何気ない普通の一日。
最も、その普通というのは、一概に平穏と結びつくものではない。
日常の外では、人が知らぬところで事件が起こっている。そういったことをひっくるめての普通である。
だが、今日という一日に、DA学園では普通ではない出来事が起こった。
ホームルームの時間になったのに、千束が教室に来ないのである。
そしてもう一人、サクラも教室に姿を現していない。
この状況に、フキが首を傾げ、何かあったのかと勘繰る。
そんな中で、校内放送が流れた。
『ピンポーン♪ 誰かちょっと職員室に来てくださーい』
放送から流れてきたのは、千束の声であった。
やはり何かあったのか、フキが一人めんどくさそうにしながら職員室に向かう。
職員室につくと、サクラがものすごく顔色を悪くしてうずくまっていた。
「おい、お前なんかやらかしたのか?」
どよんとしているサクラ。そしてそんなサクラから目線を外すことなくずっと見つめている千束。
見た感じ千束に怒られているわけでもなさそうである。千束自身も、この状況に困り果てている。
そしてサクラから、この状況についての説明が語られる。
「その。早朝にちょっと軽く身体を動かそうと思ってそこの裏山で自主鍛錬をしてたんっすよ」
「ほーん?」
「そしたらその、注意散漫だったっていうかその……。奥の方にある祠を壊してしまって」
そのサクラの自白を聞いて、フキが苦い顔をしてサクラに問う。
「お前、あの祠壊したのか?」
「あ、やっぱりまずいやつなんだ」
フキの言い方からして、その祠を壊したらとんでもないことが起こるアレ的なやつことを、隣にいた千束は悟った。
壊したらいけないというより、本来祠というのは何かを祭るために設置されたものである。
本来人目のつかないような、立ち入りずらい場所に設置したりするほど、壊すなんてもってのほかで触れてもいけないものである。
サクラは訓練に集中していたとはいえ、たまたま銃を発射した先に祠があり、それに当たってしまった結果祠が壊れてしまい。
そして祟りに合い、呪いを受けてしまった結果。強烈な倦怠感、何か大きく重たいものが背中に乗っかっているかのような重圧に見舞われてしまった。
放っておくと呪いが悪化し自我が保てなくなり何かに憑りつかれてしまう危険性もあり千束に相談。
千束がとりあえず自身の眼でサクラを捉え続けることで呪いを抑えている。というのが現状である。
「なるほど。祠の祟りは呪いの力。対して千束の眼は神の眼。すなわち神の力。それで相殺してるってわけか」
「いやいや納得してますけどねフキさん。とどのつまりこのままだと私ずっと乙女さんを観測てなきゃいけないわけなんですが?」
原理に納得はできる。だが問題は呪いの克服に向かっているのではなく押さえてつけているだけ。すなわち現状維持でしかないのが問題である。
このままでは千束とサクラの生活にも支障がでるわけで、千束もやることが多いのでずっとサクラを見続けているというわけにはいかないのである。
そんな状況の中で、千束がフキに質問する。
「ちなみにその祠、壊したら最終的にどうなるの?」
「んなもん呪い殺されるに決まってんだろ」
「えーーーーー!? あたしこのまま死ぬんすか!?」
フキの口から告げられた無常な一言。
祠を壊した者の末路は死。単純だが受け入れがたい現実。
このままではいけない。サクラは二人になんとかしてほしいと泣きつく。
「そもそもそんな場所で自主鍛錬なんてすっからだろうが。施設の中でやりゃいいだろうがバカがよ」
「隠れてこっそり強くなりたかったんっすよーーー!!」
「ったく慣れない事すっからだろうがよ。わかったよ、私に一つ考えがある」
「ほんとっすか!? さすがフキさん!!」
どうやらフキには、サクラの呪いを解くための秘策があるらしい。
フキはサクラにこう指示をした。
「したらとりあえず後ろ向け。千束はサクラを見続けてろ」
フキがそう言ってサクラが後ろを向く。
そしてフキはサクラの頭を、刀で思いっきりぶっ叩いた。
「痛ーーーーーーーーーーーーい!!」
それはお祓いでもなんでもない、刀で思いっきりぶっ叩いてサクラの中にある呪いを追い出そうとする言ってしまえば力押しである。
それによりサクラから呪いが出ていっただろうか。結論から言ってしまうと、当然呪いなんてそんなもんで出ていくわけないのである。
「なにするんすかフキさん!?」
「動くなしゃべるな腐ったミカン」
「ふざけてるー! 絶対呪いどうにかする気ないでしょフキさん!!」
まあこんなことで祠の凶悪な呪いが克服できるなら苦労はしないのである。
これには隣にいた千束も苦笑い。サクラはただ痛い思いをしただけである。
現状は意地。何か良い方法はないものか。
そう一同が思っている中で、いつまでも教室にやってこない3人を不思議がり、今度はたきながやってきた。
「みなさんいったいなにをやってるんですか?」
状況が飲めないたきなに、3人は事情を説明。
「え? あなたあの祠壊したんですか?」
「なんかどっかできいたセリフ……」
「あれ壊したらそりゃ死ぬしかないですよ」
「えーーーーーーーーん! たきなにまで無常な現実突きつけられたっすーーーーー!!」
たきなからも、フキと同様同じことを告げられるサクラ。
どうやらあの祠はいわくつきのものらしい。哀れサクラ、いいやつだったよ君は。
「いやまだ死んでないっすよ! たきななんとかなる方法知らないのか!?」
サクラは普段だったら毛嫌いしているたきなに対して、藁にも縋る想いで打開策を尋ねる。
それに対してたきなは、意外な一言をその場にいる皆の前で言った。
「それだったら私が除霊しましょうか?」
「え? たきなさん除霊できんの?」
何と意外なことに、たきなは除霊術を身に着けているという。
優秀なリコリスは除霊までできるというのだろうか。
あまりにも意外過ぎるたきなの一言に千束がつい反応する。
「えぇ。遠い親戚に腕のいい霊媒師がいるんですよ」
「それ本当に君の親戚?」
たきなの親戚なのかどうかはさておき、除霊ができるということでたきなは身の回りを固め。
そして瞑想を行い、サクラの呪いを払拭するための除霊術、そのための言葉を唱え始めた。
「あー。なんまいだぶ、なんまいだぶ。寿限無寿限無五劫のすりきれ、海砂利水魚の、水行末・雲来末・風来末。れもんちゃんももちゃんわかやましおん……」
((めっちゃ適当じゃねえか……))
どうにも効果があるとは思えないお経を唱え始めるたきな。
明らかに効果なんて見込めないであろう適当さに千束とフキは心の中でツッコミ。
そして長ったらしいお経を唱え終わったのち、たきなは銃を取り出しサクラに銃口を向けた。
「呪いよその身体からでていけー(棒読み)」
ばんっ!!
「痛ーーーーーーーーーーーーーーい!!」
そしてたきなは迷うことなく銃弾をサクラに向かって撃ち込んだ。当たり前だが殺傷力の無い制圧用の特殊弾である。
死にはしないが直撃すれば動けなくなるほどの痛みとダメージがその身に襲う。
サクラはもがき苦しむ。そして呪いは、当然のごとく出ていくわけがない。
「どうですか乙女さん?」
「やってることフキさんと一緒じゃん!?」
サクラに攻撃する手段が刀から銃に変わっただけで、結局はただの力押し。
物理的な衝撃では、祟りによる呪いには効果がない。わかりきっていることなのになぜこうも人は繰り返すのだろうか。
わちゃわちゃと職員室内にて揉めていると。別件を終わらせて職員室へと帰ってきた楠木が姿を現す。
その状況を見て説明を求め、千束達は現状を楠木に伝えた。
「あらー。あの祠壊したんですか?」
「その反応3回目なんすけど!? 皆同じような反応しかしないの!?」
「あれ壊しちゃったらもう死ぬしかないな」
「はいわかってましたあたしもう死ぬんですね!!」
楠木の口から言わせても、祠を壊す=死である。
当然なんとかしてほしいサクラ。今度は楠木に打開策を求める。
楠木はというと、数秒ほど考えたのち、思いついたかのように。
「わかった。したら後ろを向くといい」
「はいはいわかりましたよ思い切りぶっ叩くんですね! もう2回も同じようなことやられたんでわかるっす! 当然効果はありません!!」
「そうなのか。一思いにぶった切ってやろうと思ったが」
「呪い事あたしまでぶった切られますよ!!」
楠木も同じように呪いが出ていくほどの一撃を与える手段を取ろうとしたためサクラが必死に拒否。
結果的に、呪いにも匹敵するほどの人材が4人揃っても、祠の呪いを退くことはできない。
困り果てる一同。そんな中、たきながサクラにこう提案した。
「乙女さんの方から、呪いに対してどうすれば呪いがなくなるのか聞いてみては?」
「はぁ? それであたしの命払えとか言われて終わりじゃんよ」
「だが解決策が見えない以上、とりあえずダメ元で聞いてみろ」
フキにもそういう風に言われ、サクラはしぶしぶ呪いに対し、どうすれば許してもらえるかを聞いてみることに。
しばしの静寂ののち、呪いから伝えられた内容をサクラは口にした。
「……呪いも幸せになるような、尊い百合が見たいそうです」
「はい解散解散(サクラ以外の一同)」
「待ってーーーーー!?」
そのどうにもくだらないような提案を提示され白けるサクラ以外の四人。
もちろんこのまま帰られたらサクラは呪いに飲まれてしまうため必死に四人を引き留める。
「なんだよ尊い百合ってよ。あれか最近色々と流行ってるやつか?」
「あれでしょ? この前やってたガン〇ムのあんな感じのことやれってことでしょ?」
「意外だな。千束は洋画しか見ないものだと思ってたが……」
「そりゃフキさん最近のアニメは面白いから人気のものは目をつけるさ。それに私の声をやってる人は、ガン〇ムの主役だってやってる人だぞ。他のガン〇ムだって予習しとかないといかんでしょ」
最近はどうにも、そういった女の子同士が色々頑張る作品が火をつけているらしく。
フキはテレビが好きだし、千束は多趣味なためそういったものも色々知っているのである。
声をやっている人がガン〇ムの主役をやっているからとかそう言った話はさておき。
そんな千束に対し、たきなはいつもの調子で千束に対してこう茶化す。
「ガン〇ラのやつでしょ? 所望外伝でしょ?」
「てめぇビルドシリーズ嘗めてるとファンに怒られんぞ! 本編テレビシリーズだけがガン〇ムじゃないんですぅ! ファンに謝ってくださーい!」
「ちなみに私の声やってる人はその日5のガン〇ムに出てます。ガン〇ラのやつじゃないです、本編のテレビシリーズのやつでs」
「もうそれ以上は怒られるからやめろめんどくせぇ……」
話の内容が祠の呪いからガン〇ムに出たか出てないかの討論になってきたため、めんどくさくなる前にフキがその話題を打ち切る。
というか別に千束とたきながガン〇ムに出たわけではないのだが……。
「その、とりあえず画になりそうだからそこの二人(千束とたきな)で尊い百合を見せてほしい。って言ってるっす」
話は祠の呪いに戻り。
どうやら呪いは千束とたきなの絡みが見たいらしい。
それに対し千束は非常に嫌な顔をして呪いに物申す。
「おい呪いよぉ。てめぇの目は節穴なのか? 私がたきなさんと仲良く見えるか? そんなことを嬉々としてやるような関係に見えるか?」
「そうですよ。なんで私がこんなの(千束を指差して)と……」
「おい聞いたかそこの礼儀も知らない若者、目上の人に対してこんなのって言ったぜ? こんなのだぜおい……」
「一応、喧嘩してるやつ同士がいちゃつくのにも需要はあるらしいぞ」
フキが言うように、そういうシチュエーションにもいろいろなパターンがあり、今回の二人に関しては、水と油。犬猿の仲。目があえば基本どちらが勝つかの喧嘩。
千束とたきなの関係は、他の人からすればそんな感じ。
出会い方や歩み方が異なれば、また違った関係にもなったかもしれないが。
こんなことではサクラの解呪は到底かなわない。冷静に楠木がこう言葉を口にする。
「だがいがみ合っているということは、互いに評価すべきところもあるってことでしょう。好きの反対は無関心と言います。たきなも、千束先生の認めるところや好む要素の一つくらいはあるだろう? 大人気がなく態度が憎たらしく、人を小馬鹿にしてばかりだが良い人柄も持ち合わせているだろう?」
「なんか最終的に褒めてごかましてるけどほっとんど悪口なんだけど!?」
楠木はたきなになんとか千束のいいところを見つけてもらうよう誘導するが、それにかこつけて千束を盛大に悪く言っているだけな気もしてきた。
普段から千束に対してぞんざいな態度を見せているたきなではあるが、実際今現状はどう思っているのか。
倒すべき敵だった。内果たすべき悪だった。だがそんな相手は今は味方である。認めているわけではないが、味方であるのは事実だからもどかしい。
「教頭の言うように、先生は憎たらしいし気に食わないし、私が勝負を挑んでもなんやかんや受けて立ってくれて、それでもって大人気なく勝ち誇るし。私は錦木千束を完全に打倒し、叩きのめすことで何にも負けない最強の兵士になる。怪物と成った私に対して唯一拮抗する相手ですし。それがものすごく腹立ちますし、嫌って思うし。まぁその程度の存在ですよ」
(先生のことめっちゃ好きじゃんこいつ……)
口では嫌いだの気に食わないだの、いつかは完全にぶったおすことで宣言するが、どうにもたきなの千束に対する意識は根深いものに感じた。
好意がいきすぎるとそれはもう憎悪に変わるというのだろうか。たきなはそれを自覚出来てはいない。
たきなの千束の印象がわかったところで、千束にもたきなについてを聞いてみることに。
「先生はたきなの気に入っているところとか評価しているところとかないんですか?」
「……顔」
(サイッテーだなこいつ!)
たきなはあれだけ千束に対しての気持ちを述べたのに(たきな本人は口悪く罵倒しただけなのだが……)。
千束はたきなの顔が好きなところだというだけで、要はそれくらいしかよく思っていないとのことであった。
それに対し内心千束を軽蔑するフキ。
「とりあえずほら、さっさと尊い百合だかやってサクラの呪い追い払ってやれ」
「「えー?(二人して心底嫌がっている)」」
「早くよもう昼になるんだよ。サクラには後で私の方で焼き入れとくからそれで勘弁してくれや」
「もう怒られてもいいから助けて―(泣)」
投げやりになるフキ、呪いで疲弊しきっているサクラ。そして尊い百合に対して抵抗する千束とたきな。
だが千束は先生としては生徒を助けなければいけないし、たきなもリコリスとしては優秀な兵士を見殺しにするわけにもいかない。
乗り気になるかどうかの前に、千束の方から観念して思い切り手を広げた。
「ほれ?」
「……」
そうたきなを構える千束。だがどこかこう恥ずかしがっている。なぜだろうか。
たきなもこのまま渋っていても解決するはずがないため、しかたなく千束に近づいていき。
そして二人してハグ。どうにも言えない空気が流れ。しばし沈黙。
「……」
恥ずかしがる二人。そしてたきなの方から、千束に仕掛ける。
ぎゅー!!
「痛ーーーーーーーーーーい!!」
たきなはこのまま終わるのも癪だったためか、思い切り力を入れて千束の胴体を締め付けた。
それを引きはがそうとする千束。状況にかこつけてたきなは千束を攻撃したのであった。
結局丸くは収まらない二人。だがそういう絡みもいいアクセントになったのか、呪いは満足してサクラの身体から消えた。
「消えた! やったー!! 二人ともありがとーーー!!」
「ありがとー。じゃねえんだよてめぇはよ。反省しろ!!」(刀でサクラの頭を思いきりぶっ叩く)。
「ぎゃん!」
喜ぶサクラに対してフキはシメに思い切りサクラに焼きを入れた。
こうして祠を壊した問題は解決。
千束は千束で一方的にダメージを受け、苦い顔をしたまま教室へ。
たきなはそんな千束を見送ったのち、彼女とハグした感触に、どうにも言えない感情を抱く。
超えるべき存在、倒すべき敵、滅ぼすべき悪。
錦木千束という存在は、たきなにとってのそれなのだ。なのだが……。
「……どうして」
その自身に振りかかる違和感に、たきなは苛立ちながら、戸惑いながら……。