リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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本編パートその8です。


第21話:chapter1-8-生きた刀、意思を持つ武器

 ――ラジアータ。

 それはDAグループが保有する人工知能搭載の巨大コンピューターの総称。

 これにより街中の社会情勢、悪事を働く者たちの動向や情報などは逐一DAグループの元へと入ってくる。

 それをもとにDAに属するリコリスたちが、ランクに応じて悪事を収めるため、悪人どもを粛清しに向かう。

 そしてそんなリコリスが所持する武器の名称も、ラジアータと呼ばれる。

 彼女たちが持つ武器の形をしたラジアータを使用することにより、彼女たちは巨大コンピューターであるラジアータの本体と接続することとなる。

 ラジアータと接続を行うことで、リアルタイムで得られる情報、それによる状況の最適解をリアルタイムでリコリスたちは受け取ることができる。

 武器型のラジアータにはそれぞれに固有の名称が与えられる。サクラが所有するラジアータは、ハルシャギクという名称を持つ。

 このラジアータを使用することで、彼女たちがどのような戦い方をするのか。

 

「サクラ。ハルシャギクを使うんだね……」

 

 ラジアータを起動するサクラを、エリカは心配そうな表情で見守る。

 ラジアータは現場において、状況を速やかかつ、確実に遂行する時に使用される。

 大半はラジアータを使用せずとも、彼女たちに与えられた戦闘技能と能力で並大抵の相手は彼女たちにはかなわない。

 だが相手によっては、実弾銃や刃物など危険な得物を持っている場合。そして周りに一般人などがいてそれを保護しなければならない場合などがあり。

 その際にラジアータは使用され、リコリスたちの能力を爆発的に押し上げる代物。

 それをサクラは自己の判断で、クルミを相手に使用することを選んだ。

 

「……普通、銃の方が刀使うよりも有利に事が進むもんじゃないかな。なのに彼女、わざわざ銃を捨ててクルミと同じ刀を使うんだね」

 

 千束は冷静に、サクラが行った選択に対して考案する。

 確かにクルミが銃相手に慣れ、接近戦を仕掛けることで銃相手への有利性を主張し始めたのは確か。

 だがそれでも銃を持っている優位性の方が分があると考えるのが妥当である。

 銃に慣れて接近されてくるのがいやだから接近戦に対処するために刀に武器を変える。という考えで優位性を捨てるのはどうにも理に合わない選択肢だなと千束は感じたのである。

 

「まあそれでも、実は剣術の方が自信があるんです~。――というならわざわざ刀で戦う道もあるのか。それとも、"あの刀に何か仕掛けがあるのか"」

(……この人)

 

 千束が色々考案し予測し、状況をつかみ取ろうとしているのをエリカは横目に。

 千束の目的は戦闘でもなければ、リコリスたちの撃退ではない。

 この状況を作り出した何者かの目的と、そして彼女たちがどのような連中なのかの詮索と把握。

 そのため、サクラがラジアータを使用する場面は、千束にとっては真理に近づく材料になりうるものであった。

 

「……ハルシャギクを使ったからには、お連れの方も危うくなると思うけど。助けに入るなら入った方がいいかと」

「ああそうなの? でも私が助けに入ったら君も入ってくる感じじゃないの? そうなるといよいよ本格的な戦闘は避けられなくなるから私参戦は却下で……」

「この状況でもウォールナットが勝つと?」

「……まあそれはどうなるかはわからないけども、あいつ実際強いからねぇ。どんな相手でも無理やり叩き切るし切り刻むんだよ。そこがクルミの最大の強み、貫徹(ハッキング)祝福(ギフト)ってやつかな?」

 

 千束がそう説明した祝福(ギフト)という単語。それは彼女の周りでよく言われていた、人には誰しもに神からの祝福(ギフト)が与えられ生きているという周りの大人たちの妄言である。

 妄言ではあっただろうが、彼女たちがかつて街の平和のために戦いを強いられる日常において、強みは持ち、それを生かすことは重要だという判断から、そう仕組みを行うことにしたのだという。

 クルミが持つ祝福(ギフト)貫徹(ハッキング)である。

 これはクルミが名の知れたハッカーというわけではなく、ハッキングの語源は"叩き切る"、"切り刻む"という意味を持ち。一心不乱に圧倒的に相手を処すことに技術と能力を特化させたクルミらしいとしてそうなったとのこと。

 ちなみに同行しているサイレント・ジンは沈黙(ステルス)祝福(ギフト)。千束は他の二人をも凌駕した、まさに神より授かった英知たる祝福(ギフト)、神の眼を有する。

 

「クルミ相手に同じ土俵で戦うことをあえて選択するんだとしたら、あの特攻少女はよっぽど刀使いに自身があるということか、何か細工があるかどっちにせよそういうことだ」

「まあ、見てればわかるよ」

 

 状況を観察する千束に、エリカは冷めた口調でそう返した。

 そんなエリカを横目に、千束は先ほどの会話の流れで新たに不可解だと感じたことがあった。

 

(……というか、クルミはこの子たちにウォールナットっていう名前を名乗ったっけ?)

 

 状況は会話する二人から、激闘を繰り広げている二人へと移す。

 ハルシャギクを手に取るサクラ。それを見て刀を構えなおすクルミ。

 

「……わざわざ僕との喧嘩に刀を選んでくれるなんてな」

「いやぁ、姉さんが刀振り回してるのを見て、あたしもつい使いたくなっちゃったんっすよ。同じ土俵で叩きのめした方が、姉さん傷つくでしょ?」

「相変わらず口ばかり回るなお前、しゃべる暇があるなら――身体を動かせってさっきから!」

 

 そう言ってクルミは得意の素早く威力のある斬撃を繰り出す。

 それに対しサクラは、涼しい顔をして自身の刀で受け止め。

 そして切り崩した。

 

「?」

 

 さきほどまで戦っていたからか癖が見抜かれているせいか、あっさりすぎるほどにクルミの剣撃が受け流されてしまった。

 その後も何度か、時より攻め方を変化させつつもクルミはサクラに剣撃をお見舞いするが。

 それを二度、三度と的確に受け流し、優位性を主張するサクラ。

 この状況は、さきほど銃を使っていた時よりもサクラに理が傾いている。というより、出来すぎているとさえ感じた。

 

(……確かに僕の動きは単調だが、速度や威力は乗っているはず。それを片手で刀を振り、弄ぶかのように受け流すかこいつ)

「あっれ~? 姉さん先ほどの余裕はどこへ消えたんっすか~?」

「ふんっ」

 

 思慮深く観察するクルミだが、色々考えるよりも攻撃を継続させ、集中力を欠けさせそこに一撃を加えた方が早いとクルミは判断する。

 だがサクラはその迫りくる速度にも、威力にも、クルミの技術に対しても恐れや切迫感などを抱かず、遊ぶようにすべてを見切り対応し始めている。

 それはまるで、人間の本能的にというよりも、機械的な動きにも見えた。

 

「くそっ……」

「ほらほら焦りが見えてきたんじゃないっすか? 言っとくけどあんたの動きや行動は全部"計算されて筒抜け"。それに対してどうすればいいかも全てがまるわかり、楽勝で片付けてやるから……さ!!」

 

 そのサクラの言葉と同時に、サクラが攻撃に転じた。

 今度はクルミが受け手に代わる。サクラの攻撃を流そうとするが……。

 

 ズバン!!

 

「ぐっ!!」

 

 ほんのわずかな隙を突くかのように、サクラはクルミの胴体に刀を一撃加えた。

 それにより数mほど吹っ飛ばされるクルミ。

 食らった痛みで、胸元を抑える。

 

「痛いなちくしょう……」

 

 一撃を食らった痛みと、押されていることに対し、あまり感情的にならないクルミもついつい感情的になりつつあった。

 そこに焦りを前面に出してしまえば、相手の思うつぼであるだろう。

 敵から離れたことにより一度距離を取り、状況を整理し、勝ち筋を模索しようとするクルミ。

 そんなクルミに対し、サクラはニヤリと笑みを浮かべ、ハルシャギクをその場で振るおうとする。

 

「色々考えたいとこ申し訳ないっすけど、あたしのハルシャギクの神髄は……。ここからなんっすよ」

 

 そういってサクラはハルシャギクをその場で思いっきり振るった。

 その瞬間、クルミや千束達にとって、予想だにしない事が起こった。

 なんとサクラが振るった刀。ラジアータ――ハルシャギクの刀身が、数m離れたクルミのところへと伸びたのであった。

 

「なに!?」

 

 それを見て本能的に防御の姿勢へと移るクルミ。

 刀身が伸びたことにより、遠距離から一方的に刀でなぶってくるサクラ。

 それを見た千束は、楽観視していた表情から一見、驚愕の表情を浮かべた。

 

「刀が伸びた? ガリアンソードか!?」

「ガリアン?」

「……蛇腹剣って言った方が伝わるのか? 世間的にはそっちの方が浸透してるのか……。てかそんなことよりあの武器なに!? めっちゃ使ってて楽しそう!!」

「あなた味方がピンチなのわかってるの?」

 

 千束からすれば仲間のピンチよりも、サクラが使っている武器の興味の方が勝っていることに対しエリカは困惑していた。

 

「私の仲間にもビックリ武器を考案する人いたけど、あれは技術的に無理だったなぁ~。あんなものを作れるなんて君たちは何者なの?」

「……それは守秘義務。あなたが私たちの脅威である以上は教えるわけには」

「なんだよケチだねぇ~。じゃあクルミがあの子に勝ったら洗いざらい話してもらおうかな~」

「(この状況でもまだサクラに勝てると思ってるの?)わかりました。その代わりあの人がサクラに負けたら仲間全員連れてこの街から出て行ってもらうからね」

「よしわかった! クルミ~! 負けたら招致せんぞ~!!」

 

 いくら勝てば情報が得られるからといえ、負ければ街から出ていかなければならないという条件を取り付けられても平気な顔をしている千束の態度に、エリカはまたもや困惑。

 だがエリカ的には、千束を直接叩かなくても、今戦っているサクラがクルミに勝てば与えられたミッションを完遂できることになったことの利点は大きかった。

 エリカとしては、この錦木千束という存在には、不気味と感じられるほどの、その外観からは想像もできないほどの大きな何かを感じざるを得なかったのである。

 エリカが介入すれば、千束は今いる三人全員でかからなければならないと言っていたが。正直な話エリカとしては、恐らくではあるがエリカとサクラが二人がかりでも、千束一人を相手取れるかどうかという、千束の言っていることとは逆のことを考えてしまうほどであった。

 

(サクラ、うまくいけばこのまま穏便に対象を排除できる。ハルシャギクは私向けに開発されていたものをサクラがわがままを言って受理したもの。使いこなせるかはわからないけど、それでもその能力があれば相手が何であれ圧倒できるはず)

 

 エリカは脳内でそんなことを考えながらサクラを見守る。だがどこかしら不安に思っているからか、はず、と保険を掛ける。

 

(サクラ。ラジアータの接続は深度4までに抑えて。深度5以上に達するようなことだけは……)

 

 エリカが心配する最中、サクラは今は絶好調と言わんがごとくクルミを圧倒していた。

 接近戦向きの刀でありながら遠距離まで対応するハルシャギクの優位性を最大限に利用し、鞭を振るうかのようにクルミをいたぶる。

 クルミは接近する隙も与えられないまま、自身が持つ刀での防戦一方を強いられる。

 

「さてさてそろそろ限界か~。あんたをぶっ潰せば錦木千束も黙ってはいないだろう。このまま手柄を立てて、失敗した忌々しいくそたきなを出し抜き、いよいよフキさんと同じファーストになるんだ!!」

 

 クルミに勝った後の報酬に目がくらみながら、余裕綽々なままクルミを攻撃するサクラ。

 一方でクルミは、この状況をどう打破するかを考えていた。

 当然クルミの刀は伸びたりしない。遠距離戦から近距離戦に移行するには近づかなければならないが、遠出から繰り出されるハルシャギクの攻撃の合間で接近するのは難しい。

 そして接近しても刀は縮小しサクラの元へと戻り、また全てを見透かされたかのようにあしらわれるだろう。

 遠近両用にて優位性を発揮するサクラに一矢報いる方法を、クルミは模索する。

 そして千束をちらっと見て、決心を固めたかのような表情を浮かべた。

 

「……あいつのバカげた眼で、あっさりと僕の研鑽を"模倣"されるだろうから、あいつが見ている中で使いたくはないんだけどなぁ」

「?」

 

 クルミと眼が合った千束は、クルミのその視線を感じて首を傾げた。

 

「贅沢は言って……られないか」

 

 クルミは何かしら覚悟を決めたのか、ハルシャギクの一撃を受け流し、距離を測るように斜め横へと動く。

 クルミとサクラの距離はおおよそ10m程度。ハルシャギクの伸縮範囲はおそらく今の距離であろう。

 そしてクルミが今からやろうとしていることにも、この距離が最適と判断する。

 

「なにか考え付いたんっすか? 逃げる算段なら立てるだけ無駄、絶対に捉え切って叩きのめす!」

「逃げる? バカかお前、勝てる相手に対し逃げる算段を立てるやつがどこにいるよ」

「なに?」

「要は刀使って遠距離攻撃をすれば状況はイーブンに持っていけるんだろ? だったら」

 

 そう言ってクルミは刀を腰の位置へと持っていき、そして突きの構えを取って限界まで刀を引いた。

 

「これなら……どうだ!!」

 

 そしてそれを、思いっきりサクラから離れた場所から、最大出力で突き出した。

 するとどうなったか、クルミの刀の先から、電磁の衝撃波が恐ろしい速さでサクラの元へと飛んでいく。

 

「ぐはっ!!」

 

 その衝撃波が、サクラの腹部に直撃し、サクラはその場から吹き飛ばされた。

 そう、クルミの刀――ホーネットは磁気を帯びており、電磁波を発生することができるギミックが搭載されている。

 その刀をとてつもない速度で突くことにより、小さな電磁砲を発生させることに成功したのであった。

 この技能に関しては、クルミは10年前にはすでに考案し、現実のものにするまでに至っていた。

 だが実際に使うような場面に遭遇することがなかったことと、千束の近くでは極力使いたくないという意地があり使わず宝の持ち腐れになっていた技なのである。

 原理は単純だが、これを現実のものにするにはそれなりの努力と研鑽が必要なもの。だからこそ、クルミは千束が見ているところでは、心から"使いたくなかった"のである。

 

「クルミ―! すげえなお前!! いつからそんな技使えるようになったん!?」

(呑気に見世物を見るかのようにはしゃぎやがってあのバカ。あ~、お前はこれで僕のこの技を簡単に自分のものにできるんだろうな……)

 

 はしゃぐ千束をよそに、クルミは心の中でそう悔しそうにした。

 クルミの刀から放たれた衝撃波をもろに受けたサクラは、考えがまとまらずにいた。

 クルミの動向は、ラジアータが全て計算し、サクラがその情報をリアルタイムで受信し的確に対応していた。

 だがクルミが今行ったことは、ラジアータでも計算しきれないほどの想像だにしない行動。

 これではもう、クルミがどうサクラを攻撃するかが予測不能になる。

 

「ぐっ……ふざけ……うわあああああ!!」

 

 そのまま考えがまとまらないサクラの元に、クルミは得意のスピードを生かし接近。

 サクラが対応するよりもクルミの攻撃が早く、接近戦でクルミが圧倒し始める。

 情報がまとまらないサクラは、自身での技能による剣術にほころびが生じ始める。

 一撃、またも一撃とクルミの剣撃を受け、満身創痍になっていく。

 

「……なんか急にあの子、剣筋が怪しくなってきたな。確かにクルミがやったことに度肝を抜かれたとはいえ」

「そんな……。ラジアータの情報処理が追い付いていないなんて……」

「情報処理……。的確な剣捌きと、機械的なまでの対応能力……。あの刀……"人工知能"?」

 

 千束は今にも、ラジアータの本質を理解しようとしていた。

 

「が、がはっ……」

 

 もう何度、サクラはその身体を地に伏せただろうか。

 純粋な戦闘能力、技術ではクルミの方がサクラを凌駕していたのである。

 ラジアータによる補助がうまくいかなくなれば、サクラ自身のスペックで勝負をしなければならないが。

 サクラのセカンドリコリスとしての強化された肉体、身体能力を以てしても、クルミはその上を行くのである。

 それこそが、経験というものが成す結果という真実。

 

「どうした? 伸びる刀見せびらかしてもうネタ切れか? 遠距離攻撃は僕も持ってる。僕の電磁砲の速度にはお前のその伸びる刀の伸縮速度はついていけない。接近と離脱を繰り返すうえでも何もかも、スピードは僕が上だったな」

「ま、まだだ……。お前なんかに、あたしらみたいな兵士でもない、一般人のお前なんかに……。あたしが、負けて……」

 

 息も絶え絶えになりながら、情けなくもなりながら、サクラは決して負けを認めずその場に縋りつく。

 クルミがどれだけの強さを持っていたとしても、所詮は一般人でしかない。

 それに対しサクラは――兵士である。

 社会から見放され、DAに拾われ、適性を見出され、薬を投与され、身体を人工知能と接続できるよう弄り回されて兵士となった自身がけして屈してはならない。

 兵士が一般人に負けることなど、あってはならないことである。

 

「ぐっ……。フキさん、あたしはこの課せられた使命をこなして、あなたの……横に立てる存在に……」

「優秀な仲間への憧れか? 野心があって大層なことだが、お前ごときの実力に、そのお仲間もさぞガッカリしてるんじゃないのか?」

「な、なん……だと……?」

「というよりお前ごときが憧れる器だ。そのお仲間も、あんまり大したことない雑魚なんじゃないのか?」

 

 そのクルミの罵倒を聞いて、サクラの中で、何かがはじけたような気がした。

 

「……やめろよ、てめぇ、これ以上フキさんの悪口言うんじゃねぇよ」

「なに? みっともなく地に伏せてるやつが何を偉そうに。だったらそのフキさんとやらをここに連れてこいよ、というか千束の近くにいるそいつも、なんならこの状況を"隠れて傍観してるお前の仲間であろうやつら"も全員ここに連れて来いよ。僕がまとめて全部叩き切ってやる」

 

 どうにもクルミの口調に激しさが増している。

 まるでサクラを挑発しているように、感情的にサクラの戦意を引き出そうとしている。

 

「クルミ、何のつもりだ……?」

 

 この戦闘による影響か、クルミはかつての間隔をだいぶ取り戻してきたからなのかえらく好戦的になっている。

 そうだ。千束は思い返すのだ。クルミはかつてこの街で、どれだけ恐れられ、そして彼女が、どれだけの兵どもを駆逐してきたのかを。

 1日で組織を3つほど潰してきたこともあった。最初に切込隊長がごとく先陣を切るのはいつも彼女だ。

 小柄な彼女が、刀を振り回し他を圧倒し、暴力によって他者の殲滅を行うその凶行は味方でさえ恐怖を植え付けられるほどであった。

 故に狂瀾怒濤。彼女が戦場に出ればその場の全ての者たちの身が狂う。

 狂って、狂って。恐怖に狂って、歓喜に狂って。

 まさにその状況の最中に、彼女の感覚が戻ってきてしまっているのである。

 そう、これは千束にとって、非常にまずいことである。なぜなら彼女は戦いを望んでいないが、もうこのままでは、全面的に戦いに発展する可能性が高まるからである。

 

「というわけでそのフキってやつが一番強いんだとしたらそいつから徹底的に叩きのめす。そして恐怖に狂ったお前を含めた他の連中全員も僕が叩きのめす。全員叩きのめす。もう最初からそうすりゃよかったんだ」

「……黙れよ、黙れ黙れ黙れ……。黙れぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 クルミのその悪意のある発言に、サクラは心底ブチギレた。

 その瞬間、そのサクラの怒りが、ただの感情的なものだけでとどまる者ではないと周囲の人間は理解する。

 あからさまにサクラの様子が、変わったのが分かる。

 そしてサクラだけではなく、サクラが手にしているハルシャギクからも、にじみ出る不可解ななにか。

 

「なに?」

「ふふ、ふふふふふ。あたしら全員を叩きのめすってぇ? そんなこと言うならお前ぇ、あたしらの脅威でしかない。脅威は、この世界の悪は、排除しないと。排除だぁ。排除排除排除排除排除……」

 

 まるで気狂いしたかのようにサクラの凶悪な笑みを浮かべる。

 その目線は、クルミへの敵意により鋭く向けられる。

 そしてその状況と呼応して、ハルシャギクの様子も変化していく。

 ハルシャギクがその刀身を伸ばし、そして荒ぶるように動き回る。

 千束はその刀を見て、率直にこう感じたという。

 その光景、それはまるで……。

 

「……あの武器……生きてる?」

『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 とても物体から出てくるような音ではない、奇声のようなものがハルシャギクから聞こえだす。

 そしてサクラの様子も、先ほどのものからあからさまにおかしくなる。

 それはまるで、武器にその身を捧げるかのように言葉を発する。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!! 血が沸騰する。頭がパンクするくらい……声が、声が声が声が!! ハルシャギク……。あたしの全部を持ってけよ、その代わりに、あは、あははははははは!! 目の前のそいつを……」

 

 そう狂い散らかしたようにサクラが、クルミをターゲットに見定め。

 

「――排除しろ」

 

 暴れまわる大蛇のごとく、あたりのエフェクトを破壊しながら、それはクルミに襲い掛かる。

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