リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第17話です。


第17話:ハロウィンパーティと黒いお菓子

「はーいみなさん。今日のハロウィンパーティーでお菓子作りを手伝ってくる井ノ上たきなさんで~す」

「井ノ上たきなです。よろしくお願いします」

「……」

 

 ここは街中にある孤児院。

 そしてたくさんの子供たちの手前で孤児院の先生がホワイトボード前に無表情で立っているたきなを紹介する。

 生き生きとしている子供たちとは正反対に、いつもと変わらない無表情で淡々と自己紹介をするたきな。

 そんな彼女に対して、頭を抱えながら幸先不安でいっぱいになる千束が、端っこで見守っていた。

 

 ――それは、今から三日前のことである。

 

「たきなさんの付き添いをやれだぁ~?」

 

 そう不機嫌そうな表情を浮かべ教頭に対して愚痴るように口に出す千束。

 対して楠木教頭は、そんな千束の態度など気にせず、物ともぜずに話をつづける。

 

「三日後にうちのグループが提携している孤児院のハロウィンの出し物企画がありましてね、うちの学生から一人派遣することになりまして。井ノ上たきなが行くことになったんですよ」

「ほぉ、学園が所有する最強の特機戦力をそのようなボランティアに派遣するとはDAはずいぶん余裕がありますね。んでなぜそこで私が付き添いをするという流れに?」

 

 その千束の質問に対し、楠木はまるで当たり前であるかのような表情を千束に対して浮かべながらこう返した。

 

「だってあの子、子供が相手でもあの仏頂面でしょう? そんな子を一人で行かせたら子供たちを怖がらせてしまうことになるじゃないか」

「じゃそもそもなんでたきなさんをそんなところに送り込もうという発想に至るんですかね教頭?」

「そりゃあれですよ。物語上の都合ですよ」

「言っちゃったよこの人……」

 

 今回の短編のテーマは、対人スキルマイナス1万くらいのたきなが子供たちのハロウィンパーティーで滅茶苦茶をして千束が困り果てる。

 というものをやるための人選であるということをメタ的な観点で口に出してしまう楠木。

 とまあ、そんな強引に話の冒頭を始めるというわけでもなく、楠木にはしっかりとした考えがあるらしい。

 

「と言うのは冗談として。リコリスとしての戦闘能力に対してはもう極めることは何もないのは事実。だがここは建前上学校という教育機関であるのも事実、ならばせめて人間としての成長の教育を促すのもまた一興というもの」

「……まあ確かに。学校を卒業したらリコリスとしての権限がなくなり、社会に出るための不自由のない金と環境が与えられる。という公約があるのは聞いていますが」

「その状態で残り数か月、卒業した後に彼女が戦い以外の道で、普通に暮らすことができると思います?」

「……」

 

 楠木のその質問に対し、千束は正直に言葉を返せずに黙ってしまった。

 今はDAグループの加護の元で街の治安維持のために戦うことを強いられているリコリス。

 だが学生生活が終わればその制約から解放され、報酬として支援を受けながらの不自由ない未来が与えられることとなっている。

 元より生きる上で選択肢の無かった少女たちはそれに縋るしかできなかったがゆえに、今危険と隣り合わせの学生生活を送っている。

 そんな少女たちが卒業と同時に、戦いの日常から解放された後の平穏な日常に適応していけるかどうかというのも、DA学園の課題の一つなのである。

 特にたきなのように悪人の殲滅、制圧に特化している教育をされているリコリスほど、その課題が浮き彫りになっていく。

 そのうえで彼女は他人とのコミュニケーションが致命的であり、本人もまるで他人に興味を抱くことはないし、他人も彼女を味方陣営でありながら非常に恐れ敬遠しているのも事実なのである。

 正直人間扱いすらされていない。DAが生み出した最高傑作、人の皮を被った怪物とまで称されている彼女が、全てから解放された後の世の中で普通に暮らせるかと言われれば、このままでは絶望的である。

 

「今回の依頼に際して、せっかくなので彼女の人間としてのスキルを磨いてもらうための課外授業として組ませていただきました。まぁ幸い今はあなたといういけに……。最適な教育者がいますからね」

「今私のこと生贄って言おうとした?」

「本来なら生徒数人で一緒に協力したり考えたりしながらやるようなことですが、井ノ上たきなと一緒にそのようなことをやってくれる生徒など誰一人もいません」

「悲しいなぁ……」

「その場合は先生が生徒に付き添うというのが定石でしょう。幸い井ノ上たきなはあなたになら興味を抱いているようですからね」

 

 その楠木の千束への評価に対し、千束は皮肉交じりにこう返す。

 

「興味って。私のことを殺したいほど憎く思ってるだけですよあいつ」

「そうですかね~(まぁ、それだけあなたに執着してるってことなんだが……)」

「ただでさえ毎日毎日銃持って勝負しろだ今日こそ仕留めるだので充分に相手してやっているはずですよ。だから今回はお引き取りを」

 

 そう言って今回の件からさりげなく手をひこうとする千束。

 そんな千束を引き留めるかのように、楠木は流し目で彼女を見やり、ボソッと一言。

 

「……井ノ上たきなに恐れをなして逃げたか」

「ぴくっ」

「神の加護を受け、神が如き偉大な才能を授かったと世間で持て囃されておきながらその程度とは恐れなし。そんなんだからあなたはいつまでも三流、若造だというのだ。仕方ない誰か代わりを探すことにしましょ」

「……誰がまだ年齢のわりに若く見える三流だとこのババア」

「若造の部分だいぶアレンジかけたな……。三流でないとするなら今回の件、自信をもって引き受けてくださると?」

「あぁ、あの狂犬を子供たちに可愛がられるチワワに仕立て上げてやるわ。そしたら私のこと神と崇めろよ」

(少しでも煽ったらこれだ。扱いやすくてほんと助かる)

 

 ――そして時間軸が今に戻る。

 

「たきなさん、ちょっとこっちに来るのだ」

 

 自己紹介を終えお菓子作りの準備をしている合間、千束が端の方からたきなを呼びつける。

 

「なんですか?」

「あのさ、ちょっと申し訳ないんだけどさ。感情ってかさ、愛想って言うのかな? 必要だと思うんだ」

「愛想ですか?」

「相手は子供じゃん。子供相手にあなたのその悪党に向けるような白い目線ってのはさ、畏怖を与えると思うんだ。別の無理して愛想よくしなさいとは言わないからさ、言葉を柔らかくしたりとかさ」

「……」

 

 と、千束のアドバイスが理解されているかどうかはわからないがとりあえずたきなはそのまま子供たちのところへ戻る。

 一応千束も教師としての付き添いという形ではあるがDAのお得意先ということもあり少しばかり手伝いながら。

 たきなが子供たちに失礼をしないかどうか見守ることに。

 

「お姉ちゃん、ここはどうするの~?」

「あぁ、これはですね……」

 

 と、さっそく子供に頼られるたきな。

 すると先ほどのアドバイスが役に立った……。とは思えないほど淡々と説明文を読み上げるかのように一方的にケーキの作り方を子供に教え自分の作業に戻る。

 

「これはこうするのが効率が良いです。あぁそこはお砂糖の分量を間違えてますね。それでは味が偏ります。仕方ないですね、そこは私がやっておきますからあなたはそれをやってください……」

「……」

 

 まるで心がない。ロボットでももう少し抑揚をつけたような機械音声でしゃべるであろうと思えるくらい感情がこもっていないまま子供たちの対応をするたきな。

 そんなたきなを見て、千束は激しく頭を抱える。

 まるでこうなることが眼に見えていたかのようなひどい後悔っぷりであった。

 そんなたきなに対し当然のごとく、子供たちが早くも敬遠し始めてきた。

 その結果補助くらいしかやる予定がなかった千束のところに来てしまう。

 

「先生、私うまくできてる?」

「さっすが~。これはおいしく仕上がると思うぞ。でももう少しかき混ぜるともっとよくなると思うよ~」

 

 そこらへんは自身の性格上流石になれている千束。たきなに対して「こうやってやるんだよ」と見せしめのように子供たちと打ち解けていく。

 対人能力マイナス1万くらいのたきなに対し、さすがは10年前に数多くの荒くれ物をまとめ上げ、数千の兵隊を率いていたトップオブカリスマの千束。対人能力もまた神クラスなのである。

 そんなこんなでお菓子作りが始まって佳境に差し掛かったころ。

 

「お、お姉ちゃん。どうかな……」

 

 すっかり孤立し一人で黙々と作業をしていたたきなの元に、男の子が味見をしてほしいと頼みに行った。

 なにやら男の子はもじもじしているようにも思えた。顔も何やら赤い。

 それを流し目で見ていた千束はというと。

 

(ほほぉ~。まああいつ顔はいいからな……)

 

 何かを察した千束は。これはチャンスとばかりにたきなを内心応援する。

 ここでうまく対応できるかどうかにたきなの今日がかかっているまであった。

 そんな千束に想いが伝わっているかはわからないが、たきなはと言うと。

 

「……はい、普通ですね。いいと思いますよ」

「あ、あぁぁぁぁぁ……」

 

 やはりというべきかこの心無い反応。千束は肩をがっくしと落とす。

 こいつは他人に、ましてや子供相手にも関心を持てないのかと内心怒りすら抱き始めた千束。

 当然そんな反応をされたたきなに思うところがある幼き男の子は怒ってたきなにこんなことを言ってしまう。

 

「な、なんだよ一生懸命やったのに! 少しくらい笑えばいいだろこの鉄仮面!!」

「ぶっ!!」

 

 幼き男の子の、まさに今のたきなを正直に評したその卓越したワード。

 それを言われたたきなはここにきて初めて困惑の表情を浮かべた。

 一方で千束はというと、鉄仮面と言われたたきなを見て必死に笑うのを堪えていた。

 

「て、鉄仮……」

 

 つい狼狽えてしまうたきな。

 そのたきなの反応を見て、等々笑うのを我慢できなくなった千束はたきなを指差し大爆笑。

 

「あっはははははははははーーーーーーーーーーーー!(超絶高笑い)」

 

 と、自分に対し激しく大爆笑する千束に対し、さすがにたきなもイラっとしたようで。

 千束のところで歩み寄り。思いっきり頭をぶっ叩いた。

 

「ド~♪はどつくのド~(怒)」

「痛ったーーーーーーーーーーー!! なにすんねんお前こらぁぁぁ!!」

「悪口言われて困っている人を笑うことはいけないことです。子供たちへの悪影響なので注意しました」

「いきなり人をぶっ叩くのも充分子供たちへの悪影響ですが!?」

 

 叩かれて怒る千束に対し自らの正当性を主張するたきな。

 あっという間にいつものように喧嘩に発展してしまいそうになる。

 だがここは学校内ではない。学校内なら皆いつものことかと知らんぷりして済む話だが周りには子供たち、子供たちの先生もいる。

 当然二人が喧嘩をすれば周りの迷惑になるのは明白。なので二人して自制することに。

 お菓子作りを再開。する前にもう一度千束はたきなを呼びつける。

 

「鉄仮面、ちょっと来るのだ」

「誰が鉄仮面やねん。てかなぜさっきからずん〇もんみたいなしゃべり方?」

「あのさ。さっき私愛想が必要だって言ったじゃん。愛想どころか感情もないんだわ。だから鉄仮面言われんだわ」

「……」

「難しいこと言ってるかもしれないけどさ。もっとこう……」

 

 そう言いながら千束はおもむろにたきなの両ほっぺをつねる。

 

「むへ!?」

 

 そして思いっきりたきなの両ほっぺを引っ張って千束は言葉をつづける。

 

「ほらこうやってもっとにこーって。表情が硬いんだよもっと自然に笑うと良い」

「うにゅにゅにゅにゅにゅ(怒)」

 

 思いっきりほっぺを引っ張られて怒りを露わにするたきな。

 そしてたきなのほっぺから指を離して、改めてこんな話をし始める。

 

「……私に対し怒りを抱くということはお前には感情があるということ。感情があるんだから笑うことができるということ。OK?」

「そんなことは誰だってわかりますよ」

「そして表情というのは他人に与える印象に繋がるということ。例えば目の前にいる相手が笑っている。片や怒っている。その相手に対して感じ方が違ってくるだろ?」

 

 千束はたきなでもわかりやすく例えを出して話を続ける。

 目の前に悪人がいて。そいつが笑顔か怒り顔か。

 確かに相手が笑っていればそれに付随するのは好感や安心。相手が怒っていればそれに付随するのは警戒や疑心、になるだろうか。

 友人や家族のような相手が笑顔なら安心感が生まれ自然に笑みも出てくる。だが笑顔には良いものもあればさきほどの千束のように悪意ある笑いもある。

 逆もしかりで、怒っている感情の相手に対しても、それに対して敵意ではない、心配に思う相手に寄り添おうとする想いを抱くこともある。

 というように、大抵の人はその分別ができるのだが。

 

 たきなはそこが他人に比べ喪失している部分が見受けられる。

 

 かつて小さかった彼女が本来得るべき幸せだった未来は、"この世の中に住まう悪が全てを奪ってしまったから"。

 本来このような状況で自然で笑うことができる彼女のその笑顔は、理不尽にも世界の悪意が塗りつぶしてしまったからに他ならない。

 

「……」

「だから表情ってのは大事であって、って聞いてるのかな? じゃああれだよ、君が他の子供たちくらい小さかったころに、楽しかったことを思い出してごらんよ。その時どうして楽しかったか……」

「……その私の当たり前の笑顔を、この世の中の腐敗が"全部持って行ってしまった"んですよ先生」

「――あっ」

 

 そうたきなが自虐的に笑みを浮かべながらそう話し始めたところで、千束は口を手で押さえた。

 このような話は"リコリスに対して"はタブーであったことを思い出し、しまったと感じた時にはすでに遅く。

 

「お母さんも。お父さんも。……お姉ちゃんだって」

(……やばい)

 

 今のたきなが浮かべている笑みは、千束でさえ震え上がるほどにやばい感情であることを嫌でも感じさせる。

 このままいけば、楽しいパーティもお菓子作りどころではなくなる。

 そのドス黒い空気を切り裂いたのは、孤児院の先生の明るい口調であった。

 

「さてと、そろそろ完成しそうだしテーブルの準備でもし始めようかな~」

 

 その言葉を聞いて、二人は殺伐とした空気から日常へと返る。

 たきなは千束をこれでもかと殺意マシマシで睨みつけた後、調理場へと戻っていく。

 そのたきなを見て、たきなに人間的な成長を促すことへの難易度の高さを、改めて感じざるを得なかった千束。深いため息で意気消沈しそうになる。

 その後お菓子は完成する。

 子供たちが作っていたお菓子とは別に、たきなが個人的に作っていたお菓子も子供たちにお披露目となるようである。

 

「てかたきなさん別で本格的にお菓子作りしていたけど大丈夫なんですか?」

「前も言ったと思いますけど(※千束が風邪ひいた時の話、第9話もよろしくね♪)、リコリスは基本的に調理などの生活スキルには余念がないように教育プログラムに入っているのでお菓子作りくらいは余裕です」

「ほほう。逆に普通に食べてみたいくらいだわ」

 

 どうやら作ったお菓子には多大な自信があるたきな。

 表情には出さないが自信は感じられるたきながそのオリジナルスイーツを手にし皆のところへ持ってくる。

 その風貌はというと、厚みのあるパンケーキの上にチョコのソフトクリームを載せてチョコソースをかけた物、であった。

 

「名付けて、ホットチョコパフェです」

 

 そのホットチョコパフェを目にした千束は、普通のお菓子を見るような斬新さも感じていないような白い目で評価し始めた。

 

「ほ~。まあパンケーキはふっくらしてるし、そこにソフトクリームが乗っかってれば美味しいのは保証されるでしょうな。でもなんでソフトクリームにチョコなんて覆ってしまったのか、これじゃまるで見た目がうんk」

 

 そう最後まで言い切ろうとした千束に対したきなは思いっきりドロップキックで施設の外まで千束を蹴り飛ばした。

 そして吹っ飛ばした千束のところまで歩み寄って、思いっきり胸倉をつかんで威圧する。

 

「ぐほっ! げほっげほっ!! 貴様なにしやがる……」

「う〇こじゃないです。とぐろを巻いた龍です」

「貴様私がう〇こって言い切る前に自分でう〇こって言ったってことは薄々う〇こだと思ってるってことじゃん……」

 

 蹴られた腹部を押さえながらもだえ苦しみながら千束はたきなにツッコミを入れる。

 

「と、とぐろを巻いた龍だとして。なぜこんな見た目のお菓子作ろうとしたんだよ」

「それは。あ、あれですよその……。こ、コ〇ダの」

「シロ〇ワールか!? そのままだとパクリだと言われると思ったからチョコかけて胡麻化そうとしたらう〇こに成り下がってんじゃないか!!」

「だからう〇こじゃないって言ってるでしょ! これはその、えぇと……。リコリスの守り神のハイパーパンデモニウムブラックドラゴンですよ」

「そのとかえぇととか間をおいてる時点で今思いついて取ってつけた名称だろそれ!! なんだよハイパーパンデモニウムブラックドラゴンってクソ長いしクソダサい! あぁすいませんね汚い苦言が我慢できずに漏れてしまいましたわ、う〇こだけにねぇ!!」

「~~~~~~~~~~~!!」

 

 と、千束のまるでたきなのお菓子に対して大喜利のベスト回答のような罵倒に対し、たきなは顔を真っ赤にして怒り狂う。

 またしても二人は争いに発展してしまいそうになる。

 だが施設内の先生がかけよってきて割とガチで叱られてしまいしょぼんとしたまま二人は施設内に戻る。

 千束の評価はクソみたいな感想であったが(すいませんね、う〇こだけにねぇ)、子供たちの感想はいかに。

 

「これあれじゃん! う〇こじゃん!!」

「う〇こう〇こ!!」

 

 案の定子供というのはモノに対し素直勝つ率直な感想を述べるものである。

 その子供たちの反応を見て、たきなは顔を真っ赤にし。

 千束はその光景に今度は我慢もせずに盛大にホットチョコパフェを指差し大爆笑。

 

「あーーーーはっはっはっはっはっはっは!!(超絶大爆笑)」

 

 その千束に対したきなは片手で千束のこめかみを掴みヘッドロックを決める。

 

「あ"ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 確実にクリティカルヒットし苦しみの悲鳴を上げる千束。

 結局子供たちの評価もストレートにう〇こ。

 たきなは想定していたんだかしていなかったんだかわからないが、あまり抱かない恥ずかしいという感情で赤面し困っているようであった。

 その憂さを晴らすかのように、千束に対しこんなことを言い放つ。

 

「バカにしてますけど……。そういうあなたはお菓子作れるんですか!?」

「え? 私? 普通に作れますけど……」

「だったら、私のホットチョコパフェとどっちが美味しいか勝負しましょうよ!!」

「こ、この流れで勝負に持っていくの……? いいけど、じゃあ負けたらそれう〇こだって認めなさいよ?」

 

 たきなは狙ってはいなかっただろうが、いつものように千束との勝負とすることに。

 内容はそのままお菓子作り対決、ということになるのだろうか。

 

「私がお菓子作って。そのう……。シロ〇ワールのパクリとどっちが美味しいか子供たちに決めてもらおうってことでいいんだな?」

「……いえ、審査員はこちらで用意します」

「審査員? 素直な子供たちでいいでしょうに」

「あなた大人げないから、子供たちを騙くらかそうとするから公平な勝負にならなくなるでしょう」

「騙くらかすて……」

 

 確かに審査員を子供にしてしまうと、お菓子の味は元より千束の人柄の良さが前面に出てしまい(現状子供たちのたきなの評価は滅茶苦茶怖いお姉ちゃんと最底辺)、味による勝負にはならないだろう。

 なので審査員は二人の人望を度外視した、本気の味による評価ができる人物となる。

 たきなはすぐさまスマホを取り出し、色々と電話をかけ始めた。

 そして30分ほどして、三人の人物が孤児院へとやってきた。

 審査員として選ばれたのは。クルミ、真島、楠木教頭であった。

 

「とりあえず手あたり次第審査員になってくれる人を集めました」

「……」

 

 千束としてもたきなとしてもなんとも言えない人物がうまいこと3人も集まってしまったようである。

 一応なぜ審査員を引き受けてくれたのか、千束は三者それぞれに伺うことに。

 

「……クルミ、めんどくさがりのお前がなんでこんなもの引き受けたんだ?」

「うまいお菓子がタダで食えるって言うから」

「……真島くん、敵であるリコリスの頼みをよくまあ二つ返事で引き受けたね」

「あぁん? 千束ちゃんが作ったお菓子が食えるって言うからよぉ~」

「……教頭てめぇ暇なら最初からこの案件自分で引き受けろや。忙しいんじゃなかったんですか?」

「ちょうど昼下がりのおやつにちょうど良い時間ですから。生徒とあなたの様子も気になったんでついでに……」

 

 とまあ三者ともそれぞれ個々の理由あっての審査員依頼の受諾であった。

 というかタダでお菓子が食えるから来たという単純な理由が大半を占めていると思うが。

 

「先生、今すぐお菓子作りに取り掛かってください」

「はっはっは。どうせこうなると思いましてね、さっき個人的に作っておいたのよ自作スイーツを」

 

 たきな言われるより先に、得意げな表情で千束はもうすでにお菓子はできていると公言する。

 そして調理場から高級レストランでよく出てきそうな蓋つきのお皿を持ってきて。

 審査員3名の目の前に置き、蓋を取る。

 皿に乗っていたのは、こじゃれたカボチャのカップに彩られた。カボチャのカップケーキであった。

 これは見ただけで子供受けしそうな、そして大人が見ても造形から評価するような代物。

 やはり千束はこどもを騙くら……。もとい子供たちの基準点においても抜きんでるような細工を施していたということになるだろう。

 

「これはまた……(苦笑い)」

「完全に勝ちにきてる。そういうお菓子だ」

「錦木先生の思慮深さがよく出ている。まあ問題は味ですが……」

 

 と、クルミ、真島、楠木がそれぞれ千束のお菓子の見た目を評価したところで。

 最初に楠木が一口、カップケーキを口にし。

 その瞬間、ふだんから感情のこもっていないことの多い楠木の瞳が、カッと見開き。

 

「こ、これはもしや! ト〇・ヨロ〇ヅカの!?」

「「え? 誰?」」

 

 楠木がお菓子を口にし思わず出したその人物名。

 クルミと真島は知らないのか、ついつい訪ねてしまう。

 

「日本を代表する有名なパティシエですよ。このお菓子にはその著名なパティシエの技術、趣向、繊細さ。それらが寸分違わずに完全に再現されている。に、錦木先生あなたまさか……」

 

 そう楠木が千束を見やる。

 千束はその反応を見て、してやったりという表情を浮かべた。

 それこそが千束が持つ眼の才能の一つ。その眼で観測()たものを完璧に模倣(コピー)する神の如き力(ギフト)の一つである。

 神の遺伝子を授かりしアダムズギフテッドの能力をこんなところで大人げなくフルで発揮する。それが千束という人間である。

 他の二人もそのお菓子を口にしそのあまりの上手さに舌を打つ。

 これはもう、千束の圧倒的勝利になるだろうか。

 

「ふふ~ん。私にかかればお菓子作りはもちろん料理、和・洋・中ありとあらゆる世界的有名な料理人の料理を完全再現してしんぜよう。さてたきなさん、君の自慢の一品を3名にお出しすると良い(勝ち誇った顔)」

「チッ……」

 

 これは流石に分が悪い状態でのたきなのターン。

 料理漫画ならば相手の圧倒的な技術力に味方陣営が圧倒されて、「このままでは……」パターンである。

 だがそこから奇跡的な逆転勝利があるのが料理漫画である。え? リコリス・リコイルは料理漫画ではない?

 

「どうぞ。ホットチョコパフェです……」

 

 たきなは少し自信なさげに3人に自慢の一品。シロ〇ワールをリスペクトした龍が如きスイーツ、ホットチョコパフェを繰り出した。

 これを見た3名は。このままでは、あの禁句が口から出てしまうのか。

 福〇さん福〇さん! このままではたきな鉄人が、あのワードが出てしまえば精神的に一巻の終わりでは!?

 

「これは、あれだな……」

 

 その悍ましい現物を見て、クルミは率直な感想を述べた。

 

「ハイパーパンデモニウムブラックドラゴンか。それをテーマとしたスイーツを作るとは大したものだな」

「え!? 嘘だろ!? 何を知ってて当たり前ですと言わんばかりにハイパーパンデモニウムブラックドラゴン言うてるのこの人!?」

 

 クルミはどうやらハイパーパンデモニウムブラックドラゴンなるものを知ってたうえで、たきなのホットチョコパフェを見てその完成度に驚愕した。

 当然千束はたきなが適当に命名したものだと思っていたからクルミのその意外過ぎる反応に度肝を抜かされる。

 そして続くように真島がそのホットチョコパフェについて語り始めた。

 

「ハイパーパンデモニウムブラックドラゴン……。邪悪なる魂を宿した漆黒の龍。その牙は二つの刀、脳が震えるほどの咆哮。すべてを焼き尽くす黒い炎……」

「なに松岡〇丞のイケボ最大級に活かして超絶かっこよくハイパーパンデモニウムブラックドラゴン語ってんのこの人!?」

 

 どうやら真島もハイパーパンデモニウムブラックドラゴンのことは知り尽くしているようであった。

 それに乗っかる形で楠木もまた。

 

「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる。爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形。結合せよ、反発せよ。地に満ち己の無力を知れ。ハイパーパンデモニウムブラックドラゴン」

「黒〇の完全詠唱ですよねそれ!?」

 

 有名な漫画のマニアなら必死になって覚える最強の必殺技の完全詠唱にそのままハイパーパンデモニウムブラックドラゴンを乗っけるなんとも力業でハイパーパンデモニウムブラックドラゴンを語る楠木。

 よくわからないが、たきなが咄嗟に思い付いたリコリスの守り神は、偶然(なのかわからないが)にも3人がよく知る有名な龍の名前だった。という奇跡的な出来事によりあの禁句には触れられなかった模様。

 だが問題は味や出来の方である。見た目の受けは両者とも互角のようであるが中身が千束の有名パティシエの味に勝らなければ勝利が見えてこない。

 3人ともホットチョコパフェ、もといハイパーパンデモニウムブラックドラゴンを口にする。そして3人が口をそろえてこう感想を述べる。

 

「普通にうまいな」「普通だな」「普通においしいです」

「……」

 

 3人が合致したのは。このお菓子は普通によくできていて普通においしい。ということである。

 つまりは無難ということである。これではたきなの勝利は絶望的である。

 その感想を聞いて千束は、小さく乾いた笑いをたきなに向けたのち、ジャッジを催促する。

 

「もう結果は決まりきっているけれど、3人ともさっさとジャッジをお願いしまーす」

 

 ということで審査員3名によるジャッジタイム。

 クルミ、真島、楠木の3名はそれぞれどちらを選んだのだろうか。

 その結果は、こうなった!!

 

『たきな』『たきな』『たきな』

 

 福〇さん! なんとこのお菓子作り対決。鉄人たきなの勝利です!!

 

「なんでやぁぁぁぁぁ!!」

 

 と、この結果に納得がいかずに待ったをかけたのは千束であった。

 もちろん納得がいっていないのである。

 この結果の真意を問いただす千束。

 それに対してまずクルミがこう口にした。

 

「いや確かに見た目も中身も千束の方がいいとは思うよ」

「だよね!? じゃあなぜ!?」

 

 クルミはしっかりとお菓子の全てが千束の方がよいと口にしたのである。

 しかし、それに続けて千束の疑問に対してクルミがバッサリとこう切った。

 

「だが千束のお菓子には……。"心がこもっていない"!!」

「心とな!?」

 

 ずばり千束が負けた原因は、お菓子に込められた心にあるとクルミは豪語したのである。

 そのクルミの言葉には他の審査員2名もうんうんとうなずいていた。

 

「お前のお菓子のそれは技術の結晶だ。それもお前自身のではなく有名な他人のものだ。それを完全に模倣して僕たちに出したものもただのお前の才能の塊でしかない。そこにお前が僕たちに食べてもらおうとお菓子を作った意思が何一つ感じられない。AIにイラスト書かせてSNSに乗せてイキってるやつと同じだよ」

「AIにイラスト書かせてSNSに乗せてイキってるやつ!?」

 

 そのクルミの辛辣な意見に思わずどよめく千束。

 続けて真島がこれまた真面目な口調で続く。

 

「てか千束ちゃんよ。狂犬のケーキがコ〇ダのパクリがどうとか言ってたがよ。お前のそれはパクリどころか他人の作品を自分のものだと言って他人に出してるのと一緒だぞ? そんなんじゃ調理人と消費者のバランスが取れてねぇんだよ。有名な作品を評価して自分のもののように言ってる輩となんら変わらねぇよ」

「有名な作品を評価して自分のもののように言ってる輩!?」

 

 まさか狂気の男真島にそのような酷評をされるとは思ってもいなかった千束。

 そしてとどめと言わんばかりに、楠木がバッサリと千束のスイーツをこう評価した。

 

「これはあれですね、転売ヤーと一緒ですよ」

「転売ヤーと一緒!?」

 

 この楠木の言葉は完全に千束にとどめを刺したようである。

 ということで、これに対してたきなのお菓子に対しての厳しい審査員の評価はどのようになったのか。

 まずはクルミから一言。

 

「ま、どこかで見たことがある形だし味も普通だけど。必死に自分なりに調べて頑張って作ったんだろ? 今回の子供たちのために、それって食べてほしくて、喜んでほしいって思ったってことだろ。狂犬ちゃんのそのこべりついて取れないようなしつこい汚れみたいな精神は評価に値すると思うな」

 

 続けて真島から一言。

 

「正直クソみたいなお菓子だと思って食ったけどよ。敵ながらクソみたいに努力して作ったんだろ。そういうところはクソバランスがいいと思うぜ俺はよぉ~」

 

 最後に楠木教頭から一言。

 

「まあリコリスとしてはお菓子など作れて当然。腐ってもリコリス、というか水臭いぞ井ノ上たきな、このようなお菓子を作れるならたまには私のところに持ってきなさい。WC(ワールドカップ)でも見ながらゆっくりといただきたいものです」

 

 と、無難な感想ではあるがどうやら3人ともたきなのお菓子に対しては好印象のようである。

 

(つかお前ら内心たきなさんのお菓子に対してう〇こだと思ってるよなぁ!?)

 

 千束は3人の感想を聞いて3人が絶対にたきなのお菓子を見てあれを連想したけれど、それを露骨に出さなかったことを心の中で感じ取りながらぶち切れていた。

 

「ということでお菓子作りは、井ノ上たきなの勝ち~」

 

 楠木のその勝利宣言をもって、千束のたきなのお菓子作り対決は幕を閉じた。

 その勝利宣言を聞いたたきなは、ちいさくガッツポーズをして心から喜んでいた。

 その表情には、自然に出たと思われる可愛い笑みがこぼれ落ちていた。

 そんなたきなを見て、千束は内心こう思った。

 

(……その顔だよぉぉぉぉぉ!!)

 

 その表情が子供たちに前で自然と出来ていれば、こんなめんどくさいことにならずに済んだのになぁ。

 千束は複雑な気持ちでそう思ったとのこと。

 ちなみにその後みんなで作ったお菓子を食べて結果的にハロウィンパーティは大成功に終わったとのこと。

 クソみたいなパーティにならなくてよかったね、う〇こだけにね。

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