葛藤とは、人生におけるテーマであると思う。
人は、大小があるにしろ、葛藤を繰り返して、それが折り重なり人生としている。
これが、人間の社会を見てきた、わしの感想じゃ。
だが、これはあくまで人の生の話。
それ以外は、果たしてどうなるのじゃろうな。
(葛藤、か。)
その問いの答えは、それ以外にも存在するじゃ。
他の種族は知らぬが、妖は少なくとも葛藤する。
不思議なものじゃ。
妖になり千余年、こんな人との共通点があるとは、気付かなかった。
(あこと出会って数か月、楽しい時間じゃった。)
わしには、与えてやれなかった。
あゆびには、幸せを与えられなかった。
だが、あこは違う。わしがいなくても、幸せじゃった。
だからこそ、わしの気持ちもはっきりさせないといけぬ。
(あこは、平和な時代の人間じゃ。あゆびとは違う。)
いくら記憶を取り戻そうと、あこはあゆびではない。
もし、わしがあゆびを思い出し続ければ、あこも疑問を感じるだろう。
あこはわしのための過去に向かってくれた。
故に、わしは未来へ向かう必要がある。
(もし、あこがすべての記憶を取り戻し、すべてが決すれば。わしも伝えるとしよう。)
わしは夜空に浮かぶ月を仰ぎ見た。
今日の月は、青白くて、輝いておる。
まるで、あこの魂のようじゃ。
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“あこ”
林間学校から2週間が経った。
中間テストが終わって、気温がだんだん高くなって、夏の訪れを感じる。
そんな日の夜、あこはとある林に来てる。
(ここ、かな?)
ここは人の気配がなくて、静かだ。
なんだかお化けでも出てきそうだけど。
まぁ、はっくんがあこたちの認識ではそんな感じだし、もう慣れたかな。
「はっくん。いる?」
「__あぁ、ここに。」
「!」
あこが呟くようにそう言うと、暗闇から、白い影が出て来た。
その影は少しずつ形になって、尻尾が生えた状態のはっくんになった。
はっくんはいつも通り、優しい笑みを浮かべている。
「では、あこの記憶を取り戻すため、わしの獣化を見せよう。」
「う、うん。」
「その前に、場所を変えねばな。ここでは、辺りの人間に影響を与えてしまう。」
はっくんはそう言って、ゆっくり近づいて来た。
そして、あこの方に手を伸ばしてきて、そのまま両目を塞がれた
「動いてはいけぬぞ。」
そう言われた次の瞬間、体が軽くなった気がした。
立ってるはずなのに浮いてるみたいに感じて、不思議な感覚だった
「__開けてもよいぞ。」
「うん__わぁ!」
目を開けると、あこはどこかは知らない、森の中にいた。
周りを見る限り山ばっかりで、湖があって、蛍がたくさん飛んでる。
「ここは、あゆびと出会った場所じゃ。当時とはだいぶ変わっておるのじゃが。」
なんだか、少し懐かしい感じがする。
多分、記憶の種が反応してるんだ。
それでも、記憶が戻らないのは、風景自体には妖力がないからかな?
「では、見せよう。わしの真の姿を。」
「きゃ!!」
びゅうっと、嵐のような風が吹いた。
それと同時に、なんだか、ものすごい胸騒ぎを感じる。
多分、これがここに来た理由だ。
確かに、住宅街の近くで返信したら、大変かも。
「現実でこの状態で会うのは初めてじゃな。あこ。」
「こ、これが、はっくんの__あぐっ!!」
「!(始まったか。)」
はっくんの姿を見た瞬間、あこの脳内に記憶が流れ込んできた。
頭が割れるように痛い。
そんな痛みの中、あこの意識は流れ込んできた記憶の中に溶けていった。
“記憶”
整備もされてない、木が無限にあるように感じる森の中。
光は葉と葉の間から入ってくる少しの光しかなくて、お昼なのに全然暗い。
ここは、どこだろう。
「__藤原様!」
「あゆび。」
目の前に現れたのは、記憶の中で見たあゆびと身なりがいい男の人。
藤原ってことは......多分、偉い人だ。
そんなこと、教科書に書いてた気がする。
「わざわざ、隠れて会うのも手間だ。いっそ、兄を我が家系に招ければ......」
「そ、そんな。私は、そんな人間ではありません......」
多分、あの2人は好き同士なんだ。
だから、わざわざ2人でなんて会ってる。
しかも、すごい大変な思いをしてまで。
「今日は、そなたに詩を詠もう。離れていた間、兄を思い、したためておいた。」
「とても、楽しみです......」
2人はそのまま寄り添って、男の人の方が詩を詠んだ。
あこにはなんとなく意味が理解できた。
あの詩は、すごい壮大なラブレターだったんだと思う。
お互いに、愛してやまないのがよくわかった。
そして、分かった。
あの身なりの良い男の人。あの人がはっくんだ。
口調も格好も違うけど、はっくんだ。
(そっか。はっくんも、人間だったんだ。でも、なんで妖に?)
そう思った瞬間、一気に場面が切り変わった。
空は暗くなって、場所は見たことのある村。
そして、真ん中には大きな焚火がある。
(ここは......っ!)
あゆびが死んだ日の光景。
確か、ここで土地神にあゆびが__
「__あゆび。貴様の命は我が貰う。」
「ふ......ふわら、様......」
「あの男か。残念だ。我を受け入れておれば、死なずに済んだものを。」
土地神の手があゆびの方に伸びていく。
あゆびはもう、虫の息だ。
あこはその光景が怖くて、足がすくんだ。
「__ああああああ!」
「ぬぐぅ!?」
(!!)
その時、暗い森に響いたのは、大きな男の人の声。
そして、肉が裂けたような、生々しい音だった。
目を凝らしてみると、土地神の身体を、はっくんの手が貫いているのが見えた。
「神は、これでは死なぬぞ。人間。」
「知っておる。だが......!」
はっくんは土地神の身体から手を引き抜いた。
その手を見て、あこは目を見開いた。
ドクンドクンって動いてる、変な物体。いや、心臓だ。
はっくんは、土地神の心臓を奪ったんだ。
「貴様を滅するため......私も妖に堕ちよう!!」
そう言って、はっくんは土地神の心臓を飲み込んだ。
森も、空も、土地神も、全てに動揺が走っているようだった。
そして__
「うごぉぉぉぉぉ!!!き、貴様ぁぁぁぁああ!!!」
心臓を飲み込んだ瞬間、土地神は泥みたいに溶けていった。
はっくんは......
「あ、ゆびぃ.....」
「藤原、様......」
苦しみながら、あゆびを抱きしめていた。
少しずつ、はっくんの姿が変わってる。
けど、何かおかしい。
まるで、あこが見た土地神みたいになっていってる。
「私は、あなた様を.....愛しておりました......」
「私も、だ......」
「魂が巡り......また生まれて......身分も何もない世界で......あなた様と......」
「!!」
あゆびは最後の力を振り絞って、変わっていくはっくんにキスをした。
その瞬間、はっくんに変化が起きた。
まるで、卵が孵化するように、ドロドロの部分が割れて、青白い光を放ってる。
「いつか......お会いしましょう......愛する人......」
「......」
ストンと、あゆびの腕が落ちていった。
完全に、力尽きたんだ。愛する人に思いを伝えて。
そんなあゆびを支えているのは......
「__必ず見つけよう。何百年かかろうと。」
はっくんは、ゆっくりと飛び上がった。
あゆびを抱いたまま、飛んでいく。
そして、向かったのは、あゆびを生贄にした村だった。
「か、神......!?」
「あ、あゆびがいるぞ!」
「か、神よ!生贄を捧げました!お救いください!」
「__教えてくれ。なぜ、兄が」
はっくんの顔が強張る。
そして、青白い光が段々と強くなっていく。
そして、苦虫を噛み締めるような顔と声で、はっくんは呟いた。
「人も、妖も、このように醜いものなのか......っ!!」
村が、白い光に包まれる。
そして、消えていく。
村も、人も、妖も、何もかも。
そして、何もかもが消えた場所に、はっくんは佇んでいた。
“現実”
「......これが。」
さっきの記憶を見て、分かったことがある。
ここは元々、村があった場所だ・
それが時間をかけて、こんな風景になったんだ。
「わしはあゆびを弔った後、全国の妖を狩った。土地神も所詮、妖の一種。それによってあゆびと同じようになる人間が現れぬように。」」
「そっか......」
そうやって、千年もあゆびを待ってたんだ。
あんなに愛してても、中々できることじゃない。
なのに、はっくんはやり遂げたんだ。
だから、あゆびの生まれ変わりのあこが答えてあげないと。
「魂が巡り、また生まれて、身分も何もない世界で、あなた様と。」
「!」
「そう言って、分かれて、出会って。そして、また、あこははっくんを好きになった。」
あこははっくんに抱き着いた。
魂レベルで、それは決まってたんだと思う。
あゆびはそれだけ、はっくんを愛してた。
千年経っても、色褪せないくらいに。
そして、それは、あこに受け継がれた。
「愛してるよ、はっくん。」
「!」
素直に、そう言えた。
あゆびの願いとあこの気持ち。
この両方が、結びついた気がした。
「わしも愛しておる。宇田川あこを。」
「うん!」
それからしばらく、あこははっくんに抱き着いてた。
やっと、ほんとの意味ではっくんの彼女になれた。
もう迷わない。何があっても、ずっとはっくんを愛し続けるんだ。