リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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本編その9となります。


第22話:chapter1-9-僕はお前を叩き切る。

 気がついた時には、少女には帰るところがなくなっていた。

 いや、帰る場所はあった。だが少女は自身が暮らしている家に居場所がないと感じ、逃げるように外へと出た。

 そして気がつけば同じような境遇の若者たちとつるむようになっていた。そこでは自分の気持ちを理解してくれる同志たちがたくさんいた。

 この時の少女にとって、そこが生きてきた人生の中で、最も居心地の良い場所になっていたのだろう。

 

 ――だが、その連中の欲に付け込んだ悪い連中がやってきて、少女は悪事の片棒を担がされる毎日が始まった。

 あからさまに怪しいバイトだ。成功すればお金がたくさん入る、そして自信を評価してくれる人たちがたくさんできると。

 甘言に乗っかったわけではなかった。たくさんお金が欲しいとか、そういう欲にまみれていたわけではなかった。

 ただ、少女にはそれしか選択肢がなかったのだ。

 だからたくさん悪いことをに手を出した。自分が少しでも幸せにと感じるために、他の人間の犠牲に、見て見ぬふりをして。

 

 そんな日常が、ある日終わりを迎えた。

 突如姿を現した、武装した女子高生たち。

 周りの仲間たちは女子高生たちに甘く見て手を出し、そして返り討ちにあった。

 少しずつ、自身がいる場所がその女子高生たちに壊されていくのがわかった。

 一人、また一人と謎の女子高生たちに駆逐されていく。その女子高生たちのバックにいる大きな何かに、周りに人間は次から次へと連れていかれた。

 ボソッと聞こえた会話の中で、「実験体として利用できる」「労働施設生きだな」といった声が聞こえた。

 そしていよいよ自分の番が来た。あぁ、あたしの人生はここで終着点なんだな。少女はそう思ったという。

 その時抱いた感情が、焦りだったのか、恐怖だったのか、不安だったのか。

 それとも……安堵だったのかはもう覚えていないだろう。

 他の連中と一緒で、一方的に叩きのめされて、人として扱われないような道を歩むこととなるのだろうか。

 

 しかし、少女は他の人とは、違う道を行く切符が与えられた。

 

「てめぇ。そいつらに巻き込まれたのか? 無理やり悪いことをさせられていたのか?」

 

 そう、赤い制服を着た鋭い目つきの女子高生に尋ねられ、ボロボロの少女は首を横に振った。

 そんな時に被害者面などできるかと、それは自分が選んだ道なんだと。

 せめて最後くらいは正直でいたい。そしてそれを聞いた赤い制服の女子高生は「そうか……」と刀を自身に向け。

 

「……だが、それしか選べなかったんだな、お前も」

「あん? なに言ってんだよあんた」

 

 その女子高生は、少女の在り方を咎めるのではなく、憐れむ言葉を口にしたのだ。

 少女はその言葉の真意が、この時は理解できなかった。

 それは後に知ることである。その女子高生もまた、"選べなかった立場の人間"であったことを。

 その会話の後、女子高生の後ろから白衣を着た女が現れた。

 その女は少女を見下し、女子高生に言う。

 

「そいつは?」

「どうにも、他の連中にいいように使われていたらしいですよ」

「お、おい!」

 

 まるでその女子高生は、今にも自分を処分しろと命じようとする女に対して、自分をかばうようにごまかしたのだ。

 それに対し余計なことをするなと言わんばかりに、女子高生は流し目で少女を黙らせた。

 

「ほう。歳はお前と同じくらいか。ならば"リコリスプログラム"の適性があるかもしれないな。……また捨て猫を拾うことになるか」

「ということは教頭、こいつは……」

「あぁ、研究所送りだ。最も適性がなければまぁ投薬実験のサンプル行きか、労働施設送りかのどちらかだろうが。まぁ、選択肢があるということは良いことだろう」

 

 なにやら女と女子高生は一方的に話を進めている。

 それをただただ聞いて、理解する暇も与えられない少女。

 もう少女は、目の前にいる連中に拾われるしかない捨て猫同然の扱いだ。

 問題は、その捨て猫に利用価値があるのか、ないのかである。

 そんな捨て猫扱いの少女に対し、女子高生は心底哀れな表情を浮かべ、少女にこう言葉を投げた。

 

「……よかったな」

 

 ――――――話は現時点へと戻る。

 

 乙女サクラの激しい怒りと共に、ハルシャギクはその牙をむき出しにする。

 人間が扱っているとは思えない、自立した激しい動きでその場にて暴走する。

 そしてその矛先にいるクルミに、激しく突撃をする。

 その攻撃は地面をえぐり、周りの建物を削り取る。

 直撃すればただでは済まない絶大な威力と、圧倒的な威圧感を以て目的の排除を遂行しようとする。

 その暴れる大蛇に対し、クルミは追い詰められた獲物に成り下がりながらも、満身創痍でそのハルシャギクの斬撃を受け流す。

 だがその一撃はあまりにも重く、3発目で身体が思い切り吹っ飛ばされる。

 そして地面にたたきつけられたクルミに、ハルシャギクは間髪入れずに向かっていき、その胴体に身を叩きつけた。

 

「がっ!!」

 

 先ほどまで食らって済んでいたダメージとは比べ物にならない痛みがクルミを襲う。

 そのクルミの姿を見て、狂乱するサクラは嘲笑う。

 

「きひっ、きひひひひひ!! もう手足もでねぇのかよ……。そのままぐちゃぐちゃにぶっ潰してやるよ。あは、あははははははは!!」

『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 サクラの狂気の笑いに呼応するように、ハルシャギクも雄たけびを上げる。

 その光景を見ていたエリカは、そのサクラの状態に冷や汗をかいていた。

 

「まさか、ハルシャギクの接続限界。深度6まで繋がってしまったの?」

「……」

 

 戸惑っているエリカの横で、それまで楽観的にクルミを見守っていた千束も、いよいよ苦い表情を浮かべ始めていた。

 

「……正直やばそうだなぁこれ。おいクルミ! 助けに入った方がいいかー!?」

 

 千束はこの状況ではクルミの分が悪いと判断したのか、助太刀に入ることを要請した。

 だが、クルミから帰ってきた答えはというと。

 

「うええええええええ!! た、助けはいらないよ。僕が勝手に始めた喧嘩だし、お前に助けられたら情けなくてしゃあない」

「そうかー! 健闘を祈ってるぞー!!」

 

 思いっきり口腔内から血を吐いて苦しそうながらもクルミは千束の助けを拒否する。

 千束はそのクルミの返答を聞いてあっさりと引き下がった。

 その会話を聞いてエリカは唖然とした表情を浮かべ。

 

「あ、あの人本当にやばそうだよ!! いくら助けはいらないって言われたからって、そんなあっさり!!」

 

 そのエリカの心配を聞いて、千束は呆れたような表情を浮かべ返す。

 

「あいつがやりたいっていうんだから最後までやらせるのが私なりのあいつへの配慮だよ。まぁ、そう簡単にやられたりはしないでしょ」

「そ、そんなのは薄情だよ!!」

「うるさいねぇ。というか君の方こそあれをあのまま野放しにしといていいのかな? なんやら深度がどうだとか、君の表情を見るにあの状況はあの特攻少女にとってもあまりよろしくない状況なのでは?」

「そ、それは……」

 

 そうエリカが戸惑っていたその時、エリカの元に一本の電話が入った。

 それはフキからの着信であった。

 

「フ、フキちゃん!?」

『おい! 何がどうなってる!? さっき私らのところにサクラが深度6まで接続したって報告が来たぞ!?』

「そ、それが。サクラがウォールナットに追い詰められて。フ、フキちゃんのことを馬鹿にされたらそのままもうどうにもなくなっちゃって」

『……あのバカ!! ファーストリコリスからの命令だ。あのバカを気絶させても今すぐとめr』

 

 そう電話越しのフキがエリカにそう命令を出そうとした時。

 なにやらフキのその命令を遮る者が。そして……。

 

『そ、そのままサクラに戦わせろですって!? あんた何を考えて!? ……わ、わかりました』

「フキちゃん……?」

『……悪いエリカ、上層部が動いた。このまま現状維持だそうだ。くそ、研究所の連中は何を考えてる』

 

 そう言ってフキは通話を切った。

 DA上層部が下した決断は、このままサクラを暴走させ続けること。

 そしてその状況でクルミと戦わせることであった。

 エリカは納得がいかず、だが独断での行動も許されていないためパニックになる。

 そんなエリカを見かねたのか、千束は敵ながらエリカの緊張を解くようにこう言葉をかけた。

 

「その、組織だとかなんだとか入り組んでる状況なのはわかる。この状況をどうにかしたくてもうまくできないもどかしさもわかるよ」

「あ、あなたに心配されることなんて」

「……だけど聞いて。今あそこで起こっている戦いは、あの二人だけのもの。故にあの戦いを終わらせる、決着させる権利もあの二人にしかないんだよ」

「……もしそれで、あなたの仲間が取り返しのつかないことになったら?」

 

 そのエリカの質問に、千束は自信をもってこう返した。

 

「……あいつは勝つさ。そして君のお友達が負ける。仲間だから、仲間の勝利は信じて当然。だから君も、お友達を信じてあげたら?」

 

 千束のクルミを信じるその眼には、自身の揺らぎも不安もなかった。

 まるでそれは、クルミに与えられる神様の加護のように思える視線であった。

 千束は信じている。仲間の無事を、そして当然の如き勝利を。

 その千束の姿を目にして、エリカは心の隅にあった千束への、脅威となる可能性が和らぐ。

 この人が、私たちが排除すべき相手ではない。やはり今起こっている事の裏で何かが動いているのではないかと。

 

「……サクラが勝つよ。私たちは――リコリスなんだから」

「リコリス……彼岸花か。チーム名かメンバーの呼称かなにかわかんないけど。私は嫌いじゃないな」

 

 千束はその名称を聞き、小さくつぶやく。

 まるでそれは、宣戦布告のように。

 

「全身全霊で来い。勝負だ……リコリス」

 

 千束とエリカが見守る中で、激戦は佳境へと向かう。

 獲物と成り下がったクルミは、疲労と激痛が重なりサクラ相手に下される寸前。

 だがそれでも決して敗北を口にしない。その場で倒れることはない。

 この絶望的な状況でさえ、クルミの眼には勝利しか見えていない。

 

「あーーー。まさか現実にこんなモンスターを狩るゲームみたいなことができるなんてなぁ~」

「おいおい、血反吐吐いて今にも倒れそうになってんのにまだそんな冗談言えるってか。いい加減倒れろよ……。あんたはあたしに、ぶっ潰されるんだよーーー!!」

 

 サクラは血走る目で、クルミを本気でぶっ潰すためハルシャギクを振るう。

 ハルシャギクはそんなサクラの血を、心を、身体を食らい。サクラの気持ちと同調しクルミを容赦なく襲う。

 クルミは傷だらけになりながらも抗う。

 傷つき、果てようとする度に。くたばるのとは逆で動きも機敏になっていくのだ。

 もう、感覚はかつてのものに回帰したのだ。それが戦いだ。

 戦いとは己の全てをかけ、勝利で全てを得る、敗北で全てを失う。

 その極限の状況こそが、クルミを、サクラを歓喜させる。

 

「はぁ……はぁ……。……思いついたぞ、お前とそのバカげた刀を黙らせる方法を」

「ぜぇ……ぜぇ……。い、いい加減くたばれよお前。言っとくけどその衝撃波を飛ばす攻撃ももう無駄だ。ハルシャギクは高度な知能で全ての攻撃から正確にあたしを守る。その高度な知能とあたしは完全に接続してる。つまりその正確な情報処理と判断は、あたし自身の考えで行うことと同義なんだよ!!」

「……それを聞いて、僕の考えは確信に変わったよ」

 

 そういうとクルミは、攻撃に転じる構えを取るのとは逆に。

 なんと防戦の構えを取った。そう、刀を鞘へと抑える。

 これはまさに、居合の姿勢への移行。

 自身から攻撃を行うのではなく、相手から仕掛けられた攻撃へのカウンターに転じるのだ。

 

「なんだよ近づく元気ももう無いじゃないか。一方的に、嬲り殺してやるよ!!」

 

 サクラは居合の構えをしているクルミに対し、最大威力のハルシャギクの一撃を見舞う。

 これが、サクラとハルシャギクが出せる全身全霊の一撃。

 それがクルミを襲う。食らえばもう、ひとたまりもない。

 だがクルミはこの攻撃と、自身の対応が決着になるものと確信する。

 勝ち筋は、もうここしかなかった。

 

「お前今自分で言ったよな? ハルシャギクとあたしは完全に接続してるって」

「それがどうした!?」

 

「ってことはそのハルシャギクって武器は――"お前自身"ってことだよなぁ?」

 

 ガシャーーーーーーーーーーーン!!

 

 ――ハルシャギクの一撃がクルミに直撃する刹那。

 クルミは己が放つ全身全霊の居合切りで応戦した。

 その結果、ハルシャギクの胴体は思い切りはじかれる。

 一見すれば、攻撃をただ居合ではじき返しただけだろう。

 だが、その攻撃を行う刀には、明確な意思があり。

 その意思が、持ち手と完全に繋がっているとするならば。

 

 ――全てをかけた一撃が通じなかったことへの負の感情、そして刀自身が攻撃を受けたその衝撃が、持ち主にフィードバックするのだとしたら。

 

「な……あ……あぁぁぁ……。ああああああああああああああああああああああああ!!」

『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 ハルシャギクを全力ではじき返したことで、サクラが感じた強烈な痛みと、攻撃が通じなかったことへと屈辱、そして一瞬で浮かぶ敗北の強いイメージ。

 それを受け怯んだ時間は、クルミが反撃をするには余りある隙に転じるのであった。

 サクラが気が付いた時には、前面にはボロボロな姿で今にも自身に刀を振り切ろうとするクルミの姿があった。

 

「お前……強かったよ。だからお前を僕の全力で――叩き切る(ハックする)

 

 そのクルミの最後の一撃が、サクラの胴体と戦意を切り伏せたのであった。

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