リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第10話です。


第10話:chapter1-3-そして千束は動き出す。

「……おっそいなあいつ」

 

 時刻は夜8時過ぎ。クルミはいつまでたっても喫茶店に来ない千束に対して小言を口にする。

 千束がスーツを買って喫茶店に来る予定なのが夜7時ごろ。約束した時間から1時間ほど過ぎている。

 彼女は若干適当なところがあるが、時間にルーズなことはめったにない。

 遅れるということは何かあったか、にしても連絡の一つもよこさないのもおかしい。

 

「ひょっとしてなんかあったんじゃないか? 事件に巻き込まれたとか」

「事件って……。一昔前ならしょっちゅうあったかもしれないがすっかり平和になったこの街で、しかもあいつが時間が押すをほどの事件なんてよっぽどなことだろうよおやっさん。そんなことがあったとしたら僕らの耳にも届く」

「まぁそうだな……」

 

 ミカの推測に対してクルミは冷静にそう返した。

 かつてのこの街ならば、事件、騒動など当たり前のように起きていたことだろう。

 だが今世間でこの国の中でも最も平和とされている街で、事件なんてものは全く起こることはない。

 だとしたら千束が連絡もよこさず遅刻をするとはどういう理由だろうか。その後も時間だけが刻々と過ぎていき。

 耐えかねたクルミが喫茶店の扉を開け外へと出る。

 

「ちょっと様子でも見てくる」

「おーう、気をつけてなぁ」

 

 そしてクルミが様子を見に外へ。

 ミカはその間に喫茶店の食器を洗ったり、テーブルを拭いたりして待っていた。

 そしてそれは、数分も経たないうちに事が動いた。

 なにやら外から何かが引きずられる音と、クルミのうなり声が少しずつ喫茶店に近づいてくる。そして……。

 

「おやっさーーーん!!」

「ん!? どうしたクルミ、こんな夜に近くに民家もあるんだから叫ぶもんじゃ……」

「千束が……。千束が道の真ん中で倒れてたんだーーー!!」

「なにーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 つい自分で近くに民家があるから叫ぶなと言ったミカがクルミ以上に大声で叫ぶほどの驚きを見せ。

 クルミが引きずってきた千束を見て駆け寄る。

 千束は息も絶え絶えのほど疲弊している状態。これはただ事ではないことが二人にすぐに伝わるほどであった。

 

「千束! しっかりしろ、何があったんだ!?」

 

 ミカにとって千束は娘も同然の大切な存在。

 そんな彼女がこんなにもボロボロになっていては、落ち着かないもの無理はない。

 

「うっ……。うぐっ」

「千束……。千束!! クソ、誰が、誰が千束をこんな目に合わせたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぐえええええええええええええええええ!!」

 

 ミカはもはや意気消沈な千束を叫びながら力いっぱい抱きしめる。

 これには思わず千束も苦しそうに叫び声が喫茶店内に響き渡る。

 どうやら声が出る限り、命に別状はないようではある。最も今のミカの行為で残されたわずかな灯が消えてしまうことも十分あり得るのだが。

 そして案の定これがとどめになり、千束はチーンとうなだれてしまった。

 

「うぅ……。千束よ、こんなところでお前は……。済まぬシンジ、お前が残したものをマモレナカッタ……」

「千束~。こんなところで死んでしまうとはなにごとか~」

「生きてる!! 私生きてるよーーー!!」

 

 ミカとクルミに勝手に死んだことにされそうになった千束がそうなってたまるかと言わんがごとく生きていることを宣言した。

 

「「千束!?」」

「げほっげほっ! お、おじさん水を一杯ちょうだい……」

 

 千束はよれよれになりながらも歩き出し、コップに水を汲んで思いっきり飲み干す。

 そして深呼吸をし、腹部を押さえながら近くの椅子に向かっていき座り一息つく。

 一息つき、あまり見せないであろう形相で、募りに募ったであろう感情を乗せそれを声に出した。

 

「……ふざけやがって、やりやがったなあの小娘」

 

 と悔しさと怒りが混じった声でそう言葉を口に出した。

 

「にゃ~」

「おぉ~ヨシマツ~。こんなかわいそうな私を慰めてくれるんだなぁ~」

 

 苦痛な表情の千束にかけよってくる黒猫のヨシマツを抱きかかえ癒しを感じ負った傷を癒したのち。

 千束は改めて二人に事情を説明することに。

 

「んで? 何があったんだいったい」

「あ、あぁ……。こんな時間まで待たせてまずは謝る。その、なんだ。襲われたんだよ、女子高生に」

「「女子高生に襲われた?」」

 

 千束が何を言い出すかと思えば、それは女子高生に襲われたという予想だにしなかった回答。

 それに思わずミカとクルミは声を揃えて反応した。

 

「銃を持った女子高生にここの近くで襲われた。民家も近くにあったから大事になってはまずいと思い銃を奪い取って無力化しようと思ったが、うまくいかずに銃弾を4発も腹部に撃たれてそのまま気絶してた」

「「銃で撃たれた~?」」

「最初の方は撃ってきた銃弾を避けたまではよかったが、その後一度距離を取られ、今度は零距離でバコバコ撃ちやがった。銃を取り上げようとした隙を付かれた」

「「銃弾を避けた~?」」

「……お二人さん真面目に聞いてます?」

 

 千束が説明するそれがあまりにも常識離れしすぎていたのか、ミカとクルミの反応がやたらと千束を小ばかにするような反応だったためか千束がそれを指摘する。とはいえ。

 銃を持った女子高生に襲われた。→銃弾を避けて銃を奪い取ろうとした。→そしたら避けられない零距離まで接近して銃弾を4発撃ちこんだ。

 そんなことを今起こったことですと当たり前のように説明されても、それは大変だったなと普通はなるはずもなく。

 

「そ、そのなんだ。銃を持った女子高生がどうとかお前が飛んできた銃弾を避けたとかは置いといてだな。仮に銃で腹部を撃たれたのなら、なぜお前は今も無事で僕たちと話ができているんだ?」

「食らって死ぬほど痛かったが、感触がゴムみたいだった。 撃ってきたのは実弾ではなかったからなんとか生きてはいる。その……。フランジブル弾ってやつ?」

 

 千束はとりあえずそれをフランジブル弾だと仮定して二人に撃たれた感触を伝える。

 それを聞いてクルミは冷静になってこう返した。

 

「フランジブル弾だとしても人体に撃ったらただじゃすまないだろ普通……」

「対人に撃っても殺傷能力のないフランジブル弾。聞いたことがないな……」

 

 元警備会社でその筋にも知り合いの多いミカも、そんなものの存在は初めて知り驚愕している。

 そしてそんなものをなぜ女子高生が所持しているのか。

 それも、皆が住みたい街と公言しているほどのこの平和な街で、

 銃を所持している女子高生が、夜道で千束を襲い銃弾を撃ち込んだ。

 それはどう考えても、普通のことではないと実感する。

 

「わかった。仮に銃を所持する女子高生がこの街で存在するとして、なぜお前が襲われる?」

「……制服の色は違ったけど、DA学園の制服だった」

「お前がもうすぐ入職する予定の学校だよなそれ。その学校は生徒に銃を持たせているってことになるぞ。異常だろそれ」

「……」

 

 クルミの冷静な言葉に対し、千束はつい黙ってしまった。

 これから入職する予定の学校が、なにやらとんでもないところかもしれない。

 しかし千束にとってはその要素は割かし重要とは捉えていなかった。

 彼女が不安視しているのは、銃を所持した女子高生がこの街にいるということ。

 それが何を意味しているのか、そう……。今この街の平和が崩れる要因になるのではないか。

 その要因がDA学園にあるのならば、その要因を取り除く命が、自分にかかっているのではないか。だが、それは……。

 

「千束お前、何考えてる?」

「クルミ……」

「……僕たちはもうやることはやっただろ? 今から"10年前に僕たちの役目は終わったはず"だ。それがすべてに影響を与えているわけではないが、だからこそこの街の今がある」

「……」

「仮にこの街で何かが起ころうとしていたとしても、それをお前が背負う必要はないんだ」

 

 今から10年前、この街は怒りと苦痛、悲劇に満ち溢れていた。

 荒れた若者とそれを利用しようとする悪い大人たち、それに怯える街の住民。

 この街は荒んでいた。今では考えられないほどにそれは町全体での闘いの日々であった。

 それを千束はどうにかしたくて、この街で済む人たちの笑顔を守りたくて、クルミや他の連中とともに戦い続けた。

 その上で10年の月日が経って、平和となったこの街に戻ってきて、またも彼女には街の安寧をかけて戦う使命を神は与えるのか。

 それを千束が受け入れざるを得なかったとしても、彼女の功績を知る者としては、それを易々と認めるわけにはいかなかった。

 

「……」

 

 千束は少し考えて椅子から立ち上がった。

 そしてスマホを取り出し、どこかに電話をかける。

 その相手は、DA学園の本校であった。

 

「……学校に直接聞いてみる」

「千束。お前……」

「私に考えがある」

 

 クルミの心配をよそに、千束は電話をかける。

 他の二人にも通話内容が聞こえるようにスピーカー設定にする。

 そして5コール、6コール程鳴ったところで、電話に反応があった。

 

『はいこちらDA学園、教頭の楠木ですけれども』

 

 電話に出た相手は、学校の教頭である楠木という人物であった。

 その相手に対し、千束は一息ついた後、精一杯できる他人行儀の声色で話をし始める。

 

「もしもし~。わたくし後日入職予定の錦木ですけれども~」

『……あぁ、以前面接に来られた』

 

 千束の声を聴いて、楠木は特にこれといった反応はなく淡々と答えた。

 だが千束はただ普通に電話をしているというわけではなかった。

 話相手の声のトーン、話し方の間の置き方。それら細かなことを意識しつつ。

 仮にもし、自分を襲ったやつに対して指示を出した人物なのだとしたら。千束が呑気に電話をかけてくることの意味を理解しているはずだ。

 だからこそ千束は、いかにも何もなかったかのように苦痛を押し殺してごく普通に電話をかけたのである。

 

『どうされました? 何かご用事でも』

「いやですね~。つい先ほどそちらさんの制服を着た女子生徒がですね、銃を構えて私に襲い掛かってきたってことがありましてねぇ~。でも制服の色が違ったし、何かご存じかなぁと」

『うちの生徒が銃を?』

(ずいぶん率直に話題振ったなこいつ……)

 

 他の人が聞いたら首を傾げそうな内容を、まるで犬のう〇こを踏んだみたいなノリで学校側に説明をする千束。

 普通ならそんな話信じてはもらえないどころかまともに聞いてもくれないはず。

 むしろ学校の品位を疑っているともとられる内容。なのだが相手側の反応はというと。

 

『……そうですか。いや実はですね』

「実は? なんか困っていることでも?」

 

 どうやら話は、思っているよりも意外な方向へと舵を取られそうな雰囲気だった。

 

『最近うちの生徒を名乗って街の住民を襲っている輩がいると学校に話が来ておりまして。もしかしたらそれと同じ件かもしれませんね』

「あ~。そうなんですか~」

『そういえばあなたもうすぐ入職予定なんですよね? ならうちの学校のためにその件を調べていただいてもよろしいですか?』

「なるほど~。そういうことなら任せてください! 私そういうのは得意ですから!!」

『頼りにしてますよ、錦木先生』

「大船に乗って待っててください! ではまた何かわかったら連絡しますので!!」

 

 そういって千束はいたって普通のことのように会話をして、何の違和感も抱かず通話を終了した。

 そして使命感に満ちた表情で、ミカとクルミの方を向いてこう言葉を吐いた。

 

「ということなんで、明日から犯人捜しをしたいと思います!!」

「「いやいやおかしいおかしい!!」」

 

 流れるような会話内容に対しミカとクルミは待ったをかけた。

 

「どうしたお二人さん。何か不明な点でも?」

「どう考えたって学校側がクロだ! 銃を持った生徒に対しても違和感を抱かず、そんな危険なことを入職前のお前におつかいのようにあっさり依頼をする。どう考えてもお前を嵌めようとしてるだろ!」

「う~ん。そんなことはわかりきってますよぉ~。故にこの錦木千束、受けて立つと言わせていただこう!!」

「お、お前ってやつは……」

 

 もう困っているのか楽しくなっているのかわからない千束のその反応にクルミは呆れ顔。

 

「それにさっきの教頭。ほぼ間違いなく例の件に絡んでるなこれ。私の態度に対し若干ではあるが動揺が感じられた。これはなんというか、予想はしていたがまさかここまでとは……。といったような声色だった」

「さっきの何気ない通話でそこまで感じ取ったのかお前?」

「あくまで想像ではあるけれど。そして……。相手側はおそらく私の過去を知っている」

「……逆に相手がお前を脅威だと感じているとでも?」

「それはもう相手の出方を見てみなければわからない。ってことだから、街に返って来て早々また争いに首を突っ込むことになってしまったな」

 

 そうどこか寂しそうに口にする千束。

 その彼女を見て、クルミは一つため息をついて決心をしたような表情で千束に向かってこう口にする。

 

「はぁ……。僕も手伝うよ。拳銃持った相手とはやったことがないからどうなるかはわからないが、今もそれなりに戦えるつもりだ」

「……それは心強いな、頼りにしてもいいかな? 狂瀾怒濤のウォールナット?」

「ちっ……。大人になってからそう呼ばれると恥ずかしいからやめろ」

 

 こうして千束は、街に戻って来て早々事件を解決するために動き出すことに。

 

 ――そしてそれが、後の彼女のクラスの生徒にして、彼女にとって呪いにもなる"リコリス"との邂逅となることを。

 

 この時の彼女はまだ、知る由もなかった。

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