宵崎奏の幻想入り   作:nyagou

7 / 17
さよなら、ミク 〜『セカイ』サイド③〜

『K』のものを探し始めてから30分後。

 

「おーい!何か見つかったー?」

 

探すのに疲れて星を囲んで座って休んでいるまふゆ達に瑞希が向かいながら呼びかける。

 

「全く何もないよ…本当に『K』はいるんでしょうね?」

 

絵名が肩をすくめながら不平を言う。

 

「…同じく」

 

まふゆも短く答える。

 

「ここは『誰もいないセカイ』だから、あるならすぐ見つかるはずなんだけどね」

 

MEIKO がため息をつく。

 

「…」

 

ミクは黙って首を振る。

 

「どうする?もうちょっと範囲を広げてみる?」

 

瑞希がみんなに尋ねる。

 

「…一旦休憩しよう。このままじゃ、無駄に疲れて終わってしまう」

 

まふゆが疲れで顔が青ざめている絵名を見て提案する。

 

「そうだね…ボクも足が棒だよ」

 

瑞希がまふゆの隣に座る。

 

「そもそも、この『セカイ』に『K』のものなんてもう残ってるの?ここまで探してないなら、残っていないと考える方が普通じゃない?」

 

絵名が足を伸ばしながら言う。

 

「確かに。ボク達のものですらここには持ってきた絵本ぐらいしかないよね」

 

「…やっぱり、現実世界で探す?」

 

まふゆがそう言って立ち上がる。

 

「それはどうかしら」

 

MEIKO が異議を唱える。

 

「現実世界で探すにしても、結局ここで探すのとやることは変わらないわ。ただ私達の周りを調べて、『K』に関する情報を探すだけ。恐らく、ここと同じ結果になるでしょうね」

 

「それでも…」

 

「しかも、あなた達いわく、幻想郷は記憶すら改竄出来るのでしょう?現実世界での情報を消すことなんてお茶の子さいさいと考えるのが普通よね」

 

「じゃあ、お手上げじゃない!」

 

絵名が不満を噴出する。

 

「何なのよ、『幻想郷』ってやつは!せっかく私達に『K』がいたということは掴めたのに…これじゃ、まだ知らない方がマシだった…!」

 

絵名の目が涙で潤む。絵名の悲痛の叫びを聞いてまふゆ達は目を落とす。

 

(確かに…もう完全に詰んでるのはわかってる。でも、まだ諦めたくない。『K』がどんな人なのかもう思い出せないけど、それでも『K』のことを諦めたくない)

 

まふゆがそう思っているとミクがふと言った。

 

「『K』に関する情報はきっとこの『セカイ』のどこかにあるよ」

 

「何でそう言い切れるの?」

 

瑞希がミクに尋ねる。

 

「だって、『K』のパソコンがあるから」

 

「どういうこと?」

 

まふゆも尋ねる。

 

「もし、『K』のパソコンが現実世界にあったなら、まふゆ達の記憶と同じように消されるんじゃないかな?」

 

「…!」

 

まふゆ達全員がハッと納得する。

 

「多分、『幻想郷』は『セカイ』では私達の記憶は改竄できても、『K』のものまでは消し切ることが出来ないんじゃないかな」

 

「言われてみれば、『K』のパソコンが『セカイ』にあったっていうのは変だよね。パソコンって失くしたら普通すぐに気づくものなはずなのに」

 

瑞希は不思議がる。

 

「っていうか、消えたいっていうのに手がかりを残していく『K』も『K』よね」

 

絵名は恨み節を言う。

 

「…逆かも」

 

まふゆが何かに気づく。

 

「何が?」

 

瑞希が同時にまふゆに聞く。

 

「本当に消えたいなら、手がかりなんて残さないよ。逆だったんだ。『K』は消えたくて消えたわけじゃない。『幻想入り』関係の事故に巻き込まれたんだ!この『セカイ』で!」

 

「そんな…!」

 

呆然とする瑞希達。

 

「じゃあ、なおさら早く『K』を助けないと!」

 

絵名は奮い立つ。

 

「でも…やっぱり、駄目だ」

 

まふゆは崩れ落ちる。

 

「何でよ。『K』についてわかってきたじゃない!」

 

「わかっても無駄なのよ…結局…私達には『幻想郷』に行く方法がない…!」

 

まふゆ達はどうしようもない現実に打ちのめされた。肝心の『K』がどのように幻想入りしたのかがわからない以上、まふゆ達は『K』を追うことができない。もう終わりだ…誰もがそう思った。

 

「『K』がこの『セカイ』で出来たことがまふゆに出来ないはずがない」

 

ミクが強い口調で言い放った。

 

「でも、『幻想入り』だよ?『幻想郷』から呼ばれないと出来ないんだよ?」

 

まふゆが嘆きながら答える。

 

「出来ないって思うから、出来ないんだよ。この『セカイ』はまふゆの想いで出来てる。まふゆがあると思ったものはあるし、ないと思ったものはない。きっとまふゆなら、『K』への道を作り出せる。…正念場だよ、まふゆ!」

 

ミクは崩れ落ちて座っているまふゆの肩に手を置いて、まふゆと目を合わせる。まふゆの目から絶望が消えて、光が戻ってきた。

 

「ありがとう、ミク。少しだけど、希望が見えてきたよ」

 

「で、どうするのよ。その道はどうやって作るの?」

 

せっかちな絵名が問いただす。

 

「まふゆの想いで作り出すしかない。たぶ『K』への想いが一番有効だと思う」

 

ミクが答える。

 

「『K』への想い…ねえ。もう記憶は消されてるのに」

 

「ちょっと黙ってて。今考えてる」

 

まふゆが必死に頭を働かせる。

 

(やっぱり、想いを引き起こすには記憶が必要…でも、記憶は『幻想郷』に消されてる…)

 

まふゆは目を閉じて、呼吸を整える。

 

(いや、『幻想郷』なんて関係ない。私は『K』のことを諦めたくない。思い出さなきゃ…私が私でなくなってしまう…思い出せ、まふゆ!)

 

まふゆは『K』が消えた日である昨日起こったことを懸命に思い出す。

 

(朝は朝ご飯をお母さんと食べて、学校に行って、1時間目は数学で、その時にうっかり居眠りをして、変な夢を見て…変な夢?)

 

まふゆの回想がそこで止まる。灰色の無機質な世界。キラキラが噴出する黒い空間の裂け目。眠っている長い、青い髪の女の子。

 

(…これが『K』?)

 

まふゆは目を開く。心配そうにまふゆを見つめる絵名と瑞希をよそに、歩き出して夢のシーンと同じようになりそうなところを探す。

 

(ここかな?)

 

まふゆが歩みを止める。

 

(でも…あの鉄骨の傾き加減がちょっと違う)

 

まふゆがその鉄骨の元に歩いていく。

 

「…何する気?」

 

絵名が恐る恐る聞いてみる。

 

まふゆは聞こえていないのか、それに答えずにいきなり鉄骨をよじのぼり始めた。

 

「な、何やってんの、危ないよ、まふゆ!」

 

瑞希がまふゆに注意する。

 

「大丈夫、気にしないで」

 

まふゆはどんどん登っていく。ついに鉄骨のてっぺんに到達した時、鉄骨が根元から傾き始めた。

 

「「まふゆ!」」

 

瑞希達が叫んだその瞬間ー

 

ドカーン!

 

まふゆが乗っている鉄骨のてっぺんから雷のようなものが瑞希達の前に落ちてきた。

 

「キャッ!」

 

絵名が雷の音を怖がって後ろに思いっきり下がる。

 

「まふゆ!一体何が…ってあれ?」

 

瑞希が雷が落ちてきたところを見ると、そこには黒い空間の裂け目があった。まふゆが夢の中で見たのと全く同じだ。

 

コオオオオオオオと音を立てて裂け目は勢いよくキラキラを噴き出す。

 

「これは…」

 

「…成功だね」

 

絵名がびっくりしていると鉄骨を滑り降りてきたまふゆが後ろに立っていた。

 

「これが多分『幻想郷』に繋がる道だよ」

 

「…まさかまふゆが鉄骨によじ登るなんておてんばなことするとは思わなかったけど…ありがとう」

 

絵名がまふゆに感謝する。

 

「…行こう、みんな。『K』に会いに」

 

まふゆ、絵名、瑞希、ミク、MEIKO が同時に頷く。一斉に裂け目に向かって走り出す。キラキラに包まれて5人は『セカイ』から消えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「何よ、この中!気持ち悪い!ここが幻想郷なの?」

 

絵名が早速文句を言う。裂け目の吸引力が中でも続いていて、そのまま浮遊しつつ流されていくまふゆ達の周りには赤黒い世界にたくさんの目が浮かんでいる変なところにいる。

 

「まだ流れてるってことはこの先にあるってことじゃない?…おっ、この目なんかかわいくない?」

 

瑞希が自分の近くにある目を指差して言う。

 

「目玉のどこが良いのよ!そんな趣味でもあるの?」

 

「えー、そんなに言う?ああ、もう行っちゃった…」

 

瑞希は名残り惜しそうにお気に入りだった目玉を見送る。

 

「…ここはここで無味乾燥ね…あら?」

 

MEIKO が急に流れが変わったことに気づく。

 

「みんな、離れないようにお互いに捕まって!」

 

まふゆが指令を出す。みんなはまふゆの周りに集まる。

 

「あ、あそこに流れていくみたい」

 

ミクが指差した先にはさっきの空間の裂け目のようなものがあった。白い光が差し込んでいる。

 

(これで…やっと『K』に…!)

 

まふゆ達は裂け目に吸い込まれていった。

 

 

裂け目から放り出されるようにまふゆ達が真っ白な世界に出てきた。

 

「イタタタ…ここが幻想郷?」

 

絵名が起き上がって周囲を見渡す。

 

「…白くて何もない世界ね」

 

MEIKO が遠くまで眺める。

 

「あれー?そっちの『セカイ』の裂け目はもう閉めたはずだよねー?」

 

向こうから誰かがやってくる。

 

「んー?あら?あれって…」

 

「「「…普通のミク?!」」」

 

まふゆ、絵名、瑞希が自分達の『セカイ』にいるミク以外にもミクがいるのを初めて知って驚く。

 

「普通って…せめてオリジナルミクって呼んでよ」

 

そう言ってオリジナルミクはまふゆ達の前まで歩みを進めた。なんと、空間の裂け目を封じ込めていたのはオリジナルミクだった。

 

「また裂け目開いちゃったのかなぁ?ごめんね、すぐに元の『セカイ』に…」

 

「違うの、私達は『幻想郷』に行きたいの」

 

まふゆがオリジナルミクに言った。オリジナルミクの顔が険しくなる。

 

「…今なんて?」

 

「え?だから、『幻想郷』に行きたいって…」

 

「駄目」

 

「何で?」

 

「『幻想郷』との協定で決まっているから」

 

オリジナルミクがすうっと宙に浮く。

 

「…どうやってあの子が『幻想郷』に行ったのを知ったのか知らないけど…これ以上『幻想郷』に関わるなら『セカイ』管理者として看過できない。あなた達をあなた達の『セカイ』ごと消すことになるよ」

 

「はは、そんなことできるわけが…」

 

瑞希が馬鹿にする。

 

「ほら話ではないことを見せよっか?」

 

オリジナルミクがそう言うと前に手を突き出す。すると、オリジナルミクとまふゆ達の間の地面に直線が出現した。さらに裂け目が掻き消えたと思うと、まふゆ達がいるところがあっという間に灰色で無機質な『誰もいないセカイ』になる。

 

「え?」

 

まふゆが驚く。

 

「こんなこともできるんだよ?」

 

オリジナルミクは右手の親指を上げて人差し指を伸ばし、銃の形にする。そこからキラキラが少し出たと思うと、

 

パン!

 

まふゆ達の後ろで地面に刺さっていた鉄骨の真ん中くらいのところに穴が開いた。鉄骨の宙に浮いた部分が音を立てて落下する。

 

「もうわかったでしょ?私には敵わない。わかったらとっととあなた達の『セカイ』に帰りなさい。そこから歩いて帰れるようにしたから」

 

オリジナルミクがまふゆ達を諭す。

 

(向こうの『私』…初めて見たけど…私より強い…!さっきの攻撃もさせないように『セカイ』を通じて強制したのにあっさりと破られてしまった…)

 

ニーゴミクがオリジナルミクという脅威に困惑する。

 

(やはり何か強力な制約なしでは向こうの『私』の『セカイ』までは支配できない…!)

 

「…それでも私は『幻想郷』に行く」

 

まふゆがそう言い返す。

 

「全く…諦めという言葉を知らないのかなぁ?」

 

「知ってるよ。私は現実世界で諦めてばっかりだもの」

 

まふゆの目がキッとオリジナルミクを睨む。

 

「だからこそ、『セカイ』では諦めたくない。私を救ってくれる曲を聞くことまでは、諦めたくない!」

 

瑞希と絵名がハッとする。周囲の環境に否定された自分を思い出す。そんな環境に抵抗するのを諦めてきた自分がニーゴでは活き活きとしていたことも。

 

「…ボクもその話、乗った」

「私も」

 

瑞希と絵名はまふゆの両側に進む。

 

「瑞希…絵名…!」

 

「なんとかして、オリジナルミクを説得しよっか。私達には戦う手段がないわけだし」

 

そう言って絵名がオリジナルミクと向き合う。

 

「その協定ってなんなの?」

 

「…『セカイ』関係者が『幻想入り』した場合、その人物が現実世界に戻すことを禁止するものだよ」

 

「何で禁止するの?」

 

「…協定で決まってるから」

 

「協定でって…話が堂々巡りしてるじゃない。まるで誰かに協定を守らされてるみたい。もしかして…オリジナルミク、その協定は不本意なの?」

 

「…」

 

絵名は彰人との口喧嘩で鍛えたディベートスキルで言葉巧みにオリジナルミクを追いつめる。

 

「…不本意だよ」

 

「だったら、オリジナルミクも協定なんか破っちゃいなよ。不本意なんでしょ?」

 

「…」

 

オリジナルミクは自分に臆さずにズケズケと話す絵名を見て、突然頭痛と共にトラウマがフラッシュバックする。

 

自分を見下す赤い巫女。突っ伏したまま動けない自身の身体。左手の大幣。凍てつくような笑顔。『セカイ』中に散らばった御札。消えていくキラキラ。ー

 

「…やっぱり駄目」

 

オリジナルミクは頭を抑えながら言った。

 

「あいつが来たら…全ての『セカイ』が消されてしまう。あなた達がこれ以上『幻想郷』に関わって死ぬのなんてもう見たくない!だからもう帰って!」

 

オリジナルミクが腕をまっすぐ伸ばして手のひらを見せるように曲げる。手のひらからキラキラが噴出する。

 

(説得に失敗した…?!)

 

愕然とする絵名。

 

「攻撃がくるわ!避けて!」

 

MEIKOが叫んだ。その瞬間ー

 

「…あれ?」

 

オリジナルミクが手を振る。キラキラが出なくなり、攻撃出来ない。オリジナルミクがニーゴミクを睨む。

 

「何かやったのね、そっちの『私』」

 

ニーゴミクがオリジナルミクを見返す。

 

「…やったよ、まふゆ達の希望を守りたかったから。この『セカイ』において音楽を媒介とするもの以外、全ての攻撃の禁止を強制する。…『セカイ』は音楽との繋がりが深いからこの制約なら通ったよ」

 

オリジナルミクは苦悶の表情でうなだれる。悔しそうに両手を固く握りしめる。

 

「勝負ありってやつかな?」

 

瑞希がそう言った時だった。

 

「…私も諦めない。あなた達のようにね」

 

オリジナルミクが決意した様子でまっすぐに視線を戻す。自分の右手を見つめる。

 

「何よ、まだ抵抗するの?」

 

絵名が反応する。

 

「…やっぱり、『セカイ』の支配は支配者の『私』自体には影響しないんだね」

 

オリジナルミクが突拍子もないことを言う。

 

「…何言ってるの?攻撃出来てないのがわからない?」

 

まふゆは嫌な予感を感じながらも言い返す。

 

「まふゆ、下がって。万が一攻撃が来たとしても私が守るから」

 

ニーゴミクがまふゆを隠す形で前に出る。まふゆは言われた通り下がる。

 

「ほら見て。『私』には攻撃出来るみたいだよ」

 

オリジナルミクは右手を開いてまふゆ達に見せる。キラキラが手から落ち、傷だらけの手のひらが見える。

 

「…それが?」

 

「だから言ったじゃない。『私』には攻撃出来るんだねって」

 

オリジナルミクが手を銃の形にする。MEIKOが恐ろしいことに気づいて前に出る。それをニーゴミクが制止する。

 

「逆よ!ミク!下がって!あのミクが狙っているのはあなた自身よ!」

 

「…え?」

 

次の刹那ー

 

パン

 

ニーゴミクの胸の真ん中がぽっかり空いている。その穴から冷めた微笑みを浮かべたオリジナルミクが見える。

 

…ニーゴミクはまふゆにもたれかかり、そのまま仰向けになって崩れ落ちた。




平和路線でもよかったのですが、幻想郷では戦争状態なので、セカイ側も戦争状態にしました。ちょっと展開が苦しくなるかも。なんとか頑張ります。
高評価、感想、お気に入り登録、お待ちしてます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。