謹賀新年。それは新たな年の幕開けにて、めでたい言葉である。
正月シーズンは、めでたい催し物が各地で行われるものである。
そんな中、この喫茶リコリコにおいても、新年一発目の特別なゲーム大会が、開かれることとなった。
コンコンコン……。
昼過ぎ頃、喫茶店を訪れたクルミが扉を三回ノックする。
すると扉の向こうから、誰かがクルミに合言葉を確認する。
「……かば焼きマンの相棒の名前は?」
「わさびちゃん」
その合言葉に迷うことなく答えるクルミ。
そして喫茶店の中に通され、いよいよ役者がそろったところで特別なゲーム大会が始まることとなった。
開会式として、喫茶店店主のミカが他の皆の前で挨拶をする。
「さて、招待された参加者が全員揃ったところで。あらためて皆さんあけましておめでとう。今年もよろしくということで、毎年のことだが私の方からいつも喫茶店をひいきにしていただいているお礼も込めて、ゲーム大会を開かせていただこうと思う」
その挨拶に対し、他の連中がミカを称賛するのであった。
今回喫茶リコリコ正月ゲーム大会に招待されたのは5名。
先ほど合言葉を答え喫茶店に来店したクルミを始め。
この街の警察官で、街の平和を守る刑事の伊達さん。
界隈ではそこそこ人気とされているらしい漫画家の伊藤さん。
かつては千束に協力し、沈黙と評されし男サイレント・ジン
の5名である。
今回は店主であるミカから直接招待されたこの5名で、とある豪華賞品をかけてゲーム大会を行うこととなった。
その豪華賞品の全貌が、ミカの口から語られる。
「その~。今まで温泉旅行券だとか高級フレンチ食べ放題だとか色々な景品を用意してきたわけだが。今回は個人的に過去一だと思う」
「もったいぶらずに早く教えてくれよおやっさ~ん。まぁ皆知ってるけどさぁ~」
「今回の優勝者に贈られる商品はずばり。映画館1日貸切券だ!!」
そのミカの口から語られた豪華賞品の内容とは、ずばり映画館1日貸切の権利である。
映画館は会社の説明会やカップルで1日デートをするためといった用途で、結構な金額を払えば貸切にできるところがある(相場は約10万円くらいらしい)。
それをゲーム大会の優勝者は、当然ながら無料で1日貸切でき、好きなように使うことができる。
映画館を、どう使おうと優勝者の自由なのである。
「また相も変わらずスケールのでかいことをしてくれるよおやっさん。映画館で1日プレ〇テのゲームやったらどんな臨場感を味わえるかな」
「映画館1日貸切か。いつもお世話になっている編集者の人たちとか招待して隙な映画見るのもいいかもね」
「あとは贈り物にしてもいいかもな。篠原のやつが彼氏と結婚するらしいし、彼氏との1日映画館デートとしてプレゼントしてやるかな」
「……」
クルミ、伊藤さん、伊達さん、サイレント・ジン。それぞれ映画館の貸切での思惑があるそうだ。
こうして正月喫茶リコリコゲーム大会が始まる。
――喫茶リコリコのゲーム大会、そして豪華賞品が映画館の貸切。
そんなワードが飛び交う中で、何かこう、この条件下で人一倍張り切る上喫茶店の一番の常連の誰かさんを忘れているような気がするのだが。
その誰かさんに触れようとしないのは、大きな理由があるのであった。
「してクルミ。"あいつ"には……勘づかれてないだろうな?」
大会が始まる前に、伊達さんがクルミに再三確認を促した。
クルミはそれを聞いて抜かりないといった風に答える。
「大丈夫だ。あいつはしばらくこの街にいなかったし。確かに年明け前に喫茶店でゲーム大会とかやらないのかななんて話になったが、おやっさんと二人して今年は忙しいから中止になるかもな~ってごまかしてあるから」
と、クルミとミカは結託して、このゲーム大会についての詳細を黙秘しきったという。
ちなみにミカは最後らへんまで罪悪感で漏らしそうになったが、クルミがうまいことフォローをしたという。
そんなあいつの正体はというと、大体の人は予想がつくだろうが、錦木千束のことである。
じゃあなぜ千束にはこのゲーム大会に勘づかれてはいけなかったのか。
それには、千束をよく知る者たちとして、千束を大事に思っている連中なりのこういう思いがあったからである。
「あいつがもし、ゲーム大会の優勝賞品が映画館1日貸切券だなんて知った日にゃ。このゲーム大会はあいつ一人に滅茶苦茶にされるだろうからな」
クルミがそうため息交じりに口にする。
そう、千束の趣味は映画鑑賞である。それも見る映画には一定のこだわりがあるほどの映画評論家なのである。
1日映画館を独占して見たい映画見放題なんて話になれば、彼女は人目を憚らず己のスペックをフルに活用して他の参加者を圧倒的に蹴散らすことだろう。
過去に何度か喫茶リコリコではゲーム大会が開催されていた。商品内容はまちまちではあるが、千束は魅力的な商品がかかっているとなるとついやる気を出しすぎてしまい周りの参加者が白けてしまうのである。
何せ彼女は人知を超えた。神の眼の祝福を授かりし存在である。
そんな奴が一人いる状況では、ゲーム大会を純粋には楽しむことができない。
そして、クルミたちが危惧するのはそれだけではなかった。
「そのうえあいつに映画館貸切の権利なんて与えようものなら、千束セレクションでの映画鑑賞会に強制連行。通称――千束シネマに僕たちが巻き込まれる」
クルミが口にする千束シネマとは。
かつて千束達が高校生だったころ。当時の千束が仲間たちを無理やり巻き込んで1日中見たくもない映画を見せるという強制イベントである。
街中の抗争、戦いを終えた者たちをねぎらうためと千束の一方的な優しさで楽しい映画をみんなで見てリフレッシュしようというものなのだ(当然疲弊している仲間たちはもっと疲弊する結果となる)。
クルミを始め、かつて千束と共に闘いの日々を送った仲間である伊達さんや伊藤さん(ちなみに二人もアラン機関のアランチルドレンだった人たち)も、あれを経験しているからこそ今回の映画館貸切の話が出た時には、申し訳ない気持ちもあるが千束には知らせまいと動いていたのである。
「今でも覚えているよ。ちー(※千束のこと)がターミ〇ータースペシャルやってター〇ネーターの1から4一挙に流した後、やっぱ最後に2をもっかい見よって言い出して10時間くらい拘束されたのを……。2はさっき見ただろって皆で説得しても「いや2は何回見てもいい!」って言い出しやがってよ」
「たまに私たちがジ〇リとかコ〇ンにしようよって提案しても、映画のラインナップは全部ちーちゃん(※千束のこと)が全部決めるって言うから全部一昔前の洋画になるし……」
「千束シネマの扱いが完全にジャイ〇ンリサイタルなんだよ……」
と、某剛田くんの壊滅的な歌謡ショーに匹敵するほど、伊達さん、伊藤さん、クルミにとってはとてつもなく迷惑な代物だったとのこと。
「うーん、でもやっぱり千束一人を仲間外れにするのは……」
寸前になってもミカはやはり悩んでいたようである。
彼にとっては千束は実の愛娘も同然で、愛娘が仲間外れにされている現状がどうしてもかわいそうで仕方がなかった。
そんな悩むミカに、他の連中はミカを説得するのであった。
「店長。あんたのちーを思う気持ちは理解できる。ちーは俺たちをどん底から救ってくれた大切な仲間って気持ちはあるさ」
「けどねマスター。そうやってほしいものを力づくで簡単に手に入るだなんて、ちーちゃんにはそんな風になってほしくないのよ」
「そうだそうだ。軽い気持ちで皆で遊ぶならいいとしても、今回間違いなくあいつは羽目を外す。その、フォローは後ほど僕たちの方で考えるから。飯おごるとか」
かつて千束をリーダーと慕い動いてきた3人(ジンはあくまで協力者の立ち位置である)。
こういう場で一緒にワイワイ遊びたい気持ちもあるが、それはそれ、これはこれなのである。
なので今回は千束は抜きで、かつて共にしのぎを削って戦ってきた仲間同士での正当な大会にしたいという気持ちが勝ったのである。
「てなわけで改めて。今回は勝たせてもらうぜ狂瀾怒濤。ことゲームでお前に勝てば、かつては狂喜乱舞の伊達と呼ばれた俺にも箔が付くというものよ」
「おいおい伊達くん。この僕がゲームの達人だってのを忘れてるんじゃないか?」
「二人とも、今回は暴力や喧嘩じゃなくて平和的なお遊び。狂言作者の伊藤、二人には劣ってるつもりはないわよ~」
「……」
クルミ、伊達さん、伊藤さん。
この三人はかつてアランの3狂と恐れられていたという。
全ての戦いを終え、彼女たちを駒のように扱っていた大人たちに"報酬という名の支援"を受けさせてもらうこととなり。
その支援を元に、伊達さんは警察官への道を、伊藤さんは漫画家への道を。
クルミはその支援は全く別の目的に使用した後、親戚の電気屋に努めることとなった。
「さて準備も整ったところで、始めるとするか」
ミカはそう言って、今回の大会で使用する物品を持ってくる。
ちなみに正月とのことで、今回の大会のテーマは正月古来の遊びとのこと。
羽根つき、福笑い、コマ回し、かるた、すごろく。
スマホやゲーム機などなかった時代では、それらが遊びの代表的なものだっただろう。
それらを準備し終わり、いよいよ映画館貸切をかけた大会が始まろうとした。その時だった。
「きゃああああああああああああああああああああ!!」
いきなり伊藤さんが悲鳴を上げた。
何事かと、他の連中が一斉に伊藤さんが向いている方向を見る。
そこには、衝撃の物体が映っていた。
喫茶店の窓際に張り付き、クルミたちをものすごい形相で睨みつける錦木千束が、そこにはいた。
これには思わず、他の連中も驚きで声を荒げた。
「ち、千束!?」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!」
どうにも人間ではないような雄たけびを上げ、喫茶店の窓に張り付く千束。
そしてそのまま喫茶店の入口の方へと移動する千束。
喫茶店に入ってくるのか。と思ったが、そのまま扉を開けずに待機する千束。、
これは、扉はお前たちの手で開けて私を中に入れなさいよということなのだろうか。
別に開けないで見て見ぬふりをすればいいさ。でも大事な仲間が喫茶店の扉の前でたたずんでいる中、仲間外れにしてゲーム大会を楽しむならそれでもいいさ。
そんな言葉には出さないが、まるで喫茶店の扉の向こうで千束がそう言っているようにも聞こえてきたような気がした。
「……クルミ、どうするよこれ」
「というかなぜバレたんだ。おい、お前ら誰もあいつに情報漏らしてないよな!?」
「私はしてない!」
「……」
「おやっさん!?」
「し、してないしてない!! さすがにここまでいったらもう君たちを裏切りはしないぞ!!」
伊達さんがクルミに目配りをし、クルミが他の連中に裏切り行為をしていないかを問い詰めるが当然皆千束には情報を漏洩していないと主張するのだ。
だとしたらどうしてバレたのか。そして今扉の向こうにいる千束をどうすべきなのか。
どうやら千束は自分から扉を開けようとはしない。あくまでも自分を裏切った仲間に開けさせようとするのだ。
扉越しに見える千束のシルエットが、なんかこう暴走した初号機的なものに見え始めた。
扉を開けたら、予備動作なしで襲い掛かってくるだろうか。
1分ほど考えたのち、このまま千束を扉の向こうで放置するのもなんだか申し訳なくなりはじめ。
クルミと伊達は二人して扉を開けることにした。
「構えとけよクルミ。あいつがマジで襲い掛かってくるだろうから」
「わかってるよ伊達くん。いちにのさんで開けるぞ……」
こうして二人は、観念して喫茶店の扉を開けた。
ガチャン!
だが開けた瞬間、そこに千束はいなかった。
「い、いない!?」
「どこ行った!?」
「おまえたち~」
「んぎゃーーーーーーーーーーーー!!(ジン以外の全員の叫び)」
なんと千束は気が付けば皆の後ろ側にて、恨めしそうな表情で他の連中を睨んでいた。
当然というべきか怒っているようである。当然である。自分を仲間外れにして豪華賞品目当てにゲーム大会を満喫しようしていたのだから。
その矛先は迷うことなくクルミの方へ向き、クルミに駆け寄り思いっきりクルミにチョークスリーパーをかける千束。
「クルミ~。よくも私を謀ろうとしたなぁ~!!」
「うぐぐぐぐぐぐるじぃ~!!」
思い切りクルミを落とす勢いの千束。
他の皆はそんな千束の怒りを鎮めようとし、やめるように説得をする。
クルミは落ちる寸前で解放され、そしてミカも含めて千束の前に並ぶ。
「ひどいよ君たち!! 何私に黙って正月ゲーム大会って、気軽に誘ってくれればいいでしょ!?」
「いや、その……。商品が、商品だから」
千束はひどく怒った様子で他の5人に問い詰める。
そんな千束に、ぼそぼそとクルミは文句を言っている。
「そうそう商品!! 何さ映画館一日貸切券って! めっちゃ魅力的なんですけど!! 私が夢見ていたことベスト10の一つなんだよ!!」
「だから、そしたらお前ひとり勝ちの圧勝劇で大会が滅茶苦茶になるだろって……」
無論わかり切っていたことだが千束はさっそく商品に目がくらんでいるようであった。
こんな魅力的な商品が用意してあることを、悪意を持って(かどうかはわからないが)自分に隠し通そうとしていた他の連中に対し怒り心頭の千束。
そんな千束を抑えるべく伊達さんが声をかけた。
「まぁまぁちー。お前の気持ちはわかるさ、でかい映画館のスクリーンでダイ〇ード2とか見たい映画好きのお前の気持ちは重々理解できてる」
「アルマ〇ドンね!!」
「もうさっそくラインナップ決め始めてるよこいつ……」
どうやら同じ俳優は当たっていたが作品がニアミスしていたようである。
すでに映画館貸切の権利を手に入れ見たい映画の一覧が決まり始めている千束を白い目で見るクルミ。
今伊達さんがダイ〇ードを例に出したことで多分ダイ〇-ドも一覧に入るだろう。
そしてダイ〇ードはシリーズで5作品続いているためこの時点で6作品も映画館で見ることとなる。
それを自分一人で鑑賞する分なら別にいいとしても、多分今回自分を謀ろうとした他の仲間たちへの腹いせ(腹いせかどうかはわからないが)に映画鑑賞会に巻き込もうとすることだろう。
映画6つも鑑賞するとなると朝10時に初めても終わるのは夜遅くまでかかる。
とまあそんな心配もさることながら、クルミたちはとあることが気になる
「というか、お前なんで今日この時間にゲーム大会があるって突き止めたんだ?」
「あぁ、それはだね」
――――――それは年明け前の話である。
千束は楠木教頭に言われ、リコリスの戦術説明会のため映画館の貸切を行うための申請をしてこいと駆り出されていた。
「なんでこんな雑用まで私はやらされなきゃならないんだ。映画館貸切って皆で映画鑑賞会でもやろうってなら喜んでやらせていただきますなんて言うところだが」
「あっはっはそれもいいっすね先生。先生の自費で今度やりましようよぉ~」
「さすがに自費で映画館貸切は難しいかな。でも乙女さんが一日いっぱい映画鑑賞会したいんなら千束先生ちょい本気出して考えちゃおっかなぁ~」
と、付き添いできたサクラとそんな話をしながら、映画館につき書類を渡されサインをしようとした際。
予定表に、思ってもないワードが飛び込んできたのであった。
そこには喫茶リコリコの名義で、映画館貸切の予定が表記されていたのである。
「ん? おじさんがなんで映画館の貸切なんて……」
「どしたんすか? あれ、先生がひいきしてる喫茶店の名前じゃないっすかこれ」
「……」
年明け前、もうすぐ年越し。
千束は考える。なぜ喫茶リコリコが映画館の貸切の予定を立てているのか。
そして今より少し前、千束がさりげなく正月に何かやる予定とかないのかという話題をミカとクルミに振っていた。
その時は未定といった、曖昧な答えが返ってきており。なんかやることになったらその時は教えるよと返してきたのであった。
過去には喫茶リコリコの正月のゲーム大会の商品は、売り上げの還元と店主のミカの伝手もあって割かし豪華なものが多かった。
色々と詮索して、もしやと思い千束はあることを思いつく。
「乙女さ~ん。ちょいと、ちこうよれちこうよれ」
「なんすか?」
「セカンドリコリスである君に個人的な依頼をしていいかい?」
そう言って千束は、サクラに依頼した。
それは、喫茶リコリコの身の回りの人間を調査し、この映画館の貸切が何に通じているかの情報収集というものであった。
千束は店主のミカは当然として、クルミや今回参加するメンバー全員に目星をつけていた。
「かまわないっすけど。この依頼になんか大きな意味があるんすか?」
「まぁまぁそこは詮索せんでよし。情報の内容次第では冬休みの課題を何割か減らしてしんぜよう」
「マジすか!? やりますやらせていただきます!!」
「たのんだよ~」
――――――ということで今に至る。
結論としてサクラの助力もあり、今回のゲーム大会の詳細が掴め。
それが年明け前寸前で千束の耳に入り、今日この時間でゲーム大会が行われることを突き止め。
尾行しやすい伊藤さんあたりをターゲットに、喫茶店へと到着し先ほどまで気配を決して様子を見ていたのである。
「……」
その千束の話を聞いて他のメンバーは皆唖然としていた。
というかたまたま訪れた映画館が被ってしまったことは偶然としても、その1つの情報から推測し、自分がリコリスたちの教官である立場を利用する手腕は、もはや見事と言わざるを得なかった。
「クルミ、どうやら俺たちの詰めが甘かったようだ」
「詰めもくそもあるか。とりあえず今度あのクソ猫(※サクラのこと)。見つけ次第叩き切ってやる」
今回の件でサクラは後日クルミにしばかれることが確定してしまったことはさておき。
問題は改めて、今回のゲーム大会にて千束の参加が決まってしまったことだろう。
このまま順当にいけば、千束が無双して映画館貸切の権利は千束のモノになること請け合いだろう。
「いや別にいいですよ。千束、厚かましくついてきてゲームに参加したいだなんて駄々こねてるだけですもんね。私は黙ってみてるから、皆さんだけで楽しめばいいじゃないですか? いいじゃないですか?」
「この状況でお前の眼光浴びたままでそんなことできるか……」
千束の強がりに対しクルミがツッコミを入れる。
千束は一応無理やりゲームに参加するような子供じみたことはせずに、自分を仲間外れにするならすればいいではないかというスタンスで皆に圧力をかけていく。
もちろんこの状況で千束を仲間外れになんてできるわけもなく(というか目線が痛すぎるため)、千束をメンバーに入れて大会は始まることに。
「したらまずは、羽根つきをやろうじゃないか」
ゲーム大会最初の種目はミカの意向で羽根つきとなった。
正月定番の遊びであり、羽子板を用いて羽根を打ち合う競技である。
負けたものは顔にラクガキをされる。というのが罰の定番だろうか。
こうなると、顔に一番ラクガキをされなかった人間が勝ち、反対にラクガキをされた人間が負けになるといったところか。
参加者は一度喫茶店の外へ出て、道沿いにて羽根つきを行う。
さっそく優勝候補の千束と戦うのは誰になるのか。
千束は羽子板を構える。すると千束の予想もしていなかったことが起きる。
なんと、千束に対して他の4人が羽子板を手にし、千束の前に立ちふさがったのだ。
「……あの~。みなさんどういうつもりで?」
「そりゃお前相手だからこうなるさ」
「僕たち4人全員対千束」
「負けたら顔にラクガキ。ちーちゃんは負けたら4人分ラクガキで」
「……」
と、当たり前のようにとてつもないアウェイのルールを叩きつけてくる伊達さん、クルミ、伊藤さん、ジン。
普通に考えれば千束が圧倒的不利なこの状況。
だが今の千束は映画館貸切という欲にまみれフルスペックな状態。1対1ではとてもじゃないが歯が立たない。
千束はミカを流し目で見るが、ミカは申し訳なさそうに千束から目線を外した。
この扱いに対し千束は勝負魂が燃えたのかはわからないが、容赦という言葉をなくしたかのように枷を外し。
「……いいだろう君たち、全員で……かかってきなさーーーーーーーい!!」
そして千束対大の大人4人での羽子板勝負。
普通なら女性一人が大の大人4人でかかってこられたらひとたまりもないだろうが。
錦木千束が本気を出した日には普通の人間はおろか肉体を強化されたリコリスでさえ数人掛かっても歯が立たない進化した人類。
千束はアホみたいな動きと反射神経を大人げなく見せつけ、クルミたち4人を相手取り、なんと勝利してしまったのである。
「……羽根つき対決は、千束の勝ち」
「よっしゃああああああああああああ!!」
「ぜぇ~ぜぇ~(大の大人4人いきなり疲労困憊)」
ミカの勝利宣言を聞き全力で勝ち時を上げる千束。
他の4人はというと息も絶え絶え、全力を出して一人の女すら手を付けられずにいる。
羽根つきでは4人がかりで千束に勝てなかったところで、次の種目に移る。
「次はかるたで勝負だ」
ミカの言葉と共に、皆は喫茶店の中へと戻りかるたの準備を行う。
かるたも正月定番の遊びで、読み手が読み札を読みその頭文字に沿った絵札を一番先に取った者が札を手に入れ。
最終的に一番多くの札を持った者が勝利というゲームである。
近年は競技としても栄、題材にした漫画などが人気を博しているケースもある。
皆がそれぞれ位置取りを行い、このかるたのルールが言い渡されるのだが。
「かるたは僕たち4人全員と千束で取った札の数を競って、僕たちは全員の札を合わせた数、千束は一人で取った札の数で最終的に多い方が勝利ということで」
「よーしオッケー」
「負けないわよ~」
「……」
「なんでやねん!」
クルミのルール説明に対し他三人はまたも当たり前と言わんがごとくゲームを進行させようとするが千束は納得がいかず待ったをかける。
「どうした千束?」
「どうした千束? じゃねえわクルミよ!! なんでさっきから私一人に対し君たち4人がかりなの!?」
「そりゃお前相手だからこうなるさ」
「伊達くんさ、さっきも同じこと私に言わなかったかな!?」
千束が納得せずに問い詰めても、帰ってくる言葉は「そりゃお前相手だからこうなるさ」となるのである。
それに対し異を唱えているのは千束だけで、周りの人間はそれが当然のことだとしてゲームを無理やり進行しようとするのである。
「なんだよ千束~。まさかお前、僕たち4人に怖気づいたのか~?」
納得のいっていない千束に対し、クルミは挑発めいたことを言って千束の闘志に火をつけようとする。
もちろんそんな風にはっぱを掛けられれば千束が黙っているはずもなく。
「……わかったよ、君たち全員が束でかかってもかるたで私に勝てないってことを思い知らせてやるよぉぉぉぉぉ!!」
ということで千束の意地の叫びと同時にかるたが始まったのだが。
かるたもまた反射神経を要する競技であり、反射神経では右に出る者がいない千束は次から次へとバシバシバシバシ札を取っていく。
結果として、4人が取った札を統計しても、千束1人が取った数には及ばずまたも千束の一人勝ち。
「……かるた対決は千束の勝利」
「見たかお前らーーー!!」
「はぁ……はぁ……(大の大人4人めっちゃ疲労困憊)」
大人気ない怪物代表と、それに対して大人げない大人4人がかりでの勝負。
その後もコマ回し、すごろくと種目は続いていくが。
コマ回しは千束が回したコマ1つに対してクルミたちが回したコマ4つが襲ってくる始末。
すごろくは千束がゴールまで行けば千束の勝利だが他の4人は誰かがゴールをすれば千束の負けになるという特殊なルールでのものになり。
コマ回しは流石に放たれたコマに勝負を預けなければならないため多勢に風情では勝てるわけもなく、すごろくも運任せな要素が多いので確率的に千束も勝ちには届かず(一応ゴールには2番目に到達した)。
現状2:2の状況で、最後の種目に移ろうかとしたその時であった。
「じゃあ最後の種目は……」
「ちょっと待てーーーーい!!」
ミカが最後の種目を口にしようとする前に、千束が大声で止めに入った。
そして結構怒っている様子で、ミカを含め他4人を自分の前へと並ばせて。
「ちょっと君たち! そこに正座!!」
千束が正座するように指示をすると、他の人たちは「はーい」と素直に並び千束に首を垂れる。
そして千束が今の状況に対し不満を霰のように口にし始めた。
「なんでさっきから私と君たちの1対4がデフォになってんの!? 一人の女に大の大人4人がかりで蹂躙しようとして恥ずかしくないの!?」
「一人の女って言うか、僕はお前をそもそも同じ人間だと思ってないかrあぎゃーーー!!」
怒る千束にクルミが異を唱えようとするが失礼なことを口にしたせいか千束に頭をどつかれるクルミ。
「確かにみんなが私に内緒で楽しもうとしてるなかで無理やり割って入ったのは私だって申し訳ないと感じてるさ。けどさ、映画館貸切の件は抜きにしても、たまにはかつての仲間たちでワイワイ遊びたいな、なんて思ったりもしてるんだよ私」
「千束……」
千束は確かに映画館貸切の権利が欲しいのは確かである。
確かなのだが、それ以上に他の仲間たちが自分の能力を恐れて、仲間外れにして自分を抜きして集まってワイワイしていることに対しての悲しみが勝っていたのである。
千束のどこか寂しそうな表情を浮かべているのを見て、正座させられている大の大人たちは、やっぱり申し訳ないことをしてしまっていたんだなと痛烈に感じていた次第である。
「豪華賞品に目がくらんでしまうのはしょうがないじゃない! 映画鑑賞が趣味なんだもん! 今からだってでかい映画館で好き放題ポップコーン食べながらトッ〇ガンを見たいだなんて思ったりもしてるさ!」
「ブルース・〇ィルスどっか行ったんだが……」
「これこのままだと映画鑑賞会にトム・〇ルーズの作品も丸っと追加になる感じか?」
さっきまでやれアル〇ゲドンや、やれダイ〇ードだと言っていたのがいつのまにかトッ〇ガンやミッション〇ンポッシブルになりそうな勢いであった。
クルミや伊達さんは、このままだと千束シネマ映画鑑賞会が2日間に渡って開催するくらいになるのではないかと危惧し始める。
「でも、豪華賞品がどうのこうのじゃなくて。たまには私だって、みんなとただ楽しく遊びたいよ……」
「千束……」
「どうしても映画館貸切ってみんなで映画鑑賞会がしたいんだよ私は(映画館の貸切とかどうでもいいんだよ、ただみんなと遊びたいだけなんだよ私は)」
「本心と建前が逆になってますけど……」
結局のところ千束は何をどうやっても映画館を貸切ってとことんまで見たい映画を満喫したいようである。もちろん他の連中も含めてだが。
「とういうことで最後の種目は、福笑いだ」
「福笑いか。これで決着がつくことを考えれば。純粋に一番完成度が高いやつが映画館貸切の権利を獲得ってわけか」
「1対4にしても、福笑いじゃ4人の総合点とかの基準が難しそうだものね」
「まぁ、やるだけやってみるか」
クルミ、伊藤さん、伊達さん、そしてジンの4人はこうなったら自分たちの実力を信じてやるだけやってみようと腹をくくった。
もしかしたら何かがうまく作用して、千束という圧倒的な存在に一矢報いることができるかもしれない。
当の千束本人はというと、正直勝って然るべきとしか考えて無さそうではあるが。
「というわけでお前たち、"目を隠して"くれ」
「はいはい、したら布を配って」
「目を隠してから、福笑いを目の前にセットしてもらって」
「目が見えない状態で福笑いを……。目が、見えない状態で……」
「…………!?」
その時であった。
千束以外の皆が、この種目の重大な要素に気が付いたのであった。
そう、福笑いは、目隠しをした状態で行う遊びなのである。
目を隠す。これが何を意味するのか。
それは、千束という存在の最も重要としている能力である、目を使えなくするということなのである。
これを理解した皆は、一斉に奮起した。
それに対し千束は、しまったとばかりに他の連中が気づく前に先手を打とうとするのだが。
「……あの皆さん、最後はその、マ〇カーとかにしない?」
「お前ら―! 福笑いで決着つけっぞーーーーー!!」
「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」
千束の提案を遮って、クルミは無理やり福笑いを決行。他の連中もそれに賛同。
こうして千束も同様の条件で、目元に布を巻いて完全に司会を遮断する(念のため一応他の面子に比べより強固に布を巻いた)。
目を隠し自分の感覚だけでパーツを手に取り、顔のパーツを崩す前の状態により正しくパーツを並べられるかのこの遊び。
目が使えないならば、千束とその他全員は同じ条件での勝負ができる。こうなれば千束が圧倒的に優位ではなくなるのである。
「えーとしたら、目の前に福笑いを置いていくから。制限時間は3分間で」
こうして最後の種目、福笑いがスタートした。
3分間の中、目の前に散らばった顔のパーツを手探りで面の上に載せていく。
感覚を研ぎ澄ませ、頭の中で思い浮かべ、自身の中で正確に福笑いの顔を完成させていく。
そして3分たち、ミカの終了という言葉と同時に、皆が一斉に目元を縛っている布を取る。
見た感じ、ジンが一番原本に近く正確な顔が完成しているようであった。
「さすがは常に沈黙を貫いている男。静寂の中での集中力は抜きんでているというわけか……」
伊達さんがジンの特性を評価し、感心している中で。
肝心の千束の福笑いはというと。
なんと、パーツを崩す前と寸分の狂いもなく、そのままそっくり顔として完成してしまっていた。
「なんで!?(静寂の男以外の他3人+ミカの反応)」
間違いなく千束は目隠しをしていた。
不正がないことはミカがきちんと目にしていた。
そう、千束は目を隠した状態でも、まるで福笑いの全貌が見えていたかのように、余裕をもってパーツを正確に並べていたことになる。
「おかしいおかしい!! 目が見えていないのは全員同じだって!!」
「はっはっはっはっは!!」
「はははじゃないわ! いったいどんなイカサマをやらかしたお前!」
「イカサマって……。イカサマはしていないよ、ただ単純に、"福笑いの構図を目で見て理解して、あとは福笑いの面やパーツを手に取り形状や感覚にそって正確にパーツを揃えていけば"、目が見えていなくても福笑いは狂いなく完成するんだ」
「アホかお前は!!」
千束のとんでも理論を説明されてクルミはもう千束の潜在能力に頭がパニックになりそうになっていた。
確かに千束が言っている原理であれば、福笑いを寸分違わぬ配置で福笑いを完成させることができるかもしれない。
千束は目で見たものを瞬時に理解、その原理や構造、そのものの在り方などを自分の中にインプットできる能力を有しているのだが。
そこで、他の皆には一つ疑問が残ったのだ。
それは、"福笑いのセットが置かれたのが、千束達が目隠しをした後"という問題である。
そこは彼女をよく知る全員が、一瞬でも福笑いの構造を目にしたらそういうことをやってくるんだろうなという疑いもあってか対策をしていたのである。
だが、千束は目隠しをしていたので福笑いの全貌を目で見ていない。
ということはどういうことか。千束は福笑いが行われるよりも先に、"この福笑いの全貌を知っていた"ということになるのである。
「……千束、お前なんでこの福笑いについて知ってたんだ?」
クルミにそう問われ、千束は勝ち誇った顔で、持ってきた手荷物の中から今回使われたと思われる福笑いのセットを取り出す。
それは、近くの百貨店で普通に売られているものだった。
それを見て他の全員が青ざめたのが分かった。的確に、今回福笑いで使われるものと同じものを購入し対策を立てていたのである。
「なぜ……それを……? 伊藤さん! 確かその福笑いセットを買って用意したのって!?」
「私よ! 年明け前に店長に頼まれて何人分か買って用意していたの!! まさかその時すでに!?」
「買った場所はドン〇ホーテ〇〇店かな?」
伊藤さんが福笑いセットを買ったお店まで正確に言い当てた千束。
これはいったい、どういうことなのか。
ここで思い返してほしい。
千束はどうしてこのゲーム大会の詳細と日時を知ることができたのかを。
それは、千束がサクラに個人的に調査を依頼したからである。
サクラが色々と調べ周っていた時、たまたま伊藤さんが福笑いを購入した場面に遭遇したのである。
それを千束に情報を流し、千束が同じものを購入し対策を立てた。それが真相なのである。
そして最後の種目で福笑いとミカが言った時、他の人たちが福笑いの特性に気づいた時。
千束はわざと、焦ったふりをした。
他のゲームにしないかと福笑いを避けようとした素振りで、より他の皆が福笑いを強行する結果に誘導したのである。
全ての真相が明らかとなった。そのうえで、千束はこの状況で、圧勝劇を披露したのである。
「やった~。これで映画館貸切の権利は私のもんだい!! まぁ皆さん惜しかったよ、でも人間繰り返しやっていけば、いつか私に勝てる日も来ると思うよ☆」
「勝てるか!?(4人がかりで敗北した連中の嘆きの叫び)」
「ちなみに千束シネマは明日の朝6時から夜遅く未定での参加でよろしく☆」
「もう予定立ててんのかい!?(千束シネマを恐れている大人たち)」
こうして喫茶リコリコ正月ゲーム大会は幕を閉じた。
その後案の定千束シネマは朝6時から開始して夜23時ごろまで開催された。
千束とかつての仲間たち、ついでにサクラはクルミに無理やり連れられて強制参加となり、千束に安易に協力したことを心の底から後悔していたとさ。