「それじゃ、遠慮なくいかせてもらうわよ!」
霊夢が自分を中心に円を描くように御札をばら撒く。
(まだ飛ぶのは慣れないけど、シンセから弾幕を出すくらいなら…!)
奏が避けながらそんなことを考えているとー
「うわっ!」
奏が視界の外からいきなりすっ飛んできた陰陽玉にびっくりして素っ頓狂な声を上げる。御札だけを気にし過ぎて霊夢が投げた陰陽玉に気づいていなかったのだ。奏は人生で初めて宙返りをしながら避ける。
「これはまだ通常弾幕。スリリングはまだまだこれからよ!」
霊夢が加速し、やっと宙返りが終わった奏の目の前に現れる。
「天覇風神脚!」
「くっ…!」
奏はシンセを盾にして霊夢の霊力がこもった凄まじい飛び蹴りを受ける。霊夢の靴とシンセがぶつかり合い火花が散っていく。
「音楽家なんだったら楽器を大事にしなさいよっ!」
霊夢が勢いよく膝を伸ばすと脚に溜まっていた霊力が一気に奏を襲う。
「うにゃー!」
奏が凄まじい勢いで吹き飛ばされる。シンセの蹴られた部分にヒビが入る。
「ハハハ!こんな時におもしろい声出すなよ!『うにゃー』ってwww …猫かよ!」
地面から見物してた魔理沙が腹を抱えて笑っている。
「笑い事じゃない!こっちは生死がかかってるんだよ?!ちょっとくらい手伝ってよ!」
「手伝うってどう手伝うんだよ」
「援護射撃とか盾になるとか色々あるでしょ!」
「盾になったら私死んじゃうじゃないか!」
魔理沙が呑気に答えてる間に奏はなんとかシンセから弾幕を出した。しかし、蹴られた衝撃が大きすぎてシンセは回復しきってない。あまりにも弱々しいビームだった。霊夢のところまでは届いてすらいない。次々に飛んでくる御札と陰陽玉を躱すだけで精一杯のようだ。
「奏、別に私は奏の味方っていう訳じゃないからこのまま2人の戦いを見物するっていうのでもいいんだぜ」
魔理沙がため息混じりに言い放った。
「じゃあ…」
「でもな、…やっぱりおかしいよ、霊夢。今日の霊夢は特に」
魔理沙がまっすぐ霊夢を見る。魔理沙はかつての霊夢の笑顔を思い出していた。
「このまま見過ごせば、もっとおかしいことになる…それだけは阻止させてもらう!」
魔理沙が箒にまたがって弾幕を華麗に避け、奏のところに飛び上がる。
「魔理沙…!」
奏が思いがけない幸運を喜ぶ。
「ふーん…まあ、人間はどこまで行っても人間ね。自分に合わないことなら矛盾してても押し通す。あなたには幻想郷を守ろうという意識はないの?」
霊夢が魔理沙に問いかける。魔理沙が視線を落とす。
「ブーメランって知ってるか?」
「当然。それが何?」
「今のおまえのことだ!くらえ!恋符『マスタースパーク』!」
魔理沙が一瞬でミニ八卦炉を構え、霊夢に向けて極太のビームを打ち出す。あまりにも大きすぎて霊夢の姿が見えなくなる。自分には到底真似できない瞬発力に驚く。
(すごい…!これが本物の弾幕!?私のとは格が違う…!)
「どうだ、不意打ちのマスパは!おまえと違って私は日々鍛錬してるんだからな!」
魔理沙が誇らしげに言う。
「これが鍛錬の賜物ねえ…直線すぎる。前に決闘した時にも言ったわよね?いくら努力しても、間違った方向にすれば無駄なのよ」
霊夢がビームの光跡から出てくる。全くの無傷。難なく避けていたようだ。
「何が…!」
十八番を見切られた上に挑発を受けて魔理沙は怒り心頭である。
「さっさと終わらせましょ、夢境『二重大結界』」
霊夢の身体から立方体状の結界が出てきた。しかもその結界が膨張している。
(この位置はまずい!キレてる場合じゃあない…!)
魔理沙はくるっと後ろに向くと一気に進んだ。そして奏を右脇に抱える。
「え?え?」
奏は突然魔理沙に抱えられてびっくりしている。シンセも引っ込んでしまった。
「あの結界はやばいんだよ!中にいれば閉じ込められたまま脱出出来ずに、四方八方から弾幕を飛ばされてほぼ即死!外に出られても中の弾幕は容赦なく飛んでくる!このまま逃げるが勝ちだぜ、奏!」
奏を箒に乗せると穂のところに八卦炉を取り付ける。
「彗星『ブレイジングスター』!」
八卦炉がさっきのマスパのような光を噴き出す。あたりに星型の弾幕をばら撒きながら博麗神社の森の方へすっ飛んでいった。
「全く…火力の調整っていうのは出来ないのかしら?」
ばら撒かれた星型の弾幕をゆっくり避け、結界を解きながら霊夢はそう呟く。霊夢の冷たい目は奏達が行った先を冷静に見定めていた。
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「ごめん、完全に魔理沙に任せっきりで…それより大丈夫?」
奏は博麗神社の森の木の枝にぶら下がりながら魔理沙を見上げる。
「大丈夫だ、問題ない。箒の柄が折れただけだぜ」
木の幹に顔が埋もれていた魔理沙が顔を上げて右手でグッドサインを作る。額の左側から血が出ている。
「大丈夫じゃないじゃん!」
結界から逃げ切った魔理沙達だったが、今の私は直線で突っ切るのだーとか言っているうちに、八卦炉の火力が一向に減らないので方向を変えられずそのまま木に激突したのだった。
「一旦地面に降りよう。こんなに派手に箒が突き刺さった木なんてすぐ見つかるだろうし」
「それはやめた方がいい」
魔理沙が枝に引っかかっていた帽子を取り、汚れを払って深く被り直す。奏は今までぶら下がっていた枝によじ登って座る。
「ここら辺の地面には霊夢が仕掛けてる常置陣っていう地雷式の弾幕があるからな。博麗大結界を守護する特殊な木を守ってるらしいが…ぶっちゃけどこかは私にもわからん」
「もしかして、ここの地面全部に張り巡らしてるんじゃ…」
「あり得るな。霊夢ならやりかねない」
魔理沙が近くの大きな枝を数本折って下に投げる。地面に当たった瞬間、全ての枝が爆発した。落ち葉が舞い上がり、奏の顔は暗くなる。
「…強すぎる」
奏がポツリと呟いた。
「とても私じゃ敵わない…一体どうすれば」
「おいおい、さっきまでの強気はどこへ行ったんだよ」
魔理沙は小枝をいじくり回している。奏は下の爆発跡をじっと見つめている。
「あの時はまだ霊夢の力を知らなかったんだよ。でもさっき弾幕を出してみて気づいた。弾幕の威力、反応速度、弾幕の配置…何もかもが足りない。私には勝てない…!」
「そりゃ勝てないだろうさ。そんな気持ちじゃあな」
「え?」
魔理沙は小枝いじりをやめて、奏をまっすぐ見ていた。視線に気づいて
「確かに霊夢は強い。今まで負け知らずの幻想郷最強だ。私だって勝てるかといえば勝てないだろうさ。奏が始めた戦いっていうのはそういうものなんだぜ。でもな、これだけは言える。勝てないって思ってたら絶対に勝てない。最後まで勝つって思ってても負ける戦いがこの世にはいくらでもあるってのに、どうやって勝てないって思って勝てるんだよ」
「…」
魔理沙らしくない説教を聞いて奏は顔が明るくなる。
「腹を括れ、奏。元の世界に帰りたいんだろ?それじゃあ例え弾幕が出なくなっても、手足が千切れてでも帰るって意思を貫け!幻想郷は全てを受け入れる。きっとおまえの意思も受け入れてくれるはずさ」
「…そうかな?」
「ああ、それが幻想郷ってものだ」
「…ありがとう、魔理沙。少しだけど元気が出てきたよ」
「んじゃ、お代にさっきの団子をくれ。残りの2つ全部だ」
「ええ?!…じゃあ後でね」
「おう、楽しみにしてるぜ!」
(…感動を返してほしい)
ちゃっかりしている魔理沙に奏はちょっと失望しつつも安心する。
「で、どうやって反撃する?」
「さあ…奏の能力がわからない以上、弾幕でゴリ押すくらいしかやり方がないんだが…向こうも弾幕に能力を付与してゴリ押すタイプだからな。結構こちら側に分が悪い。能力がわかれば作戦を立てられるんだがなぁ」
「自分の能力なんてどうやって調べればいいの…ってうわあああ!」
奏の座っていた枝が音もなく折れた。箒が幹に激突した時にできた割れ目が枝のところまで達してしまったようだ。
「お、落ちるー!」
地面には大量の常置陣があることを思い出してパニックになる。
「いや、奏、飛べるだろ」
「確かに」
奏は自由落下をやめて浮上する。枝は落ちてまた爆発する。ドーン。
「危なかった…」
奏が魔理沙のところまで戻ってきた。
「よかったな、奏」
魔理沙がにっこり笑う。
「は?」
奏は怪訝そうな顔をする。
「今ので能力がわかったぜ」
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「ほんと魔理沙って火力馬鹿よねえ。まあ、いいわ。あいつらはどこへ行ったのかしら?」
霊夢は箒が突き刺さった木までたどり着き、魔理沙と奏をそこから探している。遠くの方の木に白いリボンがついた黒い三角帽が見える。魔理沙のトレードマークだ。
「今の奏はほとんど無力…あっちを片付ける方が効率がいいわね」
霊夢が魔理沙に急接近する。魔理沙が応戦するべく八卦炉を上に構える。
「魔符『ミルキーウェイ』!」
星型の大きな弾幕が魔理沙を中心に低気圧の前線のように曲線の軌道で回転しながら出てきた。パラパラと小さな弾幕もばら撒く。
「どうだ!直線直線ってうるさいから曲線にしてみたぜ!」
さらに畳みかけるために霊夢に追尾弾を放ちながら言う。
「性格は相変わらず直線ね」
霊夢は巧みにかわしながら言い返す。
「もういい加減にしなさい、そろそろ本気になっちゃうわよ…神技『八方龍殺陣』」
霊夢の周りに球状に霊夢の弾幕が固定され、魔理沙の弾幕から霊夢を守る。弾幕は霊夢から次々と供給され、余ってきた弾幕は攻撃に転じて魔理沙を追いかける追尾弾になる。
「ぬううわああ!」
魔理沙は必死に逃げるが御札の追尾弾を食らって落ちる。何とか減速したものの、そのまま木の幹にぶつかる。
「いい加減、奏から手を引きなさい。これは幻想郷の存続にも関わる問題なのよ…とてもじゃないけど私に勝つなんてあんたじゃ無理だわ」
弾幕を撃ち終わった霊夢が魔理沙の目の前に来て諭す。
「ふん…奏はもう私の友達だ。勝手に言ってろ!」
魔理沙がまた八卦炉を構える。
「あっそ。じゃあ仕方がないわね」
霊夢が札を構えた瞬間ー
(今だ!奏!)
魔理沙の心の声に応えたように奏は霊夢の背後に姿を現した。霊夢は全く気づいていないようだ。なぜなら…
(今の奏は「音」がない!どのような動作を取ろうと全く音が出ない!霊夢は目も耳も鼻もいいから敵を簡単に見つけられるが、これが逆に仇となる!)
奏は既にシンセを出している。そして今、弾幕を出そうとしている。それに合わせて魔理沙も霊夢に向けてマスタースパークを出すべく構える。
(さっき私が乗っていた枝が折れたことで何とか気づけた…本当に幸運だった。そして霊夢に勝って元の世界に帰る!)
奏がそう思ってシンセを弾いた。弾幕が遂に出るー
「音を消す能力だったのね、奏」
霊夢が首だけ後ろを向いて言った。
「「なっ…!」」
霊夢が後ろにいる奏に気づいたという事実に奏達は驚く。
(気づかれた?!まさか!どうやって?)
奏は驚きを隠せない。
「何となく勘で後ろに誰かいるなーとはわかってたけど…音を消せたのには少し驚いたわ。多分」
霊夢はそう言いつつもなんでもないという感じで奏から少し距離を取る。
(勘でって…)
奏は呆然となる。
「ふん、気づいたからってもう遅いんだぜ。今の霊夢は完全に挟み撃ちになってるんだからな!」
魔理沙は強気がる。
「ああ、確かに…あんたらもね」
そう言い放つと霊夢は一気に飛び上がった。
「霊夢が逃げる!追いかけよう!」
「別に逃げちゃいないわ…あんたらを挟み撃ちにするだけよ。宝具『陰陽鬼神玉』!」
霊夢の周りで回っていた陰陽玉に霊夢が触れる。すると急激に膨張し、魔理沙と奏の頭上を覆い隠すほど巨大な弾幕と化した。
「お、大きい…」
奏は弾幕の壮大さに唖然とする。
「なるほど…地面には常置陣。上空には陰陽玉。完全に詰んだな…人の心っていうのがまるでないみたいな弾幕だぜ」
魔理沙が八卦炉を奏に渡した。
「えっ…何でこれを?」
「私の最後の魔力を全てそこに込めた。彗星『ブレイジングスター』なら逃げ切れる筈だ」
「だったら魔理沙が…」
「言ったろ、最後の魔力って。さっき被弾したのがかなり響いてる。多分、私が脱出してもそのあと全く動けなくなる。…無駄なんだ」
魔理沙が今まで左手で押さえていた腹部を見せる。上に着ている黒い服のみならずブラウスまで破け、そこに血が真っ赤になるまで滲んでいる。
「…」
陰陽玉が急降下を始めた。もうあと数メートルのところまで迫っている。魔理沙が魔力で八卦炉を作動させる。
「彗星『ブレイジングスター』!」
奏の身体は八卦炉とともに加速し、魔理沙からどんどん離れていく。
「魔理沙!」
「頼む、奏。あいつを救ってやってくれ。奏の音楽ならきっとあいつの心を救える…私には出来なかったことを奏なら…」
その瞬間、魔理沙は陰陽玉に叩き潰されそのまま地面に落ち、常置陣と陰陽玉の大爆発の光の中に消えた。
「恨まないでね、魔理沙。これも幻想郷のためだから…仕方のないことなんだ」
爆発を宙に浮きながら見守る霊夢。爆風で髪を煽られながら、かつての『セカイ』を思い出していた。
やっぱり若干のギャグはいるかなと思って加えてみました。何とか年内に出せてよかった…多分一月は現実世界が忙しすぎるのでほとんど出せないと思います。出せたら出します。投稿頻度上げたいとかいうのは幻想だったようです。次回も楽しみに。