ブレインコントローラーウォーズ   作:ロクサス1313

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Chapter final 「最後の日は最高の日」

 高校二年の夏もすっかり過ぎてしまった頃、僕は塚内先生に進路指導室に呼び出されていた。

 

塚内先生

「氷山さん、もう一度聞くけどさ。これどういうこと?」

 

 放課後の進路指導室に、塚内先生のいつもとは違ったキツめの声が響く。彼女は机に置かれた進路希望調査をコンコンとたたきながら、僕を問い詰める。

 

ヒナコ

「そのまんまっすよ。僕は猿になることにしたんです。」

 

僕はヒナコのキャラ設定をするのも、面倒くさくなってぶっきらぼうにそう返す。座り方もいつもの背筋をピンとしたものではなく、背もたれに寄りかかり足を組んだだらけきった態度であった。

 

高二の夏と言えば、誰もが進路を決める時期。九九も全部言えて、都道府県も全て答えられる僕の学力なら東大ぐらい余裕で入れるだろう。だが僕は進路希望調査の紙に、「猿になる」と書いたのだ。

 

塚内先生

「氷山さんならいい大学にいけるのに...。正直もったいないよ。」

 

 僕は死んだ魚のような目で、はぁーっと深くため息をつくとコンコンと語り始めた。

 

ヒナコ

「もう面倒臭いんですよ。全部が。いい大学入ったって、いい職場で働けたってどうせ最後は死ぬんですよ。もう何も意味ないですよ。」

 

塚内先生

「そうかな?趣味に没頭したり、友達と遊んだりとか、恋人が出来たりとかって言うのも先生は人生の醍醐味だと思うなぁ。」

 

ヒナコ

「何か趣味を初めても自分より上手い人がいてそれに絶望。挙げ句の果てに、それを他人に馬鹿にされて何にもやりたくなくなる。友達もどうせ僕の腐った人間性を知って、みんな離れていく。恋人?笑わせんな。こちとら25歳童貞、恋人いない歴=年齢っすわ。」

 

塚内先生

「氷山さん落ち着いて...。あなたが何言ってるか、分からない。今日は帰ってゆっくり休んだほうが...。」

 

 塚内は僕のマシンガントークに困惑しているのか、僕に帰るよう促す。だが僕は辞めない。

 

ヒナコ

「だから惰性で無気力に生きる、猿になることにしたんです。なんで生きてるだけでも地獄なのに、その上に頑張ることを強要するんですか?ここは週間少年ジャンプの世界すか?」

 

 ここは週間少年ジャンプの世界か?我ながら、いい言い回しだ。

 

苦痛に耐え、血を吐きながら続ける悲しいマラソンなんか出来ない。確かにジャンプ漫画は好きだ。だがリアルの世界でも漫画の主人公のように、努力を押し付けられては溜まったもんじゃない。そう僕が思っていた時であった。

 

塚内先生

「何その態度?」

 

 人がせっかく真剣に、時間を割いてるのにと言わんばかりに塚内が呆れた顔をする。

 

そうだ。その顔。何度見ただろうか?大人はみんなこの顔をして、僕を見放す。

 

「こいつには何を言ってもだめだ」ってね。

 

ヒナコ

「フッ....。もう分かったでしょ。帰っていいすか?」

 

 塚内先生にその答えを聞く前に、勢いよく椅子から立ち上がる僕。カバンを掴み、そのままつかつかと扉のとこまで向かった。

 

塚内先生

「じゃあ好きにすればああ!!あなたの人生だし!私はもう何も言わないからっ!」

 

それに僕はシカトを決め込む。扉を勢いよく、ドンと蹴り上げてそのまま出て行った。

 

 

ブレインコントローラーウォーズ

Chapter.final「最後の日は最高の日」

 

 

 

ヒナコ

「チッ...!クソがっ!」

 

 怒り心頭で進路指導室を出た僕。そんな僕を呼び止める声がした。

 

モコ

「あっ!ヒナちゃん、一緒帰ろ!」

 

 先ほどまでスマホをいじっていたモコが僕に気づいたのか、手を上げ駆け寄ってきた。僕はそれに驚きつつも嬉しくなり、ムシャクシャした気持ちも少しは収まってきた。先に帰っててくれって言ったのに、待っていてくれたのか。君はなんて優しい人なんだ。

 

 僕らは進路指導室のある3階の廊下から階段を降り、下駄箱までたどり着く。

 

ヒナコ

「待っていてくれたんだ...。いつ終わるか分かんなかったのに。」

 

 下駄箱に赤い上靴をしまいながら、ローファーを地面に下ろし僕は言った。

 

モコ

「当たり前でしょ。私はヒナちゃんの親友ですから!」

 

 モコは得意げにそう返す。

 

ヒナコ

「そっか。ありがとう...。」

 

 複雑な気持ちに声を詰まらせながら返す僕に、モコがこんな誘いを持ちかけてきた。

 

モコ

「そうだヒナちゃん!帰りにラーメンでも食べに行きませんか?この前、オープンした美味しいお店があるんだよねー。」

 

 なるほど。さっきの塚内との口論について、色々と聞きたいのだろう。こうして僕たちはラーメン屋に向かった。

 

「二名さま入りましたー。」

 

 店内に入ると店員の元気な挨拶が聞こえてくる。店内はカウンター席のみで、8人ほど座れる広さだった。新しくできたせいかまだ客は僕らしかおらず、ガラリとしている。

 

「こちらへどうぞ〜。」と案内されたのは、一番奥のカウンター席。僕とモコが隣同士に座った。

 

僕は店主に豚骨ラーメンを注文、モコも「同じものを」と頼む。

 

 注文したラーメンを待っている中、さっそくモコが僕にこう切り出した。

 

モコ

「闇さんはこれからどうしていくつもりなの?」

 

ヒナコ

「えっ...?そりゃあ、これからも女子高生を...。」

 

とはぐらかす僕の声を、モコは遮る。彼女の顔はいつになく真剣で、本気で僕のことを心配しているようだ。

 

モコ

「違う。ヒナちゃんじゃなくて、闇さん自身がどうしていくかを私は聞いてる。」

 

ヒナコ

「そっか。そういうことか...。」

 

 僕は言葉に詰まりながらも、自分の本心を語り始めた。

 

ヒナコ

「僕はモコと一緒にこれからも生きていきたい。それがブレインコントローラーという空想であっても...。モコがいない現実だなんて、1秒たりとも生きていたくないよ...。」

 

 モコは優しくうなづいて、僕の話を聞いてくれる。そして僕が話し終えると、「そっか。」と一呼吸置いてこう言った。

 

モコ

「闇さんは私ともう会わない方がいいよ。」

 

ヒナコ

「えっ?なんでそんなこと言うんだよ...。モコは僕のことが嫌いなの?」

 

 僕は泣きそうな顔になる。それにモコは語気を強めてこう言った。

 

モコ

「そんなわけないよ。このままじゃ闇さんがダメになっちゃうから。闇さんが私に縛られてることで、前に進めなくなっちゃってる。」

 

ヒナコ

「もう前に進めなくていいよ。生きてることにもう疲れたんだ。」

 

 僕はまた投げやりな答えを返す。それでもモコは諦めずに、僕に言葉をぶつける。彼女は本気で僕のことを救いたいのだろう。

 

モコ

「そんなこと言わないで。私は闇さんが書く小説応援してるんだよ!」

 

ヒナコ

「えっ?どうしてそれを...?」

 

モコのその言葉に僕は驚いた。僕が小説を書き始めたのは、現実のモコと会えなくなってからだから。こちらの世界に来てからも、小説を書いていることは話したことがないはずだ。

 

モコ

「友達だから。」

 

モコは言葉を続ける。

 

モコ

「私たちはロックンロールをやってるんです。だから誰かに自分の生き方を否定されても、どうか折れないでほしい。闇さんは誰よりも痛みを知っているからこそ、その分優しさを知っている。その優しさは誰かにきっと届くから、諦めないで。私はもう会えなくても、話せなくても応援してるから。」

 

 どうしてだろう?僕はモコに返す上手い言葉が見つからない。小説を書くものとして、気の利いた言葉を言いたかったのにな。代わりに止め処なく大粒の涙が溢れてくる。

 

不器用な僕はただただ、「ありがとう...。ありがとう...。」と返すことで精一杯だった。

 

そんな僕の頭を、モコは黙ったまま優しく優しく撫でてくれた。いっぱいいっぱい撫でてくれた。

 

 その時丁度注文したラーメンが出来たのか、店主が「お待ちどう」とカウンターに置く。

 

だが僕はラーメンに一切手をつけず、立ち昇る湯気をただただ見つめるだけだった。

 

モコ

「どうしたの?ラーメン好きでしょ?」

 

不信がったモコが箸を止め、尋ねる。

 

ヒナコ

「君は......。誰だ......?」

 

 この言葉を発した瞬間、全ての時計の針が止まったかのような気がした。店内のBGM、店員たちの作業、外から漏れる人の営み、そのどれもが消え去ったかのよう。世界中にまるで僕と、今隣にいるモコのフリをする人物しかいない感覚に陥った。

 

 僕は敢えて彼女の顔を見ない。いや見れなかった。この言葉を出来れば口にしたくなどなかったからだ。

 

例え嘘であってもモコと、ちゃんと最後の挨拶ができるチャンス。それを逃したくはない。

 

だがそれよりも僕の中に最後に残っていた、ヒーローの魂がそれを赦してはくれなかった。

 

モコ

「えっ?私はモコですよ!もー!闇さんたらー!」

 

彼女はクスッと笑い、僕の背中を叩く。だが僕はちっとも面白くなかった。

 

ヒナコ

「モコはラーメン屋に来た時には、必ず餃子を頼む。だけど今日は頼まなかった。」

 

モコ

「たまにはそんな気分もありますって...!もうひどいなー!」

 

 モコはまた笑いながら僕の背中を叩いたが、その笑顔は先程は違って引き攣っていた。

 

ヒナコ

「本当に酷いのは君じゃないか?」

 

僕は手を震わせながら、ラーメンのお椀を逆さまにひっくり返す。本来ならば汁や麺がドバァと落ちるはず。だがしかし、予想だにしない動きに混乱したのだろう。

 

ラーメンだったものはミミズのようにウネウネと動いたかと思うと、たちまち赤いミジンコみたいな小型生物へと姿を変えた。これは地球上にはいない生物。

 

恐らく覚醒剤みたいに、ブレインコントローラーに依存させる何かなのは確かだ。今まで味のしないと思っていた食べ物の正体がこれとは、一杯食わされた。

 

ヒナコ

「もう終わりにしよう...。ルナ...。」

 

モコ

「あちゃあー!気づいちゃった系ー?作者さん、頭悪いからもうちょっと遊べると思ったのになー!」

 

 そう言ったモコを名乗る人物はもちろんと言うべきか、やはりと言うべきかルナの姿に変わった。

 

ルナ

「作者さん、今からちょっとお散歩しようか?」

 

いつもはふざけてばかりのルナ。彼女が初めて真面目な顔でそう言った。

 

カウンターテーブルでは、もう動かなくなったミジンコもどきの何匹もの死骸が横たわっていた。

 

 ここは近くに大きな山々があり、ピクニックなどに打ってつけである円香自然公園。

 

休日では犬を連れた若者や、スポーツをする家族連れで賑わっている。

 

だが辺りはすっかり暗くなっており、余り人影もなくほぼ僕らの貸し切り状態に近かった。

 

僕たちは木の木陰になる、ベンチに腰掛けて話すことにした。

 

ルナ

「作者さんはいつから気づいていたの?」

 

とルナが素っ気ない態度で聞く。僕は「ふぅー。」と深く息を吸い込んで、落ち着いた口調で話すことにした。

 

ヒナコ

「僕が最初におかしいと思ったのは、現実世界ではあれだけ僕に付きまとうルナが、ブレインコントローラーを使った時だけパッタリといなくなっていたことだ。間接的ではなくクラスメイトにでもなって、直接関わった方がデータも収集しやすいのにね。それに何より君お得意の、感情揺さぶり作戦が使えるじゃないか?それをやらなかったってことは何か裏があると思ったが、結局証拠は掴めなかった。」

 

ルナ

「へぇー。証拠ないなら妄想と一緒じゃん。やっぱ作者さんって頭悪っ...!」

 

ヒナコ

「最後まで聞いてくれ。だから僕は別の観点から考えてみた。外星人アルファは僕にヒーローショーをやらせていたんじゃないかってね。君は僕をアルファリオンにさせる状況を作って、マイナスエネルギーを回収したかったんだろ?僕が闘志を失っていたイジメキラー事件の時は、かなり必死になってたじゃないか?まるでノルマに追われる、営業マンみたいに。」

 

ルナ

「必死...!?はぁ?どこが?」

 

 図星だったのか、顔を赤面させるルナ。それに僕は淡々と自分の考察を話す。

 

ヒナコ

「まず第一に理想の世界なのに、僕以外の人間がいじめられる事件が起こる。これにはいじめられっ子だった僕にとっては、気持ちが揺れ動かないわけがないからな。いい出だしだ。そこでイジメを止めようとしたモコの正義感に、立ち上がれなかったハルの対比を見せる。そして最後に少年に背中を押させれば変身する。僕は君の策略にまんまとはまったってわけだ。まだ根拠はある。全部言おうか?」

 

ルナ

「分かった!分かったってば!あーもう!さっきまで作者さんヤケになってたのに...!ってあれって?」

 

ヒナコ

「そう。あれはわざとヤケになってみたんだ。僕がヤケになると、必ず都合よくお助けキャラが現れるからね。あと完璧に演じていても、焦りが出るとボロが出やすくなる。これは外星人でも地球人でも同じだったみたいだね。話してもない小説の件に、餃子を頼まなかった件。これが決定的な裏付けとなったよ。」

 

ルナ

「ふふふ....。あははははははははは!!!」

 

 ルナは突然大声で笑い出したかと思うと、目に涙を浮かべながら笑い転げている。

 

ルナ

「すごい!すごいよ!ここまで見破られたのは初めて!ははっ!」

 

 彼女はお腹を抱えながら、しばらく笑い続けた。すると目元を拭いながら、真剣な表情へと変わる。

 

ルナ

「せっかく僕がモコちゃんに会わせてやったのに...!ヒーローにしてやったのに...!恩を仇で返したな!」

 

 僕は首をゆっくりと横に振る。そしてルナに不器用ながらも、思いをぶつけた。

 

ヒナコ

「僕だって君に感謝している。でも、気づいたんだ。周りからチヤホヤされて、思い通りの人生を送ってるヒナコは僕じゃないって。駄目なところがいっぱいあって失敗ばかりしてる闇野ライトこそが僕なんだって。こんな駄目な僕だからこそ、本当のモコは僕と友達になってくれたんだと思うんだ。」

 

 僕はそこまで言い終えると、サムズアップをルナにして優しく笑いかけた。

 

 闇野ライト。それが僕の名前。ライトは日本語で光を意味する。僕はこの名前は自分が輝くためにあると思っていた。

だけど僕の人生は挫折の連続で、輝ける瞬間は訪れることがなかった。

 

でもそれで良かったのだ。僕は輝けなかったからこそ見えたもの。手に入れれたものがある気がするからだ。

 

 ルナは僕の言葉を聞くと、目を細めて怒りの表情を見せた。だがそれは一瞬だった。彼女はまた小馬鹿にするようないつもの顔で語り出した。

 

ルナ

「キッショ...!キショすぎなんだけど。作者さんは、ヒーロー作品の見過ぎで、オツムがもうパッパラーパーですやん!作者さんには最高級の罰が必要だね!」

 

 そう言ったルナは、僕のかけていたメガネ。つまりブレインコントローラーを強引に奪い取った。

 

そして自分に装着。目をカッと赤く光らせ、人差し指を頭上に突き上げこう叫んだ。

 

ルナ

「我、真の姿になりけり。制裁を下さん。」

 

 雲一つない夜空に、一筋のカミナリがドンッと響く。その稲光が彼女の体を包み込み、次の瞬間には、変身した姿が現れた。

白銀の装甲を身に纏った姿。その姿はまるで天使のようであった。背中に生えた純白の大きな翼。そして頭部につけられた銀色の仮面が月明かりに照らされ、鈍く輝きを放っている。

 

ヒナコ

「まさか……!ルナ!」

 

ルナ

「そうだよ?これが外星人アルファの本来の姿。」

 

 ルナは右手に握った剣を僕に向けると、冷たく言い放つ。

 

ルナ

「君は罰を受けて、役に立つ存在に生まれ変わるの。逝ってらっしゃい。」

 

 僕に向かって、真っ直ぐに飛んでくる彼女。僕はその直撃をモロに受け、そのまま意識を失った。

 

 気がつくと僕は映画館の中にいた。観客は僕一人。僕一人だけ。暗闇の中にポツンと佇んでいる。そんな感覚だった。自分の姿に目に移す。どうやらヒナコから闇野の姿に戻っているようだ。

 

僕はスクリーンを見つめるが、何も映っていない。僕は席を立ち、シアター内を歩き回る。

 

闇野

「ここが死後の世界か……?誰もいないし、特に変わったところもないし……。」

 

 僕は独り言を言いながら、ひたすら歩き回った。だが一向に変化はない。

 

闇野

「ここは地獄か!?地獄なら、さっささと釜茹ででも針山でもやれよ!このやろー!」

 

 僕はイラつきを隠せず、声を荒げる。すると、その時だった。突如としてスクリーンに映像が映し出されたのだ。

 

そこに映ったのは、よくあるニュース番組。

 

アナウンサー

「こんばんは。今日もニュースギンガのお時間がやって参りました。」

 

 画面の向こうでは、アナウンサーが爽やかな笑顔で喋っている。

 

アナウンサー

「まず最初のニュースです。本日20時15分頃、〇〇県××市に住む、闇野ライトさん(25)が自宅近くの公園にて遺体となって発見されました。死因は外傷性ショック死。警察は殺人事件として捜査を進めています。」

 

 アナウンサーの話す内容で全てを悟った。僕は殺されたのだ。犯人は恐らくルナだろう。

 

だが不可解な点が一つある。僕はヒナコの状態で殺された。なのに現実世界の僕が死んでいるとは何事だ?

 

そんなことを考えていると、アナウンサーがこんなことを言いだした。

 

アナウンサー

「今まで闇野さんがどんな人間だったのか、今まで関わりがあった人達に話を聞いていきましょう。現場の南ルナさんと中継が繋がってます。南さん!」

 

 画面が切り替わる。するとそこには黒のレディーススーツに身を包んだルナが、現場リポーターとして登場した。もう僕は驚かない。

 

ルナ

「はい。現場の南です。闇野ライト被害者の会の皆様に集まってもらってます。」

 

 画面には見覚えのある顔ぶれが次々と映し出されていく。母親、学生時代のクラスメイト、バイト先の店長、猫とさまざまであった。

 

ルナ

「では皆様に一人ずつ順に、闇野さんのことを聞いていきます。皆様にとって闇野さんはどんな方だったのでしょうか?」

 

 最初は母親だった。彼女は息子を失ったものとは思えないくらいの、まるで重荷から解放された様子であった。

 

闇野の母

「あの子は典型的なダメ息子です。25にもなってマトモな仕事をしたこともなく、お金だけを食い潰す家族のお荷物です。今まであの子にかけた塾代に学費、あの子が壊したものの修理費用、本当に馬鹿になりませんでした。それなのにことある如くに、「僕は発達障害だから」、「じゃあ死ねばいいんでしょ」と口にして逃げるような卑怯者です。うちの息子が皆様に多大なるご迷惑をお掛けしたことを、息子に変わって謝ります。」

 

母そう言って頭をぺこりと下げた。その瞬間、僕の胸は締め付けられた。なんて僕は親不孝ものだろうと。

 

 次に聞いたのは小学校のころの同級生、トシキだった。トシキとは当時は親友と呼び合う仲で、よくカードゲームやゲームで対戦しあった仲だった。だがその裏では、僕に相当な不満が溜まっていたようだ。

 

トシキ

「あいつとは友達だと思ってた。でも手癖が悪い奴で、俺たちの遊戯王カードを盗んだりしてたよ。とにかく信用ならないやつだ。」

 

 僕は耳を塞ぎたくなった。自分がやってきた盗みという行為が、いかに最低かを思い知らされた。

 

 次に来たのは中学時代のクラスメイト、ケイジュ。僕は彼のことをいじめていた過去がある。理由も他の男子がいじめていたから、それに便乗してというしょうもないものであった。

 

ケイジュ

「俺はあいつにいじめられました。「ボケナスビ」って言う変なあだ名でからかって、音楽の時間ではあいつが作った俺を馬鹿にする歌詞を、男子数名と一緒に歌うんです。みんなが先生に注意されてやめても、彼だけは最後まで辞めませんでした。性根が腐ってますよ。」

 

 僕は正真正銘の事実に、ただ黙って聞くしかなかった。

 

 続いて小説家仲間のリコの飼い猫、グミの番が来た。猫である彼は、喋れないはずの人語で僕の悪評を話し始めた。

 

グミ

「闇野はサイコパスだニャン。僕の生首を剣に見立てた画像をネットにあげたニャンよ。なんで僕の飼い主があんニャやつと仲良くしてるか、意味が分からニャイニャン。」

 

 グミを小説に出すことだったり、グミの画像を使うことは飼い主のリコから許可を貰ってはいた。しかし僕はそれに調子に乗り、面白いからという理由だけで無神経な行動に走ってしまったわけだ。人様の愛猫になんて失礼なことをしてしまったのだ。自分が自分でも嫌になった。

 

 最後に以前僕が働いていた、バイト先のドッグカフェの店長の番。彼女は僕が発達障害という特性を理解した上で雇ってくれた。だが、僕はそのチャンスを仇で返してしまった。

 

店長

「闇野さんは自分さえよければ、それでいいって子でしたね。毎日あの子のミスや失敗のカバー、サポート尻拭いでしんどくて大変でした。それなのに注意すればまるで、イジメられてるかのような被害者顔までしてくるんですよ。正直私は彼みたいな人とは、働きたくないです。」

 

 やはり僕はどこに行っても、何をやっても嫌われ者のクズ人間だったのだ。自分のやったこと。産まれてきたこと事態に、後悔するばかりであった。

 

闇野

「もうやめてくれ......!こんなことしても何も変わらない......!」

 

 僕がそう呟いて懇願するが、映像が止まることはなかった。

 

ルナ

「闇野さんは、なかなかの極悪人だったようですね。皆さまに同情します。」

 

とルナがわざとらしくハンカチで、涙を拭く演技をする。そして最後の質問に移った。

 

ルナ

「最後にお母様に聞きます。闇野さんを殺した犯人についてどう思われますか?」

 

 すると今まで怒りの顔を見せていた人達が、急にニコニコと笑い出した。

 

ルナ

「お答えください。」

 

 ルナが促すと、母は答えた。

 

闇野の母

「誰かは分かりませんが、息子を殺してくれた犯人に心からお礼を言いたいです。息子を殺してくれてありがとう。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕は絶句した。するとルナはこう言った。

 

ルナ

「ではみなさんでせーので、「闇野くん死んでくれてありがとう」と言いましょう!せーの!」

 

 その言葉で、画面は笑顔の人々のドアップでいっぱいになる。

 

「闇野くん死んでくれてありがとう。」「闇野くん死ね。」「闇野消えろ。」「闇野氏ね。」

そんな声が画面から聞こえてくる。

 

闇野の母

「ライトさようなら。あなたなんかこの世にいない方がいいわ。」

 

闇野の父

「息子よさらばだ。お前は生きている価値もないゴミだ。」

 

闇野の友人たち

「闇野ざまぁみろ。お前が生きてるだけで迷惑なんだ。」

 

「お前がいなかった方が世界のためだ。」

「早く死ねよ。」

「死んでください。」

「君には生きる資格がないよ。」

「地獄に落ちればいい。」

「地獄で苦しんでね。」

 

闇野

「やっ...やめろ...!!これ以上僕を苦しめないでくれ!!うわあああああああ!!」

 

 僕は怒涛の人格否定の言葉の波に、耐えられなくなりとうとう発狂。パニックになりながら、出口に急いで向かう。映画館を出ようとドアノブに手を伸ばす。だがドアが開かない。ガチャガチャ回そうが押しても引いても駄目だ。どうやら、閉じ込められているようだ。

 

 その時、背後から今まで聞いたことのないような、おどろおどろしい声がした。

 

???

「逃げてんじゃねぇよ。クズ。」

 

 僕が後ろに目を向けると、幼少期の頃の自分がいた。七夕の短冊にウルトラマンになりたいと書いた頃の、純粋な自分だ。だが今の僕に向けた彼の目は、まるで別人。激しく憎しみを抱いたものだった。

 

闇野

「いっ...いや!違う...!僕はクズなんかじゃない!本当のモコだって、僕を優しい人だって言ってくれたんだ!」

 

 僕は恐怖に支配されながらも、子供の自分の言葉を否定しようとする。だが彼はそんな僕の弱々しい言葉の剣を捻り潰すかのように、悪魔の言葉を浴びせる。

 

幼少闇野

「いいや。お前はクズだ。モコは優しいから、お前に都合のいいことを言っていたに過ぎない。本心ではお前みたいなのに、関わられて相当迷惑してたってのが真実だ!いい加減認めろよ!」

 

 もう怒りで訳が分からない。僕は子供の僕の、首根っこを掴み壁に叩きつけた。

 

闇野

「ふざけるなっ!お前に僕とモコの何が分かるんだっ!」

 

 力強く押し付けるが、子供の僕は動じない。それどころか、彼はニヤッと笑ってこう言った。

 

幼少闇野

「ほらっ。これがお前本来の姿だ。お前は関わった人間をみんな不幸にするんだ。」

 

闇野

「ああああっ!!ああああっ!!」

 

 僕は子供の僕を殴った。何度も何度も殴った。拳に血が滲むほどに、殴り続けた。子供の僕の顔面は見るも無惨に腫れ上がる。それでもまだ足りない。もっと痛めつけてやりたい。

 

子供の僕が「ごめんなさい!やめて!助けてウルトラマン!」と吠え面を掻いているが、それでも辞めない。溝落ちや腕に蹴りを入れる。ボキィと音がした気もするが、気にしない。

 

闇野

「ウルトラマンは呼んでもこねーよ!お前は僕だ!助ける価値もない!」

 

 今度は首を絞めた。子供の僕が苦しそうな顔をしている。

 

幼少闇野

「た...た...助け....。ウル....。」

 

 息が苦しいのか、口をパクパクさせている。だが力尽きたのか、やがて意識を失いぐったりとする。そこでようやく我に帰った僕は、恐る恐る子供の姿を見た。

 

闇野

「ああっ!!ぼ……僕はなんて事をしてしまったんだ!」

 

 後悔しても遅い。僕は目の前の少年を殺したのだ。僕はその場に崩れ落ちた。僕の心は真っ白に燃え尽きてしまった。するとルナが現れて、僕の頭を優しく撫でた。

 

ルナ

「作者さんは、ちゃんと自分が悪人であることを受け入れたね。さぁ産まれ変わろう。」

 

闇野

「産まれ..変わる...?」

 

 ルナは胸ポケットからブレインコントローラーを出す。そして闇野に「ほら見てよ」と手渡した。

 

ルナ

「こんなにマイナスエネルギーが溜まっている。作者さんが極悪人である証拠だよ。」

 

 口元に手を当て、妖艶な顔をしてほくそ笑むルナ。

 

 ブレインコントローラーの目盛りはフルチャージのゲージの許容量を遥かに超え、紫色のドス黒い煙を噴き出していた。

 

これは明らかに正常な動作ではないことがはっきりと分かる。

 

闇野

「そうか...。」

 

 僕は短くそう返す。もうまともに考えること、喋ることすらままならない状態なのだ。

 

ルナ

「あなたはもう闇野ライトではない。未来を終わらせる希望の闇になるの。」

 

闇野

「はい...。」

 

 またも僕は短くそう返す。

 

ルナ

「そうだ。もうこれは作者さんには必要ないよね。」

 

ルナは何か思い付いたのか、パァッと表情を明るくする。彼女は僕のズボンのポケットから、コスモプラックを抜き取った。

 

ルナ

「ねぇ。諦めるの語源って知ってる......?」

 

闇野

「 」

 

ルナ

「見極めて、それを受け入れること。今がその時だよ。」

 

 ルナは左手にそれを収め、高々と投げた。

 

闇野

「はい......。」

 

 パチンと指を鳴らすルナ。するとコスモプラックはアッと言う間に、粉々になってしまった。

 

空に舞う砕け散った青い輝き。それは夢が叶わないと思い知った瞬間のように、ただただ美しかった。

 

コスモプラックが破壊された。僕のウルトラマンへの憧れ。僕自身が強く生きていける光。その最後の砦が完全に壊されてしまった。

 

ーーー

 

「さらば、ウルトラマン」

 

ーーー

 

闇野

「うわあああああああああっ!!」

 

 僕は狂ったかのように叫ぶ。プシュン!プシュン!ブレインコントローラーがそれに呼応するかのように、煙が噴水のように噴き出す。

 

もうもうとした煙をまともに吸った僕、はぁはぁと息を乱れさせる。

 

メラメラと燃えるかのように全身が熱く、メキメキと

身体が巨大化しているようだ。

 

 数秒も経たない内に僕の身体は映画館を突き破り、マンションにも負けないくらいの図体になっていた。

 

そして大きな爪をグシャリと振り上げる。すると次元に大きな穴が現れ、その中に飛び込んで行った。

 

次元の出口は現実世界。僕は穴から飛び降り、豪快に着地を決める。その衝撃で近隣にあった、車や木々がポップコーンのように弾け飛ぶ。僕の姿を見た人達も、目の色を変えてギャアギャアと騒ぎながら逃げ出しているではないか。

 

 ビルのガラス越しに映った姿が目に入る。その姿は「傲慢」、「嫉妬」、「憤怒」、「怠惰」、「強欲」、「暴食」、「色欲」が入り混じったような、見るに堪えない醜いものだった。

肉体からは、腐ったゴミのような体臭がぷんぷんする。社会のゴミである僕にはおあつらえ向きってわけだ。

 

ルナ

「逝きなさい......。Sin.アルファリオン。」

 

 ルナは僕の化け物化した名前を呼ぶ。「真」、「神」、「罪」をかけたトリプルミーニングってわけか。素晴らしい。

 

僕の手は善人であるには、あまりに汚れ過ぎていて罪を償いきれない。それなら必要悪として、最後までこの身を捧げようではないか。

 

Sin.アルファリオン

「◇▲▩#■※▥」

 

僕はこの時アルファリオンの中で、彼が何を喋っているのかが分かった。なぜなら完全にアルファリオンと一体化し、彼そのものとなったからだ。

 

彼の意志。それは僕らみたいな出来損ないを虐げてきた社会への、憎しみ、やるせなさ、絶望そのものだった。

 

 僕は腐敗臭を撒き散らしながら、今まで暮らしてきた街を歩く。「おい!なんなんだあれは!」「助けてぇっ!!」と逃げ惑う人々。

 

だが僕は彼らを殺さない。

 

Sin.アルファリオン

『スカルアイ』

 

 僕は世界に温かなサーチライトを送る。その光の成分はブレインコントローラーそのもの。光に照らされた人々は、次第に笑顔になり眠り落ちていく。

 

光は100、1000、10000もの人々を、幸福にへと誘っていく。あるものは売れないバンドマンから、剣道館ライブを出来るほどの大物ミュージシャンへ。そしてあるものは、ホームレスから大豪邸に住む億万長者。そしてまたあるものは、産まれた時から男性になりたかった女性が男性の肉体を手に入れた。さらに、大切な恋人を失った若者は、再びその恋人と巡り合うことが出来たのだ。

 

人々は眠りにつく刹那、口々に「ありがとう」、「ありがとう」と言ってくれる。沢山の人に憎まれ、嫌われてきた僕がこんなに感謝をされたのは初めてだ。

 

素晴らしい。素晴らしいじゃないか。外星人アルファは、本当に希望の使者だったのだ。

 

Sin.アルファリオン

『人は誰しもが幸せになる権利がある。現実という檻から今僕が解放してあげる。』

 

 僕はこの大空に翼を広げ、飛んでいく。翼をはためかせながら。光は先程よりも勢いを増し、幾千にも舞うクリスタルのように輝く。

 

人生における挫折、失敗、別れ、後悔、優劣なんかもういらない。人は神から与えられた試練から、解放される時が来たのだ。

 

モコ、僕を褒めてくれるかい?今日僕は初めて人の役に立ったよ。今日初めて産まれてきて良かったって思ったよ。

 

 僕が一時間も飛び切らない内に、全ての人が眠りついた。するとまるでシロナガスクジラに似た、外星人アルファの宇宙船が明滅を繰り返しながら降ってくる。

 

宇宙船は眠った人々を吸い上げるかのように、飲み込んだ。人々が行き着く先は、冷凍カプセル。このカプセルによって、抜け殻となった肉体は守られるというわけか。外星人アルファは、そんなに人間が好きになったのか。

 

宇宙船は僕を取り残し大気圏を突入し、消えていった。

 

 もう地球人は誰一人この地球には存在しない。僕は人間を超越した存在。もう孤独など恐れない。静寂が身を包む、街中でこう叫んだ。

 

Sin.アルファリオン

『生きるのは最高だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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