーは適切な単語が答えられなかったようである。

 そのため敗者にはリコリスちゃんから銃弾がぶち込まれる。負けたらリコリスちゃんに銃で撃たれるというルールである。

 

『それ今知ったろぼっしー!』

「あれ~。言わなかったっけ? ちなみに正解はバランスボールでした。いやぁ3つ目までは順調だったから負けるかハラハラしたよ~」

『うぐぐぐぐ……』

 

 ゆるキャラの着ぐるみを纏っていても身体に絶大なダメージが発生するその威力にろぼっしーは狼狽えている。

 でも負けたんだからしょうがないだろぼっしー。

 リベンジしたいって? そうだろうそうだろう子供が見ている前で負けたままではいられないだろろぼっしー。

 

『なにも言ってねぇだろろぼっしー!』

「ってことで2問目いくぞ~」

『……』

 

 ろぼっしーの言い分など無視して、千束は2問目を開始する。

 ルールは変わらず、千束が前半の単語、ろぼっしーがそれに合った後半の単語を口にする。

 

「千載」『……一隅?』

「千差」『万別』

「千客」『万来』

「猪突」『猛進』

 

 バキュン!!

 

『痛いろぼっしー!!』

 

 おや、今回は4つ全部当たっていたはずなのだが。

 リコリスちゃんの銃弾はまたもやろぼっしーに直撃。

 藻掻くろぼっしー。そんなろぼっしーに対して千束は高らかに。

 

「せいかーい!!」

『正解ならなんで俺に銃撃ちやがったてめぇ!!』

 

 てへっ♪(※間違えちゃったのポーズ)。

 

 リコリスちゃんはどうやら間違ってろぼっしーに銃を撃ってしまったようである。

 まぁ、間違いなら誰にでもあるよね。しょうがないしょうがない。

 

『しょうがなくねぇだろ……』

 

 と、千束とろぼっしーの茶番に子供たちが満足して別のゆるキャラのところに行って。

 その場には千束とたきな、そしてろぼっしーの3人だけが残る。

 ならもう、下手に見繕わなくても良い。腹を割って話すことができる。

 

『んで、なぜお前がここにいる? 真島』

『その声は……。あぁ狂犬かよ。よくみたら確かに狂犬をでっかくしたようなキャラだもんなぁ』

 

 たきなもこの場ではゆるキャラの法則を破り、ゆるキャラの姿のまま言葉を発する。

 それを聞いてろぼっしー。まぁ中身の正体をたきなが口にしたので真島と表記する。

 真島。それはゆるキャラの姿を纏っていようが、凶悪さを隠しきれない狂気の男である。

 そんな男が、なぜゆるキャラとなってこの祭り会場にいるのだろうか。

 

『質問に答えろ』

 

 そうたきなは銃を真島に突き付ける。

 二人は真剣なやり取りをしているが、傍目から見たらカワイイ女の子のゆるキャラがヘンテコなロボのゆるキャラに銃を突きつけているおかしな光景になっていることは気にしてはいけない。

 

『そりゃお前、平和な世の中に争いなんて起こりっこないって顔をしているお子様たちに夢を与えるためになぁ~』

『戯言を……』

『怖い怖い。てか俺の正体をあぶり出すためにそこらへんにいたバイトの野郎に色目使って俺に近づいたってのか? やるじゃねぇか狂犬よぉ』

『はぁ?』

 

 真島のその言葉を聞いて、たきなは一瞬訳が分からず真島に聞き返すが、真島が言っている意味をすぐに理解した。

 もしかしなくても、真島はたきなの横にいる霧島という男の正体が、千束だと気づいていないのである。

 だから真島はたきなに、色目を使って男を誘惑したのかとおちょくったのである。

 その事実に対し、千束は得意げな顔をたきなに向けた。たきなはそれに対しイラっとしたのか千束のケツを思いっきり蹴った。

 

 バシン!

 

「痛いってだから!!」

『うん? あれ!? お前ひょっとして千束ちゃんか!?』

「ほら下手なことするから気づかれちゃったじゃん~」

 

 そのたきなとのやり取りと咄嗟に出た普段の声色(※ちなみに霧島くんをやっている時の千束は声色を低くして少年ボイスになってる)で真島に霧島が千束であることがバレてしまった。

 まぁ今更バレたからなんてことはないだろうが。

 

「てか真島くん。どうやってこの祭り会場に潜入できたの?」

『んだよお前らはバカかよ。俺は真島じゃなくてろぼっしーだ。ゆるキャラならこのマスコットキャラフェスティバルのゆるキャラ枠で参加できる。だから俺が会場にいられるんだろうが』

「……そんなザルなやり方」

 

 真島が言うには。

 確かに普段通りなら祭り会場に入った段階で会場に設置してあるラジアータの子機による見識に引っかかって見つかってしまう。

 だが自分がゆるキャラに扮しているなら話は別で。ラジアータが真島をゆるキャラとして認識するのでラジアータの見識には引っかからないというのである。

 なんともヘンテコな、だがこの祭り会場ならではの突破方法である。理にかなってるっちゃかなっている。

 

『ってなわけでお前らに質問なんだがよ』

「なに?」

 

『このお祭りに参加しているゆるキャラで、俺と同じ考えのやつが"他にも"いたとしたら……。お前らはどうすんだ?』

 

 ……。

 

 その真島の発言に、千束とたきなは目を見開いた。

 そしてそれぞれ状況を整理し、ある仮説を立てた。

 今現状、真島というテロリストがゆるキャラとして祭り会場にいるのはれっきとした事実だ。

 つまり、ゆるキャラに扮してテロリストが会場入りすることが。

 

 ――できる。

 

 ということである。

 

『!? 貴様動くな!!』

 

 たきなはすぐさま銃を向け真島を威圧する。

 そのたきなに対して真島は余裕綽々な態度で言葉を返す。

 

『おうおう怖えぇな。なんだ? 俺がゆるキャラとして会場に入っているとバレたらやばいやつでもいんのか?』

『下手なことをするな。場合によってはこの場で……』

「よせ! さっきは上手く演出で誤魔化せたけど。この状況で下手にドンパチなんてやったら!!」

 

 そう。この状況、千束とたきなは真島に手出しができない。

 真島はいつ、どの状況でも、この会場にいる自分と同じ考えをしている同士。ゆるキャラに扮している他のテロリストに連絡を取る手段があったとしたら。

 そうでなくても、下手に騒ぎを起こしてそれをこの会場にいる、ゆるキャラに扮しているテロリストに見られでもしたら。

 

 ――真島以外におそらくこの会場に存在しているであろう。

 

 ――ゆるキャラに扮しているテロリストに。

 

 ――テロリストがゆるキャラに扮していることがバレたと察知された場合……。

 

「やつらは、すぐにでもこの会場を襲撃できる。その立場にいる状況なのだとしたら……」

『あ~あ。大変なことになってきたなぁ』

「……」

 

 確かにこれはまだ決まったわけではない。仮説の段階だ。真島以外に同じ考えのテロリストが、ゆるキャラに扮しているというのは。

 その上で問題は山済みだ。祭りに参加しているゆるキャラは100体を超えている。その中で何体がテロリストなのか。

 そして、どのゆるキャラにテロリストが扮しているのか……。

 

『ぐっ!!』

「こんの!!」

『ククク……。さぁ、本当の祭りが始まるぜぇ。バランス取らねぇとなぁ!!』

 

 ここから先が、本当のフェスティバルの始まりとなるのか……。

 

 千束とたきな、そして会場にいる人たちの運命は……。

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