リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第16話です。


第16話:結婚できない女-ペットと公園編

 ――結婚できない女。

 

 この比較的無駄に外見のいい女は、中原ミズキと言います。

 元看護士、現在は学校の養護教諭を務めているそこそこのキャリアを持ち。

 男にモテないかと言われれば実は割とそうでもなく、街中で男に声をかけられることもたまにあるとのことです。

 ですがこの中原ミズキ、女として致命的な欠陥があります。

 

 ――それは"結婚願望"がバチクソに高すぎること。

 

 ろくに男と付き合ったこともない癖に、結婚をする上での男の理想が異様に高すぎるといった、非常にはた迷惑な女なのです。

 年収は一千万は最低限ほしいだの、年に数回外国に旅行を行けるくらいの余裕を持っている必要があるだの、金と地位は持っていてもおっさんはごめんだの。

 家事を女にやらせるだけの男はキモイだの。どの口が言っているのかと正直ぶん殴ってやりたいくらいには高い理想しか口にしないバチクソにやばい女なのである。

 そんな結婚に対して理想ばかりが高すぎる結婚できない女、それが中原ミズキです。

 

「ちょっとぉぉぉぉぉ!!」

 

 と、バチクソにやばい女が飲みの席でいきなり何かに対して怒号をまき散らした。

 

「なんで話の冒頭からオールマイ〇ィ・ラボみたいに私を解説してんのよ!! バチクソやばい女だのはた迷惑な女だの失礼すぎるでしょうよ!!」

「おいおいミズキィ~。いったい誰に向かってツッコミ入れてんだよぉ~」

「バチクソやばい女なのは本当のことだろぉ~」

 

 と、そこにいない誰かに激しくツッコミを入れているミズキに対し、飲みの席ですっかり酔いが回っている連れの二人がそうチャチャを入れた。

 その二人とはクルミとロボ太である。

 なぜその二人がこんなめんどくさい女と一緒にわざわざ飲みに来ているのか。

 それは日ごろの愚痴や結婚ができないことを誰かに聞いてもらいたすぎるために、「居酒屋代全部出すから一緒に飲みに行かない?」というミズキの提案を飲んだからである。

 タダで飲食ができるということはいくつになっても破格の待遇なのである。それならば付き合ってやらんでもないと話に乗ったのがクルミとロボ太であった。

 

「結婚したいだけならそこらへんの女に飢えている男でも捕まえて適当に付き合って結婚しようって言えば簡単な話だろぉ? 今の世の中の男は女と一緒に飯に行けるだけでも幸せに感じるって言うらしいしぃ~。あっはっは~」

「あのね~。稼ぎも安定しない甲斐性もない男と勢いで結婚まで行って破滅する話がどれだけ世に蔓延してるかわかってるのあんた。芸能人だってうまくいかないのよ結婚って」

「じゃあお前ごときがうまくいくわけないだろうがよぉあっはっは~」

「うぐっ……」

 

 確かに芸能人がうまくいっていない。

 クルミの言う通り金持ちと美人が結婚をしても離婚してしまうということがあるのならミズキ程度の結婚に貪欲な女では理想の結婚など夢のまた夢の話だろう。

 それを指摘され返す言葉のないミズキに対し、ロボ太が追い打ちのようにこう言葉を口に出す。

 

「そもそもミズキさん、結婚の前にまずは彼氏作らないと。色々と飛躍しすぎなんだと思うよ~」

「いいこと言うねロボ助~」

「ロボ太だよ!!」

「だったらさ~。お前がミズキと付き合ってあげたらどう?」

「いやそれはないです絶対」

「「あはははははははははははははは!!」」

 

 と、完全に酔ってしまっているからか完全に容赦ないことばかりをミズキ本人の前で次から次へと口に出す二人。

 ロボ太にもミズキは絶対にないと言われてしまっている始末。

 どうしてこんな二人に居酒屋代を全部出してあげなきゃいけないのか。まあ話を持ち掛けたのはミズキ自身なのだから当たり前なのだが。

 愚痴を聞いてもらい心の膿を取り除くはずが、容赦ない現実ばかりを二人の言葉から浴びせられ続けているのだから、もう一人で飲みにくればよかったと心から思い始めるミズキ。

 

「あんたはどうなのよクルミ……」

 

 ミズキは自分の現状の話から逸らすべくクルミの男事情についてそう尋ねた。

 クルミも一応ミズキとは同年代。27歳とそういうことも考えなければならない年齢ではある。

 余談ではあるがその小学生のような外見や容姿に関しては、"謎のフィルターのようなもの"がかかっているのか露骨に誰からも指摘されないようになっている。

 とまあそんな感じで男の影も、なんならそういったことに興味すら抱いていなさそうであるが。

 

「僕!? なんか定期的に僕のファンだっていう人が男女関係なく電気屋さんに来て色々連絡先とかプレゼントとかもらうけど、それはまあ大事なお客からだから素直に感謝してるよぉ~」

 

 どうやらクルミは勤め先の電気屋では名物店員と化しているようであり、男だけではなく女性ファンも非常に多く定期的に食事に誘われたり、欲しいゲームや電化製品をプレゼントとしてもらっているらしい。

 どこのキャバ嬢だとツッコミたくなる話ではあるが、彼女にとって客は一律であり、その行為に関しては接客で還元するというのがスタンスであるらしい。

 つまり何を言いたいかというと、クルミはミズキとは比べ物にならないくらいモテまくっている。というのが真実なのである。

 

「……」

「なんか車くれるって言った人もいたけどさすがにいらんかったから断ったし、せっかくだから電化製品めっちゃお買い上げしてもらったわあっはっは~」

 

 どうやらミズキがよく口にする高年収の客からのリピーターもいるらしい。

 ミズキは心の中で「この世は不平等だ!!」とバチクソに叫んだ。

 ミズキ自身もレベルが高い女ではあるが、その周りの女のレベルははるか上を行っている。上には上がいるという非情な現実が彼女を取り巻いている。

 遺伝子の爆発的な変異で極端に歳をとらず同年代なのに10代後半の容姿を保ち続けている女もいれば、見た目は小学生なのにそうは指摘されずめちゃくちゃファンが多くモテる女もいる。

 自分が底辺だから結婚ができないというよりか、彼女を取り巻く環境がバチクソに高水準すぎるのかもしれない。バチクソって単語使い過ぎですね今回。

 そんな会話をして時刻は22時を回った辺りで、居酒屋のテレビの夜のニュース番組ではこんな話題が取り上げられていた。

 

『最近都内で話題のペットと遊べる公園。いやぁ~小清水さん、どうですか週末にワンチャンを連れて遊びに行って見ては』

『松岡さん、この間行ってきたんですよぉ。大賑わいでしたね、いろんな人のペットの悩みを聞けたりして、飼い主さんたちの交流の場としても生かされている場所ですからねぇ』

『飼い主さんたちの話題って尽きないですからね。そしてこういった場所では飼い主さんたちとの出会い、言ってしまえばこう"男女の出会い"っていうのもあるんじゃないですか~?』

『松岡さんそういう話好きですねぇ~』

 

 ニュースの特集はペットと遊べる公園、そしてその飼い主の交流の場といったものであった。

 ペットを飼っている人の出来事や話題などは、その場にいる3人には無縁の話。何せペットなんて飼ってないからである。

 だがミズキがその特集を見て目にしたのは、飼い主の交流においての男女の出会いの部分であった。

 

「どうしたミズキィ~。男見つけるためにペット飼うつもりかぁ~?」

「飼わないわよ一人暮らしだし。まあお金的には飼っても余裕があるくらいは蓄えあるけど」

 

 クルミにチャチャを入れられ、それに対し冷静な口調で返すミズキ。

 男との出会いのためにペットを購入するくらいなら街コンに行った方がいいだろう。

 ミズキはそんなことを思いながらも、その公園のことは少しばかり気になっており頭から離れずにいた。

 

「ペットって気軽に飼うと大変らしいぞ。真島さんもドーベルマン飼ってるって言ってたけど当初はしつけが大変だったって言ってたし」

「あの男ドーベルマン飼ってるの……」

 

 ロボ太曰く真島はドーベルマンを飼っているらしい。確かに絵にはなりそうである。

 リコリスに狙われる可能性がありながらもそれで何の警戒もなく街中をドーベルマン連れて堂々と歩いているというのだから肝が据わっているという話である。

 

「ペットかぁ。たまにはおやっさんのところの黒猫のヨシマツにキャットフードでも買ってってやろうかなぁ~」

「おやっさんのところってあの喫茶店のこと?」

「そうそう、千束に懐いてるあの黒猫~」

「……それだぁぁぁぁぁ!!」

「「びくぅ!!」」

 

 クルミが話した喫茶リコリコで飼われている黒猫のヨシマツ。

 その話を耳にしたその時、ミズキに電流走る。

 いったい何を思いついたというのだろうか……。

 

 ――翌日。

 

 学校の授業が終わり放課後。

 千束も就業時間が終わりいつものように喫茶リコリコへ。

 その喫茶店で、黒猫のヨシマツはいつも以上に暇そうにしていた。

 

「おじさ~ん。たまにはヨシマツを外に連れて散歩でもしてあげたら?」

「う~ん。でも店のこともあるからなぁ。それに猫は基本散歩は必要ないというぞ?」

「そりゃそうだけどさぁ。人間も同じ息抜きってものが必要じゃない? あれだったら私が代わりに散歩行ってきてあげようか?」

「いいのか? 仕事終わりで疲れてはいないか?」

「可愛い猫を連れての散歩くらい、むしろ癒されて疲れが取れるくらいだよ」

 

 と、猫の散歩に行くことに対し前向きな千束。

 そんな会話をミカとやり取りしているその時であった。

 

 カランコロン♪

 

「呼ばれた気がした」

「「いや呼んでないですけど」」

 

 何かに誘われるように、自分を呼ぶ声が聞こえたと言わんばかりにミズキが喫茶店に来店。

 別に呼んではいないと千束とミカは声を揃えて口にする。

 そんな二人に対しミズキは一方的にこう言い詰める。

 

「その~。私最近外に出ることも少ないし。猫の散歩でもしながら外を歩きたいなぁなんて~」

「藪から棒になんだいきなり」

「だから、そこの可愛い黒猫の散歩に行くなら私が行くわよ。千束先生も色々疲れてると思うし」

「いや別に疲れてるわけでは……。あっ」

 

 やたら積極的に猫の散歩に行きたがるミズキに千束は困惑しながらも。

 昨日夜にやっていたニュースの話題のことを思い出し、ミズキに対してその話題を口にする。

 

「さてはミズキ先生~。昨日の夜のニュース見たでしょ~。飼い主同士の男女の出会いとかどうのこうの」

 

 プルルルル、ガチャ!

 

「あ、もしもしたきな? 今喫茶リコリコにいるんだけど、千束先生ものすごい暇でやることないって困ってるみたいよ」

「おい何してくれてんねんごらぁぁぁぁぁ!!」

 

 なんとミズキは千束の昨日のニュースの話題に対してそれを遮るようにたきなに電話をし、千束がとても暇をしているという内容を伝えてしまった。

 そんなことをたきなにでも伝えてしまったらすぐさま千束に絡みに来ることだろう。当然千束は勝手なことをされ激怒する。

 ただでさえ学校でも執拗以上に絡まれ、仕事終わりでこれ以上絡まれては疲れも天元突破してしまうことだろう。

 そんな千束の事情などお構いなしにその電話から数分も経たず内に動きはあった。

 

 カランコロン♪

 

「呼ばれた気がした」

「呼んでません! つか来るの早えーな!! 仕込みか!?」

 

 まるで店のすぐ近くにいましたといわんがばかりに速達で喫茶店に到着したたきな。

 そして千束にところにズカズカと近寄っていき、千束の首根っこ捕まえて店の外へと引きずっていく。

 

「さあ先生学校でケリがつかなかった勝負の続きでもしましょう。どちらかが音を上げるまでとことん勝負しましょうさあしましょう」

「おーい! 私の優雅な放課後ティータイムが!! 助けて―! 連れ去られるよぉぉぉ!!」

 

 こうして無理やりたきなは千束を連れて行ったため、文字通り千束は暇ではなくなってしまった。

 こうなると、黒猫のヨシマツの散歩に行けるのは、ミズキ先生だけになってしまった。

 

「というわけで♪ 私でよければ猫ちゃんの散歩、引き受けいたしますわ店長さん☆」

「……」

 

 ――数時間後。

 

 喫茶リコリコから車で数分、場所は昨日ニュースでやっていた公園へ。

 そこでは夕食前の時間帯、飼い主たちがペットの散歩、遊びなど様々なことをやっていた。

 主に主婦層が多いようで、ペットを連れながら立ち話などをしており、ミズキが求めるようなペット連れの若い男性の姿は一見して見当たらず。

 確かに平日の夕方。休日の昼間とかならまだしもこのタイミングではそうそうペットを飼っている独身男性など現れないのだろうか。

 だが下心ありとはいえ散歩を引き受けてしまった以上はそこはしっかりと責任を持たなければならない。

 ちなみに喫茶リコリコにて飼われている黒猫のヨシマツは、ミカや千束から言わせてもめちゃくちゃ頭のいいしっかりとした黒猫とのこと。

 ぶっちゃけこんなところまで連れてこなくても勝手に外出してご飯の時間になれば勝手に帰ってくるくらいは頭がよくしっかりしている。

 それに引き換え結婚しか頭にない、頭の悪いミズキは目先のことばかりを追い求め人生という路頭に迷い続けているくらいである。

 自分だけの問題ならまだしも、周りを巻き込むのだからバチクソはた迷惑な女である。

 それなりに美人な外見を手に入れた代わりに、女としての欠点を多く抱えモラルに欠けており、そして知性を失いました。

 そんなミズキとは打って変わって周りを癒し、頭のいい動物。それが黒猫のヨシマツです。

 

「おいぃ! そのオールマイ〇ィ・ラボでよくある他の動物と比較して別の動物を盛大にディスるやつを私でやらんくていいのよ!!」

 

 と、バチクソやかましいツッコミをどこかの誰かに盛大にかますミズキ。

 そんなうるさいミズキに対し、後ろからとある男性が話しかけてきた。

 

「あの~。他の人もいるんであんまり大声で叫ぶのやめてもらえます? 静寂と空間のバランスが取れなくなるんで」

 

 と、後ろから聞こえるやたらいい声の男性の声掛けに反応するミズキ。

 これはもしかすると、出会いの予感か。

 少しばかり自分の美を誇張したように、男性の方へ振り向くミズキ。

 

「あ、ごめんなさいっ。ちょっと声、うるさかったかしら?」

 

 そう跳ねたような声色を出し、男性の方に振り向くと。

 そこにいたには、噂のドーベルマンを連れ散歩に来ていた真島であった。

 そう、この街にて暗躍し、リコリスたちと敵対する狂気の男である。

 それを認識したミズキは、またも周りの迷惑も考えないで叫んだ。

 

「真島じゃねえかぁぁぁぁぁ!!」

「いやだからうるせえっつってんだろうが。真島がドーベルマン連れて散歩してたらいけねぇってのかぁ?」

「うっ……。いや別に、他の人に迷惑をかけないんだったら」

「つか周りから見たらどう考えても他に迷惑かけてんのお前だかんな。ていうか千束ちゃんの学校の雑兵がこんなとこでなにしてんだ?」

「雑兵!? 私が雑兵ですって!? これでも昔、あの荒れに荒れていた時代では、鏡花水月の中原ミズキと恐れられていてね!!」

「だから誰も知らねえっつってんだろ。ていうか当時俺まだ中学かそれくらいだったし。千束ちゃんの武勇伝に関しては非常に興味あっけどてめぇみたいなモブにはクソほど興味ねえんだわ雑兵先輩よぉ~」

 

 と、出会いがしらにミズキに対し罵詈雑言を浴びせまくる真島。

 真島、そして千束といった強者の中の強者が到達できる世界の景色。そこにミズキほどの矮小な存在は影すら残してはいなかった。

 世間的にミズキの評価などそんなものである。

 実際に当時のミズキは敵グループに対し傾くだけ傾いては、グループ同士の争いで自分たちが負けそうになると一目散に逃げだし数日後には別のグループに加入する。

 といったことを繰り返していたなど、その雑兵という不名誉な呼ばれ方は割かし当時の人たちには言われていた気もしなくもない。

 

「……あーそうだ」

 

 と、何かを思い出したように、真島はミズキをギロッとにらみつける。

 まさか自分の知らないところでなんかやらかしたのだろうか。ミズキは真島に委縮して構える。

 

「な、なによ……?」

「その~。ロボ太がなんかあんたに飯おごってもらったみたいで。ごめんなさいねぇなんかね」

「あっ。べ、別に……」

 

 なにを言われるかと内心ビクビクしていたところ、まさかの自分の部下がミズキにご飯をおごってもらったことに対しての礼の言葉であった。

 見た目と雰囲気のわりにそういう常識はあるのねと、ミズキはそのギャップに内心ついていけずにいた。

 

「つかロボ太が言ってたけど、婚期逃して大変なんだって?」

「逃してませんまだあります勝手に決めつけないでください!!」

「……あのさ」

「……なによ?」

 

 少し間を開けたように、何かを言い出しにくいかのような真島の言い回し。

 もしかすればもしかすると。なんてミズキが少しばかり考えたその後。

 

「……あいつその、変な被り物してて顔は見せねぇし。なんならちょっとオタク的な部分もあるけどよ。パソコンとか得意だし、割とありかなと思うんだが」

「すいませんその線は無いみたいなんで。てか私がそれを意識するよりもはるか先にあっちから絶対に無いと拒否宣言出されてしまってるみたいなんで」

 

 どうやら真島的には、男が見つからないならロボ太とかどうだ? という提案のようであった。

 ミズキとしてはぶっちゃけ考えもしていない。

 というかもとより昨日の飲みの席であっさり断られてしまっている以前に地下に閉じ込められた時(第4話:ロボ太の挑戦状を読んでね☆)にも同じように断られているほど、ロボ太にとってミズキは無いとのこと。

 

「ていうかその猫。なんかめっちゃ腹黒そうだな。人間だったら巨大組織の重役で、正義感の強い女の子に無理やり殺人やらせようとして裏で暗躍してそうな面してんな」

「どういう評価よ。つかあんたのそのドーベルマン。人間に噛みついたりしないでしょうね?」

 

 真島のヨシマツへの印象はとにかく。

 ミズキ的には狂気の男真島が連れているドーベルマンが、変に人を襲うように訓練されているのではないかと勘繰っている。

 そんなことをミズキに言われ、真島は少しあきれ顔でこう返した。

 

「俺のロボケンが誰彼構わず人に噛みつくんじゃないかって?」

「ロボケンって言うのねそのドーベルマン……」

「そんなお前みたいに誰彼構わず男食い荒らすような趣味の悪さしてねぇようちのロボケンはよ」

「今さりげなくめっちゃ私ディスられたような気がしたんですけど……」

「基本そこらの貧民には興味を抱かねぇんだよこいつ。あぁだけどこいつ的に魅力的な女だなと思うやつを見つけるとめっちゃ噛みつきに行ったりするんだがよぉ」

「そんなやつ一般の公園に連れてくんな」

 

 どうやら真島曰く、ロボケンはかなりえり好みするらしく、ロボケンの目線でものすごく魅力のある女を見つけ興味を抱くと襲いにかかるらしい。

 その話を聞いて、ミズキはそんな危険な奴が目の前にいるということへの畏怖と同時に、悲しい現実を理解する。

 

「……私のことを襲いに来ないってことは?」

「┐(´∀`)┌」

「 (# ゚Д゚)」

 

 もはや言葉ではなく顔文字で呆れをミズキに浴びせる真島に、同じく顔文字で怒りを露わにするミズキ。

 結局のところ男との出会いなんてはるか遠い絵空事。

 実際に出会ったのは自分たちと敵対する憎き男であり、それも言いたい放題散々な目にあってしまっている。

 昨日の飲み会といい自分が良かれと思ってやっていることがこれでもかと裏目に出続けているミズキであった。

 

「にゃー!! ふしゃーーー!!」

「ほらほら。周りの人に見られて恥ずかしいですよ静かにしなさい」

 

 と、少し離れたところからなにやら暴れている猫らしき鳴き声と、それをなだめる飼い主の声が聞こえてきた。

 その周りではそれを見てクスクスと笑っている一般の人の姿もあった。

 いったいなにがあったのだろうか。

 

「なんだなんだ?」

 

 真島とミズキも、騒いでいるところに向かってみると。

 

「にゃーーー!! ていうかこれ恥ずかしいよ!! もういいでしょやめましょうよたきなさん!!」

「たきなさんじゃないでしょご主人様もしくはご主人でしょ。えーと、チャイカ?」

「適当に名前を付けるな!! 私はチャイカじゃないです!!」

 

 そこにいたのはリードと猫耳を付けられ四つん這いになっている千束と、それを御しているたきなの姿であった。

 確かこの二人、先ほど喫茶店から姿を消し、なにかしらの勝負をしていたはずであった。

 それがなぜ今、飼い猫と飼い主のような間柄でこの公園にいるのだろうか。

 

「ほらダメ猫、御主人の言うことは聞かないとでしょ?」

(うっ! このご主人ものすごく怖い!! 言うことを聞かないとすぐにひどい目に合わせてくるにゃ。だが、悔しいけどものすごく顔が綺麗だにゃ。飼われている猫としてものすごく鼻が高いんだにゃ。その飼い主は憎たらしいたきななのに! くそ、悔しい……)

 

 悔しい……。

 

(悔しい!)

 

 悔しい!

 

(悔しいっ!!)

 

 悔しいっ!! だが、これでいい!!

 

「「……」」

 

 とまあ千束の悔しいがたきなのご主人としてのカリスマ性に逆らえていない様子をカ〇ジ風のナレーションで表現し終わったところで。

 そのやり取りを白い目で見ていた真島とミズキと目が合ってしまう千束とたきな。

 そしてその流れる絶妙な空気感に耐え切れず、千束は顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「……なんだよぉぉぉぉぉ!?」

「「いや別に何も言ってないけど」」

 

 その千束の反応に対して二人が声を揃えてツッコミ。

 というか先ほどの二人の勝負から今のこの状況、いったいなにがあったというのだろうか。

 

「ひょっとしてこれが勝負内容だったりする?」

「違うんだよミズキ先生。勝負する時にたきなさんが「今から日付が変わるまで負けた人は勝った人の飼い猫ってルールにしましょう」って突然提案するもんだからつい面白くなって勝負したら負けてこうなったの!」

「あんた負けたんかい……。ちなみに今日は何の勝負したの?」

「……アプリのルーレットで決まった。勝負内容はにらめっこ」

(小学生かお前ら……)

 

 どうやらたきな的には千束と勝負できるなら小学生でもできるような内容のモノでもいいらしい。

 そして本日の内容はにらめっこ。

 想像をしてみると、確かに常にポーカーフェイスのたきなをにらめっこで笑わせるのは正直言ってかなり難があるだろう。

 だが逆にそういったことへのボキャブラリーが無さそうなたきなが、どうやってにらめっこで千束を笑わせたのだろうか。

 

「たきなは笑わないとしても、よくあの常にムスッとしてるたきなが千束先生を笑わせることができたわね」

「こいつがまた隠してたんだよ奥の手を。せっかくだから二人にも見せてあげなさいその必殺顔を!!」

「……」

 

 そう千束に言われるがまま、たきなが真島とミズキに千束を負かしたという表情を見せたところ。

 

「「わっはっはっはっはっは!! ひーっはっはっはっはっは!!」」

 

 と、二人とも爆笑。

 こりゃ千束に勝ち目はないわけだと二人が納得するほどの会心の出来。

 ちなみにどんな顔をしたかは、読者の想像にお任せします。

 

「にらめっこは今後殿堂入り。二度とにらめっこで勝負は無し!!」

「じゃんけんもですよ」

「てなわけで、日付が変わるまでたきなさんの飼い猫で……」

「ご主人様」

「……ご主人(かなり協調)の、飼い猫にゃ」

「ぶはははは!! バランス取れてるわ千束ちゃ~ん」

 

 真島にも指を指され笑われ羞恥心でいっぱいになる千束。

 そんなやり取りをしている最中、なにやら真島の飼っているドーベルマンのロボケンに動きがあった。

 

「ヴーーーーーーーーー!!」

「……あの真島くん、君のその隣の凶暴そうなドーベルマン唸ってんだけど」

「うううううううわんわんわん!!」

「ってちょっとぉぉぉーーーー!! 私にめっちゃ襲い掛かって来てんだけどぉぉぉぉぉ!?」

「お~。さすがロボケン。趣味がいいわ~」

 

 と、ロボケンの飼い主である真島が納得しているようであった。

 そう、先ほど話に出ていたロボケンのえり好みが、ここで開花したのであった。

 ロボケンは千束を一目見て、自分が噛みつきに行くに値する魅力的な女性と認識したようであった。

 その光景を見てミズキは、どこか嫉妬のような念を抱きながら千束にこう口にする。

 

「よかったわねー千束先生ー。ドーベルマンにも魅力的な女だと思われて―」

「なんのこっちゃ!? ちょっとご主人! その自慢の銃で追いかけてくるドーベルマン追い払って!!」

 

 千束がご主人のたきなにそうお願いをする。

 肝心のたきなはというと。

 

「m9(^Д^)」

「ご主人ーーーーーーーーーーーー(怒)!!」

 

 顔文字のようにドーベルマンに追いかけられる千束を見て腹を抱えて大爆笑しているたきな。

 普段敵同士であるはずの真島と並んで千束を見て笑いこけている。ちなみにミズキも釣られて笑っている。

 そんな三人に対し激しい怒りを抱きながらも、ドーベルマンに追いかけまわされる千束なのであった。

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