月駆飛迅   作:夜野千夜

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一話に書くの忘れてましたがタイトルは「げっかびじん」と読みます。


ショウ

結論から言うと、笑流は転校初日からハブられた。

 

転校生と言えば、休み時間にクラスメイトから質問攻めにあったり学校の案内をされたりなど、とにかく構われるイメージが契にはあった。それが笑流にはまるきりなかった。偶然同じクラスになった契が見ているかぎり、笑流はまるでいないものかのように扱われていた。

 

(まぁそれも仕方ないな)

 

特に意に介する様子も見せない笑流はよほどマイペースなのか、それとも大物なのか。どっちなのかはわからないが、契は昼休みになると彼女とともに空き教室へ向かった。

 

「篠原は一人でも平気なタイプなのか?」

「あんまり気にならないかな。そう言う卯花は?」

「オレは元から一人でいることの方が多いし、オレも気にならないかな。でもお前のマイペースぶりには驚いたよ。普通転校初日にあんな露骨にハブられてたら少しは気にしないか?」

「そんなものなの?」

「……気にしてないなら良いけどさ。でも一応この学校のこと、説明しとくよ」

 

契がサンドイッチを食べる手を止めたのを見て、笑流もまた箸を止めた。そして彼女が頷いたのを見て、契は説明を始めた。

 

「この学校はフォーサー至上主義なんだ。オレたちみたいなリインフォース技師志望のやつは下に見られることが多い。だから技師志望のやつがこの学校は少ないんだよ」

「それっていつから?」

「三年前から。オレたちのクラスにいた高松里香わかるか?あいつの兄がいた頃からこうなんだとよ。高松兄妹はプロフォーサーの一人だから誰もあいつに勝てないし、稼いだ金の一部を学校に入れてるから教師も逆らえないんだ」

「具体的に卯花はどんなことされたの?言いたくないなら言わなくて良いけど」

「オレは何も。ただハブられてるだけで済んでる。オレ、この目つきで不良だと思われてるから怖がられてるっぽくてさ。……ただ、オレ以外の技師志望の奴らは結構ひどい目に遭わされてる。中には自主退学した奴もいたよ。お前がハブられてるのは技師志望だからってだけじゃなくて、高松の取り巻きボコったからだろうな。たぶん目つけられたと思うから、気をつけろよ」

「……」

 

契はサンドイッチをまた食べ始めた。箸を止めて契の話を聞いていた笑流だったが、契の話が終わったのを確認すると彼女もまた箸を動かし始めた。

 

「予想以上に腐ってるな」

「え?」

「このプチトマト、意外と熟んでた」

「うわ、本当だ」

「卯花食べる?」

「この流れでなんでオレが食べると思ったんだよ」

 

自分のペースを貫く笑流の言動に、思わず契は笑ってしまった。久方ぶりにこうして他愛無い会話ができたことに安堵したのかもしれない。

 

(もしかしたら、友達になれるかもな)

 

「なぁ──」

 

プルルルル

 

電話が鳴った。契はスマホをカバンに入れて教室に置いている。ということは。

 

「私だ」

「やっぱお前かよ」

「あ、家族からだ。ちょっと出てくる」

「先生に見つからないようにな」

 

笑流はスマホを片手に空き教室を出ていった。その間にサンドイッチを食べ終えた契は笑流が戻ってくるのを待っていたが、それにしては遅い。

 

「……あ、そういやあいつ今日来たばっかだから道わかんないよな」

 

そのことを忘れていた。契は笑流を探しに空き教室を出た。遠くに行っているかと思ったが、笑流は意外とすぐに見つかった。高松の取り巻きに胸倉をつかまれて体を持ち上げられていたからだ。

 

「おい、何してんだ!!」

 

思わず契は声を荒げていた。取り巻きたちは契を見ると、さらに下卑た笑みを浮かべた。

 

「お、お仲間来たぜ」

「どうするー?お嬢」

 

取り巻きたちの視線の先には、長い金髪が特徴的な女子生徒がいた。

 

「高松……」

「好きにして良いわよ。いっそこの際だしシメちゃえば?前からウザかったのよね、そいつも」

「へーい」

 

取り巻きたちは頷くと、契を羽交い絞めにして動きを封じた。契は抜け出そうともがくが、体格の良い男に押さえられては身動きがとりづらい。

 

「くそっ!!篠原!!」

 

契は抵抗を続ける。このままでは笑流が危ない。そう思うと、黙って押さえられるのは気が済まなかった。

 

「うっぜ。黙ってろよ」

「ぐはっ!」

 

契はみぞおちを殴られ、その場にうずくまった。ようやく大人しくなった契の次は笑流だ。男たちは笑流を見て──動きを止めた。

 

「低俗だな、お前ら」

 

前髪をかき上げ、声も少し低くなった笑流が、この場にいる全員を威圧していた。そこにいたのは篠原笑流という少女で間違いないはずだ。彼女はリインフォース技師を目指す普通の少女だ。……そのはずだというのに、何だこの威圧感は?

 

「これがプロフォーサーのやることか?高松里香。人を守る義務を課せられた者のやることか?」

「は?なに、あたしに説教する気?あんた何様だよ。てか汚い口であたしの名前呼ばないでもらえる?」

「汚い、ねぇ……。ならどっちがより性根が腐ってるか、ここで証明するか?」

 

そう言って笑流は、何かボタンのような物をポケットから取り出しざまに押した。

 

キシャァァァァァ!!

 

その瞬間、校庭に黒い獣が現れた。巨大な獣は校舎に爪をたて、頑丈に作られているはずの壁はいとも容易く引き裂かれた。

 

「キャアァァァァ!!」

「げ、幻種!?なんでここに!?」

「ひとまず逃げるぞ!!」

 

学校は混乱に陥る。廊下はあっという間に逃げ惑う生徒やら教師で埋め尽くされた。

 

「お、お嬢!」

「こういう時こそプロの出番スよね!?プロフォーサーはこういう時のために訓練積んでるって……!」

「ば、馬鹿言わないでよ!あたしだってあんなのと戦ったことないわよ……!」

 

里香と取り巻きもまた混乱に陥っていた。取り巻きたちは戦う術を持つ里香を頼るが、里香もまたその顔には恐怖の色が浮かんでいる。

 

「あ、あたしは、知らないから!」

 

そう言って里香は踵を返して走り出した。取り巻きもまたそれに続き、廊下には契と笑流が残された。

 

「……やっぱり、噂は本当だったな」

「篠原、お前は一体……」

「今の僕は篠原笑流じゃない」

 

笑流は勝気な笑みを浮かべると、カプセルがつけられたペンダントを手に取った。笑流の手元で揺れるそれを見て、契は目を見開いた。

 

「それ、プロフォーサーに支給される……!?」

 

笑流は窓枠に足をかけた。

 

「僕は、ショウ。プロフォーサーの一人ショウだよ」

 

それだけ言うと、笑流は窓から飛び降りた。

 

「部分展装」

 

落下しながら笑流はカプセルの中心にある球体を押す。

 

「リミテッド・ウェポン」

 

笑流が左手を挙げると、その先に巨大な光の大剣が現れる。剣が現れたのを確認してから、笑流は思い切り黒い獣目掛けて振り下ろした。

 

ギャアァァァァ!!

 

光の剣の熱に焼かれ、さらに剣自体の重さで刃が食い込み、黒い獣は真っ二つに裂けた。動きを止めた黒い獣は、黒い煤のようなものへ変化し空気中にさらさらと溶けていった。

 

「やっぱダミーは弱いな。部分展装でどうにかなると思ってたけど、これで消えるとか弱すぎんだろ」

 

軽やかに剣の柄に着地してみせた笑流に、契は目が離せなかった。

 

「あれが、プロフォーサーショウ……」

 

──そして、物語は始まる。

 

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