宵崎奏の幻想入り   作:nyagou

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沈黙のナイトコード 〜『セカイ』サイド②〜

絵名とまふゆが喧嘩別れした明くる日の25時。ナイトコードにて。

 

「チャットで言われた通りにしたけど…何でわざわざ乗っ取られてるこっちに入るの?」

 

瑞希がまふゆに聞いた。今、まふゆ達は謎の人物『K』に管理者権限を奪われているナイトコードのルームにいる。

 

「…ログアウトしてもいい?」

 

絵名が不満そうに言った。なぜかまふゆは全く答えない。

 

「どうどう、『えななん』!『雪』もきっと考え直してくれてるって!あの時はスランプで疲れてたんだよ、多分!」

 

「でも、『雪』さっきからずっとミュートしてるよ?」

 

確かにそうである。まふゆは入ってすぐミュートしてしまい、絵名に対しての謝罪も全くないまま時間が経っている。

 

(なにしてるの、まふゆ!このままじゃせっかくナイトコードに入りたがらない絵名を説得したのに意味がなくなっちゃうよ!)

 

瑞希が焦る。時計の秒針が回るのがいつもより速く感じる。

 

(このままじゃ、絵を描いてくれる人がいなくなって、下手すりゃニーゴ解散だよ?!)

 

「あーもういい。私抜けるね」

 

「もうちょっと待ってみようよ、頼むからさ…」

 

絵名が駄々をこねて瑞希がそれを宥めてると…

 

「…聞こえる?」

 

まふゆの声が聞こえた。

 

「あ、やっと戻ってきてくれた!ちょっと『えななん』に早くなんか言ってやってよ!…ってあれ?」

 

「どうなってるの?これ…?」

 

まふゆのアイコンを見るとミュートのままだ。でも声が聞こえる。

 

「やっぱり…『Amia』、『えななん』、ルームのメンバーを見て」

 

「ん?…『K』が繋がってる…?!」

 

「…どういうこと?あなたが『K』だったの?」

 

混乱する瑞希と絵名。まふゆが説明を始める。

 

「もちろん、私じゃないよ。これは『セカイ』で拾ったパソコンから繋いでるの」

 

「『セカイ』のパソコン?そんなのあった?」

 

瑞希が首を傾げる。

 

「MEIKO が忘れ物って言って帰り際に渡してきたから、『セカイ』のものでもじゃないんだと思う…だけどこのパソコン、私達が出してきた全ての曲データがあった…ラフさえも」

 

「ええ!なにそれ怖!ストーカーにもほどがあるでしょ!」

 

絵名はさっきまでのまふゆへの悪感情もすっかり忘れて怯える。

 

「でも、いくらストーカーとはいえ、普通『セカイ』には入れない。仮に入れたとしてもミクが追い出すだろうし。でも、パソコンは『セカイ』にあったの。そこで気づいたのが…予想に過ぎないんだけど…」

 

絵名と瑞希が唾を飲み込む。

 

「…私達、本当は4人組なんじゃない?」

 

重たい沈黙がナイトコードを支配する。

 

「…何言ってるのよ、まふゆ。そんな馬鹿げたことが…第一仮に『K』が仲間なら、私達全員が『K』のことを忘れるなんておかしいじゃない」

 

絵名がやっと口を開く。

 

「言ってるのがめちゃくちゃなのはわかってる…でも、昨日絵名に言われて気づいたの。私は救われたいのに、作られた曲は全部絶望の中でも誰かを救いたいって気持ちがこもった曲だった。はっきり言って、私にはこんな曲作れない。救われたいのに、救いたいなんて思えない。まるで、今まで私じゃない他の誰かが私のために作ってくれたような…そんな気がしたの」

 

「…」

 

まふゆが言葉を続ける。

 

「『K』を思い出せないのは何でかはわからない。でも、これは言える。今までの曲を作ったのは私じゃなくて『K』よ。頭ではわかってないけど…心でわかってしまったの」

 

「…じゃあ今まで作曲してたのはまふゆじゃなくて、このよくわからない『K』だった…って言いたいの?」

 

絵名が聞く。

 

「多分…もう『K』がいなくなっちゃったからわからないけど」

 

「何がなんだかもうわからないよ…じゃあ、何で記憶も消えるのよ…!」

 

「…」

 

瑞希は考え込む。

 

(『K』は『セカイ』に普通にいられる存在だったのに、何らかの方法でボク達の記憶すら消して消え去った。存在だけじゃなくて記憶も消える…待って、確かあのサイトに…!)

 

瑞希がハッと思い出して、検索する。

 

「…幻想入りかも」

 

「は?…そもそも幻想入りって何?」

 

絵名はやや鬱憤が溜まった様子である。

 

「一昨日、幻想郷について話したじゃん」

 

「あー、なんか言ってたね。それが?」

 

「あれ、『素材を探してた時に見つけた』というのは嘘なんだ」

 

「どういうことよ」

 

「あれ、ボクがこの世から消えたくなってた時期に見つけたサイトなんだ」

 

「あんたが?消えたくなってた?」

 

絵名が奇妙なことを聞いたという感じで素っ頓狂な声を上げる。

 

「それで?それがどう関係するの?」

 

まふゆは持ち前の無関心で瑞希の事情を無視する。瑞希は事情を聞かないでくれているのをうれしく思いつつも、実際はただの無関心なんだろうなと思って少しがっかりする。言葉を続ける。

 

「この世から消える方法が書いてあるのなんてほとんどが自殺サイトなんだけど…1つだけ違った。それが『幻想郷』というところに行くことだった」

 

「仮に行くとどうなるの?」

 

絵名が踏み込んで聞いてみる。

 

「条件とかははっきりわかってないらしいんだけど…この世から文字通り消えることができる」

 

「…もう少し具体的に説明してもらえる?」

 

まふゆが首を傾げる。

 

「うーん…なんていうか、幻想郷に行ってしまえば、今までこの世で生きた証拠ー例えば、写真、アルバム…その人に関する他人の記憶ですらもを全て消去して、まるで元から幻想入りした人がいないように幻想郷がこの世を改変するらしい」

 

「そういうものなら確かに…幻想入りのせいかも。ただいなくなるだけじゃ『K』との記憶が消えるわけないもんね」

 

絵名が納得する。

 

「これなら、『K』がニーゴからも、ボクらの記憶からもいなくなった理由には説明がつく。…まさか、サイト上のおとぎ話みたいな話が現実に存在するとは思わなかったけど」

 

「じゃあ、もしそうなら何で『K』は幻想入りをしたんだろう…?」

 

まふゆが不思議がる。

 

「わからない…そもそもいついなくなったか自体わからないし。でも、一昨日にはまだ『K』がいてこのことを聞いて幻想入りを敢行したなら…『K』はこの世から消えたかったからってことになる」

 

「そんな…私達のことが嫌になったのかな?」

 

絵名が困惑する。一方でまふゆが決意した鋭い目で言った。

 

「それでも、会いに行こう。『K』に」

 

「いいの?もしかしたら『K』はもう誰にも会いたくないのかもしれないよ?」

 

瑞希がまふゆに聞いた。

 

「それでも会いたい。いいや、会わなくちゃいけない。まだわからないんだから。会いたくないんだとしても、跡形もない、突然の別れなんて…綺麗すぎる」

 

「綺麗すぎる…って、あんたねぇ」

 

絵名がツッコむ。

 

「だって、私達、『消えたがり屋』じゃない。それでもまだ消えないようにってなんとかもがいてるのに…あんな美しい音楽だけを残して、綺麗に消えられるなんて妬ましい。せめて、もう一回会って『もう一度、戻ってほしい』って伝えたい」

 

まふゆがやや狂気じみたことを言い出す。目に光がない。

 

「はいはい。いつものまふゆを取り戻したようで何より。それで、『K』に会いに行くにしてもどうやって行くの?」

 

絵名が尋ねる。

 

「わからないけど…とりあえず、『セカイ』に行こう。『K』のパソコンがそこにあったんだから、他にも何か見つかるかもしれない」

 

「わかった。じゃ、『セカイ』で」

 

絵名と瑞希がナイトコードから落ちる。

 

まふゆは『untitled 』の再生ボタンを押す。キラキラに包まれる。

 

「あ、いらっしゃい。仲直りは出来た?」

 

ミクが出迎える。

 

「今日でここに来るのは3日連続ね。ちょっと来過ぎじゃない?…いやじゃないけど」

 

遠くにいたMEIKO が近づいてくる。

 

「よっ、ミク、MEIKO !今日はちょっと探し物をしにきたんだ。一緒に探してくれる?」

 

瑞希がミク達に協力を求めてみる。

 

「いいけど…仲直りはいいの?」

 

ミクは昨日のニーゴのことで不安なようだ。

 

「それどころじゃないから、いい」

 

まふゆがばっさりと仲直りの話を切る。

 

「言い方…まあ、確かにそれどころじゃないけども」

 

絵名が何か言いたそうだが、とりあえず引っ込める。

 

「それで…何を探すの?」

 

「それはね…」

 

瑞希がこれまでの経緯を説明する。

 

「…要するに、その消えてしまった『K』に関するものを探すってことでいいのね?」

 

MEIKO は事情を大体理解したようだ。

 

「…」

 

ミクは黙ったままでいる。

 

「…ミク?大丈夫?」

 

瑞希が心配して尋ねる。

 

「…うん。大丈夫」

 

「それじゃ、どう探す?」

 

絵名が瑞希に聞く。

 

「うーん、じゃあ、こうしよう!」

 

いきなり瑞希が地面にマジックで星を書き出した。

 

「ちょっと…あんまり汚してほしくないんだけど、この『セカイ』を」

 

まふゆが文句を言う。

 

「大丈夫だよ、これ水性だから。それに『それどころじゃない』でしょ?」

 

瑞希は星を書き上げると星の角を指差していった。

 

「まず、この星の中心を原点に考えて、この角から次の角までの範囲までがボク。で、次の角からその次の角までを絵名って感じで、まふゆ、ミク、MEIKO っていう分担でどうかな?」

 

「正五角形描けば良かったんじゃ…」

 

絵名が口を挟む。

 

「正五角形よりも星の方が綺麗に描けるでしょ?こういうのは公平じゃないと」

 

「じゃあ、決まりね。どれくらい探す?」

 

MEIKO が尋ねる。

 

「30分探したら、一旦ここに戻ろう。情報共有もしたいし」

 

まふゆが提案する。

 

「オッケー。じゃ、また30分後に!」

 

瑞希がそう宣言すると、一斉に捜索を始めた。

 

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「全く、事前通告とかあればいいのに…」

 

真っ白な世界で、謎の女が黒い空間の裂け目に向かってキラキラを放出している。裂け目から出てくるキラキラは奏を引きずり込んだ時よりはだいぶ少なくなっており、女が出すキラキラに押し戻されて裂け目に戻っていく。

 

「まあ、あのぶっ飛んだ世界のだからどうしようもないか…」

 

裂け目を凝視する。もうキラキラは出てこないようだ。女の方も放出をやめる。

 

「これでよしと。あとは自然消滅を待つだけだけど…」

 

拳をぎゅっと握りめる。行き場のない怒りに震えている。

 

「向こう側はすぐに抑え込んだのに…!」

 

ふっと表情が軽くなる。切り替えが早い。早すぎる。

 

「まあ、被害が大きくならなくてよかったって思うしかないね。これはあの世界への片道切符みたいなものになっちゃったわけだし。終わったことは仕方ない。いつもみたいに歌を歌おう!」

 

女は裂け目に背を向けて、元気に歌を歌う。裂け目はゆっくりと霞がかっていった。




「頭では全くわからないけど、心でわかる」ってことは普通ないんだろうけども、ないことはないと思います。例えば、美術館に落ちてた眼鏡を現代美術と間違えて熱心に観察する。これは普通の頭で考えたらただの落とし物でしょう。しかし、美術館という特異性。眼鏡に対する光の当たり具合。壁との位置関係。眼鏡の形。陰影。そういったところが心に響いて美術たらしめたんだと思うんです。
…ちょっと語りすぎた。一昨日からまた原因不明の腹痛に襲われて、投稿頻度を高めるとか言ってたのはそっちのけで苦しんでました。あんまり長くないのかもねとか思いつつ、出来るだけ書いていこうと思います。
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