宵崎奏の幻想入り   作:nyagou

10 / 17
チェックメイト 〜『セカイ』サイド⑥〜

「『セカイ』が終わる…」

 

鉄骨から降りた瑞希が『セカイ』の端を見て絶望する。端がゆっくりと近づいているのが消えていく地面からわかる。

 

「こんなことで終わるの…?私達はただ『K 』に会いたいだけなのに…『幻想郷』に行きたいだけなのに…」

 

絵名が崩れ落ちる。その地面の近くにはさっき瑞希が探す時に書いたマークがあった。それすら視界が曇って見えなくなる。

 

「…逃げなさい」

 

MEIKO が歯を食い縛って言う。瑞希と絵名がえっと言い出しそうな顔をしてMEIKOの方を見る。

 

「脱出しなさい!この『セカイ』から!このままじゃ殺されてしまうわ!」

 

「脱出するとして…MEIKOはどうなるの?」

 

「…ここで出来るだけ時間を稼ぐ」

 

「稼ぐって…死んじゃうじゃない!」

 

「私はここに残るよ」

 

MEIKOと絵名が言い争っている中、俯いているまふゆがつぶやくように言い放った。

 

「何で?もう勝ち目はないんだよ?」

 

瑞希がまふゆに尋ねる。

 

「だってここは私の『セカイ』だもの」

 

まふゆが何かを両手に抱えながら、まっすぐ瑞希達を見つめる。

 

「何で…ミクの身体を?」

 

MEIKOがまふゆが抱えているものを見て驚愕した。まふゆはもう冷たくなったミクをお姫様抱っこしていたのだ。まふゆが言葉を続ける。

 

「私は現実世界で自分という存在を何回も殺してきたし、殺されてきた。だから初めて『誰もいないセカイ』に着いた時、この『セカイ』にいる自分だけは殺さないでいようって思った。…でもこうして殺されてしまった」

 

「…」

 

「『セカイ』はもう私なの。『K』が消えたのも、ミクが殺されたのも私が死んだのと同然。そして今『セカイ』すら殺されようとしてる。もうこれ以上死にたくない。現実世界で死に続けるくらいなら…ここで死んでやる!勝ち目なんかなくたっていい。最期まで抗ってみせる!私が私であるために!」

 

まふゆは決意に満ちていた。

 

「…ごめん、すっかり弱気になってた」

 

MEIKOが気持ちを立て直す。

 

「よーし、この戦いが終わったらみんなで仲良くあのステージで歌おう!ここの服のセンスもかなりいいし!」

 

瑞希が笑顔でとんでもないことを言う。

 

「ちょっと…それってフラグって言うんじゃ」

 

絵名が的確につっこんだ。

 

「フラグ?フラグなんて折ってなんぼのものでしょ!」

 

瑞希が反論する。絵名もまんざらでもない顔をしている。絵名にも瑞希にもさっきまでの絶望感は無くなっていた。

 

「その服ってさ…」

 

まふゆが口を挟む。目に光が戻る。

 

「…何で出来てるんだっけ?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その頃、オリジナルミクは大量の自分の分身を前に行かせて、その最後尾にゆっくりと着いてきていた。

 

〈前方、朝比奈まふゆ以下4名を確認。攻撃しますか?〉

 

先頭の分身からテレパシーで連絡が来た。

 

「あーもうじゃんじゃん攻撃しちゃってー」

 

〈承知しました〉

 

連絡がそこで終わる。オリジナルミクは目を瞑る。

 

(幻想郷に行きたいなんて言うからこんなことになるんだよ、まふゆ。…もう幻想郷との全面戦争なんてコリゴリなんだ。大義のための小さな犠牲…悪くは思わないでね)

 

/ そう簡単な祈りだった 端から 段々と消える感嘆 /

 

遠くから音楽が聞こえてきた。

 

(ん?これは一体…?)

 

/ 今から緞帳が上がるから 静かな会場を後にさよなら/

 

〈こちら先遣部隊、こちら先遣部隊〉

 

「何?この曲は…敵は一体何をしているの?」

 

〈こちら正体不明の攻撃をうううう…ブツン〉

 

連絡が途絶えた。

 

「やられた?!一体何が…」

 

その時、左手の中指が突然弾け飛んだ。

 

「うわああっ?!」

 

中指が爆発した痛みに悶えながら、分身達を見る。次々と爆破されていき、爆発がだんだん近づいている。

 

(馬鹿な…何がどうなって…ハッ?!)

 

周囲を目を凝らして見ると、小さなキラキラがまふゆ達の方から飛んできている。それがオリジナルミクの前の分身の左肩にあたると…

 

ドォン!

 

「コスモの消失点」の劣化版のような小さな爆発を起こした。分身の左腕が千切れて落ちる。

 

(まさか…確か『誰もいないセカイの私』の能力は私と同じ能力…!まふゆ達はそれを受け継いだ者…そうか…『キラキラを創造する能力』!歌を歌うことが発動条件だったのか!)

 

そう気付いた時には既に分身達はほとんど消え失せ、大量のキラキラがオリジナルミクを襲おうとしていた。

 

 

/ 平穏とは消耗を以て代わりに成す 実際はどうも変わりはなく /

 

まふゆ達はいつもまふゆ達が『セカイ』で歌っている、ニーゴミクお手製のステージで歌っていた。『K』のパソコンをスピーカーに繋いで曲を流している。歌いながら次々と撃墜されていく分身達を見ていた。

 

(やっぱり…効いてる!確かにここで作られてる服だからもしかしてと思ったけど、まさか本当にキラキラから作られてるとは…!まふゆもよく気づいたね)

 

瑞希がまふゆを心の中で褒める。

 

(服の素材と、さっき私達のミクがわざわざ攻撃を音楽に関するものだけに限定したから気付けた…音楽で攻撃ってこういうことだったんだね)

 

まふゆは分身が爆発していくのを眺めながらそう思った。爆煙でだんだん見えなくなっていく。まふゆは再び歌に集中する。

 

/ 僕らが疲れるなら これ以上無いなら その度に何回も…

 

その瞬間、強烈なビームが爆煙から出てステージのスピーカーに命中する。曲が止まってしまった。

 

「なっ…!」

 

MEIKOがビームが出た方向を見る。そこからオリジナルミクが飛び出してステージに一気に飛び降りた。

 

「もう来たの?!チイッ!」

 

絵名がオリジナルミクから離れるように下がっていく。

 

「まさかここまで追い込まれるなんてね」

 

オリジナルミクが左手でスカートに付いた煙の塵を払う。

 

「さすがチート能力者…どうやって切り抜けたの?」

 

まふゆが尋ねる。

 

「簡単なことだよ。右手を捨てたの」

 

オリジナルミクが右肩を持ち上げる。本来そこに付いているはずの右腕がなかった。

 

「右手の『天地開闢』で消えていく自分の身体をキラキラで作り直しながら進んだの。右手は使えなくなっちゃうけど、仕方ないでしょ…どうせそのうち生えるものだしね。…さあ、まふゆ。レクイエムはもうおしまい。大人しく幻想郷に行くのを諦めるか、死んでくれない?」

 

「レクイエム…?ふざけないで」

 

まふゆが怒りをあらわにする。

 

「これは私達がここから先に進むために奏でた曲。終わるための曲なんて私達にあってたまるか!」

 

「じゃあ、死んでくれるの?」

 

オリジナルミクが尋ねる。

 

「『K』に会うっていうのに死んでちゃ駄目でしょ」

 

まふゆが言葉を返す。

 

「選択もまともに出来ないの?人間」

 

オリジナルミクがわざと哀れむような顔をする。

 

「人間というのは時に選択を超越するものなのよ」

 

まふゆも哀れむ顔をする。

 

「じゃあ死んで」

 

オリジナルミクの左手からまふゆめがけてビームが射出される。まふゆ達がステージからひらっと飛び降りて回避する。

 

わずかに残った十数本の鉄骨を瑞希とMEIKOが協力してオリジナルミクに投げ込む。

 

「ふん、もう何もかも遅い、手遅れだ!」

 

オリジナルミクが全弾撃ち落としてしまった。

 

「最期の抵抗もこんなものか…」

 

真上から落としてきた鉄骨も見るまでもないという様子で左手を上げて撃ち落とす。最後の一本の鉄骨が爆発して真っ二つになる。

 

「クッ…!」

 

絵名が歯を噛み締める。

 

その刹那、壊されたスピーカーがなんの奇跡だろうか、再び動き出した。

 

/  何時まで続くだろうと同じ様に同じ様に呟く /

 

「もう出てきなよ、もう鉄骨は一本もないんでしょう?」

 

オリジナルミクが勝ち誇って言った。

 

/ いま忘れないよう刻まれた空気を /

 

「そうね、もうないわ。でもまだ出ていけないわね」

 

MEIKOが答える。

 

/ これから何度思い出すのだろう/

 

「まだ?どういうこと?」

 

「ふふっ…上を見た方がいいわよ、まぬけ」

 

MEIKOは微笑みを隠せない。

 

「はあ?」

 

オリジナルミクが見上げる。

 

/ 僕らだけが/

 

影がオリジナルミクを覆う。

 

「し、しまった!」

 

/  僕らが離れるなら 僕らが迷うなら /

 

掲げていたオリジナルミクの左手が爆発する。左腕に遺体となったニーゴミクの右腕が絡みつく。

 

/ その度に何回も繋がれる様に /

 

(そうか…遺体だって『誰もいないセカイ』のもの…絵名の能力で鉄骨に固定して鉄骨を爆破した瞬間に落ちるように載せていたのか…!)

 

オリジナルミクの身体のあちこちが遺体に当たって崩壊していく。左手はもうなくなっている。まふゆ達がステージに乗り込んできた。

 

/  ここに居てくれるなら 離さずいられたら /

 

オリジナルミクの右膝が爆発した。バランスを保てずに転倒する。まふゆ達がオリジナルミクを取り囲む。

 

「これでチェックメイトね」

 

まふゆが仰向けに倒れたオリジナルミクを見下して言う。

 

/  まだ誰も知らない感覚で僕の生きているすべてを確かめて /

 

「まさか…この私が…『セカイ』創設者が負けるとは…」

 

オリジナルミクが負け惜しみを言う。まふゆは何も言わずに黙ってオリジナルミクの目を見つめる。

 

(いい目だ…ここまで人間が本気になっているのを見たことがない…ここまでさせる宵崎奏という存在は…ひょっとして…人間を…)

 

オリジナルミクが何故かニヤッと笑う。

 

/ 正しくして/

 

(ふふん…博麗の巫女め…ざまあみろ!)

 

オリジナルミクはそのまま意識を失った。




年末で忙しくなっていてなかなか投稿出来ず、ここまでかかってしまいました。恐らく年始もこのような感じではないかと思われます。ちなみに「ロウワー」ですが、実はこの話を書く原点でもあったりします。確かに東方とプロセカのクロスオーバー作品を書いてみたいというのもあったのですが、「僕らが離れるなら 僕らが迷うなら その度に何回も繋がれるように」という歌詞を見てじゃあ精神的にだけではなく現実でも離れ離れになった時にどうなるんだろうと思った時に思いついたのがこの作品です。さて、次はいよいよ東方の主人公霊夢とニーゴの主人公奏の全面対決ですね!どうなるかなー?また期間が空いてしまうかもしれませんが、乞うご期待!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。