「…う、ううん…」
ベットに横になって眠っていた奏が目を覚ます。起き上がって周りを見渡すと壁や天井まで白い。独特な匂いが鼻につく。まるで奏のお父さんの病室のようだ。
(ここはどこ…?さっきまで団子屋にいたのに…もしかして幻想郷に行ってたことそのものが夢だったのかな…?)
「あ、霊夢ー!奏が目を覚ましたぞー!」
病室のドアに近い方の隅っこの椅子に座っていた魔理沙が立ち上がってドアをガラッと開けて叫ぶ。
(流石に夢ではなかったか)
「奏ー!目を覚ましてくれてほんとによかったー!」
その声が聞こえたかと思うと、もう魔理沙が奏が寝ているベットにダイブしていた。
「わっ!…し、心配してくれてありがとう…」
「…ったく、会ってからほとんど時間経ってないのにもう友達みたいになっちゃって…」
霊夢が呆れ顔でゆっくり歩きながらドアから入ってきた。
「…ここはどこ?一体何が…」
「ん?あー、そっか。奏はここを知らなかったな。ここは永遠亭。幻想郷の病院だぜ!」
魔理沙が元気よく紹介する。
「…ここに来た事情とか説明したいんだけどいいかな?」
「私でも何が起こったのか、全くわかってないんだけど…何があったの?」
やはり、奏も気になっていたらしく霊夢に額を寄せて霊夢に尋ねる。
「うーんと、始めから説明すると…」
チルノという氷の妖精が女将から貰った団子を狙って、奏に攻撃をしようとしたらしい。その時に奏は弾幕を使って応戦。大部分は弾幕同士の衝突で消し飛んだが、全てがかき消されたわけではなく、奏はチルノの弾幕を食らったのか、倒れた。一方、チルノの方は「一回休み」の状態になっていたことから、少なくとも霊夢の札弾5発分くらいのダメージが入ったと思われるとのことだった。その後、霊夢達は地面に倒れこんだまま動かなくなっていた奏を回収するとすぐに永遠亭に担ぎ込んで治療を頼んだとのことだ。
「まさか、人間の体力を全回復させるとか言う、『紅玉の秘薬』まで使うとは思わなかったぜ。相当やばかったんだな…」
魔理沙が心配そうに奏を見る。
「まあ、普通の人間が弾幕に当たったらあの世行きだから仕方ないでしょ。一応予備も貰っといたわ…実はいらなかったっぽいけどね」
「…あの」
「何だ?奏」
「弾幕って何…?あの音符みたいなもの?」
「そのことなのよ、奏…あんたはいわゆる『能力者』ってやつらしいわ」
「…『能力者』?超能力とか使える人のこと?」
「そう。普通は『能力者』には妖怪しかなれない。でも、私達のような幻想郷との親和性がとんでもなく高い、ごく一部の人間は能力を発現する。恐らく、さっき倒れたのも、弾幕が当たったからというより発現する過程で能力に適応するために身体を幻想郷が改変していたせいだと思うわ」
「そりゃすごいな。外から来た人間で能力持ちなんて咲夜以来じゃないか?」
「それで…何ができるの?」
「そりゃ、まずは当然、能力行使だけど…何の能力か自分でもわかってないの?」
「わからない…」
「ふーん…まあ、追い追いわかればいいわ。んで、後は弾幕の放出。それと飛行能力…かな」
「…何だか疲れそうなのばかりだね」
「そんなこと言うなよ、奏!慣れたら楽だぞ?人生が倍楽しくなるんだからな!」
「奏には魔理沙みたいにはなって欲しくないけどね…まあ、とりあえず外に出て実践してみましょう。奏、行くわよ」
霊夢はギュッと奏の手を握る。
「え、ちょっと、外ってどこへ…」
「永遠亭の上で弾幕を撃つだけよ。もうさっき奏が起きたら帰ってもいいように鈴仙に手配させといたから、大丈夫」
「それって、近所迷惑なんじゃ…」
「そんなの、博麗の巫女の名の前では関係ないわ。さ、行きましょ」
「ええ…」
(何か…忘れたような…)
霊夢達は気が進まない奏を引きずる形で病室を後にした。
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永遠亭の上空。
「空を飛ぶって…やっぱり慣れないな。でも、歩くよりはいいかも」
奏は魔理沙に教わって空を飛んでいる。まだ川の水面をあっちこっちに流れて行くビニール袋みたいなぎこちない飛び方だ。
「はじめてにしては、結構上手く飛べてるぜ!この調子だ!」
奏の隣で箒に乗りながら、魔理沙は奏を褒める。
「空を飛ぶのはそれくらいでいいわ。次、弾幕を撃ってみましょう」
永遠亭の屋根に寝転がっていた霊夢が次の指令を出す。
「もうなのか?もうちょっと練習すれば確実に問題なく飛べると思うんだが…」
「元々私は奏の能力と弾幕を見たかったんだから、撃てるくらい飛べたらそれでいいのよ」
「わかった!じゃあ、奏!私は避けるから、撃ってみろ!」
魔理沙は奏から離れて真正面に対峙する。空中で浮きながら、奏は首を傾げながら言った。
「…弾幕を撃つってどうするんだっけ」
「ええ?!さっきチルノに撃ってたじゃないか!」
「あれは偶然っていうか…なんていうか…」
「うーん…腹に力を入れる感じだ!頑張れ!」
「…ううっ、やっぱり出ないよ…」
「弾幕を出す感じって人によって違うみたいよ。私は拳でリンゴを握り潰す感じかしら」
「霊夢は余計なことを言うな!逆に混乱するだろうが!…あ、そうだ!霊夢、ちょっと耳を貸せ!」
「何?…それってどうなの?…」
霊夢と魔理沙が相談している間に、奏は攻撃されて気を失う前のことを思い出していた。
(確か…あの時には団子屋にいて…女将さんに…)
〈その炎を使うなら、もっと楽な方法があるんじゃないのかい?〉
奏はハッと気づく。
(そうだ…私が本当にしないといけないのは…!)
魔理沙が霊夢のところから急に戻って言った。
「奏、いきなりだが、すまねえ!これも奏のためだ!魔符『スターダストレヴァリエ』!」
「なっ…!」
魔理沙は星型の弾幕を辺り一帯にばら撒き、奏に目がけて浴びせる。
(今の奏なら普通の人間よりも頑丈だ。チルノの時と同じように不意打ちに対する本能による発動ならこれで出るはず…どうだ…?)
奏はじっと向かってくる弾幕を見つめる。
(あの時のメロディーを…今の気持ちでさらに進化させていけば…!)
弾幕は奏までもう後数メートルのところまで近づいていた。
(駄目だったか…?)
魔理沙は諦めかけた。
「奏、弾幕はまだ撃とうとしなくていい!とりあえず避けー
魔理沙がそう言いかけた瞬間だった。
何もなかった奏の前に突然ホログラムが形成されるみたいに機械が顕現した。
(あれは…霊器かしら…?!)
霊夢は上半身を起こして奏を凝視する。
(これは…私の…シンセサイザー…)
奏は懐かしい気持ちでいっぱいになりながら、もう目の前にまで迫っている弾幕をみる。
(この想いを…弾幕に載せる!)
シンセサイザーのキーを外の世界でやったように丁寧にかつ正確に、そして情熱を込めて叩く。すると…
「こりゃあ…すごいぞ!奏!」
魔理沙が感動の声を上げる。
(規則正しくばら撒かれる米粒弾、時々でる自機狙いの鋭い楔弾。不規則な軌道を描く数字の形をした弾幕に音符の形をした放射状に発射する中型弾。その上ビームまで操るとは…パワー不足感は否めないけどもあの霊器のおかげか、団子屋の時よりもパワーアップしてる…しかもここまで複数の弾幕を同時に操っている…初心者なのにかなり出来る…!見といて正解だったわ)
霊夢は奏の弾幕を分析して驚く。
(米粒みたいな弾はドラム、三角形のはシンバル、数字はベースで音符はシンセ。ビームはギター…かな)
自分から出て行く弾幕を見ながら奏はそう鑑定する。
奏の弾幕が魔理沙の弾幕を次々と打ち消して行く。
(綺麗だな…あ、やべえ。避けないと!)
魔理沙の弾幕を突破した楔弾が魔理沙に迫る。
「うおおおっ?!」
魔理沙は箒を巧みに操って弾幕と弾幕の間をギリギリすり抜ける。
「ふう、避け切ったぞ…あ、これはマジでやばい」
魔理沙が躱した奏の弾幕がそのまま永遠亭の玄関に着弾し、轟音を立てて爆発する。
「なーにやってくれてんですかぁ!」
鈴仙がクレーターみたいになってる玄関から怒りながら飛び出してきた。
「奏、逃げるわよ!」
霊夢がガバッと跳ね起きると、屋根から勢いよく飛んであっという間に奏の隣まで行った。奏は自分のしでかしかしたことに動揺している。シンセサイザーは幽霊のようにぼやけて、もうなくなっていた。
「えっ、でもさっき博麗の巫女の前じゃ関係ないって…」
「流石に永遠亭を敵に回すのはまずい!あんたの監督責任とか問われるに決まってるから私の身が危ない!ここは全部魔理沙に任せて、一旦博麗神社に引きましょう!」
(めちゃくちゃ保身に走ってる!)
奏がドン引きしている中、霊夢は奏の手を引っ掴む。
「ほら、追っ付かれる前に逃げるわよ!」
「ええっ…」
奏を引っ張ったまま霊夢はギアを上げてトップスピードに達し、迷いの竹林を突破した。
一方、魔理沙の方は玄関前で出来てしまったクレーターに呆然としていた。
「おい、霊夢、奏ー!ちょっと待てよー!」
奏達がいなくなったことに気づいて振り返り、魔理沙が呼びかけると…
「魔理沙さん…?どうなるか、わかってますよね…?」
鈴仙が笑顔で魔理沙と手を繋ぐ。怒りのオーラが滲み出てて、むしろその笑顔が怖い。
「ちょっと、これは、わ、私のせいじゃないんだ!信じてくれ!無言で私を連れて行くなああ!」
魔理沙は鈴仙に引っ張られて爆発でひしゃげた玄関の奥に消えた。
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「ふう…ここまで来たらもう追ってこないでしょ…」
霊夢がようやく速度を緩める。
「疲れた…」
遅れながらもなんとかついてきた奏も一安心する。
「でも、どう?結構楽しいでしょ。飛ぶの」
「確かに…飛びながら見る景色は格別だね」
上空100メートルくらいだろうか。夕日が照らす幻想郷をなんの障害もなくずっと遠くまで見渡せる。小さく見える人里の木造の家がオレンジ色に染まっている。
「ええ。そうね…ところで、幻想郷はどう?居心地はいい?」
霊夢は奏に質問する。
「うん。最高だね」
「それはよかった」
霊夢は満足そうな顔をする。
「霊夢は幻想郷のことどう思ってるの?」
奏が霊夢に逆に質問する。
「そうねえ…私にとってはうるさいヤツらが多くて色々大変よ」
「じゃあ、あんまり好きではないの?」
「ちょっと違うわ。それはそれよ」
霊夢は虚空を見つめる。奏はどういうことかと霊夢の方を見る。
「私には博麗の巫女として幻想郷を守る義務がある。幻想郷を愛する義務がある。私が守らなくちゃ、それこそ幻想郷の終わりよ。幻想郷を守るためなら…なんだってするわ」
「…何だか、わかるな。その気持ち」
「あら、意外ね。魔理沙に言ってもよくわからんって言われたわ」
「…私も外の世界でそんな感じだったから」
奏は楽譜がそこら中に散らばっている暗い自分の部屋を思い出す。
「ふうん…案外似てるのかもね、私達」
「私は霊夢ほど人と仲良くできないけどね」
「私が人と仲良く?私の人に対する姿勢は来るものは拒まず、去る者は追わずよ?」
「でも、さっきの女将さんを救ったのも霊夢だって聞いたよ?」
「…要らんこと言いやがって」
霊夢はそう言いつつまんざらでもない顔をする。奏はクスッと笑って霊夢を見る。
「…何よ。何か私の顔についてるの?」
「…別に」
2人は同時に相手の顔を見ないように前を見る。見つめ合うのが照れ臭くなってしまったのだろう。2人とも微笑みを顔に浮かべている。博麗神社はすぐそこだった。
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「この薄情者共めぇー!覚悟しろお!」
永遠亭からようやく帰ってきた魔理沙が神社の掃除も終わって休憩がてらにちゃぶ台を挟んでお茶を飲んでいた霊夢と奏のところに飛び込んできた。激おこプンプン丸という感じである。
「あら、お帰り。なんて言われた?」
霊夢が魔理沙に面白半分で尋ねる。
「なんて言われただと?奏が壊したはずなのに、何故か私に罰として明日から永遠亭の玄関の修理と人里での薬販売を言い渡されたんだぜ?おかしいじゃないか!?ちょっと奏、表に出ろ!私の弾幕でボコボコに…」
奏はそれには答えずに黙って縁側まで歩いて行き、ジャージのポケットから紙袋を取り出し、そこからさっきの特製団子を1本、庭先に立っている魔理沙に渡す。魔理沙は一瞬躊躇うが、結局すぐに腕を伸ばして団子を受け取り口に頬張る。もうさっきの般若みたいな顔は消え失せている。
「まあ…モゴモゴ…今回はこれくらいで勘弁してやるよ。次はないからな!…モゴモゴ…やっぱりうまい!」
魔理沙は満足そうな顔をする。奏はそのまま縁側に座る。
(ちょろいね)
(ちょろいわね)
奏と霊夢はおんなじことを考えていた。
「さて…奏。これからどうする?このままここで居候っていうのも手としてはあるけど、一人前の女の子なんだし、人里で住む方がいいんじゃないかしら。幻想郷のことは大体理解したみたいだし、『能力者』なら並大抵の妖怪になら勝てるから襲われる心配もないわ。人里に住むっていうならこれから人里に行って住むところ探すけどどう?」
霊夢は奏にこれからの生活について聞いてみる。
「そのことなんだけど…やっぱり、外の世界に帰ろうと思う」
「…何ですって?」
奏は霊夢が思いもよらなかった返答をした。
「…何でだ?奏」
魔理沙は食べ終わった団子の串を持ったまま驚いている。
「私は外の世界で曲を作ってた。幻想郷とは違って外の世界では、世界に絶望して世界から消えたがっている人がたくさんいる。中には自ら命を絶ってまでして消えようとする人もいる。そういう人が少しでも救われるように私は幻想入りするまで曲を作ってきた」
「そんな辛い世界なら、なおさら奏のためにならないじゃないか。もう奏は自由なんだぜ?絶望している暗い奴らのことなんて考えずに、のびのびと作曲なりなんなり出来るんだ。なんでわざわざそんな世界に戻ろうなんて…」
「それが私の義務だから」
奏は魔理沙の反論を強い口調で突っぱねる。魔理沙の前にゆっくりと立つ。
「それが…私のお父さんへのせめてもの贖罪。まだ自分の近くで私を支えてくれている人の心さえ救えてはないけれど…いつかきっと救ってみせる」
「戻れたとしても全てが元通りになるとは限らない!奏、自分を支えてくれた人って今言ったが、そいつらはもう奏のことを思い出せないかもしれないんだぜ?それでもいいのか?」
「それでも構わない。あの世界で私が曲を作って誰かが救われるならそれでいい」
奏はニーゴのみんなを思い出す。
「奏…幻想郷のことが嫌いになったのか?」
「違うよ。ここは天国なのはわかってる。どんなに絶望していても笑っていられる、そういう場所なのはわかってる…だからこそ、私はあの地獄に行く。地獄で苦しんでいる人を救うために」
「…正気か?」
「地獄に行く覚悟はもう…出来てるよ」
魔理沙と奏が鼻がつきそうな距離まで近づいているというのに、バチバチと音が立ちそうなくらいの凄みで睨み合う。先に目を逸らしたのは魔理沙の方だった。
「…わかったよ。奏の外の世界を想う気持ちはよくわかった。霊夢、そういうことだ。奏を外の世界に戻してやろうぜ」
「…あんまりやりたくなかったけど、仕方ないわね」
ちゃぶ台の側に座っていた霊夢が立ち上がる。そのまま奥へ何かを探しに行った。
「ごめんね、魔理沙。短い間だったけど、幻想郷での暮らしは楽しかったよ」
「…また、来たかったらいつでも待ってるぜ」
魔理沙がうつむきながらちょっと涙声で奏に別れの言葉を言う。
「うん。また会うことがあったら会おう、魔理沙」
奏がそう答えたその時だった。
「奏、瀕死状態になってから慧音っていうやつに記憶を喰ってもらうか、外の世界を思い出すことに対してトラウマを私に植え付けられるか、どっちがいい?」
奥から戻ってきた霊夢がとんでもないことを言ったのは。
「…え?」
奏が霊夢の方を見る。霊夢の左手には大幣。周囲には陰陽玉が8つ浮かんでいた。完全に武装している。霊夢から放たれる殺気が奏の視界をみるみる黒くする。
「おい、霊夢…嘘だよな。今の言葉は…」
魔理沙は親友であるはずなのに今の霊夢を見て震えが止まらない。
「私はマジよ。見てわからない?」
霊夢が縁側から降りて靴を履き、奏に近づく。
「何で…幻想入りした人間には元の世界に帰る方法もあるって…」
奏はあまりの恐怖で思わず後ろに下がってしまう。
「普通ならあるわ。だけど、あんたにはないのよ。『初音ミク』とかいうやつの支配する、『セカイ』関係者にはね」
「そんな…」
「ああ、そうそう。いいことを教えてあげるわ。確かに私は今から10年前、7歳の時にあの女将を助けたわ。でもね…」
そこで霊夢はニコッと笑った。
「私が初めて人を殺したのはその2年前よ。どう?ようやくわかったかしら?博麗の巫女というものが何なのか」
奏は霊夢の笑顔で背筋が凍りついてしまった。
霊夢の年齢は原作では明確にされていないらしいですが、奏と同じ17歳ってことにしときました。
奏霊とかいうカップリングができてもいいなぁとか勝手に妄想すると結構楽しくなります。
今後の予定とかもあるのでマジで投稿頻度を上げたいな…頑張ります!
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