―――ここはとある地下。
周りはタイルの壁でおおわれており、薄暗い明りだけがともる。
見渡すと出口と思われる扉はあるが、どうやら鍵がかかっているようだ。
そんな殺風景な地下に、捕らわれた3人の女。
うち一人、金髪の女が他二人を起こす。
「おい、起きろ二人とも」
一人は街の電気屋で働いている金髪の小柄な女性――クルミ。
残りの二人は、DA学園で勤務している白髪の女性教師の錦木千束。
そして茶髪の女性は同じくDA学園の保健室の養護教諭、中原ミズキである。
この三人は10年前から顔見知りの仲であり、しょっちゅう三人で喫茶店に集まっては談笑をする間柄である。
そんな三人が、この謎の地下に閉じ込められた。
「う……う~ん。ここはいったい?」
「う、寒っ! てかここどこよ? ってか地下!? 誰よこんなところに私ら閉じ込めたの!?」
千束とミズキが目を覚まし、状況を確認する。
ここがどこかの地下であることは把握できた。
殺風景な場所、室内は肌寒い。
どうやら閉じ込められてから数時間は経過しているようであった。
3人が目を覚ましたところで、空中に映像が映し出される。
映し出しているのか、壁に設置されているプロジェクターのようであった。
「おはよう諸君!! 地下に閉じ込められた哀れな姫君共。恐怖せよ叫喚せよ!! そしてそんな諸君を地下に閉じ込めた我が名こそ……」
「おーい! お前か私たちにこんなことしたのはーーー!!」
「はやくだせー。今なら顔面にそれぞれパンチ一回ずつでゆるしてやるぞー」
「さっさとこんなところから出しなさいよ!! 私これから夜の街に男漁りに行くとこだったのよぉぉぉ!!」
モニターに映し出された犯人と思わしき男が名乗りを上げようとしたところを、千束、クルミ、ミズキは遮るように野次を入れる。
これには犯人も怒りをあらわにし。
「いや先に名乗らせろよ!! それぞれ好き放題言いやがって!!」
そう犯人が三人に文句を言ったのち、改めて名乗りを上げる。
「僕の名はロボ太! この街を牛耳る新時代の支配者だ!! 新たな時代の先駆者だ!!」
「なんだァ? てめェ……」
犯人はロボ太と名乗る。その名の通り、顔には昭和に出てくるような真四角のいかにもロボットといった被り物をしており、その素顔を覆い知ることはできない。
だが声と背格好から、どうやらまだ若い少年のようである。
そんなロボ太の名乗りに、そしてヘンテコな風貌に対し千束、キレた!!
3人は地下に閉じ込められており、ロボ太は安全なところからモニタリングをしている。なので実力行使でロボ太にダメージを負わせることはできない。
そのせいかロボ太は余裕綽々で3人にずけずけとモノを言い続ける。
「文句があるならこの僕を倒してみろ! 最もここから脱出できれば……の話だが」
「脱出って言ったって、この手によくある暗号や鍵が見当たらないぞ?」
「当たり前だ狂瀾怒濤のウォールナット! なぜなら僕は、お前らを閉じ込めうろたえ助けを乞う姿を見るのが目的よ。そんな脱出の機会なんざ用意しているものか!!」
「それただの拉致じゃん。時間が経ったら警察が動くぞ。つうかその異名で呼ばないでくれるかな恥ずかしいから」
ロボ太は彼女らに脱出ゲームをさせるというわけではなく、本当にただ3人を拉致し、苦しむさまを見るだけが目的のようである。
これは立派な犯罪。彼女らが周りに助けを求めることができなくとも、いずれは拉致事件として警察が動く案件である。
そんなことは当然、ロボ太も理解しているらしく。
「そんなことはわかっている。僕も犯罪者にはなりたくないからな!! お前らが困り果て、泣き叫び、僕が完全に勝者になったら愉悦にまみれながらお前らを外に出すのだ」
「なんつう甘ったれた犯人……。というかこの時点ですでに犯罪だからね? 私らが被害届出せばお前捕まるからね」
ロボ太の甘ったれた発言に千束はそう指摘して見せた。
どうにもロボ太は子供じみている。目的は3人に勝つことらしいが。
目的はわかったが、どうして3人を目の敵にしているのだろうか。
「てかなんで私たちを拉致なんかしたんだよゲコ太くん? あれか? 私らの裸でも見たいんか?」
「ロボ太だ。それだと別の作品になるだろ。というかそんな俗な目的ではなくて……」
「お前みたいな若い男は頭の中エロいことしか考えてないだろうに。なんだ脱げばええんか? 私ら3人脱げばこっから出してくれるんかおいぃ?」
「聞けよ人の話を!!」
千束が間違った名前を呼ぶとロボ太はすぐに指摘した。
そしてロボ太の目的を、若い青年が抱いている俗な欲望であると決めつける千束に憤慨するロボ太。
3人を拉致した理由をロボ太は述べる。
「お前らは今から10年前。今では伝説と噂される"電波塔事件"を生き抜いたと聞く! その3人に勝ったとなれば、俺はあの人に認めてもらえる! いや、あの人を超える存在になれるってわけよ!!」
ロボ太の目的は、10年前の戦いを生き抜いた伝説を打倒し、自分の名を上げることであった。
その目的を聞いて、ミズキは神妙な表情でつぶやく。
「電波塔事件……。あれはこの鏡花水月とうたわれた中原ミズキ様が大立ち回りした伝説のあの戦い」
「「お前ただ逃げ回ってただけだろ」」
どうやら10年前に起こったその事件で、ミズキはへっぴり腰で大したこともせずひたすら逃げ回っていたようであった。
いまだに10年前の"最悪の時代"の真っただ中にいたと勘違いしているミズキ。
そんな中本当に最悪の時代で数多くの名を上げていた千束とクルミはツッコミを入れる。
「ていうかこんな卑怯な勝ち方をして満足なのかガ〇ダムくん」
「ロボ太だって言ってるだろ! いいかげん名を刻み込めよさては覚える気ないな!?」
「まともに喧嘩を売る気もない陰キャの名前なんざ覚える気はないよね。真の意味で強いと証明したいなら拳で私を倒してみれば? 私結構強いけど」
「うっ……。そ、そうやってすぐに暴力に訴える野蛮な奴はこれだから。人にはそれぞれ土俵ってのがあるんだよ!! それに――10年前この街で最強だって言われてたあんたに喧嘩で勝てるわけないだろ」
「ほーらそうやってやる前から諦める。草食系が丸出しなんだよボロ太くんよぉ」
「ロボ太だ!! あーもうキレた!! 意地でもお前らが泣き叫ぶまでこっから出さないからな!!」
今現状優位に立っているであろうロボ太に対し強気に煽っていく千束。
電波塔事件を生き抜いた猛者である彼女らは、ロボ太のような卑怯者にはそう簡単には音を上げるわけはないのである。
そんな千束に対しロボ太はさらに意地になったのか、根競べをする気満々である。
果たして千束たちがどれだけこの状況に耐えられるのかはわからないが、下手をしたらロボ太が捕まるまで続くかもしれなくなった。
数時間後、この地下に閉じ込められてどれだけの時間が経ったのかわからないが。
千束はこんな愚痴を言い始めた。
「あー。さすがにお腹がすいてきたなぁ。ここデリバリー効く?」
「効くわけないだろ。デリバリー来たらお前らとっとと脱出するだろ」
当たり前のように地下にはデリバリーは届かない。
しかし粘り強い千束達とは言え、お腹はすくし、何よりのどが渇く。
その状況を把握したロボ太は、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「なんだ千手観音の錦木千束~。さっきまでの威勢を詫びるなら水くらい恵んでやってもいいぞぉ?」
「……アースイマセンロボジロウサーン。アヤマリマスンデコッカラダシテクダサーイ」
「くっそも気持ちこもってないし。てかもう僕の名前ちゃんと言う気ゼロだな」
当然そんなくだらないことで音を上げる千束ではなかった。
そしてさらに数時間、だいぶ喉が渇いてきたあたりでクルミはあるものを見つける。
「……おい、見てみろあれ」
「ん?」
クルミが指さした方を千束は見ると。
いかにもという感じで水が入ったコップが3つ。
そしてそこに貼られていた紙には、「これでも飲んで休んでください」と書いてあった。
これは……。もちろん二人は感づいていた。
「……あからさまに罠だろあれ」
「あれだろ? どうせ飲んだら身体がエロいことになるやつだろ? そして私らがそうなったところであのガキ太くんが全裸でやってきて私らを襲うんだよきっと」
クルミと千束の言いたい放題についついロボ太も割って入る。
「おい全部聞こえてるぞ!! だからそんな目的ないって言ってるだろ!!」
「え? ゲイ太くんひょっとしてそういう趣味の人?」
「ロボ太だって言ってるだろうが!! へんな名前で呼ぶな!!」
中々ロボ太の思い通りにならない千束たち。むしろ口論でもまったく勝ち目がなく返り討ちにあいロボ太が涙目になる始末。
当然提供された水分は罠だろう。エロいことになる薬かはともかく、飲めば何かが起こるのは間違いない。
そして提供された水分には口をつけず、さらに数時間。
ここまでくると、さすがに千束たちも辛くなってくる。
「あーくっそ。だんだんイライラしてきたなー。おいヘボットく~ん。今だったら肩パン程度で許してあげるからそろそろいい加減にしなよ~」
「まずはちゃんと名前を呼ぶことから始めたらどうですかぁ千束さ~ん」
「あー(怒)。気が変わりましたわぁ。こっから脱出したらお前の全身という玉という玉を粉砕してやっからなぁ」
その怒気を含んだ千束の言葉に、画面越しからでも震えがするロボ太。
そう、閉じ込める時間が長ければそれだけ後の報復が怖い。それも事実なのである。
実際はもう脱出させて雲隠れをする算段だったが、あまりにも千束たちが粘るものだからロボ太も引くに引けなくなっていたのである。
このままでは仮に千束が音を上げたとしても、恐怖で脱出をさせられなくなるかもしれない。
完全に根競べ状態。一見ロボ太が完全に有利に見えるが、静かに千束たちが有利になっていくこの状況。
そんな中、ここで事態が動き出す。
「ほわぅ!!」
なにやらうなり声がして、それはミズキの方から聞こえる。
ミズキがお腹を押さえて、苦しんでいるようであった。
そのミズキを見て、クルミがかけよる。
「おい大丈夫かミズキ? いったい何があった?」
「は、腹が……」
「……お前まさか」
クルミが何かに気づいたようで、先ほどの水が入ったコップを確認しに行く。
知らぬうちに、コップが3つとも空になっていた。
まさか……。クルミがミズキに問う。
「お前これ飲んだのか?」
「だ、だって喉渇いてたし。の、喉が渇いていたからつい……」
「しかも、三人分も? 得体のしれないものが入っていたかもしれないのに?」
なんとも卑しいミズキは、2人にだまって謎の液体をこっそり飲んでいたのである。
あからさまにロボ太の罠。そしてミズキの反応を見るに、どうやら水分に含まれていたのは下剤だろう。
その状況に、ロボ太は反応した。
「やーっとそれを飲んだか!! そうだその水分に多量の下剤を入れておいたのだ!! いやでもまさか一人が全部飲むことになるのは予想できなかったが」
3人いれば誰かは罠に引っかかると踏んでいたロボ太。
激しくもだえ苦しむミズキ。そんなミズキを介抱する千束とクルミ。
「おい大丈夫かミズキ先生!」
「あーーー!! う、産まれるぅぅぅ!!」
「それは産んだらだめなやつだぞミズキ先生! 本当に産むべきはかなり先にある幸せだから!!」
「私のその幸せかなり先なのねぇぇぇぇぇ!!」
千束はさりげなくミズキはまだまだ結婚できないことを遠回しに言うのであった。
しかしこの状況、ミズキが嫁入り前の女性としてやってはならないことをしてしまうまでもう残り僅かであるのは明確。
自分は大丈夫とはいえ仲間のピンチ。さすがに千束はロボ太に脱出を促す。
「おいう〇こマン!!」
「誰がう〇こマンじゃ!! いつのまにかロボ関係なくなってるし!!」
「このままだとミズキ先生がう〇こ漏らすぞ!! ええんか!? 私らを早く脱出させないとこの地下でミズキ先生がう〇こ漏らすんだぞ!?」
「あんたドストレートすぎんのよ!! う〇こう〇こ言わなくてもいいのよ!! せめてう〇こから意識を遠ざけなさいよ!!」
ミズキがう〇こを漏らしたからなんだというのか、これではロボ太の心は動かない。
それどころか千束の不用心な言葉がミズキの罪を催促してしまう。
う〇こは完全にNGワード。なので千束は別の言葉で例えて危機を訴えた。
「おいニルヴァーシュ君! このままだとミズキ先生のケツがバスクードクライシスするんだぞ!!」
「そうだぞ。そしたらミズキがまさに、ジ・エンドだぞ」
「あんたら人の声優さんのネタ使って遊んでんじゃないわよ!!」
ミズキの声帯にちなんだネタで危機を訴えかけても、ロボ太にはいまいち伝わっていない。
もう音を上げるしかないのか、いやでもロボ太に助けを乞うしかないのか。
こんな陰キャな卑怯者に、頭を下げなければならないのか。
「ロ、ロボ太くん……」
そんな中、初めてロボ太の名前をきちんと言ったのが今一番の危機を抱いているミズキだった。
そしてミズキがロボ太にこう提案した。
「い、今すぐこっから出してくれたら。私、あんたと結婚してあげるわ!!」
そう、とんでもない提案するミズキ。
ミズキは中身こそあれだが容姿は美人といって差し支えない。
ロボ太が男として魅力があるかはわからないが、もう助かる道がこれしかないとミズキは理解したのだろう。
そんな男として断るには惜しい提案を受けたロボ太はというと。
「……いや、別に興味ないんでいいです」
あっさりと断るロボ太に、ミズキはぶちギレ叫んだ。
「こんの……。くそったれぇぇぇぇぇぇ!!」
((この中で一番くそったれなのお前だと思うんだが……))
この状況、くそったれという言葉が似合うとしたら間違いなくミズキだろう。千束とクルミは思ったが口にしなかった。
そんなやり取りをしていても、ミズキの危機が去るわけでもなく。
もう行ってはならないゴールはすぐそこまできていた。
「あぁぁぁぁ……。もう……出てしまう」
「『今昔物語集』でいうと今どのあたり?」
「ちょうど平貞盛が侍従のう〇こ盗もうとするあたり……」
「例えまでう〇こじゃねえか……」
要はもう残り数分くらいでミズキは決壊してしまうということである。
いよいよ慌てふためく三人を見て、ロボ太はいよいよ勝ち誇る。
「よっしゃあああ!! どうやらこの勝負、このロボ太様が勝ちのようだな!!」
「くそぉ……」
「だからくそとか言わないでって……」
千束が悔しがり、ミズキはやはりもうう〇こからは逃れられないようである。
卑怯者にこんなクソみたいなことで敗北を決する。なんとも情けないケツ末であろうか。
「わはははは!! 10年前の伝説!? 電波塔事件の英雄!? どれだけ強かろうが最後に勝つのは戦略と頭脳!! このロボ太様よ!! 千束はもはや、時代遅れの雑魚なんだよわーっはっはっはっは!!」
そう、ロボ太が高らかに笑い、価値を確信した時だった。
その卑怯者の後ろから、ドスの効いた声がロボ太を戦慄させる。
「おい……。ずいぶん楽しそうだなぁロボ太」
「わはははは! ……はっ」
その恐れ多い声を聴いて、ロボ太の体が固まる。
そしてゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはロボ太が最も恐れる存在が見下ろしていた。
その男――緑髪の成人男性、黒いコートを着ていかにもやばいという風貌をした男。
この街の治安を守るリコリスの最大の敵にして、最も千束に近いとされる存在。
男の名を、真島と呼ぶ。
「ま、ままままままま真島さん!? なぜここに!?」
「またてめぇがうさんくさいことやってんだろうなぁと思ってよぉ。気まぐれに見に来たらよぉ」
ロボ太のモニターを見て、真島がロボ太を睨みつけ。
「おいおいおい、ここに映ってんの……。千束ちゃんじゃねぇかよ」
「い、いやこれは……」
「千束ちゃんに喧嘩で勝てないからって? こうやって地下に閉じ込めて? 遠くから困り果てるのを見て勝った風にして?」
そう、そのロボ太のやり方は、真島がもっとも忌み嫌うやり方。
相手を倒すなら真正面から。卑怯な手段で相手に勝つことの愚かさを誰よりも軽蔑する。
卑怯、卑劣。そんなやり方では均衡が――バランスが成り立たないから。
「そんな状況じゃあロボ太よぉ。バランスが取れねぇよなぁ? わかるかロボ太、バランスだよ。俺が最も嫌なのは、バランスが取れてねぇことだって重々理解してんだろうがよ?」
「ははははははい!! わかりました今すぐこいつらを解放します!!」
そうロボ太が、扉の施錠ボタンを押そうとした瞬間。
画面に映る千束が、今までに見せるなによりも怖い表情でロボ太を睨みつけ口を開く。
「おい……"ロボ太"くん」
「ふえ!? ぼ、僕の名前を!?」
「一応覚えておこうかと。こっから出たら、ボッコボコにする相手の名前くらい……」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
解放しても地獄、しなくても地獄。
だがどっちにしてもまずはボタンを押さないと真島に殺されてしまうため。
地下室の扉のボタンを押し、そしてすぐさまダッシュで逃げおおせるロボ太。
「と、トイレは出て右側にすぐありますからぁぁぁぁぁ!!」
こうして千束達はその場から脱出できたのだった。
ミズキはクルミに抱えられすぐさまトイレへ。
そして千束はそこから出る前に、モニターを一瞥する。
それは、結果として自分たちを助けてくれたものに向けたものだった。
「ありがと~。助かったよ真島のお兄ちゃん♪」
「そりゃあよかった千束ちゃん♪ こんなところでてめえの格が落ちてしまったら洒落にならねぇからなぁ」
「とりあえず貸しにしておくよ。でもそれはそれとして、私の生徒を傷つけたら……許さないからね。お兄ちゃん☆」
「はっはっは……。お前が本気になるんだったら、それもやぶさかじゃあねえな~」
「あはははははははは!!」「わはははははははは!!」
静寂な地下室とモニタールームで、狂気的な笑いがこだまする。