「金出せやオラァ!!」
路地裏から聞こえてきたのは、いかにもガラの悪い男の恫喝だった。男たちは気弱そうな少女を取り囲み、カツアゲを行なっている。少女は涙目で震えていたが、そんな彼女を憐れむような視線を寄越す者がいても助けに入る者はいなかった。
(うわ、またやってんのか……)
そこに通りかかったのは目つきの悪い少年──
「ねぇ、そこの人」
しかし彼の歩みは突然かけられた少女の声によって遮られた。契が声のした方を振り向くと、そこには不自然に左のもみあげが伸びた黒髪のショートカットが特徴的な少女が立っていた。よく見ると契と同じ高校の制服を着ている。
「……なに。今忙しいんだけど」
もしかしたらこの少女も見て見ぬふりを契に強制しようとするのかと思い、契の声は無意識に低くなり目つきも鋭くなる。
しかし少女は、契の予想の斜め上のことを口にした。
「ここどこ?」
「…………は?」
「今日から穂高高校に通うことになったんだけど、道に迷っちゃって。君私と同じ制服だから、場所知ってるかなぁって」
契の威嚇もなんのその、全く怯む様子も見せないで少女はあっけらかんと言い放った。思わずポカンと口を開いた契に少女は首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと呆気にとられただけ。悪いけど、今オレ忙しいんだ。他当たって」
契は無理矢理意識を取り戻し、またカツアゲされている少女を助けに入ろうと路地裏に目を向けた。すると契に声をかけてきた少女もカツアゲ現場に気づいたらしい。途端に不機嫌そうに眉をひそめた。
「キミは巻き込まれないように離れて──」
契が後ろに立っているであろう少女の方を振り向いたところ、少女は姿を消していた。逃げたか、と契がまた路地裏に目をやると──少女が不良の一人に向かって飛び蹴りを食らわせていた。
「な、なんだ!?」
不良たちが驚き呆気にとられているのを良いことに、少女は鮮やかな動きで不良を次々に倒していく。特に少女の蹴り技は素晴らしいものだ。軸足もしっかりとしており、重心もブレずにどんどん不良に回し蹴りを食らわせ沈めていく。少女が気絶した不良の屍の山を築き上げるのに五分もかからなかった。
「これで道案内してくれる?」
少女は全く息を荒げる様子も見せず、涼しい顔のまま契に向き直った。
「本っ当にありがとうございました……!大したお礼ができなくてすみません、篠原さん」
「別に気にしなくていいよ。たい焼きおいしいね」
「はい!」
左からカツアゲにあっていた少女、
「篠原さんは今日からうちの学校に通うんですよね?前はどこに通ってたんですか?」
「田舎の高校だよ。田舎すぎて知らないと思う」
「そうなんですね……」
「ちなみに篠原ってどっち志望?」
「どっちって?」
「リインフォース技師かエフエフプレイヤーのどっちってこと。いやまさか進路決まってないわけじゃないよな?」
ここで説明を挟もう。
エフエフとはこの世界で最も競技人口の多いスポーツFull-Forceの略だ。リインフォースと呼ばれるパワードスーツを纏いポイントを競い合うこのスポーツは日本で特に盛んで、リインフォースの技師とエフエフプレイヤー(フォーサーとも呼ばれる)を養成する専門校がいくつもあったりする。三人が通う穂高高校もまたその専門校の一つで、日本でも有名だったりする。
「あぁ、そういうこと。私は技師志望だよ」
「え、篠原も?」
「も、ってことは卯花も?」
「わ、私もです!」
「へぇ、三人とも技師志望か。なんかすごい偶然だね、技師志望する人ってフォーサーと比べたら少ないのに」
笑流の何げない一言に、二人は表情を曇らせた。
「?私何かまずいこと言った?」
「……いや。篠原、学校では気をつけろよ」
途端によそよそしくなった二人をよそに、笑流はスマホを取り出しいじり始めた。