リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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第25話:chapter1-11-井ノ上たきな、現着

 激闘は終わり、互いの牽制にもひと悶着をつけ。

 ようやく対話という形にまで持っていくことができた。

 

 話し合いの場、相手との対話とは、時として戦闘よりも重要な行為となる。

 

 話し合いによる物事の解決とは、争いによる解決よりも難しいものだからである。

 勝つか負けるかという単純な行為で物事が収まるのとは違う。話し合いとは、対話とは互いによる納得。

 他人の納得を引き出すために必要なコミュニケーション、納得に必要なために情報と共有。

 

 今回の場合――。

 

 千束達にとっての納得材料とは、自分たちが狙われる目的と狙う側の組織の詳細。

 

 リコリスにとっての納得材料とは、千束達が排除対象に足りうる危険性を持つ集団なのか、自分たちにとって障害となり得るかどうかの判断材料。

 

 といったところだろうか。

 それら互いが欲している情報と納得材料を、いかにどちらが多く得られるかという情報戦。対話とはまあ、大げさに言えばそういうものとも捉えられる。

 話し合いの内容によっては争いは続くかもしれないし、無益な争いなどしなくてもよいとの判断になるかもしれない。

 果たして千束は、己が狙われる真意と、願わくばそういう不利益が降りかからないだけの危険性の無さを、リコリスに提示することができるのだろうか。

 

「あぁ~疲れたぁ! とりあえずまぁ飲み物でも飲もうよ~」

「お前大したことやってないしなんなら戦ったの僕だが?」

 

 と、冒頭で色々と述べたのだが、肝心の千束自身はどうにも呑気なご様子。呑気な彼女に横からツッコミを入れるクルミ。

 未だに自分が、銃で武装している女子高生に狙われているという普通ならばあり得ないであろうこの状況に対し、危機感一つ抱いていないようである。

 彼女からすれば、女子高生が銃を向けてきても、集団で襲われたとしても"まぁなんとかなるだろう"という、心の奥底に抱いている余裕がまだ多く残っているのだろうか。

 それだけ彼女の生物としてのスペックが、この状況を楽しんですらいるというネジの外れた感性に繋がっているというのか。

 

「あぁお嬢さん方はお茶でいいかな?」

「え? あ、あぁその……。ありがとうございます」

 

 それどころか銃を構え襲ってきた女子高生二人にお茶を御馳走するほどの余裕っぷりである。

 流れるままお茶を受け取り、エリカは困惑している。

 そしてもう一人、サクラはまだ気絶したままであった。

 

「クルミもほら。私のために色々頑張ってくれたから飲み物を御馳走してあげよう☆」

「物騒な武器構えてる女子高生相手にボロボロになるまで奮闘した相手を飲み物一つで懐柔しようって?」

「う~ん。というかケガひどいなら病院行くか? 治療費は当然出すけど」

「……」

 

 呑気な千束相手に厭味を口にするクルミ。

 だがそんなクルミに千束が"病院"という単語を出すと、クルミは委縮したように黙り込んでしまった。

 

「私たちがお世話になっている病院の先生は名医だ。どんなケガもすぐに治療してくれるぞ~」

「……あぁ確かに名医さ。だがこのケガについてあの"山岸"にどう説明すれば納得してくれるんだ? 正直に女子高生と喧嘩して大ケガ負いましたって言うか? そんなん口にしたら僕は殺されてしまう」

「はっはっは! そりゃそうだな!!」

(病院かかって殺されるってなに?)

 

 千束とクルミは極々当たり前のように行きつけの病院についての話をする。だがその話に紛れて物騒な単語が出てきたことにエリカは内心ツッコミを入れた。

 そんな中、サクラが目を覚ましたようで、あたりを見渡す。

 先ほど気を失って5分ほどしか経っていない。どうにも人間離れした回復力である。

 

「う、う……ん。ここ……は……?」

「おぉ、もう目が覚めたかお元気ガール」

「あ、あんたは錦木!? このよくもやって、痛って!」

「おいおい君をそんなにしたのは私じゃなくてうちの連れなんだが?」

 

 目を覚ましたとはいえ未だ受けたダメージの蓄積が激しく思うように身体を動かせないサクラ。

 自分をここまで叩きのめした相手に対し恨み言を口にするが、千束は意にも返さない(そもそも自分がやったわけではない)。

 当然そんな身体ではまともに戦うことなどできるはずもないと、千束は落ち着くようにサクラをなだめる。

 

「こんの……! 傷さえ回復すればすぐにでもお前たちを葬ってやれんのに……」

「強気だねぇ。諦めが悪いねぇ。そのやる気は認めてあげるが、今のままでは何度やっても結果は変わらない。手傷を負っているならより勝つのは難しいよ?」

「なんだと!? さっきのは油断しただけだ! 本気だって出してない!!」

 

 そのサクラの見栄に対し、千束はおちゃらけた態度に封して、少しばかり真剣な表情で言葉を返す。

 

「いや、先ほどに君は本気だったよ。これほどにないほど本気で、冷静な判断ができないほどに全力だった」

「うぐっ!」

「そして君は、それほど本気でやったうえで……"勝てなかった"。それも、本命の私ではなく、その連れ一人に対して……ね」

「がっ! ぐっ……」

 

 千束が口にするのは現実である。非情にも現実が、サクラに突き付けられる。

 サクラは自分が持つすべてのスペックをかけた。禁忌とされる力にも手を付けた。

 それでさえ勝てない、届かない。それも排除対象にではなく、全く関係のない相手にすら適わなかった。

 もうこれは、どうしようもできない非情の現実である。

 それに加え千束は、さらにサクラをどん底に落とす現状を口にした。

 

「にしても、笑いそうになっちゃったけど。クルミお前、かなり"弱くなった"んじゃない?」

「おい、お前そこで僕にそれ言うのか?」

「あぁ、かつてのお前は――狂瀾怒濤と恐れられていたころのお前はあんなもんじゃなかったよ。相当手加減したの?」

「ノーコメントで」

「……本気、出せないんだな? それだけ平和な日常に浸かってしまったのかな?」

 

 その千束が口にする本質が、クルミを苛立たせた。

 そう、単独でセカンドリコリスを圧倒していたあの実力をもってしても、クルミは"本気ではなかった"。

 本気を出さなかったのではなく、戦いの日々から解放され、心も体も平和という日々は、彼女の実力の上限を大きく引き下げてしまったのだ。

 そのためどうあがいても推定全体の4割ほどしか出せない状態。それでも普通に戦うには充分すぎるほどの戦力にはなるのだが。

 

「まぁいいことだと思うよ。それだけこの街は、平和になったってことなんだから……」

「ふんっ。我ながら戦っててもどかしかったよ。悪党の僕が平和な日々を当たり前のように満喫していた事実と、あと……やっぱり歳は取りたくないって思った」

「あっはっは! 何気に気にしてるんだ!! そりゃお前も30近いもんなぁ!!」

「ぐっ! 歳をとらないアダムズギフテッドのお前と違って僕たちは年月を気にするんだよ。身体は疲れやすくなってくし、仕事にだって差し支えるんだぞ」

 

 と、そんな世間話に花を咲かせる千束とクルミ。

 敵対している相手が目の前にいることなど大した問題とも思っていないようである。

 そんな会話を聞いて、サクラはどうにも聞き捨てならないことがあった。

 

「あ、あれで? セカンドリコリスであるあたしを、あれだけ圧倒しながら、全く本気を出してなかった……って?」

「そのセカンドがどうかはよくわからんが。個人のスペックや武器の扱いに関しては無視できない強さはあった。だが根本的にお前らは経験が足りない。実践や経験は何よりも優先されるもんだろ? スポーツに例えるが才能がある人間が1日2日覚えただけの感覚は、非凡な人間が何十年もやる続けた経験には到底かなわない」

 

 クルミのその例えは、サクラに対し本能的に納得させるだけの凄みを感じさせるものがあった。

 リコリスは教育された兵士。それは悪人やテロリスト相手を封殺するだけの戦力として仕上げるためのもの。

 与えられる武器の脅威性や強化された肉体は、勝利という結果を当たり前としたもの。つまりは戦略の結果が形として現れた産物。

 対してクルミは明くる日も明くる日も戦い続け己を高め続けた猛者。つまりは戦術の結果が形として成した産物。

 与えられた100の数値と、己が手に入れた100の数値では、1つ1つの数値の価値観が違う。といった話である。

 

「……あんたは、いったい何者だ? どこの組織の人間だ?」

 

そうサクラが問う。クルミはそれに対し当たり前のように答える。

 

「ただの善良な一般人だが?」

「それやめろ!」

 

 クルミのその答えは、千束が口にする答えと同じもの。

 どれだけ強大な戦力を有していようが、(善良かどうかはさておき)一般人であることには変わりない。

 当然サクラとしては納得がいくはずがないのである。

 

「善良な一般人がそんな物騒な刀持ち歩いてるわけないっしょ!?」

「物騒な世の中だ。僕みたいな小柄でか弱い女性なんて襲われたらひとたまりもない。自衛目的で刀を持ち歩くくらい許してくれよぉ」

「リコリスを単独で撃破できるようなやつを世間はか弱い女性なんて言わない!!」

 

 そうクルミのおちょくるような発言にサクラは胡麻化されているようで立腹している。

 

「まぁまぁ楽しい話をしているところ申し訳ないんだけど~」

「楽しい話なんてしてねぇけど……」

 

 割って入ってきた千束の態度にサクラが戸惑いながらそう返す。

 そしていよいよ千束は本命の話を切り出す。

 そう、千束には彼女たちに聞かなければならないことがあるのである。

 

「その、私たちは君たちに聞かなければならないことがある。素直に話してもらうよ」

「はんっ! 拷問されたって口を割るもんかよ。お前らに話すことなんてなんもねぇっすよ!」

「おいおい~。話が違うじゃんよ。君がクルミに負けたら質問に答えるって約束だろ」

「んな約束した覚えが……。覚え……が」

 

 千束は約束がどうだとか口にしているが、サクラは身に覚えがない。

 だがサクラがエリカの方に目をやると、エリカが目線を逸らした。

 そのエリカの反応を見て、サクラが問いただす。

 

「エリカ? おいエリカ?」

「……約束しちゃった」

「なっ! なんでそんな約束勝手にするんだよ!!」

 

 サクラがエリカに問い詰める。

 そんな光景を見て千束はおちょくるように会話に割って入った。

 

「子供のうちから約束は破るためのものだなんて悲しいことは言わないでくれよお嬢さん方~」

「ほら見ろあいつ調子に乗ってっぞ! どうすんだよこの状況!?」

 

 そうエリカを責め立てるサクラに対し、エリカはキッと睨み返し。

 そして身を乗り出し逆にサクラに対し詰め始めた。

 

「そもそもサクラが成果目的でこんな目的を二つ返事で引き受けたのが悪いんでしょ!?」

「うっ!?」

「たきなが失敗した任務って時点で冷静になりなよ! しかも錦木相手にやられたのならまだしも関係もない一般人に喧嘩売って返り討ちに合うってどうかしてんじゃないの!?」

「うぐっ!」

「しかも私言ったよね!? ハルシャギクはサクラには使いこなせないって!! 身の丈に合ってない武器使って無様にやられて、本気出してないだの油断しただのってバカじゃないの!?」

「うえっ……」

 

 と、エリカの逆鱗に触れたのか逆にサクラが詰められてしまい、すっかり縮こまるサクラ。

 エリカが無情にも浴びせた言葉は全てが本当のこと。サクラの失態の数々である。

 

「ほんっと帰ったらフキちゃんにたっぷりと絞られるんだね!」

「ちょちょちょ! その際はその、フォローをなんとか……。その……」

「……反省してるの? 今回はたまたま相手が私たちに敵意がない連中だったから五体満足でここにいる。目の前にいる相手が私たちに危害を加えるような凶悪な対象だったら、サクラ一人の責任では済まなくなるんだよ?」

「……ごめん」

 

 今回の場合、敵にした相手が千束達だからこそ無事で済んでいるようなもの。

 勝てば得る。負ければ失う。

 それが個々ではなく集団となるなら。本来なら負ければ、自分の他の仲間全員が負ければ何かを失う。

 そういう場合がある。それを担うのが責任というもの。

 戦いだけではない、行動や考え、信念や理念にも責任は常に付きまとう。

 物事に対しての責任を追及された時、人は慢心がやったことでは済まされないことだってある。

 責任の追及から逃れるための材料、時として運も味方に付くことがあるが。

 今回こそまさに、運がよかった。でも済まされる話であった。ただそれだけのことである。

 

「……自分のために怒ってくれる友人は、大切にした方がいいね」

「千束……」

 

 千束はそんな二人の光景を見て、微笑ましくそう口にした。

 そしてそんな彼女に付き従えているクルミも、その言葉の重要視には気づいているつもりであった。

 

「さてと、では聞こうか。お元気ガール」

「あ、あたしにか!? あたしなら口が軽いとでも思ったかこいつ!」

 

 そう千束がサクラを指名し、質問をする。

 最も質問に対しサクラが素直に答えるかなど定かではないのだが。

 

「今日、夕飯は誰と?」

「は? え、えぇと、寮のみんなと」

「いいねぇ。食事は大勢いた方が楽しいもんねぇ。好きな映画とかある?」

「映画? えぇとその、青春物の邦画とかたまに見るけど」

「なるほど。個人的には洋画に興味を持ってほしいな。洋画はいいよぉ? いや別に日本映画を馬鹿にしてるわけじゃないよ? 私だって気晴らしにたまに見るしね」

「は、はぁ……」

 

「洋画、特に80年代後半から90年代末期のものがいい。なぜかって? 今ほど映像技術が進歩していないあの時代で作られたあれだけの映像技術。技術が進歩した今では当たり前のように感じるだろうけどあの時代ってのは未来の技術ってのに憧れを抱いているような技術進歩に情熱を燃やしていた時代さ。だからこそ映像の中の表現ってものに対しての印象や衝撃ってのが今よりも大きなものだったんだと思う。それを感じながら見てほしいんだ。わかる? CGが当たり前ではなかったあの時代、かけた大金や人間の表現力や工夫がものを言うんだ。映画を満喫した後の得点のメイキング映像なんて見たら映画への関心がよりぐっと深まる。お勧めはジェ〇ムス・キャ〇ロン監督作品。あのターミ〇ーター、タイ〇ニックを制作した巨匠。近年だとア〇ターもヒットしたまさに映画界の革命児。王道のスピル〇ーグ監督もそりゃ素晴らしいさ、80年代初頭という時代にあのE・〇を生み出したって考えたらあの時代の人間として生まれて見てその感動を感じてみたいなんて近代の映画ファンは誰もが抱く感情だよ。あとは……」

 

「ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!!」

 

 いつの間にか千束によるサクラの質疑応答が、千束による90年代映画がいかに素晴らしいかのトークショーへと変わってしまっていた。

 このままじゃあと30分は語り続けてしまいそうだったためサクラは一度千束の話を中断させる。

 

「どうしたの? まだバック・トゥ・〇・フューチャーの話をしていない」

「じゃなくてさ! その……。そのあんたの質問には何の意味が!?」

「え? 夕飯は何かとか好きな映画はとか?」

「そうそう! あんたはうちらに狙われている理由とか、組織に背景とか知りたいんじゃないの!?」

「いや別に」

「べつに!?」

 

 どうにも千束はズレているというか、リコリスの脅威性に対し微塵もそれを脅威と感じていない様子であった。

 その千束の態度に対しては、クルミやジンも苦笑いだった。

 

「質問の意味ならある。君がどういう人間なのか。君が私を排除することに対しどう感じているのか」

「あんな質問で理解したと?」

「君は私が街や仲間に被害を及ぼす悪人だから始末しに来たんじゃなくて、錦木千束を始末して来いって言われたから素直に従っただけでしょ?」

「むっ……。う、うん……」

「そして私を倒したら皆に褒めてもらえるから成果をあげてやろうってか。おおむねそんなとこでしょ?」

 

 千束にはサクラの本質がなんとなく理解できていたようであった。

 サクラには確かに正義感もある。悪を許さず、正義に殉じるだけの動機もあることも分かる。

 だが自分たちが狙う相手が正義に殉じている集団なのだとすれば、それを脅威と感じる意味はないと千束は判断する。

 

「まぁ確かに、正義を執行するにあたって民間人を巻き込んだり、一般市民の存在を顧みないとかだったら話はまた違ったんだけどね。君たちが私と対峙した時、一般人に紛れた仲間たちが関係のない人たちを間引きしていた。このことから君たちが、無力なものたちを保護、守れる立場の子たちなんだというのはなんとなくわかったよ」

「……」

「それゆえに、なぜ平和になったはずのこの街で君たちのような女の子が銃を持って街を守っているのだとかは気にはなるけど。そして、その組織が学校だと偽り私を誘い出したこととか気になることは山積み」

「……なら、それを無理やり聞き出せばいいだろうが」

「だ~か~ら。問題になるのはそこなんだってば。それをやるということは、目の前に提示された情報にまんまと食いつけと言われてるのと同じ。お前たちの背景にいる何かが私にこう言っている。「もっと深く入り込んでこい」ってね」

 

 正直なところを言えば、千束は知らなければならない。

 サクラ達が名乗るリコリスという組織の詳細。そしてその背景にいる何か。

 自分たちを襲う理由。そんな組織が教師として学校に採用しようとしていることなど。

 全てがその背景にいる者の掌で動いている。その先にあるのは、恐らくは再び始まる抗争。

 今だからまだ丸く収まるであろう現状を覆す、取り返しのつかなくなるような出来事。

 だがそれ以上に優先すべきは、これ以上無益な争いは避けなければならないということである。

 

「好奇心は猫を殺す。探求心とは恐ろしいさ。開けてはならない箱、入ってはならない扉。人間それを目の前にされると、開けたくもなるし入りたくもなる」

「……つまりあんたは、自分たちを排除しようとする組織に対し、あえて無関心を貫くと?」

 

 サクラのその問いに対し、千束は真っすぐに迷わずこう言葉を返し、そして続ける。

 

「そう。だから必要なら私はこの街から今すぐにでも出ていくよ」

「お、おい千束!?」

 

 その千束のあっさりとした決断にクルミは思わず戸惑う。

 せっかくいろんな厄介ごとを乗り越え街に帰ってきたのに。

 帰ってきた途端に謎の組織に付け狙われ、街にいてはならないという現実を突きつけられる。

 そんな無常なことがあってよいものか、クルミは千束の友人としてそんな思いを抱く。

 

「……こんな状況であたしがこんなことを言うのも馬鹿らしいかもしんないけど」

「ん?」

「あんた、うちらの学校の教師になる予定なんだろ? 仲間に……なればいいだろ?」

 

 そうサクラに提案され、千束は冷静に言葉を返した。

 

「得体も知れない組織に易々と協力して、嫌になったら内部から反乱を起こされる可能性とか考えたりしない?」

「……そういうことか。だから上の連中は、黙って組織にあんたを引き入れることはせず、排除する判断をした……てわけか」

 

 仮に素性を隠し組織に千束を引き入れたとしても、それは内部から組織を洗われる行動の危険性が生まれるだけ。

 そして千束は、かつてはこの街で天下を取ったほどの特機戦力。

 それに付き従うものは数知れず。つまりはリターンよりリスクが勝る。

 最初からDAグループは、彼女を排除する目的で動いていたということなのである。

 教師としての採用案件も、サクラ達を派遣したのも排除対象をおびき寄せる撒き餌にすぎなかったのである。

 

「……リコリスだっけ? 君たちの正義は……本物?」

 

 そう千束に問われ、サクラとエリカは、迷いなき覚悟で答える。

 

「……あたりまえっすよ。あたしらはそのために、武器を取ったんだ」

「もう、私たちのような犠牲者を出さないために。東西に分かれたこの国で、これ以上争いを広げないために」

 

 その彼女たちの在り方、彼女たちにそうさせている何かに対しては、千束の探求心は収まらない。

 だがそれとは別に、彼女たちの正義感は、仲間を思うその心は、市民を守りたいという信念は本物なのだろう。

 ならばこれ以上自分は関わってはいけない。千束はそう思いながら街を去ることを決める。

 彼女たちがやりたいこと、成すべきことが最優先ならば。それを信じることが、自分の……。

 

 カシュンッ!!

 

 ――その思いを制止するように。

 ――丸く収まろうとするこの場の空気を、切り裂くかのように。

 

 一発の銃弾が、千束の足元に着弾した。

 

 そして皆がそれを目にした時、赤い制服の、冷徹な眼光を認識した時。

 嫌が応でも、その場から禁忌の扉を開け、先に進むことを強要されるのだ。

 

 ――最強のリコリス、井ノ上たきな現着。

 

 そこから始まるのは、怪物二人による……幕劇である。

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