あれから、あこたちはカレーを食べ終わって、次は登山だった。
普段はあんまりしないし、こういうのもすごく楽しい。
空気もなんだか澄んでる気がする。
「ほらー!はやくはやくー!」
「は、早いよぉ......」
「元気すぎでしょ......」
「あはは、それがあこの良い所だよ。」
一番前をあこが歩いて、その後ろを3人が付いてきてる。
明日香と六花は疲れてそうだけど、はっくんは余裕そう。
そもそも、登山くらいじゃ疲れないか。
「ほら!もうすぐ頂上だよ!」
「ま、待って~......」
「まぁ、もう一息だし、一気に行こうか。」
明日香たちの歩くのが早くなって、追いついて来た。
そのままのペースであこ達は一気に頂上まで登って行った。
「__着いたー!」
頂上に着くと、あこはそう叫んだ。
すっごい気持ちい。
なんか、いつもとは違う世界にいるみたいだ。
「じゃあ、私は先生に報告してくるから、3人は休憩してて。」
「う、うん.....じゃあ、そこに座ってるね......」
「行ってらっしゃーい!」
「ありがとう。」
明日香は先生の所に行って、六花はベンチに座った。
それで、あことはっくんの2人が残った。
「どうする?折角だし、景色でも見るか?」
「うん!一緒に行こ!」
「あぁ。行こうか。」
そんな会話をして、2人で並んで歩く。
はっくんの方がずっと背が高いのに、ペースを合わせてくれてる。
こういうとこ、好きだなぁ......
「わぁ!きれーい!」
「そうだな。」
山頂から見る景色はすごく綺麗だった。
どこまでも続いていきそうな自然、雲一つない青空。
なんだか、気分がよくなる気がする。
「はっくんは見慣れてるかな?」
「......いいや。あこと見る景色は、今までとは違う。どの景色より、綺麗じゃ。」
「そうなんだ。はっくんは相変わらず、あこのこと好きだねー!」
「あぁ、もちろん。愛しておるよ。」
「!///」
あ、あっさりこういうこと言う......!
嬉しいからいいんだけど、恥ずかしい......
でも、やっぱり、嬉しいが勝つ。
「あこも大好き......///ずっと、一緒にいられたらいいね......///」
「......そうじゃのう。」
「んっ///」
はっくんはあこの頭を撫でた。
すごく安心する。
「はっくん__」
「あのー、お二人さん?ここでいちゃつくのはちょっとまずいよ?」
「っ!///」
「あはは、そうだよな。」
「明日香ちゃん、すごいね......」
明日香に話しかけられて、ハッとした。
そうだった、明日香はちょっと離れてるだけなんだった。
周りに人少ないから、油断してた......
「もう先生との確認は終わったのか?」
「うん。ここからは下山して、自由だって。」
「そうか。なら、さっさと行こうか。」
「そ、そうだね~///」
「うん......(あこちゃん、顔真っ赤だ。)」
そうして、あこ達は下山を始めた。
あの時間、すごく幸せだったけど、次は2人きりの時にしよ。
流石に、恥ずかしかったから......
あこはそう心に誓った。
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“狐白”
山登りも終わり、今は今夜泊まる宿にいる。
思っていた以上にいい場所じゃな。
昔ならいくらかかったことか。
「......さて。」
わしは術を解き、置いてある座布団に腰を下ろした。
認識阻害......これは中々、使い勝手がいい。
正体を隠すだけでなく、他にも応用が利く。
例えば、今のように部屋を1人部屋にしたりのう。
(あこのことはどうするか。)
朝から、完全に気配が消えておる。
わしでも察知できぬとは、流石に同じ時代のものか。
あまり、甘く見るのはよくないかもしれなのう......
「......悔しいのう。」
あこのことは何よりも大切じゃ。
何が何でも守りたい。
だが、あこの記憶を目覚めさせるには、どうしてもあやつが必要になってしまう。
(仕方ない。利用させてもらうぞ。古き時代の妖よ。」
わしはそう呟き、瞳を閉じた。
何が起きても、あこだけは必ず守る。
だが、ある程度、栄養だけは貰うぞ。
あこの記憶を目覚めさせるための、栄養を。
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“あこ”
今日泊まる場所はちょっとだけ古い、宿だった。
なんだか何か出そうな雰囲気がある。
まぁ、はっくんがいる時点でいるはいるんだけどね。
「ふんふ~ん♪」
あこはお風呂から上がって、部屋に戻ってる。
明日香と六花はもう少しゆっくりするらしい。
(どうしようかなー、はっくんいないかなー。)
電気がついてるのに薄暗い廊下を歩く。
はっくんいなかったら、正直怖かったかも。
お化け出るかもって。
(部屋で何してようかなー?)
『__び。』
「ん?」
廊下を歩いてると、何か変な音が聞こえた。
なんだろ?隙間風かな?
この建物、古いからねー。
『__び。』
「......」
2回目の、同じ音。
隙間風にも聞こえるそれは、隙間風の音じゃない。声だ。
地の底から聞こえたようなその声は、聞いただけで背筋が凍るような感じがした。
それに、なんだろう......
ただ怖いだけじゃない、何か違う気がする。
『__あゆびっ!!!』
「っ......!?」
その声がハッキリと聞こえた瞬間、薄暗い廊下は真っ暗になった。
電気が消えたってレベルの暗さじゃない。
光一つ通さないような、闇だ。
「こ、これは......」
似たような経験がある。
この、別の空間に飛ばされたみたいな感覚。
はっくんの結界と同じだ。
「......あや、かし......?」
頭にそんな言葉が浮かんできた。
けど、はっくんとは少し違う。
まるで、悪意の塊......人の言葉なんて通じない存在。
そんな感覚だ。
『あ゛ゆ゛び......』
「ひっ!」
暗闇から、それは姿を現した。
全身がドロドロになったみたいな、大柄の生き物。
人間......いや、猿......?
どっちか分からない、変な生物。
これは、妖なの?
「な、なに、これ......?」
『み゛つ゛け゛た゛ぞ』
血走った目であこのことを見てる。
まるで、お腹がすいてるときに肉を出された獣みたいだ。
なんで、あこに......?
『わ゛が゛゛く゛も゛つ゛ゥゥゥゥゥゥ』
「くも、つ......っ?」
今の社会じゃ使うことはないであろう、その言葉。
けど、その言葉を聞くと、あこの心臓はドクンと音を立てた。
『__逃げたぞ!追えー!』
『や、やめて!助けて!』
村の広場に仏壇みたいなものを作って、それを村人が囲ってる。
全員、まるで、あこ......いや、あゆびが死ぬことを望んでるような顔をしてる。
そんな中で、どこかへ走って行こうと足掻いてる。
『死ね』
『死ね』
『死ね』
『死ね』
『助けて!__』
「あ、あぁ......っ!」
少しだけ、記憶が戻った。
そうだ、あこは土地神の供物だったんだ。
そうなるように仕立て上げられたんだ。
なんでか分からないけど、あゆびをそうしようとしたんだ。
そして、最後に......
(呼びたかった名前を、呼べないまま、殺された......土地神に......)
なんで今、これを思い出したの?
その答えは分かり切ってる。さっきの記憶にもいた。
こいつは、こいつは......
土地神だ。
『い゛い゛た゛ま゛し゛い゛だ゛。く゛わ゛せ゛ろ゛ォォォォォ』
「ひぃ!た......っ!」
『助けて』
その言葉が出てこなかった。
首を絞められたように、上手く声が出せない。
これは、呪いだ。
さっきの記憶を見てわかった。
あゆびも最後はその言葉を言えなかった。
村人たちに首を絞められて......
「あ、がっ......!」
苦しい。
徹底的に声が出せないようにされてる。
「た、たす.....」
ダメだ、何度も何度も言おうとしても出来ない。
どうすればいいの?
前世と同じように、死んじゃうの?
いやだいやだ、まだこれからなのに......
まだ全部思い出せてないけど、大切な人と一緒にいられるのに......
「こ、はく......(っ!)」
遠のく意識の中、その名前を口にした。
息苦しさはずっとマシになってる。
これなら......
「狐白!!!」
「__やっと見つけたぞ。あこ。」
『!?』
「!(はっくん.....!)」
その瞬間、周りの景色は真っ白に塗り替えられた。
さっきを地獄とするなら、まるでこっちは天国みたいだ。
感覚で分かる。これは、はっくんの術だ。
暖かくて、家みたいに安心する。
「なるほど、土地神か。通りでわしでも見つけるのに時間がかかるわけじゃ。」
『お゛ま゛え゛は゛ぁ゛,,,,,,!』
「久しいのう。残留思念だけで生き残るとは......若気の至りが過ぎたのう。」
『!!!????』
「え......?」
狐白が右手で空を握る。
それと同時にこの空間で異変が起きた。
土地神が、ひしゃげていく。
『う゛ご゛ご゛ご゛ご゛......!!!』
「この空間はわしがあらゆる事象を操作できる。今は、そうよのう......この世で最も深い海の中にいるぐらいの圧がかかっておる。」
『ば゛が゛な゛......!!そ゛ん゛な゛......!!!』
グググ......っと、はっくんの手が握られていく。
それに反応するように、土地神はしぼられた雑巾みたいに赤い液体が噴き出して、小さくなっていく。
「よい働きであったぞ。あこの記憶を取り戻すのに役立った。」
『お゛まえは゛......!!』
「消えろ。土地神風情が。」
「!」
きゅっと手を握ると、土地神はプチュンと音を立て、消えた。
ていうか、土地神風情......?
神様のはずなのに、こんな風に言えちゃうの?
「すまないのう。中々、出来る奴じゃった故、気配を見失っていた。」
「い、いや、いいよ。助かったから。」
「まぁ、あこの記憶を取り戻すためには多少の接触は必要じゃった。ここまで危険にさらすつもりはながったのじゃが。」
「はっくん、結構、鬼畜なんだね。」
半ば放心状態で軽口を言いつつ、周りを見る。
そこにはさっきの土地神の血が飛び散ってる。
これを、はっくんがやったの?しかも、あんなにあっさりと。
しかも、土地神よりも強いなんて、きっと普通じゃない。
やっぱり、はっくんは、あことは違う......
(あこは......はっくんといて、いいのかな......?)
あこは白と赤の空間を眺めながら、そんなことを考えた。
あことはっくんは人間と妖。生き物として、全然違う。
そんなあこは、はっくんといることに、不安を感じてしまった。