ブレインコントローラーウォーズ   作:ロクサス1313

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Chapter4 「僕の知らないキミ」

 ここは明日南川(あすみがわ)県、オーシャンシティ。

 

 僕は実家の福海から飛行機で、片道数時間の道のりでモコの実家に来ていた。

 

 突然の別れでモコと面と向かって挨拶を出来なかったから、今回こうして実家に伺わせて頂いたというわけだ。

 

モコのお母さん

「わざわざ遠くから来てくれてありがとうございます。ここまで来るの大変だったでしょう?」

 

 玄関先でモコのお母さんが、人の良さそうな笑みで僕を出迎えてくれた。

 

 どことなく笑った感じの雰囲気が、モコに微かに似ている。

 

 彼女がもし歳を重ねれば、こんな愛嬌の良い綺麗な大人になっていたのかななんて想像してしまう。

 

闇野

「えぇ...。まぁ。」

 

 僕はモコのお母さんに遠慮がちに軽く会釈をして、靴を脱ぎ二階のリビングへと登っていく。

 

 さっそくリビングへと入った僕は、少し挙動不審になりながら部屋を見渡す。

 

 SKET DANCE、宇宙兄弟、よつばと!と全巻揃えられたマンガの本棚。

 

 その手前にはミュージシャンだった彼女が愛用していた、薄い黄色のエレアコがギタースタンドに立て掛けられている。

 

 テーブルの横の棚に目を移す。

 

 すると銘柄は分からないがお酒好きの彼女らしく、飲み掛けのボトルが何本も綺麗に並べられていた。

 

 モコが大好きだったものが、この家には散りばめられている。

 

 それはまるで一人暮らしを始めたと聞いていた彼女が実家に帰ってきて、普通に暮らしてるようだった。

 

 そんな様子に実は僕を騙すための「ドッキリでしたー!」だなんてノリで、ひょこり彼女が満面の笑みで現れてくれるんじゃないかと密かに期待してしまう自分もいた。

 

 こんなこと言ったら彼女に怒られそうだが、生徒会長をやっていそうな真面目そうな見た目の割に、ユーモアのある性格の彼女ならもしかしたら...。だなんて思ってしまう。

 

 だがしかしそんな密かな望みも、あるものを見たことで一瞬で崩れ去る。

 

闇野

「モコ...。久しぶりだね...。」

 

 その言葉を発した瞬間は、僕にとってあまりに辛く、そして、痛かった。

 

 これは「本当の意味」で、久しぶりに出会った彼女への挨拶。

 

 彼女からの返事はない。

 

 現実を理解していたはずなのに、まるで身の毛もよだつほど、恐ろしいものを見てしまった気持ちになる。

 

 僕の視界の前に映るもの。

 

 そこにあったのは屈託のない笑みで笑っているモコの写真、魂の一部を補完する青銅のスパークレンスが置かれているだけだった。

 

 

ブレインコントローラーウォーズ

Chapter4 「僕の知らないキミ」

 

 

 

 小齢高子化が著しい現代。

 

 この日本では高齢者の減少かつ、若者の増加に悩まされていた。

 

 それは次第に学校の教職員不足、保育所に入所できない子どもたちの増加、二人目の子供からは税金の増加など様々な問題を引き起こしていた。

 

 その影響で日本はあまりにもの不景気で、経済が破綻しかけていた。

 

 そんな人口増加を嘆く政府が新たに打ち出した施策がある。

 

 「人類マルチバース輸送計画」だ。

 

 一年に一度国がランダムで、若者100人を人口不足のマルチバースの地球へと送り込むのだ。

 

 我々人類にとっては周知の事実だが、世界は一つでは無い。

 

 我々の世界とは別に様々な世界がある。

 

 宇宙に浮かぶ星々の様に、世界は鏡合わせの様に存在している。

 

 それがマルチバースだ。

 

 そう。薄井モコも23歳の若さにして、その「人類マルチバース輸送計画」に選ばれたのだ。

 

 マルチバース間での連絡手段は、現在の科学技術には存在しない。

 

 この地球から出ることは出来ても、戻ることは出来ないのだ。

 

 モコは前の地球にいた人たちと、会うことも話すことも出来なくなってしまった。

 

 突然の出来事で彼女は、僕と別れの挨拶もできずに旅立たざるを得なかった。

 

 これがモコがこの地球からいなくなった真実だ。

 

 あれから2時間ほど、僕とモコのお母さんは彼女との思い出話を語り合った。

 

 彼女の名前の由来、幼少期の頃の彼女、彼女が音楽を始めたきっかけ、彼女が旅立った日のこと。

 

 といった具合で、僕の知らない彼女を知ることが嬉しくもあったが、逆に彼女の記憶の中に自分が少しだけしか存在しなかったことが心底悲しかった。

 

 果たして僕はモコを、この部屋に飾られた写真に写っているような笑顔に何度出来ただろうか?

 

 僕が彼女の母親に話せたのは、彼女に支えられたことやもらったもの、傷つけてしまったこと、迷惑をかけたことばかりで只々申し訳なかった。

 

 特に専門学生時代の、僕の自殺未遂事件のことを話した際は彼女の母に「闇野って男はなんて失礼なやつなんだ!」と憤慨されるんじゃないかとさえ思った。

 

 実際はそんなことはなく、あの優しい眼差しで親身に聞いてくれたが。

 

 そして積もる話を終えた頃、彼女のお母さんは僕に「実は闇野さんに見せたいものがあるんです。」とモコのこの地球での最後のライブ映像を見せてくれることになった。

 

 音楽の才能があった彼女はこのまま続けていれば、数年後には大きなステージで歌っていてもおかしくなかっただろう。

 

 本当に「人類マルチバース輸送計画」なんて考え、モコを連れて行った政府に憤りを感じてしまう。

 

「♪星空の下であなたに一度だけ逢えました。

この時既にあなたは全てを悟っていたんですね。」

  

 ユーパッドのタブレットに映るモコは、グレーのキャスケット帽に黒のカーディガンにロックTシャッツにスキニーと相変わらずお洒落な姿だった。

 

 小さなライブハウスのスポットライトに照らされ、ハスキーでクールな歌声で歌う彼女。

 

 それはどこか普段の彼女とは遠い存在のように感じられた。

 

 それを見つめながら僕は、彼女がもういないことを噛み締めていた。

 

モコのお母さん

「この歌は彼女が好きだった声優さんが、亡くなったことを悲しんで作った歌なんですよ。」

 

 モコのお母さんが愛しい我が子を見守る眼差しで、僕にそう解説する。

 

 動画に映る彼女は全身に大切な人への想いを歌声に込め、ギターをかき鳴らしていた。

 

 何故だろうか?この歌詞は僕のこの胸が、締め付けられるような気持ちを歌っているみたいだ。

 

 自然と汲んでも尽きない井戸のように、涙が目に溢れてきた。

 

 目頭を抑えて意図的に画面を見ないようにするが、それでもこの涙は止まってくれやしない。

 

 やっぱり僕は「愛」、「友情」という言葉じゃ片付けたくないほど、彼女がかけがえのない存在だったのだ。

 

モコのお母さん

「大丈夫ですか...?闇野さんを余計に悲しい気持ちにさせちゃったのならごめんなさい。」

 

 号泣している僕のことが気になったのか、モコのお母さんが心配そうな顔で尋ねる。

 

 僕は「いえ」と絞り出すように一言返し、温かな紅茶が湯気を立てるコップに口をつけた。

 

 モコのお母さんとの別れ際に僕は玄関先でこんな言葉を交わした。

 

闇野

「今日は彼女に逢わせて頂きありがとうございました。僕は彼女の友人でいる資格のない最低な人間なのに、このような機会を設けていただき頭が上がりません。」

 

 僕は今までの人生でしたことがないくらいに、丁寧に頭を下げた。

 

 頭の中に自殺未遂をした時のこと、ブレインコントローラーを使って空想の世界で彼女を産み出したことなど数えきれないほどの罪がフラッシュバックする。

 

 もしかしたら今もこうして彼女に粘着していることが、迷惑になっているんじゃないかとさえ思えてしまう。

 

モコのお母さん

「闇野さん、頭を上げてください。そんなことないです。モコも闇野さんが優しい方だからこそ、友達でいてくれたと思いますよ。」

 

 モコのお母さんはまたもやそんな僕を、心配するかのように僕の下げた頭を起こそうとする。

 

 さすがに僕もこれはキモすぎたかなと思い、すかさず頭を上げる。

 

 そして僕は「その言葉だけで救われます。」と返し、一呼吸して彼女の母親にこの日一番伝えかった言葉を伝える。

 

 これは僕の贖罪であり責任だ。

 

闇野

「僕はモコにたくさん迷惑をかけ、たくさん傷つけてしまいました。それどころか、もらった優しさや思いやりを貰うだけで何にも返せませんでした。

 

ですが...。彼女のそんな気持ちを受け継いで、別の誰かに与えていける人間になれるようにこれから生きていきたいです。」

 

 

 その日の晩、僕は夕食の場所として怪獣酒場に向かっていた。

 

 怪獣酒場とはヒーローたちに時に健闘し、時にこてんぱんにされるウルトラ怪獣たちが、夜な夜な憂さを晴らして、気力を養って、明日への新たな悪巧みをするところである。

 

 世を忍んで営業してきたが、現在は地球人に向けても開放している。

 

 ...という設定でウルトラシリーズのファンに親しまれてきた、コンセプト居酒屋というわけだ。

 

 僕が店内に入ると、キングジョーの人間サイズくらいのスーツが出迎えてくれる。

 

 ギラっとした金色のボディに、無機質なデザインが肉眼で見ると今にも動き出しそうな迫力がある。

 

 そんな僕に気づいた気前のいい店員のお兄さんが、「一名さま入られましたー!」と店中に響き渡るくらいの声で元気よく言う。

 

 座席に案内されながら、店内の様子を見て回る僕。

 

 怪獣のフィギュアやパネル、ひたすらウルトラマンがやられているビデオ上映もされてたり、薄暗い店内の雰囲気もあり、まさに秘密基地といった感じだった。

 

 メニューも豊富で思わず、目移りしてしまうほどだ。

 

 僕が頼んだのはグドンのツインテールフライ。

 

 大阪城の悔恨〜自虐のローストビーフ〜だ。

 

 エビフライはまるまるツインテールが1匹いるかのようで、丸く切られたローストビーフはまるでゴモラの尻尾のようである。

 

 さっそく僕がいただきますも言わずに、ご馳走にありつこうとしていた時であった。

 

???

「あらあらー作者さーん。ニートのくせにこんな贅沢三昧だなんて、良いご身分だねぇー!」

 

 僕の鼓膜に、可愛らしい声の嫌味が届く。

 

 なんと目の前の先程まで誰もいなかった座席に、いつもの制服姿のルナがいたのだ。

 

 彼女は箸も使わずに、ゴモラのローストビーフを綺麗な左手で一切れ掴んで、小さな口に丸々放り込む。

 

 状況を飲み込めない僕を置いてけぼりに、彼女は30秒ほど咀嚼音を響かせる。

 

 そして「おいひー」と言いながらほっぺに手を当てて、至福の笑みを浮かべていた。

 

 ルナは僕の妄想が具現化した存在のはずだ。

 

 それが今元気よく食事をしているということは、彼女の存在が実体化している以外の可能性を考えられない。

 

 周りの客や店員たちもそれに違和感を抱かず、普通に食事や接客をしている。

 

 それがさらに気持ちの悪い違和感を倍増させていた。

 

闇野

「ル...。ルナ...。何で君が実体化してるんだよ...!いったい君の正体はなんなんだ...?」

 

 僕は顎が外れるんじゃないかというくらいに、口を開けて愕然としながらもルナに尋ねる。

 

ルナ

「作者さんは頭が悪いからねー。仕方ない...。説明してあげるね。」

 

 ルナはそう言うと、ハァーとため息をつき呆れた顔をしながらも説明をしてくれるようだ。

 

ルナ

「僕実はねー。外星人アルファなんだ!アルファは本来の姿を持たない種族で、作者さんに親しみを持ってもらうために、こんなカワユイ姿に擬態してあげたの?なんなら、こんな姿やあーんな姿にもなれちゃうよ!」

 

 ルナはそういいながら、最近人気の女優白瀬リンや人間ではない姿であるビーグル犬やウルトラウーマングリージョとかに擬態して見せた。

 

 僕は目をこれでもかというくらいに見開いて、驚愕してしまう。

 

 心では理解できない状況だが、ここは理性でどうにかしたいと思う。

 

 だがそれも厳しそうだ。

 

 周りの客や店員は驚いている僕とは対照的に、またもや何にも起こっていないかのようにそれぞれの役割をこなしている。

 

 何故だ?これだけのことが起こっているのに、何故平気で食事や仕事が出来るんだ?

 

 目の前に外星人がいて、色んな姿に化けているんだぞ。

 

 悪戯好きのルナは、そんな僕をさらに驚かせたくなったのだろう。

 

 終いにはモコの姿になったではないか!

 

 ボーイッシュな服装にメガネをかけたモコになったルナは、愛嬌の良い素敵な笑顔を僕に見せる。

 

 僕は思わずドギマギして、顔を赤らめてしまう。

 

 心臓の鼓動もドクドクと早鐘のように鳴り出し、それをルナに悟られように、心の中で「落ち着け」と繰り返す。

 

闇野

「分かった...!分かったから、ルナの姿に戻れよ...!」

 

 手を顔の前に広げて、僕はルナに懇願する。

 

ルナ

「チッ...!分かったよー。本当はモコちゃんの見た目になった瞬間ドキドキしてたの、バレバレだっつーの!」

 

 ルナは白々しい目で僕を見ながら、嫌ごとを言いつつも元の見た目に戻った。

 

闇野

「そんなことより外星人様とやらは、なんでこの地球に来たんだよ!」

 

 僕は敢えて話を逸らす目的もあったが、どうしても気になることがあったのでルナにそう尋ねた。

 

ルナ

「僕はこの地球を良くするために現れた、希望の使者だよ!中でも、この日本は今不景気だよね。この問題は、この国に学力が低いもの、社会的な生産性のないもの、自立出来ていない障害者のせいだと僕は思うんだ。そこで僕は首相官邸まで行って、あるお願いをしに行ったんだー。」

 

闇野

「不景気が無能な人間のせいって、暴論じゃないか...!そもそもだ!そんな簡単に素性の分からない外星人なんかが、首相官邸なんか行けるわけないだろ?」

 

ルナ

「行けるんだよなー。それが。あの総理のおじいちゃん最初はびっくりしたけど、僕の力を見せたらちゃあんと話を聞いてくれたもん!」

 

 ルナはそう言い終えると、またもや素手で今度はツインテール風のエビフライを1匹まるごと掴み、頭からカプリと食いついた。

 

 僕は一瞬「あっ!」と口を漏らしたが、ルナがあまりにも美味しそうに食べるのが可愛かったので、ついつい許してしまった。

 

 ルナはこんな妹がいたらいいなと思う願望も込めて産まれたキャラクターでもある。

 

 彼女は仕草の一つ一つが、美人な見た目の割に子供っぽくて可愛らしい所が売りだ。

 

 そこだけは似せてくれたところを見ると、彼女が外星人であることを忘れそうになる。

 

 本題に戻るとルナの「僕の力」というものが果たして、どんなものか想像するだけで恐怖心を煽るものだが僕は彼女に敢えて聞かないことにした。

 

 その具体的な実情を聞いてしまったら、彼女が何をしてしまうか分からないからだ。

 

闇野

「そうか...。お願いってもしかして、地球侵略とかか?」

 

 僕は気を取り直し、ルナの目的を深掘りしようとする。

 

ルナ

「違うよー!地球侵略って!そんな原始的で野蛮なことには興味ないってばー!これを見れば分かってくれる?」

 

 ルナが左手を差し出すと、手のひらからA4サイズのデジタル状の紙のようなものが、ブワッと粒子状で映し出された。

 

 そこに記された内容はこうだった。

 

●無能な人間に対する、事実上の安楽死制作案

 

(其の一)無能税の導入

(政府が基準とする一定のアナグラムに満たないもの(S〜Gまであり、Eランク以下の国民を対象とする。)は、税金が課せられる。

社会的生産性がないもの、犯罪を犯したもの、学力の低いもの、協調性のないものなどがランクダウンの基準になる。

ランク選定試験は全国民一律で、四年に一度行われる。

 

(其のニ)ブレインコントローラー法の導入

税金を払いたくない無能な国民に対しての、救済措置としてブレインコントローラーを無料で配布する。

ブレインコントローラーは自身が思い浮かべた、理想の世界を産み出す装置。

それを装着した者は二度と目覚めることがなく、冷凍室に保管される。

そしてその家族には、月々国からの感謝金が支払われる。

 

(其の三)外星人や怪獣による移民制度

ブレインコントローラーによりいなくなった地球人の補完として、様々な惑星から選りすぐりのエリート外星人や怪獣を人間の姿に擬態させ移住させる。

そして国が指定した企業への労働要因として、働かせることで経済力の低下を解消させられる。

 

 この紙に書かれていることは、間違いなく差別的であり暴論に近いものであった。

 

 昔いたとある独裁者が考えた、優生思想を感じさせる。

 

 そしてもう一つ、この怪獣酒場の店員や客がルナの様子に驚かない理由。

 

 彼らが外星人や怪獣が擬態した人間という、文字通りの「怪獣酒場」だったということが容易に推測できた。

 

 もはや彼らにとっては、あのような光景は日常茶飯事なのだろう。

 

 僕はそんなことを考えつつ、ローストビーフを箸で掴もうとしたが既にルナに全部食べられていた。

 

 どうやらアルファは、相当図々しい外星人のようだ。

 

 仕方なくその下に盛り付けられていたサラダを食べながら、彼女にこんなことを尋ねた。

 

闇野

「なるほど...。でも僕はブレインコントローラーを2回使っても、2回とも元の世界に戻っている。それはどういうことなんだ?」

 

ルナ

「あー。つくづく作者さんって馬鹿だねー!もしかして、神から知能を授からなかった系?作者さんが使ってるブレインコントローラーは所謂プロトタイプ。

 

作者さんはそのテストプレイヤーかつ、マイナスエネルギーを回収する役割として、僕が君に近づいたってわけ!いちいち聞かないで。少しは自分で考えたら、この程度のこと分かるでしょー!」

 

闇野

「クッ...。僕は外星人の陰謀に利用されてたというわけか...。社会的に弱者であっても、どんな命もかけがえのないたった一つの命だ。」

 

ルナ

「へえ〜。かけがえのないたった一つの命ねえ。」

 

 ルナは遠い目をして、わざとらしく僕の言った言葉をゆっくりと繰り返す。

 

 そして勝手に注文したのか、デザートの「ブースカのRAMENスィーツ〜バラサなパンプキンモンブラン」をスプーンで掬って食べ始めていた。

 

 この店の代金を払うのは僕なんだぞって思わず言いそうになったが僕は気を取り直し、ルナを諭すような口調でこう言った。

 

闇野

「ルナ、よく聞くんだ。人という字は、ひとりの「人」がもうひとりの「人」を支えている字。つまり、人と人が支え合ってるから人なんだ。人は人によって支えられ、人の間で人間として磨かれていくんだよ。だから弱者を排除するなんて考えは、即刻辞めにしてくれないか?」

 

 僕はここまで言い切るとお冷やを手に取り、喉を潤した。

 

 この言葉はあの有名な学園ドラマの教師が言っていた言葉の受け入りだが、外星人であっても響く言葉のはずだ。

 

 だがルナは僕のその言葉に対して、ぶひゃひゃと下品な声を上げながらお腹を抱えて笑い転げ出したではないか!

 

ルナ

「甘い!甘い!あまーい!作者さんの考えはこのモンブランよりも甘いよー!これだから頭悪いやつはムカつくんだよー。

 

あの字はね、1人の人間が両足を踏ん張って大地に立っている姿の象形文字ですう!!

人は1人で生まれ1人で生きてゆき、1人で死んでくんだよー!

 

はなっから誰かに助けてもらおうだなんて、甘い考えじゃこの世の中は生きていけないんだよー!こんな甘えてる人間に付き纏われて、モコちゃんも可愛そうだったろうなー。」

 

 あのドラマの言葉は、人の感動を煽るような偽物だった。

 

 先日のイジメキラーの件で、ウルトラシリーズの言葉で僕は確かに救われた。

 

 だがその綺麗事で彩られた言葉に洗脳され、見なければならない現実が見えなくなっていたようだ。

 

闇野

「うるさい!そんなこと言われなくても分かってるよ!!どうせ僕は馬鹿だよ!」

 

 返す言葉がなかった僕は、小学生のような返しで怒りをぶつける。

 

 その怒りの矛先はルナではなく、自分自身に対してだ。

 

 何にも成長していない。何にも反省しない。何にも学ばない。何にも努力しない。

 

 その癖に誰かに頼ろうとしてる、甘えた根性をルナに見透かされていたのだ。

 

 僕はただ呆然とそんな自分から目を逸らすように、宇宙船の模型が飾られた天井を見上げるしかなかった。

 

 だがルナはそんな隙を与えてくれないのか、さらに辛辣な言葉を浴びせる。

 

ルナ

「こうやって開き直ったら、許されるとでも思ってるの?これは作者さんの甘い考えを叩き直すお仕置きが必要なようだね。そうだ!せっかくだから〜!僕の仕事についてきてもらいましょ!楽しみ!楽しみ!ルンルンルン!」

 

 ルナは僕の手に怪獣酒場の伝票を掴ませる。

 

 そして楽しそうに鼻歌を歌いながら、勝手に店の外へと出ていった。

 

 ルナの「仕事」が何を意味するのかは分からない。

 

 だがお仕置きを受ける必要が自分にはどうしてもある気がして、僕は彼女の後に着いていくことにした。

 

 怪獣酒場の伝票の額は信じられない額で、財布の中身がほとんどなくなっていた。

 

 あれから僕らが向かった先は、西枯木町(にしかれきちょう)にある経年劣化の激しい施設、リピア園だった。

 

 リピア園は介護や援助が必要で、なおかつ自宅で生活することが難しい障害者を対象とした入所施設であった。

 

 一部の過激なネット民からは「障害者の幼稚園」、「障害者の姥捨山(うばすてやま)」などとネタにされていた。

 

 何とも腹立たしい言われようである。

 

 そんなことを考えてると、ふとこんなことを思い出す。

 

 小学生だった頃、週に一度発達障害のある僕は「通級」というクラスに通っていた。

 

 「通級」とは、軽度の障害のある児童・生徒を対象として特別な教育課程によって指導を行う制度のこと。

 

 僕が通っていた小学校では通級に通っていた生徒たちは、「ガイジクラス」と呼ばれ嘲笑の対象となっていた。

 

 そんなもんだから皆、そのクラスにいく者=恥ずかしい人達という認識。

 

 僕もそんな奴らの仲間入りなどしたくないと、高学年にもなるとそこへ行くことを拒絶するようになり、次第に一切通わなくなっていた。

 

 こういうことを言えば、差別主義者だなんてレッテルを貼られるのを重々承知で言わせてもらう。

 

 この出来事がきっかけで僕は、障害者として生きること=死ぬまで誰かに馬鹿にされながら生きることだと思ってしまった。

 

 きっとこのリピア園に入所している者たちも、誰かに笑われながら生きているのだろうか...。

 

 そんなことを考えると、痺れを切らしたルナが僕の脇腹を突いてこう言った。

 

ルナ

「何ぼさっとしてるの!ほら行くよ!」

 

闇野

「行くって?まさかこの施設に...?」

 

ルナ

「この施設以外にどこに行くの!もう!作者さん、本当頭悪いんだから!」

 

闇野

「ルナ。辞めようよ..。ほら。警備員いるし...。」

 

 僕は怯えた口調で施設の前に立つ、屈強な警備員を指差す。

 

 旅先で揉め事を起こして、警察沙汰だなんてことだけはごめんだ。

 

 ルナを何としても止めなくては。

 

 だがルナはぽかーんと口を開けて、全く上の空といった様子のようで、

 

ルナ

「はあ?何言ってんの?今から慈善事業をしにいくんだから、堂々といかなきゃ駄目だよ!」

 

と逆に僕が彼女に嗜められる側となってしまった。

 

 そしてまるで今からデスデニーアイランドに行くJKのような足取りで、ルンルン気分で施設の入り口の方へと向かう。

 

 僕も仕方なく彼女を止めようと、たどたどしい足取りで後を追うのであった。

 

 警備員の前まで来たルナは、

 

ルナ

「ねえねえ。この施設に今から入りたいんだけど、開けてくれない?」

 

と手と手を重ね合わせて、警備員を色仕掛けで誘惑するかのごとく猫撫で声でそう言った。

 

警備員

「お嬢ちゃん。ここに家族か誰かいるのかい?面会時間はとっくに過ぎてるからダメだよー。日を改めて来てくれないかな?」

 

 だが警備員はいくら美人でも、見た目が15歳の少女には興味がないのだろう。

 

 迷惑そうな顔を彼女に向けながらも、仕事だからと誠実に対応。

 

 そして自分の右腕に嵌められた腕時計を、コンコンと指差しそれをルナに見せつける。

 

 それを見せられた時ルナが思わず、「ぷっー!くすくす!」と漫画でしかみないような笑い声をあげながら、

 

ルナ

「ちょー!うけるー!良いとか駄目とか聞いてないのよー!日本政府の承認を受けて、こんなボロっちいとこまではるばる来てあげたの!早く開けてよ!」

 

と女王様のような横暴な態度でそう言った。

 

警備員

「日本政府の承認だって!?お嬢ちゃんー。大人をからかうんじゃないよ!彼氏くんも何とか言ってよ!」

 

 警備員はいたずらっ子な女子高生にからかわれたと思ったのか、明らかに憤慨していた。

 

 すかさず横にいた僕の方を見つめて助けを求める。

 

闇野

「そ...そんなこと。言われても...。」

 

 そんな僕もしどろもどろになって何にも言えない。

 

警備員

「ほらほら!帰った!帰っ...!」

 

 警備員が僕たちの背中を押して、そう言いかけた時だった!

 

ーービギュン!!

 

 偶然地面をカサカサと這い回ったゴキブリ。

 

 それを良いことに、ルナは目から赤いレーザー光線を勢いよく発射したではないか!

 

 ゴキブリは一瞬でチリになり、跡形もなくなっていた。

 

 これを見た瞬間、僕は彼女の事が「悪魔」にしか見えなかった。

 

ルナ

「警備員さん。もう一度お願いするね!いーれーて♡」

 

 ルナはもう一度警備員の方に向き直ると、甘えた口調でそうお願いした。

 

 彼女のあれほど恐しい姿を見た後だから、そんな可愛い姿が逆に気持ち悪く感じてしまう。

 

 まさしくホラー映画だ...。

 

警備員

「はっ!はいぃ!!」

 

 警備員は恐怖のあまり顔を引き攣らせながらも、一目散に施設の施錠を解除した。

 

 僕はたった今ルナが怪獣酒場で話していた、「僕の力」という言葉の意味が今はっきりと分かった気がした。

 

 「無能な人間に対する安楽死制度」という、あんなめちゃくちゃな政策を飲まされた日本政府は、外星人アルファの力に怯えたとしか考えられない。

 

 ひとまずここは様子を見守って、彼女の思惑を探ってみよう。

 

 さっそくリピア園の中に入った僕とルナ。

 

 夜の施設は玄関とロビーにだけ非常用の赤い灯りがあって、他は眠っている入居者達のために暗い。

 

ルナ

「まずは001号室からだね。」

 

 2階の階段を登り、「001号室」と記された入居者の部屋の引き戸をルナが開ける。

 

 そこには一人の男性が、すぅすぅと穏やかな寝息を立てベッドに寝ていた。

 

 ルナはその男性の目の前まで来ると、彼のおでこの辺りを触り「ムーンサーチ」と小さく呟いた。

 

 すると不思議なことに数秒間、彼女の手のひらから青白くて綺麗な光の粒子が溢れ出し、パチパチと音を立てた。

 

ルナ

「ほうほう。ふむふむー。やっぱりね...。やっぱりそうだと思った。僕が今楽にしてあげるね。」

 

 ルナはどうやら何かに納得したようだ。

 

 肩にかるっていた学生鞄から、ブレインコントローラーを取り出し入居者の男性に強引に装着する。

 

 僕は彼女が何か恐ろしいことをしたのではと思い、狼狽えながらもこう尋ねた。

 

闇野

「おい...。ルナ...。この人に何したんだよ?」

 

ルナ

「彼はしあわせーな理想の世界に旅立ったのです!これが僕のおしごとなの。分かった?」

 

闇野

「おい!彼が眠ってるのをいい事に勝手なことをするな!今すぐ外さなきゃ!あれ?外れないっ!」

 

 僕は彼に嵌められたブレインコントローラーを外そうとするが、まるで強力な接着剤でガチガチに固められたように外せなかった。

 

ルナ

「作者さん。これ永久仕様のブレインコントローラーだから、いくらやっても外れないよん!」

 

闇野

「そっ...そんな...。畜生...。」

 

 ルナのその言葉に僕はガックリと膝を付き、崩れ落ちるしかなかった。

 

 そんな僕の様子を小馬鹿にするようにルナは、僕の頭を優しく撫でながらこんな話をしてきた。

 

ルナ

「僕って外星人だからさー。その人の人生と心が読めるんだよねー。今眠ってる彼は日村ユズトさん28歳。彼は両親と19歳の妹の四人暮らしでした。

 

ユズトさんには重度の知的障害があり、1人では身の回りのことが出来なくて、今まで沢山の人の支援を受けながら生活していたみたいだね。

両親は彼の世話につきっきりで、ついにはノイローゼになって最終手段としてこの施設に入れたんだって。高い入居費払わないといけないから、妹さん第一志望の私立の大学諦めたらしいよー。可愛そう。」

 

 今更この男の人生を聞いたところで何になると、さらに悲観的な気持ちになった矢先、僕は一つ引っかかっることがあった。

 

 僕の小説仲間「日村リコ」のことだ。

 

 彼女とはプライベートな会話を良くするが、兄がいるなんてことは聞いたことがなかった。

 

 だがどうしても話の中にあった、日村という名字と19歳の大学生の妹という言葉が引っかかるのだ。

 

 いや今時、「日村」って名前はごまんといるじゃないか。偶然だ。

 

 とりあえず僕はルナの話の続きを聞くことにした。

 

ルナ

「ユズトさんは優秀な妹さんと比較されて、すっごく辛かったみたいだね。お母さんはいつも「あの子に障害がなければ、妹みたいにもっとマトモになれたのかしら」だなんて言っていたらしいよ。

 

僕はさっきユズトさんの心に話しかけたの。ブレインコントローラーを付けたら、障害も無くなるし自分の理想の人生が送れるんだよって僕が教えたら、「是非やってくれ!このまま生きていても地獄にいるのと一緒だ」って言ってたよ!だからこれは彼のためにやったの!」

 

闇野

「彼のためって!残された家族はどうなる!友達は!みんな彼にもう会えないって知ったら悲しむはずだ!」

 

ルナ

「作者さん。また声荒げてるう!あなたはマーベル映画のヴィランですか?これは彼の人生なの。なんでそんな大事な決断まで、他人に気を使わなきゃいけないの?合理的に考えたら、こうする方がみんなハッピーなの。分かった?それでもまだ聞く?」

 

 ルナは「ハッピー」のところだけ、敢えてネイティブに発音しながらそう言った。

 

 僕は彼女が言っている「合理的」の意味が分からなかった。

 

 こういう時、ウルトラマンコスモスやモコならなんて言うかな?

 

 駄目だ。僕には彼女に言い返せるだけの、正しい反論が何にも思い当たらなかった。

 

闇野

「分かった...。僕の負けだ...。ルナ、好きにしてくれ。」

 

と今にも消え入りそうな声で返すので精一杯だった。

 

 ウルトラマンに憧れるものとして、薄井モコの友人として僕は失格だ。

 

 ルナは僕を論破出来たことがさぞ嬉しいのだろう。

 

 わざとらしくぶりっ子ポーズをしながら、

 

ルナ

「はーい!好きにしますぅ!!」

 

と僕を嘲った。

 

 そして制服のベージュのカーディガンの胸ポケットからスマホを取り出す。

 

 そしてぽちぽちとスマホ操作した数秒後。

 

 病院内全体から、ジャーン!ジャンジャンジャン!と昭和特有のレトロなイントロが流れ出した。

 

 僕はこの歌を知っている。

 

 「南海ホークスの歌」だ。

 

 生まれも育ちも福海で、根っからのホークスファンの僕が間違えるなんて有り得ない。

 

ルナ

「グランド照らす太陽の ー!

 意気と力をこの胸に !」

 

 ルナはその音楽に合わせ、常軌を逸した猟奇的な笑みを浮かべながらこの歌を歌い出す。

 

闇野

「うわっ...!何だこの歌は!酷すぎる!」

 

 彼女の可愛い声からは考えられないが、まるでガマガエルがギャーギャー鳴いてるかのような音痴で僕は思わず耳を塞いでいた。

 

 今日の昼間にモコのあの感動的な歌を聞いた後では、高低差がありすぎて頭がおかしくなりそうだ。

 

 だがルナは自分が音痴な事に気づいてないのか、学生鞄からブレインコントローラーを次々から次に取り出していく。

 

 そして眠っている障害者たちの部屋に侵入していき無作為に装着していくではないか!

 

 この楽しげなBGMの中で、こんな非道徳的な行為が行われている。

 

 その光景に僕は言いようのない気持ち悪さに襲われる。

 

 ただルナのやっている行為は、素晴らしいことだと心の奥底では思い始めていた。

 

 就労も出来ずに、社会的な生産性を産まない彼らの「無能税」を支払わなければならないのは家族だ。

 

 障害者の彼らは施設や国の税金を食い潰し、家族にも多大な経済的な負担を強いている。

 

 最初にブレインコントローラーをつけられたユズトだってそうだ。

 

 彼がいなければ彼の両親はノイローゼにならなくて済んだし、彼の妹も希望の大学に行けたはずだ。

 

 彼らも空想の世界で五体満足で理想の人生を歩める。

 

 彼らはもう仕事で怒られること、いじめられること、周りから奇異の目で見られることもない。

 

 まさにWINWINじゃないか。

 

 別にこの障害者たちを殺しているわけではないのだから、今行われていることは正義だ。

 

 

 次の日の朝ビジネスホテルのベッドの上で、僕は一睡も出来ず、只々白い天井を見上げるだけだった。

 

 ブレインコントローラーの真実、そしてルナによる「正義」の儀式という恐ろしい出来事があったのだから当然だろう。

 

 その時だった!

 

 枕元に置いていたスマホから、着信音がブーブーと鳴り出した。

 

 僕は慌てて画面に目をやると、僕、リコ、ジンのレイングループからのようだ。

 

 通話開始ボタンを押しスマホに耳を当てる。

 

 するとリコが電話越しでも分かるくらいに、わんわんと泣いていた。

 

 その瞬間、僕の全身から嫌な汗が流れ出た。

 

リコ

「闇野さん...。ジンくん。今日の朝リピア園から連絡があって、お兄ちゃんが...。ブレインなんとかって言う意味わからん機械のせいで...。一生眠ったままになってもうたんや...。私これからどうしたらいいか...。」

 

 リコは涙で声を滲ませそう言った後、知的障害の兄がいたこと、彼がどんな人間だったかを僕とジンに説明してくれた。

 

 やはりそれは昨日の夜にルナが話していた、日村ユズトの特徴と全く同じ。

 

 日村ユズトは日村リコの兄だったのだ。

 

 考えたくないが、悪い予感は的中してしまった。

 

ジン

「お荷物がいなくなって良かったじゃないですか。」

 

闇野

「ジンくんリコさんは悲しんでるんだ。そんなこと思っていても言っちゃ駄目だ!」

 

 僕はジンの薄情な言葉に憤りを感じ、思わず敬語じゃなくなっていた。

 

ジン

「じゃあ思ってもないのに、「それは辛かったですね。」とかそれっぽいこと言ったらいいんですか?」

 

闇野

「.....。」

 

 彼はどうしても自分を正当化しないと、気が済まないのだろう。

 

 そんなこと言われたら、何にも返せなくなる。

 

リコ

「お兄ちゃんがウルトラマンを見とったから、私もウルトラマンが好きになったねん...。行きたかった大学に行けんくなって、お兄ちゃんを恨んだこともあったけど...。ウルトラマンに出会わせてくれたお兄ちゃんに会えへんくなるなんて嫌や!」

 

闇野

「お兄さんがいたからリコさんはウルトラマンの二次創作小説を書いて、こうして僕たちは出会えたんですね...。」

 

リコ

「そうなんです。だから二人にもお兄ちゃんのこと知って貰いたくて、いつかちゃんと話そうと思っていた矢先にこんなことがあって...。」

 

 その時リコが話し途中だったのに、ジンが会話を遮ったではないか!

 

ジン

「あーもういい!もういいですよね?俺そろそろ学校行かないといけないんで...。」

 

リコ

「ごめん...!朝っぱらから迷惑やったよね...。」

 

闇野

「ジンくん。リコさんは辛い事があったんだ。学校があるならあるで、もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないかな?仮にも歳上だよ。」

 

ジン

「そうすか。二人とも言ってることは歳上には見えないけどな。あと闇野。あんたのその中立ぶる態度、ムカつくから辞めろ。ずっとそんなことやってると、それで痛い目みるぞ。」

 

闇野

「痛い目に合うなんてことは慣れっこだ。僕はただ僕のやり方で、辛い思いをしている人に寄り添っただけだ。それを君にとやかく言われる筋合いはない。」

 

ジン

「あっそ!」

 

 僕とリコは愕然としていた。

 

 彼はもう少し、人を思いやれる人間だと思っていた。

 

 だがしかしそれは違ったようだ。

 

闇野

「あっそって何だよ...!」

 

 僕も言い返さずにはいられない。

 

ジン

「ひとつ、言わせてもらっていいですか。」

 

 だがジンは僕の言葉を待たずに続けた。声には凄まじい圧がこもっている。

 

 それは誰もが思わず耳を疑い、ナイフでズタズタに引き裂くような恐ろしい言葉だった。

 

ジン

「俺正直なこと言うと、他人に興味ないんです。今まで俺二人に気を使って猫被ってたんですよ。」

 

リコ

「それ、他の人の前でも言えるん?君の繋がりはここだけじゃないこと、分かっとんの?」

 

 ずっと我慢していたリコもとうとう堪忍袋の尾が切れたのだろう。

 

 ジンに忠告をする。

 

 口調は冷静だが、言葉の節々に怒りの感情が読み取れる。

 

ジン

「あー!もうあんたらと話してても無駄!どうでもいい!」

 

 リコに正論を言われ、ジンは具の根も出なかったのだろう。

 

 ジンは吐き捨てるようにそう言うと通話を切り、僕とリコは取り残された形となった。

 

 お互い一分間ほど黙ったまま沈黙が続く。

 

 そして僕は重い空気を破るかのように、力強くこう言った。

 

闇野

「リコさん。彼は確かに大切な仲間で、楽しい思い出もいくつかあった。でもこれ以上彼と関わったら、間違いなく僕らの心が死んでしまう。彼とは縁を切ろう。」

 

リコ

「私も同感や。闇野さん...。人が与えてくれた恩って、その人がクズやった場合は一瞬で消えるんですね...。」

 

 やはり現実の世界は残酷だ。

 

 昨日まで大切だと思っていた人間との絆も、簡単に脆く崩れる。

 

 方やブレインコントローラーを使えば、そんな煩わしい人間関係に悩むこともないのだ。

 

 これが僕をブレインコントローラーへ、さらに依存させる出来事になったのは言うまでもない。

 

 

           to be continued...

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