宵崎奏の幻想入り   作:nyagou

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二人の救済者 〜最終決戦 後編〜

「ふう…なかなか出てこない…いっそのことここら一帯焼き払おうかしら?」

 

霊夢は屋根に座って、頬杖をついて物騒なことを考えていた。

 

「霊夢…」

 

奏の声が木の影から聞こえる。霊夢の目の前だ。霊夢は立ち上がりながら、その方向を見定める。

 

「…最後に言い残すことはある?」

 

霊夢が陰陽玉を手の平の上に浮かべる。

 

「ごめんね」

 

「…は?」

 

「霊夢の想いに気付けなくて」

 

「想い?」

 

意外な言葉を聞いて霊夢は動きを止める。

 

「人里に行った時、なんでこんなに幻想郷が明るいんだろうって思った。初めは幻想郷だからなんて安易に考えてた。でも、人間の社会がそんなに明るいわけがないよね。霊夢が暗い部分を一人で引き受けているから、だよね…今みたいに」

 

「…そうよ。それがどうしたっていうのよ」

 

「でも、霊夢…想い通りに幻想郷がならなくても、想いを諦めちゃ駄目だよ」

 

「…あんたに私の何がわかる!」

 

霊夢は奏の声めがけて陰陽玉を撃ち込む。木の幹が根本から折れる。

 

「…いない?!」

 

奏がいない。でも声はしていた。霊夢が奏の位置を聞き間違うはずがない。では一体何が─

 

「天符『それがあなたの幸せだとしても』!」

 

霊夢の左横から再び声がした。次の瞬間、森の中から大音量の音楽が聞こえた。さらに、低速の音符弾と高速の5本のビームが森から飛び出してきた。

 

「何っ!」

 

霊夢は本能で弾幕の危険性を察知し、空へ飛び上がり、回避する。奏も追撃するように飛び上がる。

 

(馬鹿な…奏の能力は「音を消す程度の能力」のはず。威力という点では弾幕との相性は悪い…けど、ここまで強力な弾幕は能力による強化がいる!一体どうなってる…?!)

 

霊夢は空中でひっくり返りながら奏の方を見る。霊夢の目が奏を捉える。奏は必死にシンセに向かって曲を弾いていた。まるで作曲の時のように。そう、誰かを救おうとする時のように。

 

(音の消滅。音の位相のズレ。大音量の音楽。強力な弾幕…まさか…!)

 

奏が顔を上げる。青い前髪の中、霊夢と目が合う。地獄の炎が目に宿っているような燃える目をしている。

 

「『音を消す程度の能力』じゃあない!『音を作り出す程度の能力』だったのか!」

 

(聞いたことがある。音には波形というものがあり、もしそれと全く逆さまの波形の音をぶつけると音は消えてしまうと…つまり、奏は初めから『音を作り出す程度の能力』だった!創造と破壊は表裏一体…なんで気づかなかった!)

 

霊夢はくるっと宙返りして体勢を立て直す。

 

「霊符『夢想妙珠』!」

 

陰陽玉から次々と球状の色とりどりの光弾を奏めがけて放つ。奏は弾幕を撃ちながら回避する。

 

(にしても、なぜここまで威力が…?さっきのとは段違いじゃない…)

 

奏のシンセのケーブル差し込み口に何かついている。霊夢はその付いているものを凝視する。

 

(あれは…魔理沙の八卦炉!そうか…八卦炉は魔力増幅装置…無理矢理八卦炉をアンプ代わりにしやがった!)

 

奏は再びシンセに、そして八卦炉に、自身の魔力を流し込む。

 

(…さっき魔理沙の部屋で八卦炉の説明書を見た。八卦炉は魔法使いによっては作られてない。なら私にも使えるはず…あとは想いを載せる。音楽と同じように…やっと弾幕がなんなのかわかってきた!)

 

霊夢は再び不敵な笑みを浮かべる。奏はその真意がわからず弾幕を撃つの止める。

 

「奏」

 

「…何?」

 

「なかなかやるじゃない。その人外みたいな発想、悪くないわ」

 

「あなたも十分人外だよ…」

 

「私は人間を救う必要があるからね。人外になるのは当然でしょ?」

 

「でも…」

 

「何?」

 

「あなたは救えてない」

 

「何が…」

 

「この…幻想郷を」

 

霊夢の表情が変わる。口周りの表情筋がピクピクし出す。

 

「言うようになったわね、奏!」

 

霊夢は奏の今の一言で完全にキレたようだ。霊夢の霊力の励起がビリビリと奏に伝わる。

 

「あんたの人外さに敬意を表して聞いていれば…私が幻想郷を救えてない…?ふざけるな!撤回しろ!」

 

霊夢は作り出されていく周りの光弾に包まれて神々しく輝き出す。

 

「だって、霊夢が─」

 

「霊符『夢想封印 瞬』!」

 

霊夢は奏の話も聞かず、弾幕を放つようだ。奏も急いで弾幕を撃ち返すべくシンセを構える。

 

「間符『悔やむと…えっ」

 

奏は弾幕を撃ち返す暇もなく腹に光弾が炸裂し、上空へと吹っ飛ばされる。霊夢は冷酷だ。霊夢は残りの光弾を奏が吹っ飛ばされた先へ一瞬で先回りさせると、サッカーのシュートを決めるがごとく奏の身体に命中させる。

 

(…弾幕の瞬間移動?!)

 

奏は今自分の身に起こったことが信じられない。

 

(…そんなの…反則じゃない…)

 

奏は次々と炸裂する光弾をなす術なくくらい続けながら、魔法の森上空を滑るように飛ばされていた。

 

「…私は幻想郷の救済者…いかなる犠牲を払ってでも、幻想郷の意思に従い、応え、救う者。それを否定するなど言語道断だわ」

 

霊夢は奏が飛んでいく先を見つめていた。

 

 

***

 

 

「ガハッ…」

 

奏は魔法の森を通り越して、霧の湖の畔に墜落する。そのまま地面を転がり、仰向けのまま動かなくなった。

 

(…霊夢…)

 

「もう限界のようね。いい加減、人間の限界を知りなさい」

 

横たわる奏の真上で御札が渦巻き、その中から霊夢が出てきた。

 

「まだ…私は救える…戦える…!」

 

奏は立ち上がりつつ、消えかかるシンセをなんとか具現化する。八卦炉が差し込み口から何度も落ちかかる。綺麗だった髪は血塗られ、逆にもののあわれを表している。

 

「まだ立つのね…いいわ。あんたの現世の置き土産としてならあんたの説教も聞いてやろうじゃない」

 

霊夢はゆっくりと奏の目の前に降り立つ。日も沈み、夜になりつつある。

 

「…私は霊夢とは違って音楽でしか救えないし、過去に何があったのかわからないけど…」

 

霊夢は奏の足元を見ている。フラフラだ。だからこそ、一層言葉に重みが増す。

 

「…」

 

「私は人は救済されているために生きていると思ってる」

 

「ふん…そうよ。だから私は幻想郷を救済するために存在する、幻想郷の一機関。それが?」

 

「じゃあ…霊夢は幻想郷ではないの?」

 

「何…?」

 

霊夢が目をカッと見開く。

 

「霊夢の救済対象に霊夢は入っているの?」

 

「…私の救済は幻想郷が救済されること…つまり、幻想郷の意思が無事遂行されることよ。幻想郷が奏を受け入れるなら、私も受け入れる。幻想郷が奏を帰さないなら、私も帰さない。…ただ、それだけよ。」

 

「だから、霊夢が誰かに救われたことはあるの?」

 

奏の視線が霊夢の視線と重なり、かち合う。霊夢は奏の真剣な眼差しに耐えれず、視線を外した。

 

「…幻想郷が救済してくれるわよ。多分」

 

「…その救済を受けるために霊夢は何回泣いたの?」

 

「…」

 

「霊夢。確かに、救済に見返りは求めてはいけない。でも、救済なしの人生じゃいつか破綻するよ」

 

霊夢は結界の狭間で砕け散った霊夢の輸送球体の破片を思い出す。

 

「なるほどね。…でも…幻想郷の中じゃ、私を救うに足るやつはいなかったわ。人間も妖怪も神すらもこの私に傷一つつけられない。触れることすらできない。自分を自分で救えるわけもないし。そこでどんな救済を期待しろと?」

 

「私が霊夢を救う。霊夢の想いをこの私が見つけてみせる!」

 

月が出てきた。満月だ。霊夢と奏の周りを明るく照らす。

 

「ほう…今まで散々私に打ちのめされたやつがよく言うわね」

 

「まだまだ…これからだよ、霊夢」

 

奏が勢いよく飛び上がる。シンセはもう完全に顕現している。この時、初めて奏が霊夢を見下ろす形になった。

 

「ふん…ならば、その人を辞めた覚悟をこの私に証明してみせなさい、宵崎奏!人を救うに足るか博麗の巫女が直々に審判を下してやるわ!」

 

霊夢はその立った地面から動かない。地上で迎え撃つ作戦のようだ。

 

「宵符『独りんぼエンヴィー』!」

 

音楽とともに弾幕を放つ。米粒弾と楔弾が出てくる。続けてビームも。もう、小細工なしの純粋な音楽を霊夢にぶつけた。

 

「イタズラは知らん顔で」

 

奏は自然と歌い出していた。何故かはわからない。でも、奏の心が歌わせた。歌わなければならないと思った。ただそれだけだ。

 

「言い訳は涙を使って」

 

今の奏にはもはや霊夢への恐怖はない。もう体力的にこれが最後の弾幕、そして最期の曲になるとわかっていたからだ。弾幕で勝つことは諦めていた。せめて、自分の記憶が消されて奏が奏でなくなる前に、霊夢が救われるように心から願っていたのだ。

 

「寂しいな遊びたいな 蜂蜜みたいにどろどろ」

 

霊夢は目を落とす。もしかしたら、かつての自分、いや、今の自分に歌詞と重ね合わしていたのかもしれない。

 

「あなたにも あなたにも 私はさ必要ないでしょ」

 

霊夢は目を見開く。回避に専念していたのをふとやめて曲に聞き入る。

 

(理解されてる…?この私が…?)

 

「世の中に剣もほろろ 楽しそうなお祭りね」

 

(…まさか、奏…あなたもなの?)

 

霊夢が初めて奏の音楽を救済と認識した瞬間だった。

 

「さあ あんよ あんよ こっちおいで 手を叩いて 歩け らったった」

 

奏が霊夢を見て優しく微笑みかける。一緒に歌おうと言ってるみたいだ。

 

「嫌んよ 嫌んよ そっぽ向いて」

 

霊夢は歌わない。奏は寂しそうな顔をする。

 

「「今日も私は悪い子 要らん子」」

 

仕方なくといった感じで霊夢も歌い出す。奏は少し嬉しそうになり、霊夢の歌に寄り添うように歌った。

 

(綺麗だ…弾幕も、音楽も)

 

霊夢はただ見惚れていた。聞き惚れていた。奏の最期の命を燃やす音楽に敵ながら聞き惚れてしまった。

 

「夢見ては極彩色 覚めて見るドス黒い両手」

 

霊夢は響子と琴葉を思い出す。同時に幻想郷によって消滅させられた、あの光景も。

 

「私だけつんざく 楽しそうな歌声ね」

 

霊夢はため息を吐く。ため息と言っても退屈の方ではない。感嘆の方だ。弾幕は見切ってるのか、もうピクリとも動かない。

 

「さあ 今夜今夜 あの場所へ」

 

奏の歌声に呼応して弾幕が忙しくシンセから飛び出す。

 

「皆で行こう 走れ らったった」

 

霊夢はそれを華麗に避けながらも目を細める。

 

「「いいな いいな 羨めば」」

 

奏が歌うところを霊夢も歌ってしまった。霊夢は自分の凡ミスに少しびっくりする。奏はクスッと笑う。

 

「「楽しく踊る気ままな知らぬ子」」

 

霊夢は少し頬を赤らめて膨らませながら続きを歌う。奏も笑顔でそれを受け入れる。

 

急に弾幕が減った。霊夢が心配そうな顔をする。

 

「大丈夫?奏」

 

「大丈夫、これ、間奏、だから…」

 

そう言いつつも、かなり辛そうだ。奏の命の灯が消えようとしている。

 

「いちにのさんしでかくれんぼ」

 

奏が最後の力を振り絞って歌う。

 

「ひろくんはるちゃんみつけた」

 

霊夢も歌って応援する。もはや弾幕と音楽を通した、心と心の会話だ。

 

「いきをきらしてはおにごっこ」

 

奏の調子が少し戻ってきた。霊夢も少し安心する。

 

「きみにつかまっちゃった」

 

霊夢の歌が少し震えた。

 

「「さあ あんよ あんよ こっちおいで」」

 

(そうか、霊夢)

 

奏は気づいた。霊夢は夢中で歌っている。

 

「「手を叩いて 歩け らったった」」

 

(霊夢は、人間としてでも─)

 

「「震える一歩 踏み出して」」

 

(妖怪としてでもなく─)

 

霊夢と奏の目が再び合う。

 

「「独りにバイバイ」」

 

(ただ、博麗霊夢として誰かに受け入れてほしかったんだ─)

 

そう気づいた瞬間、霊夢がこくりと頷いて、花のような笑顔を浮かべた。

 

「「ねぇ 愛よ 愛よ こっちおいで」」

 

霊夢が弾幕を気にせず浮上し、奏の目の前までやってきた。奏は霊夢が目の前に迫っても弾幕のパターンを変えない。

 

「「手を開いて 触れる あっちっち」」

 

(ああ) (このまま)

 

霊夢は想う。奏も想う。

 

「「いいの?いいの?目を開けた」」

 

((もし、この音楽が永遠に続いたなら─))

 

お互いの笑顔を見つめ合って、もっと笑顔になる。

 

「「今日も明日もみんなと遊ぼう」」

 

((それこそ、本当の幻想郷だ─))

 

奏と霊夢。二人の救済者の心がついに一つになった瞬間だった。

 

 

その瞬間、奏の弾幕が溶けるようになくなった。奏のシンセも消え失せ、奏は崩れ落ち、真っ逆様に地面へ─

 

「危ない!」

 

霊夢が落ちていく奏よりも先に下へ回り込み、奏をお姫様抱っこで受け止める。

 

「満足気な顔で眠っちゃって…」

 

霊夢が奏の顔を覗き込んでため息混じりに言う。

 

(散々攻撃しといてこんなこと言うのも変だけど、まだ、あなたを死なせるわけにはいかない)

 

霊夢が前方の安全を確認する。雲もない澄み切った夜空に浮かぶ満月が、明るく霊夢の行き先を照らしている。

 

(あなたはこの幻想郷の…いや、この全世界の中で唯一の私の救済者なんだから)

 

霊夢は奏を抱えたまま、凄まじい速度で霧の湖から飛び去っていった。




こんなに遅くなって申し訳ございません。ちなみに、なんとなく察したかもしれませんが、私は「独りんぼエンヴィー」が大好きです。執筆中によく聞きます。
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