日本地図にも載らないほどの山奥
軽く数百年は整備されていないであろうそこは、無数の樹木が生い茂っている。人の気配なんてものは、微塵たりとも感じられない。
そんな深い森の中には、一際目立つ巨木があった。
『目覚めよ。目覚めよ。』
巨木なのか、樹海そのものなのかは定かではない。何者かの厳かな声が広大な樹海の中に響く。
その声は川の水のように流れていく。まるで、何かを探し求めるように。
「__なんじゃ。小僧。」
その声に反応した、白い影。
声からは若さを感じるが、口調には老いを感じる。
それはノソッと体を起こし、木の枝に腰掛けた。
『西の方角。童が集まる所。かの御霊、生まれ落ちる。』
「.....そうか......」
それが空を見上げたと同時に、樹海が騒ぎ出す。
恐怖か、畏怖か、それとも歓喜か、その意味は定かではない。
だが、それが、この場所にとって非日常であることは間違いない。
「ならば、行こうかのう......。久方ぶりに、人間の世界へ......。」
それは、凝り固まった体を解しつつ立ち上がった。
それにまた、森がざわつく。
だが、白い影はそれをあずかり知らぬとばかりに、軽やかに樹海から飛び去った。
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“数年後”
「__おっはよー!」
バーン!と教室を開けて、大きな声で挨拶をした。
その人物こそ、宇田川あこ!
今年から高校生の15歳!......と言うのは表の顔。
あこの正体は、魔術を使って戦い聖堕天使__
「朝から何やっての......」
「あ!おはよー!明日香ー!」
「元気だね......あこちゃん......」
「ロックもおはよー!」
この2人はあこの友達の明日香にロック!
入学してから出会って、良くしゃべるお友達!
明日香はかすみの妹で、ツッコミ役。
ロックは田舎から羽丘に来たらしくて、偶によくわからない言葉で喋ってる。
「あこ。また変なスイッチ入ってたよ?」
「それはね......あこの聖なる力が魔に反応して__」
「あ、白石君。」
「ひょわわ!?///」
白石君という名前を聞いて、あこは飛び跳ねた。
出来るだけ綺麗に座って、前髪も整える。
「始まったよ。あこの乙女モード。」
「なんだか可愛いよね。」
「てか、嘘だし。」
「明日香ー!///」
あこは明日香をジトーっと睨んだ。
何を隠そう、白石琥珀君は、あこの好きな人。
特別目立つわけでもないのに独特な雰囲気があって、いつも笑みを浮かべてる。
背は180cmくらいで、顔もいいのになぜか目立たない。そんな不思議な人物でもある。
「あこも好きだよねー。私は分からない。」
「えー!かっこいいのにー!」
「うーん、私も分からないかも......」
「ロックまでー!?」
本当に不思議。
まるで、あこ以外には別の姿で見えてるみたい。
これって、好きな人だからなのかな?好きな人ってかっこよく見えるっていうし(多分)
「なんで分かってくれないのかなー......白石君はかっこいいのにー。」
「__俺がどうかした?」
「!?///」
「あ、白石君(今度は本物)」
あこはピンと背筋を伸ばした。
後ろから、気配を感じる。
どうしよう......振り向けないよぉ......。
「おはよう、宇田川。」
「お、おひゃよう!///(か、噛んだー!///)」
もうダメだ......絶対に変な子って思われた......。
さっきまでちゃんと言えてたのに......なんで噛むかな......。
「ふふっ、宇田川は元気だね。」
「う、うん///」
「戸山と朝日もおはよう。」
「おはよ。」
「おはようございます......」
白石君は挨拶を済ませて、あこの隣の席に座った。
そう、席が隣なの!
......席替えで明日香に譲ってもらったんだけどね!
「ねぇねぇ!今日の放課後、3人で遊びに行くんだけどさ、白石君も来ない?」
「遠慮しておくよ。」
「えぇ~!」
「いや、当たり前じゃん。」
「女子3人だし......」
気にしなくてもいいのに......。
「また機会があったら誘ってほしい。できれば、他の男子もいるときに。」
「うん!また誘うね!」
まだ4月だし、これから誘う機会はあるよね!
それに、行事もいっぱいあるし!
(ほんと、好きだね。)
(なんだか、応援したくなるなぁ......)
これから頑張ろう!
白石君と仲良くなって、あこのことも知ってもらう!
それで、いつか、好きになってもらえたらいいなぁ......!
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って、思うんだけどね。
放課後になったら、白石君は消えちゃう。
今のところ、教室を出る姿も見たことない。
いつ帰ってるんだろう?
「ああー!また消えちゃったよー!」
「ど、ドンマイ。(白石って、マジでいつの間に移動してるんだろう。)」
(教室を出入りしてるところ、見たことない......)
帰りに挨拶して、また明日ねって言いたいのに......。
このままじゃ、言えないままで3年間が終わっちゃうよ!
「白石君ってほんと不思議だよねー。掴みどころがないというか、なんというか。」
「別に暗い方ってわけでもないのに、友達って呼べる人いないし......そもそも、あこちゃんや私たち以外と話してるの、見たことないかも。」
「ミステリアスでかっこいいよね!」
「あ、はい。」
明日香は面倒くさそうに返事をした。
やっぱり、白石君の魅力は分からないみたい。
まぁ、あこだけが知ってたらいいんだけどね。
「まっ!白石君のことは明日から頑張るよ!今日は3人であそぼー!」
「お、おー!」
「六花、そんな無理しなくても......」
「__にゃ~。」
「ん?」
学校を出て、少ししたところにある公園に来た頃、どこからか猫の鳴き声が聞こえた。
どこにいるんだろう?そう思って、辺りを見渡した。
けど、足元にはいなくて、上の方を見た。
「にゃ~......」
「猫いたー!」
「あー、降りられなくなってるね。」
「そうなの?」
猫って飛び降りられるんじゃないの?
そういう子もいるのかな?
「困ってるっぽいし、助けてあげよ!」
そう言って、あこは木登りを始めた。
あこ、木登りできるし、あの子を助けてあげよ!
「あこちゃん!?」
「ちょ、危ないって!」
「大丈夫大丈夫ー!」
そう言いながら、どんどん木を登っていく。
そしたらすぐに猫のいるところまでこれた。
ほらね!やっぱり余裕だよ!
「ほら、おいで!」
「フシャー!」
「えっ?__」
猫のところに来て、助けようと手を伸ばした。
けど、何か気に入らなかったみたいで、あこの手は引っかかれて、それにビックリして、足が外れた。
まるで、時間が止まったような感覚になった。けど、それは一瞬で、そこから一気にあこの体は下に落ちていった。
(うあっ、これ、絶対痛い......!)
「あこ!」
「あこちゃん......!」
落ちていくのが怖くて、ギュッと目を閉じる。
これ、絶対に痛い。怪我しちゃうかも。
やだ、やだよぉ......。
(......あれ?)
目を瞑ってから、何秒か経った。
けど、来るはずの痛みが来ない。
なんで?あこ、ほんとに飛べるようになった?何かの力に目覚めちゃった?
そう思いながら、ゆっくり目を開けた。
「大丈夫か。宇田川。」
「!?///」
そこには、白石君がいた。
そして、少しして、白石君に助けられたんだって気づいた。
「あ、え、えっと......///」
「怪我は?」
「だ、だいじょうぶ......///」
白石君はいつも通り笑ってる。柔らかそうな黒髪を揺らしながら、やさしく。
なんでここにいるのとか、そんなのはどうでもいい。
ただ、白石君に助けてもらったということだけが、あこの鼓動を激しくする。
「大丈夫そうならよかった。猫は気まぐれだからね。気を付けることだ。」
「う、うん///」
優しい声でそう言いながら、あこを立たせてくれた。
ちゃんと立てたのを見て、白石君は軽く頷いて、あこに背中を向けた。
「じゃあ、また。」
「う、うん、また......///」
軽く手を振りながら、去って行く。
まるで何事もなかったみたいに、平然と。
「あこ、大丈夫!?」
「怪我してない......!?」
「......し。」
「し......?」
すごく、ドキドキしてる。
今までも白石君と話すときはしてたけど、もっとすごい。
これって、なんていうんだろう......。
「白石君、好き......///」
(うわ、今までで一番すごい顔してる。)
(ていうか、白石君、どこから現れたんやろ......?偶々、通りかかったんかな.......?)
(白石君.....///)
今までよりもっとドキドキして、顔が熱くて、苦しい。
それに、もっともっと、白石君がかっこよく見える。
今までも好きだったけど、ちょっと違う。
さっきまでは、明日もたくさんお話ししようと思ってたのに、今は話しかけるのを想像して、ドキドキしてる。
白石君とどう接していいか、分からなくなった。
これ、あれだ......。
本気の恋、始めっちゃったかも......。