リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第20話です。


第20話:chapter1-7-銃は剣よりも……

 今起こった事象に対して理解が及ぶまで、わずかであるが時間がかかった。

 獲物同然だと思っていた。なんの障害とすら感じてもいないそれが、一瞬にして狩人である自分に一撃を与えた。

 それを屈辱と感じる暇なんて、女は与える隙すら与えず。

 

 ――次の一撃が放たれる。

 

 少女は全てを理解するより先に身体が動いた。動かねばまずいと本能が判断するのだ。

 立て続けにその攻撃を食らい続ければ再起不能になる。そう考える程度には頭が働いた。

 地に伏せた少女は身体をひねりその刀の一撃を避ける。そして対象に対して一定の距離を取る。

 相手が手にしているのは刀。すなわち近接武器。

 対してこちらが手にしているのは銃。距離を取れば有利になるのは明らか。

 戦闘にとって相手より有利な状況を作り出すのは鉄則。そして刀と銃ならば、銃の方が優勢であるのは考えるまでもない。

 

 ――それが、常識の範疇ならば。

 

 刀を持った女のその行動に、常識など当てはまらないことはすぐにわかった。

 距離を取ったその瞬間、女はまたもあり得ない速度で距離を詰めてきたからだ。

 そして刀を振る。次は食らうまいと少女は寸でででよける。

 少女の強化された身体能力と反射神経ならば、女の攻撃を避けるのは不可能ではない。

 だが、避け続けることを考えるのならば、それは現実的ではないと思考する。

 素早く、そして威力があり、そのうえで行動が継続的だからだ。

 一拍を置く暇すら与えないほどの頻度での攻撃が、次第に少女の精神力をむしばむ。

 

「この女っ……!」

 

 少女――乙女サクラがそう表情を苦ませての口から出したのがその一言。

 それから続く言葉があるとしたら、「普通じゃない」「なぜこんなに強い」「一般人じゃないだろ」といったようなワードであるだろうか。

 だが仮にそのような評価を下したところで、狩人である自分の方が強いはずだ。

 そう刀を振るう女――。かつてこの街で恐怖の象徴、破壊の化身と恐れられた強者。

 

 狂瀾怒濤のウォールナット。

 

 そう呼ばれた者が、サクラの想像を凌駕する動きで、獲物が狩人を追い詰めるかのように、ジリジリと、盤面をひっくり返そうとしていく。

 

「――サクラが追い詰められてる。あの人、あんなに強いの……?」

「敵を侮るなかれですよお嬢さん☆」

 

 仲間のサクラが押されているのを心配するエリカに、それを軽い口調でたしなめる千束。

 すっかり格闘技の観戦席にいるような気分で、二人の勝負を見定める千束。

 当然ただ楽しんでいるだけではない。そこから得られる情報には当然目を配る。

 そもそもとして、なぜ一介の女子高生が銃を片手にあのような戦闘力を保有しているのか。

 それに関して言うならリコリスからすればその目線は逆になるものだろうが、一般人目線でのリコリスの存在の方が異質に映るだろう。

 

「ちなみに聞くけど、加勢とかしなくてもいいの? あの特攻少女の仲間なんでしょ?」

 

 千束のその問いに、エリカは冷静な口調でその質問に言葉を返す。

 

「……私は別件で彼女に付き添っているだけだから、それに……。私たちはそんな簡単にやられたりはしないよ。子供だからって侮りすぎなんじゃない?」

 

 そうエリカはサクラの実力を評価したうえで千束に対し強気な姿勢を曲げずそう答えた。

 サクラはセカンドリコリス。リコリスの中でも実績と戦闘力を評価されたものにしか与えられない紺色の制服を身に着ける物。

 相手がかつて最強格だった一般人といえど、そう易々とやられる器ではない。

 そのエリカの言葉を聞いて、千束は余裕そうな表情を浮かべど、少しばかり安堵を交えたような口調でこう返した。

 

「そりゃよかったよ。もし君があの子に加勢しようものなら、こっちは"3人がかり"で戦わなきゃいけなかっただろうねぇ~」

「……」

 

 その千束の言葉を聞いて、千束を横目で一瞥した。

 一見この状況を楽観視している。余裕を崩さないその態度。

 だが戦局を見据えている。けしてそこには、リコリスに対しての警戒を怠ってはいない。

 

「……侮ると思ったか? 君たちが普通じゃないってことくらい理解したうえで私たちは応対しているつもりよ?」

(……この人)

「だからこそ君たちもそろそろ念を押した方がいいよ。"私たちも普通ではない"ということを……」

 

 その千束の言葉は、忠告か牽制か、間引きの意味も込められているのか。

 私たちと千束は言った。千束にとって異常さを持ち合わせるのは、なにも自分だけではないということ。

 それほどまでに、彼女の仲間に対する評価と信頼が厚いことがうかがえる。

 そして場面を戦闘を行っている二人に戻すとしよう。

 実際のところ。クルミとサクラの状況はサクラが劣勢。

 サクラ自身、未だクルミの全貌を把握しきれていない。

 まずは評価を改めなければならない。目の前にいるそれが、自分たちを脅かすほどの存在であることを。

 それは恥ではないと、そうサクラは己を認めなければ土俵に立てないことを。

 

(いったん、いったん落ち着けよあたし……。なぜ目の前にいるこいつがこんなに戦い慣れてるのだとか、あたしの動きについていけるのだとかそんなのは些細な考えだ)

 

 嵐のように浴びせられるクルミの攻撃の中、サクラは冷静になるように自分を諭す。

 自分に言い聞かすように、頭の中で思考を巡らせる。

 

(要はこの女の攻撃は単純なものだ。そう、"ありえない速さ"で"ありえない威力"の剣撃がくる。そう考えればいいだけのことだ)

 

 そう解釈したうえで、サクラが自身の中で出した回答がこれだ。

 

(そしてあたしはその速度にも、その威力にも"対応"できるはず……)

 

 はず、と保険をかけたような言い回しではあるが。

 この数分間のクルミの攻撃の数々を見て、避けて。少しずつではあるがパターンを理解してきている。

 そうなれば、次は反撃に写るよう算段を立てればいい。

 そうサクラが考えを巡らせている中、クルミの方はどうかというと。

 

(なるほど、あっさりと対応されているなぁ~。ここ最近喧嘩なんてしてないしなぁ。個人的にはまだ"2割程度"ってところかぁ?)

 

 クルミ的に今の自分の戦いの評価が、いかんせん低すぎるものであった。

 毎日抗争に明け暮れている時代はもっと強かったはず。クルミはこの状況で、自身への衰えを自覚せざるを得なかった。

 それに対して多少気落ちしつつ、だが攻撃の手を緩めずサクラに対し刀を振るい続ける。

 

(ま、そろそろ反撃に転じるころだろう。色々やってるうちにまぁ、4割程度には元に戻るだろう)

 

 クルミはそんな呑気なことを考えながら。

 多少気楽な感じでサクラを攻撃していた。

 普通の視点から見ればありえない速度でのありえない威力の剣撃。

 その攻撃に対し対応を深めていくサクラ、そして防戦一方のサクラに動きがあった。

 

「ここだ!!」

「ん!?」

 

 そうサクラは、クルミの刀を左手でつかんだ。

 こうしてしまえば動きが止まる。そしてその間に銃弾を大量に浴びせダメージを取ればいい。

 それがサクラが虎視眈々と狙っていた構えであった。

 

「あっはっは! あたしがいつまでも避けたり逃げたりばかりだと思うなよ!! その小さな胴体に大量の銃弾をお見舞いしてやんよ!!」

 

 そうサクラは勝ち誇ったように声を荒げ、右手で握っていた銃をクルミに対し構えた。

 ――その瞬間だった。

 

 バチン!!

 

「なっ!?」

 

 強烈な音が空気を震わせたのが分かる。

 そしてそれと同時にサクラが、刀を掴んでいた左手を手放した。

 その音と同時に、サクラの左手に襲った強烈な激痛。

 その正体は、"電磁波"である。

 

「ス、スタンガン!?」

 

 クルミの所持する黒い模造刀。

 クルミが手にし臨戦態勢を構えると同時に、刀身の前部分が黄色く発行する。

 その色合いはまさしく蜂の模様。そして電磁波の痛みはそれこそ、蜂に刺されたときの痛みのごとく相手を怯ませる。

 

 それこそがクルミが持つ愛刀。作成者ミカによる命名は"ホーネット"。

 

 そして痛みに対し反射的に手を離したサクラに対し、クルミは冷徹にも強烈な一撃を腹部にぶち込んだ。

 

「がはっ!!」

 

 大きく吹っ飛ばされたサクラ。

 そして飛ばされたサクラに、そのありえない速度でクルミは接近し追い打ち。地面にたたき落とした。

 再び地に伏せるサクラ。仰向けになったサクラに対し、クルミは容赦なくその腹部を右足で踏みつけた。

 

「うっ!!」

 

 何度も、何度も。容赦なく踏みつけ続けるクルミ。

 そしてサクラに対し、またも忠告としてクルミは冷徹にこう言葉を浴びせた。

 

「だから、言葉をより先に身体を動かせと言ってるだろ? さっき刀を掴んだ時すぐに銃弾を撃っていれば僕に数発攻撃を浴びせられた。それをくだらない見栄で台無しにするんだもんな。僕を馬鹿にしてるのか……な!」

 

 そう言ってクルミはサクラの横腹を蹴り飛ばした。

 痛みですぐには動けないサクラに対し、クルミは容赦なく剣撃を浴びせようとする。

 サクラは痛みに耐えながらも、銃で刀を受け止め。

 そして立ち上がり距離を取る。そして距離を取ると同時に銃弾を数発撃つ。

 3~4発撃って、そのうち1発がクルミの左肩に当たる。

 

「痛って!」

「はぁ……はぁ……!! ば、バカにしてんのはあんたの方だ!! こうやって距離を取って銃で牽制してれば、あんたは手も足も出ない!! 銃は剣よりも有利なんだよ!!」

 

 今度は距離を取りつつ銃弾をクルミに撃つことで接近させないようにするサクラ。

 さすがに人の動きよりも銃弾の動きの方が早い。

 そして実弾ではないとはいえ当たればただでは済まないフランジブル弾の威力。こうも食らってばかりではいられないと。

 クルミは多角的な動きでサクラに攻め入ろうとする。だがサクラもその動きに合わせ距離を取りつつ弾を撒く。

 牽制しつつ、その中で本命の一発を混ぜることで、着実にクルミに銃弾を当てるサクラ。

 クルミは痛みに耐えつつ、何かを図るような表情を浮かべた。

 

「……なるほど。お前単純な奴だな」

「あん?」

「戦い方がお上品だってことだよ。そうやって着実にダメージを取る術を持っているなら、いっそのこと不意打ちや闇討ちでもしてた方がいいんじゃないのか?」

「はん! そんな卑怯でだせー戦い方ができっかよ! 真っ当に、圧倒的に相手を叩きのめしてこそが戦いってもんっすよお姉さんよぉ!!」

「……そうか、その考えは嫌いじゃないよ。むしろお前がそういうタイプで本当によかったと、今心から思ってるよ」

「ほざいてろ!!」

 

 クルミはサクラの、そういった部分は真っ当に評価しつつ。

 そしてそれはそれとして、非常に戦いやすいと語ったところで。

 サクラは怒りむき出しで銃弾をクルミに放つ。

 その銃弾を視認して、クルミは自身の中で確信した。

 

 ――その銃弾、"刀で切れる"。

 

「なっ!?」

「嘘っ!?」

「Ohー! ファンタスティーック!!」

 

 そのクルミの行動に驚愕するサクラとエリカ。

 千束はなぜか路上の大道芸を間近で見たかのような反応を示しているが。

 そう、クルミは銃弾の速度、軌道等を頭で計算しつつ何発か銃弾をその身に受けていたのである。

 そこから銃弾が放たれる距離や軌道計算を行い、そこに合わせて刀を振れば。

 まるで某石川五ェ門のように、飛んでくる銃弾を刀で切れちゃうんじゃないか。と思って実際にやったらできてしまったのだ。

 

「なっ……なっ……」

 

 うろたえるサクラ。

 そして当然そんなサクラに対し隙を与える間もなく。

 クルミは三度、強烈な一撃をサクラに叩き込んだ。

 三度サクラはその身を地に伏せる。

 

「ほらもうこっちは銃に慣れたぞ? あとお前、銃は剣に対して有利だって言ってたよな?」

「ぐっ……!!」

 

 クルミはうつ伏せになったサクラの後頭部を踏みつけ蔑みながらそう口にする。

 

「接近してしまえば、刀の方が有利なんじゃないのか?」

 

 そう、銃は距離を取り中距離から遠距離から攻撃を行うことで有利性を保つ武器である。

 だが相手が身近まで接近してしまえば、銃で撃つより先に近接武器による攻撃の方が早いのが鉄則。

 そうなれば銃で近接武器を受けるしかない。距離を取る前に銃をはじかれてしまえばそこで詰む場合もあるだろう。

 近接武器側はどう相手を接近するかを重点に考えればよいだけなのである。

 

「ま、結局は力量や手数が物を言うんだよな。ゲームも一緒だよ。お前ゲームとかやる?」

「に……ニンテンドース〇ッチと……か……」

「そーか。僕はプレ〇テ派だ。武器の趣味からゲームの趣味まで合わないな、お前とは」

 

 そう言ってクルミは思いっきりうつ伏せのサクラの顔を蹴り飛ばした。

 吹っ飛ぶサクラ。戦局はクルミが圧倒的に有利。

 この状態で戦闘を続けても、サクラの勝ち目は薄いだろう。

 こうなってしまっては、もう一人のリコリスが加勢に来るだろうか。クルミは流し目でエリカの方を見やる。

 

(さすがにこいつを助けに来るかな? う~ん、現状は見積もっても3割ってところかぁ? あっちの方がやりがいありそうだな~)

 

 クルミはエリカを警戒しつつ目を配る。

 だがエリカはというと、この状況でもサクラの加勢に入るそぶりは見せない。

 この状況に、危機感を抱いていないのだろうか。

 

「ぐっ……」

 

 普通ならば形容しがたいダメージを受け続けてなお、サクラはクルミに牙をむく。

 すでに狩人と獲物の関係性は逆となっていた。

 だがこの状況でも、サクラはクルミに対し、勝ちが見込める策を潜めているのであった。

 

「……あーもうだっせぇ。やっぱり拳銃なんて使ってもつまんねえよな~」

「サクラ、まさか……」

 

 吹っ切れているサクラに対し、エリカは表情をしかめる。

 そのエリカの反応の変化に対し、千束は何かしらの違和感を感じ取っている。

 そしてサクラは銃をしまい、新たに取り出したのは――刀であった。

 その持ち主の名前に通じるかのように、桜の花びらのような作り物が連なった独創的な模造刀。

 遠距離武器から近接武器に変更。そう、クルミと同条件で挑もうとしているのであった。

 

「いいよ姉さんよぉ。あんたと同じ土俵で戦ってやるっすよ」

「ほ~」

 

 そしてサクラは、刀を握り、その名を唱えた。

 

「――ラジアータ起動、ハルシャギク」

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