リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第24話:chapter1-10-まずは話をしよう。

 その一刀は、戦いに終わりを告げるには充分すぎる一撃であった。

 

 ――勝てば得る。負ければ失う。

 

 戦いとは元来よりそういうものだ。勝者を称えられ、敗者は惨めに地に伏せる。

 それが小さな遊びであれ、時として命を懸けたものであれ。

 

 ――負け……た……?

 

 自身に満ち溢れていた少女は、切り伏せられたその時に、己が敗北したことを決定づけられる。

 それでなお認めきれない悔しさが残渣として残りながら、だが敗北したという事実は無情にも少女に襲い掛かる。

 そしてそんな少女を下した者は、その勝利に酔いしれることはない。

 

 その者にとって、勝利とは当たり前のものであり、自身に与えられてしかるべきものであるからだ。

 

 そうでなければならない。己の存在意義を――存在を証明するものが勝利しかないからである。

 勝利を得なければ、自分に残るのはこの世界に生きる上でなんの価値もない、掃き溜めの中にあるゴミ以下でしかないという事実。

 この街で生きる上で認められるには、そして自分と同じ志を共にする者たちのために、その者は力で勝ち取り続ける。

 この戦い、勝敗を決した要因があるとするならば。それはおそらく――戦いに掲げる覚悟の違い……とでも言うのだろうか。

 

「負けた……? あたし……」

「……ふん」

 

 敗北の事実を受け入れることができないまま地に伏せるサクラに、冷徹な目を向けるクルミ。

 クルミにとっては、今起こっているこの現状でさえ、茶番にすぎないというのか。

 久しぶりの大きな戦いにて、自身が全力を出せないことへの苛立ちもあるか、それとも戦いでの興奮を抑えきれていないか。

 終始イライラした様子で、千束達のところへと戻っていく。

 

「ほら、勝ったぞ」

「あ、あぁ……」

 

 クルミが千束に己の勝利を告げるが、千束は正直なところそれに関して素直に喜ぶことができなかった。

 なぜか、結果として穏便な解決を避け、力づくでの解決策を選んでしまったこと。

 それにより状況をより悪化させてしまった現状。いくら防衛策とはいえ、相手を一方的に叩きのめしてしまったこと。

 それはその先どうあがいても、自分たちには戦い意思はないという主張は通用しなくなってしまったということである。

 

「サクラ。ぐっ……」

 

 サクラと行動を共にしていた少女エリカは、サクラの自業自得が招いた結果とはいえ、仲間を叩きのめされたことに関して千束達をより敵視している。

 こうなってはもう、かつてのように争いごとで全てを解決するしかないのか。

 相手は千束を狙っている。ならば襲ってくる相手を全て叩きのめせば千束を狙わなくなるのか。

 否、そんな解決策を、狙われている千束本人が望むわけもない。

 故に、この状況に及んでなお、千束は力ごとではなく対話での解決を打診してみる。

 

「ま、待ってよ。もうこれ以上私たちには戦う意思はない。一回落ち着こうよ」

「……」

 

 千束のそんな呑気な言葉を聞いて、エリカが素直に聞き入れるわけがない。

 エリカたちリコリスにとっては、仲間が一人やられているのである。

 今にも臨戦態勢を取ろうとしているエリカを千束はなだめようとするが。その千束に割って入り、クルミが敵意むき出しで言う。

 

「もう話し合いは無理だよ。そこの猪突猛進娘の次はお前か? 蛇みたいに睨みやがって。えぇ? 蛇ちゃん?」

「……やっぱりあなたはあの時と何も変わってないんですね。そうやって力で相手をねじ伏せて、いつまでも巨悪に成り下がる」

「?」

「あなたは救世主なんかじゃなかった。そうやって悪で居続けるなら……。フキちゃんよりも先に私が」

 

 まるで遠い昔を思い出すかのようにそう吐き捨てるエリカ。

 このまま次の戦いが始まってしまうのか。と思われたその時であった。

 圧倒的な力で切り伏せられ、立ち上がることなど不可能なはずのサクラが、ゆったりと立ち上がる。

 

「サ、サクラ!?」

「ま、待てよ……。まだ終わってねぇよ……」

 

 そう息絶え絶えになりながらも、クルミを睨むサクラ。

 クルミも相当の手傷を負っているが、サクラはクルミの比ではない。

 クルミから受けた数多くのダメージの他、ラジアータを使用したことによる反動(リコイル)現象により、もう立っている事すらままならないはずである。

 だがサクラはそれでもクルミに立ち向かおうとする。それは決して勇敢などではない、その場の誰が見たって、無謀でしかない行動。

 そんなサクラに対し、クルミはゆっくりと近づき。

 そしてサクラを思いっきり蹴り飛ばした。

 

「がっ!!」

 

 当然意気消沈寸前のサクラはあっさりと蹴り飛ばされる。

 避けるどころか防御すらままならない状態なのである。

 そんなサクラに対し、クルミは苛立ち交じりにこう言葉を口にした。

 

「僕はな、無謀だとか無駄だとか、無知って言葉が嫌いでね」

 

 ガンッ!

 

「ぐふっ!!」

 

 再度地に伏せたサクラの後頭部を踏みつけるクルミ。

 そして言葉を続ける。

 

「無謀って言葉が嫌いだ。敵を相手に何の策も講じず、己の意地とか矜持だとか、そんな充てもならないものだけで敵に果敢に立ち向かう」

 

 ガンッ!!

 

「無駄って言葉が嫌いだ。行動を起こすならその行動に見合うだけの結果や成果を残せよ。何の成果もない行動は、仲間にすら迷惑しかかけない」

 

 ガンッ!!!

 

「無知って言葉が嫌いだ。勝ちたいなら己を知り敵を知れよ。自分の力に酔いしれて調子づいている頭の悪さは、何の生産性もない」

 

 ガン! ガン! ガン!!

 

 クルミはそう苛立ち交じりに口にし、満身創痍のサクラに容赦なく攻撃を加え続ける。

 次第にサクラは抵抗しなくなる。だがクルミはサクラがそんな状態になっても攻撃を辞めなかった。

 このまま再起不能になるまで攻撃を加え続けるのだろうか。

 当然そんな状況を、良しとするわけもなく。

 等々エリカは、背負っているカバンから銃を取り出し、クルミに発砲した。

 

「ラジアータ起動! プルメリア!!」

「!?」

 

 エリカが取り出した銃は、先ほどのサクラが持っていたハンドガンタイプとは異なる長物タイプのライフル銃であった。

 当然威力はサクラが使用していたものよりも威力があり、撃たれたクルミは刀でガードするが大きく吹っ飛ばされた。

 

「ぐっは!!」

 

 そして地面に思い切りたたきつけられるクルミ。

 長物のライフル銃を片手で発砲。

 そしてスピンコックという動作で示談を装填し、クルミに狙いを定めるエリカ。

 そんな彼女のそれを見て、この殺伐として空気感の中ではあるが、千束は目を輝かせて興奮していた。

 

「ちょっとちょっとジンくん! あれウィンチェスターだウィンチェスター!! M1887!!」

「┐( ̄ヘ ̄)┌」

 

 どうやらエリカが使用した銃は、千束が大好きな映画に出てくる銃らしい。ジンは当然そんなこと知らないためか興味がないようである。

 

「がっ!! 痛ったいなぁ。なんだよ蛇ちゃんやる気満々?」

「もうわかった。あなたはやっぱり悪人なんだ。私やフキちゃんにとって……。あなたは!」

「よくわからないが。そんな大層なもの引っ張り出したからには、もうタダではすまないからなぁ!!」

 

 クルミは相当のダメージを負ってなお、先ほどよりもさらに力を増したかのように、覇気を纏いエリカを敵意を向けた。

 エリカも、可能ならば戦いを避けたかったが、覚悟を決めたのか銃で狙いをつけた。

 一触即発。先にどちらかが動けば、次の戦いが始まる。

 そうなればもう、二つの勢力による徹底抗戦は止まることはなくなるだろう。

 そうなる刹那、等々この女が動き出す。

 

「「!?」」

 

 殺伐とした空気が淀む。

 二人に降り注ぐその視線。

 その視線を向けられた時すでに、二人は千束の掌の上である。

 二人はその視線の方向に目を向ける。向けてはならないその方向、だがまるで操られるかのように二人が千束の方に目線を向けてしまう。

 千束のその眼。例えるならばそれは、アフリカの大自然で丸腰の状態でライオンに睨まれたような感覚のそれだ。

 そう、生物としての格の違い。それが目線だけで思い知らされる。どれだけ自身の力に自信があるものでさえ、その眼の前では何もかもが竦んでしまう。

 千束に与えられた祝福は、その眼である。それは当時、彼女を慕い、彼女の下についていた仲間たちはこう呼んでいた。

 

 ――神の眼と。

 

(な、なにあの目? 目が合っただけで、本能が叫んでる。動くなって……)

「ちっ……。すっかりご立腹じゃないか」

 

 千束が送った視線により、二人の戦闘意欲は完全に奪われたも同然だった。

 なぜならこれ以上の戦闘行為は、その眼を持つものと戦うことを意味する。

 生物としての格に違い。普通にそこに生き地に足をつけている者が、あれに勝てるというか。

 否、断じて否。勝ち目のない戦いを好んでする者がどこにいようか。

 

「……」

 

 千束はゆっくりと歩みを進める。

 エリカはそんな千束を見て、本心で覚悟を決めた。

 このままやられる。一方的にと。

 だが千束が向かっていったのは、エリカの方ではなくクルミの方であった。

 そして千束が全力でクルミを睨みつけ、クルミはそんな千束を睨み返し。

 一触触発になりそうな状況で、千束がクルミに思いっきりゲンコツした。

 

 ゴチン!!

 

「いたーーーーーーーーい!!」

「お前いい加減にしなさいよ! 私たち戦う気がないって言ってるでしょ!!」

「だってよお前! 相手銃所持してこっちに向けてんだぞ! つうかそもそもお前が狙われてるのが悪いんだろー!?」

「うるさーい! お前しばらくそこを動くな!」

 

 そう千束はクルミを叱りつけ、その場に待機を命じ。

 そして千束はカバンを持って、倒れているサクラの方に向かっていった。

 カバンの中には、応急処置道具が入っている(通称なんでも入っている千束ポケットである)。

 

「ほら君、手当てするからじっとしてて」

 

 そう千束はサクラを処置しようとするが。

 サクラはその手を払いのけ、そしてゆっくりと立ち上がり千束に敵意を向ける。

 

「ふ、ふざけ……。これ以上惨めな思いしてたまるかよ」

 

 あれだけの攻撃を受けてなお、サクラはまだ動けるようである。

 明らかに普通の女子高生とは異質すぎるほどの頑丈さである。

 普通ならば気を失って病院送りでもおかしくないほどの重症。

 だがサクラは立ち上がり動けるまでにはまだ無事なのである。

 

「……ずいぶん頑丈だなおい。仮面〇イダー的な、改造手術でもされてるの?」

「はぁ……はぁ……。た、ただでさえ一般人に返り討ちにあって、それで施しまで受けたら。ふ……フキさんに、なんて顔すれば……」

 

 自分の情けなさからか、うっすらと涙を浮かべ始めるサクラ。

 どうやら彼女には慕うべき相手が、認められたい相手がいるのだろう。

 そんな相手がいるのに、失態に失態を重ねむざむざと帰るわけにはいかないのだろう。

 少女が抱える意地は理解できる。だがそんな意地を優先するより、千束はただ彼女を助けたいのである。

 

「君たちどんな事情があるかはさっぱりだけど、まずは私に君を助けさせてもらえないかな? こんな傷だらけで放ってはおけない」

「うるっせぇ触んな!!」

「……しょうがないな。ジンくんおねがーい」

 

 無理やり手をはねのけるサクラに痺れを切らし。

 千束はジンの名を呼ぶ。

 その瞬間、まるで突然消えて現れたかのように、ジンはサクラの真後ろに姿を見せたのである。

 

「なっ!? てめぇいつの間に!?」

 

 他の人から見ても高身長のジンが、敵意むき出しのサクラ相手に何の気配も察知されずに背面を取る。

 自らの気配を完全に消すジンの祝福。それこそがジンが持つ沈黙(ステルス)祝福(ギフト)の力である。

 そしてジンは、大きなカバンから何かを取り出す。

 なんとそれは、予想だにしない代物であった。

 

「ば、バズーカ!?」

 

 ジンはミカお手製のアイテム。バズーカ砲『スパイダー』をサクラに向かって構えた。

 これでサクラを吹っ飛ばすつもりなのだろうか。

 

「しまっ!? やられる!!」

「サクラーーー!」

 

 隙だらけのサクラ、心配し叫ぶエリカ。

 そしてジンはバズーカを発射。

 発射されたのは、白い捕獲用の網であった。

 

「……なんじゃこりゃあああああああああああ!!」

 

 大きな白網に捕らわれたサクラは、追ったダメージもあってか網から抜け出すことなど当然できるわけもなく。

 そんな状態では、千束のやりたい放題である。

 

「はいこれで動けなくなりました。なので私の処置を受けてくださーい」

「ふざけんな! 出しやがれーーー!!」

「まぁ時間経過で溶ける特殊な網なんでね。それに下手に暴れたら、気を失っちゃうよ?」

「ふ、ふざけ……。く……そ……」

 

 もうサクラは意識を保つのも限界であった。

 いよいよ気絶してしまったサクラ。

 抵抗できなくなったところで、千束は処置を始める。

 そんな千束に銃を向け続けるエリカ。

 

「撃ちたければ撃てばいい。最も場合によってはこの子にも当たっちゃうかもね?」

「ひ、人質のつもり?」

「いや撃たれたら避けないで当たってあげる。避けたらこの子に当たっちゃうから。言ったでしょ? 私はこの子を助けたいんだって」

「……信じられるわけが」

「信じなくていいよ。これは私の傲慢だから。……もう戦いなんてこりごりだ。力で何かを収めようと、別の何かが力を振るう」

「……」

「私は――私たちはもうそういう光景を。いやってほど見てきた」

 

 千束が争いを好まない気持ちは本物であることなど、エリカにも十分伝わっている。

 だからこそ、なぜ上層部はそんな彼女をターゲットとしてリコリスをぶつけようとしているのか。

 その疑問が残る。それは千束にとって、エリカたちリコリスにとっても。

 

「……一回話をしてみない? それでも私が始末する脅威だと思うなら始末すればいい。でも力づくでの解決では、その判断すらできやしないよ」

「……わかった」

「はぁ……。やっと話し合いか」

 

 エリカが銃を下ろし、話し合いを承諾したのを見て、千束は深くため息をつく。

 ここまでやって、ようやくの話し合い。

 そこから得られる情報は何か、この状況の打破に繋がるのだろうか。

 

 ――ひと時の平和。つかの間の平穏。

 

 だがその背景には、新たな厄災を生む刺客が、千束達のところへと向かっていたことを。

 まだその場にいる誰もが、知る由もない。

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