リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第8話です。


第8話:chapter1-2-襲撃者、それは開戦の狼煙

「ふ~ふふ~ふふ~ん♪」

 

 そう陽気に鼻歌交じりで、錦木千束は夜道を歩いているのだ。

 向かう場所は己が拠点でもある、喫茶リコリコ。

 普段から陽気な彼女ではあるが、今この時はいつにもまして、気分が上がっている。

 数日後DA学園への赴任を間近に、スーツを新調しに行った帰りだからである。

 千束のポリシーとして、大人はスーツを綺麗に着こなすものというものがある。

 整った身だしなみと着こなしが、大人である自分をより輝かしいものにするのだ。

 それは彼女にとって、今は亡き大切な何者かが、彼女に与えた大きな影響であることは、後々語られることだろう。

 そんな紺色の伸長したスーツを着た千束は喫茶店へ向かう途中の出来事だ。

 普段と変わりない景色、時間。だが……彼女はそこに何かしらの違和感を抱いていた。

 

「ふ~んふ~ん……」

 

 ふと、首を動かさず眼だけで回りを気にし始める。

 今、誰かが自分を観察している。視認している。そんな気配が、彼女の中で抱き始める。

 千束は世間的に見ても魅力的な女性だろう。御年27歳という30が近い容姿にしては、創作物に出てくる女性のように若々しい。

 一見では二十歳になりたてにも見えるし、学校の制服を着たら高校生として相手をだませるほど。

 彼女の老いにくい容姿に関しては、それもまた、後々の話としておこうか。

 とまあとにかく、彼女に見ほれストーカーをするような異性が表れても、そうおかしくはないという話である。

 

「……こそこそ後をつけてないでさ、姿を現したらどうですか~?」

 

 千束は残し数メートルの距離に目的地があるといったところで立ち止まり、後ろにいる何者かにそう言葉をかけた。

 自分のファン(がいるのかはさておき)なら適当に追い払えばいいし、悪い奴ならなおさらちゃちゃっとやっつけてしまえばいい。

 そう思いつつ、自分をつけている何者かが現れるまでそこで待ち受ける。

 そして、彼女をつけていたらしき人物が、電柱から姿を現した。

 その人物は、つい数日前に、千束は街で見かけていた人物であった。

 

「ん? あれ君は確か……」

 

 そう、その人物は紅い制服を着用した少女であった。

 そしてそれは、数日前で街の中心部でガラの悪い漢たちに絡まれていた少女であった。

 そんな少女を、千束は善意のもと助けた。その後お礼も言わずに彼女の前から立ち去った。その少女であった。

 長い黒い髪に整った顔立ちの少女。千束から見てそれは、出来の良い人形のようにも見えた。

 

「あの時のDA学園の生徒! ……でいいんだよね、制服の色が聞いていたのと違うけど」

 

 千束が入職前に何度かDA学園に行ったことがあった。

 その時本校で見た生徒の制服は、男女ともに黒色であった。

 紅い制服の生徒など、いなかったのだ。

 そもそも紅い制服があるという話も、聞いていないのだ。

 一部の生徒は勝手に制服の色を変えていいという決まりでもあるのだろうか。

 とにかく、千束はそこに現れたDA学園の生徒らしき少女を見る。

 そんな少女はというと、千束を認識しても、表情を一つ変えないでいる。

 その少女に、千束は話を膨らませた。

 

「あの後大丈夫だった? なんか大変そうだったからつい助けに入ったけど、もしかして余計なことした?」

 

 と、軽い口調で千束は少女に対して言った。

 それに対して、少女は一切返答をしない。

 どうやら彼女に礼を言いに来た、というわけではないらしい。

 別に礼などはほしいわけではないが、話しかけたことには返答が欲しいくらいは千束は思った。

 寡黙な子なのかな? 色々と思うことはあったわけだが。それらと並行して、その少女に対して何かしらの違和感を抱いていたこともまた一つであった。

 千束は勘が鋭い。一般人につけられるくらいならすぐさま看破する。そしてそれが一般的な感覚を持っている人物ならば、彼女は警戒心を抱くことはしない。

 つまりどういうことか、この時千束は、反射的に後をつけられたことに警戒心を大なり小なり抱いたということ。それが違和感の正体。

 それは何を意味するのか、目の前にいる少女は……けして普通ではない、ということである。

 

「……」

 

 そんな少女は、無言で千束の近くへと向かってくる。

 千束はその少女が何を考えているのかを察することができず。

 

「……あの~」

 

 と、呑気にそんなことを口に出した。その次に、少女は誰が見てもあり得ないであろうモノを、千束に突き付けたのである。

 学生カバンから出したそれは――拳銃だ。

 一介の女子高生がカバンから銃を取り出し、目の前の女性の顔にそれを向け。

 冷徹な口調で、感情が感じられない凍えるような声色で、千束に向かいこう言い放つ。

 

「ターゲット発見。これより排除を開始します……」

 

 ―――同日昼頃、場所はDA学園にて。

 

 数年前より開校したばかりの最新鋭の設備と学習環境が世間で取りざたされているDA学園。

 そんなDA学園には、表と裏の顔がある。

 表の顔はいたって普通の学校。普通の学生が、日夜勉学に励み、己が才能を伸ばしている。

 世間的にいう、新しいのが売りの普通な高校でしかない。

 だが――そんなDA学園にはもう一つ、別校舎が存在している。

 それは本校に身の隠し、関係者以外立ち入り禁止という札がかかっているゲートの先を、車で移動すること数分の場所に存在した。

 ただでさえ世間的に発展した最新鋭の設備をも、さらに置き去りにするほどの設備と技術力によって建てられたその別校舎。

 学生の寮を内蔵した。中身には千束達が住む街のありとあらゆる場所を監視できるモニターを備えたそれは、まるで映画に出てくる特殊警察の本部のようであった。

 当然普通に学生として過ごす一般的な教室や体育館なども存在する。

 そんな別校舎の、限られた生徒しか入室できない場所に、4人の生徒が、この学校に在中する教頭と呼ばれる人物に呼び出されていた。

 

「急に呼び出してすまない」

 

 そう生徒4人に声をかける人物。名を楠木と言う。

 本校を含めこの学校の教頭を務める年配の女性。

 一見すると男性にも見えてしまうほど厳格という言葉が似合う教頭である。

 そして呼び出された生徒三人。内二人が紅い制服、二人が紺の制服を着た女子生徒であった。

 

「なんスか楠木教頭? あたしら"リコリス"のトップフォースを呼び出すなんて、ただ事じゃあなさそうっすねぇ~」

 

 そう教頭に軽口で答える短髪の、いかにも体育会系という印象を抱かせる少女の名は、乙女サクラという。

 彼女が口にするトップフォースという言葉通り、どうやら呼び出された4人は、このDA学園の別校舎で特に優れた4人という意味だろうか。

 うち一人がさきほど千束に銃を突きつけた、狂犬がごとく少女。

 うち一人は単発のおかっぱ頭の、キツネという表現が似合う鋭い眼光の少女。

 その二人が、紅い服を着た少女である。

 もう一人、サクラとは別の紺色の制服を着た少女。一見弱弱しく大人しそうな、だが時として蛇のように相手に毒牙をかけるであろうその少女の名は、蛇ノ目エリカという。

 そのエリカが、続けて言葉を発した。

 

「サクラ、この状況は楽しめそうな感じはしないと思うよ。教頭が私たちを直接招集してまで話すミッションだから、きっと大変なミッションかと……」

 

 さきほどからなにやら所々物騒なワードがいくつか聞こえてくるであろう。

 そんな中、教頭の楠木が4人を呼び出してまではなさればならない内容について口を開いた。

 

「今回呼び出したのは、この人物について説明するためだ」

 

 そう言って楠木は、一枚の写真を目の前の机に置いた。

 その写真に写っている人物こそ、錦木千束である。

 

「あら、どんな大柄な男性の写真かと思えばまあ、普通の女じゃないっすか。この女がどうかしたっすか?」

 

 そうサクラが楠木に問うと。楠木は何を迷うことなくそう一言。

 

「今回のターゲットだ。そしてターゲットを始末するのはお前たち4人の内の誰かだ」

 

 その楠木の言葉を聞いて、サクラは鼻で笑いながら答えた。

 

「ハッ! こんないかにも害のなさそうな一般人を、私ら4人の誰かでリンチにしろっていうんすか!? んなもん格下の"サード"にでもやらせときゃいいでしょうよ!!」

 

 そんなサクラの小ばかにしたような発言に、エリカが割って入る。

 

「サクラ、話は最後まで聞こうよ。して先生、この人がなんか悪いことでもしたの? なんか見た感じ悪そうなことしてるとは思えないですよ?」

「だな。なんかちゃらちゃらしてて弱そうだし。褒められるのはせいぜい身なりの良さ、スーツの着こなし方はかっこいいとは思うっスけどねぇ。あとそれなりに美人か」

 

 サクラの考えのない楽勝な発言をしり目に、エリカに質問された楠木が淡々と提示したミッションについて話を進める。

 

「この人物の名は錦木千束。数日後にこの学校に教師として入職する人物だ」

「この能天気な女がっスか?」

「ああそうだ。その人物が、私たちの信用足りうる人物かどうかを試験するために、お前達に襲撃をしてもらいたいというわけだ」

「……言ってる意味がよくわかんないんっスけど」

 

 サクラにとって、教頭が千束を襲えと言っていることの意味がいまいちよく理解できないことであった。

 どうにもここにいる少女は、"何かしらの理由"で、"何かしらの信念"をもって、"特定の人物を襲う"といったことをやっているようである。

 そしてそれらはエリカの発言から読み取るに、襲撃を行う人物の定義の一つが"悪人"としている。

 なら千束は悪人なのだろうか。確かに悪人の定義は人それぞれではあるが、街で困っている少女を助けるような千束を、始末するべき悪とする真意はなんなのだろうか。

 そんな中、紅い服を着た鋭い眼光の少女がここで口を開いた。その少女の名は、春川フキという。

 

「教頭。お言葉ですがその提示されたミッションは私たちが受けるに値しないと判断します。その人物は私らの先生となる人物、この学校に採用された以上私たちが襲うほどの問題は起こしていないと推測しますが」

「……」

「ましてやそこで頭の悪い発言ばかりしてるサクラも言う通りに、どうして私ら4人の誰かがやらなければならないことなのか……」

 

 さりげなくサクラの発言を非難しつつ、フキはミッションの重要性について意見を唱えた。

 それについて楠木は、必要以上なことは言わないよう、どこか言葉を紡ぐように口を開く。

 

「悪いがこの人物について詳しい情報は秘匿とさせていただく。お前の正義感が罪なき一般人を襲うことに反対するのは致し方ないと理解はしている。私自身もいきなり"ファーストリコリス"に出てもらおうとは思っていない」

「秘匿……」

 

 その楠木の何かを隠すような言葉に、フキは逆らえながらも、不服の表情をにじませる。

 そして楠木が言ったファーストリコリスというワード。これはフキが来ている紅い服を指す言葉。

 サクラが先ほどサードというワードを格下と発言した。よってファーストとサードの間を取るにサクラが来ている紺色の制服を、セカンドリコリスと呼称されることだろう。

 つまり序列的には、サクラとエリカより、フキはえらい――ということになる。

 現にサクラとエリカは、フキに対して一歩引いた態度をとっている。

 そして、ファーストを指す人物は、ここにもう一人いる。

 さきほどから一切発言をしていない、長い黒髪の少女。拳銃を持った少女である。

 その少女の名は、井ノ上たきなという。

 

「というわけで、このミッションはサクラかエリカのどちらかに受けてもらおうと考えているわけだが……」

 

 その楠木の発言に対し、等々たきなが、その口を開いた。

 彼女の口から出た、その言葉とは……。

 

「……楠木教頭、ファーストリコリスの権限の元、その写真の人物は私にやらせてもらえませんか?」

 

 なんと自ら、たきなは千束の襲撃を買って出たのであった。

 そのたきなの発言に、サクラが食って掛かる。

 

「おいたきな! なにあたしらの仕事横から奪い取ろうとしてんだよこらぁ!」

 

 そのサクラの怒号に対し、たきなは冷徹に言葉を返した。

 

「ファーストリコリスはあらゆる状況にて"独自の判断"でミッションを遂行できる権限を持っている。乙女さんもご存じでは?」

「ぐっ! じゃあてめえはその大した抵抗もできないかもしれない、一般人かもしれない入職予定の職員を、自分の判断でリンチにしようってことかよ!?」

「……」

 

 納得のいかないサクラに対し、たきなはまるで塵でも見るかのようにサクラを一瞥する。

 序列的にはたきなはサクラより上。そしてたきなにとってサクラは一介の格下の生徒でしか過ぎない。

 そこには、クラスメートとしての感情すら、持ち合わせていないといった冷静なまなざしをサクラに浴びせる。

 

「たきな、てめぇ……」

 

 そこに同じファーストリコリスのフキがたきなをにらみつける。

 強い正義感、揺れぬ信念を持っている彼女にとって、たきなが自らが選びやろうとしていることに何の意味があるのか。

 ただ己が力を振るい相手を一方的に下す。たきなが今行おうとしていることはそのようなことかもしれない。

 そこには、彼女が信条としている正義など、存在するものか。

 それとも、たきなには何か考えがあるのだろうか。

 そのたきなの進言に対して、楠木は小さく微笑み、口を開く。

 

「……わかった。ターゲット錦木千束は、お前に一任しよう。そしてこの任務には――"ラジアータ"を使え」

 

 その楠木の言葉に、たきな以外の3人はただただ驚愕していた。

 

 ―――そして話は冒頭に戻る。

 

 突如として謎の生徒に銃を向けられた千束。

 どうして? なぜ? てか女子高生が拳銃?

 いったい何が起こっているのか、千束は突きつけられた拳銃を見て、反射的に両手を上にあげた。

 

「ちょちょちょちょ! なになになに!?」

 

 それはおそらく呑気な千束ではなくても、同じような反応をするであろう。

 現代社会で、一般人がいきなり拳銃をつきつけられることなどあっていいのだろうか。

 世間的に銃刀法違反という言葉がある。なら、女子高生が持っているそれは、モデルガンか何かだろうか。

 

「た、ターゲットって? 私、何かしました?」

 

 とりあえず千束はたきなにそう問いただす。

 だが当然というべきか、千束は何をしたわけでもない。

 そこにいるたきなは、ただ学校の教頭に、錦木千束を始末して来いと言われたから銃を向けているだけである。

 

「ていうかその銃……本物?」

 

 いや本物であってたまるか、千束は色々頭の中で考えられることを思考する。

 そんな千束に、考える時間を与えるわけもないのが、目の前にいるアサシンである。

 そして、千束がまさかの可能性を考える時間よりも早く、それは起きてしまった。

 たきなが、何のためらいもなく、その冷徹な表情を向けて。

 千束に銃を、ぶっ放した。

 

 バン!

 

 喫茶リコリコ残り数メートルの場所。周りは住宅街。

 そこに1発の銃声が鳴り響く。

 そしてその銃弾が千束の間近で顔に向かって撃たれる。

 その時であった。リコリスと呼ばれる4人の生徒の誰もが、ただの一般人だと思っていたそこにいたターゲットが。

 たきなの目の前で、信じられないことをやってのけたのであった。

 

「!?」

 

 その銃弾、目の前で撃たれたそれを――千束は避けて見せたのだ。

 その光景を目の当たりにして、今まで一度も冷徹な表情を変えなかったたきなの表情が、動揺のモノに変化した。

 そしてそのたきなが目の前に起こっている事態について脳内で整理がつくその前に、千束は拳銃を奪い取ろうと手を出した。

 本来、銃を避けた人物は、避けたすぐ後にそんな行動を成せるはずがないのである。

 なら千束がすぐさま銃を奪いるという選択を取れたのか、考えられることは一つ。

 

 ――錦木千束は、その銃弾を避けられると理解した上で、避けたからに他ならないからだ。

 

「ぐっ!?」

 

 千束のその行動に対して、たきなは動揺を抱きながらも、銃を奪い取られまいと反応して千束の手を振り払う。

 そして次の行動に即座に移るたきな。それを見て、千束はするどく頭を回転させた。

 起こっている事実、現状。それらを整理するのと同時に理解、思考を行う。

 

(……この子、慣れてる)

 

 まず千束は、少女がこの場においての対応の慣れについてを理解した。

 つまり拳銃を扱うこの少女が、いくつものこういった場を経験していること、そしてそれにおいて順応していること。

 千束自身も、過去に大きな争いを経験し、数多の実力者を相手にやりあった過去を持つが。そんな彼女から見ても、井ノ上たきなは戦い慣れすぎていること。

 そしてその次に、撃たれた銃弾に目を配った。

 一瞬後ろを見て、着弾した場面を見る。

 後ろの電柱にぶつかったのだが、ぶつかった個所から紅い煙が出ている。

 それはまるで、血のりのようなものに見えた。それは小さい何かがぶつかってはじけ出たものと認識する。

 このことから、あの銃から撃たれたのは、本物の銃弾ではないことを理解した。

 わずか一瞬の出来事からそれらのことをすべて理解し把握する。錦木千束の目の前の銃弾すら避けうるその眼は、眼に移した一瞬ですべての情報を彼女に開示するのである。

 それこそが、錦木千束の持つ、一種の才能であった。

 

「……」「……」

 

 互いが互いを睨みあう。

 相手はどれだけの実力を持つか、それに対し自分がどう動くべきか。

 たきなの方は、いまだに信じられない千束のその恐るべき行動に対し、動揺を隠しきれてはいない。

 だが、すぐに次の行動に移れるよう、思考するのはやめない。

 対して、千束の方は……。

 

(――近くには喫茶リコリコがある。そしてここは住宅地。こんなことを、長々とやっていては……)

 

 この状況を、どう打破するかどうか。

 

(――1つは、あの子から銃を奪い取ること。そして戦力を無力化することができれば。だが、あの状況で奪い取れない以上、簡単にはいかないだろう)

 

 たきなから銃を奪い取ることができれば、彼女は武器を失い戦力が低下する。

 だが、それをするとすれば、間違いなくここで戦闘が起こってしまう。

 千束が危惧するのは、この戦闘において起こりうる、周りへの被害。

 ならば、時間をかけることはできそうにない。

 

(――そしてもう一つは……。だが、これをすると)

 

 そしてもう一つ。これは千束的には取りたくない選択肢であった。

 だが、手っ取り早くこの状況を打破できる秘策でもあった。

 千束から苦悶の表情がにじみ出る。選択の時は近い、ゆっくりと考えさせてくれる時間もなく。

 そしてたきなは千束が選択を終えるよりも早く、先制を取る。

 

「くそっ!!」

 

 もう迷う時間はない。

 たきなの素早いフットワークに合わせ、千束は銃を奪おうと手を動かす。

 だが、たきなはその千束の懐に入り込み、千束の腹部に銃を押し付ける。

 

「!?」

 

 こうすれば、至近距離で銃弾を避けられる千束でも、銃弾を受けざるを得ない。

 銃を奪い取ることを予測し、たきなはこの行動を思いつき実行したのだ。

 当たらなければ、当たることが確定する距離で、銃を押し付け打ち込めばいい。

 

 ――互いに眼が合う。

 たきなは対象を排除する。ただそれだけの冷徹な眼光を千束に浴びせる。

 それは、当たり前の勝利であると。ただそれだけを、それ以外の感情など皆無。

 そして千束はこの状況による敗北を認め、だがそれでも完全な負けを認めてはなるまいと、たきなを睨みつける。

 今は負けを認めよう。この場はあえて負けを選択しよう。

 だが――次相まみえる時は。

 ゆめ忘れるなと、お前はこの場で勝ったわけではない、勝ちを――拾わせてもらっただけであると

 

「……」「……」

 

 時間にして一瞬、だが二人の間に流れる時間はそれよりも長く感じられたであろう。

 この時この瞬間だけでは終わらない。千束とたきなの因縁は。

 

 ――それはまだ、一つの戦いの開戦の狼煙にしかすぎないことを。

 

 バン!!

 

 銃声が響き渡る。

 

 井ノ上たきなにとっては当たり前の勝利に聞こえるそれは、錦木千束にとっては、苦い敗北に聞こえる――開幕のベルが鳴る。

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