宵崎奏の幻想入り   作:nyagou

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また会いにいくよ、幻想郷

「どう、セカイは」

 

真っ白なセカイに浮かぶ立方体。そこに倒されたはずのオリジナルミクが座っていた。不敵な笑みを浮かべている。

 

「確かにあれはもはや人間じゃない。私と同じものを感じたわ」

 

オリジナルミクを見上げながら、霊夢が答える。隣には魔理沙がいる。どうやら反発による消滅を逃れて、なんとかセカイに入り込めたようだ。

 

「奏は凄かったぜ。まさか、あそこまでできるとは思わなかった…というかあんた誰だ?」

 

魔理沙がオリジナルミクに尋ねる。魔理沙にとってはオリジナルミクは完全に初めましてだ。

 

「私?よくぞ聞いてくれました!私は全知全能にして…」

 

「黙れ」

 

「相変わらず手厳しいな、霊夢は。懐かしいよ」

 

オリジナルミクは昔の霊夢を思い出しつつ、高らかに笑う。

 

「にしても強いな、セカイの住人とやらはどいつもこいつもああなのか?」

 

「私も改めて驚いているよ。 コピーが相手とはいえまさかちょっと幻想郷にかぶれただけで私を倒せるほどのチカラを手に入れるとは思わなかった。私のセカイがここまで発展していようとは… 嬉しい誤算だね」

 

なんということだ。オリジナルミク本体ははじめからまふゆ達の相手をしていなかったらしい。本人は涼しい顔である。霊夢は肩をすくめてやれやれという。

 

「相変わらず自分は最後まで出なかったのね」

 

「当然。応対したのはただの時間稼ぎ。どうせ現代入りすれば現実改変が発生するんだからちょっとくらい無茶しても問題ないんだし…それに奏ならいや、私が手塩にかけて作ったこのセカイの住人ならきっと戻ってくると信じてたからね」

 

「分身倒されといて何をのたまってるのよ、たまたま帰ってきた時が倒された瞬間だったから良かったものの…その先はどうするつもりだったのよ」

 

「また作るまで。私本体にはなんの影響はないんだし」

 

「「はあ…」」

 

魔理沙は次元の違いを感じてため息をつく。霊夢は危機感のなさにため息をつく。どちらにせよ、オリジナルミクの感覚は霊夢達にはわかりそうにないことはわかった。

 

「ところで博麗の巫女…他にまだ言いたいことがありそうだね」

 

オリジナルミクは急に真面目な顔をして言うと、立方体から飛び降りて霊夢の前に降り立つ。

 

「ええ。あるわ」

 

霊夢はオリジナルミクの目をしっかりと見据える。

 

「何?博麗の巫女」

 

オリジナルミクも目を合わせる。

 

「人が人外の精神を手に入れた時もはやそれは人間じゃない…そしてこのセカイは人外の精神を育むに相応しいと判断した」

 

「ということは?」

 

オリジナルミクが目を輝かせる。

 

「悔しいけど…認めてやるってことよ 」

 

霊夢は言っている言葉とは裏腹に微笑んでいる。

 

「フフ、さぞかし奏も喜ぶであろうよ」

 

オリジナルミクはそう言い放った。

 

 

***

 

 

「全く昨日は…スランプだからって2日間もセカイに引きこもるなんて、心配したんだからね、奏」

 

誰もいないセカイで絵名が奏を叱る。

 

「そうそう、ナイトコードでも連絡もつかなくてさぁ。ミクとかにも手伝ってもらって探したら、奏がパソコンとかぶちまけて倒れてるのにはボクたまげちゃったよー。それで慌てて絵名の部屋に担ぎ込んだんだよねえ…ま、すぐに目が覚めたからよかったけど」

 

「様子を見に来た絵名のお母さんがどうやって家に入ったのか首傾げてたけどね」

 

瑞希とまふゆも加勢する。

 

もう気づいただろうが、まふゆ達は幻想郷関連のことは何も覚えていない。現代入りの影響で幻想郷によって現実及び記憶が再び改変され、まふゆ達がセカイから幻想郷に来ようとしたことはなかったことになったらしい。また、奏は幻想郷ではなくセカイにいたことになっている。忘却は平等に、そして残酷に訪れる。

 

「ごめんね…迷惑かけちゃって」

 

奏には返す言葉がない。気まずさから自分の髪をくしゃっとかく。

 

「普段なら1日くらい徹夜しても大丈夫なのに…」

 

「だから2日だって」

 

「え?1日じゃないの?」

 

「もう時間感覚までおかしくなってるじゃん…」

 

絵名がぼやく。いくら昼も夜もないセカイとはいえ、流石に48時間と24時間では違いすぎる。

 

「奏、それよりも曲はできた?」

 

「辛辣ゥ!昨日は奏は倒れてたんだよ?帰ったのは昼くらいなんだし、まさかできてるわけ…」

 

「できてるよ、ほら」

 

まふゆの容赦ない言葉に瑞希がつっこみを入れていると、奏はパソコンの画面を開けた。そこには前にはなかった作曲データが4つもあり、発表されるのを待っていた。

 

「一気に3曲?!」

 

「ちょっと急にどうしたのよ!イラストとか追いつかないじゃない!」

 

瑞希と絵名が驚いて画面を食い入るように見る。

 

「とりあえず聞いてみようよ」

 

まふゆが再生ボタンをクリックする。パソコンから曲が流れる。

 

「こりゃいいよ、どれもみんな傑作だよ!さっそく取り掛かろ!絵名」

 

「いいんじゃない」

 

「やれやれ、当分寝られなさそうね」

 

好評のようだ。容赦ないまふゆも今回はオッケーのようだ。奏は胸を撫で下ろす。

 

「体調には気をつけてね絵名」

 

奏が気遣いの言葉をかける。

 

「ブーメランって知ってる?」

 

絵名の言葉に奏はハッという顔をする。絵名と瑞希はクスクス笑う。まふゆはニコリと笑う。

 

「じゃ私この曲の歌詞書いてくるから」

 

「私もラフから描き出さなきゃ」

 

「ボクも今から曲に合いそうなの探してくるね」

 

立ち上がってセカイから出ようとするまふゆ達。それを見ているとまだ離れ離れになってから2日しか経ってないのに、なんだか懐かしい感じがした。そう思った瞬間、奏の心から言葉が溢れた。

 

「みんな、これからもよろしくね」

 

「どうしたの、改まって…でも、よろしくね」

 

まふゆが振り返って答える。絵名も瑞希もどこか嬉しそうだ。

 

「…それじゃ作業に戻るとしますか」

 

「またね」

 

まふゆ達がセカイを去る。すると、少し離れていたところにいたニーゴミクが近づく。実際はオリジナルミクに消されたはずなのだが、奏が幻想郷に行っている間での出来事なので幻想郷の現実改変作用で復活したらしい。だが、このことはもはやこのセカイの誰も知る由もない。

 

「奏、色々お疲れ様」

 

ニーゴミクが奏の隣に座って、奏をねぎらう。すると、急に不思議そうに奏のパソコンを凝視する。

 

「ありがとう、ミク。…どうしたの?」

 

「理由があるなら別にいいんだけど…奏がまだ発表してないのが1つあるなって」

 

「え?…ああ、これ?なんだろうね…」

 

確かに、パソコンの画面上には『Untitled 』のすぐ下に『Illusion land 』という謎の曲があった。

 

「再生しなくてもいいの?」

 

ニーゴミクが尋ねる。しかし、何故か奏はその質問にすぐには答えないでパソコンを閉じた。

 

(あの時の曲か…)

 

奏は不思議そうなミクをそのままに立ち上がる。

 

「いいよ…少なくともまだ今は」

 

奏はそういうと、パソコンを脇に抱えて満足そうに笑みを浮かべて、何もない虚空を見上げた。

 

(また会いに行くよ、幻想郷)




これで『宵崎奏の幻想入り』は一旦おしまいです。完結にするか続けて続編を書くかはまた今度考えることにします。
最後まで拙作を読んでくださり、ありがとうございました!
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