前回のあらすじ。
リコリスに取材がやってきた。ということで派遣されてきた謎の記者、北ノ湖知佳。
激しい戦場での取材になるというのに、ドジでおっちょこちょい、コミュ障でビクビクしている瓶底眼鏡をかけた童顔の地味な女性。
そんなのを引き連れて凶悪な麻薬密売組織を殲滅して来いと無茶な任務を引き受けることとなった。D組のトップフォースのうち3人。フキ、さくら、たきな。
はたして任務はどうなるのか。そして取材の結末はいかに……
――――――喫茶店にて。
「正面からは私とサクラ、裏口からはたきながいけ。挟み撃ちにしてテロリストどもを殲滅する。あぁそれと、そこのお荷物記者はたきなにつける」
「お、お荷物って……」
「事実お荷物だろうがよ。なんか文句あんのかぁ?」
「ひぃ!」
フキが作戦内容を皆に説明。その際北ノ湖記者はたきなに預けることに。
そして相変わらず北ノ湖記者にあたりの強いフキ。そのビクついたオドオドしている態度が癪に障るのだろう。
フキに圧力をかけられ委縮する北ノ湖記者。本当に銃弾飛び交う戦火で生還することなどできるのだろうか。
「安心してください北ノ湖さん。あなたに危害が及ばないよう私が全力で守りますから」
ぎゅー!
「痛い痛い痛い手を握る力が強い」
怯える北ノ湖記者を安心させようと、たきなはそう自信をもって北ノ湖記者を守ることを誓う。
その北ノ湖記者の手を握る力の強さに強い信頼があるだろう。にしてはなにやら思念のようなものを感じざるを得ない気もするが。
「作戦は決まった。して、なんか聞きたいことはあんのか?」
「ふえ?」
「ふえ? じゃねえだろうがよ取材なんだろ? このままぼーっと私らがやること眺めてるだけがてめぇの仕事なのかおい!?」
「あひぃ!」
そう、フキの言う通りこれはリコリスの取材である。
この時点で北ノ湖記者はリコリスの現状を見ただけで、リコリスがそもそも何なのかを全く取材できていない。
これで会社に報告をしても、なにをしていたのかと詰められるだけだろう。
「っていうかさっきからビクビクビクビク。私なんもしてねぇだろうがよ。なんでそんなビビり散らかしてんだよ」
「え? えぇと……」
「そりゃあフキさんがおっかないかrぐえぇ!!」
そうフキが北ノ湖記者がビビる理由を問い詰めるが、それに対しサクラが能天気に答えを言おうとするものだからフキの裏拳がサクラの顔面に直撃。
もだえ苦しむサクラ。そのやり取りを見てたきなは小さく笑いをこらえていた。
「私が怖いだぁ? 優しいだろ私よ。なぁたきな?」
「……」
「おい目を逸らすどころか顔まで逸らしやがったよこっち見ろよてかなんか言えよ。おい記者さんよ私怖いかぁ?」
「ひぃ!」
「……(怒)」
どうやらそれは当たっていたようで、北ノ湖記者は終始フキを怖がっているようでフキの顔を見るだけで緊張しているようである。
だが怖がってばかりもいられないため、北ノ湖記者がリコリスから聞ける範囲のことを質問してみることに。
「あ、あの……。みなさんはその……。こうやって武器を手にして凶悪な犯罪者と戦うことをその、怖かったりとかしないんですか?」
「……そりゃどういう意味だ?」
北ノ湖記者の質問に対し、質問で返すフキ。
「だからその……。そ、組織の上の方々にその……。無理やりやらされてる……とか?」
委縮しながら上目でそうフキたちに尋ねる北ノ湖記者。
その発言に対し、フキは一拍置いてから、答えられる質問と判断して質問の答えを口にする。
「……確かに私はDAに拾われた身だ。その恩義を返すという意味でも、武器を手にして戦っているのは事実だろうな」
「……」
「だが、戦わされてるとかやらされてるとか。それはけしてねぇよ。今のこの世界に、社会に不満を持ってるのは事実で、それをなんとかしたいという信念は持ってるつもりだ」
そうフキが皆の前で口にし、さらに言葉を続ける。
「私は物心ついたころには親や親戚がいねぇ。気が付いたら養護施設に預けられ、施設を転々として今はDAにいる。身寄りのない子供を欲しがる連中も多い社会だ。施設が目をつけられ人攫いに合いかけたことも何回もある。クソみたいな世の中、クソみたいな現実。親のいない子供なんて理不尽なことに流され続ける人生しかねぇ。そのことに対して、何も思わないやつはいない。その理不尽に対して頼れるものがいないものには力もねぇ、武器もねぇ。信念があったって、きっかけがなければ戦うことすら許されないのが現実よ」
「正直不満ばかりの毎日に対し、本気で諦めたこともあった。そんな時に子供が大量にさらわれる事件がこの街でおこってな、私もその被害を受けた。その時に私を助けてくれた人がいてな。刀を持った小さい女だったが、武器を振るえば大柄の男さえも叩きのめした。力さえあれば、武器さえあれば。誰かを救うこともできる。そんな出来事があったせいで、私の中の理不尽への反抗心がよみがえってな」
「だが結局は力も武器もない天涯孤独の身であることは変わらず。その後も預けられていた施設が解体になって、一緒に暮らしていた家族も同然の連中とも離れ離れさ。それに対し抗うこともできず唯々流れに従うことしかできず。そしてその後はまぁ、なんやかんやあってDAの楠木指令に拾われてリコリスになったわけだ」
「DAのリコリスには私のような目に合ったやつが大勢いる。サクラは父親が蒸発して母親からの虐待で非行に走り、犯罪に加担させられていたところをDAに拾われた。たきなは両親を火事で無くし、唯一の身寄りである姉も犯罪に巻き込まれ殺されて天涯孤独になったところをDAに拾われた」
「戦争があった余波だかなんだかしらねぇが。この国は、社会は間違ってる。国は二つに分かれ、東側と西側は今も敵対して手を取り合えないでいる。差別と貧困、それによって増え続ける行き場を失った子供たち。そんな社会をなんとかしてぇ。その信念をもって私らは武器を手にしてる。けして無理やりやらされてるとかそんなことはねぇよ。私らはDAに、社会の秩序を守る存在として選ばれた兵士だ。力と武器を持つことを許されたことに誇りを持ってる。……らしくなく語りすぎちまったな、納得したか北ノ湖さんよ」
フキが長いこと語った身の上話、そして武器を手にし力を振るうことに対しての信念を口にした。
DAへの恩義ではない。それはけして洗脳などではない。理不尽に対し抗うには、弱者を守るためには信念こそが必要だ。
信念は己に力をくれる。それはいつだったか、フキが恩師としているある人がくれた言葉であった。
法と秩序、それを守り抜きそれをないがしろにする社会の悪を駆逐する。それこそがリコリスである自らに課した存在証明だとフキは語る。
そのフキの言葉に、さきほどまで情けない表情をしていた北ノ湖記者の表情も、真剣みが増していた。
(あれ、北ノ湖さんのこの表情……。これって……)
その北ノ湖記者の真剣な眼差しを見つめ、サクラが何かに気づいたようであった。
そんな中、フキが場の空気が重くなっていることを察してか、こんな注文を北ノ湖記者にする。
「あのよ北ノ湖さんよぉ。ちょっとお願いがあんだけどよぉ。そのだせぇグルグル眼鏡取って素顔見せてくんねぇかな?」
「ふえ!?」
そのフキの咄嗟に出た注文に対し、先ほどの真剣な表情はどこへやら、情けない表情と声が北ノ湖記者から出る。
「こういうのってよ、眼鏡を外したら美人っていうのが相場らしいじゃねぇか。本当なのか確かめたくってよ」
「いいっすねぇ! 眼鏡取ってみてくださいよ北ノ湖さ~ん」
「そ、それはその、恥ずかしいのでぇ……」
フキのその注文にサクラも悪乗りして、北ノ湖記者から眼鏡を奪い取ろうとする。
北ノ湖記者としては、どうにも眼鏡を取れない事情があるらしく必死に眼鏡を死守する。
そのやり取りを見て、たきながため息交じりで北ノ湖記者をかばうように割って入った。
「やめましょうお二人とも。記者さんが困ってますよ」
「んだよこんな時に優等生発言かよたきな。てかノリだけはいいはずのてめぇが珍しくノリが悪いじゃねぇか」
「そうだぞー! 余計なこと言うなよー!」
たきなの意外なノリの悪さに悪態をつくフキとサクラ。
そんな中、たきなが二人を睨みつけ、おもむろに自分の口に人差し指を充てた。
その行為は、口にしてはいけないことを黙っていよう。そういったことを示す動作。
その動作を目にして、サクラが何か感じる物があり、たきなをやじるのをやめる。
そんなやり取りの最中、フキのガラケーに電話がかかってきた。
「もしもし。D組のリコリス第8班か? 確か近くで任務中じゃなかったか?」
『そ、それが現場が大変で! 支給ファースト1人の応援を要請できないかな!?』
と、そちらの現場はなにやら大変なことになっているようであった。
ファーストの支援を要請。それはただごとではないことのようであった。
ファーストリコリスは単独で戦況をひっくり返すことのできる強大な力を有する存在である。その力を借りたいともなれば現場はよっぽど緊迫したものとなっているはず。
確かにこの場所なら、フキかたきなどちらかを応援に出すことができるだろう。だがそうするとこっちの任務が遂行できなくなる恐れがある。
つまり8班を助ける場合、こちらの任務を諦めなければならなくなるのである。8班のリコリスの救出を取るか、自らに与えられた任務の遂行を取るかの2択に迫られてしまった。
こういった現場のトラブルも、リコリスにはつきものである。
「ちっ、どうするよ。ワンチャンこっちの任務は私が抜けても……。いやだめだ、記者がお荷物なのとサクラとたきなでは連携が取れねぇ。かといってたきなが抜けたら戦力が大幅ダウンだ」
「あたしが行くってのはどうすか?」
「ファーストの応援要請だつったろバカが。てめぇはセカンドだろ」
「あ、あたしD組のトップフォースの一角っすよ! ファーストに通ずる実力は持ってるつもりっす!」
「バカ言うなてめぇ! セカンドとファーストには絶対的な差があるのをわかんねぇのか? 実力云々じゃねぇんだよ。多数の部下を生還に導き、いかなる戦況を左右するためにありとあらゆる才能と力。人間を逸脱した『人外の領域』を有する。それがファーストリコリスだ。てめぇにそれがあんのか? あぁ!?」
「う、うぅ……」
そうフキに言い寄られ結果として何も言い返せなくなったサクラ。
そうなると結果としてこの場にいるリコリスは動かせない。だがあっちの状況の一刻を争う事態。
そんな中、たきながとある提案をする。
「いるじゃないですか、ファーストリコリスに匹敵する適任者が。近くにいる……というより、近くにいるかもしれない……。ですけど」
「……あー」
たきなのその言葉を聞いて、フキも思い当たる節があるようであった、
たきなやフキと同格、ファーストリコリスと互角以上にやりあえるこの付近にまだいると思われる人物。そう、千束である。
「確かにあいつが映画館のゴールドパスポートを取りに来たのが今から約10分前。ここら辺から遠くに行っていないとなれば、応援要請に向かわせるのかは可能か。にしても現実的じゃねぇな」
「……」
「どうした北ノ湖さんよ」
「え? いやあの、私もさっきの先生が近くにいるとは限らないんじゃないかなぁ……。なんて」
千束の話が出てからか、なんだか北ノ湖記者が話に加わらないように引っ込んでいるように見えた。
まぁこの状況を北ノ湖記者に言ったところで、記者は蚊帳の外なため会話に交じっても仕方ないっちゃ仕方ないのだが。
「一応電話してみましょう」
「ふえ!?」
「……北ノ湖さん?」
「い、いやなんでも……。ない、です……」
ついつい反応してくる北ノ湖記者にたきなが何かしら思うところがあったようだ。
どうにも千束の話題が出ると、北ノ湖記者が動揺しているようにも感じた。
錦木千束と北ノ湖知佳は全く関係のない、はずである。
「いやあいつオフらしいしやめといたほうがいいんじゃねぇか」
「いえ、こういう時だからこその錦木千束です。もうあいつしかいませんよ」
「今日はずいぶんあいつを推すじゃねぇか。あいつに頼るくらいなら自分が全て解決する。くらいはいつものたきななら言うもんだが……」
確かに普段から千束に対抗意識を抱いているたきならしからぬ発言である。
素直に千束を頼るというのは、いったいどうしたというのか。
「こんな状態で私情に駆られたりなんてさすがにしないですよ。状況を鑑みてこの場合、錦木千束に行ってもらうというのが最も最適だと判断したまでです。違います?」
「ま、まぁそうだがよ」
「……私だって簡単にあいつを認めたくはありませんよ。現にあいつを頼らなければならなくなっている自分が腹立たしくて仕方ありません」
そういつもの悪態をつきつつも、たきなはこう続けた。
「しかしこういう状況でもすぐにかけつけ問題を解決する。錦木千束とはそういう人物、その絶対的な信頼はあるでしょう? それは実績を持って証明されている事実。すなわち本物であるということ。それに頼るほかはないと言ってるんですよ。きっと今あいつを頼れば、いの一番であいつは危機に駆け付ける。私はそう思ってますよ。……何言ってるんだろ、らしくないですね私」
「たき……。井ノ上さん!」
「北ノ湖さん?」
「い、いやぁなんでも……」
なんだかたきなの千束への思いの丈を聞いてか、嬉々とした表情を浮かべ感激している北ノ湖記者。
ここにいない誰かの話なのになにがそんなに面白いのだろうか。その北ノ湖記者の反応に対したきな達は少し不審がる。
「しゃあねえ。話だけしてみるか。一応私たちの、先生だしな」
「そうっすよ! あたしたちの頼れる千束先生っすよ!!」
「この私が生涯で認めた唯一の好敵手ですからね」
リコリスたちの全幅の信頼を得ている偉大なる教師錦木千束。
きっとこの危機的な状況も、あっさりと解決してくれるだろう。きっと、そうに違いない。
そうフキが電話をかけようとしたタイミングで。
「あー! 会社に一度報告の電話入れないとなんだ! ちょっと離れますー」
「またかよ。私らそろそろ動かねぇといけねぇから早く帰って来いよ。でないと置いてくからな」
そう言って北ノ湖記者はまたも会社に電話を入れるべくその場から離れる。
なんか先ほども似たようなタイミングで同じようなことがあったような気もするが、きっと気のせいだろう。
そしてフキが千束に電話をかけると。すぐさま電話が繋がる。
「おう千束。ちょっと相談があるんだg」
「は~い! 皆が愛するD組担任千束先生で~す! ものすごく困ってることがあるっぽいねぇ~? なんでも言ってごらんなさいすぐにでも解決してあげます!!」
「……なんかテンションおかしくねぇか? その、今この近くで」
「近くにいるよ! 近くでなんか困ってることでもあんの!? ねぇ~、あるなら遠慮なく私を頼ってくれてもいいんだぜい!」
「気持ち悪……。てかなんか察しが良すぎねぇか? この近くで8班の現場が大変なことになってるらしくてな」
「わかった! ファーストリコリス相当の応援要請が必要なんだね! 私ファーストにも負けないくらい強いスーパー一般人だからね! すぐにでもかけつけてあっさり解決しちゃうよ~!!」
「……よろしく頼むわ」
そう言って千束は一方的に電話を切る。
内容の全てを説明する必要もなく、千束はなんか全てを理解した上で快く応援要請を快諾。
その流れがあまりにも出来すぎており、気味悪さすら抱くほどであった。
「……あいつなんか今日変じゃねぇか? まるで私らがこの電話をかけてくるのを知ってたかのような対応だったぞ?」
「案外近くにいて聞いてたんじゃないですか?」
フキが抱いた疑問に対したきなが何かしら含みがありそうな声色でそう答えた。
千束が近くで聞いていたとするなら本人が歓喜しそうな会話だっただけに、その可能性も見えてきそうなものである。
そのたきなの一言に、フキが鼻で笑いながら言葉を返した。
「まさかよ。私らの取材が気になって奥の方で隠れて見守ってたってか? そういうことするやつか? あいつが」
「……?」
「……?」
一瞬よくわからない静寂が流れる。フキのが抱いている現状の認識とたきなが抱いている現状の認識に誤差が生じているようにも思えるようなかみ合わなさ。
そしてそのやり取りに対しよくわかっておらず会話に入れていないサクラ。
そこから少しばかり時間が経つと、8班から現状報告の電話がフキにかかってくる。
『もしもし! なんか千束先生が韋駄天のように現れて単独で無双してあっさりと解決しちゃったよ! 高校教師、戦場の危機に現れチートスキルで無双し生徒をお助けする件!!』
「新しいライトノベルのタイトルかなにかか?」
なんと電話してから数分もしないうちに、あっさりと現状の危機を解決してしまった偉大なる教師錦木千束。
やはりというべきか、実績がものを言うというか。当たり前すぎてやっぱりたきなも少しばかり苦い顔をしていた。
だがこれで8班の問題は解決した。あとは自分たちの任務だ。
といったところで、会社に電話すると席を離れた北ノ湖記者がまだ戻ってこない。
「そろそろカチコミに行くぞ。と思ったが……。あのお荷物記者が戻ってこねぇし! もう置いてくぞ!!」
「そうっすよ~。置いていきましょ~」
「そうですね。取材はここまでということで」
といった会話を三人がし任務へ向けて動こうとした時。
急いだ様子で会社に電話をしに行った北ノ湖記者が戻ってきた。
「ぜ~! ぜぇ~!! お、お待たせしましうへぇ!! ひぃ~はぁ~!! 待たせてすいませんでしたぁ~」
「お前なんでそんな疲れてんの?」
ただ電話をしに行ったはずの北ノ湖記者が、まるで激しい戦場で戦ってきたかのように疲弊して3人の元に戻ってきた。
ずいぶんな疲れようで、これから激しい戦火に赴くというのに大丈夫なのだろうか。
「行きましょうリコリスの皆さん! いざ薬物売買組織壊滅へ!!」
「……」
こうして物語は最終局面へ。
果たしてこの物語の結末は、そして謎の記者の正体とは。
もうちょっとだけ、話は続くのよ。
本当は前編後編で終わらせる予定でしたが書いてみたら思いのほか長くなりそうだったので3つに分けます。すいませぬ。