(…すっかり寝ちゃったな…)
奏が目を開ける。パソコンを見つけようと周りを見渡す。
(ここ、どこだろう…?こんなところ、セカイにあったっけ…?)
見れば見るほど、明らかにセカイとは異質だった。硬質なコンクリートみたいなセカイとは違い、自然でいっぱいだ。地面は土で出来ている。近くには大きな木々が立ち並び、上を見ようとしてもその葉っぱで覆われて見えない。しかも、暗い。かろうじて奏の近くが見えるだけだった。
(パソコンもないし…ミクとか近くにいるはずなのにどこ行ったんだろ…?)
ゆっくりと立ち上がり、ジャージの膝の部分についた土を払う。
(とりあえず、ミクに会わないと…)
奏は自分が居た獣道のような細い道を歩き始めた。
しばらく歩いていると、木々の間から丘とその上にある神社らしき建物が見えた。
(セカイに神社なんてあるんだ…何もないってミクは言ってたのに。一旦あそこに行って休憩しよう…歩いてすっかり疲れちゃったし…)
神社の方に進むと、だんだん開けてきて、白い石段が見えてきた。どうやら神社へと登る階段のようだ。
(長いな…)
一瞬登るのを躊躇う。しかし、ここを登らないとまたあの獣道だと思うと登らざるを得なくなる。
(登ろっか…)
諦めて一段、また一段と足のダルさを堪えながら登った。
「はぁ、はぁ…」
まだ半分も登っていないのにもう息が上がってしまった。
(登らなきゃよかった…)
少し後悔する。だがもうここまで登った以上、もう降りられない。観念して、息を整えるために少し止まると、後ろから光が差していることに気づいた。
(眩しい…これは日光…?)
振り返るとちょうど日の出だった。今はもう木のてっぺんはすっかり足元にあり、遠くの景色も見えるようになっていた。道理で目を覚ました時には見えなかった神社が見えるんだと一応納得したが…
(林、神社、日光…どれもいつものセカイにはないものばかり。…ここ、そもそもセカイなの?…)
そんなことを思っていた矢先。
「ヒャッハー!うまそうな人間だな!食わせろ!」
「ひいっ?!」
少なくとも人間ではないとわかる異形が石段の下から飛び上がって来た。奏は一気に青ざめる。
「おいらの縄張りを感知に引っかかることなくすり抜けるとは大したやつだ。だがもう逃さねえ!おいらの朝飯になれえ!」
「だ、だれか!助けて!」
さっきまで全く動きそうになかった足が必死に石段を登る。だが、異形はそれよりも速く飛んで先回りする。
「おいらに見つかったのが運の尽きだ。大人しく食わ…」
「そうだな、私に見つかったのが運の尽きだな」
空から声が聞こえる。その声を発した人物が急速で奏に近づき、箒の上に乗せると空へと飛んでいく。
「うわっ?!」
奏は自分が空を飛んでることにびっくりしている。
「よくもおいらの朝飯を!」
異形が怒る。
「残念ながら私は人間の味方なんでねえ。しばらく、くたばっといてくれ」
「なっ…!」
次の瞬間、異形の周りに瓶が投げ落とされ、次々と爆発する。
「ギエエエ!」
異形が悲鳴を上げる。爆煙が上がるとそこには黒焦げになって異形がぶっ倒れていた。
「これでよしと…危なかったなー!怪我はないか?」
心配そうに奏を見る。
「ええ…大丈夫です…あなたのお名前をお聞きしても?」
「ああ、戦闘ですっかり名前を言いそびれちまったな!私の名前は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ!」
そういうと魔理沙は自慢気にニカっと笑ってウインクした。一方で奏は頭が完全にパニックになっている。
「林、神社、日光、石段、異形、魔法使い…うーん…」
奏が気を失いかけて箒から落ちそうになる。
「おい!やっぱり大丈夫じゃないだろ!」
慌てて奏を抱える魔理沙であった。
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奏は神社の巫女さんが生活するところの居間で座っている。いくらか落ち着いてきたようだ。
「もう大丈夫よ、この私がいるんだから。もうあんな妖怪の心配なんてしなくていいわよ。あ、そうそう、私の名前はこの博麗神社の巫女の博麗霊夢。霊夢でいいわ、よろしくね。」
霊夢が言う。
「は、はい、ありがとうございます。霊夢さん」
「もう大丈夫って…さっきの状況下で言えるか?石段って思いっきり神社の敷地内な気がするんだが?」
魔理沙がいちゃもんをつける。
「あー?私だって人間なんだから睡眠は必要でしょうが?敷地内に侵入されてても境内じゃないんだから、知ったこっちゃないわよ、見えてないんだから」
「やれやれ、そういうところが巫女らしくないんだぜ、ほんとに…」
「何が!」
「あのー…」
「どうした?自分ん家に帰りたくなったのか?なら送るが…」
「いえ…ここってどこですか?」
「どこって博麗神社よ?」
「いや、そういう意味じゃなくて…この世界全体というか…どうも私のいた世界と違うというか…」
「「むむ?!」」
霊夢と魔理沙が同時に反応する。
「もしかしてあなた外の世界の人間?」
霊夢が奏の前にツカツカと出る。動揺する奏。
「言われてみれば、この子の服装、人里じゃあんまり見ないな。外の世界のやつなのか?」
魔理沙も納得する。
「はあ…まあ、最近増えてるものね、外から来る人は」
霊夢がため息をつきながら言った。
「それでここは一体…」
「ここは『幻想郷』。どうやらあなたは元々居た世界を離れてしまって、幻想入りしたようね」
「ええええ?!」
奏の驚愕の声が空へと飛んだ。
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「なるほど…だから私は幻想入りを…」
「理解が早くて助かるけど…なかなかにやってるわね、あなた」
「すみません」
「謝ることじゃないけども…」
霊夢がいうには、幻想入りには2つの条件を満たし、かつ幻想入りが起こりうる状況にいることで始めて可能になるらしい。
条件の1つ目は「幻想郷の存在を認識すること」これは瑞希が教えてくれたことで達成してしまった。
2つ目は「元居た世界の住民全員から忘れ去られること」これは元々奏には交友関係が少ない上に、睡眠時でも眠り始めというのは特に意識が混濁している場合が多く、身近なことでも忘れていることがあるらしい。またネット上では「K」として活動していることから、「宵崎奏」としては認識されていないのではないかとのことだった。
「ニーゴ全員が寝るなんて…そんなこともあるんですね」
「全員仲良く夜更かししたんでしょ?そりゃ朝は眠いでしょうがよ」
霊夢はやれやれという感じである。
そして、幻想入りが起こりうる状況は3つある。
1つ目は大妖怪の干渉を受けること。2つ目は幻想郷を覆う結界の境界の近くにいること。3つ目は幻想郷に繋がる異界にいること。
よりにもよって、奏の場合は2と3の両方を満たしていた可能性があるようだ。外来人は偶然出来た境界に引き込まれるという、2の方法で来る場合がほとんどだ。しかし、奏は外の世界ではなく、セカイからの幻想入り。セカイは半分くらい幻想で出来上がっているので、100%幻想で出来ている幻想郷と親和性が高いのだろう。
「っていうか、その『セカイ』さあ!怖いとか思わなかったのか?」
「いえ、全く…」
「そんな幻想と現実の中間みたいな不安定な世界に長時間いるなんて!…けどそういう空間に限って案外安定するものだよなあ…うん…」
「常に安定してるなら、こんなことにはならないわよ」
「あー?それを言うなら幻想郷だって常に安定してるわけじゃないだろが」
霊夢と魔理沙がちょっとした口喧嘩を始めた。まるでまふゆと絵名みたいだなと奏は思った。
結界は現実のものを弾き返すと同時に幻想のものと認識したものを引きずりこんでしまう。これが幻想入りの正体。そして、現実世界における幻想入りした人の痕跡は結界の作用により消えてしまう。まるで最初からそんな人は存在していなかったかのように。
「じゃあ、私のことはもう誰も覚えていないんですか?」
「ええ、そうなるわね」
「そんなことってあり得るんですか?その…色々おかしくなるとか」
「社会なんてね、歯車が一つや二つ欠けたところで勝手に回っていくもんなのよ。ましてや、結界の作用まで入ったらもう誰も気にしないわ。安心しなさい」
「そうですか…」
奏はまふゆ達のことを思い出す。
(私がいなくても勝手に回っていく、か…)
少し悲しくなって、胸の奥がキュッとする。
「私が作った曲とかは…」
「それは残るわよ。もっとも他人が作ったことになるでしょうけど」
「そうですか…」
奏は自分の手を見つめる。パソコンはない。現実のものとして弾かれてしまったようだ。
(曲がまだ向こうの世界で残ってるならよかった…けど…)
「まだ、作っていたかったな…」
「何だよ、辛気臭いなあ。まだ死んだわけじゃあるまいし」
「そうだ、外の世界に帰る方法ってあるんですか?」
奏がそう聞くと霊夢と魔理沙が一瞬びっくりした様子だったが、すぐに霊夢が返事をした。
「…ええ、あるにはあるけど…結界の薄いところを見つけるとか外の世界を探すとか色々あるから結構時間かかるわよ?」
「どんだけかかってもいいです。私はあの世界に帰らなきゃいけないんです!」
奏が必死な顔になっている。覚悟がひしひしと伝わる。
「…まあ、今すぐ決めなくてもいいんじゃないか?」
魔理沙が助言する。
「まだここ以外見てないんだろ?幻想郷には人里とか面白いところがいっぱいあるから、ついでとは言ってもなんだが見てから考えたらどうだ?」
(確かに、すぐに動かなくても…まふゆ達はもう私なしでも曲を出せるんだもんね…今元の世界に戻っても、もうニーゴには戻れないんだ…)
あの世界から自分という存在が完全に消えたということを改めて実感する。
「…そうですね」
奏は引き下がる。
「幻想郷のことをもう少し知りたいので、まだいることにします。…お手洗いってどこですか?」
「ああ、それは居間の横の廊下をずっと行けば、行き止まりにあるわよ。…っていい加減、敬語やめなさいよ。同い年ぐらいなのに気恥ずかしいわ」
「え、ああ…ありがとう、霊夢」
奏はお手洗いに行った。
「珍しいなぁ。外の世界に帰りたいなんて言うなんて」
魔理沙がボソッと言った。
「まあ、どうせ今までのと一緒でしょ…幻想郷の意思には逆らえっこないわ」
霊夢はため息混じりに呟いた。
「ただの人間で外の世界に帰ったやつなんて今まで誰一人いないんだから」
キリいいとこまで書こうと思ったら、すんごい長くなってしまいました。(当社比)
ニーゴって基本鬱展開なのはわかるんだけど、いざ書いてみると結構細部までこだわる必要があって疲れるもんなんだなあと感じました。
拙い文章ですが、今後の展開にご期待ください!
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