妖と恋する聖堕天使   作:火の車

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二十話

 葛藤とは、人生におけるテーマであると思う。

 人は、大小があるにしろ、葛藤を繰り返して、それが折り重なり人生としている。

 これが、人間の社会を見てきた、わしの感想じゃ。

 だが、これはあくまで人の生の話。

 それ以外は、果たしてどうなるのじゃろうな。

 

(葛藤、か。)

 

 その問いの答えは、それ以外にも存在するじゃ。

 他の種族は知らぬが、妖は少なくとも葛藤する。

 

 不思議なものじゃ。

 妖になり千余年、こんな人との共通点があるとは、気付かなかった。

 

(あこと出会って数か月、楽しい時間じゃった。)

 

 わしには、与えてやれなかった。

 あゆびには、幸せを与えられなかった。

 だが、あこは違う。わしがいなくても、幸せじゃった。

 

 だからこそ、わしの気持ちもはっきりさせないといけぬ。

 

(あこは、平和な時代の人間じゃ。あゆびとは違う。)

 

 いくら記憶を取り戻そうと、あこはあゆびではない。

 もし、わしがあゆびを思い出し続ければ、あこも疑問を感じるだろう。

 

 あこはわしのための過去に向かってくれた。

 故に、わしは未来へ向かう必要がある。

 

(もし、あこがすべての記憶を取り戻し、すべてが決すれば。わしも伝えるとしよう。)

 

 わしは夜空に浮かぶ月を仰ぎ見た。

 今日の月は、青白くて、輝いておる。

 まるで、あこの魂のようじゃ。

__________________

 

 “あこ”

 

 林間学校から2週間が経った。

 中間テストが終わって、気温がだんだん高くなって、夏の訪れを感じる。

 そんな日の夜、あこはとある林に来てる。

 

(ここ、かな?)

 

 ここは人の気配がなくて、静かだ。

 なんだかお化けでも出てきそうだけど。

 まぁ、はっくんがあこたちの認識ではそんな感じだし、もう慣れたかな。

 

「はっくん。いる?」

「__あぁ、ここに。」

「!」

 

 あこが呟くようにそう言うと、暗闇から、白い影が出て来た。

 その影は少しずつ形になって、尻尾が生えた状態のはっくんになった。

 

 はっくんはいつも通り、優しい笑みを浮かべている。

 

「では、あこの記憶を取り戻すため、わしの獣化を見せよう。」

「う、うん。」

「その前に、場所を変えねばな。ここでは、辺りの人間に影響を与えてしまう。」

 

 はっくんはそう言って、ゆっくり近づいて来た。

 そして、あこの方に手を伸ばしてきて、そのまま両目を塞がれた

 

「動いてはいけぬぞ。」

 

 そう言われた次の瞬間、体が軽くなった気がした。

 立ってるはずなのに浮いてるみたいに感じて、不思議な感覚だった

 

「__開けてもよいぞ。」

「うん__わぁ!」

 

 目を開けると、あこはどこかは知らない、森の中にいた。

 周りを見る限り山ばっかりで、湖があって、蛍がたくさん飛んでる。

 

「ここは、あゆびと出会った場所じゃ。当時とはだいぶ変わっておるのじゃが。」

 

 なんだか、少し懐かしい感じがする。

 多分、記憶の種が反応してるんだ。

 それでも、記憶が戻らないのは、風景自体には妖力がないからかな?

 

「では、見せよう。わしの真の姿を。」

「きゃ!!」

 

 びゅうっと、嵐のような風が吹いた。

 それと同時に、なんだか、ものすごい胸騒ぎを感じる。

 多分、これがここに来た理由だ。

 確かに、住宅街の近くで返信したら、大変かも。

 

「現実でこの状態で会うのは初めてじゃな。あこ。」

「こ、これが、はっくんの__あぐっ!!」

「!(始まったか。)」

 

 はっくんの姿を見た瞬間、あこの脳内に記憶が流れ込んできた。

 頭が割れるように痛い。

 

 そんな痛みの中、あこの意識は流れ込んできた記憶の中に溶けていった。

 

 “記憶”

 

 整備もされてない、木が無限にあるように感じる森の中。

 光は葉と葉の間から入ってくる少しの光しかなくて、お昼なのに全然暗い。

 ここは、どこだろう。

 

「__藤原様!」

「あゆび。」

 

 目の前に現れたのは、記憶の中で見たあゆびと身なりがいい男の人。

 藤原ってことは......多分、偉い人だ。

 そんなこと、教科書に書いてた気がする。

 

「わざわざ、隠れて会うのも手間だ。いっそ、兄を我が家系に招ければ......」

「そ、そんな。私は、そんな人間ではありません......」

 

 多分、あの2人は好き同士なんだ。

 だから、わざわざ2人でなんて会ってる。

 しかも、すごい大変な思いをしてまで。

 

「今日は、そなたに詩を詠もう。離れていた間、兄を思い、したためておいた。」

「とても、楽しみです......」

 

 2人はそのまま寄り添って、男の人の方が詩を詠んだ。

 あこにはなんとなく意味が理解できた。

 あの詩は、すごい壮大なラブレターだったんだと思う。

 お互いに、愛してやまないのがよくわかった。

 

 そして、分かった。

 あの身なりの良い男の人。あの人がはっくんだ。

 口調も格好も違うけど、はっくんだ。

 

(そっか。はっくんも、人間だったんだ。でも、なんで妖に?)

 

 そう思った瞬間、一気に場面が切り変わった。

 空は暗くなって、場所は見たことのある村。

 そして、真ん中には大きな焚火がある。

 

(ここは......っ!)

 

 あゆびが死んだ日の光景。

 確か、ここで土地神にあゆびが__

 

「__あゆび。貴様の命は我が貰う。」

「ふ......ふわら、様......」

「あの男か。残念だ。我を受け入れておれば、死なずに済んだものを。」

 

 土地神の手があゆびの方に伸びていく。

 あゆびはもう、虫の息だ。

 あこはその光景が怖くて、足がすくんだ。

 

「__ああああああ!」

「ぬぐぅ!?」

(!!)

 

 その時、暗い森に響いたのは、大きな男の人の声。

 そして、肉が裂けたような、生々しい音だった。

 

 目を凝らしてみると、土地神の身体を、はっくんの手が貫いているのが見えた。

 

「神は、これでは死なぬぞ。人間。」

「知っておる。だが......!」

 

 はっくんは土地神の身体から手を引き抜いた。

 その手を見て、あこは目を見開いた。

 ドクンドクンって動いてる、変な物体。いや、心臓だ。

 はっくんは、土地神の心臓を奪ったんだ。

 

「貴様を滅するため......私も妖に堕ちよう!!」

 

 そう言って、はっくんは土地神の心臓を飲み込んだ。

 森も、空も、土地神も、全てに動揺が走っているようだった。

 そして__

 

「うごぉぉぉぉぉ!!!き、貴様ぁぁぁぁああ!!!」

 

 心臓を飲み込んだ瞬間、土地神は泥みたいに溶けていった。

 はっくんは......

 

「あ、ゆびぃ.....」

「藤原、様......」

 

 苦しみながら、あゆびを抱きしめていた。

 少しずつ、はっくんの姿が変わってる。

 けど、何かおかしい。

 まるで、あこが見た土地神みたいになっていってる。

 

「私は、あなた様を.....愛しておりました......」

「私も、だ......」

「魂が巡り......また生まれて......身分も何もない世界で......あなた様と......」

「!!」

 

 あゆびは最後の力を振り絞って、変わっていくはっくんにキスをした。

 

 その瞬間、はっくんに変化が起きた。

 まるで、卵が孵化するように、ドロドロの部分が割れて、青白い光を放ってる。

 

「いつか......お会いしましょう......愛する人......」

「......」

 

 ストンと、あゆびの腕が落ちていった。

 完全に、力尽きたんだ。愛する人に思いを伝えて。

 そんなあゆびを支えているのは......

 

「__必ず見つけよう。何百年かかろうと。」

 

 はっくんは、ゆっくりと飛び上がった。

 あゆびを抱いたまま、飛んでいく。

 そして、向かったのは、あゆびを生贄にした村だった。

 

「か、神......!?」

「あ、あゆびがいるぞ!」

「か、神よ!生贄を捧げました!お救いください!」

 

「__教えてくれ。なぜ、兄が」

 

 はっくんの顔が強張る。

 そして、青白い光が段々と強くなっていく。

 

 そして、苦虫を噛み締めるような顔と声で、はっくんは呟いた。

 

「人も、妖も、このように醜いものなのか......っ!!」

 

 村が、白い光に包まれる。

 そして、消えていく。

 村も、人も、妖も、何もかも。

 

 そして、何もかもが消えた場所に、はっくんは佇んでいた。

 

 “現実”

 

「......これが。」

 

 さっきの記憶を見て、分かったことがある。

 ここは元々、村があった場所だ・

 それが時間をかけて、こんな風景になったんだ。

 

「わしはあゆびを弔った後、全国の妖を狩った。土地神も所詮、妖の一種。それによってあゆびと同じようになる人間が現れぬように。」」

「そっか......」

 

 そうやって、千年もあゆびを待ってたんだ。

 あんなに愛してても、中々できることじゃない。

 なのに、はっくんはやり遂げたんだ。

 

 だから、あゆびの生まれ変わりのあこが答えてあげないと。

 

「魂が巡り、また生まれて、身分も何もない世界で、あなた様と。」

「!」

「そう言って、分かれて、出会って。そして、また、あこははっくんを好きになった。」

 

 あこははっくんに抱き着いた。

 魂レベルで、それは決まってたんだと思う。

 あゆびはそれだけ、はっくんを愛してた。

 千年経っても、色褪せないくらいに。

 

 そして、それは、あこに受け継がれた。

 

「愛してるよ、はっくん。」

「!」

 

 素直に、そう言えた。

 あゆびの願いとあこの気持ち。

 この両方が、結びついた気がした。

 

「わしも愛しておる。宇田川あこを。」

「うん!」

 

 それからしばらく、あこははっくんに抱き着いてた。

 やっと、ほんとの意味ではっくんの彼女になれた。

 もう迷わない。何があっても、ずっとはっくんを愛し続けるんだ。

 

 

 

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