リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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短編です。


短編~クルミとミズキのお祭りデート

「今日はまたずいぶん客がいないなぁ」

「近くでお祭りやってるからな。そっちに人が取られてしまってるんだろう」

 

 喫茶リコリコにて。

 普段なら常連客が多くにぎわっている時間帯だが、今はクルミと他数人しかいない。

 ミカの言う通り、今近くでお祭りが開かれている。夏祭りというやつである。

 祭りはこの街の各地で日を分けて行われており、喫茶店の近くの祭りはちょうど今時期である。

 年に数回のお祭りということで、住人は祭りに浮かれ、参加し楽しんでいるのだろう。

 そのため普段は喫茶店に来るお客も、お祭りに行っているのである。

 

「クルミはいかなくても良いのか? 職場の人に誘われたり、それこそ千束が誘ってきたりしてないのか?」

「僕はいいよ。職場の連中にも断った。千束は相変わらず忙しくてお祭りどころじゃないらしい。今も大量の仕事を片付けながら、あの狂犬ちゃんに追いかけまわされてるんだとさ」

「はっはっは。楽しそうで何よりだ」

「僕は一時のお祭りごとより、変わらない日常を愛でるよ」

 

 お祭り騒ぎが大好きな千束も、仕事やたきなに追われていては呑気に楽しむこともできないらしい。

 そしてクルミ自身は、そういったイベントには興味を惹かれないらしい。

 クルミは無知や、無駄、無謀といった物事に対し余計な感情が介入する事柄が好きではなく、合理性が取れたことを好む。

 今回の場合、お祭りを楽しむといい単価に似合わない不釣り合いな値段で飲食をしたり、屋台を開いている側が基本得をするのを理解した上で縁日を楽しむ理由が個人的には理解できないのだという。

 

「物珍しいモノや色んなものを食い歩きたいならばフードコートに行けばいい。フードコートはいいぞ、その場で食の悩みがすべて解決する。あれを食べようかこれを食べようかと悩んで走り回らなくていいし」

「そ、そうか。すまないな、うちはフードコートに出店してなくて」

「おやっさんはおやっさんのやりたいようにずっと喫茶リコリコをやっててくれればいいさ。ここは……。僕たちの帰ってこられる場所なんだ」

「……そうだな」

 

 そんなしんみりとした話をしていると。

 なにやら奥の方から陽気な音楽と共に、どこかで見たことあるような猫型のロボットがメニューを配膳しにクルミの方へとやってくる。

 

『ご注文をお届けしましたニャー』

「おっ! なにこれあれじゃん! ガ〇トとかバー〇ヤンにあるやつじゃん! 導入したの!?」

「あぁ、基本うちは私一人だけだからな。こういうのがあれば回転率が上がるかと思ってな」

 

 クルミの言うその猫型ロボットは、主にすか〇らーく系列で運用されている配膳用のロボット。

 昨今は人手不足も社会問題となっており、こういった人手不足を解消するようなシステムを導入する企業が多い。スーパーならセルフレジだとかそういったものである。

 喫茶リコリコは現在はミカが一人で経営している。千束やクルミが学生時代のころはアルバイトとして雇っていた時期もあったが、それぞれが社会人として独立して個々に仕事をしているため今は常連客として通っている。

 だがミカも年齢を重ね一人だけでは経営も厳しくなってきたということで、こういったシステムを導入したらしい。

 

「へぇ~。でも高かったんじゃないの?」

「はっはっは。古い知り合いに頼んで色々と安くパーツを買い付けてな。暇がある時に自分で制作したんだ」

「作ったの!?」

 

 なんということか、ミカは猫型配膳ロボットを購入したのではなく自作したのだという。

 ミカは今でこそ喫茶店のマスターではあるが。かつては博士とも呼ばれたほどのバリバリの科学者だったという。

 軍事警備組織ヤタガラス――。この国の安全を守る大組織、そこの技術開発局元主任。若いころのミカはそのような立場にいたという。

 その技術力、開発力を思う存分に発揮し、千束やクルミたちが戦乱の世とも評されていたかつての時代を戦い抜くための武器を作ったりもしていた。

 そのうちの一刀がクルミの持つホーネット。その他サイレント・ジンが所有するバズーカー型捕獲ユニットスパイダーなどがある。

 

「へぇ~。だから多少外見が違ったりしてるのか。全く同じものだと色々問題になるもんな」

「そうだな。大人の事情が絡んだりしたら喫茶店畳まないといけないからな。あとはこの猫型配膳ロボット『ロボヨシマツ』には、ガ〇トやバー〇ヤンで使われてるやつとは違うある機能を搭載している」

 

 そう言ってミカは、自分たちのいる場所から離れた玄関側のテーブルと椅子のある方へとロボヨシマツを操作して動かす。そして……。

 

『迷惑客を検知しましたニャー』

 

 ボカーン!

 

 そうロボヨシマツの機械音と共に、置いてある椅子やテーブルが思いっきり吹っ飛ぶほどの衝撃波がロボヨシマツから発射された。

 

「なにこれすげぇ!」

「昨今は物騒だからな。防犯機能にとこんなものとを搭載した。まだテスト段階だから実装にはもう少しかかる。下手に誤作動でも起こして常連さんに迷惑かけたらまずいからなぁ」

 

 ※実際すか〇らーく系列で動いているやつにはそんな機能は搭載されていません。

 

「発動の基準は主にデシベルの大きさだな。90db~100db以上の騒音を出した客に向けて発射するといった具合だ。まぁ喫茶店で普通に飲食していればそんな大きな音はまず出ないだろうが」

「まぁ実際におやっさんの店でそんな迷惑かける客が居たら僕たちを呼んでくれれば、外に連れ出して二度と店に近づけない程度にボコボコにしてあげるよ」

「それは頼りがいのある話だが。もうこの街はあの時のように荒れた街並みじゃないんだ。いい加減暴力が先走りするような考えはやめなさい」

「……そうだな。いったいいつになったら、僕たちは身に着けている武器を地に置けるんだろうな」

 

 そうどこか悲観したような表情でそう言葉をつぶやくクルミ。

 かつての戦乱は終わり、平和を取り戻したこの街で、10年ほど争いから離れた日々を送っていた。

 しかしその日々の中でも、どこかに潜む争いの種。自分たちが安全なところにいるだけで、安全ではないどこかでは、人々の悲しみが渦巻いている。

 そして最近、この街にも少しずつその争いの波が侵食してきた。また自分たちが武器を取る日が来るのか、そう思わせるほどの何かをクルミは感じる日々を送っている。

 現にかつての自分たちのように武器を持たされ戦いに駆り出されている学生リコリスの存在や、それらを脅かすアンダーテイカーと呼ばれるテロリストの存在。

 自分たちが築き上げた平和を壊す何かに対し、クルミは、そして千束は何を思うのか。

 そう二人が複雑な思いにふけっていると、そんな空気をぶち壊すかのような一人の女が来店してきた。

 

 からんころん♪

 

「もーう! ちょっと聞いてよぉぉぉ!!」

 

 その来店早々耳がうるさくなるほどの声量を出して喫茶店に入ってきたのはミズキであった。

 そんなミズキに対して、配膳ロボットが眼をギランと光らせて。

 

『迷惑客を検知しましたニャー』

 

 ボカーン!

 

「きゃあああああああああああああ!!」

 

 なんということか、そのミズキのうるさすぎる第一声に対して誤作動を起こしたのか(誤作動ではないかもしれないが)、ロボヨシマツがミズキに対して先ほどの衝撃波を発射。

 人一人吹き飛ばすほどの威力を持つその衝撃波をモロにくらい、ミズキは店外へと吹っ飛ばされる。

 その状況を見てミカが慌てて駆けよる。

 

「だ、大丈夫か中原先生!?」

 

 そんな一瞬の出来事に対し、クルミは笑いの感情が噴き出たのか、ミズキを指差して大笑い。

 

「あーっはっはっはっは!!」

「な、なに笑ってんのよ!?」

「迷惑客だ! 配膳ロボがミズキを迷惑客だと判定したんじゃんすごい高性能!」

「誰が迷惑客よ!? ま、まぁ確かにちょっと初っ端からうるさかったかもしれないけど……。じゃなくて、ちょっと聞いてよ!」

 

 来店していきなりあれだけの衝撃波を食らってもなお口やかましく自分語りを続けようとするミズキ。

 やっぱりこいつ迷惑客なんじゃないかな。クルミとミカは心の中で思いながらも優しさからか口には出さなかった。

 

「今近くでお祭りやってるじゃない?」

「うん」

「他の人誘っていこうと思ったけど皆忙しくて行けないっていうから一人寂しくお祭りに行ってみたじゃない」

「うん」

「んでよく考えたのよ。三十路近い女が一人寂しくお祭りに行くって、なんかもうこの世の終わりって感じじゃない!?」

「……うん」

 

 なんだかよくわからないがとりあえずミズキの主張に関して適当に返事をするクルミ。やり取りが猫〇ームみたいである。

 要はせっかくのお祭りなのでミズキも行こうと思ったが、誘った人間が皆忙しくて(そもそもミズキは友達が少ない)誰も一緒に行ってくれない。

 そして一人で行ったが周りを見渡しても友達同士で楽しんでいたり、そして必ずしもいるカップルでのお祭りデート。

 そんな風景を三十路の女が一人寂しく眺めてしまえば、そんなところに居続けるのはいたたまれなくなり、一旦喫茶リコリコに逃げてきたというわけ。

 

「ということで~。今から店長さんとクルミと私3人でお祭りに行かない? って誘ってみたり……?」

「美女からのお誘いはありがたい話だが」

「んも~う店長さん口が上手いしダンディでいい男だし~」

「しかし私は喫茶店のマスター。ここにお客が来る限り店を開けるわけにはいかないのだ。二人で行ってきなさい、あぁこれ自治会の方がやってる出店の割引チケットあげる」

 

 と、例に漏れずミカも忙しい身の上のためお祭りには行けない。

 となると残ったのはクルミ一人だけだが、流れのままミズキと一緒にお祭りに行くことになりそうになっているためとても苦い顔をしている。

 

「なら~。クルミさん、一緒にお祭りに」

「めんどくさいからやだ」

「めんどくさいってなに!?」

「そのままの意味だよ。そもそもなんで僕がお前とお祭りに一緒に行かなきゃならないんだ? メリットは? 僕に対しての得はどれだけあるんだ?」

 

 ミズキの誘いに対して、クルミは圧をかけながらそうミズキに説く。

 クルミは無駄を嫌う。行動に際して何かしらの理由や損得勘定が動くのである。

 

「またそうやって損得でものを言う。友達とお祭りに遊びに行くのにそんな余計なこと考えなくったっていいじゃない!?」

「あのな……。そもそも僕がいつからお前の友達になったんd」

「う~~~」

「うぐっ……」

 

 そうクルミが流れるように友達扱いするなと口にしようとすると、それをせき止めるかのようにミズキが目元に涙を浮かべ。

 

「三十路前で、アラサーで、彼氏もいなければお祭りに一緒に行ってくれる友達もいないなんて……」

「……そう聞くとこっちまで悲しくなってきたな」

「そんなの、悲しすぎるじゃなーーーーーい!! うえええええええええええええん!!

『迷惑客を検知しましたニャー』

 

 ボカーン!!

 

「きゃああああああああああ!!」

 

 と、ミズキが悲しみのあまり泣き出すと、その悲鳴に対してまたもロボヨシマツが誤作動を起こしミズキを衝撃波で吹き飛ばした。

 三十路前で、アラサーで、彼氏もいなくて、友達もろくにいなくて、泣いたら喫茶店の配膳ロボットに衝撃波で吹き飛ばされて。

 そして今尻を突き出して床にあられもない姿で倒れている。中原ミズキ(27)。

 もうクルミとミカは直視できなくなり、そしてそんな姿を見て憐れみの感情まで出てきてしまう始末。

 そしてミカはクルミにあきらめの表情を浮かべて、こう一言。

 

「……クルミ、一緒にお祭りに行ってあげなさい」

「……」

 

 ――――――そして数分後。

 

 お祭り会場までタクシーで10分ほど。

 会場につき、ミズキは念願? の友達とお祭りに来られて気分が上がる。

 

「さあお祭りについたわよー!!」

「……」

 

 シャクシャク……。と、盛り上がっているミズキに対して白けた表情でかき氷を食べているクルミ。

 毎年変わらずやっている年一のお祭りに民衆がワイワイとにぎやかになっている光景。普通ならば季節の催しを楽しむ場であるが。

 クルミからすればお祭りなどそこらへんでやっていることだし、来年も再来年も同じことやるだけの、興味も関心もないことなのである。

 

「……あんた少しくらい楽しんだらどうなの?」

「かき氷うめー」

「……さてせっかくお祭りに来たんだし」

「来たんだし?」

「飲むわよ! ビールを!!」

 

 ポカッ!

 

 そうミズキが勢いよく酒に走ろうとした時、クルミはミズキを小突いた。

 

「な、なによ?」

「あのさ。なんでお祭りに来て最初にやることが酒を飲むことなんだ? そもそもだ。僕にはお祭りに来てまで酒を飲もうとする意味が理解できないんだが」

「そ、そりゃあ……。めでたいから?」

「めでたくなくてもお前達酒飲みは毎晩のように酒を飲んでるんだろう? 酒飲みに行くなら別にこんなやかましいところに来なくったっていいだろうが。そもそもビールの値段だって普通に買うより雰囲気に任せてただ高いだけの普通のビールだろうが。それを嬉々として飲むお前達酒飲みの思考が僕には理解できないって言ってるんだ。そもそも……」

「わ、わかったわかったわよ。じゃあ何すればいいってのよ?」

 

 クルミがお祭りで飲むビールに対して今にも長くなりそうな話を遮り、ミズキはお祭りでやることとは何かをクルミに問う。

 

「そりゃまぁ。縁日?」

「つまり射的とか金魚すくいとかそういうの? そういうのって子供が楽しむものじゃないの?」

「周りを見てみろ。結構大人もやってるぞ」

 

 クルミに言われた通り周りを見ると、青年から女性、おじさんも結構縁日を楽しんでいる。

 お祭りは老若男女楽しむ催し。大人も童心に帰って縁日に花を咲かせることもあるだろう。

 近年はゲームというものも、大人が行うスポーツとして盛んな行事となっている。遊びとは、人がいつまでも歳をとってなお、惹きつける魅力があるものなのである。

 

「あんたって本当にゲーム好きよね。配信で結構稼いでるんだって?」

「まぁそれなりには……」

 

 クルミはゲームの達人であり、配信を行えば本人の見た目も相まってかかなりの視聴者が付き、スパチャも多くいただくという。

 無駄遣いもせず倹約家でもあるため、お金には困らず結構良いマンションに住んでいるとのこと。

 それでもって職場では人望もあり、職場内、お客にも絶大な人気を得ているという。人としてのスペックも高い。ミズキとは真逆である。

 

「そもそもあんた、なんでそんなにゲーム好きなの?」

「そりゃあ楽しいから。あとはまぁ……。娯楽は"負けても失うものがないから"?」

「……」

「勝てば誇れるし。負ければ悔しいですむ。勝っても負けても経験値になりそれをただ繰り返して精進すればいい。だが実際の戦いなら話は変わる。勝てば相手の全てを奪い、負ければ全てを奪われる。かつて僕たちはそんな戦いを毎日のように強いられ、終わりが見えない中戦い続けた。奪われることへの恐怖に心身を削りながら、勝ち続け奪ったその手を汚し続け、奪い続け血にまみれたその手を見ながら嫌な感触に見舞われながら。ゲームとは違う、娯楽とは競い合いだが戦いとは奪い合いだ。心を汚し手を汚すことだ。戦いを楽しむとは、奪うことを嬉々として受け入れることだ。そこに正当性もない」

「……ごめん、その話もうやめない?」

 

 なんだかものすごくクルミの地雷を踏みぬいた気がして、ミズキはもうそんな話はやめてほしいと思いそうクルミに懇願する。

 クルミもらしくなく長く語ってしまったと自分を戒める。

 気を取り直して、二人は射的屋の方に足を運ぶ。

 すると、なにやら見たことある姿と聞いたことのある声が、二人の前にそれが射的をやっていた。

 しかも撃った弾は百発百中で、次々と小さい景品を打ち抜いている。その人物とは……。

 

「うわー! 姉ちゃんすげー!」

「はっはっは! 見てます教頭! フキさん!! 私にかかればこんなもんっすよ!」

 

 DA学園のセカンドリコリス、乙女サクラである。

 そして射的で景品を取り巻くってはしゃぐ彼女を、後ろで呆れた表情で見ている教頭の楠木と、サクラの上司であるファーストの春川フキ。

 お祭りの縁日で本気になって何をやっているのかと、その二人と同じことをクルミも遠くで見て思っていた。

 せっかくだしおどかしてやろうかと、クルミは射的の所へと足を運ぶ。

 

「よっしゃ、次は……」

「お姉ちゃんごめんね、後ろ控えてるからさ」

 

 そう射的屋の店員に言われ、ついはしゃぎすぎてしまったとサクラは射的屋の銃を机に置く。

 

「あぁすいません、したら後ろのお客さんにってげぇぇぇぇぇ!!」

 

 そして後ろを振り向きクルミの姿を見てサクラはついたじろいでしまった。

 そんなサクラを見てクルミはバカにしたように小さく笑う。

 そう、セカンドである彼女は大抵の相手には負けることのないほどの戦闘力を有しているが、一度サクラはクルミに完敗している。

 得意の銃を使っても、切り札である専用のラジアータ『ハルシャギク』を使用しても勝てなかった。

 その経験もあるのか、彼女の姿を目にしてついつい怯えを表に出してしまう。

 

「あ、あんた。どうしてこの祭りに……」

「あぁ? どうしてってお前らの所の下っ端がお祭りに行く相手がいないってわけもわからない事で僕の所に押しかけてきて一緒に祭りに行こうとかわがまま言い出したからこうなってんだよ。どうしてくれるんだよお前らの所のお荷物だろうがよ……」

「し、知らないっすよそんなこと……」

 

 面倒ごとを押し付けられた苛立ちもあるのか、クルミの圧にサクラは終始押されっぱなし。

 街の平和のため、決して敵に屈してはならない兵士であるリコリス。

 その兵士が一般人に対し怯んでいる。このような失態を今、指令である楠木と上司であるフキの前で無様にも見せしめてしまっている。

 見かねたフキが、サクラに叱責する。

 

「おいサクラ。てめぇいつまでそいつに対してビビり散らかしてんだ? てめぇの情けねぇ姿見にこんなとこまで来た覚えはねぇんだが……」

「す、すいませんフキさん。くっそお前のせいで……」

「別に僕は何もしてないが。あの時だって一方的にお前が僕に喧嘩売って一方的にやられ放題だっただろ?」

「がっ!」

 

 サクラは反射的にクルミのせいにするが、クルミは真っ当に自分が悪くないことを証明する。

 それに対してサクラはその通りですと言わんばかりに認めざるを得ない。

 これ以上部下の情けない姿を見るに堪えなくなったフキが、クルミの相手に変わる。

 

「うちの使えねぇ職員が迷惑かけた件は、あなたには気の毒だと思っている」

「ふん、レンタル友達料でもDA本部に請求した方がいいかな?」

 

 クルミの揶揄うように口にしたその言葉に対し、フキが敵意をむき出しにクルミを睨み言葉を返す。

 

「……あまり調子に乗るのも大概にしろよウォールナット。流れとは言えあんたがリコリスに手を出した事実は変わらない。千束がこちらの仲間になった以上あんたの扱いは保留だが、あんたはいつでも私たちの討伐対象になってもおかしくないほどの器だ。私たちの気まぐれで生かされてんだよ」

「ほう? なら僕も、気まぐれでお前たちに手を出さないでいてあげるよ」

「……あなたはいずれ、この私の手で終わらせる。あなたが築いた時代を、あなたが戦う術も理由もすべて……。私が奪う」

 

 クルミの挑発に対して、フキはそう彼女に言い放つ。

 その言葉は信念だ。自身の全てをかけてでも達成せねばならない使命であり悲願だ。

 それだけの想いが今の放った言葉に込められていることを、この時のクルミはまだ知る由もなかった。

 

「おい! あたしに勝ったからって調子に乗んなよ! フキさんにかかればお前なんか……」

「サクラ。これ以上無様な姿を私の前で見せんな。叩きのめすぞ……」

「す、すいませ~ん!」

 

 クルミの前で下手に強がるサクラをフキはまたも叱責し黙らせる。

 そしてクルミの前から去ろうとする二人。去り際サクラに対しクルミは一言だけ告げた。

 

「おいお調子者。ひとつだけいいか?」

「な、なんだよ?」

「お前、剣術のセンスないんだよ」

「なっ!? う、うっせぇ余計なお世話だ。私は憧れのフキさんの隣に!!」

「サクラ」

「は、はい!!」

 

 これ以上はフキに殺されると、サクラは言い返したい気持ちを押し殺してフキについていく。

 クルミもその場から去ろうとした時、クルミは残ったもう一人の視線を受けその場に縛られる。

 さりげなく去ろうとするには、逃れられないその視線。楠木のものであった。

 

「……何か用で?」

「いえ大した、これからも是非、我々とは友好的な関係でいたいものですね。とだけ」

「……あっそ」

 

 そう上から目線で、こちらを試すかのような態度で、表情を一切変えないままに一言添えて楠木もその場から去る。

 一見他愛のない会話。だが一瞬ではあるが、無視できない楠木が放つその圧力。

 けして屈したわけではないが、どこか戦慄させられたクルミ。自覚なく、冷や汗もかいて。

 姿が見えなくなると、つい笑みがこぼれてしまい小言が口から漏れ出す。

 

「……あのおばさん何者だよ。"千束と同じ"……。いや、だが間違いなくアレは」

「ちょっと。あんまり私たちの組織に喧嘩売ったらだめよ~」

「ちっ……。僕だって余計な連中には関わりたくないんだよ」

 

 そう本心からの言葉を口にして、再びミズキと祭り会場を回るクルミ。

 30分ほどして、買った食べ物を食べるために、会場から少し離れた休憩所を目指し二人は歩く。

 会場内のビアガーデンの席はすでに埋まっている。それに下手したらもう一度リコリス達に合うかもしれないことを考えたクルミの提案だった。

 

「ていうかあいつら呑気に遊んでていいのか?」

「一応会場の警備のために一般客に紛れてるのよ。こういった場所で騒ぎを起こそうとする輩もいるし、最近アンダーテイカーの連中がDA関係者を狙っているという話も出てるし」

「ふ~ん。お前は大丈夫なんだろうな? って、逃げることに関しては一級品か」

「そりゃそうよ。出くわしても逃げきってやるわよ」

「見栄張って言うことか。あの時代その逃げ癖でどれだけの組織やチームを裏切ってきたんだ? 裏切りの中原ミズキ、逃げ上手の中原ミズキ、雑兵、男喰い、※※※(表現できないような異名)。散々な噂が流れてたぞお前」

 

 そうクルミにバカにされたように言われ、ミズキはやるせない気持ちになりながらも、否定できないため仕方なくその罵倒を受け入れる。

 ミズキは他の連中に対してなんの実力も持ち合わせてはいない。だが家庭環境が嫌で街に逃げ出した。誰かとつるまなければ生きていけないあの激動の時代、混沌とした街。

 故にミズキは必死に尻尾を振った。宛てがあれば住みつき、やばくなったら一人だけ逃げ出す。そうやってあの時代を生き抜いたのであった。

 その逃走技術は、目を付けられたら確実に逃げられないと当時恐れられたあのアランの連中でさえ、仕留めることができなかったほど。

 最も、仕留めるに値しない雑兵なので、中盤以降は軽く見られ他の連中からすれば蚊帳の外である。組織やチームでの役割も、もっぱら使い勝手の良い雑用である。

 そんな話をしながらの道中、それは突如として、二人の前に現れた。

 さりげなく二人の前に止まったワゴン車。一見すればなんの警戒も抱くことはない。

 そしてワゴン車から数人の屈強な男たちが下りてきて、二人の前に近づいてくる。

 その時に、二人にすぐさま警戒心が生まれる。身構えるミズキだが、クルミは白けたような感情を向ける。

 

「……お姉さん、ちょっと来てもらおうか?」

 

 これは……。ミズキはすぐに察する。

 さきほどちらっとしていた。DA関係者を狙う輩。

 お祭り会場から多少離れた位置。だが祭りでにぎわう環境、当然他にも人がいる。

 その場でのあえての堂々とした人さらい。普通ならば逃げればよい話だが、DA関係者ならばこういう考えに行きつく。

 

 ここで自分が逃げれば、周りの関係のない街の人たちに犠牲が及ぶ。と……。

 

 だからこそ、周りにリコリスもおらず、住民が多くもなく少なくもないこの状況を狙ったのである。

 多すぎればすぐに騒ぎになりリコリスが駆け付け、少なすぎれば人質になり得ないから。である。

 

「……なによあんたら」

 

 ただ簡単に捕まってしまってはDA関係者の名折れである。

 会話で危機を引き延ばしながら、何か対策を講じる手段を考えるミズキ。

 一瞬、隣にいたクルミに期待しつつもあったが、これ以上彼女を巻き込むのは……。

 

「……おい」

 

 と、そんなことを考えるミズキをよそに、クルミが男たちに突っかかった。

 これは、自分から仕掛けに行くつもりだろうか。そう思ったのだが。

 

「……ナンパか?」

「絶対に違うでしょ!!」

 

 ただのナンパならわざわざ武器をちらつかせないし、ワゴン車を近くに止めて降りたりはしない。

 どっからどう見ても誘拐が目的である。クルミの呑気な一言にクルミが隣でツッコミを入れる。

 そんな微妙な空気が流れた状況下で、男が軽口をたたく。

 

「ふっ。そうだな……。この世界が平和なら、軽い気持ちで女をナンパでもすりゃあよかったのかもな」

 

 不穏な空気が流れ、危機感を覚えたのか次第に周りの住民の姿がいなくなっていく。

 行動に出なければ通報には至らないが、このまま周りから人がいなくなれば、ワンチャン逃げるチャンスが生まれるか。

 そう思っていた矢先、背後から何者かが近づき。

 そしてバールのようなものでクルミを思いきりぶっ叩いた。

 

「がっ!!」

 

 そしてクルミは地に伏せる。

 動揺するミズキ。そして大声を出させまいとその口を男がふさぐ。

 ミズキが抵抗しようとすると、背後の男がクルミの首元にナイフを突きつけて脅す。

 

「ーーーーー!!」

「これ以上騒げば連れを殺す。わかったなら大人しく俺たちに従え」

 

 そうミズキを脅し、ミズキをワゴン車の中に押し込む。

 

「お前ら3人はここに残って周りを見張れ。リコリスが来るかもしんねぇからな。時刻になったら指定の場所で落ち合う」

「わかりましたボス!」

 

 そういって、ミズキを拉致しボスと呼ばれた人物と数人の男は先にワゴン車で行ってしまった。

 残った男たちは、クルミを運んで人目のないところへと身を潜める。

 

「このチビどうします?」

「とりあえずめった刺しにして殺すか。いつ目が覚めて通報されるかもわかんねぇしな」

 

 そう言って、男たちがクルミをナイフで刺そうとする……。

 

 ――――――そして指定の時間。

 

「……あいつらこねぇな」

「もう行っちゃいましょうよ」

 

 場所は人目の少ない駐車場。

 指定の時間になったが、これ以上長居はできない。

 リコリスには超高度AIラジアータがある。事態が公になれば場所を特定されてしまう可能性が大いにある。

 ここまでリコリスには遭遇せず、イレギュラー無く上手いこと事が進んでいる。判断をミスればすべてが水の泡になる。

 多少の仲間ならば見捨てる覚悟も持ち合わせなければならない。なんなら敵に捕まっている可能性も考えなければならない。

 

「さて、DA関係者狩りもこれだけやれば、あの真島グループを出し抜けるかもしれねぇ。あの新参のクソガキ共にわからせてやる。西側の悪魔の使い共が……」

 

 そう言って、男たちが車を出そうとした時であった。

 車に乗り込もうとした時、空気が一瞬にして淀むのがわかった。

 何かが来た。リコリスか? そう思ったがそれにしては静寂が漂いすぎている。

 奇襲ではない、襲来である。これは何か別の、脅威が迫る独特の感覚である。

 その感覚の直後、一台のワゴン車が近くに止まる。先ほどの合流予定の仲間たちの車である。

 ワゴン車の運転席から、男が飛び出してくる。

 

「ボス逃げてくれ! や、やべえやつに目を付けられちまっt」

 

 そう男が続けて言おうとしたあたりで、後ろから出てきたその恐怖に飲まれ、言葉の続きを飲み込み。

 そしてそれが姿を現した。金髪の、頭から血を流した、小柄な女性。

 右手には黒と黄色が交じり合う刀身をした刀を手にし、運転手の男に刀を突きつけた。

 

「お疲れさん……」

 

 そう言ってそれは、自分の数倍もある図体の男を思いきり刀で吹っ飛ばした。

 模造刀であるため人体が切れることはないが、それでも計り知れないほどのダメージが男を襲う。

 

「て、てめぇは……」

「そうだね。夏だし、過去の亡霊とでも言っとく?」

 

 立ちすくむ男たちに対し、そう自らを亡霊を呼称する人物、クルミであった。

 あの後自分を刺そうとした男たちのナイフを弾き飛ばし、そして3人ほどいたうちの二人を一瞬でぶちのめし。

 残った一人にここまで案内するように脅し、立場がひっくり返った状況で、恐れた男はここまでクルミを連れてきたのであった。

 

「まぁ昔この街で、終わりが見えない闘いをクソみたいな連中にさせられて、運よく生き残ってしまった亡霊だよ」

「……ふっ、いるんだよなぁうちらの周りにも。昔はよく恐れられていただとか、街で頭張ってたとかよ」

 

 クルミの亡霊発言に対して、男は鼻で笑いそう言い返した。

 クルミもクルミだが、自分たちも修羅場を潜り抜けていた。地獄を味わい、力を手に入れ、仲間を手に入れた。

 目線の圧で圧されてはならない、こちらが負けているわけがないからである。

 そもそもに相手は一人、だがこちらはまだ大勢いる。優勢なのは変わらない。

 

「んで、そんなもの引っ提げてやり返しに来たってわけかよ姉さん。負けず嫌いだねぇ」

「やり返しにか。そんな子供みたいな理由でなんて来ないよ。お前らに簡単に拉致られたバカを取り返しに来たんだよ」

「んだよ、あんたもDA関係者だったってわけか……」

「誰があんな得体も知れないやつらの関係者だ。そんなのはお気楽なうちのバカ女だけでいい。僕はめんどくさいから関わりたくないんだよ」

 

 そう言ってクルミは自分がDAの人間であることをきっぱりと否定する。

 だがミズキを取り返しに来たのは、やられっぱなしであることが個人的に黙っていられない事。

 要は面子を潰されたままではいられないからただやり返す理由をでっち上げただけのことである。

 そう敵対心を向けるクルミに対して、男は余裕を見せながら、懐から拳銃を取り出しクルミに突き付けた。

 

「拳銃か。それも実弾入りかな?」

「わかってんじゃねぇか。銃を見るのは初めてか?」

「女子高生に喧嘩売られた時に見たよ。いや、それ以前にもあのクソみたいな時代には毎日のように見たかな。それが、どれだけの人間の命を奪ったかも知ってる。命を奪うことを許さず、それでも戦うしか僕らに選択を与えなかったあのクソみたいな大人たちのせいで、苦労させられたよ」

 

 クルミが語るかつての戦乱の時代。

 人の命を奪う武器など出回っていた。その中で、クルミたちはその手段を封じられた中で戦うしかなかった。

 多くの仲間たちが散っていった。それでも戦い続け、それが周りに評価されることなどないと知ったうえで。

 それでも、戦うことでしか存在を証明させてもらえない荒くれ物が、社会から居場所を無くした若者がそこには大勢いたのだ。

 

「その後拳銃は国によって規制されたが、裏ルートでは出回っている。そんなところか」

「あぁ。大抵の人間はこれの前には抗うことはできない。対策を講じているリコリスは除くがな」

「……そうか、なら容赦なく撃てばいいさ」

 

 そうクルミが躊躇なく撃つように男たちに言うが、続けてこうも口にした。

 

「だが、それを撃つということは、この先どうなるかを理解した上で撃つことだな」

「なんだと?」

「確かに今周りにはひとけが無いが、銃声というのは思っているほどに周りに聞こえるものだ。例えばそう、運動会のスターターピストル。あれが街中で聞こえたら、運動会がやっていると察するだろう? 銃声の音の大きさは140db以上。お祭りムードで一般客は花火だと勘違いするかもしれないが、銃に精通しているリコリスならば、それが銃声だとすぐに理解する。そうすればあとは、DAお得意のAIでこの場所を特定し、お前たちは積みだな」

「……」

 

 そう同等と男たちの前で口にするクルミに対し、銃を構えながら、男たちは躊躇する。

 言っていることは理にかなっている。理屈が通った言葉は、相手に戸惑いを与える一撃に変わることもある。

 適当でさえ時には意味を成す。言葉とは、それに付随する意味とは、人によっては武器にもなるのである。

 

(はったりか……? そもそもなぜ俺はこの女に対して咄嗟に銃を構えた? 傷を負っているチビな女だ。普通ならばそんなものを使わなくても組み伏せられるのが当たり前だ。……どこかで俺は、この女に恐怖をしている?)

 

 思い返せば、クルミに対して男は銃でなければならないのか。

 人数で圧倒し、敵は負傷している。体格も小さく性別も女だ。

 確かにこの国では、遺伝子次第では体格も性別も関係を成さなくなるケースは数多くある。

 だが、今がその時だろうか。冷静に考え、判断するだけの余裕はあるはず。

 ここで下手に銃をぶっ放し、後々劣勢な状況を作り出してしまうならば。

 銃でなくても武器はある。ナイフでも、バールのようなものでも。

 

「……」

 

 男は考える。そして、銃を下ろした。――その瞬間だった。

 クルミはものすごい速度で男の間合いに入った。

 そして銃を握っている方の腕を思いっきり刀でぶっ叩いた。

 男の腕があり得ない角度で曲がる。そしてもがき苦しむ男。

 

「ぎゃあああああああああ! う、腕の骨が……」

「人間には215本も骨があるらしいぞ。一本くらいでガタガタ言うなよ」

 

 千束に飽きるほど見せられた某映画のセリフを引用し、クルミは男たちに凄む。

 その状況を目の当たりにし、周りの他の男たちも一斉に身構える。

 そして一人がナイフを持ってクルミに向かってくるが、それを身軽に躱して。

 男を刀で叩き伏せて、床に崩れ落ちた男の首元に刀身を充てて、電圧を流した。

 

「ぐあああああああああああああああ!!」

 

 それがクルミの持つ武器、ホーネットの機能。

 スタンガンを内蔵した模造刀。他人を殺すことなく、殺す手段を持つ敵への対抗手段。

 軍事警備組織ヤタガラス、技術開発局出身のミカが、かつて戦うことを強いられた者たちのために開発した特製の武器の一つである。

 

「刀型のスタンガン……だと?」

「ふんっ……」

 

 そうつまらなそうに男たちを一瞥し。

 クルミは弾き飛ばされた拳銃の方に足を運び。

 そして拳銃を拾い、男たちに突き付ける。

 優勢に立っていた男たちは、それを突きつけられるだけで身構える。

 武器とは、武器の優劣は、状況をひっくり返す重要な要素である。

 クルミは男たちに向けていた銃口を、夜空に向けなおし、そして……。

 

 バン! バン! バン! バン! バン!!

 

 天に向かって銃を撃った。それはまるで、自分の居場所を周りに示すかのような行為であった。

 

「なっ! なにしてんだてめぇ!?」

「これでDAが状況を察して、この場所を特定しリコリスが駆け付けるだろうよ」

「き、貴様!」

「だがそれまでの時間。どうしようか、このままお前たちに逃げられたら僕が怪しく見えてしまうわけだし、僕が被害者だって証言するものが……。必要じゃないかな?」

 

 そうクルミの狩人と化した目が、男たちを再度捉える。

 そして刀を構える。目の前にいる敵を屠るために。

 自分に危害を加えた愚か者を、この手で叩き切るために――。

 

「お前ら下層の民(アンダーテイカー)は、この街の平和を壊そうとする。僕らが命を賭けて築き上げたものを破壊しようとするのなら。僕はお前たちを……」

「くそ! このチビ!! ぶっ殺してやるーーー!!」

 

「――お前たちを、叩き切る(ハックする)

 

 そうクルミがニタリと口角を上げ、狂気の笑顔を男たちに向け。

 その後は、地獄の処刑が繰り広げられた。

 何人でかかろうが、殺傷力のある武器をクルミに振ろうが。

 そんなものに恐れを抱かず、闘争のままに、クルミは敵を切り続ける。

 己の、己の周りの人たちの敵を、ただ屠るために。

 

 それから数分後、サクラとフキ、そして楠木が現場に駆け付けた。

 一番近くにいて、この状況を感じ取った3人が真っ先にやってきたのである。

 そして目にしたのは、最後の一人、ボスと呼ばれていた男に、最後の一撃をクルミが加えようとしている場面であった。

 

「た、助けてぐれぇ……」

「敵に、己の脅威に対して助けを求めるなよ。お前らもわかってるんだろ? 勝てば得る。負ければ失うんだよ。ただ……それだけのことなんだよ」

 

 そう冷酷に男に言い放ち、クルミが刀を振りかぶろうとした時。

 その刀を持った右手を、力強くフキが後ろから掴んで止めた。

 クルミは血走った目線をフキに向け、嘲笑うかのように口を開いた。

 

「遅かったなリコリス。もうお祭りは終わってしまったぞ?」

「……」

 

 頭部の負傷のせいか、戦いの空気感に支配されてしまったせいか、クルミは好戦的になっている。

 このままでは流れでリコリスとまで交戦を開始してしまう勢いであった。

 だがフキは、そんなクルミに対し、敵意を向けてはいなかった。

 ――その表情は、どこか悲しげなものであった。

 

「……なんだよその顔」

「やめろよ、あなたの戦いは、終わったんじゃないのか? あなたは"今も"そうやって、誰かのために傷つき続けるのか?」

 

 そう問いかけるフキは、先ほどのお祭り会場にいた時の彼女の様子とは全く異なるもので。

 その違いに対し、クルミもつい戸惑いを表に出してしまう。

 そして張りつめていた闘争心が、緊張がほどけてしまったからか。

 頭部の負傷による影響が出始め、クルミはその場に倒れこもうとする。

 それをフキが必死な表情で受け止めた。

 

「お、おい!」

「……」

「――ふざけんな。私は、何のために力を手にして……」

 

 どうやらクルミは気絶しているだけのようで。

 その彼女を抱きよせて、フキは無力さに苛まれる。

 その様子を見て、楠木はすぐに医療班を要請、そしてミズキを車の中から引きずり出し。

 口のガムテープと縛っている縄を外し、医療用のバッグを渡す。

 

「お前はそれでアレの応急手当をしろ」

「は、はい!」

 

 すぐに言われた通りにクルミに駆け付け、応急手当を開始するミズキ。

 そして入れ替わるようにフキが楠木の元へ戻ってくる。

 その焦りに満ちた表情、普段見ることのできない表情にサクラは動揺し、楠木は冷静に蔑む。

 

「……私情で動いたなフキ。リコリスが感情に支配されるな」

「……申し訳ございません」

 

 叱責を受けたフキは、己の感情を必死にコントロールし、冷静さを取り戻しアンダーテイカーの捕縛へと向かう。

 こうして全く関係のない一般人の手で、DAの脅威となる一つの事件が解決する。

 それはDAにとっての失態か、それともDAにとっての利益となるものか。

 楠木は手当てを受けているクルミの方を見て、冷徹に分析する。

 

「アランチルドレン。かつてアラン機関高等学校は国の高位遺伝子(ストリクス)の若者を集め独占していたというが……。秘密結社アダムズが関わっていたという噂も、あながち嘘ではなさそうだな」

 

「――使える物はなんでも使おう。全てはこの街の、世界の平和のために」

 

 そう冷酷に、冷静に、冷徹に、楠木は己が理念を吐き捨てるのであった。

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