リコリス・リコイル~3年D組の千束先生   作:トッシー00

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取材編の後編となります。


短編~リコリスの取材がやりたくて(後編)

 喫茶店を出て、目的地は敵組織が潜むアジトへ。

 取材もいよいよ佳境、ミッションは敵組織の壊滅。

 リコリスの取材のために派遣されてきた記者、北ノ湖知佳は果たして無事生還できるのだろうか。

 

 アジトへ着き先にフキとサクラが正面から仕掛け。

 敵がそちらに集中している間に、残ったたきなと北ノ湖記者は裏口へとやってくる。

 

「と、とうとう凶悪組織の壊滅へと動くんですね。ドキドキ……」

「北ノ湖さん、一応ここから先は弾丸飛び交う戦場になります。ですのでさすがに丸腰とはいきませんので……」

 

 そうたきなは北ノ湖記者にあるものを渡そうとあるものを取り出す。

 

「ま、まさか拳銃ですか? そんな、私は戦ったことなんてないただのか弱い一般人。そんな私が拳銃なんて(ハラハラ)」

 

 と、文面だけ読めば拳銃を手にすることに動揺する一般人のそれであるが、どこかしら拳銃を渡されることに対して期待感を抱いているようにも見える北ノ湖記者。

 そんな北ノ湖記者のなんかわざとらしい反応を目にしてたきなは涼しい顔をしており。

 そして取り出した武器を、北ノ湖記者に手渡した。

 

「……金属バット?」

 

 渡されたものは金属バット。ぶっちゃけ武器ですらない。

 だが振り回せばもちろん危ないものだし、敵も脅威だと感じるものでもある。

 しかし北ノ湖記者は金属バットに対して若干不満そうな表情を浮かべる。てっきり銃を渡されるものだとどこかしら期待していたようである。

 

「素人さんに拳銃なんて使わせられるわけないでしょう。危なくなったら振り回して危険に対処してください」

「は、はーい」

 

 たきなにそう言われ、やはりどこかがっかりしたようにそう返事をする北ノ湖記者。

 

「さてと、裏口はここですね。この扉の先は戦場です。覚悟はよろしいですね?」

「だ、大丈夫です。いざという時は、井ノ上さんが助けてくれますもんね?」

「……」

「井ノ上さん?」

 

 いざという時はたきなが北ノ湖記者を助けてくれる。

 そのようなことを期待してそう北ノ湖記者がたきなに問うと、たきなは無言で返す。大丈夫なのだろうか。

 

「して、こういった場合は扉の近くに敵が待ち構えていることが多いです。こちらが姿を現したらすぐに応戦できるように陣形を組めるように」

 

 そう説明をしながら、説明と並行してたきなは扉を思いきり蹴破る。

 

 バン!!

 

「敵が来たぞ! 撃て!!」

 

 と、たきなが言った通りの展開がすぐさま起こり、蹴破った扉の先に敵が銃を向け今にも発砲しようとしてくる。

 その状況を目にしても、たきなは動揺することなく話を続ける。

 

「こうなった場合を想定しておき、相手が動くより先にこちらが策を講じます。それが戦術の基本です」

「へ?」

 

 そう説明しながらたきなは、北ノ湖記者の服に襟をつかみ。

 あろうことか、銃を持った敵の方へと北ノ湖記者をぶん投げ、中央にいた男に北ノ湖記者をぶつけ体制を崩させる。

 

「な、なんだと!?」

 

 そのたきなの奇策に動揺する男たち。

 動揺を誘発し、その出来た一瞬の隙をたきなは見逃さずに冷徹に銃弾を男たちに発砲。

 戦場に置いて、一瞬の動揺が己が命を終わらせることなど茶飯事。

 状況を支配するものが戦場を支配するとはいったもので、それは刹那、瞬間の時の流れに起こる戦況の変化。

 その一瞬に勝ちの目を見いだせる物こそが、戦場の勝者となれるのである。

 銃で撃たれた両端の男たちは、一発の弾丸に倒れ再起不能。

 その状況を認識した時点でもう戦況はたきなの掌の上、他の連中もたきなの弾丸に倒れる。

 そして最後の一人、北ノ湖記者の身体にぶつかり体制を崩した男に対し、たきなはなんと北ノ湖記者ごと弾を打ち抜こうとするではないか。

 放たれる弾丸。それに反応して北ノ湖記者は弾丸を避ける。その結果当然、後ろにいた男に弾丸が命中。

 あっという間に開口一番に攻めてきた敵を殲滅するたきな。間一髪難を逃れる北ノ湖記者。

 

「さて、道が開いたので突入しますか」

「ちょっと井ノ上さん!? さっきさりげなく私ごと敵に弾丸撃ちませんでした!? ギリギリ避けられたからよかったものの当たったら大変なことになってましたよ!?」

「余計な話をしてる暇はありません、行きますよ北ノ湖さん」

「いや無視ーーー!?」

 

 とても北ノ湖記者からしたら無視されてよい内容ではなかったが、たきなは北ノ湖記者を無視してどんどん先へと行ってしまう。

 そしてアジトの先へとドンドン進んでいく二人。道中銃や刃物を手にした屈強な男たちが出迎えたがお構いなし。

 銃弾が飛び交おうが男たちが向かってこようが、たきながそれらを軽くあしらい、敵を一層していく。

 彼女にとって飛んでくる銃弾など怖くはない。屈強な男たちにも力でも負けはしない。

 彼女たちリコリスはDAによって強化手術を受けた強化兵士。身体能力、筋力、精神力。どれをとっても人間を凌駕した存在である。

 その中でも井ノ上たきなはファーストリコリス。人を超えた兵士であるリコリスのさらに上位の存在であり、人の領域から外れた。人外とも評される怪物。

 人間が武器を装備した程度では、武術や技術を極めた程度では。彼女には歯が立つはずもないのである。

 

「あいては女子供一人だぞ! なんで勝てねぇ!?」

「これがリコリス。DAって組織が人型兵器を運用してるって噂は本当のようだな。あのガキは人間だと思うな、熊か害獣だと思え!!」

 

 そう組織の男たちが身構えるが、たきなは次々と敵を圧倒していく。

 そんな中、たきなの動きを少しでも抑制しようと、標的を北ノ湖記者に定める。そして……。

 

「おいリコリスのガキ! こっちを見ろ!」

 

 そう男たちはたきなに向かって大声で叫ぶ。

 たきながその方向へと目を向けると。

 男が北ノ湖記者を捉え、首元にナイフを突きつけ人質に取っていた。

 

「す、すいません井ノ上さ~ん。捕まってしまいましたひぃ!」

 

 あっけなく捕まってしまった北ノ湖記者。

 人質を取りたきなが手出しできなくさせる作戦だろうか。

 このままでは北ノ湖記者が敵の手にかかってしまう。守護すべき一般人を、守るという使命を果たせなくなってしまう。

 たきなはこの手にかかり、攻撃の手を緩めるはず。そう誰もが思ったのだが。

 

「……こっち忙しくて手が離せません。自分で何とかしてください」

「なんとかーーー!?」

 

 なんと、たきなはあっさりと北ノ湖記者を見捨てたのである。

 これには敵の男も唖然とする。たきなは敵の組織を壊滅させるためならば、北ノ湖記者の命などもはやどうでも良いのだろう。

 見捨てられてしまった北ノ湖記者。そして敵にとっては、北ノ湖記者に人質としての価値がなくなってしまった。

 

「ちっ! リコリスってのは心まで兵器に改造されてんのか? もはや一般人ですらどうでもいいってか?」

 

 これでは戦況は変わらずたきなが優位なまま。

 そしてあっさりと見捨てられた北ノ湖記者はなんとかしようと暴れる。

 

「ひえ~ん!! 助けて~!!」

「おい暴れんなこの女! ったく戦場だってのに情けなく喚きやがって! やかましいと撃ち殺すぞ!!」

 

 そう情けなく喚き散らす北ノ湖記者。そんな北ノ湖記者に銃を向け脅す男。

 北ノ湖記者にとって絶体絶命のやり取りの中、事態が大きく動く出来事が起こる。

 なんと北ノ湖記者は、ズボンのポケットから取り出したボールペンを、自身を捉えている男の太ももに思い切りぶっ刺したのである。

 

「い、痛えぇぇぇぇぇ!!」

 

 その一撃が、一瞬の隙を生んだ。

 北ノ湖記者はその隙に身を捩り男の手から離れる。

 その北ノ湖記者の抵抗を受け、激高した男が北ノ湖記者を打ち殺そうとする。

 

「ざけんな女! 死ねぇぇぇぇ!!」

「ひ~!!」

 

 と、銃弾が放たれる寸前で、北ノ湖記者が銃を持っている男の金的に思い切り蹴りをブチかましたのであった。

 これにより悶絶し、男は銃を撃つ前にその場から崩れ落ちた。

 そして床に落とした拳銃を、北ノ湖記者が蹴り飛ばし。その流れで落とした金属バットを回収。

 その後、北ノ湖記者は男たちに捕まらんとするためやけくそに金属バットを振り回し始めた。

 

「こ、来ないでくださ~い!!」

「あ、危ねぇ危ねぇ!! さすがに金属バットで殴られたらやべぇ!! 記者の女を黙らせろ!!」

 

 男たちはそう言って北ノ湖記者に銃を向け、拳銃を数発発砲。

 ここから、北ノ湖記者は次々とミラクルを起こし始めた。

 なんと金属バットを振り回し、飛んでくる銃弾を次々とバットではじき落とすのである。

 さっさと仕留めたいのに中々仕留めることができない。相手は戦場も知らない素人のただの一般人の記者だ。

 金属バットを闇雲に振り回しているだけの一般人の女を、拳銃で仕留めることができないという奇妙な状況に陥る男たち。

 

「なんだと! ま、まぐれだまぐれ!!」

 

 金属バットを振り回している以上近寄ることはできない。

 だがどれだけ銃を撃っても、北ノ湖記者は全弾金属バットではじき落としてしまう。

 人間必死になれば金属バット1本で銃に立ち向かえるものなのだろうか。当然、そんなわけはないのである。

 一人、この奇妙な状況を冷静に分析する男が奥の方にいた。そう、この麻薬密売組織のリーダーである。

 リーダーはあることに気づいたのである。

 

(一見この記者、ただ金属バットを振り回しているだけのように見えるが。飛んでくる弾丸を捕らえたうえではじき落としてやがる。つまりこの記者、動体視力が人間離れしてやがる)

 

 そう、リーダー格の男は気づいてしまった。北ノ湖記者が持ちうる人外じみた反射神経、そして動体視力を。

 思えば裏口での出来事、北ノ湖記者はたまたまたきなが放った弾丸を避けたが。

 弾丸を避けるということは銃を発射する動作と飛んでくる弾丸に対する動体視力が無いと無理。そう、あれは『たまたまではなかった』のである。

 北ノ湖知佳は、たきなが放った弾丸を動体視力と反射神経で意図して避けたのである。

 そして現状金属バットで飛んでくる弾丸の数々も、たまたまバットを振り回したらはじき落とせているのではなく、一発一発を動体視力ではじき落としているのである。

 行動と言動と本人のキャラで誤認してしまいそうだが、その裏に隠された実力の高さ。そう、北ノ湖知佳は――。

 

「……陰の実力者、というやつか」

 

 リーダー格の男は認識を改める。

 この状況に置いて、真に気を付けなければならないのは井ノ上たきなではなく、北ノ湖知佳の方なのであった。

 ただでさえ人外じみた戦闘能力を持つたきなと、それに匹敵するレベルでやばいことをしている北ノ湖記者。

 ならばここは、不意打ちであろうと仕留めなければならない。男は銃を構えた。

 北ノ湖記者が見えていない背後、闇討ちだまし討ち上等。

 

「あんたとは正面切って戦ってみたかったが、そんな余裕はないんでね。死んでくれ記者さん」

 

 そう男が銃を撃とうとした瞬間。

 先ほどまで情けない表情しか浮かべていなかった北ノ湖記者が、背後の男の方へ振り向き男を認識する。

 その表情は、一瞬ではあるが被っていた仮面が剥がれ落た。戦場に置いて敵を捕らえ殲滅する狩人の表情。

 その目線を一線に浴び、男は本能で戦慄した。戦慄したことで生まれた刹那、その隙に北ノ湖記者は金属バットを男の金的目掛けて投擲。

 そして男の金的に、金属バットが直撃した。

 

「あがっ……」

 

 男ならわかるだろう。想像できるが想像をはるかに超える表現しえないその激痛。

 リーダー格の男はそれにより気絶。戦場において、大将が討ち取られた集団は一気に弱体化する。

 士気が取れなくなった集団は、あとは敗北の一途を辿るだけである。

 こうしてたきなと北ノ湖記者を襲う連中が全滅。北ノ湖記者はなんとかその危機的状況を脱することができたのである。

 心身ともに疲弊した北ノ湖記者の所に、たきなが慌てた様子で駆け付ける。

 

「大丈夫でしたか北ノ湖さん!」

「はぁ……。はぁ……」

「よ、よかった……。必死に助けようとしたんですが敵に囲まれて動けなくて。本当、あなたを守ると誓ったのに、もし守れなかったらと思うと、もし……。あなたに何かあったらどうしたら……(涙)」

「こいつ、ぶん殴るぞ……」

「北ノ湖さん?」

「……」

 

 北ノ湖記者を心配し、無事だったことに安堵しほろりと涙まで見せたたきな。

 慌てふためいた表情と言動のわりに、はなっから北ノ湖記者を守る気なんてサラサラなかったような気もしなくもない。

 どこかしらというか、あからさますぎるほどにわざとらしい安い演技をするたきなを目にして、北ノ湖記者もつい表に出してはいけないような表情と言動が出てしまったが自分のキャラを死守するため、たきなを殴りたい気持ちを必死で抑えてその拳をひっこめた。

 その後正面から突入していたフキたちと合流、組織の壊滅を確認しアジトから外へ出る。

 こうして取材は全て終了、長かった一日も終わりとなる。

 

「この度は取材を受けていただきありがとうございました~(ペコペコ)」

 

 あれほどの激戦があった後だというのに、最後まで北ノ湖記者はのほほんとした雰囲気を崩さずに3人に頭を下げる。

 そんな彼女を見て、フキは柔和な表情を浮かべ、優しい口調で一言送る。

 

「まぁなんだ。あんたが無事でよかったよ。戦ってる最中も、心配したんだぞ」

「は、春川さん! あれだけ大変な状況でも。わ、私の心配を!?(感激)」

「あぁ、何せ私は優しいからな。私は優しい(※ここ強調)からな」

(怖いって思われてたの気にしてたのかな……)

 

 フキはフキなりに、北ノ湖記者に怖がられてたのを結構気にしていたようであった。

 意外とナイーブな一面があるところに、たきなは内心意外と感じていたようだが表には出さず心のふちに留めた。

 そして北ノ湖記者はトテトテと速足で会社へと戻っていったのであった。

 

「さてと、私らも解散するか」

 

 そうフキが両手を頭の後ろに組んで他の二人に言う。

 だが、たきなにはまだ、やることがあるようで。

 

「……まぁ、まだ終わってはいないんでしょうけど、ね」

 

 ――数時間後。

 場所は北ノ湖記者が勤務している会社へ。

 

「へんしゅうちょ~う。リコリスの取材終わりました~」

「おうご苦労。しかし本当に学生に武器を持たせて戦わせている組織があるとはな。我が社にコンタクトを取ってきた連中の話は本当だったようだ。このネタは世間の関心を集めるのに使える。行き場を失った少女たちへの同情、そして戦わせているやつらへのバッシング。な~に、こちらで好きなように捏造すればシナリオは都合よくできるさ。よくやった北ノ湖」

「……」

「北ノ湖? きたの……うみ?」

 

 編集長と呼ばれる男は、北ノ湖記者を目にし言葉を詰まらせる。

 そして北ノ湖記者は、リコリスの前では頑なに外そうとしなかった瓶底眼鏡を外す。

 その瞬間、男は我に返ったように、こう言葉を吐いた。

 

「きたのうみって……。誰だ?」

 

 その瞬間、フキたちとは別に動いていた他のリコリスの部隊が会社へと突入し、あっという間に場を掌握。

 そしてその場にいた会社の人間すべてを拘束、連行して行った。

 その後、北ノ湖記者の元に1本の電話がかかってくる。

 

『ご苦労。我々の組織を嗅ぎまわっていた連中は全てこちらで抑えた。全ては計画通りだ、北ノ湖知佳。――いや』

 

 ―――それはこの任務の数日前。

 取材が来るという通達をフキに行うそのさらに前。

 楠木の元へDA本部より、組織について嗅ぎまわっている連中がメディアと組んでいるということ、その連中をあぶり出すための作戦の立案の依頼がきたのであった。

 薬物売買組織壊滅の任務は、その連中とコンタクトを取るためのフェイクの任務。実際に先々に行うはずだった任務を本筋の任務に組み込むダブルミッションであった。

 こちらにコンタクトを取ろうとしている。組織の内情を調べているメディアの目途は立っていたが、捕えて吐かせるための実際の証拠が足りていない。

 そこでメディア側の内情を把握しその信頼を得るためにDAのエージェントをスパとして送り込み、任務成功の基盤を整えようと策を練る楠木。

 そのスパイとしての白羽の矢が立った人物が、先ほどの北ノ湖知佳。いや、ここまで来たらもうその名は必要なかろう。読者の方々も薄々その正体には気づいているであろう。

 

 ――そう、"錦木千束"である。

 

「錦木先生。頼みたい仕事があるんですがねぇ~」

「え~。また書類追加ですか楠木教頭~。ようやく仕事もひと段落ついたところですよ、もう飽きましたよ書類仕事。もっとこう私の心が浮き立つようなこう、スペクタクル満載な身体を動かす仕事とかありませんか~?」

 

 千束は文系というよりもどちらかといえば体育会系である。

 だが身体を動かす仕事、つまりは戦闘を介する仕事というならば大体リコリスがやるものである。

 なので千束は基本的には裏方、表上の教師の仕事、DAの構成員としては書類仕事や作戦の立案、あとは楠木にとって都合の良い雑用仕事(嫌がらせ込み)であるため、いよいよフラストレーションが溜まって身体が鈍っていたのであった。

 

「あら乗り気じゃありませんか。ならば仕方ありませんね。今回頼もうとしたのは敵地への"潜入任務"だったのですが別の部署の構成員に依頼をかけましょうk」

「潜入任務!? なにそれめっちゃ面白い!! 私やりたいやりたーい!!」

「……」

 

 楠木自身、多分この話を出せば千束は100%乗ってくるのが分かり切っていたのか、あえて遠回しな言い方をしたのであった。

 千束としては変装は得意分野。敵側に紛れ込むなど造作もない。事実10年前の混沌としていた戦乱の時代でも、百面相かと言わせるくらいに様々な顔や身分を使い分け敵のチームに潜入したりもしていたらしい。

 

「一応仕事だから、遊びじゃないからな。まぁ二つ返事で了承してくれたところで……」

 

 そして楠木は現在DAの周りで起こっている事情を千束に説明。

 組織を嗅ぎまわっている連中、手を組んでいるメディアの存在。

 それらの実態をあぶり出すため千束を送り込み内部から情報を収集。

 その後はDAに取材の依頼をする。それを合図としてリコリスを接触させ敵対勢力の殲滅へと動く。

 

「これが今回の任務の詳細だ。というわけで互いの状況を把握しあうために一度フキとたきなを呼び作戦会議を行いたいのだが」

「ちょっとよろしいでしょうか!?」

 

 そう楠木が作戦会議へと入ろうとした際に、千束が勢いよく待ったをかけた。

 楠木にはそれが嫌な予感か、そうでなくてもまたろくでもないことを言いだすんだろうなぁとしれっとした表情で返した。

 

「……なんですか?」

「今回の任務、私が敵側に潜入していることや別の人間を演じているという情報を秘匿した状態で作戦を実行していただきたい!」

「……それに何の意味が?」

 

 千束のまたノリと勢いに任せたようなバカみたいな意見に、楠木はため息交じりでそう聞き返した。

 千束が言っているのは。潜入しているという実情をリコリス側に隠したまま作戦を実行したいという、あきらかに作戦に対してノイズにしかならないような意見。

 だが意見を述べるということは、真面目かくだらないかは置いておき理由もあるだろうから、一応聞いておかないと余計にめんどくさくなるので楠木はしぶしぶ千束の意見を聞くことに。

 

「な~に。敵を騙すならばまずは味方からというじゃないですか。潜入する敵側からすれば、表は地味な女記者、だが裏はDAの凄腕教師。敵にはもちろん味方ですらその正体に気づくことはない。あの謎の記者は何者だったんだ? 全てにおいてその正体を掴ませない謎の女記者。果たしてその正体は? み・た・い・な! 陰に潜み陰を狩る実力者。そう、陰の実力者をやりたい! そうしたい!!」

「……」

 

 それは意見というかなんというか、千束が本作戦でただただやりたい願望であった。

 たかが一人のやりたいだけのわがままな自由な発想に、当然指令としてはきっぱりとダメであると叱咤しなければならないところである。

 だが、楠木的には当たり前のようにダメなものはダメと言うには燻る実情もあった。

 ここ最近千束には仕事をあれやこれやと押し付けすぎていたのだ。主に書類仕事、一般的に考えればブラック企業の上司と部下だ。

 楠木も組織の指令でありつつも人としての良心もある。今回の作戦で潜入任務は少しばかり千束のここ最近のフラストレーションを無くす目的もあった。

 潜入任務中は任務と並行するならばそれ以外は休暇を行っても良いとも考えていた。千束に対してのちょっとしたご褒美も兼ねたもの、そこにまた縛りを作るのもなんだかと楠木は考えたのだ。

 どうせ大したヘマはしないだろう。ならばもういっそのこと溜めたうっぷんを晴らすことも考えて好きにさせてしまおうかなと楠木は考えた。

 

「……もう好きにしてください」

「え? てっきり怒られるのかと……」

「怒られることをわざわざ言うんじゃない。どうせあなたのことだから上手くやるんでしょう。陰の実力者だがなんだか知りませんが任務を完璧にこなすならもうそれでいい」

「やった! めずらしく教頭太っ腹ですね!」

「……その、弱そうに見えて実は強いという要素は。私も、嫌いではない」

「でしょ!? じゃあ早速キャラ作りから始めないと!」

「名前はどうします? あなた苗字がお相撲さんみたいだからその要素から取って、西の木(錦木)を連想させて北の海(北ノ湖)というのはどうです? こういうのは"匂わせ"が大事です」

「も~うわかってるじゃないですか教頭! 名前は知佳にしましょう! なんとなく私っぽい!! 設定は天真爛漫な私と対比しておどおどして根暗な記者というもので!」

 

 といった感じで後半の方は千束はおろか楠木まで楽しくなってしまったらしく大事な作戦なことは二の次で千束の潜入要素を作ることにずっぽりハマってしまい。

 そしてその後はフキたちにはただの取材が来るということだけ伝え今回の取材に至る。

 メディア側からすれば取材と称してDAと上手いこと接触。あとは送り込んだ記者がDAの情報を持ってくるだけ。

 その記者がDA側から送り込まれたスパイとも知らずに。

 千束はメディア側に潜入した際にお得意の神の眼を使いメディア側の主要人物の大半に催眠をかけ、北ノ湖知佳という人物があたかも最初からいたかのように誤認させる。

 そのままメディア側の動きを調べ上げ、程の良いところで取材を取り付け結果フキたちの取材を囮にメディア本体を別動隊が叩く。

 そしてその過程で、北ノ湖知佳こと錦木千束の正体は、誰にもバレていない。謎は謎のまま、黒は黒、灰は灰のまま綺麗に終わるのであった。

 

 ……。

 

 いや、どう考えてもバレてもおかしくないような要素がちらほらあったような……。

 

「任務は完了。そして私の正体はバレていない。全てにおいて私の掌の上。う~ん、こうも上手くいきすぎると逆につまらなく感じちゃうなぁ」

 

 肝心の千束本人はというと、自画自賛でフキたちに絶対にバレていないと豪語している。

 本当にバレてないの? なんかすごい怪しかったよ?

 

「この完璧な変装技術に自分でも惚れ惚れしちゃうなぁ~。あぁ、北ノ湖知佳とは何者なのか、それを明かすことなく謎の記者は静かに姿を消すのだった(キラッ)」

 

 ……。

 錦木千束は、完璧に今回の任務をこなしたのだった!!(やけくそ)。

 その完璧すぎるといえる所作と振舞いで、味方にも敵にもその正体を掴ませることなく、北ノ湖知佳という架空の人物を演じきったのであった!!(やけくそ)。

 

「そうだろうそうだろう!! まさに今の私は、誰にもその強さを感づかれることのない陰の実力者!! これにて任務完了、北ノ湖知佳はクールに去るぜ……」

 

 こうして満足した様子で千束が北ノ湖知佳の姿のままその場から離れようとした。その時だった。

 

 ガチャ……。

 

 振り返った千束いや、北ノ湖のおでこに固い何かが当てられた。

 

「そのまま動くな」

(な!?)

 

 そして銃を向けた人物が北ノ湖にそう言い放つ。

 それは先ほど取材を終えて解散し学校に戻ったはずの井ノ上たきなであった。

 どういうわけか、たきなが北ノ湖に銃を突きつけているのであった。

 動揺しつつ、千束は正体がバレるわけにもいかないので(なぜ?)、北ノ湖知佳を演じつつ言葉を返した。

 

「い、井ノ上しゃん!? こ、これはどういうことでしゅか!?」

「DA本部より我々の内情を調べているメディアがあるという報告を受けています。そしてそのメディアは今回の取材で我々に接近してきた連中、そしてその取材を担当した記者。それはあなたですね?」

 

 そう、千束は味方にも正体を隠す架空の人物を演じるということを楽しんでいた結果、初歩的なミスを犯していた。

 敵側に潜入していることを味方に知らせていないということは、それはそのまま潜入している本人が"敵側の人物のまま作戦が進んでいる"ということである。

 これでは正体がバレるとか正体を隠したまま任務を行うという以前に、潜入している味方側の自分がそのまま排除対象になるだけ。ていうか考えればわかることなのだが。

 こうなった場合、真っ先に潜入していたことを明かせばよいのだが。千束は正体がバレないままに任務を終わらせたいから正体を打ち明けることを頑なに拒み続ける(だからなぜ?)。

 

「わ、私は怪しくないです!」

 

 だから怪しいとかそういう話ではなく……。

 

「怪しい人間は決まって自分は怪しくないと言うんですよ。ってことでさっさとくたばってくれませんか? 北ノ湖さん?」

(か、完全にこいつ私を疑っている。どうするこのまま上手く撒いて隙を突いて錦木千束に戻るか? いやだめだそんなことをしたらたきなさんたちが北ノ湖知佳という存在しない人物を排除するという事態になって大事になってしまう。こうなった場合どう収拾つけていいかわからなくなる(※正体を明かせば良いだけ)。だが、正体を明かすわけにはいかない!(※だからなぜ!?) )

 

 もう完全にリコリスの排除対象となってしまった北ノ湖知佳。

 観念して作戦の詳細と自分の正体を明かせば良いだけの話なのだが。千束は、絶対にそうしようとしない。

 たきなはそんな北ノ湖を冷めた目で見つめている。

 ……大体の読者は感じているだろう、たきなはそう、"理解ってる側"の人間であることを。

 

「あわわ! 私はあなたたちの内情を調べろなんて言われてないんです! 私は無実! 許してぇ~」

「……」

 

 どうにか自分が怪しくないことをたきなに説明しようとする北ノ湖。

 もうなんというか、たきなは色々とめんどくさくなっており。

 頭をぼりぼりかいて、次第に苦い表情を浮かべ始め。

 最終的には北ノ湖の眼鏡を掴み、そしてたきなはそれをポイっと投げ捨てた。

 

「あ、あーーーーーーー!?」

 

 特徴的なグルグルの瓶底眼鏡がなくなると、素顔は当たり前だが千束である。

 というかよく眼鏡だけで正体を隠そうと思ったなこの女は。

 

「もうあんたの茶番に付き合うのもめんどくさくなってきました。何をやってるんですか先生」

「ふえ!? ば、バカな!? 私の正体がたきなさんにはバレていたというのか!?」

「あーなんかすっごい腹が立ってきたんですけどー。錦木北ノ湖関係なくあんたを打ち殺しても良いですか?」

「わーわー! 待て待てわかったからその物騒なものを下げて!」

 

 ものすごく千束にバカにされた感じがしてたきなはつい千束を銃で撃とうとする。

 それをなんとか説得して辞めさせる千束。

 そう、たきなはとっくの昔に、北ノ湖知佳が千束であることを見抜いていたのである。

 

「わ、私の変装は完璧だったはず。ど、どこでバレた!?」

「最初に北ノ湖記者に会った時には」

「なぜだ!?」

「まぁその、匂いで」

「匂い!?」

 

 なんというか意味深なたきなのその発言を受けて、千束が色々と自分の匂いを気にし始める。

 これは流石に誤解される言い方をしてしまったかと、たきなが少し恥ずかしがるようなそぶりを受けて訂正する。

 

「いやそういうんじゃないですよ。あなたの普段から漂う人ならざる雰囲気、匂いで分かるんですよ。凄みって言ったらあなた付けあがるからそういう言い方はしませんけど、私もあなたの同類なんでわかるんですよ、人ならざる匂い」

「……」

「やめてくださいよその人を気味悪がるような目で見るの……。というかそれ以前に特徴的な白髪は隠してないし、普段から大事そうにつけてる赤いリボンはさすがに外したようですが、格好は普段しなさそうなエスニックなファッション。それだけで別人になったつもりですか? 髪の色なんとかせえ髪の色。瓶底眼鏡で素顔隠して満足してんじゃないですよ」

 

 なんというか。たきなが言う通り千束は自身の正体を隠すにしてはあまりにもおざなりなものだったとのこと。

 だがたきなも千束の意図を組んでか(というかバレてないようにふるまった方が面白かったから)その場では指摘せずに他の二人にも正体が千束だとは伝えていない。

 あとは道中正体に気づいたうえで千束に無理難題なことを仕掛けたような気もしたが、千束自身は自分の正体がバレていないと本気で信じていたためうまいこと無理難題を突破していた。

 

「だから君、敵のアジトで私を雑に扱ったり私が敵に捕まっていても無視したんだな? なんちゅう無責任な奴だと内心悲しんだぞ」

「当たり前でしょ。中身が千束先生の記者をわざわざ助ける必要が無い、どうあなたが切り抜けるのか内心楽しみでしたよ。というか普通の一般の記者が銃弾を金属バットで打ち落とすか? 無理があるでしょ、それでよく正体がバレてないだなんて自信満々でいられるんですか? あなたはバカなんですか?」

「う、うぐぐ……」

 

 これに関しては全部たきなの言う通りである。バカだと言われても千束は文句の一つも返せない。

 恰好から所作に至るまで、ぶっちゃけバレバレとしか思えない千束の所業の数々。

 普通の記者は悪漢を相手にまぐれでも傷一つ負わずにやりすごすことなどまずできないのである。そこに関しては千束の価値観の問題であった。

 

「おーいたきなーーー!」

 

 といった会話をしていたら、フキとサクラがこちらに向かってきた。

 

「北ノ湖はどこにいんだよ! あいつやっぱ私らの内情を探ってた敵の連中の一人だったぞ!?」

「……北ノ湖ここにいますよ?」

「あん!? って千束じゃねえか? なんでお前北ノ湖と同じ格好してんだよ?」

 

 ……?

 

「フキさん! 北ノ湖は千束先生なんっすよ!」

「あん!? 言ってる意味が分かんねぇよ!!」

「……」

 

 どうやら会話の内容的に、サクラは北ノ湖が千束であることに気づいているようである。

 だがフキは。なにやら嫌な予感がしてきた。

 そのフキの反応を見て、たきなは苦々しい表情を浮かべている。

 

「……春川さんいいですか? 今回千束先生は敵側に潜入していたんですよ。北ノ湖知佳という架空の人物を演じて」

「うん? ってことは……。北ノ湖知佳は、錦木千束ってことか?」

((だからさっきからそう言ってるでしょ!))

 

 フキのそのとんでもない発言に対してたきなとサクラは内心ツッコミを入れる。

 ようやくフキは状況を理解し始めたらしい。

 つまりそう、そうことである。

 そのフキの反応を見て、千束がフキに尋ねる。

 

「フキさん、私が北ノ湖知佳だって気づいてなかったの?」

「あぁ、全然気づかなかったわ。やっぱお前の変装技術ってすげぇんだな」

((なんで気づかん!?))

 

 なんということか、フキだけは、あの場で北ノ湖知佳が千束であることに一切気づいていなかったのである。

 普段バカやってるサクラでさえ気づいていたというのに(ちなみにサクラは喫茶店での取材中の北ノ湖の表情で気が付いた)。

 天然なのか純粋なのか、ただ一人だけすっかりと騙され続けていたフキ。そのフキに対して内心驚愕していた。

 

「ほら!? 私の振舞いに一切のボロなんてなかったんだって!」

「おぉ、お前だって気づく様子は一切ないし、おかしいところも全くなかったぞ。すげぇなお前」

((おかしいとこあっただろ色々と!!))

 

 これに関しては千束も鼻が高かった。

 純粋に騙されてくれる生徒がいてくれて千束もご満悦。

 だがたきなとサクラ的には同じリコリスとしてこんなことに騙されてしまったフキに内心あきれ果ててしまっていた。

 こうしてリコリスの取材、そして内情を探っているメディア排除の任務は幕を閉じた。

 綺麗に終わったと言えるのか、千束の変装技術とフキのリコリスとしての格がだいぶ落ちたような気がするが、終わりよければ全て良しなのであった。

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