景色から色が消えて、時間が止まったみたいになって。
そして、目の前には人間じゃない、九尾の狐......。
そんな現実離れした状況に、あこの頭は混乱してる。
「狐に化かされたような顔をしておるのう......ま、その通りなのじゃが。」
「え、えっと、九尾の狐って.....お化け、なの?」
とりあえず、思ったことを口に出した。
見た感じ、あこのことを敵視してるわけでもなさそうだし。
「お化けというより、妖じゃ。別の言い方をするなら、もののけ、魔物といったところかのう。」
「妖......。」
迷信とかじゃなくて、実在したんだ。
しかも、九尾の狐って、神社とかあるし。
狐白はそういうのなのかな?
「なんで、そんな存在が白石君を演じてたの......?」
「わしが白石琥珀として生活していた理由か......うむ......。」
狐白は考え込むような様子を見せた。
別に、いきなり目の前に出て来てもよかったはずなのに。
なんでわざわざ、白石君としてあこに近づいたの......?
なんで、好きにさせたの......?
「特に理由などない。」
「え......?」
「兄が生まれた時から見ていたが、そこからのわしの行動は全て気まぐれじゃよ。」
その言葉に驚愕した。
あの出来事全部が、狐白にとっては気まぐれだったの?
一緒に過ごした日々は全部、偽物だったの......?
そう思うと、悲しくて目じりに涙が溜まってきた。
「ただ、わしが白石琥珀として話していた内容に嘘はない。すべて本心じゃ。」
「......!」
フワリと、優しい風に包まれた。
狐白が目の前に来たんだ。
近くで見ると、透明感があって、綺麗だ。
あこが見てた白石君の面影もある。
「なんで、あこだったの......?」
「愛しておるからじゃ。」
「え......!?///」
あこの問に答えた狐白の言葉に、不覚にもドキっとした。
白石君の時とは違う、真っすぐな言葉。
一応、狐白は白石君なわけで、これが本心だったのかな......?
「い、いつから......?///」
「兄が生れる前から。」
「え......?」
「宇田川あことして生れ落ちる前から、愛しておる。千年前から。」
ど、どういうこと?
あこがあことして生まれる前?千年前?
スケールが違いすぎて、よくわからない。
「そ、それは、どういう......?」
「直に分かる......が、少し力を貸そうか。」
「!」
狐白は光り輝く種?を出した。
なんだろう、これ。
魔法みたいなものなのかな?
「これはわしの妖術の一つ。これを兄に授けよう。」
そう言って、狐白はその種をあこの頭に近づけた。
その時だった。
見たこともない風景が頭の中に流れ込んできた。
(なに、これ......?)
見たこともないような大自然に、今にも壊れそうな家。
それに田んぼに、そこで働く人たち。
まるで、教科書に載ってった風景だ。
そして......。
『__あゆび。兄は__』
農民とは違う、綺麗な服を着た男。
その男の話声がぼやけていく......。
ここで、流れ込んできた記憶は途切れた。
あれはなんだったの?
「あれは、魂に刻まれた記憶を蘇らせるものじゃ。」
「魂、記憶......。」
「それは記憶と関連するものを見たり、触れたりすれば育っていく。のんびり探していけばよい。」
狐白はそう言って、また座りなおした。
その間もあこは困惑してた。
あの光景は狐白が見てた景色だとは思う。
けど、あゆびって名前は......。
「さて、そろそろ術を解くか。」
狐白はそう言って、ふーっと息をついた。
それを見て、あこは狐白に声をかけた。
「ねぇ、狐白?」
「どうした?」
狐白は首を傾げた。
やっぱり、狐白は白石君だ。
話し方が変わっても、雰囲気が変わっても、あこの中の何かが白石君って判断してる。
「狐白はあこのこと、好きなの?」
「そうじゃ。」
「じゃあさ、あこと付き合わない?」
あこはそう言った。
結局、あこは白石君が好きみたいだ。
こんなに姿が変わっても、あこは狐白に白石君を見てる。
それに、まだ、ドキドキしてる。
「ふむ。(わしの正体を知ってなお、そう言うか......。)」
「あこ、白石君が好きだけど、狐白も白石君だから。」
自分がおかしなことを言ってるのは分かってる。
けど、なぜか、狐白が好きって思ってる。
やっぱり、理由とかわからないけど。
なんとなく、一緒にいたいって思ってる。
「いいのか?まだ、わしのことは何も知らないであろう?」
「いいよ。それに、何か......違和感があるから。」
「?」
狐白が白石君だから好き......とは少し違う。
あの記憶の種の術を受けてから、おかしい。
なにか、新しいものが生れた気がする。
(なんだろう......はるか遠い記憶に、狐白がいるみたいな......。)
「わしはしばらく、白石琥珀のままで生活するが、それでいいか?」
「うん、いいよ。これからよろしくね、狐白。」
「あぁ。愛しき魂よ。」
なんだか思ってたのと違うけど、あこは白石君......狐白と付き合うことになった。
これから何があるのか分からない。
けど、これから狐白といればわかる気がする。
あの記憶と、違和感の正体が。