それから、10年後。
「ここが『セカイ』か…やっと見つけたわ」
霊夢が灰色の『セカイ』に降り立った。
「よく見つけたね。さすがは博麗の巫女といったところかな」
キラキラが竜巻のように集まって、その中からオリジナルミクが出現した。
「博麗の巫女でもここまでの異界渡りは初めてらしいわよ。紫が珍しくびっくりしていたわ」
「…それで?その博麗の巫女がなんの用?」
「あんたじゃ話にならない。本体を出しなさい」
「…そんなこと言われてもこの私が本体なんだけどね」
「ふん…覗き見は感心しないわね、初音ミク!」
そう言って霊夢はあらぬ方向に御札を投げつけた。
「どこ狙ってんの?それでも博麗の巫女?」
オリジナルミクが霊夢を嘲笑う。霊夢はそんなことを気にせず、御札の行った先を見ている。
「いいや、これでいい」
御札が空中で何かに突き刺さったように止まる。次の瞬間、御札の周囲の空間に亀裂が走る。
「なっ…!」
御札が爆破したことで空間が破壊され、その向こうから真っ白な『セカイ』が現れた。『誰もいないセカイ』にいたオリジナルミクは消滅する。
「ここまでとは…あなた本当に人間?」
真っ白な『セカイ』からオリジナルミクの本体が姿を見せる。どうやら霊夢の言う通り、『誰もいないセカイ』を覗いてたようだ。
「…さて、本題に入りましょう。ここを見つけられたのは最近『セカイ』の活動があまりにも活発すぎなのか、結界に若干の揺らぎを観測したからよ。…一体何を企んでいるの?」
オリジナルミクはニヤッと笑う。
「よくぞ聞いてくれました!ついに『セカイ』は完全なものとなったの!試作品での失敗も活かして、『セカイ』と外の世界との関係ある人物を4人にすることで『セカイ』の安定化に成功!我々『バーチャルシンガー』もそれぞれの『セカイ』に配置することでさらに安定!今じゃここも含めて6つも作れちゃった!4という数字にたどり着くのにここまでかかるとは…でも、もう大丈夫!今度は幻想郷との経路も模索中なんだけど…」
「試作品…ですって?」
「そうそう。いやー、色々大変だったね。朝起きてみたら『セカイ』が爆発して無くなってたり、幻想郷に送り込んでみたらそのまま帰って来なくなったり…まあ、終わりよければすべてよしってやつじゃない?幻想郷にも外の世界にもほとんど影響ないんだし…」
「あいつらを試作品扱い…?!」
霊夢の頭の中がカッと熱くなる。
「そう怒らないでよ、博麗の巫女。幻想郷には何も問題はないでしょう?」
「ええ。幻想郷には何も問題はないわ」
「じゃあ…」
「でも、私には大有りなのよ!」
霊夢はオリジナルミクに御札を投げつける。オリジナルミクは慌てて避ける。
「手を出したのはそっちからだからね!博麗の巫女!」
左手で霊夢に向かって衝撃波を出しつつ右手を地面に向かって打ち込む。床から分身が次々と出てきた。
「この『セカイ』の創造神たる私に歯向かうなど笑止千万!たかが人間の博麗の巫女が敵うと思うなよ!」
オリジナルミクと分身達は空へと飛ぶ。分身達が一斉に衝撃波を放つ。
「創造神だろうが縄文人だろうが撃ち落とすのみよ!」
霊夢も飛び上がり、陰陽玉から大量の御札をばら撒いた。
***
「馬鹿な…この私が…!」
霊夢の前に横たわるオリジナルミク。『セカイ』の地面の損壊具合とそこに散らばる大量の御札が戦闘の激しさを物語っていた。霊夢も右腕が血で紅く染まっている。
「これでどっちが立場が上かはっきりしたわね」
霊夢は左手で大幣をオリジナルミクの顔に向ける。
「…勝手にしろ」
オリジナルミクは目を閉じる。
「本来ならこんな『セカイ』は消してしまいたいところだけど…もう外の世界との繋がりが深すぎるから、協定を締結するわ。これを守らなかったら即刻『セカイ』は消す。いいわね?」
「…わかった。その内容は?」
「これから先、『セカイ』は幻想郷との繋がりを断つ。それだけよ」
「…仮に幻想郷の結界の影響で『セカイ』に残ってる幻想郷との経路が作動した場合は?」
「仮にそうなってもそちらからのアプローチはなし。こちらからも外の世界へ送り返すなんてことはしないわ。これで悲劇は起こらないはずよ」
「…了承した」
オリジナルミクは回復に専念しようというのだろう。そのまま動かなくなった。
霊夢は帰ろうとして飛びあがろうとした時、オリジナルミクが再び尋ねた。
「…もし幻想入りした人間が帰りたがったらどうするんだ?」
「無理矢理にでも幻想郷に居させるわ。…人間だったらね」
***
その後の調査であの灰色の『セカイ』はかつて響子と琴葉が使っていた『セカイ』だと判明した。
今は別の『音楽さーくる』なるものが使ってるらしい。4人組で、どこか暗い。でも、明日に向かって懸命に生きようとしている。響子と琴葉みたいだなと思わないでもない。
まあ、『セカイ』との繋がりは完全に断絶したから、関係ないことだ。
「ここが博麗神社だ!ここさえ落とせば我々の地位も飛躍的に向上…」
はあ。うるさい。命知らずの雑魚がまたきている。
霊夢は一瞬で鳥居の上に移動すると、石段で群をなす妖怪どもを睨みつける。暗闇の中明るく輝く月を背景に霊夢の目が爛々と光っている。
「ヒイ!」
雑魚の下っ端が怯える。そんなに怖がるくらいまでして立ち向かうくらいなら、家に帰って寝てたらいいのに。
「お!大変そうだな、霊夢!手伝ってやろうか?」
魔理沙がきのこでいっぱいのかごを箒にくくりつけてやってきた。
「その前にかごを縁側に置いてきなさい。きのこが落ちたら拾い集めるの面倒でしょ」
「あいよ!」
琴葉に言われた通り妖怪と交流を持ってみた。強い妖怪と仲良くなるのはすぐだった。少し弾幕を交えただけでもう私のことを理解してくれた。私の相手はどうせ妖怪か、妖怪もどきの人間だ。そう割り切ってみたら、簡単に世界は回り始めた。
強い妖怪と親しいとわかって、人里のやつらも報復を恐れて後ろ指を指さなくなった。そのうち、私のことを悪く言うことそのものを忘れた。人間なんてそんなもんだ。
そのあとしばらくして、私と同じような人間でありながらも私ほどではないが、強大な魔力を持つ魔理沙というやつにも出会った。今じゃもう響子や琴葉に負けないくらい仲良くなっている。
もっとも、いざとなれば見捨てるかもしれない。最近私の思想がどうも個人主義的だ。妖怪みたい。どうやら私は妖怪という深淵の中にいるらしい。
「おい、博麗の巫女!いい加減、こっちを向きやがれ!この俺様が目に入らぬか!」
「なるほど…あんたがリーダーってわけね」
霊夢は狙いを定めて、その声の主の前までひとっ飛びで行った。
確かに、他の雑魚よりは一回り大きい。だが、所詮、雑魚は雑魚だ。
「はやっ…」
リーダー格の妖怪が情けない声をあげている間に、霊夢は大幣を首元に深々と突き刺す。その妖怪は汚い血を撒き散らしながら倒れた。周りの雑魚共が青ざめて後退する。
「次」
「ぎゃああああ!」
霊夢は宙を舞いながら御札を的確にばら撒く。次々と雑魚達の身体が切り刻まれる。
「とりゃー!恋符『マスタースパーク』!」
かごを置いて戻ってきた魔理沙が巨大ビームを放つ。霊夢は巻き込まれないように上へ回避しつつ、陰陽玉をぶつける準備をする。
白い石段が妖怪どもの血で紅く染まる。血煙のせいか月も紅く見える。
人間を守るのが人間だったら頼りない。人間の思考なんてそんなものだ。だから、私が人間かどうかなんてどうでもいい。むしろ、妖怪か何かの方が都合がいい。どうせこの世は血まみれの地獄だ。
「ふう…こんなものかしら」
「口ほどにもない雑魚だったな」
「どうする?この死体、鍋に入れてみる?」
「きのこ鍋を台無しにする気か!」
「ふふっ、冗談よ。早く夕ご飯にしましょ」
紅く染まった石段から妖怪共の残党が1匹残らずいなくなったのを確認して魔理沙と一緒に神社に戻る。明日の掃除は大変になりそうだ。やれやれと霊夢は頭を振る。
私が人間であるのは私を倒したやつの前だけでいい。それまでは、今日も人間を辞め続ける。
昨日のうちに投稿する予定だったのにここまで遅くなってしまいました。これで、霊夢の過去編は終わり、いよいよ奏との最終決戦になります。強さと引き換えに人間性を捨てた霊夢と人間性を大切にする奏との戦い、お楽しみに!