リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第12話です。


第12話:ミッションー千束の入室を阻止せよ!

「はーい、みなさんおはようございま~」

 

 バンバンバン!!

 

「……すぅ~」

 

 教室へ入った瞬間に容赦なく銃弾を3発も撃たれ、それを涼しい顔で避ける千束。

 そして銃を撃ってあっさりと避けられたことに苦い顔がにじみ出るたきな。

 こんなやり取りは今に始まったことではない。割とお決まりの出来事である。

 だが教師としてただ教室に入ってきただけなのにあいさつ代わりに顔面に向かっていきなり銃を撃たれる本人としてはたまったものではない千束。

 深いため息をついて教壇について、出席を取る前に文句を口にする。

 

「あのね。君たちが特殊な戦闘訓練を受けている学生だってことは理解していますよ。ですが私クラスの担任、学校の先生、つまりは味方なわけですよ。攻撃する相手間違えてますよたきなさん」

「ちっ……」

「ちっ……。じゃねえんだよ何舌打ちしてんだよ舌打ちしたいのはこっちだよ。おたくの学校は生徒にどういう教育をしてるんですか?」

「教育してんのはおめぇだろ……」

 

 千束は被害者の目線で学校の生徒の教育が行き届いていないことにクレームを入れるが。その生徒を教育するのは千束自身だろとフキがツッコミをいれる。

 

「そもそも君たちね、先生に対しての敬いが日ごろから足りてないんだよ。私ティーチャー。君らスチューデント。OK?」

「急に英語使うんじゃねえようぜぇな……」

 

 千束の気に障るような回りくどいしゃべり方に対し、いい加減出席を取って授業を始めてほしいフキ。

 一方で千束を攻撃したたきなはというと、千束の話など聞くつもりもなく銃に弾を詰めている。

 他の生徒も千束を笑ったり、好き勝手におしゃべりをしたりなど、千束の言う通り全体的に教師への尊敬心が欠けているD組の面々。

 この状況に対し、千束は思いついたようにこんなことを口にした。

 

「もうわかりましたよ。そんなに先生がうざいなら先生を教室に入れなければいいんだわ。私を教室から追い出せばいいのだわ」

「なにわけのわかんねぇこと言ってんだお前は」

「ということで私は考えました」

 

 フキのツッコミなど無視して、一方的に話を進める千束。

 その内容とは、なんとも急すぎるとんでもない内容であった。

 

「来週の月曜日から5日間。私と君たちとでとある勝負をしたいと思います」

「勝負ですか? いいですよ先生来週からと言わず今からでも始めましょうさあ始めましょう! ここ最近苦汁をなめさせられている分10倍にして返してあげますよ先生!」

「焦るなよ狂犬たきなちゃんよぉ。話はちゃんと聞きなさい。私とお前のサシの勝負じゃなくて、私個人と、D組リコリス全員との勝負だ」

 

 と、突拍子もない内容を話し始める千束。

 自身とリコリス全員との勝負とは、その詳細とはなんなのか。

 

「私が教室に入室すると攻撃を加えるということは私の入室を阻止しようとしているってことでしょ? なので月曜日から金曜日まで1日でも私が教室に入室できないということがあったら君らの勝ち、1日でも私の入室を阻止できなければ君らの負けだ」

「その勝負になんの意味があるというのか……」

「君たちリコリスが私を敵と認識しているのならば、敵を本拠地(この場合教室)に侵入させた時点で君たちにとっては大打撃というわけだ。本気で敵の侵入を阻止したければ全力を出せということだ」

「……なるほど。要は訓練みたいなもんだな?」

 

 その千束の回りくどい言い回しに対し、フキはとりあえずそう認識して納得する。

 千束が好き勝手言っている勝負は、言い換えればリコリスの訓練にもなる。

 千束はリコリスとしてもラスボスといってもいいくらいの強大な存在。今は教師として味方側ではあるが、いつ敵になるかわからない存在でもある。

 その千束の挑戦に対して無事乗り切れば、リコリスの組織力としての向上にもつながるのである。

 

「当然君たちが負けたらリスクを負ってもらうよぉ~。君たちが負けたらその週の土日の休みは無しで特別補習だから」

「えええええええええええええええーーーーーーーーー!!(生徒全員)」

 

 その千束のリスクの提示に対して生徒全員は悲鳴を上げ千束にブーイング。

 土日は任務を除けば生徒たちにとっては貴重な休み。プライベートを千束に奪われるということ。

 これは何が何でも勝たなければならない。D組の生徒たちはこの勝負への心持ちを改める。

 しかし、リスクを負うのが生徒だけというのもおかしな話。当然、千束にも負けた場合の罰が必要だろう。

 

「で? 先生が負けた場合はどう代償を払ってくれるんですか?」

「うっ……」

「一方的に私たちに勝負を仕掛けておいて自分が私たちに出し抜かれたときに、よく頑張りましたで済ますなんてお門違いですよね先生。まさかと思いますが、そんな大人の汚さを前面に出すなんて、かつて千手観音(笑)、サウザンド(爆笑)なんて恐れられていたほどの先生が、リスクを何も払わないってことはないですよねぇ~」

「たきな貴様、言うじゃないかおい……」

 

 たきなに煽るだけ煽られて、千束も(当たり前ではあるが)負けた時にリスクを提示する。

 

「……駅前にス〇バで全員好きなの1品ずつ自腹でおごります」

 

 それを聞いて生徒たちはそろって気勢を上げた。

 ちなみにD組全員で30人ぐらいいるため、一人700円くらいだとしても2万円くらいの出費にはなる。

 社会人としては割かし大きな出費であるため千束はなるべく回避したいところ。

 

「ふ~んだ! どんな手を使おうが私は教室に入っていくんだから! このクラスの教師として君たちを待たせるなんてことはしないんだから! だって君たちのこと……大事だからさ」

「なに言ってんだ気持ちわりぃな」

「君たちのこと……愛してるからさ(ボソッと小声で)」

「いいからさっさと出席取って授業始めろ(怒)」

 

 本心なのかおちゃらけているのかわからない千束のその言葉に対してフキは無常にも冷静にツッコミを入れる。

 こうして千束とリコリスの、千束の教室入室阻止訓練? が始まるのであった。

 

 ―――1日目。

 

 そして週明けの月曜日。

 千束の入室阻止勝負の初日。

 ちなみにあの後この勝負に関して詳しいルールが説明された。

 ルールを設けた理由は、ただ千束を教室に入れないというだけならばありとあらゆる手段が取れるからであった。

 例えば千束が出勤してこれないように車を動かなくする。千束の住むアパートにリコリスを配置して強襲することで学校にこれなくする、みたいなことだろう。

 対して千束側も、5日間教室内に泊まるといった無茶苦茶なやり方もできるため、そういったことがないように公平さを設けるためのルールである。

 

 ①生徒は8時までに学校に登校すること。そして9時までに全員が教室内にいること。遅刻は基本的には厳禁。

 ②千束は普段通り8時ごろに出勤し、教室の入室は8時半から9時までの30分間。9時を過ぎた時点で教室内にいなければ千束の負け。

 ③8時半~9時までに千束が教室に入ってきたらその時点でリコリスの負け。

 ④リコリスの千束の妨害並びに千束の入室行為に関しては学校の敷地内のみ(千束の出勤そのものを妨害が可能、逆に生徒の登校も妨害できてしまうため)。

 

 これら4点を守れば後はどんな手段を使ってもよい。

 前日に学校に残って教室付近に細工をしたり、作戦を立てるのも良し。

 あとは単純な話で。千束が入室するか、リコリスが千束を入室させないかといった問題だけである。

 さっそく8時を過ぎフキは教室に全員を招集。教室の入口を固め封鎖し千束が教室に入れないようにする。

 9時ギリギリまで何名かを教室の外に配置し周りを警戒。当然たきなも教室の外で行動させている(そもそも実力勝負になった時点でサードセカンドではどう束になっても千束には強行されるため)。

 

「さてもうすぐ8時半か……」

 

 フキは教室の時計に目をやる。

 普通ならそろそろ教室にやってくる千束。

 だが相手は一筋ではいかない。なぜならあの錦木千束である。

 初日だから真っ向から教室へやってくるか。いや何かしらのひと手間を打ってくる。彼女はそういう女だ。

 言うならばそう、大人げない大人である。子供が相手だろうが容赦がない、そんな大人である。

 

「さすがに入口2か所閉鎖、廊下には10数名のサードセカンドに加えたきな様がいるんですよフキさ~ん。初日から余裕っすよ~」

「てめぇはあのクソ教師をなんも分かってない。あいつがそれらを勘定に加えないでまっすぐここへ来ると思うか?」

「ま、まあ確かにそうっすけど」

 

 フキとサクラがそんな会話をしていると、時計は40分、50分を過ぎる。

 いくらなんでも仕掛けが遅すぎる。まさか警戒しすぎて教室の近くにすら来れないのだろうか。

 そんなあっけなく、初日から千束の負けになるだろうか。

 

「さすがにこれはあたしらの勝ちっすよ~」

「55分か。教室近くに先生はまだ現れない。仮に来たとしてもこのわずかな時間でたきな含め数十名のリコリスを突破して教室なんて入ってこれない」

「あっ、でも9時までに教室に全員いないと遅刻扱いで負けになるんっすよね?」

「まさかその教室のドアを開けた瞬間に入ってくるってのか? とりあえず58分になったら教室の扉の近くに集まらせる」

 

 サクラはすっかり余裕をかまし、フキはギリギリまで警戒を怠らない。

 そして時計の針は58分。

 これ以上は全員を教室内に入れる時間が作れないと、フキは封鎖していた教室の扉を2か所開ける。

 

「急いで入れ! つかマジであいついねぇな。まさかガチの遅刻かあいつ……」

 

 そして全員が入り終え時計の針は59分。

 あと残り数秒。教室付近に千束はいないのを確認。

 もう、さすがに千束に勝ち目はない。

 

「あっけなかったっすね~」

「……失望しましたよ先生。こんな幕切れとは」

「ま、何はともあれ土日の補習はこれでなs」

 

 サクラ、たきな、フキが勝ちを確認した。……その瞬間である。

 

 がしゃーーーーん!!

 

「!?」「!?」「!?」

 

 時計が9時を指そうとするその刹那。

 教室の"天井"が抜け落ちたのだ。

 そしてそこからなんと、千束が教壇のところにターミ〇ーターのあのポーズで綺麗に着地。

 その瞬間に時計は9時を指し、放送が無情にも勝負の結果を告げる。

 

『ピンポンパ~ン 1日目、千束先生の勝利~』

 

 そして生徒たちはあっけにとられ、状況を整理しきれずにいた。

 これはどういうことか。そう、千束は教室の扉から強行突破で入ってくる。といった力技など端からするつもりはなかった。

 前日日曜日に細工を行い、独自のルートで教室の上の階へと行き。

 そこから仕掛けを使い教室の真上から教室内に入室をする。という誰も予想だにできない手を使ってきたのである。

 

「はいおはようございま~す。錦木千束きちんと9時までに教室内に間に合いましたよ~」

「ぐっ……」

「うっ……」

「は、ははは……」

 

 その千束の大人げないやり方、そして勝ち誇った顔を見てフキとたきなは辛酸を舐めさせられたような表情を、サクラはなんかもう笑うことしかできなかった。

 

「さすがに上からやってくるなんて思わなかったでしょ~。してやったり~。驚いた~?」

 

 その千束の強烈な煽り芸を食らい、フキとたきなはそれぞれのラジアータを手にして。

 

「……ちょっと外の空気吸ってくるわ。とりあえず教室内にいたから遅刻にはならねぇだろ」

「春川さん。私も一緒に行っていいですか?」

「おうついてこい、お前らすぐ戻ってくるから……」

 

 そう言って二人は教室の外へと出ていき。

 

 がしゃーーーん!!

 ドカドカドカ!!

 バキン! グシャ! ドゴン!!

 

 何やらとんでもない物音が外から教室内にまで聞こえてくる始末。

 千束に一杯食わされたことが本気で悔しかったのだろう。

 フキとたきなはそれぞれの武器を使ってそこらへんで大暴れしたものと思われる。

 

 ―――2日目。

 

 初日は千束にとんでもない手で出し抜かれたリコリスたち。

 2日目は教室の扉だけでなく天井、何なら床まで徹底的に調べ千束がそこから入ってくる可能性を全てつぶす。

 入口、上、下。どこからも入ってくる余地もない。

 

「配置も昨日より強化した。これで確実に教室内には入ってこれないはず」

「さっすがフキさ~ん」

「これで教室内に入ってこれるもんなら入ってくるがいいさ……」

 

 とてつもなくやりすぎなぐらいに入れそうな場所を封鎖したフキたち。

 これ以外に教室に入れそうな場所と言われれば、外からしかない。

 一応その可能性も考えてはいた。だがD組の教室は地上から3階にある。

 さすがに千束でも、地上3階にあるこの場所に外の窓から入ってくることはないだろう。

 仮に長いはしごを使おうものならこの時点で総攻撃を仕掛けて千束を打ち落とせばよいのである。

 

「いやそれさすがにやりすぎっすよね」

「いい、仮にそうなったとしても私らは全力ではしごぶっ壊してでも、あいつを落下させてでも教室には入れねぇ」

 

 それくらいフキの精神は摩耗していた。それほどの敗北を先日に味わったのである。

 そして時刻は55分を過ぎる。廊下に配置している生徒が昨日よりも多いため早めに教室内に生徒を入れ始める。

 

「1分おきに5人ずつだ。最後の1秒まで周りの警戒を怠るなよ」

 

 そうフキが、リコリスたちを仕切っていた時。

 

 フフフフフ、フハハハハハハハ……

 

 なにやらどこから、低めの笑い声が教室内に聞こえてくる。

 

「なんだこの笑い声……」

「きゃあああああああああああああああああ!!」

「!?」

 

 その時、窓の外を見たエリカの叫び声が聞こえフキとサクラはすぐさま窓に駆け寄った。

 そこには、信じられない光景が写りこんでいた。

 

「フフフフフ……。フフフフフ……」

 

 なんと千束がスーツのポケットに手を突っ込んだ状態で、外の壁を垂直に歩いて徐々に教室まで登ってくるではないか。

 確かに外の窓からやってくる可能性は否定しきれなかったが。はしごを使う、またはヘリコプターを使用して上からやってくるということといった比較的常識的なことなど通り越し。

 まさかの、どこぞの吸血鬼か地上最強の生物がごとく、壁を歩いてここまでやってきたのである。

 これにはさすがのリコリスも度肝を抜かれ思考を停止させた。

 だがしかしこの状況ですぐに判断したのはフキであった。

 

「ま……窓を閉めて鍵をかけろーーーーー!!」

 

 窓からのぞき込むのをやめフキはすぐさま全ての窓を閉め鍵をかけるよう指示。

 これならここまで登ってきても、教室に入ることはできない。

 そして58分頃、千束は窓の近くまで到着した。

 ここから窓を割って入ってくるか。だがDA学園で使用されている窓ガラスは最新の防弾ガラスを使用しており、とても1~2分では割ることはできない。

 だが千束はその窓に対し、顔を近づける。

 そして少しずつ窓に顔がのめり込んでいき、防弾ガラスが変形し始め。

 

 パリーン!!

 

 9時になろうとするその瞬間にガラスが割れ、悠々と千束は教室内に入っていく。

 この時点で時刻は9時。そして昨日に引き続き無情にも放送は千束の勝利を告げるのである。

 

『ピンポンパ~ン 2日目、千束先生の勝利~』

 

 結局2日目も、千束はとんでもない手で勝利をもぎ取る。

 そしてこのテンションのまま、両手を思いきり広げ、高らかにこう叫んだ。

 

「グハハハハハハハ!! 俺の子を産m

 

 ―――3日目。

 

 教室の扉も固めた。

 天井も床も確認した。

 なんなら教室の窓もすべて鉄板を取り付けて入れないようにした。

 これで教室内は完全に密室。教室に入れるのはリコリスのみにし、さらに警戒態勢を敷く。

 そして8時半が過ぎて今日からは廊下に配置させていたサクラとエリカを教室内に入れるフキ。

 仮に3日目になり正面から入ってくるとしても、この二日間負けが込んでいるたきなが闘志を燃やしているため時間を稼いでくれるだろう。

 さすがにもう、千束には手の打ちようがないはずである。

 

「これで入ってくるとしたら、もう瞬間移動しかねぇ。それされたらもうぶっちゃけ私らに勝ち目はない」

「いくら先生が千の特技を持つったって瞬間移動はできないでしょ~」

「うんうん。さすがにそれは無理だよ~」

 

 フキ、サクラ、エリカの三人はさすがにそこまで千束が人間やめていないと信じたい気持ちでいっぱいである。

 そして時刻は55分。仕掛けてくるとしたら大体このあたりである。

 生徒を少しずつ教室内に入れつつ、最後の最後まで警戒を怠らないフキらリコリス。

 

「58分。さすがに大丈夫だと信じたい」

「さてとあと1分ちょい、たきなを戻します?」

「いや残り10秒まで粘ろう。たきな可能か?」

「私なら大丈夫ですよ」

 

 普段は単独行動、ワンマンアーミーなたきなもこの時ばかりは他のリコリスとの連携を意識した。

 今のリコリスは今までで一番統率が取れていると自負するほどの練度を感じさせた。

 59分。そして……。時刻は9時を回る。

 間違いなく教室内にはリコリスが全員揃っていて、そこに千束の姿はなかった。

 

「……勝った」

 

 緊張の糸がほどけたか、思わずよろつくフキ。

 それを支えに行ったのは、まさかのたきなであった。

 

「す、すまないなたきな。身体を借りる」

「かまいませんよ。……勝ったんですね、あいつに」

「あぁ。おい放送! 私らの勝利を高らかに宣言しろ!!」

 

 そうフキが天井に向かって声を荒げると。

 放送は本日の勝者を宣言する。

 

『ピンポンパ~ン 3日目、千束先生の勝利~』

 

 ………………。

 

「……はあああああああああああああああ!?」

 

 教室内がその放送を聞いた瞬間、氷河期がごとく凍り付いた。

 なんと放送は、千束の勝利を口にしたのである。

 これにはフキも納得がいかない。間違いなく教室内には遅刻者がおらず、千束がいないのである。

 

「どういうことだ!!」

 

 これはいったいどういうことなのか。

 なにがなんだかわからず混乱していたその時、教室へ向かって走ってくる足音が聞こえてくる。

 そして教室に入ってきた人物は、予想だにしない人物であった。

 

「ご、ごめん! 遅刻しちゃったよーーー!!」

 

 そう教室に入ってきたのは、蛇ノ目エリカであった。

 そんな馬鹿なはずはない。なぜなら教室内には、エリカの姿がある。

 そう、今この時、エリカが二人いることになるのである。

 

「エリ……カ……? な……ぜ……?」

「40分くらい前に階段付近を見に行ったら、急激に眠気が来て。気が付いたら下の教室で眠っちゃってて」

 

 そのエリカの言葉が終わるのと同時に。

 さきほどまでフキたちがエリカだと思っていた人物が。

 笑みを浮かべ顔に手をやる。

 

 ビリビリビリ……。

 

 そして顔の皮を破り、その正体をあらわにした。

 それはなんと、エリカに変装した千束だったのである。

 その千束の姿を見て、フキは身体を震わせにらみつける。

 

「き……きさ……貴様……」

「学校に来た段階で蛇ノ目さんに化けててねぇ。うまいこと他のリコリスを誘導しつつ、時折本物と入れ代わり立ち代わり、一人になったところを千束アイ(とりあえず適当に命名)で蛇ノ目さんを寝かせましてね☆ えーとそれから~」

 

 ―――4日目。

 

 この日から廊下へのリコリスの配置をやめ教室内に全員揃った状態にすることを提案するフキ。

 教室に入ってくるリコリスらを互いに頬をつねって千束の変装ではないことを確認しあう。

 そして下手に廊下に配置するとリコリスをうまいこと利用して教室内に入るための手段にされるのを防ぐ。

 もうこうなったらあえて正面からやってきた千束を教室に足を入れるより前に攻撃をして追い返し。

 それから9時まで教室に入れさせない作戦を取った方が安全策なような気がしてきたリコリスたち。

 残り二日。こうなったら真っ向からの勝負で千束に勝つしかない。

 こちらにはたきなもいる。30分教室の外で足止めをすることも難しくはないだろう。

 なんだったらもう、最初からそうした方がよかったまである。

 

「あーーー!!(怒) うぅーーー!!(怒)」

 

 負け続きで不眠症状まで出始めたフキは怒りのままに唸りをあげ、模造刀で教室内のものをバンバン叩いてきた。

 それにはサクラ、エリカも怯えを隠せずにいた。

 

「フキさ~ん。ちょっと落ち着きましょうよ~」

「落ち着けだとてめぇ? 私はもう爆発寸前なんだよ。今日だって一睡もしてねえんだよそれでもって普通に任務とかもこなしてんだぞこちとらはよぉ~」

 

 サクラの声掛けに対してもフキは目を充血させて威嚇するように返答する。

 

「まったくですよ。おかげで私も夜も眠れなくなりましたよ」

「おめえは基本授業中に寝てんだろうが!!」

 

 たきなも眠れなくなったと言うが基本彼女は授業中に爆睡しているため本当だとしても特に問題はない。

 フキのツッコミをよそに、時刻は8時半。

 千束が入室可能な時間である。真正面からくるのであれば、30分も猶予のあるこの時間に仕掛けてくるだろう。

 

「さあ来いよ千束先生よぉ~。この菊一文字改(フキが愛用している刀型ラジアータ)の錆にしてやるぅ~!!」

 

 そう好戦的に構えるフキだが、千束は教室へ入ってくる気配がない。

 やはり正面から教室に入ってくるという愚策はしないということなのか。

 だが変装対策も完璧。正面の扉以外からはもう入りようがない。

 教室に入るためには、正面から教室内の全員のリコリスを相手にする他はないのである。

 

「フキちゃん大丈夫かなぁ……」

 

 席に座りフキの心配をするエリカ。

 そしてエリカが教室の机の教科書入れのところに教科書を入れようとした時であった。

 そこになにやら大きな幕のようなものと、ボタンのようなものが入っていた。

 そしてそれと一緒にメモ書きが入っており。その内容は。

 

『8時半すぎたら教壇に行ってその幕を広げて、その後そのボタンを押してね☆』

 

 と書いてあったのである。

 

「……」

 

 エリカはとりあえずよくわからないが、幕とボタンを教壇まで持っていく。

 

「どうしたエリカ?」

 

 フキはそのエリカの謎の行動が気になり声をかける。

 そしてエリカは幕を教壇の近くで広げて、ボタンを押した。

 

 ドゥルルルルルルルルルル!!

 

 ボタンを押すとドラムロールが教室内に流れた。

 そして広げた幕をエリカが取り除く。

 そこから現れたのは。

 

「じゃーーーん!!」

 

 なんとそれは千束が事前に仕掛けたイリュージョン。

 何もないところから千束が登場。

 そして何がなんだかわかっていないエリカに声をかける千束。

 

「行くよ蛇ノ目さん」

「え? なに?」

「なにって手品が成功して言うことといったら一つでしょ~」

 

 そして千束とエリカが口をそろえて他の連中に対しポーズをとって。

 

「「はい! てじな~にゃ!!」」

 

 と、特大のイリュージョンを成功させ、拍手喝さい……とはならず。

 

『ピンポンパ~ン 4日目、千束先生の勝利~』

「エリカてめぇ裏切ったなぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「んぎゃあああああああああ!! 違うよ私もなにがなんだかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 フキはエリカに怒り狂い思いきり刀を振りかぶった。

 こうして二日連続エリカを利用して勝利した千束。

 ありとあらゆる手を使う千束の巧みな技術に、リコリスの勝機はあるのだろうか。

 

 ―――最終日。

 

 天井からの入室。

 3階まで壁を垂直に歩いての入室。

 他の人物に変装しての入室。

 そしてイリュージョンによる入室。

 チャンスはこの最終日、1日のみ。

 日を追うごとにとんでもない手でリコリスを出し抜く千束。

 常に予想だにしない方法で教室に入ってくるその技術。

 いったい最終日は、どんな手を使用してくるのだろうか。

 

「……無理じゃないっすか?」

 

 サクラの軽い一言が、すべての答えな気がした。

 ぶっちゃけ先日のイリュージョンが、千束を阻止できないことをリコリスたちに理解させるのには充分すぎる決め手であった。

 あんなことをされたら阻止も減ったくれもない。このままだと最終日は時間操作とか完全催眠とかやりかねない勢いである。

 

「……考えるんだ。あいつの全ての能力、これまでのされたこと、経験、あいつの性格を読み取れ」

「意外と最終日は正面から入ってくるかもしんないっすよ?」

「それだけはありえない。あいつがそんな単純な手を使うわけがないんだ。もしかしたらもう、あいつの術中にハマっているのかも……」

「考えすぎじゃないっすか?」

 

 フキはもうパンクする寸前まで思考を巡らせていた。

 

「あいつの特技、能力。あいつが最も得意としていることは……」

「眼……ですよね?」

 

 フキとたきな、二人のファーストリコリスがもう二度とあるかないかわからないほど互いに協力し合い千束の対策を考えていた。

 もしかして千束はこうなることを見越していたのではないか。いやきっとたまたまであろう。

 

「眼を利用する。つまり視覚情報を利用して私らを出し抜くってことか?」

「千束アイ(とりあえず適当に命名)が可能なことは、飛んできた弾丸を見切りそれを避ける動体視力。あとは……催眠?」

「やはり催眠! 最後は催眠だ!! もうそれしかありえない!!」

「仮にそうだとしたらもうあたしらに勝ち目ないっすよね?」

 

 フキもたきなも考えすぎてわけわからないことを口走っており、サクラが冷静にツッコミを入れる。

 そう、仮にリコリス全員を催眠にかけれるほどの技術があるのなら、もう皆が催眠にかかっていることになるから、対処のしようもないのである。

 というかそもそもリコリス全員にかけれる精度の催眠とはなんなのだろうか?

 

「正面から入ってくる以外で……」

「先生がやりそうなこと……」

「あいつの性格の悪さが……」

「武器になるようなことは……」

 

 フキとたきなはこれ以上にないほどに千束という人間を思考する。

 そしてこの勝負は、予想だにしない終わりを、急に迎えることになるのである。

 

 ガラガラガラ!

 

「おはようございます~」

「「いや普通に教室に入ってくるんか~い!!」」

 

 千束は最後の最後で割と普通に正面の扉から教室へと入ってきて、この勝負はリコリスの敗北で終わった。

 フキとたきなは声を揃えてツッコミを入れる。

 

『ピンポンパ~ン 最終日、千束先生の勝利~』

「ほら~。だからあたし言ったじゃないっすか~?」

「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

 

 そしていらないことを言ったサクラをフキは感情のままにぶちのめす。

 結局土日、フキたちは屈辱をその身に抱えながら千束の補習を受けたのであった。

 ちなみにこっそりと千束はエリカにだけはス〇バをおごった。後日バレてエリカはフキにぶちのめされたのはまた別の話。

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