千束とフキの身体が入れ替わった。
「導入部分が雑!!」
そう初っ端から鋭くツッコミを入れるのはフキ。今は千束の姿をしているが。
本来入れ替わりのネタとか書く場合、導入に色々とトラブルがあって身体が入れ替わるといった部分を書くのがセオリーか。
定番な物でいうなら、入れ替わる二人が両端から走ってきて激突して、「痛てて……」とかセリフを言ったのちの入れ替わっている事実に気づく。とかそんなところだろうか。
「……入れ替わりネタやりたいだけなのを色々と地の文が言い訳がましく説明してんだが」
「はっはっは。なにかと大変なことになってしまいましたなぁ」
「なんでおめぇはそんなに能天気なんだよ……」
身体が入れ替わるとかいうファンタジックだが現実的にも大変なことになってしまっているのだが、千束はまったく気にしていないどころかむしろ楽しんでいるような雰囲気すらある。
当然フキとしてはこのヘンテコな現象が続くのは嫌なため、さっさと入れ替わった身体を元に戻したいと思っている。
「まぁまぁこの手のネタは最後の方では元に戻るっていうのが定番なんだし。焦ったってしょうがないって。それにもう一回思いっきりぶつかって地の文が『二人は衝突し、入れ替わった身体が元に戻った』って書いてくれたら簡単に元に戻るよ~」
はっはっは、それはどうでしょう?
「なんで地の文こんな偉そうなんだよ。いいからさっさと元に戻せよしばくぞ」
と、余裕な笑みを浮かべメタ発言まで飛び出る千束に対して、フキは怒り心頭。
身体が入れ替わると色々と不都合も出てくる。生活も入れ替わった相手に合わせなければならない。
フキの身体は女子高生の身分なので千束的には呑気にフキのふりをして授業だの訓練だのを受けていれば済むが、千束の身体はブラック企業も真っ青なほど仕事尽くしの日々なのである。
このままだとただでさえ怒りっぽいフキが、千束の激務を代わりにこなすことになる。そんなことをしたらフキのストレスはマッハである。
当然周りの人間に「なんやかんやあって入れ替わってしまった」と説明しても、そうすんなり信じてはもらえないだろう。だって普通ではありえないことだし。
「あっ。そうそうこういう場面に遭遇したら、言って見たいセリフがあったんだ~」
「なんだよ?」
未だこの状況に困惑しているフキをよそに。
千束は、この状況でしか言えないであろうあの有名なセリフをわざとらしく叫んで見せた。
「私たち、入れ替わってる!?」
「そのネタ、もう世間的には古いぞ」
「そうなの!?」
「(2024年時点で)もう8年前だぞあの作品」
「8年!?」
「そうだよ」
時の流れは早いもの。
大ヒット映画のあの入れ替わりを描いた名作は、(2024年時点で)もう8年前。つい昨日のことのようではあるが、もうそんなに年月が経っていたのである。
ちなみにこの作品自体の時代背景は2022年で止まっている。短編ではなく本編のほうであるが。
そんな前前前世もびっくりな事実に驚愕しつつ、今自分たちが置かれている現実を再度確認。
「てかめんどくさいからさっさとぶつかって元に戻るぞ」
「そう簡単に元に戻れるかな……」
「思いつくのは今のところそれしかねぇだろ。つかもう放課後だし、日課の鍛錬をしてぇし、見たいTV番組もあんだよ」
「まぁ私も書類仕事があるし。ちゃっちゃと元に……。放課後?」
そう言ってフキは距離を取り、走り出す構えを取った。
一方で千束はというと、同じく走ってフキにぶつかりに行く……。かと思いきや。
「そしたら行くぞ。いっせーのーで!!」
と、フキが思いっきり走ってきたのを、千束はひょいっと躱した。
そのせいでフキは思いっきり床に激突。当然フキは千束に対し激怒。
「なんで避けんだよ!?」
そのフキに怒鳴られた千束はというと。まぁまぁと怒るフキを宥めて。
「いやさ。せっかく二人の身体が入れ替わるとかいうイベントが起きたんだから。もう少し楽しみたいなぁって」
「お前は何を言ってんだ。不都合しかねぇんだよ特に私が! お前の書類業務なんて死んでも変わりにやらねぇからな!?」
別に千束は自分の仕事がしたくないから入れ替わりを拒否しているわけではない。
というにも、自分が考えていることを千束はフキに説明する。
「別にそこは具合が悪いから明日やりますって教頭に説明すればいいさ。私が言っているのは、入れ替わったんだしいつもの自分ではないスペックを満喫してみようって話よ」
「スペック?」
「例えばフキさんから見て、私の能力やスペックは魅力的じゃない?」
「……確かに、神の祝福を授かったとか言われるお前の人外じみた能力には興味がある。あの驚異的な動体視力や反射神経、他を圧倒する
そう、フキからしたら千束の身体というのは未知の生物なのである。
人間を超越すると言われるアダムズの因子。アダムズギフテッドの潜在能力とはどのようなものか。
一方で千束自体も、ファーストリコリスの潜在能力について自分自身で体験できるのならば、今後のリコリスの動向をプランニングをする上でこういう機会は貴重な物。
互いに自分とは異なる身体を使って自己研鑽できるというのは、それはもう身体が入れ替わるとかいう現象が起きなければ無理な話なのである。
「わかった。したら1時間だけだからな。1時間経ったらぶつかって身体元に戻すからな」
「はいはい。てか思いっきりぶつかるって痛々しいなぁ……」
「普段から攻撃を回避してばかりいるから撃たれ弱いってか? とりあえず訓練室手配するから少し待ってくれ」
そう言ってフキは千束の身体からスマホを取り出すのだが……。
「……私の携帯よこせ。カバンに入ってるから」
「え? 別に私のスマホでも事務室に連絡入れられるけど?」
「……ほら、なんていうか。他人の携帯勝手に使うのって抵抗があるじゃねぇか?」
「ま~。それもそうか。カバンから携帯って……。ていうかフキさんいつも思うけどなんで今のご時世にガラケーなの? スマホに買い換えたら?」
そう千束はフキのカバンから取り出した携帯を見て改めてそう感じた。
フキは現代の女子高生らしからぬ、ガラケーを使用している。ちなみにリコリスではフキしかガラケーを使っていない。
今のご時世、ガラケーってなんぞや? って思う読者様のために説明をすると。
ガラケーとはガラパゴス携帯の略称であり。スマホ(スマートフォン)が普及する前の携帯電話である。
より多機能で進化したスマホに比べ、ガラケーの主な役割は電話とメールだけである。
多彩なアプリをインストールして生活を充実させるといった便利な機能を省いた。まさに電話連絡にのみ特化したものといえよう。
当然そうなると電話も当たり前のようにできて、その他充実した機能を有するスマホの方が断然使用者は多いのが当たり前なのだが。
「……携帯電話なんて電話さえできればそれで充分じゃねえか。余計な機能は必要ない」
「そう? しっかし堅物だねフキさんは……。優等生というか真面目というか」
「女子高生なのは立場だけ。私らに課せられた使命は、この街の安息のために悪と戦うことだからな」
そうフキは自分の立場を明確に示し、スマホなど必要ないことを千束に説明する。
そんなこんなで、二人で訓練室へと向かおうとした。その時であった。
奥の方から、赤い制服を身にまとった狂犬がこっちにやってくる。そう、井ノ上たきなである。
「見つけましたよ先生。さあ勝負しましょう」
「んだよいつものやつがきたぞ。ほら先生よ、お前のファンが用事だとよ」
そうフキは千束の方に目線を送り、巻き込まれたくないため自分は関係ないという表情をするのだが……。
たきなは千束ではなくフキの方に敵対心を向けている。どうしてか、たきなが勝負をしたい相手は千束だというのに。
そう、たきなが用事があるのは、千束なのである。そして、今この時点で千束なのは……。
「……!?」
そう、フキは気づいてしまったのである。
今、千束とフキは君の〇はみたいな感じで身体が入れ替わっているのである。
身体が入れ替わっているということは。たきなから見るとフキは千束で、千束はフキなのである。
となると当然、たきなは千束と勝負がしたいので、千束の身体のフキに行くのである。……書いててややこしいのである。
「さあ先生、勝負をしますよ」
「待て待てたきな! 今私と先生は入れ替わりネタがどうのこうので中身が入れ替わってるんだ!! 入れ替わりだ! 君の〇はみたいな状態だ。だからお前が勝負したい先生は後ろにいる私(フキ)なんだよ!!」
そうたきなに一から十まで必死に説明するが、元から意地の悪い千束のキャラがあるためたきなは、千束がまた適当なこと言って自分から逃げようと思っているくらいしか感じていない。
こうなればフキの身体の千束自身からも説明してもらうしかたきなを納得させる手段はない。そうフキは千束にも説明をするように催促するのだが。
「……先生よ、てめぇさっきからなにわけのわかんねぇこと言ってやがんだ? 仕事しすぎて等々頭でもおかしくなったんじゃねぇのか?」
「てめぇなに私のフリしてこの場から逃れようとしてやがんだぁぁぁぁぁぁ!?」
千束はなんと今自分がフキの身体であることをいいことに、まるでフキが千束にいかにも言いそうな言葉を口にして、フキになりきってたきなから逃れようとしているではないか。
ちなみに千束の千の特技の一つには"変装"があり、意外と他人になり切る技術には長けているため、まんまフキに成り代わることも容易なのである。
そう。もう勘のいい方はお気づきかもしれないが。千束が身体を元に戻すのを渋った理由がこれである。
時刻は放課後。一日の過程を一通り終われば、空いた時間でたきなは千束に絡みに来るはずなのである。たきな的にはほぼ日課と化している。
なんなら彼女からすれば生きがいといってもいいし、唯一の趣味といってもいいだろう。
たきなと本気で勝負すれば、千束はただでさえ疲れているのにもっと疲れるからよっぽど余裕がある時しかたきなと勝負したくないのである。
「適当な理由つけて逃げようとしないでください。ていうか訓練室空けといてくれたんですね。私のためにすいませんね、では行きましょう」
「おい待て!? てめぇ千束!! 私を身代わりにしやがって!! 覚えてろよごらぁぁぁぁぁ!!」
「私は千束ではなくフキでーす。頑張ってくださーい。私は見たいTV番組がありまーす」
「それ私が見たかったTV番組だぁぁぁぁぁ!!」
――――――そして翌日。
「昨日はよくも私を置いて逃げやがったなぁぁぁ!?」
「いやいや悪かったって~。あぁどうぶつ王国、カワイイ猫ちゃん3時間SPは面白かったよ」
「私(フキ)が見てねぇから意味ねぇだろ! 私(フキ)の身体だけが見ても私は見れなかったんだよ! 録画は!?」
「一応フキさんになってるからそれは直に見とかないと失礼かなぁと。だから本来見たかった洋画劇場『ジュラシッ〇・パーク』の方を録画して後で見ようかなと……」
「それじゃ意味ねぇだろ! 逆だよ! 恐竜の方見て猫ちゃんの方録画しろよ!!」
フキは千束のひどい仕打ちに対して大激怒。
当然フキは千束の身体を自分なりには行使して全力のたきなとやりあったが。
それがかえって仇となったかムキになったたきなに23時ごろまで突き合わされ、当然見たかった動物番組は見れず。
踏んだり蹴ったりのフキは千束に詰め寄る。現状フキの身体のスペックでは千束の身体のスペックには敵わないため、フキが本気で千束に襲い掛かると間違いなく負ける。
そんな二人が揉めているところに、たきなが不機嫌な顔をしてこちらへやってくる。
「おぉ、たきなか。ほら先生(フキ)はここにいるぞ」
「てめぇまた私のフリして!?」
そう千束はたきなをフキの方へと誘導しようとするのだが。
「えぇ、わかってますよ。先生」
そう言ってたきなは銃のスライドを引いて、銃口を間近に突きつけた。――フキの身体に対して。
「な!? おいおいたきな……さん。先生はあっちにいるぞ?」
「……入れ替わってるんでしょ?」
なんとたきなは、すでに千束とたきなが入れ替わっているという事実に気づいているのである。
ものすごい圧を千束に向け、千束自身に自白させようとするたきな。
「な!? まさか~。入れ替わってるなんて言われて素直に信用したの~?」
確かに昨日のあの後、フキが散々今は千束と中身が入れ替わっているという説明をされている。
それを聞いてたきなは、千束があの手この手で自分をあしらおうとしているからそうやって必死に言い訳をしているようにも思っていたのだが。
たきなが入れ替わりの事実に気づいたのは、何もその事実を素直に信じたからではないらしい。
「な~んか戦ってて違和感を感じてたんですよずっと。なんというかこう……物足りなさ? 確かに強いのは強いし、私が手こずる場面だって何度かありました。でもこう、錦木千束らしさがないというか、能力やスペックがイマイチこう、かみ合ってないというか足りないというか」
「それ……。私が弱いって言いたいのか(怒)」
なんというか、たきなは本能で千束とフキの違いを見破ったらしい。
フキはたきなと並ぶファーストリコリスであり、当然他のリコリスを凌駕する能力とスペック、感性やセンスがある。
そんな彼女が千束の身体で戦うのだからもちろん強いのは当たり前。
だが例えば得意な対戦ゲームがあるとして、それでも普段全く使わないキャラクターを操作したとなったら、もちろんぎこちなさは浮き出てくるだろう。
フキ自身の感性やセンスが、錦木千束のスペックについていくことができず、結果たきなが違和感を抱くことになったというわけである。
断じて、フキ自身が千束に比べて弱いから物足りないというわけではなく。
「いえいえ。春川さんはものすごく強いと思います。同じファーストだし、剣術では右に出る者はいない。ラジアータも使いこなしてますし、セカンドが束になっても到底かなわないでしょう。それは同じファーストである私が十二分に認めてますよ。尊敬もしています。ただその、私の方が強いってだけの話で」
「最後の一言絶対いらなかっただろ!? あぁやっぱりお前もムカつく!! 昨日結局ギリギリのところで負けたし!!」
「負けたのかい……」
たきなは真顔でフキを評価する。真顔で、嘘偽りのない真っすぐな言葉で。
だが悲しいかな。天然な彼女はどうしても一言余計に多い。それも悪気がないからなおのこと質が悪い。
そしてやっぱりというべきか、フキは慣れない千束の身体ではたきなには勝てなかったらしい。
たきなに対抗するならば、千束が千束であらねばらならないようである。
「てなわけで、元に戻って再戦ですよ先生」
「だから、私は先生じゃなくてフキだって!」
「まだ白を切るつもりですか? わかりました。あなたが春川さんなら、春川さん自身じゃないと知らないことも答えられますね?」
「へ?」
しらばっくれる千束に対し、たきなは自分が春川フキならば、春川フキでなければわからない秘密も答えられると説くのである。
そのたきなの発言に対し、フキは訝しんだ。
「と、言いますと?」
「じゃあ答えてください。春川さんがスマホではなくガラケーを使っているのはどうして?」
「あぁ。そりゃあれさ。電話さえできれば他は必要ないから……。だろ?」
その千束の答えを聞いて、たきなは呆れながらその質問の正解を口にした。
「違います。スマホが使いこなせないからガラケーを使ってるんです」
「はい!?」
「なにてめぇ私の知られたくない事カミングアウトしてんだごらぁぁぁぁぁ!?」
そのたきなの口から出た意外な真実を聞いて、千束は驚く。そしてフキはバラされた自分の恥ずかしい事実に対してブチギレた。
そう。適当にごまかして話題を逸らしたが。フキがガラケーを使い続けるのは、スマホの操作が難しくて使えないから。というなんとも意外な理由からであった。
優秀なリコリスであるフキの弱点が。まさかの電子機器に弱いというものであった。それを知った千束は、つい本音でこんなことを口走る。
「スマホが使えないからガラケーって。おばあちゃんじゃん(笑)」
「んだとてめぇ誰がおばあちゃんだ!? あぁもう知られたくなかったのに!!」
恥ずかしさからその場で頭を抱えて悶えるフキ。
そしてそんなフキの知られたくなかった秘密を、これまた天然ながら暴露してしまったたきなはというと。
「というか、スマホが使いこなせないって……(笑)」
「なんでてめぇまで笑ってんだよ!!」
「ふふふ……。うぇへへへへへへへへ……」
「笑い方が汚ねぇ!!」
普段クールなたきなも、何度かそのフキらしくない事実を反復して、笑ってしまうほどであった。
多分たきなを演じてる声優さんが得意そうな下品な笑い方をしてしまい、悪気はないといえ申し訳なく思うたきな。
「そ、そうだったな。そうだ私スマホが使いこなせないんだった。悪い忘れてたわすっかり」
「もう無理だろさすがに! スマホ使いこなせないの忘れてたってなんだよ!?」
もう入れ替わってないなんて言い訳も通らないような気がするが。
ちなみに、フキは自分の恥ずかしい事実をたきなが知っていることに対して、改めて不審に思った。
なのでフキはたきなに問いただす。
「たきな。なんでそんなことてめぇが知ってんだよ?」
「乙女さんが言いふらしてましたよ」
「あいつぅぅぅぅぅ!!」
そう、たきなはサクラがフキの恥ずかしい事実を(言いふらしているかはさておき)他の人に言っているのが耳に入ってしまい、それで知ってしまったというオチ。
これは乙女サクラ。完全にアウトでやらかしてしまった。もうフキにボコボコにされる未来が見えている。
「あいつ絶対しばく!!」
「まぁまぁ千束先生よ。教師が生徒をしばくなんて言ったら……」
「先生はおめぇだろ!」
傍から見れば、二人が入れ替わっているため千束がサクラをボコボコにすると言っているように見えなくもない。
あまり変な噂が広まっても嫌だから、千束はフキを宥める。
「というわけで早く元に戻ってください」
そうたきなに詰め寄られる千束。
だがここで、千束の意地の悪さが出てしまった。
「だから、私はフキだって言ってるだろ!? ほら質問してみろ、本人しか知らない事なんでも答えてやらぁ」
「ちょ!?」
なんと千束は、この状況が面白くなってしまった。
このままいけば、厳格なフキのイメージにそぐわない、面白話が飛び出るかなと内心わくわくしているのである。
というわけで、たきなは続いてこんなことを千束に質問した。
「……この前春川さん、他のリコリスたちの前でらしくなく恥をかきましたね。覚えていますか?」
「えーと。任務で刀を忘れちゃった?」
「めずらしく部下を労うためにジュースを奢ってあげようと。でも自動販売機でのジュースの買い方がわからなくてそこは部下にやってもらったそうですね」
「なんでペラペラ私の知られたくない秘密ぶっちゃけんだよてめぇはぁぁぁぁぁ!!」
春川フキの知られたくない恥ずかしい秘密その2。
なんと自動販売機がわからない。電子機器に疎いにもほどがある機械音痴である。
「自販機使ったことないの!? 外にいて飲み物の見たい時だってあるじゃん!? お金入れてボタン押すだけじゃん!?」
「自販機の飲み物は高いだろうが!? スーパーで買って持ち歩いた方が節約になるだろ!?」
「おかん(主婦)じゃん!(笑)」
「うるせぇ誰がおかんだ!?」
フキは恥ずかしさから顔を真っ赤にして、自販機を使っていなかったことに対しそう言い訳をする。
機械音痴というか、一般常識に疎いというか。真面目すぎるからこそ現代の叡智に頼って楽をしたくないというか。
「てか部下にジュース奢るとか、優しいんだね(笑)」
「あぁぁぁぁぁもう! そんな目で私を見るなよぉ……」
厳格で真面目、規律が人の姿をして歩いていると言われているフキのイメージが崩れ、どこかポンコツな部分が露わになっていく。
千束にからかわれ恥ずかしがるフキに、たきなはさらに追い打ちをかけるかのように。
「部下に奢るといえば。この前皆でス〇バに行った時に、春川さんが皆に飲み物奢ってくれるってなって注文する時。トールサイズのことをタールって間違えたらしいですよ」
「だから何でもかんでもペラペラしゃべんなってお前ぇぇぇぇぇ!!」
このままだとあふれんばかりに出てくるであろうフキの失敗談。
そして案の定というか予想がつくというか。
このフキのタレコミの犯人はというと。
「たきな! それ誰から聞いた!?」
「乙女さんが(以下略)」
「あいつマジでぶっ殺す!! おい先生今すぐ元に戻るぞ!! 戻りたくないって言ったって無理やり元に戻すからな!!」
「うっ……」
怒り心頭のフキの圧に対し、千束ももうこのままでは無理かと等々観念して入れ替わりを元に戻すことに。
「おい地の文!」
はい、なんでしょう?
「今から千束と思いっきりぶつかるから。千束とフキが思い切り激突して二人の身体は元に戻ったって表記しろよ!? じゃないとてめぇもしばくからな!!」
わかりましたフキさん。
「したら準備しろ。いっせーのーで行くからな……」
「……」
こうして、千束とフキが思い切り激突して二人の身体は元に戻った。……こう書かないと最悪殺されかねないのですんなり元に戻ってもらいました。
そして元に戻ったフキは。愛刀の菊一文字を手にし、狂気と怒り、殺伐とした感情が混じったようなおどろおどろしい表情を浮かべ。
「サ~ク~ラ~。どうやってボコボコにしてやろうかなぁ~。あははははははは! 高まる、溢れる!! 待ってろよぉ~」
「「乙女さん……(合唱)」」
こうして数分後には謝り散らし泣き散らし放心状態になるサクラの話は、心のうちに留めるとして。
千束は1日ぶりに元の身体に戻ったこともあり、溜まっていた業務をしに事務室へと自然に戻ろうとする。
「さ~て女子高生生活満喫したし、仕事するぞ~」
ガシッ!(千束の肩を思いきり掴む音)。
「……」
「勝負しましょ(ニコッ☆)」
当然千束が元に戻るということは、たきなと勝負することになるわけで。
そしてサクラはというと、過去一といってもいいほどのトラウマをフキに植え付けられて、三日間ご飯が喉を通らなかったという話は、心のうちに留めておこう。
あと、君の〇はが(2024年時点で)8年前である事実も、心のうちに留めておこう。