ブレインコントローラーウォーズ   作:ロクサス1313

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Chapter3 「人助けとは?」

「あなたにとってのヒーローは誰ですか?」

 

実在しないヒーローだったら、ウルトラマンコスモスと僕は答えると思う。

 

だけど実在する人物だったら、間違いなく薄井モコのことだと言うだろう。

 

もし彼女に直接そんなこと言ったら、照れ臭そうな笑顔で「そんなことないっすよー。」と、やんわりと否定されそうだが。

 

彼女は困っている人間がいたら、絶対に通り過ぎない人間だった。

 

僕もその一人で、彼女の温かな言葉、くったくのない笑顔に何度救われたことだろう。

 

僕が自殺未遂をしたあの時だって、そうだった。

 

当時僕は専門学生で、学校生活が上手くいかず苦しんでいた。

 

通学に向かう電車、教室までの階段、すれ違う学生や教師どれもが憂鬱の象徴だった。

 

僕はいつものように、教室の扉を鉛のように重たい右腕で引く。

 

だが、僕が教室に入っても、誰も僕に話しかけてくれない。

 

それどころかみんなから浴びる視線は、「クラスに一人はいる、めちゃくちゃキモいやつ」に向けるものだった。

 

見た目も大してカッコよくなく、何事もネガティブにしか物事を捉えない、明らかに陰キャそのものなやつにはお似合いな視線だ。

 

小、中、高といじめられてきた僕に、染み付いたキモいオーラは一生払拭出来ないのだ。

 

もしキモさを測るスカウターがあれば、

 

「私の戦闘力は53万です。」

 

と言ったフリーザくらいの威力はある、数値を叩き出す自信がある。

 

そしてそのキモいやつをみる視線とやらは、一瞬で消え、僕は存在しないものとして扱われる。

 

クラスメイトたちは、何気ない雑談やスマホゲームの対戦に勤しみだす。

 

闇野

「死にてえ...。」

 

その光景に、思わず蚊の泣くような声で、僕の心が漏れ出す。

 

何十万回とその思考の再放送に、自分でもうんざりする。

 

だが、僕はどうせそんな勇気もないと諦める。

 

そして席について、肩にかけられたブラックのリュックサックを机に置く。

 

その中から僕のヒーローアカデミアの単行本を、取り出しパラパラとページをめくり始めた。

 

授業が始まるまでのあいだの、スマホゲーム、コミックが僕にとっての、現実と空想を断絶する唯一の隔たりであった。

 

コミックを読みながらも意識の片隅で、僕は自分の今の現状を嘆いていた。

 

僕はどこにいても、浮いた存在で友達が作れない。

 

どうしてみんなは、簡単に友達が出来て、僕は上手く出来ないのだろうか?

 

毎日のように、自分はここにいちゃいけないのかもしれない。

 

この世界に産み落とされてきたことは、間違いであったと思い続けていた。

 

そんなある日、僕は決意を固める。

 

「自らを終わらせる」ということに。

 

ある朝僕は、近所のドラッグストアで事前に購入していた風邪薬を、ひと瓶まるごと飲み干すことにした。

 

死に場所に選んだのは、学校の近くのコンビニのフードコートだ。

 

大量の錠剤を飲み干すのは、息が詰まるほど苦しくて、思わずオエッとなる。

 

ピーナッツ感覚で、サクサクとはいかないものだ。

 

薬を飲み切って数分後、僕はぐわんぐわんと激しい頭痛に悩まされながらこう思った。

 

闇野

「(やっと...。終わりにできる...。)」

 

僕はたちまち、酔っ払いかの如く、へべれけのベロンベロンになる。

 

コンビニの店員が、そんな様子のおかしい僕に気づいたのだろうか?

 

コンビニ店員

「うちの店で20代前半くらいの男性が....!」

 

とポケットからスマホを取り出し、焦った口調で救急車を呼んでいるようだ。

 

死ぬ時まで僕は散々人に迷惑をかけるなんて、最低なやつである。

 

しばらくして、僕は救急車で運ばれていく中で、救急隊員に言われたある言葉がある。

 

救急隊員

「生きていれば良いこといっぱいありますよ!」

 

と。

 

僕は思った。お前に何がわかる。無責任なこと言うなと。

 

だったらお前は僕に何をしてくれる?

 

働かなくていいだけの金をくれるのか?

 

僕をいじめたやつを代わりに殺してくれるのか?

 

僕のこの辛い現状をお前が魔術とやらで、変えてくれるのか?

 

無理だろうな。そう思うやいなや、そいつに僕はこう叫ばずにいられなかった。

 

闇野

「うるせえ!!そうじゃねえから、死のうとしたんだろうが!!」

 

僕は肉体と精神の、耐えがたい苦しみと痛みの中、そう狼のように吠えた。

 

その吠え声は、ピーポーピーポーのサイレンにも負けないほどだった。

 

そう怒鳴りあげた後、僕はぷっつりと意識を失った。

 

〜

 

あれからどれだけの時間が経っただろうか。

 

僕が目を覚ますと、視線の先には真っ白な天井が広がっていた。

 

照明と合わせた眩しさに腕で顔を覆う。

 

ここは病院のベッドだと、瞬時に理解した。

 

闇野

「うぅ...。僕死ねなかったんだ...。」

 

ゆっくりと起き上がる僕。

 

だが起き上がると同時に痛みも現れた。

 

あれだけのことをしたんだ。全身のダルさと激しい頭痛が襲う。

 

そんな状況の中、僕はポケットからスマホを取り出す。

 

そして、レインを開き、自然と彼女、薄井モコへと連絡を入れていた。

 

何でかは分からない。

 

こういうことは、理屈なんかじゃないのだ。

 

ここからは、僕と彼女とのレインの会話を記すことにする。

 

闇野

「モコ... 。今日、風邪薬いっぱい飲んで死のうとしたんだけど失敗しちゃった... 。」

 

モコ

「どうしてそんなことしたの!?闇さんが死んだら、私怒りますから!」

 

闇野

「学校生活が上手くいかなくてね... 。勉強も大変でついていけないし、友達も出来ないで孤立してたからね。それで、親に学校を辞めたいって言ったら、辞めるなら家族の縁を切るって言われてもう死ぬしかないかなって... 。」

 

モコ

「そうだったんだね...。私に出来ること何かないかな?」

 

闇野

「残念ながらないと思う...。友達が沢山いるモコには、僕の本当の辛さは分からないよ。君と僕は光と闇、違う世界の人間なんだ。ただ、話を聞いて欲しかっただけだから。」

 

モコ

「違うよ!私、闇さんに伝えたいことがある。闇さんと私はとても似てる。私も表には出さないけど、気持ちが沈んだ時は自分を傷つけるようなことをしてしまう時がある。今も治療のため、定期的に心療内科を受診して薬を飲み続けてるんだよ。だから、闇さんの気持ちが痛いほど分かるし、闇さんを救いたい!」

 

闇野

「そっか... 。モコも色々背負ってたんだね... 。モコはいつも明るくて面白い子って思ってたから、そんなことには縁のない子と誤解してたよ... 。ありがとう。モコ。その言葉だけで僕は救われたよ。」

 

以上が記録の全容だ。

 

後に彼女はこうも語っていた。

 

モコ

「辛い毎日を生きている人が色んな形で辛いということを嘆くと、「でもあいつ本気で死ぬ気ないから」と分かったようなことを言う人がいます。

 

そんなつまんない返答をする暇があるなら、助けるそぶりくらいしなさいな!私ならハグでもするぜ!」

 

と。

 

彼女が僕にとってのヒーローだと言うことが、これでお分かりだろう。

 

彼女は困っている人がいたら、絶対に通り過ぎないのだ。

 

 

ブレインコントローラーウォーズ

chapter3「人助けとは?」

 

 

 

???

「起きてヒナちゃん!着いたよ!起きて!」

 

誰かが僕の右肩を揺すりながら、僕の偽の名前を呼んでいる。

 

その声は女性にしては低く、クールで温かみのある僕の大好きな声だ。

 

この声を聞いた瞬間、僕は僕を起こした人物が分かった。

 

彼女のどこが一番好きかと聞かれたら、間違いなく声と答えるくらい、大切だからだ。

 

僕たちが乗っている電車の、ガタンゴトンという音と彼女の声はいい感じで掛け合わさりなんとも心地が良い。

 

僕が瞼を開け、肩を揺すられた方を向く。

 

すると、メガネをかけたボーイッシュ なセーラー服の少女モコがいた。

 

僕は無事に帰ってきたのだ。

 

僕が幸せで唯一いれる、ユウトピア(理想郷)へと。

 

ヒナコ

「おはよ...。」

 

僕は眠たい目を擦りながら、惚けた顔でそう言った。

 

〜

 

それから数分後、僕とモコはハルとも合流し、いつものように教室へと向かった。

 

だがしかし、教室への扉を開けるやいなや、目も当てられないような光景を僕たちは目の当たりにすることとなった。

 

教室の後ろの隅で、クラスメイトの田島アキと前田セイコが、種山ネズをいじめていたのだ。

 

種山が田島に羽交締めにされ腕を掴まれ、前田の手によって、スカートとパンツを脱がされ、自らの陰部が丸出しになっていた。

 

田島

「皆さーん!見てくださーい!キモネズミがど変態行為をしてますよー!」

 

キモネズミは種山のあだ名。本名がネズだからそう呼ばれてるのだろう。

 

田島の呼びかけで、クラスにいた生徒たちの視線が一斉に彼ら三人に向けられる。

 

プッと吹き出すスクールカーストの高い生徒たち、見下すような目で見るクラスの優等生、馬鹿笑いをしながら指を指す生徒たち。

 

と言った具合でクラスの雰囲気は三者三様であった。

 

種山

「やめてくださいっ!やめてくださいっ!」

 

種山は不細工な面構えをさらに不細工にさせて、ヒィヒィと泣き喚いている。

 

前田

「ぶひゃひゃひゃ!まじこいつおもしろ!」

 

前田はそれを見て、お笑い番組を見ているかの如く、大爆笑する。

 

ハル

「はぁー。あの子たちまたやってるよ!他人を傷つけて何が楽しいんだか...。」

 

ハルはその悲惨な現場を目の当たりにして、呆れ顔でため息を吐く。

 

ヒナコ

「仕方ないですよ...。これが世の中というものですから。だからと言って、ワタクシたちが下手に手を出すと、ワタクシたちにもその被害が及ぶ可能性もありますからね..。」

 

僕はメガネの縁をくいっとして、冷静かつ、ヒナコらしい口調を演じながらそう言った。

 

いじめはいじめられる方が悪いと言う言葉がある。

 

確かにそれは間違っている。

 

でも、いじめはいじめられる方にも原因があるとは思っている。

 

種山はメガネをかけた、不細工な少女で、明らかにいじめっ子に目をつけられそうな見た目をしている。

 

さらには、勉強もダメ、スポーツもダメ、友達もいないとダメダメづくしの生徒であった。

 

そしていじめられても気が弱く、やり返さないかつ、誰にも相談しないから、いじめられても仕方ないのではないだろうか?

 

僕も現実世界ではいじめられてきた。

 

種山はまさに、学生時代の僕そのものだった。

 

入学式の日にハルが不良に絡まれた時とは訳が違う。

 

今、種山があんな辱めを受けているのは、彼女の自業自得と言わざるを得なかった。

 

僕がそんな思考を張り巡らせていると、

 

モコ

「あー!見てられない!」

 

モコが許せないと言った表情で、そう言った。

 

そして、いてもたってもいられなかったのだろう。

 

すたすたと怒りに身を任せた足取りで、種山たちの元へと駆け寄っていく。

 

その場にいた生徒たちの、視線が一気にモコに向くが、そんなのお構いなしと言った様子だ。

 

彼女のことだからむやみに動けば、リスクがあるというのは重々承知だろう。

 

それでも、種山を放っておけなかったのだ。

 

ヒナコ

「あっ!モコ!行っちゃダメです!」

 

制止も虚しく、僕とハルは取り残されてしまった。

 

モコは種山たちの前に立ちはだかると、開口一番こう言った。

 

モコ

「ちょっといい加減にしてくれないすか?彼女嫌がってるじゃないすか。」

 

彼女の自らの拳は握られ、言葉の一つ、一つに怒りの感情が込められていた。

 

前田

「何?私たちに盾つくわけ?」

 

田島

「私たち別にいじめてるわけじゃないんですけどー。ただ、遊んでるだけじゃん!何勘違いしてんの?うけるー!」

 

だが、前田と田島はモコをせせら笑うかのように、冷ややかな態度を示す。

 

モコ

「いじめる方はいつだって冗談。でも...いじめられる方はいつだって本気だ!」

 

モコの心は怒りを既に通り越していた。

 

田島

「ちょ...!何すんの!」

 

彼女は両腕で、田島の腕を強引に引き剥がし、種山の解放する。

 

種山

「あっ...ありがとう。」

 

種山はそうぼそっとそう言うと、パンティとスカートを急いで履いて、そそくさとモコの後ろに隠れる。

 

モコ

「いえいえ。困っている人がいたら、助けるのは当たり前だよ。」

 

モコは種山に笑いかける。

 

だがその表情を一瞬で怒りの表情に変えると、田島と前田に向けた。

 

この教室内はモコ、田島、前田の三人で、まさに一触即発と言った状況になっていた。

 

僕自身もモコの助っ人に加わって、彼女を助けたかった。

 

だがしかし、足が震えて動かない。

 

もし助けに行って、自分が今度はいじめのターゲットになったらどうする?

 

自分が行かなくても、他の誰かが代わりに動いてくれるはずだ。

 

そんなしょうもない言い訳ばかりを、頭の中に張り巡らせていた時だった。

 

教室の入口のガラガラという引き戸の音と共に、担任の遠目塚先生が入ってきた。

 

遠目塚先生

「はーい!そろそろ始業のチャイム鳴るよー!みんな席に着いてー!」

 

先程の修羅場を知らない彼女は、いつものように生徒たちに席につかせるよう急かす。

 

前田

「お前、先生にチクんなよ。」

 

田島

「あんたみたいなのを偽善者って言うんだよ。」

 

前田と田島はモコに負け惜しみとも取れるような、捨て台詞を吐いて、何食わぬ顔で席に戻る。

 

モコはその背中を黙って、睨みつけていた。

 

〜

 

昼休み、僕は学校の屋根のない渡り廊下の端で、ハルとモコを待っている間スマホである記事を見ていた。

 

何故そこにいるのかというと、三人で昼食を取る際はこの屋上でとお決まりだからである。

 

だが、その記事を見た瞬間、僕を目を疑った。

 

記事

『男が電車内でたばこを注意された腹いせに、高校生を暴行、顔面骨折負わせる』

 

この空想の世界は、現実の世界に限りなく近く作った世界。

 

僕が幸せな生活を送っている中で、こんな痛ましい事件が起きていたのか...。

 

僕は胸の奥が、ギュウと締め付けられる気持ちになった。

 

自分たちも悪を目の前にすることはあるし、悪は正さなければならない。

 

ただ同時に、トラブルも避けたい。

 

ウルトラシリーズなら、ウルトラマンが悪い怪獣や宇宙人をやっつけてくれる。

 

しかしこの目も覆いたくなるほどの悲しい現実の世界では、いつも正義の味方が強いわけではない。

 

仮に強かったとしても、相手にケガをさせたりすれば、僕たちの心情とは逆に、正義の味方が法的責任を問われる可能性だってある。

 

今朝起きた、種山へのイジメ事件もそうだ。

 

あのままイザコザが続いていたら、モコもこの子みたいに重傷を負わされていたかもしれない...。

 

困っている人がいたら通り過ぎないことは、大変危険で恐ろしい行為。

 

人助けなんかしても、その気持ちが裏切られるだけで割に合わないのだ。

 

僕がそんな思想を張り巡らせていると、そこへハルとモコが走ってやって来る。

 

モコ

「ごめん!売店混んでたんだよねー!」

 

ハル

「スペシャルドッグめちゃ人気で困るよー。」

 

スペシャルドッグは円香女子でも、屈指の人気メニューだ。

 

並んでも買えない日があるので、いつも争奪戦が起こっているほどである。

 

ヒナコ

「いえいえ。ワタクシは、お二人とお食事をご一緒できるなら、いくらでもお待ちしますよ。」

 

僕は女の子らしく、可愛くお辞儀をしてそう答える。

 

ハルとモコがスペシャルドッグを持って、僕の隣に座る。

 

そして僕は偽お母さんお手製の、弁当の箱を広げた。

 

どうせ食べても味がしないから、食事はただのパフォーマンスでしかないのだが。

 

ヒナコ

「あの...。今朝の出来事、お二人はどう思いますか...?」

 

僕は出来るだけ清楚な仕草で、タコさんウィンナーを口に運びながらそう尋ねる。

 

ハル

「種山さんのこと?」

 

ハルが気まずそうな表情でそう返す。

 

あまりその話題を話したくないのだろう。

 

誰だって、目を逸らしたい出来事だから当たり前だ。

 

ヒナコ

「はい。」

 

だが、僕も真面目な顔つきで頷く。

 

モコ

「あー。本当ああいうの許せないよね。だからこそ...。私は自分の手の届く範囲で、自分の正義と守れる人を全力で守りたい!」

 

どう答えたらいいか分からないハルを差し置いて、モコが意見を述べる。

 

ヒナコ

「モコ...。あなたって本当かっこいいですね...。」

 

やはりモコは僕の憧れの存在でヒーローだ。

 

言葉で言うだけなら、誰でも出来るが、彼女はそれを実践しているのだから。

 

モコ

「えへへー。そうかなー。私の言葉は大体誰かの受け売りですよー。」

 

モコはいつものような、戯けた照れ笑いを返す。

 

だけど、僕は言えなかった。

 

いつかそのせいで、モコが傷ついたり、嫌な思いをするかもしれないから、もう困っている人を助けようとするのは辞めてと。

 

〜

 

放課後僕は掃除当番のため、夕日の指す教室に残っていた。

 

今はもう1人の当番ハルを待っている。

 

ヒナコ

「全然いらっしゃらないですね...。」

 

中々現れない彼女に、心配しながらも待ち続けていた。

 

何かあったのだろうか?

 

そこに遠目塚先生がやってくる。

 

遠目塚先生

「ごめんねー。当番の相手なんだけどねー。」

・

・

・

どうやら彼女は体調が優れないからと、先に帰宅したようだ。

 

驚いた。一緒に昼食を取っていた時は、あんなに元気だったのに。

 

もしかしたら、もっと他の事情があったのではないだろうか?

 

ヒナコ

「(ハル...。もしかしたら、お昼の時に僕があんな話を持ちかけたから...。)」

 

そう思いながらも仕方なく、1人で掃き掃除をこなし後はゴミをゴミ捨て場に持って行くだけだ。

 

1人だと時間が掛かってしまい、既に色んな部活動が始まっているようだ。

 

そして中庭の横にある、ゴミ捨て場に辿り着きゴミを捨てた。

 

その捨てられたゴミはまるで、現実世界の僕と種山のようだった。

 

すると帰りの体育館の外の片隅で、体育座りをして泣いてる一人の女生徒を見つけた。

 

ヒナコ

「(あれは!ハル!)」

 

ハルはいつも持ち歩いている、塗装がいくつか剥がれ落ちた「ウルトラマンティガ」のソフビ人形に向けて、語りかけていた。

 

ハル

「私は目の前に困っている人がいたのに...。何も出来なかった...。私は...。弱虫で、卑怯で、泣き虫だ...。ねぇ、ティガ教えて...。どうしたら私は強くなれるの。」

 

あぁ、彼女は今朝種山がいじめられている時に、助けにいかなかったことを後悔していたのだ。

 

種山がいじめられていた時にも、ハルは彼女を助けようか、モコの助っ人に入ろうか葛藤し続けてたのだろう。

 

ハルも僕と同じ様に、ウルトラマンに憧れてきた人間。

 

ウルトラマンは弱いものをいたわり、命をかけてみんなを助けてくれる。

 

まさに神のような存在に等しい。

 

だから少しでも、彼らに恥ずかしくない行動を心がけようとする。

 

だがしかし、いざその状況になると、身体が動いてくれないのだ。

 

だから昼食の時に僕がその話題を出した時に、気まずそうにしていたのか。

 

あれは、自分の本心を隠すための行動だったのだろう。

 

そんなカッコ悪い自分を見せない様に、彼女は人目を避けて、一人で泣いているのだ。

 

そんな彼女に対して、僕はただただ言い訳ばかりを考えて、何にもしない自分を肯定するだけであった。

 

何て僕は最低なやつなんだ。

 

そんな僕が今目の前で泣いてるハルにかけてあげられる言葉なんて、何もない。

 

僕は彼女を見なかったことにして、そそくさとその場を立ち去った。

 

〜

種山の件、高校生への暴行事件、ハルの件。

 

それらが重なり、僕は帰り道でも悶々とした気持ちを抱えていた。

 

河川敷を歩く足取りも、どこか重たく俯いて歩いてしまう。

 

ここは豪遊でもして、パァーとストレス発散でもしてやろうか。

 

あいにく財布には、お金が10万円以上ある。

 

偽お父さんの職業は大企業、携帯会社「ハードバンク」の重役と僕が設定しておいたから、お金には困らない。

 

娘に甘い父親とも設定しているから、いつもお小遣いはたんまりくれるのだ。

 

ここは一つ、回らない寿司屋にでも行ってやろうか、それとも少し遠出して、千葉県の遊園地「デステニーアイランド」にでも行ってやろうか。

 

1人じゃ寂しいから、適当な友人を呼んで、JKらしくキャッキャウフフな1日を過ごそうか。

 

プリクラ撮って、あの世界一有名なウサギに会って、夜景の見えるレストランとやらでヤンスタ映えとやらをやってやらあ。

 

(現実世界ではネズミが有名らしいが、気に食わないのでウサギに変えてやった。)

 

でもあんなことがあったから、ハルとモコは誘えない。

 

もし誘えば、この世界でも嫌われかねない。

 

僕はクラスの人気者という設定、友達なら沢山いるのだ。

 

だがしかし僕の足は、自然と近所のボビーショップに向かっていた。

 

この店は80代のお爺さんが切り盛りをしている、古ぼけた店。

 

現実世界の僕が幼少期の頃、親に連れられ、ウルトラマンのソフビや変身アイテム、指人形など色々買ってもらったものだ。

 

現在の現実世界では、ジャングルなどのネットショップや、ビジョンなどの大型ショッピングモールの波に飲まれ、店は閉店となり、取り壊されている。

 

だが、僕は何故かこの店を当時のまま、蘇らせてしまったのだ。

 

こんなダメダメな日に、この店のウルトラマンたちに励ましてもらいたかったからかもしれない。

 

老朽化した店頭の引き扉を開くと、

 

お爺さん

「いらっしゃい....。」

 

店長であるお爺さんがしわがれた声で、そう言った。

 

僕は様々なおもちゃが立ち並ぶ道を、女の子の見た目になっていることも気にせず、大股でズンズンと進む。

 

どうせ、誰も見ていないからいいのだ。

 

早くウルトラマンに会いたいと、ウルトラマンのコーナーへと足を運ぶ。

 

そこにはズラッと並んだウルトラ戦士や、怪獣たちのソフビ、変身アイテム。

 

それだけじゃなく、既に廃盤になっているはずの、ティガを始めとする平成ウルトラシリーズの玩具が新品同様に発売されていた。

 

背中部分までしっかり塗装されたソフビ、あの時高すぎて買ってもらえなかった戦闘機、そして何と言っても羽の折れていないコスモプラックがあるのが感激である。

 

僕が妄想で作り上げたものと分かっても、それはそれは宝島以外の何者でもなかった。

 

そして僕は、こちらの世界でも、丁度放送を終えたばかりの、「ウルトラマントリガー」の変身アイテム「DXガッツスパークレンス」のお試し用が目に入った。

 

変身アイテムらしい、神秘的かつ、煌びやかなデザインだが、子供たちが遊びすぎているのか、所々塗装が剥げているのが微笑ましい。

 

僕は何にも考えずに、真っ先にスパークレンスの持ち手に手を伸ばす。

 

ヒナコ

「えへへ...。」

 

僕は思わず女子高生の顔から、少年のような笑みを浮かべた時だった。

 

少年

「お姉ちゃんもウルトラマン好きなの...?」

 

スポーツ刈りで、半袖半ズボンとまさに元気いっぱいといった感じの、小学校低学年くらいの少年が話しかけてきた。

 

横から羨ましそうに、僕が持っているガッツスパークレンスを眺めていた。

 

ヒナコ

「あっ...!ごめんなさい!ワタクシ大人気なかったですね...!はい。どうぞ。」

 

僕はテンパって早口になりながらも、少年にスパークレンスを手渡す。

 

少年

「ありがとうお姉ちゃん!僕、タカト!お姉ちゃんは?」

 

タカトはそれを受け取ると、まるでクリスマスプレゼントを貰ったかのように、顔を綻ばせる。

 

そして、スパークレンスをガチャガチャしながら、僕にそう尋ねた。

 

ヒナコ

「ひゃいっ!ワタクシはヒナコですっ!」

 

僕は初対面でいきなり名前を聞かれて、さらにドギマギして、手を顔の前でブンブンしてしまう!

 

タカトはそんな僕の様子がおかしかったのか、ケラケラと笑う。

 

〜

 

あれから仲良くなった僕とタカトは、店を出た後も仲睦まじくお喋りをしながら歩いていた。

 

まさか、モコとハル以外にも、ウルトラマンのことについて、気を許して話し合える友達が出来るとは思わなかった。

 

あの今日の悩みも忘れさせてくれる勢いだ。

 

だがそんな中、タカトはふとこんなことを尋ねる。

 

アルファリオンとタイムボンが戦った事件についてだ。

 

タカト

「そういやお姉ちゃん!この前、街に怪獣が出た事件があったよね?」

 

ヒナコ

「えぇ...。確か、時計の怪獣でしたよね...。あの、騒音には苦しめられました...。」

 

タカト

「でさでさ!僕、あの怪獣と戦ったのって、ウルトラマンだと僕思うんだー!」

 

ヒナコ

「あはははは...。タカトくんは可愛いですね。」

 

タカト

「もー!子ども扱いすんなよ!この世界のウルトラマンは作り物だけど、別次元の宇宙にはウルトラマンは絶対いるもん!ヒナコねーちゃんは、超ウルトラ8兄弟は見てないのかよ!だからー。あのヒーローは別次元から来たウルトラマンだよ!」

 

タカトはもう小学生。

 

既にウルトラマンが作り物だと、理解している。

 

大人になりたくないという気持ちの表れだろうか、どうにかして、彼らが実在する可能性を手繰り寄せようとしているようだ。

 

そんな気持ちを、2008年に公開された映画「超ウルトラ8兄弟」という作品はいい材料となっていた。

 

この作品は「かつてウルトラシリーズがテレビで放映されていた世界に本物のウルトラマンが現れる」という、名作である。

 

ヒナコ

「うふふ。そうだと良いですね...。」

 

僕はタカトの夢を壊さないため、出来るだけ、大人の余裕を見せつける演技をしてそう答えた。

 

だがあれはアルファリオンは、ウルトラマンなんかじゃなく、ブレインコントローラーのマイナスエネルギーで作られたバケモノだ。

 

怪獣の脅威に対して、バケモノの力で押さえつけただけ。

 

彼はそれを知らないのだ。

 

そんな気持ちの僕と、夢を信じるタカトが、コンビニの前を通り過ぎようとしていた時であった!

 

コンビニ店員

「だっ!誰かそいつを捕まえてくださいっ!!」

 

ハァハァと息を切らしながら、呼びかけるコンビニ店員の声が響き渡る!

 

何が起こったのだろうか?

 

僕がそう考える間も無く、全速力で走る僕の偽の姿と同じくらいの歳のセーラー服の少女が、僕の前を通りすぎた。

 

僕はなぜか反射的に彼女を追いかける。

 

運動神経は抜群なように設定しているから、余裕綽々だ。

 

スポーツ選手のような、綺麗なフォームで横断歩道を華麗に走り抜ける。

 

ボブカットの髪をふわりと靡かせ、Eカップの爆乳を大きく上下に動かしながら、僕は全力で彼女に距離を詰めていく。

 

コンビニから数百メートル離れた商店街に差し掛かったその時、追われていた少女は目の前の石につまずき、頭から豪快に転倒してしまった。

 

僕はチャンスとばかりに、彼女のセーラー服の肩を掴み、逃げれないようにする。

 

ヒナコ

「もう逃げられませんよ...。ハァハァ...。」

 

少し走っただけだが、全力疾走したため、僕は額に玉のよう汗が流れ、セーラー服は汗でびしょびしょだった。

 

その光景を見ていた街の住民たちも、何事かと僕とその捕まえた少女をチラチラと見ていた。

 

捕まえた彼女の様子を見ると、着ていたセーラーは僕と同じ学校ではないか。

 

さらに、顔を見てみると、なんと、いじめられっ子の種山だった。

 

ヒナコ

「種山さん...!何があったんです!?」

 

僕は驚きの表情を隠せないまま、尋ねる。

 

種山

「私、田島さんたちに、コンビニで万引きしてこいって言われて...。断れなくて...。でも失敗しちゃって...。」

 

種山はパニックになりながらも、途切れ途切れに説明する。

 

田島や前田のせいで、今度は種山は犯罪に手を染めてしまったのか...。

 

彼女が失敗しても、自分たちの手は汚れない。

 

なんて卑怯なやつらなんだ。

 

それよりも卑怯なのは僕だ。

 

あの時、僕が彼女をいじめから救っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

 

自分に何か出来たかもしれないのに、自らの保身のために何もしなかった僕のせいで、種山は犯罪者になったのだ。

 

全部僕のせいだ。

 

その時、後を追っていたコンビニ店員とタカトが駆け寄ってきた。

 

コンビニ店員

「ああー。お姉さんありがとうー!万引き犯捕まえてくれてー。」

 

タカト

「すごい!ヒナコお姉ちゃんはウルトラマンだね!」

 

二人は僕に賞賛の言葉を言ってくれた。

 

僕はちっとも嬉しくはなかった。

 

コンビニ店員はすかさず、懐からスマホを取り出し、警察に連絡を入れようとする。

 

だが、僕は彼のスマホをパッと奪い取り、ゆっくりと横に首を振る。

 

そして、彼女がどうして、万引きをしていたのか訳を話そうとする。

 

ヒナコ

「待ってください!彼女は...!種山さんは、いじめっ子に命令をされて、万引きをしたんですっ!だから、罪を追求されるのはいじめをした子たちです!」

 

僕はメガネ越しに、コンビニ店員の目を真っ直ぐ見つめる。

 

そして、小さな手を重ね合わせ、円な目を潤ませながら、必死で懇願する。

 

今更もう遅いかもしれない。

 

でも、そうせざるを得なかった。

 

タカト

「僕からもお願いだい!このお姉ちゃんは悪くないよう!」

 

タカトもペコペコと頭を下げて、一緒に頼んでくれている。

 

だかしかし、コンビニ店員は非情だった。

 

コンビニ店員

「事情はどうであれ、万引きをしたのはこの子だ。警察と親御さんに連絡するよ。」

 

コンビニ店員は僕から、スマホをむんずと掴み取る。

 

そして慣れた手つきで、警察へと連絡をする。

 

万引き犯への対処はもはや日常茶飯事で、情け容赦ないようだ。

 

だが、コンビニ店員が一瞬悲しそうな顔をしたのを、僕は見逃さなかった。

 

コンビニ店員も仕事で、いじめられっ子の種山を警察に突き出そうとしていたと見てとれる。

 

本当はそんなことはしたくないが、自分の生活を守るためにそうせざるを得ないのだろう。

 

僕はもう何がこの世の正義かも、わからなくなってきた。

 

その時だった! 

 

種山

「どうして...。どうして...。」

 

種山はボソボソと譫言のように、何か言い出したではないか!

 

そして、息使いは荒くなり、わなわなと小刻みに震える。

 

目の焦点もあっておらず、まるで薬物中毒者のような眼差しで、立っているのもやっとのようだ。

 

ヒナコ

「種山さん...?どうされたんです?」

 

タカト

「お姉ちゃん!しっかりしてよ!」

 

僕とタカトが彼女の身体を揺すり、問いかけるが、種山は一切応じない。

 

コンビニ店員も電話中で、種山の変化に気づいていないようだ。

 

種山

「わああああああ!!」

 

種山は苦しいのか、髪の毛をガシガシと掻きむしりながら、けたたましい叫び声をあげる。

 

そして、メキメキッと音を立て姿を変えながら、50メートル近いサイズへと巨大化していった!

 

その姿は黒いマスクの顔の奥に、血走ったような赤い目がギロリと光り、薄気味悪い黒と紫の鎧を装着していた。

 

もはや種山の原型はそこにはなかった。

 

種山

「あーはっはっ!私はもはや種山ネズではない!イジメ撲滅女帝イジメキラーだ!!」

 

彼女は高笑いをしながら、ビルの間を蹂躙する。

 

そして手に持った乗馬用の鞭によく似た武器に、舌なめずりをし蔑みの表情を浮かべる。

 

どうやら彼女は、いじめをしてきた者たちへの復讐の鬼となってしまったようだ。

 

さっそくイジメキラーは最初のターゲットを見つけたようで、通りすがりのサラリーマンに目をつける。

 

イジメキラー

「お前は部下にパワハラをしていた!彼らと同じ痛みを喰らえ!」

 

イジメキラーの特殊能力だろうか?

 

奴には、彼らがどんなイジメをしてきたのか、判別できるようだ。

 

イジメキラーは赤い目をギロッと光らせると、鎧で固められた腕を高々と振り上げ、通行中のサラリーマンを巨大な鞭で打ち付けた!

 

サラリーマン

「うわあああ!!」

 

サラリーマンは電流に打たれたかのような、あまりの痛みに悶絶し、その場に倒れ込む。

 

しかし、イジメキラーの復讐はまだ終わらない。

 

ツブヤイッターである特定のユーザーに嫌がらせをしていた50代のフェミニストの女性、自分の子供に暴力を振るう父親、チームメイトのグローブを隠した野球部の男子生徒。

 

などなど、あげればキリがないほど、いじめをしていた人物たちを、自慢の鞭でバチンバチンと痛めつけていた。

 

彼女は田島や前田を見つけて、復讐しても辞めないだろう。

 

きっと全世界のイジメをしていた人間をこの世から、根絶やしにしないと気が治まらないはずだ。

 

ヒナコ

「まさか...。こんなことになるなんて...。」

 

僕はこの悲惨な現状を見つめながら、顔面を青白くして絶望していた時だった。

 

タカト

「ねえ!ウルトラマンまた来てくれるよね!僕信じてるよ!」

 

タカトは怯えながらも、勇気を振り絞って、僕の腕を掴んでそう言った。

 

その腕には、小さな少年には信じられないほどの力が込められていた。

 

ヒナコ

「タカトくん...。」

 

僕は彼のウルトラマンを信じる気持ちを直視出来ず、顔を曇らせ俯いてしまう。

 

その時、僕は手を掴まれながら、頭の中で、僕のこれまでの人生で築き上げてきた言葉たちが、流れる滝のように溢れ出してきた。

 

「ゼットンには勝てないって...。最初から分かってたんでしょ?」

 

シンウルトラマンで出た、ゼットンに敗北したウルトラマンへ向けた言葉。

 

自分に力がなくても、何かせずにはいられないそんな人間らしい気持ちを僕は、人間の癖に失っていたではないか。

 

「そうだ。僕は特別な人間なんかじゃない…… 。

 けど、僕は自分のできる事をする!」

 

ウルトラマンティガのダイゴの言葉。

 

そうだ。僕は自分に出来ることを、やってないじゃないか...。

 

「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえ、その気持ちが何百回裏切られようと・・・」

 

ウルトラマンエースが地球を去る時に言った言葉。

 

今の僕は優しさのカケラもなく、弱いものが傷つけられても、通り過ぎてしまった。

 

「傷ついた誰かがどこかにいれば、見ているだけじゃなく助けに行きたい」

 

ウルトラマンコスモスのOPの、「Sprit」の歌詞。

 

もう見ているだけなんて嫌だ!

 

コスモスから何をお前は、学んだんだよ!困っている人がいたなら、ごちゃごちゃ考えずに動けよ!

 

そして最後に昨日、モコが言った言葉が思い浮かんだ。

 

「私は自分の手の届く範囲で、自分の正義と守れる人を全力で守りたい!」

 

その瞬間僕の身体は考えるよりも先に、メガネを取り外し銃に変形させた。

 

(ブレインコントローラー!ガンモード!)

 

銃を胸の前に構え、タカトに向け勇ましい口調でこう言った。

 

ヒナコ

「僕はウルトラマンじゃない...。でもね、困っている人を放っておけない、ただのどこにでもいるお兄さんだあああ!!」

 

その瞬間、びゅうびゅうと黒き竜巻が僕の周りに吹き荒れる。

 

側にいたタカトがその竜巻の勢いで吹っ飛ばされて、尻餅を突く。

 

タカト

「おっ...!お姉ちゃん!まさか...!」

 

そして突然の出来事に、びっくりしていたのか口をぽかーんとしていた。

 

僕はその竜巻に負けじと、ブレインコントローラーを高々と突き上げる。

 

そして、空の彼方上空へと銃塊をドカンと打ち上げた!

 

すると僕の肉体は黒い闇に包まれ、黒い球体へと変化する。

 

その黒い球体はイジメキラーの前に降りたつと、一人の50メートル近い黒き巨人へと姿を変えた。

 

立ち並ぶ夜のビルの明かり、舞い上がる砂埃。

 

それと共に「アルファリオン」は、膝をついて見参した!

 

タカト

「ねえ!ウルトラマンが来てくれたよ!本物のウルトラマンだよ!」

 

タカトが地上から、ヒーローが来てくれたと嬉しそうに指を指す。

 

コンビニ店員

「そうだね...。あのお姉ちゃんはウルトラマンだったんだね...。」

 

隣いたコンビニ店員も、そっと彼の肩に手を置いて、優しい眼差しでそう言った。

 

それを周りの住民たちも、何事かと眉をひそめながらもその光景を見守る。

 

アルファリオン

「+>~*=!>>+*<~€!!」

 

アルファリオンになった僕は、ゆっくり静かに立ち上がる。

 

そして精悍な顔つきで、合気道のような構えをとる。

 

イジメキラー

「なんだ貴様は!私の復讐の邪魔をするなら、お前も制裁を受けろ!」

 

アルファリオンが現れたことが、気に食わないのだろう。

 

イジメキラーは鞭を地面にビシンビシンと叩きつけ、憤慨する。

 

アルファリオン

「◇▲▩#■※▥」

 

(デジタルフィールド)

 

僕は前回の戦いと同様に、この世界に被害が出ないために、デジタル状のシールドで張り巡らせた空間を作る。

 

イジメキラー

「こんな技が私に通用するとでも思ったか!」

 

イジメキラーは鞭でシールドを叩きつけ、シールドを割ろうとしていた。

 

するとシールドにはどんどんヒビが入り、ついには大きな穴が空いた。

 

そしてその穴から、イジメキラーは脱出。

 

再び自分の目的を果たそうと、イジメをしていた人間を探しだす。

 

ヒナコ

「(くそっ...。このままでは...。)」

 

僕もすかさず穴から這い出て、イジメキラーを追いかける。

 

アルファリオン

「◆*○<〒|÷」

 

(ダークネスソード)

 

奴に追いついた僕は胸から、禍々しい見た目をした黒い光の剣を取り出した。

 

その衝動で辺り一面に、どろっとした黒い液体が飛び散る。

 

そして鞭を振り上げ、イジメをしていた人を襲うイジメキラーを、その剣で阻止する。

 

キィィッと鈍い剣の音が響く。

 

イジメキラー

「ええい!しつこい!」

 

それにイジメキラーも容赦なく、鞭で僕に対抗してくる。

 

キンキンキンと激しい衝撃音、そしてパチパチと火花を散らして、アルファリオンの闇の剣とイジメキラーにより鞭による闘いが数分ほど続いた。

 

僕は至って冷静で、街の人たちも種山を助けるつもりでいた。

 

イジメキラーの鞭を薙ぎ払って、行動不能にするだけでいいといった気持ちだった。

 

そんな一進一退の攻防の中、僕はチャンスを掴んだ!

 

イジメキラーの両脇を掴んで羽交締めにすることに、成功したのだ!

 

ヒナコ

「(よしっ!ここで浄化光線を使えば...!)」

 

僕はこれで一件落着と思った、その時であった。

 

イジメキラー

「グッ...!お前も私をいじめた奴と同じで、私を恥ずかしめて、痛めつけるのか?」

 

イジメキラーは仮面越しでも分かるほどに、悲しい顔を見せながらそう言った。

 

僕が今やっているその行為は、まさに今朝田島や前田が種山にしていた行為そのものだった。

 

アルファリオン

「●△□....!」

 

自分は何てことをしていたんだと、胸が張り裂けそうになる。

 

何故かそう思うと、腕が緩んでしまった。

 

その瞬間、羽交締めにしていた僕の腕を薙ぎ払われ、地面に叩きつけられる!

 

そして、倒れ込んだ僕が立ち上がる隙もなく、イジメキラーは僕の胸元をギリギリと踏みつけてくるではないか!

 

イジメキラー

「イジメをしているやつなんか、この世界のゴミだ!生きている価値がない!みんな死ねばいいんだよっ!」

 

イジメキラーは怒りで声を滲ませながら、僕を何度も何度も踏みつける。

 

僕の肉体は既に限界で、巨人の姿で戦える時間は僅かであった。

 

僕は痛めつけられながら思った。

 

僕も散々いじめられてきた太刀だ。

 

奴の言ってることは、確かに正しいと僕は思ってしまった。

 

もしかしたら、イジメキラーにイジメをしている人間たちを全員消して貰えば、この世界は素晴らしいものになるのかもしれない。

 

僕が完全に諦めかけたその時だった!

 

???

「種山さーん!!」

 

僕が一番大好きな、女性にしては低く、クールで温かみのあるあの声が聞こえてきたのだ!

 

こんな素敵な声は世界に一人しかいない。

 

モコが現場に駆けつけてきてくれたのだ!

 

僕は声がした方を振り返る。

 

すると来てくれたのは、モコだけじゃなかった。

 

ハル、そしてなんと、種山をいじめていた田島と前田も一緒ではないか!

 

四人とも必死でここまで来たのだろう。

 

膝に手を突き、ハァハァと乱れた呼吸を整えていた。

 

ハルはともかく、田島と前田を説得して連れてくるのには相当な苦労があったと想像できる。

 

モコの行動力と彼女の人を突き動かす言葉の力には、頭が上がらない。

 

さすがは僕の自慢の親友だ。

 

モコ

「種山さん!あなたは間違ってる!あなたはいじめた相手を憎むだけで、前に進んでいない!」

 

ハル

「そうだよ!復讐する暇があれば、自分が変わろうと努力しなきゃ駄目だよ!」

 

モコとハルがイジメキラーになった種山を見上げながら呼びかける。

 

あのような事件があった後だ。

 

二人はイジメキラーの正体が種山であることを、直感で見抜いているようだ。

 

イジメキラーはその声に思わず動揺し、僕を踏みつけていた足をピタリと止める。

 

そしてビルのような巨体を、声のした方へと向き直った。

 

僕も倒れ込んだまま、二人の言葉に胸が震わされていた。

 

例えば何か許せないことがあったとする。

 

その許せないことをしてくるものをただ倒しても、そこには「そのものからの復讐心」、やがて「復讐の連鎖」が発生するだけだ。

 

自分が気に食わないと思った者たちを根絶やしにしたとしても「彼らと同じ怒りを持った集団たちが再び襲い来る」可能性は消えない。

 

ただ、火の粉が舞ってきたから振り払う、それじゃ何の解決にもならないことを二人は僕とイジメキラーに教えてくれたのだ。

 

モコとハルの言葉に続いて、田島と前田もイジメキラーへと自分の思いをぶつける。

 

田島

「種山!ウチ、家でお父さんに暴力を振るわれてるんだ...。その吐口をアンタに対してやってたんだ!本当にごめんなさい!今更謝って、許してもらおうとは思わない!でも、ウチらに償うチャンスをくれない?」

 

前田

「ふええー!ネズ!私もアキに流されて、あなたをいじめてた!本当に...!本当に...!ごめんなひゃーい!!」

 

申し訳なさそうに真剣な顔で懺悔する田島、そして顔を真っ赤にして泣きじゃくる前田。

 

彼女たちが種山にした行為は到底許せない。

 

だが彼女たちにもいじめをしてしまった悲しい背景があったのかと思うと、何が正義なのか分からなくなってしまう。

 

イジメキラー

「うっ!うわあああああ!!私は...!この世から、イジメをなくしたかっただけえええ!!」

 

イジメキラーはその言葉で、復讐への気持ちをかき乱されたのか、頭を抱えながら悶え苦しみ出した。

 

僕は全身にズキズキとくる痛みを堪えながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

そして数歩後退り、イジメキラーと正面から向き合う。

 

その瞬間はそれを見守る人々は、ざわざわするのを辞めこの場は異様な静けさに包まれた。

 

僕はアルファリオンの力であるテレパシーを使い、優しい口調でイジメキラー、いや種山ネズにこう言った。

 

ヒナコ

『種山さん...。僕もあなたと同じでいじめられ続けていた。だからいじめたやつに、復讐したい、殺してやりたいって気持ちはよく分かる。でもね。今回の件でそれは間違いだって気づいたよ。疲れたよね?もう終わりにしよう...。』

 

僕は自然と現実世界で、江島にいじめられた時のことを思い出す。

 

ついこの前までは、あいつのことを殺してやりたいくらいにまで憎しみの感情で溢れていた。

 

だが今はそれが、本当の解決にはならないことに気づいていた。

 

僕らが心豊かな毎日を過ごすには、上手く言語化できないがもっとよりよい選択肢があるのではないか?

 

それを種山にも分かって欲しかったのだ。

 

気づけば僕は、種山を抱き留めていた。

 

いつか、モコが僕にそうしたように。

 

イジメキラー

「なっ...!何をする...!?」

 

種山はその突然の状況に戸惑ってしまう。

 

だが僕はその抱きしめた腕に、グッと力を込めて離さない。

 

種山はただ、いじめられている苦しみや痛みを誰かに分かって欲しかっただけなのだ。

 

まずは僕が彼女の最初の理解者になるんだ。

 

こうすればきっと、彼女たちにその思いは伝わるはずだ。

 

そして気づけば、種山に纏わりついていたマイナスエネルギーは抜け落ちていく。

 

サラサラとドス黒い闇の粒子が、空へと浮かび上がっていく。

 

温かな光に包まれながら、僕のアルファリオン、種山のイジメキラーへの変身が解け、みるみる巨大な姿から人間サイズへと戻っていく。

 

最終的には事が起こったあの商店街で、ヒナコの姿の僕と種山が抱き合っている状態だった。

 

そんな僕らの前にモコが真っ先に駆け寄り、

 

モコ

「ヒナちゃーん!!種山さーん!!」

 

と笑顔で元気よく僕に呼びかける。

 

その笑顔は愛嬌たっぷりで、見るもの全てを幸せに包み込んでくれるようだった。

 

ハル、田島、前田の三人、そしてウルトラマン大好き少年のタカトも手を振りながら、「おーい!」と僕らに呼びかけてくれる。

 

もうこれで一安心だ。

 

この理想の世界であっても、悲しい出来事や許せないことはなくならない。

 

だけど悲しみが一つもない未来は、手と手を取りあえばきっと掴めるはずだ。

 

この事件をその第一歩にしたい。

 

それを成し遂げられた暁には、ウルトラマンコスモス、そして本物のモコもきっと褒めてくれると僕は信じている。

 

ヒナコ

「これで一件落着かな...。」

 

僕はそう呟くと、メガネにデジタル状の空間を映し出す。

 

アルファリオンに変身するということは、一旦元の世界に変えらなければいけないというルールだ。

 

もしルールを破って、ブレインコントローラーを故障でもさせ、モコにもう会えないなんてことだけは絶対に避けたい。

 

ここは名残惜しいがひとまず、一時撤退だ。

 

セーブシマスカ?

 

YES or No

 

僕は迷わずYESを押した。

 

 

        to be continued....

 

 

 

 

 

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