リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第14話です。


第14話:怖いものは怖いのです~後編~

 車を走らせ数時間。

 指示された噂のスポットに到着した二人。

 街のはずれ、住宅が並ぶその土地の坂の上に、それはたたずんでいた。

 その風格たるや、例えるならば立派なお城であった。

 なぜ変哲もない住宅が立ち並ぶ場所にこんなお城があるのか。

 そしてそのお城みたいな建物が何なのか。

 それを目にした千束は、何かを悟り表情を曇らせる。

 

「おい、ここってよ……」

 

 千束にはそこがなんの廃墟なのか、わかりたくなくてもわかってしまった。

 当然そこは大人ならばすぐに理解できてしまうが、そういう類の話には一切無縁であろうたきなには理解は難しいだろう。

 確かに今を生きる女子高生ならば、こういう場所は噂には聞くだろうし、理解をする年頃ではあるだろう。

 だが隣にいるのは悪を捌く戦闘狂。趣味という趣味もなければ現代の楽しい女子高生ライフも全く興味のない狂犬である。

 

「さて行きますよ。……何を立ち止まっているんですか?」

 

 たきなに催促されるが、千束はそこから進んで動こうとはしない。

 先の話通り行くならば、こういう場所が得意なのはたきなよりも千束であろう。

 だが千束はたきなが理解できないような、心霊的なものとは違う意味でここに入りたくないと思っていた。

 

「あのー。廃墟とはいえ、ここがどういう場所なのか把握してますぅ?」

 

 そう千束に質問されるが、当然たきなは首をかしげるだけ。

 どういう場所と言われても、彼女からすれば若者が遊び半分で訪れる心霊スポットとしかとらえていない。

 

「どういう場所って。心霊スポットですよ」

「じゃなくて。この建物が元々何を目的としていた建物かって話なんだけど……」

「見た感じお城みたいですね。いったい何の建物なんですか?」

 

 そのたきなの質問は、大人の千束には答えにくいものであっただろう。

 なにせこの建物はアレである。互いに行為を持ったもの通しが夜の営みに訪れるアレである。

 けっしてこの二人のように、目が合えば争い、すぐ喧嘩する。相性が絶望的によくない千束とたきなが絶対に一緒に入らないような場所である。

 

「何の建物って……。生命を司る場所。とでも言っておいた方がいい?」

「意味が分かりません。とにかくほら、先に行ってください」

「いや~も~う」

 

 たきなに無理やり押され、千束は空気感や雰囲気など感じる暇も与えられず先にその場所に入ることに。

 街の管理者には話を通してあり、二人が夜中に勝手に入っても問題は起こらないようになっている。

 問題はこの場所が曰く付きの心霊スポットとして配信目的で勝手に訪れる迷惑なやつらや、それとは別の意味で悪用する目的でこの場所を利用するやつらがいるということ。

 そういうやつらの有無を調べ上げ、この場所に無断で立ち入らないよう警告をするというのが今回のミッションである。

 とまあそれはリコリスに対してのミッションであり、千束は一切関係なく巻き込まれただけなのだが。

 建物に入り数分、二人は懐中電灯を持ち奥まで進んでいく。

 千束はこういうのに対し全く恐怖を抱かない人物なので問題はない。

 だがたきなはやはりこういうのが苦手らしい。普段悪人を鉄の心で排除する彼女がどうしてこういうものが怖いのか。

 千束は少し興味があったからか、それか静寂が嫌だったからか本人に聞いてみることに。

 

「あのさ。どうして君はお化けが怖いんだい? あぁけしてバカにしたり笑ったりはしないから、お互い会話もなしじゃこの空気持たないでしょ? よければ聞かせてくれないかな?」

「……」

 

 千束の何気ない質問に対し、たきな自身もこの静寂を嫌がったか、珍しく素直に答える。

 

「……小さい時のトラウマですよ。まだ小さかった時、家族でキャンプに行ったことがあります。その時に親とはぐれてしまって、一人真っ暗なところに取り残されて、その時に体験した出来事が焼き付いていて」

 

 それはたきながまだ、『家族』と共に過ごしていた小さな時の話であった。

 個人のトラウマとは、子供時に経験した嫌なことが大きくなっても残り続ける事例が多いと言われている。

 例えば嫌いな食べ物。子供のころに初めて口にしたそれに不快感を抱いた結果、大人になってもその食べ物を口にできないままでいることがある。

 野菜を苦く感じる。魚の骨がのどに刺さる。お肉など当時食べずらいものを食べた結果嘔吐する。と人によってその体験は様々であろう。

 人によってそれが軽いものだったり、他人には理解できないくらいの強烈なものであったり個人差はあるが、トラウマというのはそうやって出来上がるものだろう。

 現状、たきなはリコリスとして強大な戦闘力と精神力を手に入れることとなったが、それでも逃れられない心の傷というのは、存在するものなのだろう。

 

「なるほどね。そりゃ、気軽に聞いてはいけない話題だったかな?」

「別に。あなたに弱点が一つ二つ聞かれたところであなたには負ける気がしませんから。ただ不必要に他人に言いふらすような真似をするようなら……」

 

 そう口にするたきなの声色は、後半につれドスのきいたような脅迫めいたものになり、改めて千束は彼女への恐怖感を募らせた。

 千束はあくまで彼女の襲撃を『あしらっている』だけで、本気でやりあうことになれば……。

 改めてこの情報は、千束としては墓まで持っていく必要を感じた。

 

「……先生は、怖いものはないんですか?」

 

 そして今度は、たきなが千束にそう問う。

 彼女が千束にこんなことを尋ねるなど、相当珍しいことであった。

 彼女は基本的に他人に興味を抱かず、関心を持たない。それは千束に対しても例外ではない。

 

「珍しいね。私のことなどまるで知る気もないと思っていたが?」

「人の弱点を一方的に知っておきながら、不公平だと思っただけですよ。答えたくないなら答えなくていいです」

 

 そうたきなに冷静に言われ、だが子供に対し大人が自身のことを秘匿し続けるのはどうかと感じて。

 自身が怖いと思うもの、色々考えてみて、こうたきなに返した。

 

「……孤独が、怖いと思うかな」

「それは弱い人のセリフですよ。あなたは例え孤独だろうが一人でなんでも熟せるでしょう? 神から与えられた『ギフト』を持ち、この社会から選ばれた存在――アダムズ・ギフテッドなんでしょう?」

「いずれ君にもわかるよ。人は、一人だと弱いという事実が、身に染みるよ」

「私は、誰に頼らずとも他の誰よりも強いですよ?」

 

 そのたきなの自信ある言葉に対し、千束は呆れたように鼻で笑う。

 そして少し悲しそうに、彼女に対しこう言葉を返した。

 

「……それでも、大切な人が傍から離れていくのは怖いんだよ。怖いと感じなければいけないことなの。君のさっきの言葉はさ、『そういう経験をしたくないから』誰とも関わりたくないって言っているように聞こえるよ?」

「っ!?」

 

 その千束の上からの言葉に、たきなは一瞬とてつもない怒りを抱く。

 だがそれを表に出してしまえば、千束の言葉通りになってしまう気がして、ホルダーの銃に手をかけようとしたところで己の感情を抑えた。

 そして厭味のばかりにたきなは言葉を返した。

 

「やっぱり、あなたと話をしているとイライラする」

「ほ~うそうかい。そういうところは『気が合うね』」

 

 結局互いを知り距離を詰めるどころか、多少のことでも二人は真っ二つになってしまうのか。

 それ以降不用意に会話をすることはなく、建物の奥へと進む二人。

 出口から遠くなるにつれ、空気が重くなっていくのを感じながら。

 そして中心に差し掛かったところで、なにやら物音がしはじめた。

 

「……なんか聞こえるな?」

 

 千束が耳を澄ませる。

 どうやら人の話し声が聞こえ始めた。

 もしや……。とも最初は思ったが、霊的な類ではないことをすぐに理解した。

 その身で感じ取れるようないやなものではなく、明らかに人の話し声が、今この場で聞こえるのだ。

 距離を詰めるごとに大きくなっていく話し声。

 それは目の前にある扉の奥から聞こえる者であった。

 千束は恐る恐る、その扉を開けると。そこにいたのは……。

 

「そこにいた髪の長い女はよぉ。不用心に建物に侵入してきた愚か者たちに対し、こう叫んだ。バランスが取れてねぇんだよーーー!!ってなぁ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! ちょっと真島さんマジ怖いっすよその話!?」

「ちびるかと思ったっすよ俺!」

「はっはっは! したら次の話はこれだ。〇〇県にある最もバランスが取れてない建物で起こった怖いはなsぶはっ!!」

 

 そこにいたリーダー格の男が次の怪談を離そうとした瞬間、千束とたきなはその男に思いっきり跳び蹴りを見舞った。

 跳び蹴りをモロにくらった男が建物の壁まで吹っ飛ばされる。

 そこにいたのは真島だった。この世の理の均衡を保とうとする狂気の男である。

 

「あたたたたた……。おい誰だいきなり何すんだ……」

「てめぇこそこんなところで何やってんだよぉ真島く~ん?」

「ってあ~ら~誰かと思えば千束ちゃんじゃねえかよ。うれしいねこんな辺鄙な場所まで俺に会いに来てくれたのかぁ?」

「黙れこの若造がよぉ。お前らみたいな勢いだけで廃墟でバカやってる連中がいるおかげでよぉ。こんな夜遅くに金曜ロー〇ショー見たい気持ちを惜しんでこんなところまで犬の散歩する羽目になったんだよどしてくれんの~?」

「なに千束ちゃん金ロー見てたのかよ。いやぁ俺も数日前にエク〇シストレンタルしなきゃ今頃は家で金ロー見てたんだよなぁ。金ローで放送されるって知らないでレンタルショップで作品借りてみちゃった俺の気持ちわかる?」

「わかるわその気持ち! 私も何回かやらかしてんのよ!! それこそ俗にいう怖い話だよ!!」

 

 と、出会い頭千束と真島は金ローあるあるで盛り上がってしまう。

 一方で犬の散歩扱いされたたきなはというと、真島どころか千束にも激しい敵意を向けおもっくそにらみつける。

 

「じぃ~」

「うっ……。なんかすっげぇ後ろからプレッシャー感じるかと思ったら狂犬ちゃんもいんのかよ。こりゃずらかるしかねぇな」

「簡単に逃がすと思います? あなたのような社会のゴミがこんなくだらないことを仕出かすから、私がこんなところまで来て調査しなきゃいけなくなったんですよわかりますか真島?」

「そりゃ天下のファースト様に迷惑をかけてすいませんでしたぁ~。千束ちゃんだけならともかく狂犬ちゃんの相手ともなると命がけだからよぉ。この場は手打ちとしちゃくんね?」

「そうでしたらあなた方がこの先行くのは家路ではなく、病院ってことで」

 

 もうたきなは銃を抜き真島たちを半殺しにする気満々である。

 真島自身は現在の4~5人しかいないこの状況ではたきな相手はきついためうまいこと逃げようと画策する。

 

「どうします真島さん!? よりによって幽霊よりもおっかないやつ来ちゃいましたよ!?」

「くっそ……。意味はないと思うが、おい狂犬!? この場所の噂は知らねえのか!?」

 

 うろたえる部下を横目に、真島はダメ元でこんなことをたきなに言い放った。

 

「時刻はもうすぐ0時を回る! 0時までにこの建物から外に出ないと、幽霊が建物の出口をすべて閉鎖して残ったやつらを閉じ込めるって噂! だから俺らも含めて皆まずは外に出なきゃやべえことになるんだよ!!」

 

 どう聞いてもそんな話はデマでしかない。

 だがたきなが万に一つその話を信じて外に出るように仕向ければ幾分か逃げるチャンスが訪れる。

 そう、たきながこの手の噂をすんなり信じるということが前提である。

 だが真島が知っているたきなはそんなことなど信じないだろう。逃げる策がうまく思いつかず頭が回らなくこんなことを言う羽目になってしまった。

 そしてその結果、意外なことが起こってしまう。 

 

「……23時50分。すぐに動かないと間に合わないですね。ならまずは外に出ましょう。あなたたちを始末するのはその後で」

「……?」

 

 なんと真島の適当なデマを、たきながすんなりと受け入れてしまった。

 これはとてつもなく意外なことであった。

 そしてそれにより、真島の中である仮説が生まれた。

 

「……おやおやぁ?」

(あ、こりゃやられたかも……)

 

 真島のにやついた表情を目にした千束は冷静にこの状況を分析した。

 これはきっと、真島にたきなの知られてはならない秘密が知られた可能性がある。ということであった。

 

「……あぁそうだ。外に出る際はこの場にいる全員がそれぞれ別々の場所から外に出なければ、幽霊が怒ってこの場にいたやつ全員に呪いをかけるそうだ」

「……そうなんですか。ならそれぞれ別の場所から出ることとしましょう」

「あぁそれと、出る順番は男が先じゃなければだめらしいぞ~」

「ならさっさとあなた方が先に外へ出てください」

(あ~あ……)

 

 たきながこの手のものに苦手意識がある。この仮説が正しいと踏んだ真島は次々と適当なことをでっち上げる。

 当然たきなは幽霊的なものが嫌なため、まずはそっちをどうにかしたいのである。

 そのたきなの思考を真島が読み切り、そして次には、こんなとんでもないことを言い出した。

 

「……やっぱや~めた!」

「え?」

「てめぇをここで封印できれば俺がいなかろうが俺らグループとてめぇらリコリスの戦力図が覆る可能性がある。ましてや千束ちゃんまで道連れにできれば、あの模造刀持ったファーストさえなんとかなれば残ったメンツでもリコリスを壊滅できんだろ」

「な、なにを考えて!?」

「俺一人に対して千束ちゃんとファースト一人。1-2交換だ。俺はグループのこの先のことを考えるなら、てめえら二人を道連れにしてもかまわねぇってな!」

 

 真島は強力な幽霊の呪いがあるという話をして、あえてその呪いを発動させ皆ここから出られなくすると言い出したのである。

 当然幽霊の呪いなどあるはずもないのだが。たきなはなんだかよくわからないがすっかり信じ切ってしまっている。

 このままいけば、呪いに巻き込まれないようにたきなが先に外に出る行動をとるだろう。

 そうすれば真島たちはどうにでも逃げられると考えたのである。

 

「この場から出なければ閉じ込められる。だが、みすみす真島たちを逃がすわけには……」

 

 苦渋の決断だろうか。リコリスとして真島から尻尾を巻いて逃げてしまってよいものか。

 必死に考えるたきな。そんなたきなを見て、千束は冷静にこうたきなに提案した。

 

「……わかった。たきなさん、あなたは逃げなさい」

「先生、何を……?」

「私がここに残ってこいつらと心中すれば1-1交換だ。君はリコリスにとって失ってはならない存在。私はほら、君らにとって味方のような敵のようなあいまいな存在だし」

「……」

「だからさっさと逃げなさいな」

 

 千束はあえてこの場に残ることを選択し、たきなだけを外に逃がすことに。

 こうすれば千束の犠牲で真島を仕留めることができるかもしれない。

 そうすればたきなの面子も保つことができる。

 

「……わかりました」

「はいはい。たきなさん、お元気で」

 

 こうしてたきなは外へと走って行った。

 ギリギリ0時までには外に出られるだろう。

 最も、さっきの適当な話を鵜吞みにしているのはたきなだけなのだから、残った者たちは悠々と外へ出ればいいだけなのである。

 たきなの姿が見えなくなったあたりで、千束と真島は耐え切れず、奥に押さえていた笑を外へと出した。

 

「「……ぷっ、あーーーーはっはっはっはっは!!」」

 

 思いっきり爆笑する面々。

 眼もとには涙まで浮かべている始末。

 

「あー笑った笑った! ね、あいつ可愛いところもあるでしょ?」

「いーひっひ! あんたも先生として、あいつを傷つけずにリコリスとしての矜持を守ってやったってところかぁ?」

「あんな凶悪なのでも、生徒だから。でも一方的に家のドア壊されて楽しみ阻害されて、少しは痛い目見てもらいたかったってのも本音かな~?」

「やるなぁあんたも~」

「真島くんもよくあんな適当な話をすぐに思いつくものだねぇ~。アッハッハー(林家パ〇子みたいな笑い方)!」

 

 千束と真島。どうにもいびつな友情を感じている二人は互いの宿敵の怯える姿が見られてご満悦なご様子。

 このままたきなが外へ逃げていれば、丸く収まる話であった。

 だが、この建物で起こる本当の恐怖は、この先にあったのである。

 

 バンッ!

 

 笑い声をかき消す銃声。

 それが聞こえた時、その場にいた全員の表情が凍り付き、恐怖のモノに代わるのは一瞬であった。

 そして外へ出たと思われるたきなが、銃を構えてこちらへ戻ってきた。

 

「……笑い声が無駄に大きいんですよ、あなたたちは」

「あっ……た、たたたたたきなさん?」

「そりゃ念のため教頭に確認を取りますよ。そしたらこう言われましたよ。「なに言ってんだお前は?」と」

 

 たきなは確かに先ほどの真島の話を聞いて恐いと思い鵜呑みにしたのは事実。

 だがこの世の中、うわさ話が真実かどうかは調べればすぐにわかるのである。

 そう、たきなは事実確認をするという冷静さだけは失ってはいなかったのである。

 そしてまんまと自分をだまし、嘲笑った者たちに、誅するためにここに戻ってきたのである。

 

「……千束ちゃん! 俺らこの辺で失礼すっから。生きてたらまた会おうZE!」

「おい真島くん!? こんな美人で魅力的な千束姉さんをこんなところに置き去りにするたぁ男が廃らないかい!?」

「命あっての物種ってな! そんじゃなぁー!!」

 

 そう言って真島グループ約5名はあらかじめ外へ出るために確保していたルートであっさりとその場から撤収。

 そして残ったのは、恐怖におののく千束と怒りを通り越したたきなであった。

 

「……たきなさん、私……味方ダヨ?」

「ええそうですね。味方だというなら私の憂さ晴らしに付き合ってくださいヨ」

「あっはっはっは! こういう場合はね、逃げてでも大切なものを一つ得ることが大切なんだ。逃げれば一つ!! 故に……。散!!」

 

 千束はポーチの中に持っていたミカ特性の煙玉を床にたたきつけ、たきなから一目散に逃げだす。

 建物のガラスをぶち破り、見慣れない景色を蹴りだして。

 全速力で逃げる。だが正攻法に逃げる千束に対し、たきなは無理やり壁を破壊して、追跡者のごとく千束の命を狙う。

 逃げる千束、追うたきな。日付も変わり外が明るくなるであろう時間帯まで続く逃走劇。

 

「許してーーーー!! 助けてーーーー!!」

「ぜっっっっったいに、殺す!!」

 

 こうして気が付けば朝になり、時刻は午前の9時を回った辺りで。

 いつまでたっても帰ってこず、報告が途絶えたことに見かねた教頭はフキとさくらを現場へとよこし二人の状況を確認させに来させた。

 そして二人が到着し、まず目に映ったのは、つい昨日までとは見違えるほどに半壊している建物。

 それを見て、二人は「いつものあれか……」と状況を飲み込み建物の奥へと進むと。

 意気消沈している千束と、そんな千束を押し倒しまさに狂犬のように食いついて離さないたきながそこにいた。

 

「た、たすけて……」

「グルルルルルルルルル!!」

 

 そんな二人を見て、フキは白い目で二人にこう言い放った。

 

「……別に二人でそういうことをしたいんだったら廃墟のラ〇ホ使わないで普通にラ〇ホ行ってやれば?」

「ち~が~う~よ~」

「ワンワンワン!!」

 

 結局のところ、本当に怖いのは幽霊でもなんでもなく、本気で起こったファーストリコリスであることを、千束は心の底から思い知るのであった。

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