宵崎奏の幻想入り   作:nyagou

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奏と幽霊と団子と… 〜幻想郷サイド②〜

「んじゃ、行こっか」

 

奏がお手洗いから帰ってくると霊夢がそう言った。

 

「え、どこに?」

 

魔理沙が聞き返す。

 

「人里の団子屋よ。何のためにあんたこんな朝っぱらからここに来てるのよ。1日50本しか売ってないとか言うワサビ入りみたらし団子買うんじゃなかったの?」

 

「ああ、そういやそうだったな!奏のことですっかり忘れちまってたぜ。あの店の団子は絶品だからな!」

 

(ワサビ…美味しいのかな…?それ…)

 

奏はワサビが苦手である。そもそも斬新すぎて美味しいのかわからない。

 

「奏もついてくる?これからここに住むことになるんだから、幻想郷について色々知ってもらいたいし」

 

霊夢が奏に尋ねる。

 

「そうだね…」

 

「じゃあ、決まりだな!行こう!」

 

魔理沙が箒にまたがって勢いよく空に飛んでいく。霊夢もそれに続く。その十数秒後、まだ博麗神社にいた奏は大きな声で叫んだ。

 

「私空飛べないんですけどー!」

 

「ごめーん!」

 

魔理沙が急いで引き返してきた。

 

「ところでさあ、奏。外の世界じゃ何してたんだ?」

 

箒に奏を乗せて飛行すること数十分、霊夢と奏が全く話さないので魔理沙が話を切り出す。

 

「曲を作ってたよ」

 

「作曲家かあ…やっぱりね」

 

霊夢がなぜか納得する。

 

「曲ってどんなのだ?付喪神みたいな和楽か?プリズムリバーみたいなオーケストラか?」

 

「アンダーグラウンドって分類になるんだけど…」

 

「地底?さとりと仲良いのか?」

 

「さとりって…誰?」

 

「完全に話が噛みあってないわよ、魔理沙…もうすぐ人里に着くから降りましょ」

 

「わかった」

 

魔理沙は箒を一気に下に傾け、急降下の体制をとる。

 

「店の前で降りたらいいんじゃ?」

 

「私はともかく、魔理沙みたいな普通の人間が空を飛んでたら後で面倒なことになるのよ。これも幻想郷のマナーみたいなものだから覚えておきなさい」

 

「…わかった」

 

さっきのちゃらけた雰囲気ではなく、真剣に何度もうなずいている魔理沙を見て、相当面倒なことになったんだなと奏は感じた。

 

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「へー、曲で人を救おうっていうのか…わかるぜ、その気持ち!私も魔法に命懸けてんだからな!」

 

「うん…」

 

「どうした?具合でも悪いのか?」

 

「いや、ちょっと人混みが…」

 

奏達は人里の人混みを掻き分けながら進んでいる。

 

「まあ、朝だしね、無理もないわ。活気があっていいでしょ?」

 

霊夢がどこか自慢げに言う。

 

「外の世界と比べたらどうだ?」

 

魔理沙が興味津々で奏に聞いてみる。

 

「人混みは一緒ぐらいかも…でも、熱気はこっちの方がすごいね」

 

店先からの元気な呼び込みの声。店員さんの笑顔。客の嬉しそうな話し声。看板を尻目に、スマホを片手に持って下を向いたまま歩く外の世界とは大違いだ。

 

「やっぱりそうか!幻想にいる人間は活き活きするもんだからな!」

 

「ふん…外の世界よりもいいでしょ、奏。幻想郷に住むっていうのも悪くないんじゃない?」

 

「…悪くはないかもしれな…」

 

その時、奏の側を透明な人のような何かがすうっと通った。その顔をチラッと見てハッと気づく。

 

「…お父さん?!」

 

透明な人はそのまま狭い路地に入っていく。奏は急いでそれを追いかける。

 

「どこいくんだよ、奏!」

 

魔理沙の呼びかけも無視して奏は裏路地にどんどん入っていく。

 

「待ってよ!」

 

遠く先にいる奏のお父さんみたいな透明人間を追いかける。ついに行き止まりの井戸のところまで追い詰めた。

 

「何で逃げるの?…」

 

奏に背を向けていた透明人間が、首だけ回して奏の方をみる。そして言った。

 

「戻りなさい」

 

「えっ?」

 

その瞬間、まだうっすらと見えていた透明人間は井戸の中に消えるようにいなくなった。

 

井戸の前で呆然とする奏。

 

「おーい!大丈夫かー?何があったんだー?」

 

魔理沙が奏を呼びながら近づく。

 

「何か…透明人間みたいなのが見えて」

 

「ああ、それは幽霊ね。この世に対する未練がまだある人間の魂が彷徨ってるのよ」

 

霊夢が奏にわかるように説明する。

 

「幽霊とかどこに連れて行くかわからないのに、怖くないのか?すごいなぁ…」

 

魔理沙は感心している。

 

「普段は怖いんだけど…何だかお父さんに似てて」

 

「はは、幽霊に似てるも何もないだろ!みんな一緒だよ、ただの勘違いじゃないか?なあ、霊夢?」

 

「…そうね。違いないわ」

 

「だろ?ただの勘違いだって」

 

「そうかな…」

 

奏は井戸の壊れた釣瓶をぼんやりと見つめる。

 

「ほら、早く団子屋に向かうぞ!個数限定のが売り切れちまう!」

 

魔理沙が勢いよく走り出す。

 

「あ、待って!」

 

奏もそれを追いかける。

 

2人が行ってしまうのを確認してから霊夢は井戸を覗き込む。

 

枯れてしまった井戸らしく、水はない。どこを見渡しても、さっきの幽霊はいなかった。

 

「チッ…すり抜けてどこかに行ったわね…」

 

霊夢は井戸から顔を上げて、壊れた釣瓶を睨み付ける。

 

「余計なことしやがって…!」

 

くるっと踵を返すと奏達を追いかけ始めた。

 

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「すまないねえ、今日はあと2本しかないんだよ」

 

団子屋の女将が申し訳なさそうに言う。

 

「そんな!私達全員食べられないじゃないか!」

 

魔理沙が困惑する。このままでは3人のうち1人が食いっぱぐれることになる。

 

「なあ…もう1本だけ作ってくれないか?頼むよー、日頃のよしみでさあ!」

 

「よほどのお客様じゃないとねえ…それにあんたはたまに食い逃げ紛いなことするじゃないか」

 

そう言いながら、女将はふと奏の方に目をやる。

 

「あれは…後払いってだけじゃないか!後できちんと払ってるんだから問題ないだろ?頼むよー!」

 

魔理沙がゴネる。

 

「駄目なものは駄目だ。早く買わないと他のお客さんに売っちまうよ!」

 

「あの…」

 

奏が魔理沙に声をかける。

 

「私、ワサビ苦手だから、別に買わなくてもいいよ…?」

 

「え、ほんとにいいのか…?」

 

思わぬ幸運に魔理沙は戸惑う。

 

「まあ、本人がいいって言ってるんだしいいんじゃない?」

 

霊夢が後押しする。

 

「じゃあ…ワサビ入りみたらし団子2つで」

 

魔理沙がガマ口の財布を出す。

 

「まいど!」

 

女将は代金を受け取ると店の奥に消えていった。

 

 

「クーッ!ワサビがツーンとくるぜ!みたらし団子の餡の甘さと絡みあって最高だ!」

 

「甘さの中の辛さ…弾幕にも使えそうね」

 

「確かに!例えば通常弾幕でいきなりビームとか…」

 

魔理沙と霊夢が赤い縁台に座って団子を食べながら弾幕談議をしている間、奏は手持ち無沙汰に座って空の白い雲を眺めていた。

 

(ここなら、インスピレーションはいくらでもありそう…ちょっと考えるだけでもメロディーが次々と出てくる)

 

今度は地面を見る。小さな蟻が食べ物を探して必死に動き回っている。

 

(でも、ここにはパソコンもシンセもないし…そもそも曲を作る意義もない。みんな幸せそう…さすが幻想郷ってところかな)

 

奏は不意にさっき会った幽霊に言われたことを思い出す。

 

〈戻りなさい〉

 

(あれ、どういう意味なんだろ?…そもそもあれはお父さんだったのかな?よく考えてみたらお父さんも幻想入りしてるなら存在自体が消えてるわけだから、病院にいるわけないし…だったら何であの幽霊は戻れなんて言ったんだろ?純粋についてきてほしくなかったのかな?わからない…わからない…)

 

「横、いいかい?」

 

女将が盆に湯呑みを2つ載せて奏の横に来ていた。

 

「あ、ど、どうぞ…」

 

女将がしとやかに縁台に座った。

 

「せっかく来たんだし、お茶ぐらい飲みなよ」

 

女将がお茶を勧める。

 

「いえ、お金持ってないですし…」

 

「うちは茶屋じゃないんだから、ただだよ。安心しな」

 

「じゃ、遠慮なく…」

 

奏は湯呑みを一つ取ってお茶を少し飲む。

 

「あんた、やっぱり外から来た人間だろ」

 

女将にそう言われて、奏は飲んでいたお茶を吹き出してしまった。激しく咳き込む。ここまでの反応になるとは思わず、女将はびっくりする。

 

「…わかるんですか?」

 

女将に背中をさすってもらってなんとか落ち着いた奏はそう返答した。

 

「ああ、わかるさ。もう10年はここで商売やってんだもの。目を見りゃあな」

 

ようやく落ち着いた奏を見て、女将は安心する。

 

「外から来たもんは決まって目が死んでるんだ。落ち込んでる時も。笑ってる時も。…そういう病気でも流行ってるのかね?」

 

「いえ、別に病気なんてものは…」

 

奏はそう答えながらも外の世界を思い出していた。

 

(あそこはこことは違って、どこか冷たかった…それを病気というなら、一理あるかも…)

 

「そうかい…でも、あそこまで行ってしまえばもうどうしようもないね。もう手遅れってやつさぁ。顔はどんだけ笑っててもここが笑ってないんだもの」

 

女将はどんっと自分の胸を叩く。

 

「私も『目が死んでる』んですか?」

 

奏は気になって聞いてみた。

 

「ああ、そうだね。死んでるね」

 

女将がお茶を一口飲む。

 

「でも、何か普通のとは違うんだよねえ」

 

着物の裾で口を拭いながら言葉を継ぎ足した。

 

「どういうことですか?」

 

「確かに目は死んでる。でも、普通のなら目の奥には氷みたいな寒さがあるんだが、あんたには静かな、青い炎がある。あんたの炎なら…あの氷でも少しくらいなら溶けてしまうような気がするんだ」

 

「…その人達はどこに?」

 

「さあな、その炎を使うなら、そいつらを探すよりもっと楽な方法があるんじゃないのかい?」

 

奏はハッとした。

 

「あなた…一体何者なんですか?」

 

「ふっ…あたしゃただの団子屋の女将だよ。…霊夢に拾われた元、外の世界の人間だけど」

 

「…!!」

 

奏がびっくりしている間に、女将は紙袋を差し出す。

 

「これは…」

 

紙袋の中を見ると、さっきの団子が3つ入ってた。

 

「餞別だよ、お代はいらない。ワサビが苦手らしいから少なめにしてある。…魔理沙には店を出てから渡しな。味を占めて、またただ食いされたら面倒だから」

 

女将はそう言うと一気に湯呑みの中のお茶を飲み干し、盆の上に2つの空の湯呑みを載せて立ち上がった。

 

「そろそろ団子を作らねえとなくなってくるから戻る。その団子、大事にとっときなよ!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

奏も立ち上がって深く礼をする。女将は軽く微笑んで再び店の奥へと戻っていった。

 

(何だか…いい気分だな)

 

奏は霊夢と魔理沙のおしゃべりが続いているのを確認して、紙袋を抱えたまま縁台に再び座った。

 

(今の気持ち、メロディーにしておこう。きっと曲で使えるはず…)

 

奏の作曲癖が出て、どんなメロディーにするか考えていると…

 

「やい!そこの人間!今、女将から何かすごい団子をもらっただろ!あたいはこの目でしっかり見てたんだからな!サイキョーであるあたいにそれをよこせ!」

 

氷の妖精、チルノがすっかり考え事に夢中になっている奏の前に現れた。今にも攻撃しそうな様子である。

 

「おい、チルノ!相手は普通の人間だぞ!なにムキになってんだ!」

 

魔理沙がおしゃべりを中断してチルノを止めにかかる。

 

「うるさい!あたいはすごい団子を食べたいんだ!くらえ!凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 

チルノが弾幕を出して奏を攻撃する。

 

「やばい!避けろ、奏!」

 

魔理沙が必死に叫んだ。

 

一方、奏は…

 

(メロディーはこんなものかな…あとパソコンとシンセがあればどんな感じになってるか聞けるのに)

 

そんなことを考えていると、突然、身体の中で自分が考えたメロディーが実際に聞こえた。

 

そして、音符みたいな弾が次々と身体の周りから湧き出ている。

 

(…なにこれ?)

 

次の瞬間、弾幕同士がぶつかり合い、目がくらむような光と鼓膜が破れそうな音を立てて大爆発を起こした。




結局、この話に出てくる幽霊は奏のお父さんなのか。それはこれから先もわかることはありません。ただ、幽霊が「戻りなさい」と言った。これは事実です。このことで奏がどうなるのか。それはこの先のお楽しみってやつです。
この土日、体調を崩してしまい、すっかり投稿が遅くなってしまいました。申し訳ございません。これからはできるだけ投稿頻度を上げていくつもりです。
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